巨影を知らない都市 作:ギガンティック芦沢博士
ダークロプスゼロとギャラクトロンに挟まれ絶体絶命のセブン。
それを救ったのは、彼の弟子であるレオと息子のゼロだった。
ゼロは自身のコピーロボであるダークロプスゼロと、レオはセブンと協力しギャラクトロンと、各々拮抗した戦いを繰り広げる。
そして戦いの舞台は港町市街へと移っていく。
レオとセブンが見事な連携で入れ代わり立ち代わり、徐々にギャラクトロンを押し込んでいく。運転をユーコに預け、彼らに並走しカメラを回し続ける。
道路沿いの建物を手前にし、その奥で巨体がぶつかり合う様は、圧倒的スケール感を画面にもたらした。
「よしっ、いいぞ! そらもう一発!」
まるで格闘技にヤジを飛ばすオッサンだと、後々考えて自覚した。
「カメさん、上も!」
その言葉通りカメラを上空に向けると、相変わらずゼロとダークロプスゼロはかなりの高度でしのぎを削っていたが、二人の放ったスラッガー計四つがあらゆる場所、あらゆる高度で衝突し、火花を散らしている。あまりに高速で飛び交うためカメラで追うことも難しく、幾度となく重厚な金属音だけが画面外で鳴り響く。
「すごいな、あんな質量の物がこんな……どう動かしてるんだ?」
「どうやらウルトラ念力というもので操っているようで、セブンも同様です」
「へえ、親子だな……しかし念力。ウルトラマンってなんでもありか」
などと漏らしていると、視界に一本のデッドゾーンが出現する。いや、それは一本ではなく、一枚。血の色をした高い壁が道路を縦断し、俺たちを両断しようとしていた。
反射的にハンドルを握り直し、全力で切る。次の瞬間、前方から巨大なスラッガーが飛来し、道路の中央線を抉るように通過した。激しい衝撃波と弾け飛ぶコンクリートの破片に襲われ、反射的に頭を下げブレーキを踏むが、車輪は一瞬宙に浮き、車体ごと道路脇へと押しやられる。
吹き戻しの風が収まり周囲を見ると、俺たちは進行方向の逆を向き、歩道に乗り上げる形で停車していた。道路中央付近のコンクリートは長く抉れ、亀裂の縁が小さく捲り上がっている。道路の直下を通っていた、雨水を流す水道管も一部露出し、妙な匂いが漏れ出していた。
「ユーコ、大丈夫か!?」
「ええ、問題ありません。カメさんこそ怪我は」
「ああ……ラッキーだ、足も問題ない」
ギプスを着けているヒビの入った足も、幸い痛みは無い。アドレナリンの作用もあるかもしれないが。
上空を見れば、スラッガーで決着は望めないと見たか、ゼロたちは再びゼロ距離の近接戦を展開していた。
「……さっきのスラッガー、ゼロのじゃないだろうな」
ウルトラマンに殺されかけた、など冗談じゃない。
一方、対ギャラクトロン戦線にも変化があった……悪化という方向で。
見ると、ギャラクトロンの右手、巨大な鉤爪と電撃砲を有するこの部位が、何とアニメのロケットパンチばりに発射され、接近戦を仕掛けていたレオの胴体を捉え押しやっていく。
一歩分後方にいたセブンはレオを助けようとしたのか、一瞬注意をそちらに逸らしてしまった。それこそがギャラクトロンの狙いだったのかもしれない。
ギャラクトロンの後頭部から伸びる尾のような器官が、その先端に付いているハサミムシのような爪で、セブンの首をガッチリと捕らえた。
「ああ!」
ユーコが思わず叫ぶ。
セブンの足が地を離れ、徐々に持ち上げられていく。ギャラクトロンの巨体を超える高さで固定されたと思うと、ギャラクトロンの左腕に装着されていた大剣が、ぐるりと回転し展開される。それが眩く発光を始めた段階で、全身に悪寒が回った。
「これ、まずいよな!?」
「レ、レオは!」
レオはセブンを助けに向かおうとしているが、自在に飛翔し電撃を放つ右手ユニットに進路を阻まれている。
「俺がやる!」
埃に塗れたバズーカを構え、ギャラクトロンに照準を合わせる。巨体だけあって的は大きいが……
「うらっ!」
迷っている暇も惜しみ、引き金を引く。衝撃と共に発射されたライトンR30爆弾がギャラクトロンに迫る。そして着弾、と思った瞬間に魔法陣が展開し、その表面で小さな爆発が起こる。
「バリア!?」
「そんなのアリかよ!」
ギャラクトロンの赤い瞳がこちらを捉えている。先ほどのセブンのエメリウム光線が足に命中したことを考えれば、どうやら不意打ちでもなければ遠距離攻撃は通らないようだ。
ゆえに、こうなってはジリ貧だ。完全にこちらを警戒して……?
その時、視界の端に飛び込んできたある
「おい、このデカブツ! 図体の割に随分臆病だなぁ!」
「カメさん!?」
ユーコの声はこの際無視し、バズーカを再び構える。
ギャラクトロンはセブンに剣を振るわず、こちらを観察しているようだった。
「ポンコツなりに度胸があるってんなら、受けてみやがれ! この――」
気付いたユーコが、あ、と声を漏らす。
俺は思わず、口の端が吊り上がった。
「――スラッガーをな!」
飛来した二本のスラッガーがギャラクトロンの尾を切り刻み、解放されたセブンは素早く身を翻し距離を取った。
「やった! ざまあみろ!」
ゼロが父の危機を救うべく投じたスラッガー。それを命中させるため挑発したが……果たして機械相手に意味があったのかはともかく、成功は成功だ。
ちょうどレオも纏わりつくギャラクトロンの右手を捕まえ、膝蹴りを食らわせてスクラップにしたところだった。スパークを散らし、煙を上げる白い鉤爪は、レオが地に捨てるとそのまま動かなくなった。右手と尾を失ったギャラクトロン相手ならば、一気に形勢は傾くだろう。
しかしゼロとダークロプスの戦いはまだ膠着……いや、今の救援の際にゼロが押され気味になってしまったようだ。激しい空中戦は、ゼロの防戦が目立つようになった。どうやらスラッガーを手元に戻す暇も無いらしく、幾分スッキリした頭のまま彼は戦闘を続けている。
「移動しよう!」
「はい!」
ユーコと再び走り出し、ゼロの戦いを追う。しかし加速した彼らの戦いは追うに追えず、逆に揉み合う両名が頭上を追い越していった。二体の巨大な影が太陽光を遮る。
そしてゼロたちは空中でガッチリと手を合わせ、純粋な力比べの体勢に入り、俺たちの進行方向に着地した。車体越しにもその振動が伝わる。
「カメさん、どうします!?」
ゼロとダークロプスゼロの力は均衡し、先ほどまでの高速戦闘が嘘のように膠着状態に陥っている。その姿を見て、俺は……
「ユーコ、真っ直ぐだ! 股下を潜る!」
「え! は、はい!」
戸惑いはしたものの、彼女は俺のことを信じてくれたようだ。
セブンの体力を考えれば、この戦いは長引くほど不利に働く。故に、俺は漸弱な人間なりに、強引に状況を変えようと動く。
「ハンドル任せた!」
「任されました!」
ゼロとダークロプスは足を開き、ガッチリと地を踏みしめている。そうしなければ一気に
運転席のシートに乗り上げ、バズーカをほぼ垂直に構える。そして、まずはこちらに背を向けているゼロの足元を潜っていく。赤を基調とし、青と銀のラインが入った巨大な足のアーチを潜り抜けるのは、何とも言えず緊張感があった。こちとら、彼らが気まぐれに体勢を変えれば、ぺちゃりと踏み潰される存在なのだ。それは圧倒的な質量に対する本能的な恐怖だろう。
ゼロの足元を抜け、二体が睨みあう中間地点まで進むと、二体は素早くこちらを見下ろした。ゼロに至っては、かなり驚いた様子の声を漏らした。まあ、彼らからすれば意外な闖入者だろう。だからこそ、伏兵だからこそ動かせる戦況もあるはずだ。
ダークロプスゼロの赤い単眼が、無機質にこちらを見下ろしている。俺はその胸元辺りを狙い引き金を引いた。
「下から失礼!」
ライトンR30爆弾は一瞬で炸裂した。その効果を確認することなく、俺たちはダークロプスゼロの足元を潜り抜けた。
「どうだ!?」
振り向くと同時に、ダークロプスゼロが煙を吐きながら吹っ飛ばされ、頭上を通過していった。そのまま成すすべなく上空まで飛ばされ、ようやく停止する。
しかしゼロは追撃の手を緩めず、猛スピードで突進する。その最中に二本のブレードが彼の手の中に戻り、そして光を放ち一本の三日月型の刀身と化した。
「ゼロツインソード!」
「行けぇ!」
ユーコが簡潔に概要を教えてくれるが、もうそんなことはどうでもいいのだ。ただ純粋に、ウルトラマンの勝利を願う心を叫んだ。
ダークロプスゼロが最後の足掻きとして、目から件の光線を発射するが、ゼロツインソードはそれを切り裂いてなお勢いを増し、そしてダークロプスゼロの体を両断した。刹那の時を跨ぎ、ゼロそっくりのロボットは爆発し、地上に僅かな熱波が届く。
「よしっ!」
思わず手を握り締め、すぐにカメラをギャラクトロンに向ける。
セブンがバク転で距離を取るのと交代するように、地を這うようなスライディングでレオが迫る。真っ赤に燃え上がる足でギャラクトロンを蹴り上げ、蹴り上げ、それを高速で繰り返す。
「おおおおっ!」
思わず興奮する。レオは自分の倍はあろうかという機械の巨竜を宙へ浮かし、そのまま上空へと蹴り進めていく。レオ自身上昇しながら、ギャラクトロンを決して重力の元へ帰さない。
高度が近辺の山を越えようかという時、レオが特段強い一撃でギャラクトロンを蹴り上げる。
ふと見れば地上でセブンが、上空ではゼロが、同様の構えを取ろうとしていた。それは右肘に左手を添える形で、以前見たウルトラマンのものとは似て非なる構えだった。
「ワイドショットです!」
お互いの肘から指先にかけてより、幅の広い光線が発射される。親子揃っての光線を、ギャラクトロンはバリアによって一瞬は凌いだものの、瞬く間に押し破られた。機械の体を二本の光線が貫通し、ギャラクトロンは落ちるより先に、遥か上空で大爆発した。
「やったぁ!」
「よっしゃあっ!」
俺とユーコの声が揃う。変身を解き幽体に戻ったユーコと思わずハイタッチをしたが、当然触れずに俺はつんのめった。
三人のウルトラマンが俺の前に並び立つ。中心をゼロ、挟むようにセブンとレオ。
「ありがとーございました!」
ユーコが大声を上げて手を振ると、三人が頷き返してくれた。ゼロだけは例の鼻を擦る仕草を見せたが、いや、そうではなくて……
「……え、見えてるの?」
「そうみたい、ですね」
大声を出して手を振っておいて、当人が一番驚いているのはどういうことだ。
しかしウルトラマンならさもありなん、と納得できてしまうのが彼らの彼らたる所以。
気を取り直し、俺はカメラを構える。
「最後に、今日の激闘と雄姿を伝えるために、一枚! お願いします!」
セブンとレオはどうやら少し難色を……というより戸惑っているだけのようだが、ゼロがやたらと乗り気に二人の肩を叩いている。そして真っ先にポーズをとってくれたのも彼だ。手の甲を見せるピースサインで、ばっちりカメラ目線を決めてくれる。なんというサービス精神。
「ああ~いいねぇゼロ! ほらお二人も、どうぞ!」
「カメさん、ほんと人が変わりますねぇ……」
呆れるユーコは気にせず、顔を見合わせるセブンとレオにもポーズを促す。なんだかティーンのノリに困惑するお父さん世代みたいで、見ていて和むものがある。
最後に二人がとってくれたポーズは、セブンが腰に手を当てて、レオはただスッと真っ直ぐ立つだけのシンプルなものだったが、それがいかにも彼ららしくて、むしろ俺は大絶賛して撮影した。
ゼロは引き続きポーズを考えてくれたのだが、セブンとレオ双方に肩を叩かれて止められた。叩いた彼らは最後に俺たちを一瞥すると、セブン、レオの順に天高く飛び去っていった。少し遅れてゼロも後を追い、こうして三人のウルトラマンたちはあっという間に去っていった。
俺は満腹後に出るような息を一つ吐き、恍惚とした気分に浸った。
「最高だよこれは……あんな距離で、俺だけのために……」
「結果を見れば大活躍でしたからね」
「ああ。一時はどうなるかと思ったけど、あの科学者風な彼らには感謝だな」
「ですね……あ、どうやらちょうど全弾撃ち尽くしたようですね」
ユーコがトランクケースを確認して言う。
「ひえー、あと一歩何か間違えれば
「本当ですよ。足だって……ん?」
「ん? ……あ」
全く、ごく自然にそうしていたから、気付くのに間抜けなほど時間がかかったが……
「人間って、怪我の治り早いんですか?」
「そんなわけが、キミ……」
俺の足は、どうやら全治したようだった。徐々に人間離れしていくが、これはこれで純粋に嬉しい効果だ。
たぶんあっただろう会話
ゼロ「なんだよ親父そのポーズ! 威厳出しすぎだろ、もっとこうフランクにさあ」
セブン「ふーむ……」
ゼロ「師匠のはもはやポーズじゃねえ。立ってるだけじゃねえか」
レオ「しかしな……」
カメ「あ゛~いいですねぇ! お二人ともすっごく雰囲気ありますねぇ!」
ゼロ「うそぉん」