巨影を知らない都市 作:ギガンティック芦沢博士
ダークロプスゼロはウルトラマンゼロに倒され、ギャラクトロンはセブン、レオ、ゼロ全員による連携のすえ打ち倒された。
この戦いでR30爆弾を用い活躍した主人公は、ウルトラマン三人に撮影を許可されホクホクであった。
ウルトラマンが去った後、足のケガが人ならざる速度で完治していることに、主人公たちはようやく気付いた。
「ユーコ、この速度だ! 道なりに頼む!」
「はい!」
斜め後方へ体を捩り、大きく背を反ってカメラを構える。
ビルを挟み並行する黒い巨影――ゴジラを、煽るようなアングルで撮影する。
何を踏み潰したか、ゴジラの足元で爆発が起こり、球のような白煙が体表を嘗めて夜空に昇っていく。燃え盛る街の火がゴジラの体に影を作り、その形相はひどく恐ろしいものに感じられた。
「良いアングル! アクセス伸びるぞぉ」
「大塚さんも喜びますね!」
港町を去り、首都へ帰る道中で叔父から連絡があった。曰く、この港湾都市にゴジラが上陸する恐れがある、という話だったが、正にその通りになった。
上陸したゴジラはただ歩くだけでその跡を火の海に、瓦礫の山にと変貌させていく。自衛隊も当然戦車、あるいは戦闘機等で陸空問わず対処しているが、ゴジラはそれらを破壊し、時には意にも介さず無視し、進行を続けていた。
「どこに向かってるんでしょう」
「さあ、そもそも目的なんてあるのか……」
ゴジラの進む先へ目を凝らしてみると、巨大なビル群の窓明かりがチラついていた。
「ユーコ、先回りしてあそこへ行こう! あの高層ビルが建ってる方!」
「分かりました!」
方針を固めたところで、確認のつもりでゴジラをちらりと見返る。そしてバッチリと
ひゅっ、と喉から音がした。本能的な部分から押し寄せた恐怖に、俺は一瞬凍り付く。
そしてゴジラは、まるで砂の城を崩すようにビルを蹴破りながら、こちらへ接近してきた。崩壊するビルの窓からスパークの光が漏れ出している。
「逃げろぉ!」
「はいっ!」
飛んでくる破片をATフィールドで弾き、デッドゾーンが出現するような巨大な瓦礫はその都度ハンドルを切って躱す。
「撃つなよ、頼むから撃たないでくれよ……!」
祈りながら道路を駆ける。ふと振り返ると、かの熱線を放つ気配はゴジラに見受けられず、そもそも俺たちを追う、などという気すら無さそうだった。ただ悠々と、アスファルトを踏み砕きながら真っ直ぐ進んでいる。
接近してきたのもただ少し、足元をうろつく生き物が気になっただけ、というようにも思える。
「はは、なんて言うか、小さいなぁ……」
改めて感じる、生命としての圧倒的なスケールの差に、ふと愚痴のように漏れ出す。少し前までは人間こそが地球上の支配者、などと本気で信じ込んでいたというのだからお笑いだ。
ゴジラの足元に立ち、一歩を踏みしめる振動を味わえば分かる。俺たちは巨影を前にして、逃げることしかできない小さな生物だということが、痛いほどに。
「くそ、人間って弱いなぁ。くく」
「その割には、なんか、嬉しそうですね?」
喉から漏れた笑いにユーコが若干引いている。
ある意味で屈辱的な巨影との関係性も、俺や叔父のような人種にとっては、一種の興奮すら沸き立たせるものだった。
ゴジラの足音を遠くに聞きながら、高層のビジネスビルが立ち並ぶエリアに到着する。
ゴジラの上陸が予想された時点で住民の避難は始まっており、このビジネスエリアにも今や人影は見当たらない。
「よし、このビルの上から撮影しよう。エレベーターも使えるはずだ」
「大丈夫ですかね? ゴジラが邪魔だと感じたら……」
「進路からは……うん、若干外れてる、はず」
振り返り、燃え上がる港湾都市の中でゆらりと歩く、ゴジラの黒い影を見る。
「最悪の場合も、ちょっと考えがあるんだ。またキミ頼みなんだけど……」
「考え?」
「ああ、歩きながら話すよ」
正面入り口の自動ドアも生きていた。無人の薄暗いエントランスを歩き、エレベーターに向かいながら、俺の考えた保険をユーコに聞かせる。
ユーコは少し驚いていたようだが、
ビルの上階に着くと、適当な戸を開きオフィスに侵入する。慌てて避難したのか書類やらが散乱している。
窓に寄って街を見れば、俺の予想以上に被害は広がっていた。火の手があちこちで上がっており、立ち昇る煙が夜空に充満している。炎を背景に鷹揚に歩むゴジラの姿は、まるでこの世の終焉を告げる魔物のように見えた。
当然、俺はその光景に少なからぬ高揚感を覚えていた。
「よーし、いい場所! 撮るぞ撮るぞ」
「これは……凄いですね」
さしものユーコも感嘆せざるを得ない、スケールの大きな光景を次々に写真に収めていく。燃え盛る炎、崩壊した都市、そこを歩むゴジラの姿……どれもその瞬間にしか捉えられない、臨場感溢れる一枚になったと思う。
動画撮影などもこなしていると、ゴジラはいよいよ接近してきた。どうやら、ゴジラの頭部とほぼ同程度の高さの階層に居たらしい。まさに絶好の撮影ポイントだ。
「ん、あれは……?」
その時、奇怪なものが上空から降下してきた。形は、なんとも形容し難いが……濃緑色の、のっぺりとしたUFOとでも言おうか。その割に推進力はジェットエンジンのようだが。
「いや、ほんとに何だあれ?」
「UFO……いや違いますよね」
半端に近未来感のあるその飛翔体は、底面に着いたジェットスラスターによって宙にピタリと止まっている。ビジネスエリアから少し離れた位置、ちょうどゴジラの進行方向を塞ぐような形で。
カメラをズームさせて表面に描かれた白文字を読み取る。
「陸上自衛隊……スーパーX2?」
こんな機体を所持していたとは、全く情報に無い。軍事マニアの同志、中将さんなら何か知っているのだろうか。そう考えながら写真に収めていく。
間もなく、正面に浮かぶスーパーX2に気付いたのか、ゴジラが歩みを止める。一体と一機はビジネスエリアの外れで睨みあう形になった。
「やり合う気だ」
ごくりと唾を飲みカメラを構える。
スーパーX2の上面の一部が展開し、ミサイルが表出する。そして間髪入れずにそれを撃ち込み始めた。煙を引くミサイルが真っ直ぐゴジラへ射出され、次々に爆発していく。窓ガラスがビリビリと振動する。
「効いて、ないよなそりゃ」
ゴジラは一歩も引かずミサイルを受け続ける。それどころかやがて歩み出し、距離を縮め始めた。
スーパーX2は間合いを取るように横滑りし、ビジネスエリア内へと進入。そして高層ビルの影に姿を隠した。
「ああ、どうするんでしょう……」
ユーコがハラハラと見守っている。かの機体もかなりの火力を持っているようだが、ゴジラを前にしては如何せん、ロケット花火を撃っているようなものだ。
スーパーX2を追って、ゴジラがビジネスエリア内に踏み入ってくる。ビルの間から顔を出したスーパーX2が再びミサイル、及びバルカン砲を惜しむことなく浴びせかけ、再び隣のビルの影に隠れた。
「もしかして、誘い込んでます?」
「そうかもな。となると、ちょっとまずいか……?」
何を狙っているか分からないが、このままビル内にいては巻き込まれそうだ。
しかし行動に移す前に動きがあった。スーパーX2が俺のいるビルの横から進み出て、機体前部を左右に展開させた。そこから覗いたのは、まるで加工済みのダイヤのように煌めく、巨大な結晶体だった。
「なんだ? 何をしようと……?」
スーパーX2の艶のない表面までよく見える。そのような至近距離にあって俺は、次に何が起こるかと目が離せなかった。
ゴジラの背びれが青白く発光する。
「あ、やべ」
その光景に見覚えがあった俺は、思わず一歩下がる。
そしてゴジラの口から放たれた熱線が、スーパーX2に直撃した--そう思った瞬間、なんとスーパーX2の前部からも光線が発射され、ゴジラの足下に当たり爆発を引き起こした。
「なんだぁ!?」
ゴジラは続けざまに熱線を発射するが、全て同様に反撃を受け、やがて胸元に直撃を食らいたじろいだ。
「そうか、反射してるのか!」
恐らく機体前部の結晶に何か仕組みがあるのだ。ゴジラの熱線を跳ね返せるとは、人間の技術というのも大したものだ。
「……ん?」
「ん?」
ユーコが疑問符で振り返ったので、それに習う。するとエレベーターの到着する音が廊下から響き、体が固まる。
「誰か、来たみたいですね」
「誰かって、誰だこんな時に! まともじゃないぞ!」
「は?」
お前が言うか、的なユーコの視線が突き刺さる。
それはさておき、考える。足音は確実にこちらに向かって駆けてきている。逃げるか、隠れるか、逆に堂々と居座ってみるか。俺は……
「とりあえず隠れよう」
「はい」
手近な窓際の机の下に身を潜める。間もなくオフィスの戸が開かれ、何者かがドカドカと、気配を殺すこともなく侵入した。
「いやなんでキミまで?」
「なんとなく……」
なぜかユーコまで膝を抱えて潜り込むものだから、視覚的に手狭で仕方ない。
そうしている内に侵入者は窓際へ歩み寄り、何やらガサゴソとやっている。俺は慎重に顔を出し様子を窺う。
侵入者とは自衛隊員だった。窓に粘土のような物を貼り、素早くオフィスの奥へ下がる。その粘土から導線のようなものが伸びていることに気づき、ふとある物が思い当たる。
「まさか、プラスチック爆弾?」
「え、爆弾?」
慌てて顔を引っ込めた瞬間、窓ガラスが砕け散る音がして、強い風がオフィス内に吹き込んでくる。
また顔を出すと、自衛隊員はバズーカ砲のような物を持って窓際に駆け寄り、外を覗いていた。
「クソ、限界か」
その吐き捨てるような一人言が気にかかり、机からこっそり這い出て窓の外を見る。
スーパーX2は既にボロボロで、前部の結晶も黒く煤けていた。そしてゴジラから放たれた熱線が再びそこに当たると、そのエネルギーが背面まで突き抜けたように爆発し、炎と煙を上げて墜落していった。
勝利の雄叫びだろうか、ゴジラが咆哮する。
「こちら権藤、位置に着いた!」
権藤、と名乗った自衛隊員はバズーカを構え、ゴジラを狙っているようだった。俺は息を潜めてカメラを構える。
そして放たれた弾頭は一直線にゴジラへと向かう。同時に周囲のビルからも三発放たれ、計四発の弾頭がゴジラに殺到し、全て命中した。
それらは爆発することはなかったが、痛んだのかゴジラが再び咆哮する。何か特殊なものを撃ち込んだのだろうか。
「ようし、戻れ!」
権藤はインカムで指示を出し、ゴジラに背を向ける。その途中で俺の存在に気付き、少し目を開いた。
「おい、あんた何やってんだこんな所で」
「えーその、撮影です」
権藤さんは溜め息をついた。
「とにかく一緒に来い、さっさと避難を……」
その言葉は途中で止まった。窓の外を一瞥した権藤さんは、ゆっくりとバズーカを置き、床に放っていたバッグを漁り始めた。
「あんたは早く逃げな。と言っても、間に合うかは分からんが」
ゆっくりと、ゴジラがこちらに歩み寄っていた。その瞳は明らかな敵意を持って、俺たちのいるフロアを見据えていた。
「いや、一緒に!」
「ほんとは民間人の避難が最優先なんだがな。男の意地だ」
権藤さんはバッグから取り出した弾頭を、バズーカに装填している。その鷹揚とした様は否応なく、秘めたる覚悟の大きさを見せつけた。
「逃げましょうカメさん!」
「……くそっ!」
廊下へ向け一人駆け出し、部屋を出たところで振り返る。ゴジラは既にかなり接近し、その鋭い相貌がありありと見て取れた。
そしてゴジラは咆哮した。凄まじい音圧が体に打ち付ける。
装填を終えた権藤さんは素早く振り返り、ゴジラの口めがけて弾頭を発射した。それは吸い込まれるようにゴジラの口腔内に消え、白煙を上げた。ゴジラは面食らった様子で口を閉じ、鋭い牙の間から煙を漏らす。
権藤さんはクイと、ニヒルにヘルメットの縁を上げた。
「薬は注射より飲むのに限るぜ、ゴジラさん!」
今回の選択肢
逃げるか、隠れるか、逆に堂々と居座ってみるか。俺は……
①逃げる→途中で見つかり、押し問答になる
②隠れる→本編通り
③居座る→シュールな空気にはなるが堂々と撮影できる