巨影を知らない都市   作:ギガンティック芦沢博士

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前回までのあらすじ

ゴジラは主人公のいるビルを攻撃し、権藤は瓦礫の中に消えた。
崩落するビルから身を投げた主人公は、巨大なドローンに変身したユーコに乗り、難を逃れる。
そこへ突如出現したビオランテが、ゴジラと戦闘を開始。
ビオランテは触手でゴジラを捕獲し、その大顎で頭部に噛み付いた。
状況が膠着する中、飛来したギャオスがゴジラたちを狙う。
そこにガメラまでも飛来し、ギャオスに火球を見舞った。


stage12:巨影相撃つ ③

 火球を受けたギャオスは錐もみ状態で落下するが、地に落ちる寸前で翼をはためかせ、強引に上昇した。体の節々で燻っていた残り火も、その動きでかき消された。

 夜空を旋回し逃げるギャオスを、ガメラも飛行形態のまま追従する。地上の火災に照らされる二体の影がこちらに飛来し、頭上を通過していった。その迫力に思わず首を竦めると、吹き付ける風に煽られドローンが揺れる。

「よかったです、ガメラが来てくれて……」

「ああ、けどゴジラはまだ」

 かくして一先ずの危機を脱したゴジラだったが、依然体勢は不利のままだった。ビオランテの蔓のような触手に全身を絡め捕られ、巨大な顎で頭部を噛み砕かれようとしている。もはやどうにもならない形勢にも見えたが、ゴジラにそんな通念は通用しなかった。

 ゴジラの背びれが発光する。光線を吐くかと思われたが、ゴジラは口を閉じたままそれを()()()。出口を失ったエネルギーが溢れ出すかのように全身から閃光が放たれ、ゴジラを縛めていた触手を四分五裂に切り裂く。

「体内放射! 熱線のエネルギーを全身から放つ技です!」

 ユーコの解説に耳を傾けながら、カメラを回し続ける。

 至近距離でそれを浴びたビオランテ本体にもダメージが入り、呻きながら後退する。

 二体の間に距離が生まれるが、ビオランテはすかさず大口を開き、緑色の液体をゴジラへと噴きつけた。

「これも酸か!」

 これまでも見た通りビオランテの酸攻撃だったが、触手が吐くそれと比ではない量がゴジラに降りかかり、かの上半身はたちまちに緑色に染められていく。付着した先から煙が立ち、痛みに喘ぐようにゴジラが鳴く。

 攻撃として間違いなく有効ではあったが、しかしそれはゴジラを相手にして致命的に決定打に欠けていた。

 ゴジラは酸に怯まず口を開き、青白い熱線をビオランテの口腔へ向け放った。それは喉を貫通し背中まで突き抜け、ビオランテの全身の至る所で小爆発を引き起こす。緑色の体液が噴き出し、ビオランテは痛みに泣くように咆哮した。

 そして炎上が始まり、ビオランテの全身は瞬く間に炎に包まれる。俺たちはもちろん、ゴジラもその様子をじっと見つめていた。

 ビオランテの悲壮な声が響く中、やがて炎と煙の中から光の粒子が立ち昇っていく。それは以前の、湖での戦いの終局を彷彿とさせる光景だったが、なぜだか今見るこの光景はビオランテの安らかな最期を思わせた。

「なあ、ビオランテには人の遺伝子も組み込まれてたよな」

「はい」

「なら、これで良かったのかな。その遺伝子の持ち主も、そう思ってるような……そんな気がする」

 そしてビオランテは姿を消し、光の粒子は夜空へと消えていった。

 その夜空から、逆に落下してくる影がある。いつの間にか高高度へ戦場を移していたガメラとギャオスだ。ガメラがギャオスの足に噛み付く形で、二体はもつれ合いながら地上へと落ちてくる。

 ギャオスが超音波メスをがむしゃらに発射し、ガメラの頬や甲羅に傷をつけるが、ガメラはまるで怯むことなく食らい付いたままだ。

 そして地上に叩き付けられる直前、ガメラだけが寸前で軌道を変え離脱する。体勢の立て直しも効かぬまま、ギャオスは背中から街中へと落下した。凄まじい衝撃が湾岸都市に伝播し、各所で窓ガラスを破砕していく。押し寄せた風圧にドローンが揺れ、四肢に力を込めて耐え忍ぶ。

 ガメラは四肢からのジェット噴射により減速し、ギャオスの落下地点に程近い場所に着地した。それを目で追っていたゴジラは、巻き上がった砂煙の中のギャオスへと視線を移す。

「どうだ、ギャオスは……」

 口から出た疑問に返すように、ギャオスの鳴き声が甲高く響く。しかしそれは先ほどまでのものとは違い、潰れた喉から絞り出すような声だった。

 砂煙が薄れると、顔の半分は潰れ、翼の片方もひしゃげていたが、しかしギャオスは未だ両の足でそこに立っていた。そのうえ戦意にも陰りは見えず、再び口内に黄色い光を収束させていく。

 だが相手取る二体は反撃を許すほど甘くは無かった。ガメラとゴジラは既に口腔内に留めていたエネルギーを同時に発射し、真っ赤な火球と青白い熱線がギャオスの体を穿つ。

 激しい爆音と閃光の間に、ギャオスは叫ぶ暇すら無く絶命したようで、全身を炎に包まれ頭部を失った姿で現れた。そしてギャオスの骸はゆっくりと倒れ込み、一際激しい爆発を引き起こした。

 灼熱の爆炎が大気を揺らし、空を覆いつくす中、そこに一筋の黄色い光線が伸びた。真っ直ぐ天へと伸びるギャオスの命の残滓は、やがてふつふつと途切れ始め、間もなく完全に途絶えた。

 それを撮影し終えた俺は、茫然として夜空を見上げる。ほう、と溜め息しか出てこない。それだけの迫力を持った戦闘だった。この場に立ち会えたことに、徐々に歓喜が沁み出してくる。

「いや、凄かった。もうお腹いっぱい……」

「カ、カメさん……」

「ん?」

 視線を地上に戻すと、ゴジラが睨んでいる……ガメラを。そしてガメラもまた、ゴジラを見据えている。燃え盛る湾岸都市の中心で、二体の巨影が、まさに一触即発の緊張感を持って、静かに対面していた。

「な、なんか……まずくないか?」

「……気を引き締めておいてください」

 ユーコは確信を持ってそう警告した。

 サイレンがどこかで鳴り響いていた。上空を旋回するヘリの音も聞こえてくる。街を包む静寂に、俺はごくりと喉を鳴らした。

 二体が同時に、ゆっくりと動き出す。互いに向かって歩を進め、距離を縮めていく。これまでと比べ静かな滑り出し。しかし二体の歩調は徐々に早まっていく。

 俺はその光景に恐怖、いや()()とも言うべき感情を抑えきれなかった。

 ゴジラとガメラが同時に吼える。相撃つ二つの巨影が、炎の中で激突した。

 重厚な衝撃音と共に二体の足元のコンクリートが弾け、周囲のビルにスパークが走る。両者の膂力は拮抗を見せ、がっぷりと組み合ったまま動きが止まる。

「うわぁ、とうとう!」

「凄い……カメさんはどちらが勝つと?」

「それは……ガメラかな。と言うか、負けないでほしいって気持ちだ」

 ガメラは地球の守護者という位置にあるらしいが、少なくとも人類に対し敵対の意思は無い。むしろレギオンとの一件がそうであるように、敵の敵という論法によれば間違いなく味方だろう。

 転じてゴジラという怪獣は……何と言えばいいか、人類にとっては敵であり、災害であり、そして戒めでもあるように思う。明確な悪ではない、とは感じるが、それでも強大な脅威であるとの認識が先立った。

 ゆえのガメラびいきではあったが、非情にも天秤はゴジラに傾いた。

 正面から噛み合っていた力のベクトルをゴジラが受け流し、ガメラの体勢を僅かに崩した。そこにすかさず付け込み、ガメラを押しやっていく。後退する甲羅がビルを粉砕した。

 しかしガメラも同様にゴジラの力を受け流し、立ち位置を入れ替える形でゴジラをビルへと打ち付ける。二体の通った後には濛々と煙が立ち、一本の瓦礫の道が造られていた。

 一進一退の攻防を繰り広げる二つの巨影を夢中で撮影していると、気付けばその背中はすぐ傍まで近づいていた。

「ちょっと、カメさん!」

「やべ、ごめん!」

 どうやら撮影に夢中で、ユーコの警告を聞き落としていたようだ。荷重によってユーコに指示を伝え、慌ててその場から離脱する。直後、先ほどまで滞空していたエリアが深紅のデッドゾーンにすっぽりと覆われた。

 ゴジラが機敏に回転し、その重厚な尾でガメラを強く殴打する。尾の先が大気を切り裂く音が聞こえた。重い打撃音と共にガメラは弾き飛ばされ、デッドゾーンを押し潰すようにビル群へと倒れ込む。

「ガメラ!」

 ユーコが叫ぶ。一帯はビルの崩壊に伴う砂煙に覆われ、ガメラの姿はその中に隠れてしまった。ゴジラは一つ雄叫びを上げるが、そこに含まれるニュアンスは昂りと、そして警戒であると、何とは無しに直感した。

 間もなく、地鳴りのような音が煙幕の中から響き始める。次の瞬間、足をジェット状態にしたガメラがそこから飛び出し、ゴジラに突進した。奇襲の体当たりを胸に食らったゴジラは、先ほどのガメラと同様に弾き飛ばされ、ビルを巻き崩しながら大転倒した。

 ガメラは振り返りながら着地し、コンクリートを破砕しつつブレーキをかけ停止した。

 その姿をカメラで追いズームすると、ふと先ほどからガメラに抱いていた違和感の正体に気付く。

「ガメラ、何か違くないか。別の個体なのか?」

「確かに。でも同じですよ。正真正銘、レギオンを倒してくれたガメラです」

 しかしその容姿は明らかに異なる。全体的なシルエットに鋭さが増し、特に甲羅の縁は刺々しくささくれている。頭部は小型化し、愛嬌のあった大きな双眼も小さく、かつ鋭い眼光を放っていた。これらは、子どもが大人へと成長する際の身体的特徴にも通ずるものがあった。

「この急激な変化は……必要だったから、でしょうか」

「必要……まるで進化だ」

 必要に応じた進化。ではこの形態が必要になる事態とは。

 その時、ゴジラがダメージらしいダメージも感じさせず、鷹揚に立ち上がる。しかし俺は思考に耽り、気持ち半分にその様子を眺めていた。

 様々な情報が脳裏を巡る。レギオンの鋭い身体。闘争のための身体。マナの消耗。生態系の変化。次々に出現する巨影――

 その答えは唐突に、向こうから現れた。

「カメさん上! 巨影が……!」

 ガメラが素早く上空を仰ぎ見、ゴジラも釣られるようにそれに倣う。俺も同様に夜空を見上げれば、地上の炎に僅かに照らされ飛翔する、その影を見つけた。

「ギャオス、それも二体……!?」

「両方ギャオスハイパーです!」

 先ほど仕留めた巨大なギャオスが、更に二体。一種の非現実性さえも感じるこの絶望的な光景に、どっと体の力が抜け、同時に寒気が全身を巡る。それを抑え込みながらシャッターを切り、僅かに見えるその姿を写真に収めた。

「これが進化の原因か? ギャオスの出現、マナの影響なのか……?」

 轟くガメラの咆哮に視線を落とせば、彼は再びジェットを噴射し、発射間際のロケットのように全身を煙に包まれた。そして両腕を翼のようなヒレ状に変化させ飛び立っていく。

 ゴジラがどうするのかと様子を見れば、ただじっと、遠ざかるギャオスたちと追走するガメラを見上げていた。

 ギャオスとガメラの姿が夜空に消えてしばらく。次なるゴジラの行動を、固唾を飲んで観察していると、ゴジラは気だるげに振り返り、港の方へゆっくりと歩み去っていった。

「なんだ、もう暴れないのか……?」

「と言うより、そんな元気も無さそうに見えるんですが。どうしたんでしょう……?」

 ふと思い当たったのは、先に出会った権藤さんら自衛隊員たちが撃ち込んだ弾頭だった。ゴジラ相手に爆発もしない武器で何をしたのかと気にかかっていたが、これこそその成果なのではないかと考えられた。

「権藤さん……死んだ甲斐があったな」

 

 かくしてゴジラも去った後、戦場跡と化した湾岸都市に静けさが戻ってきた。未だ街の各所で激しく炎が燃え立ち、瓦礫の山は各所を埋め尽くしている。

 その風景を見下ろしつつ、俺はドローンの上に腰を下ろし、深く溜め息をついた。

「ゴジラ、ガメラ、それにギャオス……まだまだ、この騒動は続くな」

「そうですね。さすがのカメさんも疲れましたか?」

 ぼーっと夜空を見上げながら答えを探し、いや、と立ち上がる。

「まだまだこれからさ! 追おうユーコ、ギャオスとガメラの追跡が今後の目標だ」

 ユーコの笑う気配があった。

「はい、どこまでも追ってやりましょう!」

 巨影を追う覚悟を新たに、すっと深く息を吸う。焼け焦げた街の香りが鼻の奥を突いた。

 




おおよそ前半戦終了です

今回の選択肢
「カメさんはどちらが勝つと?」
①ゴジラかな
②ガメラかな
結果の変化はなし
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