巨影を知らない都市   作:ギガンティック芦沢博士

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前回までのあらすじ

ギャオスとガメラ、ゴジラとビオランテという組み合わせで展開される戦闘。
ゴジラは体内放射から逆転し、ビオランテを打倒。
ガメラはギャオスを地に叩き落とし、ゴジラとの同時攻撃でこれを粉砕。
しかしガメラとゴジラの戦闘が始まってしまう。
一進一退の攻防の中、上空を通過したギャオスを追いガメラが離脱。
一方、権藤ら自衛隊員に撃ち込まれた特殊弾頭の効果により、ゴジラもそれ以上暴れることなく、海へと帰っていった。


stage13:飛来する巨影たち ①

 ガメラとギャオスの行方を辿ること数日。人伝て口伝ての情報をかき集め、叔父ら巨影愛好家たちとも綿密に連絡を取り合ったが、ついに万策が尽きた。

『……まあ、仕方がねえ。ギャオスはもうサイトに掲載したし、反響も大きい。情報もそのうち集まってくるさ』

「そうだな。しかし反響はまあ、恐々というか」

 反響は大きかった。いや大きすぎた。ギャオスの姿を見た人々は記憶を取り戻し、五年前に刻み込まれた恐怖をも思い出してしまった。なまじ忘れていただけに、風化の暇もなく鮮明に蘇ったギャオスの記憶は、人々の暮らしにまで影を落とした。

『恐々か、だが正しい反応だぜ。自衛の心構えくらいは持ってるべきだろ』

「それもそうだ。注意喚起も俺たちの仕事のうちか」

『その通りだ、が。今は何の仕事もねえ。ついこの前まで休む暇も無かったってのになぁ』

 叔父が退屈そうに愚痴る。ガメラとゴジラの一戦以降、相次いでいた巨影の出現情報は一旦なりを潜めていた。巨影の出現メカニズムなど誰も知るわけがないのだから、詮なきことではあるが。

『今のうちに首都に戻ったらどうだ。いつまで暇になるか分からねえがよ』

「首都か……戻ったところでもう、仮住まいすら無いけどな」

『ああ、そうだったな。レイバーの暴走だったか? ぷっ、気の毒になぁ』

「ほんと、もうちょっと草体の爆発が強ければよかったのに」

 半笑いで安い同情をかける叔父は、相変わらず絶好調だ。大けがで動けないくせして、なぜこんな態度でいられるのか理解に苦しむ。 

 

 そんなやり取りを経て、俺は首都に戻っていた。今や家と呼べるものも無い場所ではあるが、どこへ行くにも便利だし、それなりに長く過ごした土地だけあって、不思議と気分も落ち着いた。

 繁華街の中心に構える大手家電量販店から出ると、既に空には一等星が輝いていた。

「もう真っ暗。そんな夢中になってたかな?」

「それはもう。声かけても生返事でしたよ」

「あー、悪かったな待たせて」

「いえ、カメラのことならしっかりしないと。カメさんの“商売道具”なんですから」

 今日の目的はカメラのレンズだった。巨影の撮影はあまりに過酷で、カメラへのダメージも並では収まらない。すっかり傷付いたそれを買い替え、既に付け替えていた。

 ユーコと談笑しながら道を往き、駅前へ歩く。

 この繁華街は首都でも有数の規模で、駅の利用者数は世界の五指に入る。駅舎には百貨店が直結しており、ロータリー周辺の商業ビルは色とりどりのネオンに輝いていた。

「やっぱり……普段より少ないな」

 ロータリーで周囲を見回し、そう漏らす。この時間帯であれば人でごった返してもおかしくないはずだが、明らかに人口密度が薄い。

「ギャオスの影響ですか?」

「だろうよ。ギャオスの活動が夜だってことも思い出したんだ。外出も控えるさ」

 これが、ギャオスの記憶による影響の最たるものだ。人々は夜の外出を恐れ、社会全体が夜間の行動を控えるようにシフトしている。終業時間や店じまいを前倒しにし、従業員を早々と帰宅させる企業も相次いだ。闇の深い話ではあるが、密かにギャオスに感謝している者もいるらしい。

 最も、すべての企業がそうしているわけではないし、今も駅前には会社帰りと思わしき集団がたむろして、談笑している。それを引き込もうとする居酒屋のキャッチ。非日常を楽しんでいる様子の女子高生ら。

 彼らを見ていると、皆が皆危機意識を持てるわけではないのだと実感する。確かに、直接ギャオスを見たわけでもなければ、仕方ないのかもしれないが……

 今も目の前で、怪しい風体の男がうら若い女性に声をかけている。芸能事務所がどうとか言っているが、この手のスカウトなんて怪しいものだ。女性も訝し気にしているので大丈夫そうだが。

「カメさん。この男の人は何を?」

「スカウトだよ。有名人になれるとか甘い言葉で誘うけど、こいつは怪しいな。大抵詐欺とか……」

「詐欺とか、なんです?」

「いや、まあ……」

 いかがわしい内容しかないため、言葉に詰まってしまう。ユーコにこういう話をするのは非常にはばかられる。彼女は不思議そうに首を傾げた。

 次の一瞬で、ユーコの様子が変わる。急に空を見上げ、じっと見据える。ユーコがこういった反応を見せるときは……

「ユーコ、まさか」

「……来ます。こっちへ来る。二……いや三体」

 ふと、雲の向こうがぼんやりと、赤色に明らむ。一瞬映し出された有翼の影は、間違いなく――

「ギャオス……!」

「この光、ガメラの火球です!」

 ふと周囲に視線を配る。俺と同様に上空の異変に気付いた者はごく僅かで、ふと気付いて見上げた者も、また視線を戻して歩みを止めない。あまりに一瞬のことだったからか、皆の日常はまだ続いていた。

「まずい、みんなに避難を――」

 その言葉に被せるように、駅舎の遥か上空、雲の中で赤い炎が弾けた。

「ママー、はなび!」

 子どもの声が背後で聞こえる。俺はその炎から目を逸らせず、しかし自然にカメラを握っていた。

 爆発はほんの数秒で収まった。だが、上空でその爆発に巻き込まれた()()が、火だるまになってゆっくりと落下してきた。ゆっくり、などではない。それが――ギャオスがあまりに巨大だからそう見えるだけだ。

 俺はカメラを構え、炎に包まれる肉塊、と形容するが近いギャオスを撮影する。細かい肉片も燃え落ち、まるで隕石のように地上へ降り注ぐ。

「だめだめ、事務所に連れ込めばなんとかなると思ってるんでしょ」

 先ほどスカウトされていた女性の声。彼女たちはまだ日常の中に居る。しかし、それはあと数秒で終わる。たった今、非日常を告げる異形が駅舎へと……墜落した。

 激しい衝撃、轟音、噴き上がる土煙。まさに隕石の落下を思わせるような大質量のインパクトが、周辺に群れる人間を一人残らず、非日常へと叩き込む。

「逃げろ、ギャオスだ! ガメラが追ってる! 巻き込まれるぞ!」

 ようやく金縛りが解けたように、声を張り上げて皆に叫ぶ。それを皮切りとして次々に悲鳴が上がり、多くの人が逆方向へ逃げていく。

 しかし茫然としているのか、それとも好奇心か、まだ相当数の者がその場に留まっていた。ある者は携帯で撮影し、ある者はただじっと駅舎を見つめ、ある者は腰を抜かしている。

 彼らにもう一度声をかけようとした時、ユーコが叫ぶ。

「ダメです、逃げて!」

 ガメラは甲羅に空いた四肢の穴からジェットを噴射し、回転しながら降下してくる。その巨体が空を覆い隠すばかりに迫った時、既に周辺には黄色いデッドゾーンが広がり、ロータリーの中心付近は赤いデッドゾーンが現れていた。

「隠れろ! 飛ばされるぞ!」

 声を張り上げ、付近の街路樹の幹にしがみつく。

 ガメラは減速のためか噴射を下方向へ移し、周囲には白煙と熱風が吹き荒れた。全く視界の無い暴風の中で、人々の悲鳴や苦痛の叫びだけが微かに届いた。

 間もなく噴射が終わり、白煙が途切れる。その瞬間に見上げると、四肢を生やしたガメラがロータリーに落下する瞬間だった。

 体が宙に浮くような激しい衝撃。ガメラに踏み砕かれ跳ね上がるアスファルトの破片。それらが収まると、駅前には異様な静けさが降りた。

 破壊された商店の剥き出しになった配線から、小さなスパーク音と共に白い火花が飛ぶ。あちこちに転がり、頭を抱えて蹲っていた人たちがゆっくりと、煤まみれの顔を上げた。彼らの見上げる先で、巨大な影は白い息を吐きながら、鷹揚に立ち上がった。

 そして、吼える。喉をかき鳴らすようなその叫びに打たれた人々は、ただ畏れ、小さく悲鳴を上げることしかできなかった。

 ゆっくりと、ガメラが駅舎へと歩み寄る。ようやく人々は声の出し方、足の動かし方を思い出したように、各所で悲鳴を上げながら逃げ惑い始めた。

 転じて俺は、ふとカメラの様子を確認してから、ガメラの刺々しい甲羅にレンズを向けた。

「トドメを差すつもりか」

「カメさん、大丈夫なんですか!?」

「これぐらい、どうってこと。それより……ガメラ、どうして」

 勝手な話だが、彼は味方であると、そう思っていた。しかし、今こそ認識を改めないといけないのかもしれない。

「ガメラは、地球の守護神です。決して、人間の味方というわけでは……」

「分かってるさ。分かっちゃいるんだけど……」

 カメラを握る手に力が入る。

 ガメラは駅舎の傍で歩みを止め、崩壊した屋根から中を覗きむ。その途端、甲高いギャオスの鳴き声が聞こえた。ボロ雑巾のようになった羽を振り、必死にガメラを威嚇しているようだが、もはや抵抗も逃走もできないほどに満身創痍なのだろう。

 ガメラが白い息を一つ吐き、そして深く空気を吸い始める。閉じた口の牙の奥から、赤い炎がちらりと見えた。

 そしてガメラはそれを放った。直下に向け放たれた火球はギャオスを消滅させるに留まらず、隣接する百貨店をも呑み込むほどに、高く広く巻き上がって街を焼いた。突然の事態だ、その中や周辺、駅舎そのものにも、まだ逃げ遅れた人がいただろう。何百人、何千人と……

「ああ、くそっ……」

 思わず溢れ出した言葉に、俺はどんな思いを込めていたのか。自分でも理解しきれない。

 燃え盛る街と、その中に佇む巨大な守護神の影を、無心になってカメラに収めていった。

 

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