巨影を知らない都市 作:ギガンティック芦沢博士
パニックに陥る繁華街。
親とはぐれた子どもを捜索するため、火の海を渡る主人公。
ガメラの足元に子どもを発見するも、ギャオスの光線が迫る。
ここでガメラは彼らを庇うような動きを見せるが、戦闘の余波で膨大な犠牲者が出てしまう。
ギャオスを倒し飛び去るガメラ。
その跡には、炎に包まれた街があった。
首都に俺の帰る家は無い……が、今はユーコという反則手がある。寝泊りだけなら彼女の変身するキャンピングカーで充分だった。とは言え、衣食住には到底足りない。
以前の下宿先の家主、通称おやっさんへの挨拶を終えた俺は、近場の適当な雑貨屋を物色していた。久保商店なるこの店、下町風景に馴染む木造二階建てで、外観が俺好み。
タオルから筆記具まで漁っていると、壁際の高い位置に設置された、古いブラウン管テレビが目に入った。
『先日、二頭のギャオスとガメラが繁華街に突如飛来しました。その戦闘の余波により一帯は壊滅、死傷者数は一万人を超え……』
ここ数日間、何度も何度も繰り返されているニュースだった。画面に流れる映像は、全て俺が撮影したものだ。それ自体は誇らしいことだが……自然と眉間に皺が寄っていく。
『またその後、消火活動に当たった消防用レイバーのうち数機がコントロールを失い暴走。消火と救助の妨げとなり、これを重く見た政府は……』
その時、テレビを見上げる俺の背後を、誰かが通り抜けていった。ふと振り返ると、特徴的なオレンジ色のベストを着た女性が、商店の二階に上がっていく後ろ姿を捉えた。
「あれ。あの服、特車二課? もう首都《こっち》に帰ってたのか」
「そうみたいですね。ここがお家なんでしょうか」
北方都市の病院で、俺たちをデストロイアから守ってくれた特車二課。後にデストロイアは制圧したとの報道もあったし、あれは出向という形で、既に本来の管轄に戻ったのだろう。
お礼を言うべきかな。しかしここが自宅なら、無理に押しかけるのも悪い気がするし……
などとまごついていると、二階からやかんの沸く甲高い音が聞こえ始める。しかしどうしたことか、それはしばらく鳴り止むことなく響き続けた。
「火、消し忘れてるのかな……? ユーコ、ちょっと見てきてくれないか」
「了解です。お邪魔しまーす……」
上昇し、天井に頭を突っ込むユーコ。一歩間違えばホラーか、またまたギャグのようなシュールな光景だ。彼女は白いワンピースを着た姿をとっているため、俺はふいと視線を商品に落とす。
「あれ、三人います。なんでみんな止めないんだろ……?」
「どんな人ら?」
「さっきの女生と、下着姿の男性が二人です」
「よし、何かあったら言ってくれ。突入するから」
うら若い女性と不審な男二名。犯罪の香りしかしない。
彼女がそもそも警察官であることも忘れ、階段へ身を寄せる。
「ん、これって……!」
「なんだ、やっぱりか!?」
階段の一段目に踏み出すが、ユーコに止められる。
「いえ、大丈夫! どうやら知り合い……みんな特車二課の人みたいです」
それに、とユーコが手で俺を制す。
「とても、カメさん好みの話をしてます」
「俺好み?」
「全部聞いて、後で話します。今はお静かに」
「あ、ああ」
蚊帳の外にされ、仕方なくまたテレビに目を移す。内容は天気予報に移っており、今夜にも首都に接近する超強力な台風について報じられていた。首都より遥か南方の地、その海沿いの道でマイクを構えるレポーターは、吹き荒れる暴風雨に曝されていた。
「なるほど、人間には聞こえない音。それがあのOS、“
「そういえば、全然信じてもらえなかったですよね」
キャンピングカーの中で、盗み聞きの報告を聞く。……まったくとんでもない話だった。
篠原社製のHOS。これに問題があることには勘づいていたが、まさかレイバーの暴走を意図的に引き起こすプログラムだったとは。青天の霹靂とはまさにこのこと。
「高層ビルの吹き抜け、吊り橋のワイヤー、それらに強風が当たって発生する低周波音。そしてそれを拾えるレイバーの鋭敏なセンサー……よくできた仕組みだよ」
「ええ。そしてこれからが問題です。この低周波音、どうやら共鳴を起こすらしいです」
「共鳴? ……嫌な予感してきた」
ふと頭によぎるのは、先ほど見た天気予報。
「はい。今この首都に接近中の台風。その暴風によって大規模な共鳴が起こり、首都だけでなく周辺全域でレイバーが一挙に暴走する……とのことです」
「……それは、やばいな。原発でもレイバーは動いてる。ただでさえ巨影被害でフル稼働だっていうのに……」
「その共鳴の発生源になるものが、“方舟”という施設らしいんです。知ってますか?」
「方舟? っていえば……ああ、なるほど!」
幾多の足場が無計画・無秩序に増設されていったような巨大な建造物が、紺碧の洋上にそびえ立っていた。全長五百メートル、洋上高百五十メートル。全工区のレイバーの整備を一手に賄う洋上プラットフォーム――それがこの方舟である。
空洞の多い多層構造物かつ、洋上にあり風を妨げる物が無い。低周波音の発生条件がこれ以上なく整っている。
俺は、倉庫が立ち並ぶ港から望遠レンズでその姿を覗き、シャッターを切っていた。間もなく夜になるが、するとその姿は闇夜の中に消えてしまうだろう。
「へー、あれが。大きいですね」
「あれこそがバビロンプロジェクトの要だからな。さて、俺の予想なら今夜にでも何か動きがあるはずだ……」
今回の一件、根は深い。HOSの不備が表沙汰になっていないのは、無用の混乱を避けるため……というのもあるのだろうが、それ以上に“大きな権力”の影を感じてしまう。
しかし真実を知った特車二課が、ただ長いものに巻かれるを、良しとするとは思えない。信じられないような行動をとるはずだ。例えば……
「けど、本当にやるんですかね? 台風に乗じてあれを破壊する、なんてこと」
「勘だけど、たぶん」
「勘ですか」
ユーコは苦笑するが、俺は大まじめに答える。
「彼らと何度か当事者として関わって、なんとなく肌で感じたものがある。それも含めた勘だ。きっと当たるよ」
“在りし日の”と称される予定の方舟の写真を撮り終えて、俺はしけり始めた海に背を向けた。
「さて、今日はこの辺で泊まろうか。頼むよ」
「え、大丈夫ですか? こんな海に近くて」
「台風が通過したらすぐに撮りたいんだ。危なくなったら逃げるよ」
キャンピングカーに変身したユーコに乗り込み、適当な食材を漁り始める。
この時、俺は気付けなかった。撮影中も、車に乗った後も、淡々とこちらを見つめる数多の瞳があったことを。