巨影を知らない都市   作:ギガンティック芦沢博士

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前回までのあらすじ

パニックに陥る繁華街。
親とはぐれた子どもを捜索するため、火の海を渡る主人公。
ガメラの足元に子どもを発見するも、ギャオスの光線が迫る。
ここでガメラは彼らを庇うような動きを見せるが、戦闘の余波で膨大な犠牲者が出てしまう。
ギャオスを倒し飛び去るガメラ。
その跡には、炎に包まれた街があった。




stage14:方舟の影、招かれざる獣 ①

 首都に俺の帰る家は無い……が、今はユーコという反則手がある。寝泊りだけなら彼女の変身するキャンピングカーで充分だった。とは言え、衣食住には到底足りない。

 以前の下宿先の家主、通称おやっさんへの挨拶を終えた俺は、近場の適当な雑貨屋を物色していた。久保商店なるこの店、下町風景に馴染む木造二階建てで、外観が俺好み。

 タオルから筆記具まで漁っていると、壁際の高い位置に設置された、古いブラウン管テレビが目に入った。

『先日、二頭のギャオスとガメラが繁華街に突如飛来しました。その戦闘の余波により一帯は壊滅、死傷者数は一万人を超え……』

 ここ数日間、何度も何度も繰り返されているニュースだった。画面に流れる映像は、全て俺が撮影したものだ。それ自体は誇らしいことだが……自然と眉間に皺が寄っていく。

『またその後、消火活動に当たった消防用レイバーのうち数機がコントロールを失い暴走。消火と救助の妨げとなり、これを重く見た政府は……』

 その時、テレビを見上げる俺の背後を、誰かが通り抜けていった。ふと振り返ると、特徴的なオレンジ色のベストを着た女性が、商店の二階に上がっていく後ろ姿を捉えた。

「あれ。あの服、特車二課? もう首都《こっち》に帰ってたのか」

「そうみたいですね。ここがお家なんでしょうか」

 北方都市の病院で、俺たちをデストロイアから守ってくれた特車二課。後にデストロイアは制圧したとの報道もあったし、あれは出向という形で、既に本来の管轄に戻ったのだろう。

 お礼を言うべきかな。しかしここが自宅なら、無理に押しかけるのも悪い気がするし……

 などとまごついていると、二階からやかんの沸く甲高い音が聞こえ始める。しかしどうしたことか、それはしばらく鳴り止むことなく響き続けた。

「火、消し忘れてるのかな……? ユーコ、ちょっと見てきてくれないか」

「了解です。お邪魔しまーす……」

 上昇し、天井に頭を突っ込むユーコ。一歩間違えばホラーか、またまたギャグのようなシュールな光景だ。彼女は白いワンピースを着た姿をとっているため、俺はふいと視線を商品に落とす。

「あれ、三人います。なんでみんな止めないんだろ……?」

「どんな人ら?」

「さっきの女生と、下着姿の男性が二人です」

「よし、何かあったら言ってくれ。突入するから」

 うら若い女性と不審な男二名。犯罪の香りしかしない。

 彼女がそもそも警察官であることも忘れ、階段へ身を寄せる。

「ん、これって……!」

「なんだ、やっぱりか!?」

 階段の一段目に踏み出すが、ユーコに止められる。

「いえ、大丈夫! どうやら知り合い……みんな特車二課の人みたいです」

 それに、とユーコが手で俺を制す。

「とても、カメさん好みの話をしてます」

「俺好み?」

「全部聞いて、後で話します。今はお静かに」

「あ、ああ」

 蚊帳の外にされ、仕方なくまたテレビに目を移す。内容は天気予報に移っており、今夜にも首都に接近する超強力な台風について報じられていた。首都より遥か南方の地、その海沿いの道でマイクを構えるレポーターは、吹き荒れる暴風雨に曝されていた。

 

「なるほど、人間には聞こえない音。それがあのOS、“HOS(ホス)”の暴走のトリガーか……やっぱりOSじゃないか! あの警官どもめ」

「そういえば、全然信じてもらえなかったですよね」

 キャンピングカーの中で、盗み聞きの報告を聞く。……まったくとんでもない話だった。

 篠原社製のHOS。これに問題があることには勘づいていたが、まさかレイバーの暴走を意図的に引き起こすプログラムだったとは。青天の霹靂とはまさにこのこと。

「高層ビルの吹き抜け、吊り橋のワイヤー、それらに強風が当たって発生する低周波音。そしてそれを拾えるレイバーの鋭敏なセンサー……よくできた仕組みだよ」

「ええ。そしてこれからが問題です。この低周波音、どうやら共鳴を起こすらしいです」

「共鳴? ……嫌な予感してきた」

 ふと頭によぎるのは、先ほど見た天気予報。

「はい。今この首都に接近中の台風。その暴風によって大規模な共鳴が起こり、首都だけでなく周辺全域でレイバーが一挙に暴走する……とのことです」

「……それは、やばいな。原発でもレイバーは動いてる。ただでさえ巨影被害でフル稼働だっていうのに……」

「その共鳴の発生源になるものが、“方舟”という施設らしいんです。知ってますか?」

「方舟? っていえば……ああ、なるほど!」

 

 幾多の足場が無計画・無秩序に増設されていったような巨大な建造物が、紺碧の洋上にそびえ立っていた。全長五百メートル、洋上高百五十メートル。全工区のレイバーの整備を一手に賄う洋上プラットフォーム――それがこの方舟である。

 空洞の多い多層構造物かつ、洋上にあり風を妨げる物が無い。低周波音の発生条件がこれ以上なく整っている。

 俺は、倉庫が立ち並ぶ港から望遠レンズでその姿を覗き、シャッターを切っていた。間もなく夜になるが、するとその姿は闇夜の中に消えてしまうだろう。

「へー、あれが。大きいですね」

「あれこそがバビロンプロジェクトの要だからな。さて、俺の予想なら今夜にでも何か動きがあるはずだ……」

 今回の一件、根は深い。HOSの不備が表沙汰になっていないのは、無用の混乱を避けるため……というのもあるのだろうが、それ以上に“大きな権力”の影を感じてしまう。

 しかし真実を知った特車二課が、ただ長いものに巻かれるを、良しとするとは思えない。信じられないような行動をとるはずだ。例えば……

「けど、本当にやるんですかね? 台風に乗じてあれを破壊する、なんてこと」

「勘だけど、たぶん」

「勘ですか」

 ユーコは苦笑するが、俺は大まじめに答える。

「彼らと何度か当事者として関わって、なんとなく肌で感じたものがある。それも含めた勘だ。きっと当たるよ」

 “在りし日の”と称される予定の方舟の写真を撮り終えて、俺はしけり始めた海に背を向けた。

「さて、今日はこの辺で泊まろうか。頼むよ」

「え、大丈夫ですか? こんな海に近くて」

「台風が通過したらすぐに撮りたいんだ。危なくなったら逃げるよ」

 キャンピングカーに変身したユーコに乗り込み、適当な食材を漁り始める。

 この時、俺は気付けなかった。撮影中も、車に乗った後も、淡々とこちらを見つめる数多の瞳があったことを。

 

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