巨影を知らない都市   作:ギガンティック芦沢博士

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あらすじ

深夜、主人公たちは謎の黒服の男たちに襲われる。
海際まで追い詰められたが、ユーコがモーターボートに変身し、嵐の海に逃げ出す。
しかし黒服たちもボートに乗り追いかける。
その時、主人公たちのボートが海底の巨影に引かれ、方舟に乗り上げた。


stage14:方舟の影、招かれざる獣 ③

 次に目が覚めた時、俺は崩落したコンテナの隙間に横たわっていた。風唸り波巻く音は絶え間なく耳に届く。そんな暗がりの中で、ユーコの気遣わしげな顔が俺を覗き込んだ。

「大丈夫ですか? どこかお怪我は」

「ああ、どこもっ」

 上半身を起こした時、体の節々に走った痛みで語気が跳ねる。ユーコは口元に人差し指を当てた。

「しっ。お静かに。今は近くにいませんが……」

「近くに……? そうだ、巨影」

 ようやく晴れてきた思考の中で、未だ姿の見えない巨影を思い返す。

「どうなったんだ、俺が気を失ってから」

「それは……」

 ユーコの視線がふと、折り重なったコンテナの外へ向けられる。釣られるように見れば、彼女が口ごもるのも腑に落ちた。

「あまり見ない方が」

「ああ……そうだな」

 そこに()()()のは、俺を追ってきた黒服の彼らに間違いなかった。もっとも、()()()()はよく分からなかったが……明かりが無くて助かったと、素直に思った。

「こいつは、やばいタイプだな。今のうちに逃げるか」

「そうしたいんですが、ここからは無理そうです」

 その言葉に首を傾げ、恐る恐るコンテナの隙間から這い出る。

「なるほど。確かにこれは……」

 方舟の最下層、海面に接したフロア。しかし今はユーコが船に変身するスペースが無かった。

 かの巨影はよほど暴れたのか、黒服たちの船二隻は無残に破壊され、大小の破片がドックで波に揺られている。更には、このフロアに留め置かれていたと思わしきレイバーも、廃棄物同然の体で水面を埋めている。

「他の場所を探すしかないな。ちょっと怖いけど――」

 その時、甲高い風切り音の中に混ざった、数発の銃声を確かに聞いた。それはすぐ止み、再び嵐の気配に辺りは包まれる。

「……だいぶ怖いけど。もう行くしかないだろ、くそ」

「け、気配は教えるので、頑張ってください」

 一歩を踏み出した時、左足に走った鋭い痛みに思わず歩を止める。

「どうしました!?」

「ああツイてない、またかよ……」

 痛みに体を馴染ませると、気勢を籠めて立ち上がる。

「痛いけど、問題ない。気合だ気合、気持ちの問題」

 一歩ごとに確実に痛む足を引き摺りながら、方舟の奥へと向かう通路に差し掛かる。

 壁に背を着けながら先を覗き込むが、人の気配は無い。幅五メートルほどの薄暗い通路の奥に、金網越しの階段を発見した。

「巨影は?」

「近くにはいません。たぶん、あの黒い人たちを追って上へ行ったんでしょう」

 そう言われ見上げる。上階の足場でもある高い天井には、不規則に配管が入り乱れている。暗闇の中でテラリと光ったそれらが、妙に不気味に感じられた。

 緊張感に唇を舐め、壁伝いにゆっくり歩み出す。

「なあユーコ、巨影見たんだよな」

「はい。何と形容すべきか……」

 ユーコが事の顛末を語り始める。

 

 

 俺が気を失って間もなく、黒服たちの船も相次いでドックに乗り込んできた。十数人もの男たちが降り立ち、崩れ重なったコンテナを取り囲む。

 皆が目配せをし、一歩踏み出そうとしたその時。機雷が爆発するように水柱が立ち、巻き込まれた二隻の船舶が大破。唖然としてその光景を見ていた黒服たちの前に、二本の触手のようなものが海面から伸ばされた。

「な、なん……」

 先端に発光器官の付いたそれは、黒服たちを眺めまわしているようだった。奇妙な静寂を一間挟んだ後、その巨影――『廃棄物13号』は海面を割って突進してきた。状況を把握する間もなく、黒服の一人が巨大な顎に呑まれ、くぐもった悲鳴を上げた。

 赤みがかった光沢のある体は、中型のクルーザーほどの大きさ。ヤモリのような両生類らしい四足歩行の姿勢ではあるが、前脚だけ異様に発達しており、それだけで歩行していた。白い歯が並ぶ大顎を持つ顔に目のような器官は見受けられず、顎から伸びる触手のような髭がその役割を果たしているようだった。

 びくびくと痙攣する下半身を噛み砕きながら、その触手で恐怖に顔を引きつらせる黒服たちを眺める。ひっ、と誰かが短い声を上げ、皆が一斉に懐から拳銃を取り出した。統率無くバラバラな射撃となったが、廃棄物13号はまるで子どものような甲高い悲鳴を上げ後退した。

「近づけさせるなぁ! 撃退しろ!」

 脇に停められていたレイバーを薙ぎ倒してコンテナの影に隠れた13号だったが、動きは全く鈍っていないようだった。二段に積まれ並べられたコンテナが、黒服たちに向かって順に崩れ始める。コンテナの裏を通って接近する13号に、黒服たちは怖じ気づいた様子だった。

「おい待て! 銃は通じてるんだ、踏みとどま……!」

 唯一その場に残った彼の、最後の言葉らしい言葉だった。

 13号はコンテナを飛び越えて彼に襲い掛かり、突き出した両腕を銃ごと呑み込み、噛み千切った。先ほどまでの勇敢な姿は消え、彼は喉を枯らすような悲鳴を上げた。短くなった上腕を振り回して地をのたうつ彼の腹に、13号が喰らい付く。悲鳴に水音が混ざり、そして止んだ。

 こうなると、もはや立ち向かえる者などいない。黒服の男たちは我先に逃げ出した。

 しかし、食欲より狩猟本能が勝るのか、13号は逃げ惑う彼らを次々に襲った。踏み潰し、跳ね飛ばし、喰らい付き……

 あっという間に数人が犠牲になる中、他の者らは通路へと逃れた。 13号も()()()()()()()まま、彼らを追って通路へ入った。

 ユーコが見たのはここまでだった。残されたのは、幸運にも気を失ったまま発見されなかった俺と、物言わぬ人の残骸のみだった。

彼らがその後どうなったのかは分からないが、ユーコ曰く、銃声は数回聞こえたとのこと。

 

 

「 13号 ……いったい何なんだ、そいつは」

「……簡潔に言えば、ビオランテに近いです。隕石由来の物質に人間の細胞を掛け合わせた、人造生物です」

「また人間の仕業かよ。どうしようもないな、本当に」

 苦笑と共に嘆息する。人の業というものは全く度し難い。

 そうこう話していると、通路の最奥の階段に差し当たる。その手前の壁に方舟の見取り図が掛けられていた。

「ここが最下層……上のフロアから隣の区画に回って、そこから下へ、か」

「……遠いですね」

 この暗闇、巨影、手負いの体……その距離は遙かな道のりに思えて仕方なかった。

「 13号 は上にいます、確実に。お気をつけて……」

 こくりと頷いて、階段に足をかける。相変わらず、ずきりと痛んだ。

 

 

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