巨影を知らない都市   作:ギガンティック芦沢博士

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前回までのあらすじ

廃棄物13号の足止めをしつつ、方舟からの脱出を図る主人公たち。
階下への階段に行くため、留め置かれた無数のレイバーの足元を通る。
その時、運悪くレイバーたちが暴走を始めてしまい、回避しながら進む。
なんとか階段近くまでたどり着くが、13号に追いつかれる。
主人公があわやという時、イングラムに変身したユーコが13号を殴り飛ばした。


stage14:方舟の影、招かれざる獣 ⑥

 イングラムのコクピットは、その細身から推して知るべしと言ったところか、非情に窮屈だった。

 席に着くと、ジェットコースターのような安全バーが下りて上半身が固定され、それと同時にハッチが閉じられる。一瞬視界は暗転したが、すぐに多種多様のモニター・計器が稼働し始め、人工的な光がコクピットに満ちた。

「うおっ」

 イングラムが立ち上がる際の揺れに思わず声が漏れる。モニター越しの視界がぐんと上昇し、そこに廃棄物13号の姿が映った。暗視された視界の中で、体勢を立て直した13号は、歯を剥き出しにしてこちらを威嚇した。

「前に救出された時、一号機をコピーしておいて正解でした!」

「よくやってくれた! けど、これは……」

 眼前に広がる数多のスイッチ、計器類など、どれが何の用途を持つのかまるで分からない。今は左右の手すりに配置されたレバーを恐る恐る握っているだけだ。

「エヴァ方式でいきます。カメさんは動きをイメージしてください!」

「ああ、助かる!」

 以前、戦闘機の操縦の際にも使った手段だ。これで操縦に関しては問題ない。

 気持ちを眼前の怪獣に移す。13号はかなり警戒しているようで、イングラムの周囲を旋回しながら出方を見ているようだった。それに対し常に体の正面を向けるよう、足を動かす――イメージ通りにイングラムは動いてくれた。まるで自分の体を操っているようで、足裏が床を踏む感触まで伝わってくる。

 立ち込める静寂と一触即発の緊張感に唇を舐める。

「たしかリボルバーがあったはず。使える?」

「はい、右下腿側部に。取ってください」

 ガシャン、と脚部装甲の開く音が下方から聞こえる。以前二号機が川に転落した時のように、相手から視線を切らずに取り出そうとイメージをするが……しかし、イングラムの操作というものを俺はまるで理解していなかった。

 グリップを握ろうとするが、右手にそれらしい感触が無い。何度かまさぐるも空振りで、俺は思わず視線を落としてしまった。

 その一瞬の隙を突き、13号は突進を仕掛けてきた。気付いた時には眼前に赤みがかった巨体があり、咄嗟に腕を挟んだものの、激しい衝撃にイングラムは弾き飛ばされてしまった。

「うぐっ!」

 倒れた拍子に背中に衝撃が走る。エヴァのシンクロシステムを踏襲しているだけあって、若干の痛みが神経を通った。

「来ます!」

 しかし痛みにかまけている暇は無い。またもこちらに駆け寄る13号を見据え、ようやく握れたリボルバーを構える。上半身を起こしたまま射撃の姿勢を取り、すかさず発砲した。

 方舟に大音量の銃声が反響する。しかし素人のその場しのぎは当然のように13号には命中せず、配管ごと天井を破壊し白煙を噴出させた。

 ところが13号には充分な衝撃だったらしい。その場で反転し俺から距離をとると、フロア中を駆け回り始めた。

「いけるか……!?」

 立ち上がり、両手で握ったリボルバーを正中線に構える。機敏に動く13号(ターゲット)に照準を合わせようとするが、なかなか定まらない。

「落ち着け、同じようなことはあった……!」

 叔父のマンションにてバルタン星人と相対した際、借用していたリボルバーで銃撃した。その経験を活かせと自らに言い聞かせる。

 一発、二発と連射するが、床に天井にと外してしまう。しかし三発目を放つと、自身の腕前が着実に上がっていると実感できた。13号を掠めて奥の壁を破砕したのを見て、次は外さないとなぜか確信が持てた。

 その時、13号がこちらに向けて駆けてきた。直線の動きなど、自ら狙ってくれと言わんばかりの行動だ。極限状態にあって集中力を最大まで高めた俺は、惑い無く照準を合わせ――

「待って、撃たないで!」

 ユーコの叫びにトリガーを引く指が止まる。疑義を挟む間もなく、13号の突進を正面から受け止めることになり、がっぷり組み合う姿勢に陥る。お互いの膂力は拮抗し、状況は膠着した。

「なんで!」

「今、巨影の知識が浮かびました! 13号は凄まじい再生能力があって、飛散した肉片から新しい個体に分裂する可能性が!」

「なに!?」

「とにかく、銃はダメです!」

「キミ、銃なしでどうやって……!」

 やり取りの間も、13号は驚異的な馬力でイングラムを押し潰そうと圧をかけてくる。関節部が軋みを上げた。

「殴ってください!」

「だろうなっ!」

 右手を振り上げ、13号の頭部に銃床を叩き付ける。怯んだ13号の腹を全力で蹴り上げ、吹っ飛ばす。

 床に転がった13号を見定めながら銃を格納し、左前腕の盾の裏から警棒を取り出す。伸長させた警棒を振りかぶり、起き上がった13号に殴りかかった。

 13号の頭部を殴打するが、反撃となる右腕の一振りを腰に受けると、俺自身の同箇所に鈍い痛みが走る。

「っのやろぉ!」

 気合で誤魔化しつつまた殴り、殴り返され、再び組み合う姿勢になった。噛み付こうと伸ばされた13号の頭部を頭突きで迎え、額に眩暈がするような衝撃が走る。

「くそ、時間が無いってのに、こいつ……!」

 その時、乾いた破裂音のようなものがどこからか聞こえた。次の瞬間、フロアの中央に巨大な亀裂が走り、床がそちらへ大きく傾く。

「こ、これは!?」

「やばい、フロアごとパージされる!」

 方舟の破壊の手段としていくつか考えていたが、その内の一つがこれだ。方舟側に解体用のシステムがあれば、それはきっと()()()()()()だろうと踏んでいた。しかし、予想よりずっと早い。

 中央の亀裂へとフロア上のもの全てが滑り落ちていく中、運悪く俺が下側で13号の圧を受ける形になり、一気に押し込まれていく。

 その時、13号の背後から迫る()()が目に入り、咄嗟に腕を振りほどいて横に飛ぶ。13号は滑り落ちてきたレイバー、タイラントに激突し、共に亀裂へと転がり落ちていった。

 しかし一息入れる間もなく全身を浮遊感が襲い、天井が猛スピードで遠ざかっていく。つまり、“フロアごと海面へ落下していった”。

「うおあぁぁっ!」

「カメさん、衝撃に――」

 永遠に思える数秒後、激しい衝撃が全身を打つ。

 

「――カメさん!」

 ユーコの声が遠くに聞こえ、コクピット内でハッとして目覚める。どうやら一瞬気を失っていたようだが、すぐに立ち上がる。

 フロアの床はバラバラに砕け大小の破片となり、荒波に揺られ周囲一帯に漂っている。俺が立つのはちょうど大きな床板のようで、波の影響も比較的小さく済んでいた。

 見上げれば、上階の天井がかなり高い位置にあった。

「うかうかしてられん、あれが降ってきたら……」

「カメさん、まだ巨影の気配が!」

 ユーコが叫ぶと同時に、イングラムのカメラがそちらを向く。これは彼女の操作によるものだ。

 破片の合間の海面から姿を現したのは、大きな外傷も見受けられない13号だった。触手のような一対の髭はどうやら俺たちを発見したようで、13号の眼球の無い顔がこちらを向いた。

「来ますよ!」

 ユーコの声はその時、俺の耳に届いていなかった。俺の視線は13号の奥に漂う()()に向けられていた。

「ユーコ、銃!」

「え、はいっ!」

 今度は一発で銃を抜き出し、照準を合わせる。そこでユーコも俺の考えを読みとってくれたのか、イングラム側から照準のサポートをしてくれた。

 ふー、と長く息を吐き、集中力の高まりで一切の音が消えた瞬間、引き金を引く。鮮烈なマズルフラッシュと共に発射された超大口径の銃弾は、暗闇を切り裂き、13号の脇をすり抜け、“それ”へ――タイラントの冷媒へと直撃した。

 噴き出す白煙が見る間に周囲一帯を凍結させ、ほど近い位置にいた13号をも呑み込んだ。腹部から霜に包まれていく13号は、子どものような甲高い悲鳴を残して完全に凍結した。

 吹き荒れる暴風雨と狂い立つ波の音が帰ってきたとき、自らの荒い呼気もようやく自覚した。

「や、やった……」

「まだですカメさん、早く海の方へ!」

 喜びも束の間、まだ危機を脱したわけではない。イングラムで海上の破片から破片へと飛び移り、船に変身できる外周付近まで綱渡りで進む。船から船へと飛び移る、伝記の中の武士になったような気分だった。

 目的の外周部、破片の無い海面が見えてきたとき、レイバーの鋭敏なセンサーが、頭上から僅かに聞こえた軽い破裂音を拾った。見上げるまでもなく、周囲を広大なデッドゾーンが覆った。

「急いで!」

「急いでるっての!」

 慎重さを捨て破片を駆け抜ける。海面を蹴り進むような感覚で猛進し、最後の破片で特大のジャンプを行って宙に舞う。

 イングラムが海中に没するかというその瞬間、眩い光と共にユーコはボートへと姿を変え、嵐の海に荒々しく降り立った。

 一瞬の後、背後でフロアが落ちた。激しい衝撃が押し寄せ、一際高い波が俺たちを襲う。

「掴まって! 絶対、沈みません!」

 体を鞭打つ冷たい海水で返事もままならなかったが、彼女を信じ俺は必死に船体へしがみ付いていた。

 

 いつまでそうしていただろうか。ふと顔を上げると、嵐の中にそびえる方舟の影を見た。下方のフロアが切り離され、中央のメインシャフトのみが海面から伸びている様は、海上に伸びる大木のようにも見えた。

 俺は震える手でカメラを取り出し、その様を撮影した。果たしてうまく撮れているかはともかく、ここでシャッターを切らなくては一カメラマンとしての矜持が泣くと思った。

 当然、その一枚だけで撮影は切り上げ、後は陸まで必死に荒波に耐えるのみだった。

 

 ……どうやらまた気を失っていたらしい。目を開くと、眼前にコンクリートの壁があった。

「着きましたよ! もう大丈夫です!」

「あ、あり、がと……な」

 重い体を持ち上げ、船着き場との十センチ足らずの隙間を決死の思いで飛び越える。全身傷まみれで、体温も下がりきっていた。意識を保つのも辛いくらいだった。

「だ、大丈夫ですか? すぐ変身しますから、早く広さのある場所へ……」

 ユーコの声は聞こえている。言っている意味も分かるし、そうすべきだと自分でも思う。しかし体は言うことを聞かなかった。

 その場で蹲ったまま動けずいると、突然、強い光が俺を照らした。

「発見した。弱っているようだ」

「連行するぞ。他の班にも――」

 状況は分かっている。ユーコの叫ぶ声も聞こえている。しかし、どうしようもなく、俺は眠かった。“どうにでもなれ”などというぞんざいな精神で、俺は意識を手放した。

 




次回予告(NA:ユーコ)

ネルフ本部へと連行され、幽閉される主人公。
そこに襲い来る最強の使徒。
混乱に乗じ脱出した主人公の前で繰り広げられる、エヴァの戦闘。
男の闘い。
その時彼は、選択を迫られる。
次回『心のかたち、影のかたち』



ここ最近忙しかったのでstage14は一話一話短めになってしまいました。
完結に際して直します。
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