巨影を知らない都市   作:ギガンティック芦沢博士

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前回までのあらすじ

ネルフに連行された主人公は、ゼーレなる者たちの審問を受ける。
力の謎を明かし、ネルフとゼーレに協力しろとの要請を、主人公は一時保留とする。
白衣の女性と再会し言葉を交わす中で、自分の持つ力の有用性と、自覚なしにエヴァパイロットの子どもに闘争を課していた自らの愚昧を思い知る。


stage15:心のかたち、影のかたち ②

 足を組んでベッドに寝転がりながら、ユーコの声に耳を傾ける。

「カメさん、逃げたいならイングラムに変身することもできますよ」

 足首を二度動かし否定する。監視のある室内でのコミュニケーションだ。

 イングラムなら対人戦は問題ないだろう。しかし相手(ネルフ)は規模が大きすぎる。数々の強力な兵装、極めつけにエヴァンゲリオン。あの巨人が立ち塞がればそれで逃亡の道筋は閉ざされる。

 更に言えば、それに搭乗している()が気にかかって仕方がない。

「やっぱり迷っていますか」

 一度足首を動かし肯定する。

「あの子の助けにはなりたい?」

 また一度動かす。

「けどこのまま巨影を追いたい、とも思うんですね?」

 一度。彼女は俺をよく分かってくれる。

「確かに、悩ましい二択ですね……。最後に決めるのはカメさんですから、私が口を挟めることじゃないですけど……どうか後悔の無い選択をしてください」

 頷くように足首を動かすが、この選択はどちらにせよ多大な後悔を孕むものだ。

 それに……それだけじゃない。俺はユーコの存在が露見することを恐れている。

 ネルフの持ち得る知識、技術力は全くの未知数。これによってユーコに干渉される事があれば……彼女に危害が及ぶとしたら。そう考えると、俺は怖い。

 ユーコに背を向けるように寝返りを打つ。閉じた瞼の裏には、エヴァのコックピットで俯き震える、小さな背中が映されていた。

 

「さて、キミの答えを聞こう」

 翌日、再びゼーレとの面談に臨み、早々に問われる。

 周囲に浮く黒い板から冷たく、それでいて熱い視線を感じる。沈黙が重苦しかった。

 現実的に考えれば頷くしかない。俺の生殺与奪は結局のところ彼らが握っている。ここは本意ではなくとも一度頷くしかないのか。

 口を開きかけたその時、激しい警報が鳴り響くと共に、眩く照明が灯った。

『ただいま使徒現出を確認。総員、第一種戦闘配置。繰り返す――』

 男性オペレーターの声が大音量で響き渡る。

 目を開くとゼーレたちの黒い板は影も形も無く、上下左右全ての面が蛍光色の緑で覆われた、広大な部屋の中央に俺は居た。その様相はクロマキー合成用のグリーンバックを思わせる。

「間の悪い……女性に嫌われるタイプ、ってやつね」

 背後に控えていた白衣の彼女が愚痴るように言う。

 赤いベレー帽を被った男が二名入室し、こちらに駆け寄ってきた。両名共にサブマシンガンを装備している。

「私は行くわ。あなたは避難していて」

「避難って、俺を使わないんですか?」

「実験も済んでいないのよ。不安材料が多すぎる。現状あなたは、最後の切り札ってところね」

 それだけ言うと、彼女はヒールを高く鳴らして部屋を後にした。

 

 俺は両手を拘束された後、二人の警備員に前後を挟まれ廊下を進んでいた。

「目隠しはいいんですか」

「非常事態においては迅速な避難が優先される」

 先頭を歩く彼が事務的にそう答えた。

 窓もない無機質な廊下が延々続くネルフ施設内は、非情に息苦しく感じる。けたたましい警報が絶え間なく鳴らされており、時折すれ違うカーキ色の制服を着た職員と思わしき者たちも、こちらをちらりと見ただけで慌ただしく走り去っていく。

「ずっと上なんですが、巨影の気配がします。それも……かなり強力な」

 ユーコの言葉に眉をひそめる。強力な巨影――この場合は使徒か――とあれば、エヴァの苦戦は間違いない。果たしてあの少年は大丈夫だろうか。

 そんなことを考えていると突如、ネルフの施設そのものが大きく揺れた。立っていることもままならず、俺たちは床や壁にもたれ掛かった。

「攻撃か!」

 後方の警備員が声を上げる。廊下の照明が明滅し、天井からミシリと不吉な音が聞こえた。

 次の瞬間、天井の板が外れ降り注いできた。突然の事態にATフィールドの展開も間に合わなかったが、前方の警備員が俺を庇うように覆い被さった。

「カメさん!」

 ユーコに応えている余裕は無かった。轟音と振動が収まった後に目を開き、体に圧し掛かっている重みから逃れ、体を起こす。瓦礫に覆われた廊下は非常灯に切り替わっており薄暗く、動くものは無い。

 呻き声に気付き目を落とすと、二名の警備員は瓦礫の下で気を失っていた。

「おい、大丈夫か!」

 重い鉄板を持ち上げ怪我の程度を診るが、幸いにして両名共に深い傷は負っていなかった。庇ってくれたこともあって安堵の溜め息が漏れる。

 しかし、ふと思い至ってしまう。

「今なら……逃げられる、よな」

「……確かに今なら、ネルフもエヴァも使徒で手一杯ですよね」

 彼らの懐を漁れば、あっさりと手錠の鍵は見つかった。

「どうします?」

「……こいつは外す。でも、逃げるんじゃない」

 外れた手錠が床に落ち、俺は立ち上がる。

「まず没収されたカメラを探す。その後、使徒を()()()

「……凄くカメさんらしいと思います」

 彼女は笑って頷いた。

 失神している警備員の二人を見下ろし、ごめん、と短く謝罪して歩きだす。周辺に人影は無かった。

 

 時折すれ違うネルフ職員を隠れてやり過ごしながら、ユーコの記憶を頼りに元居た監房を目指す。俺から押収した物もその付近にあると推察した。

 果たして、カメラ等の俺の持ち物はあっさり見つかった。ユーコが次々に扉に頭を突っ込み、内部を確認してくれた。

「よし。次は使徒だ、なっ!?」

 また施設が大きく揺れ、俺はATフィールド展開の準備をする。幸い天井の崩落はなかっったが、衝撃そのものは強くなっているようだった。

「さっきより近い、か?」

「はい。巨影は今……真上と言って差し支えない位置まで降下しています」

「真上か……」

 思わず天井を見上げる。揺れに伴って、か細い埃の滝が降ってきた。

「そこまで行けるか? 道順覚えてる?」

「乗せられたエレベーターは、地上からここまで一直線でした。逃げるだけなら使えたんですけど……」

「じゃあダメか。ここから先は当てずっぽうだ」

 廊下の端を見据え呟く。階段でもあればいいんだが……

 

 またも激しい衝撃が廊下を揺らすと、ユーコがはっと顔を上げた。

「巨影が更に降下してきます……!」

「どこへ行けば!」

 答えを聞く前にそれは分かった。十メートルほど先のドアが開き、幾人ものネルフ職員たちが飛び出していく。彼らの顔は焦燥と恐怖を浮かべ、逃げ出してきたのだと直感させた。

 俺に見向きもしない彼らを押し退けつつ、『第一発令所』と記されたドアを潜る。そこは広大な空間だった。正面には超大型モニター、その下にはワイヤーフレームで描かれた3Dのマップが表示されており、俺が立つ中二階のような場所からはそれらが一目できた。

 サイレンが鳴り響く中、館内放送が必死に捲し立てる。

『総員退避! 繰り返す、総員退避!』

 しかし中二階にはまだ数人が残っており、中にはあの白衣の彼女もいた。

「来ます、正面です!」

 ユーコの言葉と同時にモニターにノイズが走り、次の瞬間、白い帯のような腕が壁ごとモニターを粉砕した。立ち込める煙と轟音の中から姿を現したのは――

「ゼルエル! 最強の拒絶タイプです!」

 黒い体表、ずんぐりとした体躯、胸には使徒特有の赤黒いコア。白い面のような顔は一見ひょうきんにも思えるが、巨大すぎる白い顔が中二階に接近し、そこに立つ者を見回す様は不気味としか言いようがなかった。

 俺も他の者も、たじろぐばかりで背を向けて逃げ出せない。そんな中、ゼルエルの両眼孔に光が灯り始める。収束するエネルギーを肌で感じ、先ほどまでの衝撃がこれによってもたらされたのだと何とはなしに理解した。

 眼孔の奥に覗く光を見据えながら、俺はシャッターを切った。既に逃れられないほどのデッドゾーンが中二階全域に広がっていた。

 無駄とは知りつつ、ATフィールドを展開するために構えた、その時だった。

 発令所の横合いの壁を破壊し現れた初号機が、ゼルエルの横顔を殴り飛ばした。

「エヴァ初号機!?」

 そこに乗るあの少年の姿が脳裏に浮かんだ。

 初号機は体勢を崩すゼルエルを押しやり、また側面の壁を砕いて向こう側に倒れ込んだ。

「ユーコ、立体軌道装置!」

「はい!」

 ユーコが変身すると同時に発令所の壁にアンカーを射出し、中空へと飛び出す。

「あなた!?」

 背後で白衣の彼女の声がしたが、答える余裕は無かった。

 今俺を動かすものは巨影への好奇心、そしてあの少年の力になりたいという、純粋な願いだけだった。

 




今回の選択肢

「どうします?」
①逃げる→直通エレベーターで地上へ。ステージ終了。しかしサードインパクト発生でゲームオーバー
②逃げない→更に選択肢
 ①ここで大人しく待ってよう→迎えは来ない。ゲームオーバー
 ②彼を助け撮影もする→本編通り
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