巨影を知らない都市 作:ギガンティック芦沢博士
ゼルエルと初号機の戦闘を撮影する主人公。
戦場は地下の巨大施設、セントラルドグマへと移る。
優勢の初号機だったが、突如エネルギー切れを起こし形勢が逆転。
主人公はパイロットの脱出の時間を稼ぐため、ドローンに搭乗しゼルエルの気を引く。
繰り出される攻撃を紙一重で躱し続けるものの、猛攻をしのぎ切れない。
あわやという時、覚醒した初号機がゼルエルに対峙し、その圧倒的な力で一方的な展開に。
倒れたゼルエルを食らい始める初号機。
主人公は初号機への恐怖と懐疑を抱えながら、その姿を撮影した。
咆哮するエヴァの撮影をひとしきり終えると、ユーコの変身するドローンは上昇し、ドームの頂点に空いた風穴へと進入した。
幾重もの装甲板が地中に埋められ、これが地下施設を守っていたようだが、ゼルエルの猛威の痕跡は凄まじく、この縦穴の壁面はことごとくが溶解、あるいは破壊されていた。
「ほんとに……初号機に意思が?」
「はい。『私に考えがある。彼を悪いようにはしないから、ここは手を引いてほしい』と。何か狙いがあるようです」
「彼……パイロットのあの子だよな。いったい何なんだ初号機って、エヴァって」
「……すいません、話せません」
ユーコの声のトーンだけで分かる。この疑問に答える気が無いという事と、俺が知るべき事柄ではない、という意思。
だからそれ以上の質問はしなかった。ただ内心で、パイロットの少年の無事を祈っていた。
やがて地上に近付くが、何か
「なあ、本当にもう地上なの?」
「体感ではそのはずですが……あれぇ? ちょっと自信無くなってきました」
「うーん、崩落でもして蓋ができたか……ん? ユーコ、ストップ」
プロペラの回転数が調整され、ホバリングに移る。
暗がりの中見えたそれに目を凝らす。
「……根っこ?」
「根っこ、ですね……?」
壁面から無秩序に伸びるそれは木の根にしか見えなかった。“遠近感が狂うほどに巨大な”という但し書きが必要だが。
「おいおい、なんだこのサイズ……樹齢千年じゃ済まない、っていうか、こんな木地球上にあったのか?」
根の一本だけでも、そこらの大木など歯牙にもかけないような太さがある。
「おかしいですよ。ゼルエルはあの光線でここを爆破して通ったんですよね? なぜ、
「確かに……?」
根の先端を目で追った時、信じがたいものを目にする。先端は確かに黒ずみ、焼けこげていた。しかしそれが目に見える速度で
「これは!?」
「まるで早回し――ってことは」
見上げると、壁面から伸びた根が徐々に伸びて密となり、この縦穴を塞ぎつつあった。
「やばい、昇れユーコ! 生き埋めになる!」
「はいっ!」
モーターが全力で鳴動し、プロペラが唸りを上げる。機体に膝を突いて上昇の圧に耐える。
迫り来る根の網を掻い潜り、最後はプロペラを一瞬擦らせながらも、俺たちは地上へと飛び出した。
「よし! 助かっ……」
「……え?」
俺もユーコも、脱出の喜びを超える衝撃に言葉を失う。ユーコが地に降り変身を解いた。
そこは確かに人の手の入った街、
しかし眼前に広がっているのは、天高くそびえる巨大樹の森だった。真っ直ぐに伸びる杉のような針葉樹。ただし、こちらが小人になってしまったのかと錯覚するほどに、それらはあまりにも巨大だった。空を覆いつくす枝葉が霞んで見える。
樹高は果たして、普通の杉の四倍はあろうか。かの超大型巨人を優に超え、ゴジラとも比肩しようかというサイズ感。幹もそれに比例して太く、一軒家が丸ごと収まってしまいそうだ。
そんな森が、街そのものを“呑み込んで”いた。木の根に地盤が侵食されたのか、五階建て程度のビルが大きく傾いている。中には直下から巨大樹に貫かれ、ほぼ原形を保っていないビルさえあった。アスファルトがあちこちで捲れ上がり、乗り捨てられた車が横転している。
どこかで鳥の鳴き声がする。視界内で動くものは、遥か頭上にて風に揺れ動く枝葉と、そこから差す木漏れ日だけで、周囲に人気は全く無い。
「なんだここ……!?」
「前にシャムシエルとエヴァが戦った街、に出ると思ってたんですけど……」
「そんなバカな! こんな森が短期間で……いや、できるのか?」
先ほど縦穴で見た、尋常ではない木の根の再生速度。あれに等しい早さで本体の巨大樹が成長するとしたら、確かに、一夜にして街を呑み込むこともあるかもしれない。
「それにたぶん、原因も分かります」
「えっ、なんで」
「私たちは知ってますよ。その契機となった戦いも直接見てるんですから」
「戦い? ……マナ。ガメラ」
そうだ、難敵マザーレギオンを倒すため、ガメラがやむを得ず使用した禁じ手。確か、ウルティメイト・プラズマ。甲斐あってレギオンは撃滅したが、その代償に地球の自然エネルギー“マナ”のバランスが乱れてしまった……という話を、コスモス姉妹から聞かされた。
「そう、恐らくこの巨大樹もマナの影響でしょう。完全に法外の代物です」
「なるほど……正直今まで、マナのバランス、なんて言われてもピンとこなかったけど……ようやく実感湧いたよ。ガメラも使わないわけだ」
カメラを構え撮影する。見ようによっては森林浴に来た登山客のようでもあるだろう。というより、俺自身少しそういう気分である。森に呑まれ廃墟と化した街は名状しがたい趣があり、澄んだ空気と小鳥の鳴き声はマイナスイオンを薫らせる。
一つ深呼吸をしてみる。湿り気のある苔の香り、とでも言おうか。
「カメさん、急にリラックスしますね……?」
「ああ。まあ、ある程度正体が分かったら余裕がね」
ひとしきり撮影を終え、カメラを下げる。
「さて、さっさとこの森から出ようか。木のせいでドローンは使えないけど」
その瞬間だった。肌を貫き臓腑まで突き刺さるような、何者かの強い“意志”がこちらに向けられたのを感じる。デッドゾーンとはまた違う第六感が全身を駆け抜け、強い悪寒に襲われる。カラスの群れがどこからか飛び立ち、警戒を露に鳴き喚いていた。
「カメさん、今の!」
「ああ、何かいる! この森のどこか、俺たちを狙う何かが……!」
周囲を見回すが、しかしそれらしい影は一つも見当たらない。
カラスの声が遠ざかると、ふと聞こえ始めた音……それは聞き慣れた重低音。圧倒的質量の巨体が発する衝撃は、天上を覆う葉を揺らしているようだった。
そしてまた音がする。発生源は僅かに、しかし確実に近づいていた。
「立体機動装置……は駄目か! こんな森じゃ」
「お言葉ですが、すぐ木に当たって死んじゃいますよ!」
「いや、まあ、そうだけど……!」
緊急時だけあってズケズケと言われる。確かに俺の腕前では木を避けて飛べそうにないけど。
「ドローンも駄目、車かバイクか……」
しかし地に這った巨大樹の根のせいで、道路の状態は最悪だ。隆起や陥没、ひび割れなどが随所に見られる。
そしてユーコが変身できる車種に、オフロードに対応できるものはない。
「この道を走れるような乗り物だ! どこか、ないか!?」
「あ、カメさんあそこ! バイクと馬です!」
「バイクと馬!?」
見ればそれは確かにバイクと馬だった。バイクは細身で車高の高いオフロード仕様。馬は艶やかな栗毛で逞しい馬体。なぜか鞍まで装着済みだ。
「いやなんで馬が!?」
「急いで選んでください! 追いつかれますよ!」
いくつものクエスチョンマークが脳裏で荒れ狂うが、状況は切迫している。
「いや馬なんか乗ったことないし……」
バイクを選ぼうとするが、栗毛の馬は穏やかな黒目で俺を見据えた。不思議と“俺に任せな”と語りかけているように、俺には思えた。
「馬ですか、悪くないですね。立体機動装置を付けたまま乗れば、すぐに脱出できます」
見つめ合う俺たちの姿から早とちりし、ユーコは既にその気だ。
「い、いや俺は……」
「ほらもっと力を抜いて! バランス悪いですよ!」
「そ、んな、余裕、無い、て」
「巨影の気配が後ろから。引き離せません! もっと急いで!」
「これ以上、むり!」
これが良い選択だったのかは一先ず置くが、足並み自体は順調だ。悪路もなんのそので快調に駆けるこの馬は頼もしい。
その時、頭上を通り過ぎる影がある。
「あれ、対巨人部隊です!」
「来て、たのか!」
二名の隊員がワイヤーとガスの噴射によって、木々の合間を縫うように飛び去っていく。向かう先は俺たちの後方、巨影の気配の方向だ。
「巨影は、巨人、か!」
「おそらく! けど……止められないようです」
その後も数人の隊員が飛び往く様を見送ったが、巨影の気配は絶えず、むしろ距離を縮められつつあった。
以前、巨人が出現した街で対巨人部隊員の戦いは見届けた。皆人間とは思えない動きで巨人を屠っていたが、その彼らでさえ足止めも叶わないのか。
その時、ユーコが息を呑んだ。
「気配が、滲んで……!? 見失いました!」
「なに!?」
俺の言葉に被せるように、また衝撃音が鳴り響いた。
それもかなり近く、予想より遥かに!
ふと、ビルの合間に何かが見えた。ほんの一瞬だったが、網膜に残った像は……巨大な人の形をしていた。
「カメさん、覚悟をしてください。次、
ユーコの声に緊張が滲む。
馬を直進させつつも背後に目をやり……長い静寂の後、森の中から一人の隊員が飛び出してきた。彼は振り返る姿勢で飛んでおり、その目はきっと、背後から迫る何者かを探していた。一瞬の間の後――
「なっ……!」
巨人は木々の合間を回り込んで、一気にこちらへ駆け寄ってきた。横合いの大樹を粉砕し、俺たちの真後ろを紙一重で通過する。その一瞬、俺を見下ろす巨人の目に怜悧な知性を感じた。それがなお一層、恐ろしかった。
勢い余った巨人は木を掴んで体勢を立て直し、俺たちの背後をとって追走を始める。一歩一歩の振動が馬体と空気を通して如実に伝わった。
巨大樹の影が落ちる森の中で、その目だけが鋭く光っていた。
今回の選択肢
「急いで選んでください! 追いつかれますよ!」
①バイク→グランゼーラ特有の異様に扱い辛い操作性。罠。
「俺にバイクを渡すなんていい度胸だ!」「カメさん!?」
②馬→意外にも扱い易い。なぜここに馬が? マナだよマナ。