巨影を知らない都市   作:ギガンティック芦沢博士

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前回までのあらすじ

セントラルドグマから地上へ脱出する二人。
地上の街は異常に発達した巨大樹に覆いつくされていた。
そこに現れた巨影の気配。
丁度良くそこにいた馬に跨り逃げるが、距離を詰められる。
そして現れたのは、女性のような体躯の巨人だった。


stage16:追走する女型の影 ②

「なんだ、こいつ!」

「分かりません! 巨影の知識では『女型の巨人』とだけ!」

「女型、女……!?」

 確かに、肩まであるブロンドの髪に始まり、胸部には乳房のような器官、プロポーションも見るからに女性的だ。それが威圧感を緩和するわけでは全くないが。

 女型の巨人は流麗なフォームで木漏れ日の下を駆け、着実に俺たちと距離を縮めつつある。一歩一歩、伝わる振動が背後に迫り来る。

「部隊の人が!」

 ユーコの声に振り返る。二人の部隊員が白煙をなびかせ、女型の背後へと迫っていた。

 彼らがブレードを構えアンカーを発射する。しかし女型は伸ばされたワイヤーを掴み、一方を大樹に叩き付け、もう一方はぐいと引き寄せて叩き落した。全ては一瞬の出来事だった。

「ワイヤーを……!? あいつ、やっぱり知性がある!」

「しかも、標的は完全に……!」

 揺れる前髪の間から女型の目が覗く。不気味な光を湛える碧眼は、走りながらでもこちらをじっと見下ろしていた。

「立体機動に移りますか!」

「せめてもう少し、引き寄せてから!」

 俺の技量では逃れるどころか、この森でまともに飛べるかも怪しい。しかしそれ以上の機動力など無いのだから、最後には覚悟を決めなければならないだろう。

「あと二十メートル!」

 振動が徐々に近づく。背中の産毛が焼けこげるような、強烈な意思を感じる。

「十メートル――右に巨影!」

 ユーコが巨影を感知し叫ぶ。その瞬間、横合いのビルのガラスに無数の亀裂が走った。

 咆哮と共にビルの壁面を砕き、一体の巨人が女型へと飛び掛かった。二体の巨人はもつれ合い、激しく土煙を巻き上げて転がる。

「あれ、前に街で見た!」

 ユーコの言葉に思い出す。巨人の出現した地方都市で、ビルから落下し動けなくなった俺の前に現れ、次々に巨人を屠っていったあの謎の巨人。筋骨逞しく均整の取れた体と、耳元まで大きく裂けた口が特徴的で、その姿は女型と比較すれば“男型”とも呼べるだろう。

 馬の歩調を緩め二体に振り返る。引き倒された女型は男型を押しやるように蹴り飛ばし、二体は距離をとって立ち上がった。

 男型の巨人が咆哮を上げながら駆け寄り、大きく振りかぶるアッパーカットを繰り出す。女型の巨人は素早い足さばきでそれを難なく躱し、強烈な前蹴りを腹部に突き入れた。男型はそれに押され、二体の巨影がこちらへと迫り来る。

 カメラを構えようとしていた俺は、焦って手綱を握り直した。

「うおっ!」

 馬が避けた後を二体が横切っていった。凄まじいまでの地響きが馬体を通し伝わってくる。

 男型が踏みとどまり拳を振るうと、女型は最小限のスウェーでそれを避け、大きく距離をとった。

「カメさん、どうします! このまま撮影するんですか!?」

 ユーコに問われ一瞬の逡巡が生まれる。逃げた方がいいとは分かる。しかし推定ではあるが、味方と言える男型が負けるとは限らないし、本心を言えば二体の知性ある巨人の戦闘を撮り逃したくない。

 悔いなき選択はどちらか――考え、答える。

「続行! 木の上に行こう!」

「はい!」

 分かっていた、とばかりにユーコが返す。

「お前も逃げろよ、ありがとうな」

 栗毛の馬の首を撫でれば、まるで返事するように彼はいなないた。

「よし、頼む!」

 鞍の上に一瞬立ち上がると、ユーコが立体機動装置のアンカーを射出させる。そして俺たちは巨大樹の幹を昇って、枝……と言うにはあまりに太い、その枝の上に降り立ち、二体の巨人へ向けカメラを構える。二体のつむじまで窺えそうなアングルだった。

 睨み合いを続けていた女型と男型。張りつめた空気の中、先に動いたのはやはり男型だった。しかし今度は勢い任せの突進ではなく、ガードを上げた上でのインファイトを仕掛けた。次々に繰り出されるジャブ、フック、ストレートといった拳打。

 対する女型も腕を大きく上げる構えを取り、その拳を受け止め、いなし、躱し続ける。

「すごい……」

 ユーコが誰にともなく呟く。彼らの巨体からは見合わない目まぐるしい攻防、高度な格闘術の応酬。気付けば俺も熱い息を吐きながらその戦局を撮り続けていた。

 状況が動かしたのは女型の繰り出した鋭いローキックだった。一瞬ではあったが、脛の辺りにダイヤのようなコーティングが出現し、それによって男型の片足首を切断したのだ。

 男型はたたらを踏んで後退し、片足だけでかろうじてバランスを保つ。

「今一瞬、脛の辺りが」

「あれは硬質化という能力です。ああして攻撃にも防御にも応用できます」

 ユーコの解説する通り、殴打が斬撃に変じる程の効果を生むようだ。

「あの格闘術にそんな能力なんて、反則だろ。男型にも何かないのか」

「男型は……まだ何も読み取れません」

 その時、男型が片足だけで大きく跳躍した。覆い被さるように迫る男型に対し、女型は件の構えから大上段のハイキックを繰り出した。

 凄まじい衝撃に木々の葉が揺れる。そんなものをモロに顔面に喰らった男型は吹き飛ばされ、大樹に背中を強く打ち付けて座り込んだ。舌をだらりと垂らし、ピクリとも動かない。

「あ、これ……まずいか?」

 そんなもの言わずとも分かるだろうに、思わず口に出た。

 残心を解いた女型がこちらに歩み寄る。

「ま、待てよ、登れないだろきっと……」

 そんな一縷の望みを持ってみるが、女型の巨人は俺たちの立つ大樹に、硬質化させた指を突き刺し登り始めた。激しい揺れにしゃがみ込む。

「ま、まあ正直分かってた!」

「どうしましょう!?」

「どうするって、逃げるしかないだろ立体機動で……!」

 自らの技量に多大な不安は残るが、そうするしかない。

 覚悟を決めた時だった。ぞくりと、体を貫く熱気と悪寒。それはあまりにも明確で、強烈な……殺意。

「変わっ、た」

 ユーコが強張った声でつぶやく。真下まで迫り来る女型のことも忘れ、俺はその方向を見やる。しかしそれは女型も同様で、木の幹にしがみついたまま、顔だけ振り返っていた。

 男型の巨人が()()()()()。体表に走ったヒビのような亀裂からは炎と煙が漏れ出し、全身に火の粉をまぶしたような、それは焔の化身と言って差し支えない姿だった。

 片足も無いままに獣の如く駆け出し、大樹を登る女型に飛び掛かる。背中から抱き着くような形になると、肩口に深く喰らいついて血を噴き出させた。

 ここにきて初めて、女型の巨人が叫び声を上げる。それは驚愕か痛み、あるいは双方か。

「この熱っ!」

 大樹が激しく揺さぶられる中、凄まじい熱気が男型から吹き上げてくる。

 男型が更に深く噛み込むと、女型の指がとうとう大樹から離れ、二体は数十メートルを落下して激しく土煙を立てた。

「なんだよ、あれ」

「私にも……」

 女型が素早く立ち上がり、大樹を背にして構える。森全体に響き渡るような、衝撃的でおぞましい叫びと共に、砂煙の中から男型が現れる。既に拳を振りかざした状態で。

 女型の腹部に全力の拳が叩き込まれる。一瞬視界がぶれるほどの激しい衝撃が吹き荒れ、女型の体は巨大樹をへし折って高々と舞い上がった。

「うおあぁぁっ!」

「カメさん!」

 その衝撃で中空へと放り出され、浮遊感に襲われる中、立体機動装置によって体勢を立て直し、俺たちは別の大樹の枝へと移る。

 見下ろせば、男型が女型に馬乗りになり、拳を振り下ろす場面だった。抵抗も無い女型に撃ち下ろされた鉄槌は、女型の肩から首にかけてを完全に粉砕した。血しぶきを上げて腕が吹き飛び、首が宙に舞う。

 そのあまりに凄惨な光景を、震える指で写真に収める。繰り広げられる圧倒的な暴力は、暴走したエヴァ初号機を彷彿とさせた。

「なんなんだよ、こいつは、こいつらは」

「に、逃げましょう、今のうちに。分からないからこそ、“あれ”から離れるべきです……!」

 ユーコが巨大なドローンへと変身する。

「木が倒されたおかげで、枝葉に隙間ができました。今なら」

「ああ。これ以上は……」

 ドローンに搭乗し、枝葉の合間から上空へと抜け出す。

 その最中、眼下の男型の巨人が咆哮した。その声は怒り、憎悪、復讐……あらゆる負の激情を表しているようで、俺はぶるりと身震いした。

 




ネタバレできない作品は本当に呼称一つとっても困る



今回の選択肢
「カメさん、どうします! このまま撮影するんですか!?」
①する→本編通り
②しない→ステージ終了。RTA以外非推奨
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