巨影を知らない都市   作:ギガンティック芦沢博士

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前回までのあらすじ

女型の追走を振り切れず、追いつかれそうになる主人公たち。
そこへ地方都市にも現れた男型の巨人が現れ、女型と戦闘を開始する。
攻防のすえ女型が打ち勝ち、主人公たちに再度迫る。
その時、男型が変貌し女型に襲い掛かり、形成を完全に逆転させる。
男型の姿に怯えながら、主人公たちは森の上空へと逃げだした。


stage17:影重なりて紡ぐ物語 ①

 巨大樹の森は相当な広域に渡って人類文明を覆いつくしていたが、まるで切り立った崖のごとく唐突に、それは終端を迎えた。森を抜けた先はごく普通の住宅街だったが、そびえ立つ巨大樹と比較するとミニチュアのようにも見えてしまう。

「……誰も居ないな」

「そうですね。森の出現で避難してるんでしょうか?」

 適当な公園にユーコの変身するドローンは降下し、元の姿に戻る。公園内にも人影一つ見当たらない。小鳥の声がするだけだ。

 ふと見た砂場に、子どもが忘れていったのだろうか、砂遊び用の小さなバケツやスコップが置き去りにされていた。砂場の傍には女性用と思わしきハンドバッグが転がっている。

 見渡せば、赤ん坊のいないベビーカーも水飲み場付近に置かれている。

「……なんか、おかしくないか」

「え?」

「避難指示が出ても、こんな何もかも置いて逃げるか? しかも巨影が出たわけでもなく、ただ森が現れただけで」

「確かに……でもそれを“ただ”で片づけるあたり、もう普通の感性ではないですね」

「うるさいやい。しょうがないだろ普通じゃないモノ追ってるんだから」

 苦笑を漏らすが、心持ちは警戒で引き締まった。

 

 その後、雲模様が怪しく陰る中、バイクを駆って町を探索した。大通りから駅前にかけて見て回ったが、異常は如実に表れていた。

「避難じゃない。消えてるんだ」

 それは確信だった。ドアが閉じられたまま乗り捨てられた路上の車は、エンジンも切られていない状態が多い。事故はそこかしこで発生しているが、それによる乗員の負傷の跡もない。衝突実験のように、ただ車だけが破損していた。

 動く物のない道路で、信号灯だけが無言を貫き働いている。

 本来は賑わっているだろう駅前は更に顕著だった。バッグ、飲料の容器、路上ライブの看板とギター……そういったものが四方に散乱し、まるで今さっきまでそこに人がいたような、奇妙な生活感のある空虚だった。

 ギターを拾い上げて花壇の端に座り、適当に鳴らしてみる。どうやらチューニングは合っているようだ。

「突然消えたんだ、神隠し的に。そうとしか思えない」

「でもそんなこと何者が? それに消えた人たちは……」

 その時、携帯に着信があった。心臓が止まるかと思った。

「叔父さんか! よかった、少なくとも全人類が消えたわけじゃないな」

 画面に映された“大塚秀靖”の名に安堵しながら応答する。

『おい今までどこに居やがった! 何度も掛けたんだぞ俺は!』

 しかし耳をつんざいたのは不機嫌そうな大声だった。

「いきなり怒鳴らないでよ。ちょっと、あー、地下?」

 ネルフに誘拐されてました、との報告は何となく避けた。

『地下ぁ? まあいい、お前知ってるか? 一つの街から根こそぎ人が消えたんだよ。こいつはクサいぜ』

「ああ、うん、知ってる」

『なら言いてえことは分かるな? 行って確認してこい! つっても早い段階で規制線が張られたからな。今から忍び込むにゃあ苦労するだろうが……』

「あー、それなら大丈夫。いるんだ、その街に」

『……あ?』

 

 叔父は狂喜といった様相で笑っていた。

『お前という奴は、やけに運があるというか! お前の行く場所に巨影ありだな!』

 そして改めて俺に撮影と調査を命じたわけだが……三十分後、俺は河川敷の土手に座り込んでいた。対岸の街並みを眺めながら溜息をつく。

「なーんもね……謎のとっかかりも巨影の影も、どこにも」

「どうなってるんでしょうね」

 空は相変わらず曇天の様相だし、風は生ぬるく湿っている。雨が降るのだろうか。

 気持ちをそのまま表したような天気だ、と草をむしりながらぼーっと考えていると、上空から衝撃音が遠く響いた。

「ん?」

 見上げれば、遥か上空で二つの人影が交錯していた。

「人……いや!」

「巨影ですよ! 気配は三つ、いや四つ!」

 上空に目を凝らせば、影は三つだけ。一つの影が素早く移動しながら、二つの影を相手取っているようだ。

「もう一体は!」

「……後ろ!」

 振り返る間もなく、俺の頭上を巨大な人影が通過した。押し付けるような強い風に、河川敷の草木がなびく。

 青と銀色からなる巨人、その姿は一目で思い出した。

「ウルトラマン、コスモス!」

 コスモスは川面を激しく波立たせて上昇し、上空の戦闘に加わった。

「ユーコ、ドローンだ!」

「はい!」

 土手の坂を駆け下りながら、ドローンに変身したユーコに飛び乗る。ドローンは一瞬沈んだ後力強く上昇し、川を越えて上空の戦闘を追った。

 ビル街に入ったところで戦闘は激しさを増し、戦場は徐々に地上へと近づきつつあった。その段階に入って初めて、他の巨影の姿が見えてきた。

「ウルトラマンゼロ!」

 一体は以前、港町において遭遇したウルトラマン、ゼロ。赤と青の体表、鋭い目つきと一対のスラッガー。

「あっちは……?」

「あれはウルトラマンダイナ! 熱い爆発力を持ったウルトラの戦士です!」

 ゼロと雰囲気は異なるが、体表は銀に赤と青が差し込まれた配色。頭部のトサカのような器官は前にせり出す形状で、セブンのそれに近い。

 新たなウルトラの戦士に心が躍るが、それは一瞬で塗りつぶされた。彼ら三人のウルトラマンに敵対する巨影は、見ただけでゾクリと粟立つような異形だった。

 黒を基調とした体表に、黄色く発光する器官が顔や胸部の各所で鈍く点灯している。触角の生えた頭部に顔はなく、その器官だけが不気味に発光している。

 それは翼と尾を翻し、三重に迫りくるウルトラマンの攻撃を躱し続ける。打撃が当たろうかという瞬間には別の場所に瞬間移動し、逆にカウンターを仕掛ける。それを繰り返しながら三人のウルトラマンに着実にダメージを与えていた。

「ハイパーゼットン、人々の恐怖や絶望を糧に成長する、滅亡の邪神……!」

 ピポポポポ、という奇妙な音を発し、ハイパーゼットンの姿が消える。

「上です!」

 ユーコの声に反応し、ウルトラマンたちと共に俺も顔を上げる。直上に位置取ったハイパーゼットンに対し、ウルトラマンはすかさず光線を放った。色とりどりの三本の光線が去来する中、ゼットンは前方にブラックホールのようなものを形成し、光線は全てそこに吸収された。

 そして光線のエネルギーを全て反射させたように、赤黒い光線が幾筋も、まるでシャワーのようにウルトラマンたちに降り注いだ。

 三人の体からスパークが弾け、彼らは痛みに声を上げる。広範囲に渡る反射光線は街にまで降り注ぎ、ビル街の中央が次々に爆破され、一つの巨大な炎に呑まれた。

「熱っ!」

 距離があったため巻き込まれずに済んだが、吹き荒れる熱風にドローンが大きく揺れた。

「着陸、します!」

 ユーコは咄嗟に下降し、俺たちは近場のビルの屋上に着陸した。

 低く伏せて熱風をやり過ごす中、意地で構えたファインダーの向こうで、ウルトラマンたちが爆心地へと落下していくのを捉える。熱風が完全に止んだ瞬間、激しく地を揺らし、三本の土煙が巻き上がった。

 追撃、というにはあまりに鷹揚に、ハイパーゼットンも地上へと降下してきた。ウルトラマンたちは必死に立ち上がり、地上戦を仕掛ける。

 まず殴りかかったのはゼロだったが、彼が振るった拳は空を切った。背後に転移したゼットンの殴打に素早く反応し腕で受け止めるものの、威力を殺しきれず吹き飛ばされた。

 コスモスとダイナは同時に仕掛けた。息の合った連携で流れるように攻撃を仕掛けるが、ゼットンの瞬間移動はその速度をも上回り、コスモスを背中から強打する。

 ダイナは背後に転移したゼットンに対し、予知にも近く後ろ蹴りを繰り出すが、ゼットンはそれすら躱してみせた。そしてダイナが姿を見失った一瞬の隙に再び背後に回り、強かに殴り飛ばす。

 その時、ゼロが不意打ち気味に飛び出し、足を発火させながらの飛び蹴りを仕掛けた。ゼットンは不意を突かれたのか転移こそしなかったものの、円柱状のバリアを自身の周囲に展開し、それを受け止めた。

 二体の衝突に大気が震え、エネルギーの奔流が激しい瞬きを放つ。ゼットンはそれを放つようにバリアを弾けさせ、ゼロを吹き飛ばした。

「ああ!」

 ゼロが地に倒れる。コスモスもダイナも、もはや立ち上がることさえできそうにない。

 ハイパーゼットンは鷹揚に首を回し、また件の鳴き声を上げた。その姿は余裕を見せつけるようで、俺は一人拳を握りしめた。

「ウルトラマン三人でも敵わないのか……!」

 ウルトラマンたちのカラーランプはとっくに点滅を始めていた。そしてまずダイナが光の粒子となって消滅し、間もなくコスモスも同様に消えた。

「ダイナ、コスモス……」

 ユーコの声が悲壮に、彼らの名を呼ぶ。

 最後に、ゼロのランプの明滅が徐々に弱まり……そして止んだ。彼もまた光となって、溶けるように消えていく。

 ハイパーゼットンは笑うように鳴いた後、ゆっくりと上昇していく。重く垂れこめる曇天に昇るその姿に思わず呟く。

「滅亡の、邪神……」

 まさにその名に相応しい有り様。ウルトラマンという希望を打ち砕かれ、思えば俺はこの時、絶望に蝕まれかけていた。

 ユーコだけが違った。ユーコはこのとき手を組んで、ただ祈り信じていた。彼女の呟きだけが強く脳裏に焼き付いている。

「諦めないで」

 次の瞬間、彼女の体が光を放った。

「ユー、コ……!?」

「これは……!?」

 ユーコ当人もその光の正体を理解はしていない様子だったが、しかし直感的に悟ったのだろう、確信めいて頷いた。

「これが、私にできることです。きっと、届く……!」

 ユーコは強く目を瞑り祈り続けた。その光は指向性を持って放たれて、ウルトラマンたちが消滅した地点へと降り注いだ。温かく慈しみに溢れた力を、俺はその光に感じ取っていた。

 その時、脳裏に響くような声が三つ重なり、勇気に溢れる様相で叫んだ。

『本当の戦いはここからだ!』

 街を光が包み込んむ。まるで竜巻のように溢れ出した光の渦が、上空のハイパーゼットンを地へと叩き落した。

「あれは……!」

 七色の光の渦が、人の形をとっていく。そして顕現したのは、虹色の光の巨人だった。

 全身が七色に光り輝き、その姿は陽炎かオーロラのように揺らぎ、滲んでいる。不明瞭な存在にして、絶対的、唯一無二の立ち姿。

 ユーコは目を開き、ほほ笑んだ。

「三人のウルトラマンの心が一つになって生まれた、奇跡の戦士……ウルトラマンサーガ」

 サーガは静かに、そこに立っていた。その姿があるだけで、俺に内在していた絶望は霧散したように感じた。

 

 




本当は幼虫型も出したかったんですけど、体長三百メートルともなると今後ゴジラとかが相対的に小さく見えそうなのでやめました。
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