巨影を知らない都市 作:ギガンティック芦沢博士
巨大樹の森を抜け、街へ降りる主人公たち。
しかしその街は、突如として全住民が消失するという怪現象に見舞われていた。
方々を巡り調査する最中、街の上空に現れた三人のウルトラマン、ダイナ、コスモス、ゼロ。
彼らを歯牙にもかけず打ちのめす、ハイパーゼットン。
ウルトラマンたちの勝利を信じるユーコから謎の光が放たれ、それを浴びた三人の影は重なり、ウルトラマンサーガと化した。
ウルトラマンサーガが輪を描くように構えをとると、全身から溢れ出していた光が収束し、より明瞭な姿があらわになる。
青系と赤系のグラデーションから成るその体は、まるで結晶体から光が漏れ出しているかのように武骨で、それでいて神々しいものだった。カラータイマーとは違うが、結晶の無い開けた胸部には、青い光が淡く灯っている。
ハイパーゼットンが立ち上がり、二体は向かい合う。俺がカメラを構えて息を呑んだ、瞬間。
サーガが虹色の光を残して消滅したと思うと、一瞬にしてゼットンの眼前に現れ、飛び蹴りを見舞った。これまで実体の存在すら疑われたゼットンがたたらを踏む。
「よしっ!」
「すごい、サーガも瞬間移動を!」
サーガはゼットンの背後へ再び瞬間移動したが、ゼットンもただでは起きず、サーガの攻撃を振り返らないまま片腕で受け止めた。
二体はそのまま近距離での攻防に移ったが、その速度たるや、かの巨体に残像が見えるほどのものだった。
かと思えば、次の瞬間には二体とも別の場所へ瞬間移動する。それをファインダー越しに必死に追えば、また二体の姿が掻き消えた。
「くそ、早すぎて追いつけん!」
仕方なくカメラを下げて見回せば、二体は細かい瞬間移動を繰り返し、街中のあらゆる場所で拳を交わしていた。
突如、ほぼ眼前と言える位置にまで二体が現れ、その迫力に思わず尻もちをつく。
「うおぁ!」
サーガが拳を振りかざすとゼットンの姿が消え、サーガの後方、距離を置いてビルの上に現れる。
「サーガ、後ろ!」
ユーコが叫ぶ。サーガは空手の残心のようにゆっくりと構えを解いている。
ゼットンが胸から赤い熱球を発射すると、サーガも胸部より青い光球を作り出し、素早く反転して熱球にぶつけた。両者間における膨大なエネルギーの衝突は激しい爆発を巻き起こし、熱風がビルの合間を駆け抜ける。
「ぐっ!」
熱に耐えるべく身を庇ったが、俺たちの前に立ったサーガがそれを防いでくれたようで、熱や風などほぼ感じなかった。逆にゼットンは足場としていたビルが崩壊し、大きく体勢を乱して着地した。
ゼットンは苛立ちを隠せない様子を見せ、翼を広げ上昇していく。それを追ってサーガも飛び立ち、二体は空中戦へと突入した。巨体に見合わぬ速度で縦横無尽に上空を飛び回り、何度も交錯してはその衝撃に暗雲が揺れる。
「どっちも退かないな、一歩も」
その様子を撮影していると、ユーコが声を張り上げた。
「カメさん、あそこ! 人が!」
「なに!」
屋上の柵に身を乗り出し、ユーコの指さす方に目を凝らすと、瓦礫の中に倒れる人影を見つけた。
そこにいた三名は、迷彩服を着こんだ自衛隊員だった。
「おいあんたら、大丈夫か!」
揺さぶってみるが呻き声を上げるだけで、目を覚ます気配は無い。
「生きてはいるか……肝を冷やしたよ、この血には」
彼らの寝転ぶ一帯には、おおよそ人間の致死量を上回るであろう、多量の血痕が広がっていた。まだ乾いていない血の池を見た時は本当に血の気が引いた。
「でも無傷だな。いったい誰の血だ?」
「……カメさん、彼らの中にサーガの気配を僅かに感じます」
ユーコの言葉に驚き、彼女を見上げる。
「おそらく、この血は彼らのものです。戦いの余波に巻き込まれて死にかけていたのを、サーガの変身時のエネルギーに当てられ蘇生したんです」
「そいつは……すごいな。しかしこの人ら、なんでこんな所に」
その時、一人が苦し気な声を上げた。
「おい……誰か」
「あ……はい、大丈夫ですか」
「作戦は……どうなった、あの黒い怪獣は……」
「作戦?」
どうやら意識が混濁しているようで、俺が単なる民間人という事にも気づいていないようだ。
「怪獣は健在、今ウルトラマンと戦ってます」
「そうか……ちっぽけだな、人間は」
彼は自虐を込めた笑みを浮かべる。その言葉を散々に痛感している俺も、否定の言葉は出なかった。
「カメさん、これ」
彼の握っているものを指すユーコ。
「対巨大不明生物、作戦要項……?」
「おい、これを……受け取ってくれ」
彼が唐突に押し付けてきたものは、プラカバーに覆われたスイッチが一つだけの、シンプルなリモコンだった。
「これは?」
「まだ……できることが、あるはず……頼む」
彼の体から力が抜ける。息はあるがしばらく目を覚ましそうにない。
「頼むって、これ何なんだよ」
「それ、読んでみませんか?」
「作戦要項……どれ」
彼の手からそれを引っ張り出し、ざっと目を通す。
上空から二体の激突する音が度々響く。そんな中、俺の目は驚愕に開かれ、口元はひくりと吊り上がっていた。
「おい、正気かよこいつら……!」
「こ、これどうしましょう?」
「……ひとまず保留。まず三人とも屋内に」
自衛隊員らを何とか屋内に避難させると同時に、激しい振動が二度、建物全体を軋ませた。
急ぎ表に出れば、ゼットンとサーガは再び地上に降り立ち向かい合っていた。
何を言わずともユーコはドローンに変身してくれて、俺たちは戦いを見渡せる位置に陣取った。
サーガがゼットンへと駆け出す。もはや瞬間移動も用いないのは、互いにそれが決定打を与えるに足らないものだと悟ったからだろう。
ゼットンが数発の火球を放つと、サーガは横っ飛びでそれを躱し、素早く身を起こして光輪を投擲した。
ゼットンはそれをブラックホールのような空間に吸収し、自身の光線に変換して反射する。
すかさずサーガも光球を放つ。二体の間でエネルギーが拮抗し、爆発を引き起こす。その衝撃によって彼らの巨体も後退を余儀なくされた。
「うおっと!」
熱風が押し寄せ、カメラから手を離しドローンの取っ手を掴む。
顔を上げると、ゼットンが爆煙の中から飛び出し、低空飛行でサーガへ突進する瞬間だった。
同時に駆け寄ってくるサーガに対し、ゼットンは飛行しながら火球を放つ。それは飛来中に分散し、無秩序に街を破壊していった。
火球は運悪くこちらにも飛散し、デッドゾーンが俺たちのいる位置を貫通した。
「やばいっ!」
ユーコ変じるドローンに全力で体重をかけ、すんでの所で避ける。まるで灼熱の太陽が真横を通ったように、顔の産毛が一瞬でヒりつく。
サーガは一撃も食らうことなく、彼もまた低空飛行に移行し、そして両名は空中で激しく衝突した。
これまでにない規模の爆発が発生し、街が炎の赤色に覆われる。
「凄い……けど」
煙が晴れると、二体は未だに無傷のまま健在であり、再びゆっくりと向かい合った。
「やはり決定打に欠けます……カメさん、やはりここは」
「ほ、本気でやるのか、
「今しかありません! この膠着を打破する一手を!」
一つ息を吸い、深く吐く。
「サーガの近くに」
「はい!」
これから彼を、まるで現実離れした虚構のような作戦に巻き込まなくてはならない。
サーガの後ろ姿が近づく。頭部の突起はまるで王冠のように見えた。
「聞いてくれー!」
俺の絶叫に、彼の意識がこちらに向いた気がした。
「俺たち人類はみんな、キミを信じてる! だから、人類のことを信じてくれ! ウルトラマン!」
彼は確かに一つ、頷いた。
「左へ走れ!」
俺の言葉通りにサーガが駆け出す。牽制として細かな光線を放ちつつ、ゼットンとの位置関係を変えていく。
「いいぞ、そのまま回り込め!」
ゼットンの放つ火球を俺も避けつつ、サーガの進路を細かく指示していく。
そしていよいよ、作戦要項に記された地点が見えてきた。
「そこだ、ストーップ!」
サーガがアスファルトを捲り上げながら停止し、光輪を放つ。それは空中で三つに分離し、前方と左右からゼットンに襲いかかった。
当然、ゼットンは瞬間移動でこれを躱す。躱して、サーガの“背後へ飛ぶ”。それはこれまでの行動パターンを通して読んでいた。
故に……既にスイッチは押されていた。
ゼットンが火球を放とうと赤熱のエネルギーを蓄え始める。しかしそれより早く
「サーガに夢中で足下には気づかないかよ!」
ゼットンの足下に迫る色とりどりの
「食らえ、“無人在来線爆弾”っ!」
爆薬を多量に搭載した鉄道車両がゼットンの足下から跳ね上がり、何十という車両が同時に炸裂してゼットンに襲いかかる。
その圧倒的な火力を不意打ちで食らったゼットンはたまらず体勢を崩していた。
「いけぇサーガ!」
サーガはその隙を見逃さず、左手首から煌めくブレードのようなものを展開し、ゼットンの背後へと瞬間移動で回り込む。そして昆虫のような翼を二閃で切り落とし、今度は正面へ飛んだ。
構えた拳を光に滲ませ、ゼットンの顔面を全力で殴り抜く。ゼットンが大きく仰け反ると今度はアッパーカットを繰り出し、黒の巨体は中空へと打ち上げられる。
「いけ、サーガ!」
サーガもすかさず飛び立ち、回転を加えたキックをねじ込んだ後、
猛烈な速度で雲の間際まで飛ばされたゼットンは何とかそこで踏みとどまり、膨大なエネルギーを溜め始めた。そして街を一区画呑み込むほどの、超巨大な火球が形作られる。
「す、凄い熱……!」
ユーコが驚く通り、地上近くにいる俺にも届くような凄まじい熱気。まるで太陽が雲の下に顕れたようだ。
しかし、俺に恐怖は無かった。
火球が地球へ向けて放たれる。しかし、地球を背にしてウルトラマンが立つ。
ウルトラマンサーガは両腕でその火球を受け止め、その降下速度はやがてゼロとなった。
「大丈夫……サーガは、ウルトラマンは、絶対に負けない!」
その声を聞き届けたかのようにサーガが吼え、火球を霧散させる。
そして右拳にかつて無いほどのエネルギーを集約させ、ゼットンへ突っ込んでいく。
「行け……!」
サーガの拳がゼットンに突き刺さり、二体はそのまま雲を突き破り、遙か上空へと姿を消す。
そして数秒後、ぼうっと雲の向こうが光り、そして天上を覆っていた暗雲は一瞬にして、まるで水面に広がる波紋のように取り払われた。時刻は夕の名残を留める、夜の始まりだった。
「……これは」
幾千、幾万という光の筋が夜闇を流れ、地上へと降り注いでいく。それは流星が無数に降り注ぐような神秘的な光景で、思わず溜め息が漏れた。
「ハイパーゼットンの糧は恐怖と絶望……それを得るために取り込んでいた人々が、解放されたんです。みんな地上に帰ってきます」
幻想的な光の流れを見上げていると、それを背にして浮かぶ三人のウルトラマンが、こちらを見下ろしていることに気づいた。
俺たちが彼らに手を振ると、コスモスは一つ頷き、ダイナはぐっと親指を立て、ゼロは人差し指と小指、そして親指を立てた、ロックのメロイックサインに近いポーズを見せ……彼らは夜空へと昇り消えていった。
俺は心地良い余韻の中、しばし光流れる天上を眺めていた。