巨影を知らない都市 作:ギガンティック芦沢博士
ハイパーゼットンは倒れ、人々は生還した。
しかし、相次ぐ巨影の被害に人々は疲れ切っており、絶望を感じ始めていた。
ゆえに絶望を糧にするゼットンに狙われたのだと主人公は仮説をたて、絶望を振りまいたのは自分だ、と悩む。
しかし、ユーコや大塚の言葉に気を取り直し、改めて巨影を追い続けると決心。
その勢いでゴジラの撮影に向かうが、逆にゴジラに追われピンチに。
そんな時に現れ彼を救ったのは、三式機龍〈メカゴジラ〉だった。
機龍がショルダータックルのような姿勢でゴジラへ衝突すると、大気を震わせる轟音が街に響いた。かのゴジラがいとも容易く吹き飛ばされ、大通りの突き当りのビルに再度衝突し、煙の中に倒れ伏した。
アスファルトを抉りながら着地した機龍は、油断なく体勢を立て直しゴジラへと向き直る。
「ユーコ、体調はどうだ? 見やすい位置に行きたいんだけど……」
「ええ、いけます。ドローンにはちょっとなれませんけど、機動装置なら」
原付が姿を変え、立体機動装置となって俺に装着される。
「ありがとう。……なあ、ほんとに大丈夫なのか?」
「大丈夫ですって! 行きますよ!」
ユーコは先ほどまで、疲労のせいで原付にしか変身できないと言っていたが、今まで無かった事態だけに気にかかる。しかしユーコが話を切り上げるようにアンカーを射出したため、俺もぐっと身構えなくてはならなかった。
程よく高いビルの屋上に登ると、ちょうどゴジラが立ち上がり機龍と対峙する場面だった。
撮影を開始すると、機龍に装着される装備に興味が向かう。立ち位置として、機龍の背後がよく見えた。
「ユーコ、あの背中と腕の青いパーツは?」
「あれは……バックユニットとレールガン、どちらも強力な武装です」
噂をすればというやつで、ちょうどその時、バックユニットが稼働した。両肩の上に突き出した砲門からは直線的な軌道のロケット弾が、バックユニット上部からは左右に弧を描くような誘導ミサイルが多数発射され、全てゴジラに殺到する。
正面と左右から迫るミサイル群にゴジラは動けず、ほぼ全弾が命中し、その巨体は絶え間なく爆炎に包まれる。
「す、げ」
その迫力に圧倒されながらもカメラを回す。一旦ミサイルの攻勢がやむと、しかしゴジラは平然と黒煙の中から姿を現し、機龍へと迫った。
「おい、あれが効いてないのか?」
相変わらずのタフさに、呆れに近い呟きが漏れる。
機龍は両前腕部に着けられたレールガンを放った。機関銃のように絶え間なく、闇夜に線を引く銃弾がゴジラの胸元に火花を散らす。しかしこちらはミサイルより更に威力が低いらしく、ゴジラの足が止まることはない。
機龍は銃撃をやめ、機械的な足音を立ててゴジラへと接近していく。そして向かい合う二体のゴジラが直接、衝突した。
二体の足下で地面が爆ぜ、土柱が立つ。お互いの肩を掴むようにして押し合いながら、入れ替わるように立ち回る。そのたび大地が震え、俺の立つ屋上がビリビリと鳴る。
拮抗を破ったのは機龍だった。ゴジラを一度殴りつけて密着を解くと、バックユニットから誘導ミサイルを放った。至近距離でそれを浴びたゴジラが怯む隙に、機龍はブースターを噴かして大きく後方へと跳ぶ。その際、俺の直上を飛び越えるような軌道を描いたため、迫力ある画を撮影できた。
「少し遠ざかりましょう!」
「ああ!」
二体に挟まれる位置にあったため、別のビルに移ろうとカメラを下ろす。しかし避難が終わらない内に、着地した機龍は即座に光線を放つ。
機龍の口内から発された二本の黄色い光線がゴジラの胸元を穿つと、さしものゴジラも痛ましげな鳴き声をあげた。
「二連装メーサー砲です!」
「め、めーさー?」
聞き覚えのない兵器にオウム返ししてしまうが、事態は好奇心の疼きを許さない。
時おり振り返りながら必死に屋上を走り、隣接するビルに立体機動装置を用いて飛び移る。そしてカメラを構え直した途端、ゴジラの反撃の瞬間を捉えた。
メーサーに怯んでいたゴジラの背鰭が青く発光し、そのまま無理矢理に熱線を発射した。機龍は機敏に左腕でガードをするが、左腕のレールガンと左肩の砲門が熱線により爆発、大破。さらに機龍は大きく後方へ吹き飛ばされた。
「機龍!」
ユーコが叫ぶ。機龍は建設中の鉄骨組みのビルに頭から突っ込み、まるでミニチュアを崩すように簡単にそれを倒壊させた。
「一撃でこれかよ……!」
機龍は様々な兵器を駆使して一方的な展開を作り上げていた。だというのに、ゴジラの一度の熱線でこうもひっくり返されてしまう。あまりにも不条理な、圧倒的な暴力。人間の信奉する科学をいとも容易く凌駕して見せる、絶対の生命。
ゴジラは咆哮を上げ、機龍に迫っていく。しかし機龍もすぐに立ち上がり、ゴジラに向き直る。レールガンとミサイルは片方ずつ破壊されたが、その動きに陰りは無い。
「よし、まだやれる」
一人間として機龍の応援に熱が入る。人類の希望を背負って立つ、機械仕掛けのゴジラをカメラで追った……その時だった。
向かい合うゴジラたちの奥で突然、街が一区画、大爆発に呑み込まれた。ドーム型の爆炎はまるで朝と見まがうような光量。一瞬遅れてやってきた爆音が耳の機能を麻痺させ――
「ATフィールド!」
反射的にATフィールドを展開する。その途端、凄まじい衝撃波が街中を吹き抜けていった。まるで核の実験映像のように、屋上に煙が立って後方へと流されていく。衝撃が収まると、俺は脂汗を流しながら膝をついた。
「カメさん!」
ユーコの声だけが届く。それは鼓膜を介していないからで、自分の荒い呼気さえ今は聞き取れない。
俺を気遣うユーコの気配が、一瞬で警戒に切り替わる。
「この気配、巨影の……!」
釣られるように顔を上げる。街を包む炎が、中空を目掛け一つに収束していく。
「なんだ……?」
炎が集い、渦を巻き、そして徐々に形を成す。一対の巨大な翼、二本の尾、重厚な胴体と……三本の首。
「キング、ギドラ……」
ユーコが言わずとも、俺の脳が五年前の災害を想起する。突如街を襲撃し、ゴジラとの熾烈な戦闘を繰り広げた、とりわけ異様な姿の巨影。
黄金に輝く全身が露になると、まるで電話の着信音のような、甲高い鳴き声が不気味に響いた。ゴジラと機龍は戦闘を止めて、上空に出現した新たな脅威を観察していた。
「カメさん……逃げた、方が」
ユーコの声は震えていた。何を言われずとも、正面に浮かぶ怪獣の脅威が伝わってくる。
「逃げて……間に合うのかよ」
少し口角を上げながらそう言ってみると、ユーコは無言によって回答した。
そしてキングギドラは唐突に、三つの頭からそれぞれ雷のような光線を吐き出した。
「引力光線!」
三本の光線は無軌道にも見えたが、ゴジラと機龍を各々狙っているようで、二体の立つ周辺を乱雑に破壊していった。光線が往復するうちにゴジラたちに幾度か命中し、火花が上がる。
手当たり次第に街を破壊する光線は俺たちにも迫り、その光量に思わず目をつぶる。
「くそ、めちゃくちゃだ!」
その時、ゴジラが怒りを滲ませる咆哮を轟かせ、ギドラに熱線を放った。ギドラは素早く三本の引力光線を束ねてこれに対抗し、中空で衝突させ爆発を引き起こした。
それが収まった時、二体は当然無傷であったが、横合いから飛来した光線とミサイルにまで気が回っていなかったのであろう、それらをもろに浴びることになった。両者の鳴き声が響く中、機龍はありったけの武装を、二体に向け続けざまに放ち続けている。ゴジラはたじろぎ、ギドラは羽ばたきを妨げられて街中に落下した。地震のような衝撃と共に土が高く舞い上がる。
ゴジラとギドラを共々に、人類に害する敵だと認識したのだろう。しかしこれが両者の怒りを買った。まずゴジラが熱線を放ち、機龍の腹部にそれは命中した。機龍は咄嗟にブースターを噴射させそれ以上の被弾から逃れたが、攻撃の手を緩めたことでギドラに行動を許してしまった。
ギドラの放った光線を宙で浴びた機龍は、各部からスパークと煙を噴出させ、そのままビルを薙ぎ倒して落下してしまった。
「機龍が……!」
ギドラが機龍に追撃をかけようとするが、標的を移したゴジラの熱線に阻まれた。青い熱線を腹部に浴びたギドラの、中央の首が苦しげに顔を上げる。しかし左右の首は黄色の光線で反撃し、ゴジラに浴びせることで熱線を途絶えさせた。
その隙にギドラは巨大な翼をはためかせ、低空飛行でゴジラへと突進していく。ゴジラは鷹揚に構え、ギドラの巨体を受け止めた。さすがのゴジラも勢いに押され後方へずれ込むが、決して倒れない。
そして勢いを殺し切るとギドラの足を掴み、地上へと引きずり降ろした。こうして二体は地に足を付けたインファイトに突入していく。
俺はその圧倒的スケールの戦いを撮影しながら、ユーコに聞く。
「機龍はどうした、やられたのか!?」
「気配はまだあります! けど、動きません……!」
見やれば、機龍の倒れた位置に接近する航空機があった。それはこの戦場まで機龍を吊り下げ、運搬してきた物だった。
「あれは?」
「機龍の操縦者が乗るものです! どうやら、機龍を直すつもりのようですね」
しかし引力光線が流れ弾として迫り、航空機の翼を掠めた。ユーコが短く声を上げる。
幸いにして墜落することは無かったが、それ以上接近することなく航空機は大きく距離を開けた。ゴジラとギドラの苛烈な戦闘が、機龍の復帰を阻んでいるようだった。
「……行くか?」
「……やるんですね。危険ですよ、おそらくこれまでで一番」
ユーコが落ち着き払った声でそう問う。俺は躊躇わず頷いた。
「キミさえよければ、そうしたい。機龍は人の希望を背負ってる」
「……いいに、決まってます!」
屋上から飛び降り、立体機動装置で軟着陸。そのままユーコはオフロードバイクに変身し、俺を乗せて走り出した。力強いエンジンの鼓動が心臓に伝わってきた。