巨影を知らない都市   作:ギガンティック芦沢博士

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前回までのあらすじ

機龍とゴジラの死闘の最中、キングギドラが出現。
機龍はゴジラとギドラの攻撃を同時に受け、倒れ伏して動かなくなる。
主人公たちは人類の希望たる機龍を戦線復帰させるべく、機龍の元へと向かう。


stage18:巨影大戦争 ③

 ゴジラと機龍が踏み抜いたアスファルトは、もはや原型を留めず粉々に砕けていた。大きく抉れた足跡の底には、黒い泥水が溜まり始めている。

 僅かに残った道路の端をオフロードバイクで駆け抜け、機龍の元へと走る。

「あんなサイズでも一体化できるのか?」

「できます。問題は修復が可能か、です。最悪、私が一体化すればカメさんは動かせるんですが……」

「つまり、俺が機龍にしがみついてれば動かせるんだな? 簡単だ」

 当然冗談だし、冗談じゃない。この三竦みに介入するには、人はあまりにちっぽけすぎる。

「一応、機龍の内部にはメンテナンス用のブースがあります。しかし当然、かなりのGがかかります」

「ああ、そうだろうよ。……最悪も覚悟しなきゃか」

 ここで機龍を投げ出せば、人類の貴重な戦力を失うことになる。覚悟を決めなくてはと、俺は深く息を吐いた。

 

 機龍の倒れ伏す位置まで残り半分、という時に、道を折れた先で()()が向かい合っていた。こちらに背を向けるキングギドラと、それに対面するゴジラ。

 二者はインファイトの間合いで睨みあい、その雰囲気は一触即発の気を漂わせていた。

「どうします、迂回しますか!」

「……いや、突っ切る!」

 迂回をしては到着の前に機龍に流れ弾が飛び、破壊されるかもしれない。現に屋上から見た限りでも、二体の戦いの余波は広範囲に及んでいた。二体共に強力な光線を惜しみなく放つものだから、まさに一分一秒が急がれる場面だ。

 スロットルを最大まで捻り、軽く前輪を持ち上げながらギドラの股下へ突っ込んでいく。

 その時、道の両端がデッドゾーンに覆われた。

「やべっ!」

 道の真ん中へ進路を逸らした途端、ギドラの二本の尾が強かに地面を打った。アスファルトが砕け土が舞い上がる中、その振動で制御が効かなくなったハンドルが暴れ始める。こうなっては修復の余地はない。

「くっ、ユーコ!」

「はい!」

 バイクが光を放って変形し、俺に纏わりついて立体機動装置と化す。そして地に落ちる前にアンカーがギドラの足の付け根に打ち込まれ、俺の体はグンと、地面すれすれを引かれていく。 

「うおおぉぉ!」

 この雄たけびは興奮と恐怖によるものだった。

 ギドラの股下を潜り抜けると同時に、今度はゴジラの黒々とした巨体が立ち塞がる。脇から抜けるか、また足元を潜り抜けるか……

「足元!」

 ユーコに指示、というより懇願すると、聞き届けてくれた彼女が再びアンカーを射出し、ゴジラの内ももにそれを打ち込んだ。正面を塞ぐ肉厚な尾を躱すため、股下を潜りながら再びアンカーを射出。打ち込まれたビルの方に引かれ、俺の体が“く”の字に折れ曲がる。

「んぐっ」

 体にかかる負荷に声が漏れる。しかしその甲斐あってゴジラの股下を抜けることができた。

「やった――」

「正面!」

 弛緩した瞬間、ユーコの声に反応して前を見る。

「うおっ!」

 ワイヤーで上方に引っ張られ、眼前に迫っていたゴジラの尾を紙一重で躱せた。空気が裂かれる音、その直後に背後から俺を襲った衝撃波に、全身の血の気が引く。

 ユーコは軌道を下方に移すと、振り子の要領で地面に接近し、バイクに変身。俺を乗せて勢いそのままに再び走り始めた。

「あっぶね! すまんユーコ、助かった」

「油断しちゃダメです! ゴジラたちにかかったら……!」

 その瞬間、後方から激しい熱波が押し寄せた。振り返れば、ゴジラとギドラは同時に光線を発射したようだった。お互いの胸に命中したそれは激しく火花をまき散らし、逸れた光線が周辺のビルを脆くも破壊していく。

「早く遠ざかって!」

「分かってるよ!」

 ATフィールドを用いて降り注ぐビルの破片を防ぎながら、一路機龍の元へと向かう。その最中、ゴジラとギドラの咆哮、その衝突の轟きは止むことがなかった。

 

 大小の瓦礫を乗り越えながら、うつ伏せになった機龍の真下へと到着する。見上げる銀色の体は煤に汚れ、目に灯っていた黄色の光は失われていた。

「さっき言ってたブースって?」

「背びれの間です。そこへ?」

「頼む」

 ユーコが立体機動装置に変身し、俺を機龍の背中へと引き上げる。人間で言う肩甲骨辺りだろうか、そこの背びれの間に鉄製のハッチがあった。

「カメさん、入るのは待ってください。まず私が内部を見ますから」

「ああ、頼んだ」

 ユーコの姿が消え、俺一人が機龍の背中に残される。見やれば、少し離れた場所で黒と金の巨体がぶつかり合っていた。

 ゴジラが少したたらを踏んで頭を下げる。そこへ襲い掛かったギドラだったが……油断を引き出すゴジラの作戦だったのか、鋭く振り上げられた黒い尾がギドラの首のうち二本を張り飛ばし、ギドラは大きく後退した。

「おお、凄いな……」

 カメラを構えそれを撮影していると、ユーコの声が聞こえた。

「故障箇所を見つけました! やはり遠隔操作に関係する場所ですが、かなり複雑で……これ以上は厳しいかもしれません」

「そうか、じゃあ――今すぐ動かせ!」

 俺の視界には、ゴジラがこちらに振り向き、背びれを青白く発光させている絶望的な光景が広がっていた。ユーコもすぐ気づいたのか、慌てた様子で言う。

「い、今すぐには!」

「ジェットだけでもいい! なんとか――」

 機龍を逃がさなくては、と心ばかりが焦るが、ゴジラは止まらない。背びれがひときわ強く輝き、鋭い牙の並ぶ口を開きかけた――その瞬間。

 俺の頭上を巨大な影が通過し、ゴジラに突進した。間を置いて強風が吹きすさぶ。

 その“極彩色”の巨影に態勢を崩されたゴジラは、上空のあらぬ方向へ熱線を(から)撃ちして、仰向けに倒れた。

「あれは……!」

「モスラ!」

 ユーコの声に呼応するように、上空で旋回するモスラが甲高い鳴き声を響かせる。

『カメさん、ユーコさん』

 その可憐な声に視線を落とせば、鮮やかな衣装に身を包んだ小美人――コスモス姉妹が、俺たちに微笑を向けていた。

「コスモスの!」

「わぁ、お久しぶりですね!」

 彼女たちは一層笑みを深め、カーテシーで礼をした。

「ご覧の通り、モスラはすっかり回復しました」

「私たちは、恩を返しにきました」

「恩……」

 以前、あくどい人間に攫われた二人を、なんとかモスラの元へ帰した。どちらかと言えば人間のしでかしたことの尻ぬぐい、という感覚でいたが、彼女たちは恩に思ってくれていたらしい。

 降下してきたモスラが俺たちの真上でホバリングする。その翼から吹き降ろす風はどこか暖かく、竦んだ心を奮い立たせるように感じられた。

「どうか、機龍をお願いします」

「ここは私たちにお任せください」

 彼女たちは揃って振り返り、立ち上がるゴジラと復帰したギドラを見据える。

『友よ、あなたたちを守ります』

 コスモス姉妹は光を放ち、やがて一つの光球となってモスラの元へと飛んでいく。それを吸収した途端、モスラは一層強く羽ばたき、ゴジラたちへと向かっていく。

「カメさん、今のうちに!」

「あ、ああ! 直せそうにないんだよな?」

「はい、後は一体化しかありませんが……」

「……やろう。もうそれしかない」

 戦場を見据える。ギドラが放った引力光線を躱し、モスラはひらひらと宙を舞っている。しかし今後のゴジラの動きによっては、さしものモスラも危ないだろう。

「分かりました。ハッチを開きます」

 ユーコが機龍の中に溶け込み、間もなくエアーが漏れる音と共にハッチが開かれる。そこは垂直になった通路で、俺は壁面の突起を伝ってメンテナンス用のブースへと下っていく。

「いてっ、ハァ、よし……」

 時おり体をぶつけながらもブースまでたどり着くと、真下を向く形になっている椅子に無理やり背中を押しあて、厳重にシートベルトを締めていく。

「さあ……いいぞ」

 目の前に並ぶ計器に光が灯っていく。手近なレバーを握りしめる。

「なるほど、中からでも一応動かせるのか」

「はい。しかし操作は必要ありません。エヴァと同じ、イメージをしてください」

「ああ、分かった……」

 目を閉じ、深く息を吐く。すると、徐々に瞼の裏に外の様子が映し出されていく。

「これは……カメさんと機龍の視界が同調しています。いえ、この場合は私と……?」

「どっちでもいいさ。これでやりやすく、なった!」

 レバーを握る手に力と意思を込める。目元と、目じりから頬にかけての線――まるで涙の筋のように、そこがボンヤリと熱を帯びた。

「これは……カメさんの、巨影に力を分け与えるあの色が」

 この時、機龍の目元から頬にかけての赤いラインが、まるで俺の力を取り込んだように、赤紫色に変色していた。

 機龍の目に光が戻り、身を起こす。それと同時に座席の角度も正常に戻っていく。

 視界がグンと高くなり、港湾都市を広く見渡せた。ギドラは痺れを切らしたように飛翔し、背後からモスラを追い立てていた。乱れ飛ぶ三本の黄色い光線を、モスラはすんでのところで躱していたが、反撃に転じることは簡単そうではなかった。

 そこへ、これまで静観していたゴジラが動き出す。顔の動きから照準はモスラに絞られているようで、間もなく背びれにエネルギーを溜め込み始めた。

「カメさん!」

「ああ! 行くぞ、機龍!」

 機龍の背後でジェットが唸りを上げる。急激にかかるGが全身を押し潰そうとした。しかし機龍(オレ)は暗転しそうになる視界を押しとどめ、ゴジラへと突進していく。

「うおおぉぉぉっ!」

 かくして、事態は四つの巨影による混戦へともつれ込んだ。その力がもたらす損害はまさしく、戦争と言って差し支えないものになるだろう。

 




今回の選択肢

「どうします、迂回しますか!」
①突っ込む!→本編通り
②迂回しよう→安全にたどり着く。イージーモード?
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