巨影を知らない都市 作:ギガンティック芦沢博士
機龍とゴジラの死闘の最中、キングギドラが出現。
機龍はゴジラとギドラの攻撃を同時に受け、倒れ伏して動かなくなる。
主人公たちは人類の希望たる機龍を戦線復帰させるべく、機龍の元へと向かう。
ゴジラと機龍が踏み抜いたアスファルトは、もはや原型を留めず粉々に砕けていた。大きく抉れた足跡の底には、黒い泥水が溜まり始めている。
僅かに残った道路の端をオフロードバイクで駆け抜け、機龍の元へと走る。
「あんなサイズでも一体化できるのか?」
「できます。問題は修復が可能か、です。最悪、私が一体化すればカメさんは動かせるんですが……」
「つまり、俺が機龍にしがみついてれば動かせるんだな? 簡単だ」
当然冗談だし、冗談じゃない。この三竦みに介入するには、人はあまりにちっぽけすぎる。
「一応、機龍の内部にはメンテナンス用のブースがあります。しかし当然、かなりのGがかかります」
「ああ、そうだろうよ。……最悪も覚悟しなきゃか」
ここで機龍を投げ出せば、人類の貴重な戦力を失うことになる。覚悟を決めなくてはと、俺は深く息を吐いた。
機龍の倒れ伏す位置まで残り半分、という時に、道を折れた先で
二者はインファイトの間合いで睨みあい、その雰囲気は一触即発の気を漂わせていた。
「どうします、迂回しますか!」
「……いや、突っ切る!」
迂回をしては到着の前に機龍に流れ弾が飛び、破壊されるかもしれない。現に屋上から見た限りでも、二体の戦いの余波は広範囲に及んでいた。二体共に強力な光線を惜しみなく放つものだから、まさに一分一秒が急がれる場面だ。
スロットルを最大まで捻り、軽く前輪を持ち上げながらギドラの股下へ突っ込んでいく。
その時、道の両端がデッドゾーンに覆われた。
「やべっ!」
道の真ん中へ進路を逸らした途端、ギドラの二本の尾が強かに地面を打った。アスファルトが砕け土が舞い上がる中、その振動で制御が効かなくなったハンドルが暴れ始める。こうなっては修復の余地はない。
「くっ、ユーコ!」
「はい!」
バイクが光を放って変形し、俺に纏わりついて立体機動装置と化す。そして地に落ちる前にアンカーがギドラの足の付け根に打ち込まれ、俺の体はグンと、地面すれすれを引かれていく。
「うおおぉぉ!」
この雄たけびは興奮と恐怖によるものだった。
ギドラの股下を潜り抜けると同時に、今度はゴジラの黒々とした巨体が立ち塞がる。脇から抜けるか、また足元を潜り抜けるか……
「足元!」
ユーコに指示、というより懇願すると、聞き届けてくれた彼女が再びアンカーを射出し、ゴジラの内ももにそれを打ち込んだ。正面を塞ぐ肉厚な尾を躱すため、股下を潜りながら再びアンカーを射出。打ち込まれたビルの方に引かれ、俺の体が“く”の字に折れ曲がる。
「んぐっ」
体にかかる負荷に声が漏れる。しかしその甲斐あってゴジラの股下を抜けることができた。
「やった――」
「正面!」
弛緩した瞬間、ユーコの声に反応して前を見る。
「うおっ!」
ワイヤーで上方に引っ張られ、眼前に迫っていたゴジラの尾を紙一重で躱せた。空気が裂かれる音、その直後に背後から俺を襲った衝撃波に、全身の血の気が引く。
ユーコは軌道を下方に移すと、振り子の要領で地面に接近し、バイクに変身。俺を乗せて勢いそのままに再び走り始めた。
「あっぶね! すまんユーコ、助かった」
「油断しちゃダメです! ゴジラたちにかかったら……!」
その瞬間、後方から激しい熱波が押し寄せた。振り返れば、ゴジラとギドラは同時に光線を発射したようだった。お互いの胸に命中したそれは激しく火花をまき散らし、逸れた光線が周辺のビルを脆くも破壊していく。
「早く遠ざかって!」
「分かってるよ!」
ATフィールドを用いて降り注ぐビルの破片を防ぎながら、一路機龍の元へと向かう。その最中、ゴジラとギドラの咆哮、その衝突の轟きは止むことがなかった。
大小の瓦礫を乗り越えながら、うつ伏せになった機龍の真下へと到着する。見上げる銀色の体は煤に汚れ、目に灯っていた黄色の光は失われていた。
「さっき言ってたブースって?」
「背びれの間です。そこへ?」
「頼む」
ユーコが立体機動装置に変身し、俺を機龍の背中へと引き上げる。人間で言う肩甲骨辺りだろうか、そこの背びれの間に鉄製のハッチがあった。
「カメさん、入るのは待ってください。まず私が内部を見ますから」
「ああ、頼んだ」
ユーコの姿が消え、俺一人が機龍の背中に残される。見やれば、少し離れた場所で黒と金の巨体がぶつかり合っていた。
ゴジラが少したたらを踏んで頭を下げる。そこへ襲い掛かったギドラだったが……油断を引き出すゴジラの作戦だったのか、鋭く振り上げられた黒い尾がギドラの首のうち二本を張り飛ばし、ギドラは大きく後退した。
「おお、凄いな……」
カメラを構えそれを撮影していると、ユーコの声が聞こえた。
「故障箇所を見つけました! やはり遠隔操作に関係する場所ですが、かなり複雑で……これ以上は厳しいかもしれません」
「そうか、じゃあ――今すぐ動かせ!」
俺の視界には、ゴジラがこちらに振り向き、背びれを青白く発光させている絶望的な光景が広がっていた。ユーコもすぐ気づいたのか、慌てた様子で言う。
「い、今すぐには!」
「ジェットだけでもいい! なんとか――」
機龍を逃がさなくては、と心ばかりが焦るが、ゴジラは止まらない。背びれがひときわ強く輝き、鋭い牙の並ぶ口を開きかけた――その瞬間。
俺の頭上を巨大な影が通過し、ゴジラに突進した。間を置いて強風が吹きすさぶ。
その“極彩色”の巨影に態勢を崩されたゴジラは、上空のあらぬ方向へ熱線を
「あれは……!」
「モスラ!」
ユーコの声に呼応するように、上空で旋回するモスラが甲高い鳴き声を響かせる。
『カメさん、ユーコさん』
その可憐な声に視線を落とせば、鮮やかな衣装に身を包んだ小美人――コスモス姉妹が、俺たちに微笑を向けていた。
「コスモスの!」
「わぁ、お久しぶりですね!」
彼女たちは一層笑みを深め、カーテシーで礼をした。
「ご覧の通り、モスラはすっかり回復しました」
「私たちは、恩を返しにきました」
「恩……」
以前、あくどい人間に攫われた二人を、なんとかモスラの元へ帰した。どちらかと言えば人間のしでかしたことの尻ぬぐい、という感覚でいたが、彼女たちは恩に思ってくれていたらしい。
降下してきたモスラが俺たちの真上でホバリングする。その翼から吹き降ろす風はどこか暖かく、竦んだ心を奮い立たせるように感じられた。
「どうか、機龍をお願いします」
「ここは私たちにお任せください」
彼女たちは揃って振り返り、立ち上がるゴジラと復帰したギドラを見据える。
『友よ、あなたたちを守ります』
コスモス姉妹は光を放ち、やがて一つの光球となってモスラの元へと飛んでいく。それを吸収した途端、モスラは一層強く羽ばたき、ゴジラたちへと向かっていく。
「カメさん、今のうちに!」
「あ、ああ! 直せそうにないんだよな?」
「はい、後は一体化しかありませんが……」
「……やろう。もうそれしかない」
戦場を見据える。ギドラが放った引力光線を躱し、モスラはひらひらと宙を舞っている。しかし今後のゴジラの動きによっては、さしものモスラも危ないだろう。
「分かりました。ハッチを開きます」
ユーコが機龍の中に溶け込み、間もなくエアーが漏れる音と共にハッチが開かれる。そこは垂直になった通路で、俺は壁面の突起を伝ってメンテナンス用のブースへと下っていく。
「いてっ、ハァ、よし……」
時おり体をぶつけながらもブースまでたどり着くと、真下を向く形になっている椅子に無理やり背中を押しあて、厳重にシートベルトを締めていく。
「さあ……いいぞ」
目の前に並ぶ計器に光が灯っていく。手近なレバーを握りしめる。
「なるほど、中からでも一応動かせるのか」
「はい。しかし操作は必要ありません。エヴァと同じ、イメージをしてください」
「ああ、分かった……」
目を閉じ、深く息を吐く。すると、徐々に瞼の裏に外の様子が映し出されていく。
「これは……カメさんと機龍の視界が同調しています。いえ、この場合は私と……?」
「どっちでもいいさ。これでやりやすく、なった!」
レバーを握る手に力と意思を込める。目元と、目じりから頬にかけての線――まるで涙の筋のように、そこがボンヤリと熱を帯びた。
「これは……カメさんの、巨影に力を分け与えるあの色が」
この時、機龍の目元から頬にかけての赤いラインが、まるで俺の力を取り込んだように、赤紫色に変色していた。
機龍の目に光が戻り、身を起こす。それと同時に座席の角度も正常に戻っていく。
視界がグンと高くなり、港湾都市を広く見渡せた。ギドラは痺れを切らしたように飛翔し、背後からモスラを追い立てていた。乱れ飛ぶ三本の黄色い光線を、モスラはすんでのところで躱していたが、反撃に転じることは簡単そうではなかった。
そこへ、これまで静観していたゴジラが動き出す。顔の動きから照準はモスラに絞られているようで、間もなく背びれにエネルギーを溜め込み始めた。
「カメさん!」
「ああ! 行くぞ、機龍!」
機龍の背後でジェットが唸りを上げる。急激にかかるGが全身を押し潰そうとした。しかし
「うおおぉぉぉっ!」
かくして、事態は四つの巨影による混戦へともつれ込んだ。その力がもたらす損害はまさしく、戦争と言って差し支えないものになるだろう。
今回の選択肢
「どうします、迂回しますか!」
①突っ込む!→本編通り
②迂回しよう→安全にたどり着く。イージーモード?