巨影を知らない都市 作:ギガンティック芦沢博士
モスラとキングギドラ、ゴジラと機龍で戦闘となる。
ゴジラに押し倒された機龍はとどめを刺されそうになるが、ギドラの乱入によって危機を脱する。
ギドラの激しい攻撃を逆に吸収し、ゴジラはギドラを爆殺。
主人公たちは、ゴジラの隙を突きアブソリュート・ゼロを浴びせようと画策していた。
いざ発射の寸前、しかし主人公に異変が起こる。
*
古い町並み……昭和、それも戦後間もない日本か?
燃えている……戦時でもないのに。ああ、これだ。焔に揺らぐ影の形……ゴジラ。
家々を潰し、焼き払い、破壊を尽くす巨大な影。
戦車も戦闘機も、関係ない。全てがガラクタ。全部、蚊が刺すようなものだ。
海の底で眠っている……
海底のあれは、人? 潜水服を着た人だ。
眼帯なんかつけて、強面だな。でも恐怖は感じない。
人っていうのは小さく……脆く、儚く、見つけるのも一苦労。
彼は何を持っている? あれは……容器、カプセル?
なんだ、泡が……
ああ、なるほど……すごいな。
溶ける、消えていく……
*
「カメさん!」
はっとして目覚める。息は乱れ、冷たい汗が全身を覆っていた。
「今、のは……」
「まずいですゴジラが、いえ機龍が!」
機龍の目を通した光景が、真っ赤に染まっている。 機龍はユーコと俺の統制下から既に離れ、こちらの意思を介さぬ咆哮を……まさしくゴジラのような咆哮を上げた。
「これは、暴走か!?」
五年前にも機龍は原因不明の暴走を起こし、ゴジラを取り逃がしたうえ、都市に甚大な被害をもたらした。機龍が通過し、中央に大きな空洞の空いたビルが、強く印象に残っている。
「はい! 今すぐ脱出を……!」
その時、機龍はブースターを全開にし、ゴジラへと突進した。そのGに押しつぶされ、立つことも叶わない。
『機龍!?』
コスモス姉妹が驚愕の声を上げる。
モスラは機龍の突進を機敏に回避するが、ゴジラは間に合わない。機龍はゴジラの口を塞ぎながら、反対の手で肩を押さえ、そのまま都市の上空へと連れ去って飛行する。
「なに、を!?」
『今すぐ機龍から脱出してください! 機龍はそのまま、ゴジラと共に果てるつもりです!』
姉妹は焦燥を浮かべて叫ぶ。
幸いにして、ゴジラを持ち上げたことで機龍の飛行速度が落ちた。今ならなんとか動ける。
「ユーコ、ハッチを――」
その言葉が終わる前に、メンテナンスブースのハッチが開いていく。冷たい烈風がブース内に吹き荒び、風切り音に包まれる。
「なんだ?」
「カメさん、これ!」
姿を現したユーコの言葉に振り返れば、コックピットのモニターに“THANK YOU”の文字が表示されていた。
「これは、機龍……?」
ブースを見回す。返事はもちろん無い。が、そこに俺は“意思”のようなものを感じていた。
「そうか、あの夢は……キミの記憶なんだな。
機龍はゴジラの骨を基礎として造り出された。眼前のゴジラは謂わば子孫。であれば、ゴジラと共に逝かんとするこの行動の意味は……
ユーコが立体機動装置に変身し、ハッチの傍にアンカーを打ち込む。俺はぐっと身構えながら、機龍に別れを告げた。
「俺こそ、ありがとう。機龍……」
ワイヤーが巻き取られ、その勢いのまま俺は外界へと飛び出す。白銀に煌めく機龍の背びれの間を通過し、湾岸都市の沿岸部へと落下していく。
朝焼けの空の中に、ゴジラの影が二つ、飛んでいく。ふと、機龍の胸元に青い光を見た気がした。胸に灯る青……俺はどこか、ウルトラマンの影をそこに重ねていた。
「きついですよ、堪えて!」
手近なビルにアンカーを打ち込み、人体が耐えられる限界とも思える圧力を受けながら、落下速度をゼロにしていく。内臓が飛び出るのかと本気で危惧した。
そして地面まで残り二メートル弱、というところで、全身の軋みと共に落下は止んだ。どっと汗が吹き出し、呼吸が荒くなる。
「はあ、し、死ぬかと思った……今回は本当に……」
「あぶな、かったですね」
ユーコの声もどこか疲労を滲ませていた。そういえばこの湾岸都市に来た時、彼女も疲れが出ていると言っていた。
これが終わったらしばらく活動を休止するか、と考えていた時、湾の中央に機龍とゴジラは突入した。次の瞬間、機雷が爆発したような巨大な水柱が立ち上がり、それは落下する前に、瞬く間に氷結した。
刺々しくも美しい、巨大な氷山が朝焼けの中に屹立する様は、どこか幻想的に見えた。朝の静謐な空気の中、俺はそれに見入っていた。
「カメさん……」
「ああ、どうした?」
「……すいません」
何を言う暇もなく、俺の体は落下した。ほんの二メートル足らずだったが、あまりに突然で地に転がるより他なかった。
「ユーコ!?」
ユーコの変身が解けている。彼女は力なく座り込み、その存在感は今にも消えてしまいそうな程に希薄だった。
「どうしたユー、コ……!?」
思わず伸ばした手が、彼女の肌に
「なんで、いったいどうなって」
辛そうに顔を伏せるユーコを、横抱きにする。彼女の整った顔立ちを、こんな至近距離で見たのはいつぶりだろうか。
「言わなきゃ、いけないのは……でも、邪魔したくなくて……」
「邪魔? 言うって、何を……」
彼女の目が俺を見上げる。どうしようもなく、瞳が澄んでいた。
「私、新しい巨影が、現れるたび……力を吸収されてました。あれは元々、私の力で生み出された、ものだから……」
息を呑む。ユーコと出会った時、彼女は黒い巨人に狙われており、結局は力の殆どを奪われてしまった。黒い巨人はいくつかの巨影を解き放って消えたが……しかし仮に、巨影に再三エネルギーを吸収されていたとしたら。……ここまでの旅路を想起し、血の気が引く。
彼女が巨影の出現を予見できたのも、位置を把握できたのも、正体を悟れたのも、全ては巨影と
「そんな……いつ、それを……?」
「サーガを、見送ったとき……私の手、一瞬、透けて見えて……」
「……クソッ!!」
思わず叫ぶ。なぜ気づけなかったのかという後悔、気づいたところで俺にはどうしようもなかったという無力感、絶望感に叫んだ。
ふと、思い至ってユーコに問う。
「なあ、それ以外に……力を使うことって、あるのか……」
ユーコは黙して、僅かに視線を逸らした。
「頼む、もう全部言ってくれ、頼むから……」
「……変身も、同化も……」
予想通りの答えに顔を伏せる。叫びだしたい気持ちを抑えながら聞く。
「なんで……言ってくれなかったんだ」
「私、カメさんが……巨影を追ってるカメさんが、好きだから……力に」
「馬鹿だ! キミは馬鹿だ……どうしようもなく、見くびってくれる……」
「ごめんなさい……ごめんなさい、私……」
ユーコが涙を流す。こめかみを通って俺の腕に落ちた涙は、空気に溶けるように消えた。
「やめろ、俺だろう、謝るのは……ユーコ」
彼女の額に俺の額を合わせると、堪えきれなかった涙が零れ落ちる。その雫は彼女に当たらず、俺の膝に落ちた。
その時、洋上の氷柱が粒子状に砕ける。その中から姿を現し、吠えたのは……ゴジラだった。それはこれまでと比べ、明らかに弱弱しい咆哮だった。海上に上半身を顕わにした姿で、じっとこちらを見据える彼の胸元には、深い傷跡が刻まれていた。
「ゴジラ……」
その瞳が何かを物語っているように思えて仕方がなかった。機龍の記憶を見てしまったから、余計に。カメラを通さず見るゴジラは……恐ろしいとも、美しいとも感じた。
ゴジラは黙して振り返り、朝焼けの大海原へと鷹揚に去っていく。その背後で海面が泡立ち、白銀のゴジラ……機龍が浮上してきた。右腕と胸部が破損していたが、その雄姿は健在だった。
「……これで巨影は見納めだ」
「カメさん……」
「何も言うなよ。もう、ここまでだ」
彼女は頷き、俺の胸に顔を埋め、無言のままに泣いた。俺はそっと、彼女を抱き締めた。
「帰ろう、首都に。また下町に家でも借りよう。そこで、せめて最後まで……」
朝日を受けて鈍く艶めく機龍が、静かに洋上に佇んでいた。
『SAYONARA』と言われるほど絆育んでないですよね。