巨影を知らない都市 作:ギガンティック芦沢博士
首都から逃げ出した矢先、上空にてイリスに遭遇。
追いつかれそうになるが、ガメラが間に割って入る。
上空で激突するガメラとイリス。
その均衡は自衛隊のミサイルがガメラに命中したことで崩れ、ユーコの変身する戦闘機は撃墜される。
変身が解け落下する最中、ユーコは別れを告げ、主人公から分離する。
落下した先の古都には、火の手が上がっていた。
古都を焼く炎、立ち昇る黒煙に息を呑む。
「何が起きてる……!?」
その時、視界の端に流星のようなものが瞬く。見やればそれはまさしく流星の如く夜空に線を引く光球であったが、直感的にそれがユーコであることを悟った。
「ユーコ!」
咄嗟に手を伸ばすが、それは遥か遠い位置にあり、やがて放物線を描くように古都の中央駅付近に降下し、見えなくなった。
「ユーコ、なんで……!」
なんで俺から離れるんだ。その問いは口に出せぬまま、いよいよ地上が近づいていた。常人ならば当然助からないが、ユーコに分け与えられた力によってそうはならない、と感覚で理解できた。
その認識の通り、俺の体は淡く光を纏い、降下速度が徐々に緩まっていく。そして最後には水底に降り立つが如く、黒いアスファルトの車道にゆっくりと着地した。淡い光はすぐに消失し、俺は身一つで、炎上する古都の只中に立たされた。
付近に火の手は無いが、停電しているのか街灯が灯っておらず、薄暗い。そこに火災の熱を乗せた風が吹き込み、肌に汗を滲ませる。低く垂れこめる厚い雲には炎の色が映っていた。
「どうなってる……いや、まずユーコだ」
なぜ離れたか。ともあれ動機はきっと単純で、俺のためを思ってのことだろう。
「冗談じゃない、キミはまだ分かってないのか」
だからと言って、このまま逃げ出すことはない。久々の孤独の中で、その肌寒さ、うら寂しさを感じながら、中央駅へ向かう決意を新たにする。
まずは適当な移動手段を、と考えていたその時。複数の巨大な足音がこちらに迫っていた。足の裏に伝わる振動に緊張が走る。
音の方向を見ていれば、やがてビルの影から体高八メートルほどの巨人が現れ――
『どりゃあぁぁぁ!』
――続けざまに、それを押しやるイングラム二号機が姿を見せた。二体は道路脇の街路樹を巻き込んで倒れ込み、二号機が馬乗りの体勢になった。
「イングラム!? どうして……!?」
うつ伏せに押さえ込まれた巨人が暴れるが、イングラムは素早く拳銃を取り出し、そのうなじに銃口を向けた。
『往生せいやあぁぁぁっ!』
二発、三発とレイバーサイズの銃弾が撃ち込まれ、巨人のうなじの肉を爆散させていく。やがて巨人は完全に停止し、全身から白煙が立ち昇り始めた。
突然の出来事に呆気に取られていると、イングラムの一号機と白い指揮車が遅れて到着した。
『先行するなと言うとろーが!』
『臨機応変というものだ! 巨人の大量発生などマニュアルには無い!』
指揮車と二号機のパイロットが言い争いを始める。北方都市の病院で邂逅した時と同様の光景に、少し肩の力が解ける。
『それよりほら! あの人じゃない?』
一号機が俺を指さす。突然の指名に驚いていると、二機と一台は俺に近づいた。
『あんただな、巨影サイトのカメラマン』
「は、はい」
今や“元”と付くが、と説明する時間も惜しいので、指揮車からの質問に素直に頷く。
『安心してくれ、俺たちはあんたの護衛につくよう命令されて来た』
「護衛、命令?」
『あんたの望む通りにさせろ、だとさ』
「なんですかそれ……!?」
全く予想外の事態に目を回す。そんな俺を見下ろしながら、二号機からも疑義が上がる。
『俺も未だに分からん。この非常事態にカメラマンの護衛など』
「非常事態って、今どういう状況ですか!?」
『知ってて撮影しに来たんじゃないの?』
一号機の女性パイロットは意外そうに呟いた。
『簡単に言えば巨人の大量発生。この手の現象があっちこっちで起きるもんだから、俺たちゃ遠征に継ぐ遠征よ』
「そう、ですか」
重苦しい空気が張り詰めた一瞬、一号機パイロットが深く息を吸った。
『私も、正直納得いかない』
『おい』
指揮車の声がたしなめるが、彼女は止まらない。
『だって今も避難してる人が、それを襲う巨人がいるのに!』
『だったら片端から倒すのか? 弱点以外銃もろくに効かないバケモンだぞ!』
『でも……!』
彼女たちの口論に拳を握りしめる。俺としてもこの命令の意図は分からないし、関知するところでもない。しかし、俺を中心にして彼らが衝突する構図は実に居心地の悪いものだった。
『聞け! 俺は正直、この人に何かあると踏んでる。この命令を正当化するだけの何かだ』
全員の視線を感じ一筋の冷や汗が背中を流れるが、俺は一つ深呼吸をする。
「俺は……巨影の正体の、一端は知ってます」
『それは、サイトに載せた情報ではなく?』
「それだけじゃなくもっと深い、深淵に近い部分です」
彼らは黙して次の言葉を待った。俺は路肩に歩み寄り、駐車中のバイクのハンドルに触れる。
「証明はできない。説明してる暇もない。ただ、今から俺は中央駅へ行きます。あなた達の欲しがる“何か”っていうのもそこに」
言葉を濁して煙に巻いている自覚はある。あくどいようだが、彼ら第二小隊が護衛についてくれるならばこれ以上は無い。しかし、それを唯々諾々と甘受するのもはばかられた。ゆえに、俺はこれ以上の言及は止めた。
「お好きにお願いします。俺は行くんで」
バイクに跨って感覚を研ぎ澄まし、アクセルレバーを捻れば、重低音と共にエンジンの鼓動が始まる。これはユーコの力の応用だ。
彼らの惑いを肌で感じていると、突如、無線を通した音声がイングラムのスピーカーから漏れ出た。
『面白い、ぜひ乗るべきだ』
その凛とした女性の声は、以前に病院で聞いたものだった。確か、救援に来た自衛隊所属の緑色のレイバーに搭乗していたはず。
第二小隊の面々も知らない仲ではないらしいが、しかし突然のことに困惑している。
『あなたは! しかし……』
『諸君が選択に迷うのならば、片方を受け持ってしまおう』
『それはどういう……?』
『もう見えてくるはずだ』
ちょうどその時、上空に重々しいエンジン音が轟き始めた。
「この音は……?」
『まさか!』
指揮車の声は何かに気付いたようだった。
そして数秒後、古都の上空に大型の輸送機が五機、編隊を組んで飛来した。輸送機は街の上空を通過しながら、何か人型の大きな影を投下していく。その一つ一つが落下傘を開き、等間隔でゆっくりと下降してくる。
『こちら陸上自衛隊機械化空挺師団、ただいまより作戦に参加する。民間人は任されたし』
イングラムの両パイロットは、その光景に感嘆の声を上げた。指揮者の彼だけが、投下された緑色のレイバーを見て叫ぶ。
『空挺のヘルダイバー! この短時間にこんな規模を……!?』
『鶴の一声だ。大したものだぞ、あのネルフという組織は』
「ネルフ……!?」
その名が出てきたことに驚くが、第二小隊の面々に衝撃を受けた様子が無い。
『全面バックアップってわけか。あそこも何を知ってるやら』
「まさか護衛の命令を出したのって!」
『そのまさか。驚いたけど、こりゃ本気だな』
イングラム二機が歓喜の声を上げる。
『凄い、これなら!』
『ぐふふ、心おきなくやれるぞぉ!』
『おい、だからって俺たちが強くなったわけじゃないんだ! 油断は――』
『ああ、それなら。諸君にネルフからの手土産がある』
真上から吹き降ろす風に見上げれば、“NERV”の刻印が入ったVTOL機が、俺たちの上空でホバリングしていた。その下部にはコンテナのようなサイズ感の、無機質なボックスが吊り下げられていた。
それを見上げながら、一号機が疑問を投げる。
『手土産?』
『ネルフ謹製、対巨人用イングラム専用兵器、だそうだ』
『おおぉぉぉぉっ!』
二号機が特に狂喜乱舞とばかりに息を荒げている。この人に俺の命を預けて大丈夫なのか、と不安に思わないでもない。
やがて地上へ投下されたボックスを開いた二号機が『おお、お、おお?』と素っ頓狂な声を上げて、その兵器を掲げた。電柱の如きその棒の先端はT字を描いており、ぱっと見はまるで……
『
『じゅ、銃は!? 銃はどこだ!?』
二号機が銃器を探し求めて視線をさまよわせている。彼ほどではないが、俺もその兵器に少なからぬ不安を抱いていた。
『巨人の弱点はうなじ。そこを狙うには点ではなく線。銃は良い選択ではない』
『しかし、刺又でどうしろと!?』
『うわぁっ!?』
一号機が弄っていた刺又のT字部分が発光し、甲高い音が鳴り響く。この特長を持つ武器を俺は知っていた。
「まさか、プログレッシブナイフ……!?」
『そう、これはエヴァの装備にも用いられる最新鋭の技術だ。何物をも切り裂くが、扱いには注意しろ』
『つまるところ、プログレッシブ刺又……?』
『なんかかっこ悪い……』
指揮車も一号機もどこか気の抜けた声だったが、二号機はぐっと刺又を握りしめた。
『ええい、こうなりゃ何でもいい! 早く巨人を倒させろぉ!』
『落ち着け! いいか、イングラム二機が並行して先行する。距離を置かずあんた、
「はい!」
言われた通り、イングラム二機の背後にバイクをつける。イングラムの巨大な足がぐっと力を蓄える。
『中央駅の方に巨人は集中している。進むほど危険だと思え』
『了解!』
全員が応え、俺は一つ息を吐いた。
『よし、行くぞ……突撃ぃ!』
『うわはははは!』
二号機が心底楽しそうに笑った。
だって普通に戦ったら負けそうじゃないですか