巨影を知らない都市 作:ギガンティック芦沢博士
古都の中央駅付近にユーコは降下。
離れた場所に降り立った主人公は、彼女の元へ向かうと決める。
古都には巨人が大量発生していたが、主人公の護衛のために特車二課第二小隊が到着。
更に自衛隊の空挺レイバー部隊も投入される。
これらは全てネルフの手配したことだった。
主人公と特車二課はネルフの援助を受けて、ユーコのいる中央駅へと向かう。
『どけえぇぇぇい!!』
突出したイングラム二号機が刺又を振りかざし、同程度の身長――身長八メートルほどの巨人の両腕を大雑把に切断する。
『こればっか!』
一号機の女性は愚痴を漏らしつつも素早く接近し、巨人のうなじを撫ぜるように一閃。巨人は力なく倒れ、全身から白煙が立ち昇り始めた。
一・二号機が足を止めて向かい合う。
『もう、はしゃぎすぎ!』
『とどめを譲ってやってるんだ! 文句を言うな!』
不毛な喧嘩に指揮車の声が割って入る。
『やってる場合か! とにかく進め、足を止めたら巨人が殺到するぞ!』
陣形を組み直し、歴史を残す街並みを猛進する。その最中、空挺レイバーと巨人の交戦する重低音が、古都のあらゆる方向から響いてくる。
道中襲い掛かってきた数体の巨人を問題なく処理し、更に前進する中、|殿(しんがり)の指揮車が呼びかける。
『いいか、二体一の状況から殲滅が理想だが、十メートル級以上は足止めで上等。最悪迂回もある』
『なぜだ、こいつさえあれば!』
二号機が刺又を持ち上げて見せる。
『考えろ、
『なんだとぅ!?』
その時、背筋をせり上がっていく悪寒に、思わずバイクを止めて上空を見やる。殿の指揮車にも慌ててブレーキを踏ませることになった。
『おい、何やってんだ!』
「……こんな風に感じてたのか、ユーコ」
『何を――』
古都上空に垂れ込める暗雲に虹色の光が差し込んだ光景を前にして、指揮車の声も止まる。イングラム二機も足を止め、その光景を見上げていた。
そして雲間からゆっくりと、イリスが姿を現した。触手に張った皮膜から虹色の光を放ち、重力を無視するかのような速度で舞い降りる姿は、禍々しくも美しいものだった。
『なんだ、ありゃあ……』
二号機が思わずといった体で漏らす。
『あれがガメラとやりあった巨影ってやつか……』
『動き出したよ!』
イリスはゆったりとした歩調で、俺たちと目的地を同じく、中央駅へと歩き出した。その狙いを察し、俺はバイクのハンドルを強く握る。
「あいつも目的は同じだ! 中央駅!」
『なんでそんなこと分かる!?』
「あそこに
上空でも執拗に俺たちを狙い続けたイリス。その目的は恐らく、ユーコだ。巨影がユーコから生み出されたものであれば、その身に宿すエネルギーの基となるのは当然ユーコである。
彼女をどうするつもりか、具体的には分からないが、この悪寒と胸騒ぎは決して間違いではないはずだ。
「頼む、時間がない! あいつより先に行かなくちゃ!」
『……いよいよ、信憑性が出てきたな!』
イングラム二機も頷き、俺たちは駅方向に向き直って走り始める。
しかしその出鼻を挫くように、間もなくパイロットたちが叫んだ。
『前方、十五メートル級二体!』
『十メートル級も一匹いるぞ!』
先行する二機の足元から通りの先を覗けば、道路脇の民家を焼く火が風に踊り、その逆光の中で三体の巨人の影がゆらりと蠢いていた。十五メートル級の巨人の口元には、人のものと思わしき両足が突き出ている。その巨人が上を向くと、丸呑みにされるように口腔へと消えた。
喉を鳴らした巨人がこちらに振り向き、その無機質な瞳で次なる獲物を見下す。こうして比較することで分かる、大型の巨人の威圧感。
それに気圧されてか、イングラム二機が足を止めた。
『どうするの!?』
一瞬の間を挟み、指揮車の声が応える。
『迂回するしかない!』
『それでは間に合わん! 突撃するべきだ!』
二号機だけは闘争本能剥き出しに、猪の如く今にも突進しそうな様相だ。
ふと横合いに目を配れば、民家の屋根の向こうにイリスの姿を捉える。ゆったりと、しかし確実に、中央駅へと進行しつつある。イリスにとって足元をうろつく巨人やレイバーなど何の脅威でもないのだろう。
『……あんたが決めていい』
その言葉に驚き、指揮車を見据える。
『迂回じゃ間に合わないかもしれない。強行突破するってんなら、あんたの進む道ぐらい作ってやる』
イングラム二機も即座に頷いてみせる。彼らの決意を受け、俺の中で重い葛藤が巡る。
ユーコは救う。なんとしてでも。しかし、そのために彼らに危険な橋を渡らせるのか? いや、大型の巨人を避けるのはあくまで慎重論からだ。それにネルフの武器もある。もしかしたら勝てるかもしれないじゃないか。
巨人たちがこちらに歩み寄ってくる。イングラム二機は刺又を構えた。……両者の歴然たる体格差を前に、俺の中の楽観論は霧散した。
『急げ! 全部無駄になるぞ!』
そう、一秒をも惜しむ時だ。得るべきものを前に、ベットするべきものを選ぶ時。
俺が選ぶべきは――捨て去るべきは。
『俺は……!』
その時、凄まじい咆哮が炎の壁の向こうから響き渡った。その声の主を、俺は知っている。
「まさか、
次の瞬間、かの巨人――地方都市で、巨大樹の森で、幾度も俺たちを救ってくれた男型の巨人が、炎の壁を突き破って姿を現した。
先頭を歩いていた十五メートル級の巨人にそのまま飛び掛かり、的確にうなじに喰らい付く。二体はもつれ倒れ込むが、起き上がったのは男型の巨人だけであった。ぷっと、食いちぎったうなじの肉を吐き捨てる。
突然の闖入者に、残る二体の巨人が猛然と襲い掛かるが、男型はやおら拳を掲げる姿勢で構えた。それは間違いなく、知性ある武術の構えだった。
『なんだよ、あいつは……』
指揮車から漏れ出す声に答える。
「大丈夫、味方です」
今は、とは継ぎ足さなかった。前回の女型に対する暴走状態を考えれば、俺の中に警戒が残るのは仕方のないことだった。
しかし今の彼にその兆候は見られない。見事なミドルキックで十メートル級の頭部を粉砕すると、続けざまに襲い掛かってきた十五メートル級の巨人を躱し、頭部に腕を回してヘッドロックの体勢をとる。
巨人は痛みに怯むことなどないが、男型は当然把握していた。そのまま前方に走り、自身の足を前に出すように跳躍。巨人をうつ伏せの体勢に引き倒しつつ、落下の勢いで首の骨をへし折った。
『ブ、ブルドッギング・ヘッドロック……』
圧倒されたように二号機パイロットが呟く。プロレスの技名だろうか?
動きを止めた巨人のうなじを踏み砕き、男型の巨人は息を荒げながらこちらに振り向いた。イングラム二機が警戒の構えを取る。
その時、立体機動装置を装備した対巨人部隊が、幾筋もの煙を宙に引いて到着した。彼らは次々に地面に降り立ち、その内の一人が指揮車に歩み寄る。
「こいつは大丈夫だ! 人類側の巨人だ」
『そんな巨人が……』
そして彼は俺に目を向けた。
「これから俺たちもお前の護衛に入る。駅までの道は切り開いてやる」
「は、はい!」
「では行くぞ! あの巨人が先行する!」
そう言って、彼は部隊員の元へ早足で戻る。
『俺たちはサイドに回るぞ!』
『了解!』
一号機、二号機が声を合わせ返答する。
いったい、俺はどれだけの人に助けられている? ……ネルフがどうやって俺の行動を把握し、何の目的で助けてくれるのか、まるで分からないが、しかし。今目の前にいる彼らの強い意志だけは肌で感じられる。信じられる。
脳裏に描かれるユーコの姿に、両の拳を強く握りしめる。彼女を守ることが、今俺にできる唯一のことだ。
その時、男型の巨人がハッとして曇天の夜空を見上げた。俺も僅かに遅れてその気配に気付き、上空を仰ぎ見る。イリスも歩みを止め、同様にした。
「……ガメラ」
厚い雲から突出した巨大な影――ガメラが、ジェット噴射により古都へ急降下してくる。その音で皆もガメラの存在に気付いたらしく、一挙にざわめきが広がる。
ガメラは下降したまま、イリスに向かって火球を放つ。二発、三発と立て続けに飛来した火球を、イリスは普通以上に伸長させた触手によって悠々と弾き飛ばす。そして軌道が逸れた火球は点々と古都に落ち――雲まで届きそうな大爆発を引き起こした。その光量と熱に思わず目を瞑る。
次に目を開いたとき、そこには激しく燃え盛る、古都の変わり果てた姿があった。イリスを挟んで反対側の地域に着弾したため俺たちに被害は無いが……逆であったのなら、まず間違いなく助からなかっただろう。そしてあの炎の中にはまだ多くの避難民や、救助に当たっていた自衛隊員も……
『これが……巨影』
一号機の女性が、畏怖を滲ませて呟く。男型巨人が喉の奥で唸りを上げた。
ガメラは中央駅の直上まで降下すると、急激に角度を上げ水平に戻し、駅ビルを掠めるほどの低空飛行に移る。更にそこから体勢を起こし、足からのジェット噴射で急制動をかけた。木造から成る古都の家々を白煙に覆い隠し、吹き飛ばしながら、ついにガメラはイリスの前に降り立った。
燃え盛る古都の中央で、二体の巨影が相対する。異様なほどに静まり返った瞬間だった。パチパチと、木造の家の燃える音だけが俺たちに届いていた。
天上を覆い隠していた暗雲に、いつの間にか裂け目が走っている。そこから覗く星々は不変の様相で瞬いており、地上の炎熱を僅かに冷ましてくれるように感じられた。
今回の選択肢
俺が選ぶべきは――捨て去るべきは。
『俺は……!』
①迂回だ
②突撃だ
③(時間経過)
→全て本編通りエレン巨人介入。強制イベント