巨影を知らない都市   作:ギガンティック芦沢博士

65 / 77
前回のあらすじ

イングラム先導の下、中央駅へ向かう主人公。
その最中、上空よりイリス降臨。同じく中央駅へと歩き始める。
先んじるために急行するが、大型の巨人と出くわしてしまう。
戦闘か迂回か逡巡していると、エレン巨人が乱入し道を開く。
対巨人部隊も参入し中央駅へ向かおうとする中、上空よりガメラ降下。
火球を放つがイリスに弾かれ、古都に甚大な被害が出てしまう。
ガメラが降り立ち、二体の巨影が相撃つ。


stage21:巨影に沈む都市 ③

 睨みあうガメラとイリスを見ながら、ふと思い至り、呟く。

「イリスをユーコに近づけさせないように……?」

 ガメラは中央駅を背に庇うようにして、イリスの前に立ち塞がっている。今にして思えば、上空での立ち回りにもその意思が見て取れた。

 バイクの空ぶかしで全員の注目を集める。

「ガメラはイリスを止めようとしてる! 行くなら今しかない!」

 圧倒的な破壊を前に立ち尽くしていた彼らも、さすがと言うべきかすぐに表情を引き締め、それぞれ持ち場に走る。

『ねえ』

 一号機の女性に声をかけられ、イングラムの頭部を見上げる。片膝をつくその白い機体は煤に汚れ、周辺の火を反映させ橙色に染まっていた。

『私たちって……今、正しいことしてるんだよね』

 一瞬、答えに窮する。コックピット内の彼女の顔は見えないが、その声音が不安を物語っていた。

「正しい、と思っても、結果は誰も分からない。本当はもっと良い選択もあったかもしれない」

 これまで、あらゆる場面で選択を迫られ……現状はこれだ。ユーコの言う通り、俺たちがもっと早くに別れを選んでいれば、また別の未来もあったかもしれない。

 しかし、とイングラムの緑色のバイザーを見つめる。その奥のカメラは、じっと俺を捉えていた。

「だから、結局は“悔いなき選択”をするしかないんだと思います。俺にとってはこれこそが……」

『……そうだよね』

 一号機は立ち上がり、改めて刺又を握りなおす。彼女の中で選択は済んだようだった。

 ふと視線を移せば、かの男型巨人と目が合った。彼は横目に俺を見つめた後、先陣を切るべく背を向けた。

「全員準備はいいか!」

 対巨人部隊のリーダー格の男が、手のブレードを掲げて振り返った。それに呼応し、他の隊員も雄たけびを上げる。

「行くぞぉ!」

 かくして男型巨人は駆け出し、隊員らは立体機動装置で宙へと飛び上がる。それに続く形で、レイバー率いる第二小隊と俺も走り出した。

 それを合図としたかのように、ガメラとイリスが互いに距離を詰め……間もなく、激突した。両者の咆哮が古都に響き渡る。

 

 対巨人部隊を名乗るだけあって、彼らの戦いぶりは無駄がなく洗練されていた。小型・中型の巨人だけならば、全員が単騎でも撃破できるほどの腕前。十五メートル級の大型巨人が相手となれば、まず隊員が先行し手足を斬りつけ無力化。そこへ男型巨人が強襲し一挙に殲滅、というように、戦術と役割分担が見事に整備されていた。

 しかし、かの自衛隊の女性隊員が言った通り、中央駅へ近づくにつれ巨人はその頭数を増した。

「前方に五体!」

「くっ、おいアンタら! 小型を任せてもいいか!」

『了解!』

 隊員に問われ即座に了承したイングラムの二人は、刺又を構え小型の巨人を相手取る。

 このように、対処は殲滅から俺の通過までの足止めへと移行しいていく。その中で犠牲者が出てしまうのも……これも、選択の先にある結果だった。

 移動中に隊員の一人が、全く意識の外から伸ばされた巨人の手に、がっしりと胴体を掴まれてしまった。彼は助けを求めるでも悲鳴を上げるでもなく、「行け!」とだけ俺たちに叫んだ。

 皆、一瞬の迷いはあったと思う。引き返せば助けられたはず。しかしそうしなかった。

 時折、ビルの合間からガメラとイリスがその巨体を覗かせる。膂力ではイリスが勝るのか、ガメラを少しずつ中央駅方面へと押し込んでいた。ゆえに全員、一刻の猶予もないことを理解しいていた。

 彼を背後に取り残しひた走る中、ふとバイクのミラーを覗き込む。彼を食らおうとする何体もの巨人が手を伸ばし、腕を、脚を掴み、そして……まるで子供が取り合いの末、玩具の人形を壊してしまうかのように……

 そこで視線を切り、前方に向き直った。既に中央駅の巨大な駅ビルは正面に迫っていた。

 

 近づくにつれ、激しい銃撃音が鼓膜に響く。そして駅前のロータリーに至った時、状況を理解した。

 煙を昇らせ消滅していく巨人の骸が、点々と転がっている。中には破壊された空挺レイバー――確か名をヘルダイバー――も数機見えるが、パイロットの生死は分からない。

 そんなロータリーの中央で健在のヘルダイバー二機が、五体は下らない巨人を相手に立ちまわっていた。右腕の速射砲で体の一部を吹き飛ばし、接近してナイフでうなじを斬る。非常に効率的な戦闘をしているが、いかんせん数が多い上に体格で劣る。

 それもあって守勢になりつつある中、男型の巨人が駆けつけて大型の巨人に殴りかかる。殴り飛ばされた巨人を無視し、男型巨人はどこか嬉々とした様相で、残る巨人との乱戦へともつれ込んだ。突然の事態に、ヘルダイバー二機は身を引いて戦局を見守る。

 そんな中、ヘルダイバーの片割れが接近するこちらに気付いた。

『待っていたぞ!』

 その凛々しい声は通信でも聞いた、かの女性自衛隊員のものだった。語らう間など無く、ロータリーに続く大通りから続々と巨人たちが押し寄せてくる。

「俺たちがここを守り抜く! その間に行け!」

「はい!」

 巨人たちに向かっていく部隊員。ヘルダイバーは射撃によって巨人を牽制する。俺は第二小隊に先行され、巨大な駅舎の入口に向かう。

 高さ三メートルほどの中央口の前で、イングラム二機は左右に避け道を開けた。俺の後方の指揮車が呼びかける。

『行け行け、いつまで持つか分からんぞ!』

「はい!」

 バイクに乗ったまま中央口のゲートをくぐり、駅舎内に突入する。

 そこは巨大な吹き抜け構造になっており、天井と片面は全てガラス張りになっている。細かい骨組みは走る様は、どこか植物園を彷彿とさせた。

「ユーコ……!」

 バイクを降り、ユーコの気配を探る。未だ僅かに繋がりが残されているのか、弱弱しくはあるが、彼女の気配らしきものを感じる。

 その時、各階層へと続くエスカレーターの陰から、体高三メートルほどの巨人がゆったりと這い出てきた。不気味なほどに満面の笑みを浮かべたその顔が、ぐるりと傾いて俺を捉えた。

「なっ……」

 息をするのも忘れるほどに、全身が硬直する。その隙に巨人はこちらに駆け寄り――

『そりゃあぁぁっ!』

 俺の背後、中央口のゲートから、イングラム二機がスライディングの体勢で滑り込んできた。二機はその勢いのまま刺又を振るい、巨人をいくつにも切断した。

『まさか中にもいるなんて!』

『まったく虫みたいな奴らだ!』

 威勢よく立ち上がる二号機の頭部にアンテナが見えず、小さく火花が飛んでいる。恐らく、ゲートをくぐる際にぶつけて破損したのだろう。

 間もなく、どこに潜んでいたのか、小型ばかりではあるが、何体もの巨人が姿を見せ始める。しかし彼らはそれに怯まず、二号機など「ぐふふ」と不気味に笑い始める始末。

『上等じゃねえか! 一匹も逃がさんぞぉ!』

 叫び、飛び掛かっていく二号機。一号機は呆れた雰囲気を醸し出しつつも、俺に振り向いた。

『あの人が引き付けてるうちに早く!』

「あ、ああ!」

 彼らに背を向け、ユーコの気配を感じる上階へと、停止したエスカレーターを上っていく。その途中で立ち止まり、戦闘に参加する一号機に呼びかける。

「ありがとう! まずくなったらすぐに――!」

『もっちろん! ちゃんと“選ぶ”よ!』

 この緊迫した状況に見合わず、溌溂とした声で返す一号機のパイロット。その声に背を押され、床板をガンガンと踏み鳴らし駆け上っていく。

 

 五、六階分ほど上ったところで、ユーコの気配を顕著に捉え始めたが、しかし姿が見えない。

「ユーコ、どこだ!」

 気配を辿り、壁面側の背の高い出入り口を抜ける。そこはバルコニーのような広場になっており、接近しつつあるガメラの甲羅がよく見えた。広場へ下りる短い階段の先に、俺はようやくユーコを見つけた。

「ユーコ!」

 駆け寄り、倒れ伏すユーコを抱き起す。弱弱しく燐光を発する彼女が、ゆっくりと目を開いた。

「カメ、さん……?」

「そうだ、俺だよ。分かるか?」

「ええ。……来ちゃったんですね」

 諦めたように、ユーコは目を瞑る。

「別れ方が悪かったな……計画失敗だ」

 冗談めかして言えば、彼女は悲し気に表情を歪ませ、俺を見上げた。

「なんで……これ以上一緒にいても、巻き込むだけなのに……」

 その言葉で、腹の底から湧き上がってくる思い――怒りに、無理やり蓋をする。

「俺とキミは、一つだったろ? 今もそうだ。キミに降りかかるものは全部、俺のものだ」

 ユーコは黙して、また泣きだしそうな顔で俺を見つめた。その表情にふと怒りが薄れ、笑みが零れる。

「キミがいないと静かすぎるよ」

 ガメラの甲羅が、見上げるほどの眼前まで迫り、イリスの眼光が瞬く。もはや論議の猶予は無い。

 彼女を無理やり背負い上げる。存在を疑うほどに、彼女は軽かった。

 そして短い階段を駆け上がり、駅舎内に逃げ込んだ途端。壁面が破裂するように崩壊し、大量の瓦礫を巻き上げながら、二体の巨影は駅舎の内部へと突入してきた。

 




劇中使われる鳥丸口は京都駅の北側、でもガメラたちが戦ってるのは南側なんですよね。
なので今作では南側に鳥丸口がある設定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。