巨影を知らない都市 作:ギガンティック芦沢博士
駅舎内で戦うガメラとイリスだったが、ガメラは倒され、起き上がれない。
ユーコを狙うイリスの前に主人公は立ち塞がるが、呆気なく吹き飛ばされ、ユーコも吸収されてしまう。
絶体絶命の危機に主人公の能力が覚醒し、イリスの吸収器官を割いて突入する。
ユーコは生きることを諦めていたが、主人公の呼びかけにより気力を取り戻す。
その時、ガメラがイリスの腹部に手を突き刺し、二人を掴んだ。
巨大なガメラの手に覆われ、外界へと引きずり出される。周囲の様子も分からないまま、俺はユーコを抱きかかえてその圧に耐えた。
直後、体を覆っていた気色の悪い感覚が消え、体外へと表出したことを知る。生温かい体液が全身を伝っていた。
顔を拭って見上げると、こちらを見下ろすガメラと目が合った。以前、レギオンと戦った時の彼とは違う、鋭さを増した相貌だったが、その瞳の奥には確かに変わらない慈しみのようなものが見えた、そんな気がした。
その時、イリスが怒りを滲ませる様相で槍状の左腕を振るい、ガメラの右手を貫いて壁に縫い留めた。まるで磔刑のように掌の中央を穿たれたガメラは、苦悶の鳴き声を上げた。傷口から緑色の血液が噴出している。
「ガ、メラ……」
ユーコがか細い声でガメラの名を呼ぶ。
二体の巨影はその状態のまま睨みあった。ガメラを見下ろすイリスは、表情など存在しないはずだが、どこか勝ち誇っているようにも見受けられる。腹部にはガメラが穿った大穴が空いていたが、そんなものはどこ吹く風という様子だった。
やがてガメラに突き刺した槍状の左腕が発光を始めた。緑色の光がガメラの手からイリスへと渡っていく。それを見たユーコが顔をしかめた。
「あれは、ガメラの遺伝子情報……」
「遺伝子?」
「つまり、読み取っているんです。能力や、技すらも……」
その言葉通り、イリスは巨大な触手を二本操り、ガメラに向ける。先端の鏃状の器官を開き、そこにプラズマ火球を再現して見せた。
「な……」
眼前に現れた太陽の如き二つの火球に、思わず息を呑む。それの威力を知っている身からすれば、正面に立つことは全身が竦み上がるほどの恐怖だった。
「カメさん、手を……!」
ユーコが俺の手首を掴む。あまりに弱いその力が、俺にできることを思い出させてくれた。
両の掌が赤紫の光を放つのを確認し、ガメラを見上げて叫ぶ。
「ガメラ! 全部つぎ込む、だから……!」
ガメラの掌に自身のそれを押し当てる。
「勝て、ガメラッ……!」
俺の中からエネルギーのようなものが溢れ出して、ガメラに注がれていく。あまりの虚脱感に意識が遠のいていく中、ユーコの手がそこに重ねられる。彼女の顔を見れば、穏やかに笑いかけていた。俺は頷きで返し、いっそうの力を送り込んでいく。
変化は顕著だった。ガメラが喉の奥で唸ったかと思うと、彼の右手が熱を持って赤く変色していく。そこに突き刺された槍状の腕部が溶解を始めると、イリスは驚愕の様相で仰け反った。
ガメラが咆哮と共に右腕を振り抜き、イリスの左腕の先端が焼きちぎる。イリスは怒りを滲ませて吼え、二つのプラズマ火球を同時に放つ。ガメラは風穴の空いた右手を突き出し、その火球を全て受け止めた。
熱を持った衝撃波が押し寄せ、ユーコを庇うように掌の中に伏せる。しかしいつまでも絶えない熱に顔を上げると、ガメラの右腕が肩口まで炎を纏っていた。
「なんっ、だ!?」
「バニシング、フィスト……」
ガメラは感覚を確かめるように、炎の手をぐっと握りしめた。そして大きく踏み込み、イリスの腹部の傷口へと、空手の抜き手のように右手を突き刺した。
肉の焼ける音と共に、イリスからこれまでにない絶叫が迸る。ガメラは容赦なく右手を更に深く突き入れ、イリスを体内から燃やし尽くしていく。
イリスの体の各所から光が漏れ出したと思うと、次の瞬間、空気すら吹き飛ばすような威力でイリスは爆ぜた。真昼のような輝きが溢れ、凄まじい衝撃と轟音が全身を貫く。
中央駅からは爆炎が溢れ、その衝撃は古都全体を揺さぶった。
それらが収まった後に目を開けば、駅舎内は甚大なダメージを受けており、瓦礫が溢れる中あちこちに炎が揺らめいている。その中に、イリスの姿は欠片も見受けられなかった。
「カメさん、大丈夫、ですか」
「ああ、なんとも。ガメラが庇ってくれた」
爆発の直前、俺たちの乗る左手を庇うようにガメラは身を挺してくれた。見上げれば、至る所に傷をつけたガメラが俺たちを見下ろしていた。
駅舎内の上層階に降ろしてもらい、改めてガメラを見上げる。戦いの後の静かな空気の中で、ガメラの威容は変わらず屹立していた。
「ありがとう、ガメラ」
ユーコを腕に抱きながら、呟くような声で感謝を告げる。その返事か定かではないが、ガメラも小さく唸った。
その時、俺に身を預けていたユーコが、何かに気付いたように顔を上げた。ガメラも同様に駅舎の崩れた天井を見上げる。
「どうし……」
一足遅れて俺もその気配――巨影を感じ取り、
「なんだ、これは……巨影なのか?」
「巨影……ギャオス。それも、数えきれないくらい……」
遥か遠くだが確かに感じる。無数の巨影が全方位から、この古都を目掛けて飛来してくる。世界の各地で大量発生したギャオスがここに……?
その時、ガメラが駅舎に空いた大穴へと歩き出す。重々しい足取りが彼の状態を示していた。
「まさか、やるのか?」
「ガメラは、戦うつもりです。最後まで。一人になっても……」
ガメラが駅舎から出ると、俺もユーコを背負い上げてバルコニーへと向かう。
ガメラの背中が燃え盛る古都の中へと遠ざかっていく。立つこともままならないユーコと共に階段に座り、その姿を見送った。無言のまま、俺たちは互いの手を握っていた。
「ここで……見てようか」
ユーコがこちらに顔を向けた気配がある。俺はガメラを正面に捉えたまま、続ける。
「たぶんもう、逃げられないし……ここで最後まで、ガメラの戦いを見届けることが、俺とキミの最後に相応しい、と思う」
そう思ってしまった。
「ごめん。キミを助けたのに、こんな……」
「ガメラは勝ちます」
予想外の強い語気に、思わずユーコの顔を見つめる。彼女は柔らかに笑っていた。
「負けるなんて、思いません。信じてます」
なんだか出し抜かれたような気分だったが、俺も笑って返した。
「ああ、そうだな。ガメラは負けない」
またガメラの背を見て、ユーコの手を強く握る。僅かではあるが、彼女も力を強めてくれた。
その時だった。まったく予想だに、想像だにしなかった声が、俺の背に掛けられた。
「おい、何やってんだそんなとこで」
聞き慣れたその声に息を呑み、振り返る。駅舎内の暗がりに、その人……俺の叔父、大塚秀靖は立っていた。口元にいつものニヒルな笑いを浮かべて。
「叔父さん!?」
立ち上がり、叔父の元へと駆ける。ユーコも驚きの表情で叔父を見ていた。
「なんでこんなとこに? 怪我はどうした、もう動いても――」
「駄目、離れて!」
ユーコの声は一足遅かった。いや、結局は同じことになっただろう。
叔父は笑顔を深めながら、ポケットから拳銃を抜き出した。
「――え?」
パン、と乾いた音が駅舎に響き渡った。喉奥から熱い液体が漏れ出す。腹部を中心に痛みが広がり、俺はその場に膝をついた。
「カメさん!」
ユーコの声が聞こえる。しかし俺の頭中を巡るのは当て所ない疑問だけだった。
「おじ、さん?」
口内に溢れた血で、それは水音混じりの声になった。叔父は銃口を覗き込みながら首を傾げていた。
「んん? やっぱ地球の武器は駄目だな。心臓の予定だったが……まあいいか」
叔父は軽々しく拳銃を投げ捨てて歩み寄り、俺の肩に手を置いた。
「ま、お疲れさん。お前はよくやったよ」
いつもの笑顔でそう言って、俺の横合いを通過した。後を追おうとするが、体が言うことを聞かず倒れてしまう。右わき腹付近から止めどなく血が流れ出ている。
「カメさん!」
ユーコは必死に体を引き摺って、俺の傍へ来ようとしている。しかしそんな彼女の前に叔父が立ち塞がった。
「お久しぶり。随分弱っちゃってまぁ」
ユーコが目を見開いて叔父と目を合わせる。いや、“叔父”なんかじゃない……!
「お前、誰だ、なんでユーコを……!」
「ユーコぉ? そんな名前つけたのか。で、お前はカメか。カメラマンだからか?」
そうユーコに問いかけるが、ユーコは睨みつけるだけ。さして気にした様子もなく、そいつは笑った。
「そうか、絆を深めてたんだなぁ。しかし残念、ここでお別れだ」
「何を……」
「こいつの力は貰う。こんな状態だが、まあ充分だ」
ユーコを見下ろすその姿に、よぎった影がある。全ての始まり、ユーコを狙った巨影……
「お前、まさか……黒い、巨人……」
そいつは表情豊かに、眉を吊り上げてみせた。
「俺のことはそう呼んでんのか。じゃあ以後お見知りおきを。俺の名は……」
叔父に背後に禍々しいオーラが立ち昇り、その声音にどす黒いものが混ざる。
「ダーク、ザギ」
今回の選択肢
無言のまま、俺たちは互いの手を握っていた。
①「ここで見てようか」→本編通り
②「逃げようか」
→ガメラは敗北。人類が巨影に滅ぼされつつある中、主人公とユーコは穏やかに残りの時間を過ごす(アナザーエンド)