巨影を知らない都市 作:ギガンティック芦沢博士
ガメラの手が二人を掴み、イリスの体内から引きずり出す。
ガメラは危機に陥るが、主人公が力を与えて形勢を逆転。イリスを爆殺する。
しかし無数のギャオスが古都に接近。ガメラは一人戦いに向かう。
その背中を見送る二人の前に、大塚秀靖が現れる。
しかし彼は主人公を銃撃し、重傷を負わせる。
大塚の姿をしたその男は、ダークザギと名乗った。
“ダークザギ”と名乗ったその男は、叔父とは似ても似つかぬ邪悪な笑みを浮かべていた。
「ザギ、だと……白い巨人に、やられたんじゃ……!」
ザギは“白い巨人”と聞いた一瞬、その表情を憎悪に歪めたように見えた。しかしすぐに元の笑みに戻り、小さく鼻を鳴らす。
「まあ、確かに危なかったぜ。死ぬところだった……近くに“媒体”が無けりゃな」
「媒、体?」
その言葉を聞いたユーコが、目を見開いてザギを見上げた。
「まさか……!」
「そう、この女と同じ事をした。少しのあいだ同居させてもらってたんだよ、カメくん」
ザギが心底愉快そうに笑いかけるが、俺は二の句が継げなかった。ザギが俺の中で生き延びていたなど、そうそう呑み込める事ではなかった。
「しっかし、大塚のマンションにウルトラマンが来た時にゃ焦った! 潜んでるのがバレやしねえかとヒヤヒヤしたぜ。ま、死にかけで弱ってたからか、バレはしなかった。だが一つ誤算もあった」
ザギは改めてユーコを見下ろす。
「俺の感情がこの女に伝わっちまった。あの時、こいつは不自然にウルトラマンを避けただろ?」
そう問われ、ユーコの言動に現れていた“兆候”がフラッシュバックする。
『なんでしょう……ウルトラマンに見られたとき、何か、いやーな感じがしたんですよね』
ウルトラマンと遭遇した際、彼女は警戒感を顕わに、幽体の姿で表出しなかった。
『体を共有しているのでなんとなく伝わってきます』
湖でそうも言った。一体に同居した意識は、無意識下で互いの感情を共有する。
「このままじゃいずれ存在を悟られる。そう思って引っ越したんだ。この大塚の中にな」
悪辣に笑って自身の心臓の位置を指さすザギに、胸騒ぎが高まっていく。
「お前、叔父さんに、何をした……!」
「直接は何も。草体の爆発で死んだんで、体を貰っただけさ」
……今、こいつはなんて言った?
「死ん、だ……? 叔父さんが? だって爆発の後も、俺たちは……」
……会ってない。通話も、メールのやり取りもした。だが、直接会うのは首都で別れて以来だ。
俺の考えていることを読んだのか、ザギは嘲笑を浮かべ両腕を広げた。
「俺の演技もなかなかのもんだろ? 大塚の記憶を読んで必死に勉強したんだぜ」
おかしそうに喉で笑うザギに、腹の底から沸々と怒りがこみ上げる。暴れ出しそうになるそれを一抹の冷静さで押し留め、先ほど引っ掛かりを感じた言葉の意を問う。
「……直接は、って言ったな」
「ああ、直接は何もしてない。ただ感情をくすぐっただけさ。くく、まるで寄生虫に侵された昆虫みたいによ、自分から――」
「テメェ!!」
もはや怒りは臨界に達し、感情のまま殴りかかろうとするも、まともに足腰が立たずまた転がる。腹部から漏れ出す血が勢いを増した。
「カメさん!」
「そんな怒るなよ、リサイクルってやつだ!
血反吐を吐きながら荒い呼吸を整え、叔父の姿をした邪悪を睨みあげる。
「まあそう死に急ぐなって。せっかくだから色々聞いてほしくてよ」
ザギは大仰な身振りで、カーテンコールを浴びる舞台役者のように礼をした。
「改めまして……俺はダークザギ。“ユーコ”を狙う目的は復活と支配。最初にすんなり吸収できていれば、こんな苦労もな……」
ザギはどこか感慨深そうに目を閉じ天を仰いだが、やがて沸々と笑い始めた。
「だがアドリブが利いた! 咄嗟に巨影を生み出し、世界に放った。これは最高の舞台装置だった」
「舞台、装置……?」
「この次元に居るかは定かじゃないが、恐怖や絶望といった感情を喰らい成長する“スペースビート”って異星獣がいる。俺はその生態を研究し……遂に、己がものとした」
ザギはじろりと、猟奇的な笑みを浮かべ俺を見下ろした。
「分かるだろ? 長期的な戦略に切り替えたんだ。巨影が人類に与える恐怖と絶望を喰らい! この日を……待ちに、待ち続けた!」
ザギは土下座するように地に手膝をつけて、俺の顔を覗き込んだ。
「お前のおかげだ! お前が人類に巨影を知らせたんだ! 恐怖と絶望を振りまき、じっくりと、最高級のワインみてーに醸造したんだ! 実に素晴らしい働きだった! 我が社の正社員にしてやるよぉ!」
狂気に染まった高笑いを聞きながら、俺の心は急速に暗所へと堕とし込まれていった。
「俺が……俺の、やってきた、ことは……」
「まず、俺を生かしてくれた。大塚の元に届けてくれた。恐怖を広めてくれた。うん、最高の舞台スタッフだな。まあ人類からすれば大罪人ってやつかも――」
「違う!!」
ユーコの張り上げた怒声が、その場の空気を一瞬で固めた。興を削がれたように、ザギは剣呑にユーコを見据えた。
「ああ?」
ユーコはその視線を意にも介さず、鋭く睨み返した。
「カメさんは信念に従った! その奥にはいつも深い思いやりがあった! カメさんの行いが何人を、何体の巨影を救ってきたか、私は知ってる! いつも、傍で見てた!」
……俺を覆っていた暗幕が開かれ、一条の光が差し込んでいるような、気持ちだった。喉が熱を持って震える。
対極にザギは無表情ながらに、心底不快そうな気配が溢れ出していた。
「……うるせえな。もう済ませちまうか」
そう呟き、ユーコに歩み寄る。
「待、てッ……!」
必死に地を這うが、もはや俺に状況を変える力など無い。
ザギは片手でユーコの首を乱雑に掴み、足が付かない高さまで持ち上げる。ユーコは苦し気に表情を歪めていたが、その目はザギを強く睨みつけたままだ。ザギは不快そうに舌打ちした。
「最後まで気に食わねえ女だ……が、まあいい」
ユーコから赤紫色のオーラが漏れ出し、腕を伝ってザギへと流れ込んでいく。
「ユーコ!!」
彼女は苦悶の表情を浮かべ、対極的にザギは歪な笑みを深めていく。
「ハァァァ……いいぞ、この力の漲り! こんな状態でもやはりモノが違う! これで総仕上げだ!」
立ち上がろうともがくが、全身から力が失われている。イリスの体内に突入した時のようなエネルギーがどこにも感じられない。
俺の目の前でユーコが消えていく。四肢の端から光の粒子となり、花火のように夜闇の中に馴染んでいく。
その時、固く閉ざされていた彼女の目が僅かに開き、俺を捉え……口元が動いた。『ごめん』とだけ。
「うおおぉぉぉぉッ!!」
まさに血反吐を吐きながら叫び、獣のように跳躍する。ザギも反応し振り返るが、それを置き去りにするようにユーコに抱き着き、駅舎外のバルコニーエリアへと着地する。着地というよりは落下で、彼女を抱えたまま何度か横に転がる。
ザギは少し驚いたように、肩眉を吊り上げていた。
「まだそんなに動けたのか。いわゆる火事場の……だが、救助は間に合わなかったな」
見れば、ユーコの消滅は続いていた。全身が徐々に透明と化しつつあり、彼女を支える俺の掌が明瞭に見える。
「ユーコ、ユーコッ……!」
呼びかけにも応じず、ユーコは全身を弛緩させたまま目を開けない。その時、両手に微かにかかっていた彼女の重みが消えた。慌てて両手を振り乱し、漂う光の粒子を胸に掻き抱くが、すぐに腕の合間から漏れ出し、消えていく。
「だめだ、そんなっ……」
「必死だねえ、そんな搾りカスに。ま、僅かでも取り込めばいいさ」
やがて……ユーコは消えた。全てが光と化し、残されたのは空虚な夜の闇だった。視界がぼやけ、それすらも不明瞭になり……気づけば体が横たわっていた。
「はは……いい味だ、絶望の香り……最高の気分だ」
ザギが階段を上るように宙へと浮かび、燃え盛る古都の街並みを見下ろして両手を広げる。
「さあ……行こう」
ザギの全身から暗色のオーラが噴き出し、全身を包み込む。眼球が真紅に輝き、顔に赤い文様が浮かび上がる。ほの暗い歓喜を煮詰めたような表情で、ザギは叫んだ。
「復活の時だあぁぁぁぁッ!!」
激しい突風が吹き荒れ、俺は力なく地を転がされる。次に見上げれば、そこに居たのは黒と赤から成るウルトラマンだった。月が覗く夜空にザギが吼える。
やがて、興奮を抑えた様子でザギはこちらに振り返った。
俺を見下ろすその赤い瞳が何を思っているのか。俺にトドメをくれてやろうというのか、それとも“この姿を見よ”という事か。分からないが、しかし……もう俺には何もできない。何も残されていない。この絶望が望みだというなら、見事叶ったのだろう。
眠気すら覚え、瞼が降りようとした時――その瞬間。
瞼の向こうで、まるで日が昇ったかのような閃光が放たれた。ザギの驚嘆の声が聞こえ、地が揺れる。
目を見開いてみると、そこにいたのは光り輝く……巨人。
「キミは……光の……」
彼は俺を庇うように背を向けていたが、俺の声が届いたのか振り返る。やがて、その光は徐々に収束していき、全身像が明瞭になる。
俺は……そうか、僅かでも、ユーコの残滓を取り込んだのか? 今なら、彼の名が分かる……
「ウルトラマン……ネクサス」
兜を被ったような頭部。銀色の体表。胸で赤色に輝く、羽ばたく鳥のようなエムブレム。幾度となく俺たちを救ってくれた、光の巨人。
混沌の古都において、闇と光の巨人が相撃つ。全ての始まりである彼らが、全ての終わりを告げるのだろうと、鈍った思考のどこかで考えていた。
大塚☆自演乙☆秀靖