巨影を知らない都市 作:ギガンティック芦沢博士
ザギは真相を語った。
白い巨人に討たれそうになったザギは巨影を放つと、咄嗟に主人公の中に入り込んだ。
しかしユーコに存在を悟られることを恐れ、大塚に宿主を変更。
彼の思考を少し操作し、草体の爆発に巻き込んで謀殺、そのまま体を乗っ取った。
巨影に対する人々の恐怖を吸収し、体力を回復しつつ時を待った。
そして完全復活のためにユーコを吸収。
主人公は僅かに奪い返すが、もはや復活の支障にはならなかった。
姿を現すダークザギ。
そこに突如、主人公が“白い巨人”と呼ぶ巨影――ウルトラマンネクサスが現れ、ザギと相対した。
銀色の巨人――ウルトラマンネクサスは、白熱に輝く目で俺を見下ろし、やおら手をかざした。その掌がよく見慣れた赤紫色の発光を始めると、俺の中に強大で暖かなエネルギーが流れ込んでくる。
瞬く間に全身の傷が癒え、腹部の銃創すら圧倒的な速度で塞がりつつある。明瞭になった思考の中で、俺は驚愕を持って立ち上がった。
「なんで、キミがその光を……!?」
ネクサスは黙して答えない。いや仮に答えられたとしても、その間は無かった。
咆哮を上げたザギが猛然と突進を仕掛け、ネクサスはすぐさま向き直る。ザギの繰り出した拳を屈んで躱し、脇腹にミドルキックを叩き込む。僅かに怯んだザギだったが、すかさず回し蹴りを放ち、ガードの上からネクサスの体勢を崩した。二体はそのまま距離を取り、構えを解かず睨み合った。
「お前まで、生きていたとは驚きだな……!」
ザギは叔父の声で、少し息を切らしたようにそう語る。
「だが万全ではないようだ……もっとも、それは俺も同じ」
ザギは構えを解き、夜空を抱くように胸を逸らして両腕を広げた。
「しかし、俺は徐々に力を増している。世界に溢れかえった絶望、死への衝動……デストルドーが、俺に流れこんでくるのを感じる! まるで台風の目に大気が流れ込むように!」
今度はネクサスが駆け寄るが、ザギは軽く反動をつけて中空へ飛び上がった。
「焦るよなぁ? だがもう少し付き合えよ」
ネクサスが後を追って飛び立ち、二体は揃って古都上空へ舞い上がっていく。古都中央に佇むガメラが二体を見上げていた。
「ネクサス……」
脇腹に添えた手を離せば、もはや傷跡も痛みも無い。むしろ体調はこれまでになく良い。体の奥底から人の身に余る力が溢れ出しているようだった。
しかし……心にあるのは虚脱感だった。限界以上と言っても、所詮は人。巨影を間近に捉え続けた俺には、これ以上が無いことは察せた。
『カメさん』
そんな俺に掛けられた二重の声は、随分久しく聞いていなかった、友人らの声だった。
「コスモスの……」
『お久しぶりです』
鮮やかな衣装に身を包む彼女たちが微笑み、小さくカーテシーをする。しかし、俺は彼女たちから顔を背けた。
「すまない、俺は……一人に、なっちまった……」
ユーコをみすみす目の前で失った俺が、合わせる顔は無かった。しかし彼女たちの声は絶望も失望も含んではいなかった。
『気を落とさないで。できることはまだあります』
「……キミたちはそうだろう。でも俺は違う」
卑屈に口元が歪む。笑みとも言えない表情が浮かんでいるだろう。
「キミたちは力がある! でも俺は……俺には、もうなんにも無いんだよ。今までは撮影していればよかった。満足だった。でもそれは、あいつに力を与えるだけだった! 俺にもう、これ以上は無いんだ……」
顔が自然と俯く。情けない、みっともない愚痴だと分かってはいるが、吐露せずにはいられなかった。
ネクサスとザギの衝突が、上空から音で伝わってくる。
しかし、コスモス姉妹は首を横に振った。
『いいえあります』
「……どこに?」
『間もなく。巨人を操る少年が、あなたにもたらします』
「巨人を、操る少年……?」
その言葉で脳裏に浮かんだ姿は、間もなく夜闇の向こうから現れた。
古都を囲うようにそびえる山々の向こうから、一機の巨大な輸送機が、低空飛行で現れた。
「なんだ、ステルス機!?」
まるで米軍のB-2爆撃機のような、フラットな全翼機。その下部から巨大な人型の影――エヴァンゲリオン初号機が投下されたのを見て、それがエヴァの輸送機であることを理解した。
輸送機はそのまま古都上空を通過し、初号機は空中で体勢を整え古都に着地した。慣性を殺すため地に足を突っ張り、アスファルトや黒土を盛大に巻き上げる。激しい振動が廃墟同然の中央駅を揺らした。
やがて停止した初号機はガメラや上空の巨人たちを一瞬見やり、こちらに駆け寄ってきた。紫色の巨体が近づくたび、歩調による揺れが大きくなる。
「初号機……来て、しまったのか」
これから古都で生じるだろう激しい戦闘を考えれば、初号機を操る“彼”に来てほしくはなかった。
初号機は俺の眼前で足を止め、視線を合わせるように身を屈めた。もっとも、それでもまだ見上げるほどの位置に鋭い相貌はあったが。
『あの、巨影サイトのカメラマン、の人ですよね』
少しおずおずとした様子でそう尋ねられ、俺は大きく頷く。
「そうだ! 無事だったんだな、キミも初号機も」
最後に見た姿は、ゼルエルを圧倒した暴走状態であったため心配していたが、どうやら問題無いようで安心した。
『はい! あの、あなたに渡す物があるんです』
「渡す物?」
よく見れば、初号機はラグビー選手のように小脇に何かを抱えていた。
『はい。スイッチがあります、それを押せば開きます』
初号機の巨大な手が、コンテナのようなケースをテラスの中央に置く。近づいて見れば確かに、プラの蓋がされた分かりやすいスイッチがあり、言われるがままそれを押してみた。
するとケースは蒸気のような白煙を吐き出し、見る間に展開されていく。二重三重にも厳重に守られたその中身は、非常に小さなものだった。
「これ、インカムと……カメラ?」
たったその二つだけが中央に鎮座していた。しかし俺はハッと息を呑む。
「これ、俺がネルフに没収されたカメラじゃ……!」
『まだ触れないで! 先にインカムを着けてください』
カメラに伸ばしかけた手を止め、指示通りインカムを耳に掛ける。すると聞こえてきたのは、あの白衣の女性の声だった。
『お久しぶり。私のこと覚えてるかしら?』
「ええ、まあ……忘れようにも」
顔を手で覆って答える。ネルフで彼女から受けた尋問は、忘れようにも中々忘れられるものではない。
『そう。なら単刀直入に依頼するわ。これから起こる全てを、それで撮影してほしいの』
一瞬、その内容に思考が止まる。
「……ちょ、ちょっと待ってください! いきなり何ですか!? それにあなたは知らないでしょうけど、俺が巨影を撮ったばっかりに――」
『世界中でデストルドーが高まり、黒い巨人が出現してしまった?』
先を打って放たれた言葉に息を呑む。
「……なんでそれを」
『ネルフの諜報能力の賜物ね。時間が惜しいの、簡単に説明するからよく聞いて』
一言一句聞き漏らさぬよう、インカムを手で押さえる。聞き耳を立てるように、コスモス姉妹も傍に寄ってきた。
『今地球上を取り巻くデストルドー……死への欲望、とでもしておきましょう。それがこのまま高まりリビドーを、つまり生への欲望を失った時、人はどうなると思う?』
「それは……死、では」
『有り体に言えばそうね。でも
……全く、理解が追い付かない。
「LCLって、あの、エヴァのプラグの中の液体ですか?」
『そうよ。あれこそ原始の姿、生命のスープといったところね』
「わ、わけが分かりませんよ! 絶望に呑まれたら、液体にって?」
『もちろんそれだけが条件じゃないけど……まあ、今はそれでいいわ。要するに、そのカメラはLCLに漬かって変異を起こしたの。LCLに還りかけている人々、絶望の中にいる何十億という人間とリンクしている』
「リンク……というと?」
『撮影した写真や映像が、リアルタイムで見えるの。脳に直接ね』
「ほ、本当なんですか!?」
『ネルフの確かな研究成果よ。触れてみれば……分かるわ』
激しい動悸を感じながら、恐る恐るカメラに手を伸ばす。見た目の上では、特に目ぼしい変化は見受けられない。
しかし黒光りするボディに肌が触れた瞬間、俺は彼女の言葉の意味を知る。世界中の無数の人間の恐怖、絶望が漠然と胸中に訪れる。彼らと俺の体を結ぶ紐のようなものが、感覚の上で捉えられた。
『カメさん!』
『落ち着いて……じきに慣れるはず。そのカメラを通じた感覚はあくまで客観性のもの。あなたを壊すことはないわ』
白衣の彼女の言う通り、間もなくその不思議な感覚にも慣れた。繋がりは感じられるが、感情にまでは強く作用しない。俺を心配そうに見上げるコスモス姉妹に、少し微笑んで頷く。
「理解……できました。このカメラの力が」
『カメラはカメラマンに。あなたの手で希望を見せるのよ、世界中に』
でも、と俺は俯く。
「希望なんて、あるんですか? あの黒い巨人に加えて、もうじきギャオスの群れがここに」
『できなければ、全て無駄になって滅びるだけ。足掻けるだけ足掻いてみるの。私たちも、初号機も』
その言葉に初号機を見上げ――その奥の少年を見つめる。
「まだ、巻き込むんですね」
『言っておくけど、これは彼の希望でもあるの』
「……え」
『彼、あなたに言いたいことがあるそうよ。聞いてあげて』
俺が固まっていると、頭上から彼の声が降り注いだ。
『あの、僕、まだお礼を言ってませんでした』
少年特有の高い声でそう言って、彼は一つ息を吸った。
『ありがとうございました。僕、色んなところで助けてもらって……』
「……いや。お礼も謝罪も、俺たちが……大人がすべきじゃないか。キミみたいな子どもに縋って――」
『いえ!』
強い否定の言葉に、思わず肩が揺れる。
『僕は……確かに、怖い目にもつらい目にも、たくさん遭ったけど……でも。僕は、エヴァンゲリオン初号機のパイロットだから』
俺は彼の姿を……高く見上げた。
『あのカメラを触った時、そう思ったんです、強く。僕ができること、やれること。怖いけど……やれることがあるって』
初号機が立ち上がる。
『撮ってください。僕とエヴァは最後まで……戦って、みますから』
そう言い残し、初号機はその場を去る。俺は二の句も告げないまま立ち尽くし……手を固く握りしめ、額に押し当てた。祈るようなポーズのそれは、自らへの激しい憤りを含んでいた。歯を固く食いしばる。
白衣の彼女は何も言わず待っていた。
「……やります。俺が撮ります!」
『それでこそよ。何かあればまた話しかけて』
そこで彼女との通信が一旦途絶える。俺を見上げるコスモス姉妹に力なく笑いかける。
「俺、やっぱり馬鹿だ。救ったつもりだったんだけど」
「……あなたが彼を救ったからです」
「あなたが希望を与えたんです」
「そうか……それで今、今度は俺が……」
笑いながらカメラを強く握りしめ、夜空を強く睨みつける。
「俺は……行くよ」
『カメさん、あなたの力は』
「ああ、そうだ。エヴァも機龍もだ。救ったつもりが――」
俺が力を与えたと思っていた。けど、それは
足の裏に巨影の力を感じる。これはそう、ガメラの飛行能力だ。
一気に炎が吹き上がり、テラス一帯は白煙に包まれる。
「おっ、とっと!」
すこしバランスを乱すが、すぐに慣れて体勢を整える。能力を加減すれば、宙に留まることもできる。
『カメさん、あなたは一人じゃありません。私たちも――モスラもいます』
「ああ、そうだよな!」
駅舎の陰から極彩色の巨大な翼が広がり、モスラがその姿を現す。俺も足からの噴射を強め、一気に古都上空へと飛び上がる。炎と黒煙が立ち昇る古都が視界一杯に広がる。
「与えたつもりが、与えられて……ユーコ、そうだよな」
俺の中に取り入れた彼女の残滓へ、そう呼びかける。俺と彼女もそうだ。ずっとそうだった。
だから、飛べる。俺はこの空を……飛べる!
LCLとカメラの下りは完全に独自解釈です。ゆで理論みたいなものと思って読み流してください。