巨影を知らない都市 作:ギガンティック芦沢博士
ネクサスは主人公と同様の力で主人公を治癒し、ザギと戦闘を始める。
主人公は無力感に包まれるが、以前ネルフに徴収されたカメラが、絶望を抱える人々を救うカギだと託される。
それでも希望を見いだせない主人公を、初号機パイロットの少年が勇気づける。
主人公は気持ちを奮い起こし、ガメラの能力で古都の空へ舞い上がる。
生身で飛行できる速度の限界は、前方に展開したATフィールドによって簡単に突破できた。古都を一望できる高度までの上昇は、体感時間でほんの十秒足らずだったと思う。
相変わらず、いや更に勢いを増したように見える業火が古都を包んでいた。古い町並みが残るだけあって木造建築が多く、巨影によって消火作業もできないのだから、鎮火の目途など立つはずもない。
その只中でガメラはじっと佇み、上空の二体の巨人を見上げている。ザギとネクサスの空中戦は熾烈を極めていた。両者ともに目まぐるしく飛び回り、衝突したかと思えば光輪を投げ合う。つかず離れずの距離で互いに決定打の機を窺っているようだった。
それでも押され始めているのはやはりネクサスの方で、俺が見守る最中、ザギの放った飛び蹴りを受けて大きく吹き飛ばされた。しかしすぐに体勢を立て直し、再び空中戦に挑んでいく。ザギは体をほぐすように首を回し、どこか楽し気な様子でそれに相対した。
「……カメラを回してなくてよかった」
首に下げたカメラを握りしめながら呟く。この光景を最初に伝えては、不利な状況にあるのが一目瞭然だ。
『そうね、一度リンクが始まると切断は難しいの。でも遅れちゃ本末転倒よ。タイミングはしっかり見計らって』
「はい」
インカム越しに白衣の彼女の指示を聞く。これからの状況とその撮り方次第でザギに送られる力の増減が決まる……そう考えると、重責が肩に圧し掛かるのを感じる。
その時、俺に並ぶように横合いを飛んでいたモスラから、コスモス姉妹の声がした。
『カメさん、モスラはネクサスの援護に回ります』
「援護? 大丈夫なのか、あのザギ相手に」
『はい、モスラだって成長しています』
姉妹の信頼に応えるように、モスラが甲高く鳴く。
「分かった、気を付けて」
『はい。カメさんも』
モスラは一層強く羽ばたき、あっという間に俺を置き去りにした。凄まじい風圧はATフィールドのおかげで防げたが、モスラの持つ強大な力を肌で感じた。
モスラの後ろ姿を見送りながら、俺はカメラを上空へ向け構えた。
『そう、ここなのね』
「はい、ここしかない……!」
『あなたが言うならそうなんでしょうね』
異なる巨影が協力し合う時、そこには必ず希望があった。モスラとウルトラマンコスモス、エヴァとウルトラマン、ガメラと白い巨人――ウルトラマンネクサス。他にも複数のウルトラの一族、機龍とモスラ……数え上げれば、それだけの巨影たちが共闘し、人類に希望を与えてきた。
だから、思う。人類を絶望で覆いつくそうとしている巨影だが、希望を与えられるのもまた、巨影なのだと。
カメラを起動した途端、再び数多の人間とのリンクしたのを感じる。彼らに内在する感情は仄暗い絶望と、驚愕と困惑。突然脳裏にカメラを通した映像が流れ込むのだから、それも当然だろう。
〈なんだよ、これ……〉
〈幻覚?〉
〈おい、これって日本の古都の……〉
〈今度は何なんだよ!〉
混乱する人々の声がどこか遠く聞こえた。彼らに何を説明する暇もなく、モスラは巨人たちの戦場に果敢に飛び込んでいった。その極彩色の姿にザギが気付いた途端、モスラの触角が金色に輝き、一対の光線が放たれた。
ザギは慌てた様子でそれを回避するが、立て続けに放たれる光線にしばし防戦一方になる。やがて光線が一時止むと、憤った様子でザギは吼え、モスラへ向かう。そこへ横入りしたネクサスが蹴りを放つが、ザギは素早く反応し腕で受け止めた。しかしその隙にザギの背後へ回り込んだモスラが、無防備な背中へ光線を命中させた。激しく火花が散り、ザギは回転しながら前方へと吹き飛ばされていく。
〈おぉ、なんだ!?〉
〈あれ確か、モスラ?〉
〈なんだよ一体、あの黒い巨人は〉
〈銀色の巨人はウルトラマン?〉
ますます人々の混乱に拍車がかかる。このリンクが双方向性であることは感覚で理解できたので、俺は声に出して皆に語り掛ける。
「みんな聞こえるか。あの黒い巨人はダークザギ。この巨影災害の発端、つまり黒幕、真犯人だ」
人々の心がざわめく。大量の情報を突然、直接脳に送り込まれているのだから、それも
「ここは日本の古都。もう報道されてると思うけど、ここにもうすぐギャオスの大群が押し寄せてくる。たぶん、世界中から」
混乱がより大きな絶望に呑まれていくのが分かる。だからこそ、ここに集った味方の姿を次々にレンズに映していく。
「でも、見てくれ! ガメラとエヴァ、モスラ、それにウルトラマンネクサスがいる。彼らがここでギャオスを迎え撃つんだ」
『ネルフもね』
念を押すように白衣の彼女が言う。
「そう、それにネルフも……だから、ここでザギを、ギャオスたちを倒せれば、巨影災害は終わる。これ以上巨影は生み出されないんだ」
そのはずだ、とは言わず、確信を持った言葉を使う。今だけは多少の偏向報道もやむなしだ。
何億という人々はその言葉に僅かな希望を抱いたらしいが、それでもリンクは殆ど失われない。相変わらず絶望を根底に抱きつつ、疑念を膨らませていた。
〈でも、ギャオスが何体いると思ってるんだ〉
〈期待なんかできないよ……〉
そんな諦観が次々に浮かび上がる。
それに拍車をかけるように、ネルフからの通信が入った。
『今情報があったわ。古都に向かって三方向からギャオスの一群が迫ってる。北東、南西、北西……到着予定はほぼ同時刻。間もなくよ』
その報告に息を呑み、ミュートをかけるようにリンクを一時的に断つ。何の気無しに、ただ感覚でそれが
「数は!?」
『それぞれ百と二百の間というところね。ガメラが南西に近いから、初号機には北西を担当させるわ』
「それじゃ北東は! それに初号機は大丈夫なんですか!?」
ネクサスとモスラはザギの相手で手一杯で、北東をカバーできない。加えて、初号機の性能は人類の兵器として破格のものだが、百を超えるギャオスを相手取るには余りに“
『問題ないわ。その二つを同時に解決するものが来ます』
「同時に?」
その時、山間から現れた輸送機に吊られ、銀色の龍――機龍が姿を見せた。ゴジラとの戦闘で負った損傷はすっかり修復され、その体表に古都の炎を映している。
「機龍! 機龍に北東を?」
『そうよ。なんとか間に合ったみたいね。手に持っている物が見える?』
カメラに収めて見れば、機龍は何か巨大な兵器……三本のブレードがついた機関砲のような物を持っていた。両脇にはミサイルらしき物も確認できる。
「あれは?」
『あれこそエヴァのため開発された最新複合兵器、“マステマ”よ』
「マステマ……」
計二機の輸送機は初号機の傍に降下し、機龍が地に降り立つ。初号機が近づくと機龍はマステマを差し出した。
『大型機関砲を軸に、接近戦にも対応するためプログレッシブブレードを装備。そして目玉は……まあ、使えば分かるわ』
どこか楽し気にそう語る彼女はどこか不穏だったが、気を取り直してリンクを再接続し、皆にマステマの説明をする。やはりというか、不安を解消させるには至らなかった。
南西にガメラ、北西にエヴァ、北東に機龍という配置につくとほぼ同時に、それぞれの方角の遥か彼方の空を、黒い影が覆いつくした。渡り鳥のように見えるその姿を捉えた途端、リンクする人々の心に恐怖がせり上がってくる。
「あれが全部……」
港湾都市や首都の繁華街で猛威を振るった、怪鳥ギャオス。
『いい? それぞれ合図と同時に発射よ。決してタイミングを逃さないで』
『了解!』
初号機パイロットの少年と、機龍の操縦者らしき女性の声が重なる。白衣の彼女がカウントを始め……ゼロと同時に、機龍の背部ユニットと初号機の構えるマステマから、一発のミサイルが飛翔した。夜空に白線を描くそれが真っ直ぐに、ギャオスの群れへ向かっていく。
『あなた、目を瞑った方がいいわよ』
今更すぎる忠告にぎょっとする。
「あれ、何なんですか?」
『N2ミサイル。要するにクリーンな――』
もはや肉眼に見えなくなったそれが、ギャオスに接近する。
『――核ね』
え、と呟いたと同時に、二つの閃光が全てを照らした。
『恐怖を上塗りするのは、より強い衝撃よ』
そんな彼女の言葉が、世界を破滅させるような衝撃の中で聞こえた、気がした。