巨影を知らない都市   作:ギガンティック芦沢博士

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前回のあらすじ

N2ミサイルが炸裂し、ギャオスの群れを殆ど壊滅に追いやる。
残党が古都へと飛来するが、ネルフの装置により超音波メスを封じる。
ギャオスは接近戦を仕掛けようと降下。
ガメラが火球を放ち、戦闘が始まった。



stage22:闇を祓う光の巨影 ④

 エヴァ初号機がマステマの機関砲を撃ち放つと、無数の光球と化した砲弾が夜空を貫く。射線上の亜成体ギャオスは穿たれ、表皮が弾け飛び、血が跳ねる。翼をも撃ち抜かれたギャオスは、悲痛な声を上げて古都へと落下していく。

 不格好に羽ばたきながら落下したそのギャオスは、辛うじて即死は免れていた。眼球が飛び出した凶悪な顔に、しかし影が掛かる。次の瞬間、銀色に艶めく機龍の足がギャオスの頭部を踏み潰した。

 機龍は上空から襲い掛かる成体のギャオスに狙いを定め、口腔から二本の光線を放つ。ギャオスは機敏な制動でそれを躱すが、執拗に狙い来る光線にとうとう捕まり、羽を焼かれ大きく体勢を乱した。

 その瞬間、マステマの砲弾が急襲し、ギャオスはもんどり打つように落下する他なかった。その落下位置に立つ機龍は、ギラリと光る尻尾を大きく振り、まるで回し蹴りのようにギャオスに叩き込んだ。吹き飛ばされたギャオスは古都の街を破壊しながら転がり、停止する頃には既に事切れていた。

 成体ギャオスが二頭、上空を旋回しながら機龍を狙っていた。機を見計らい、一頭が高度を落とす姿勢に入ったその時。突如として下方から上昇してきたガメラがその首に咬みつき、白煙をたなびかせ更に上空へと連れ去ってしまう。

 痛みに暴れるギャオスだったが、ガメラの顎が緩むことはない。むしろだくだくと血は流れ出し、ますます悲惨に鳴くギャオス。とどめとばかりにガメラは口腔に炎を充満させ、ギャオスの首を焼き切った。力の抜けたギャオスの体が古都へと落下していく。

 その死骸の脇をもう一体のギャオスがすり抜け、ガメラへと向かっていく。ガメラは四肢と頭を甲羅に収め高速回転状態になり、反転して古都へと落下するように降下を始める。

 ギャオスもその軌跡を追って降下を始めるが、ガメラに追いつくよりも先に、初号機と機龍による対空迎撃に遭う。マステマの砲弾が、機龍の背部ユニットからのミサイルが殺到するが、距離が開いていることもあってそれらを掻い潜るギャオス。

 しかし弾幕の先へと抜け出してみれば、そこには顔を出して炎を蓄えているガメラが待ち構えていた。ギャオスが回避に移るよりも早く、ガメラの放った火球がギャオスを呑み込んだ。

 

 俺はそれらの戦いを余すことなく、カメラのフレームに収め続けた。ガメラの飛行能力がなければ到底叶わなかったことだ。古都を縦横無尽に飛び回り、それぞれの活躍を皆に届ける。

 初号機の持つマステマの機関砲は、亜成体であれば屠るだけの威力はあったが、成体相手にはやや火力に欠けた。しかし射程や弾速に優れるだけあって援護に回る機会が多い。

 機龍は様々な遠隔武器を巧みに使い分け、大小問わず着実にギャオスの数を減らしていた。その中にあってガメラを援護することも多々ある。

 そしてガメラは、自身も中空へと飛翔し、積極的に強力な個体を叩いていた。この戦闘において最も重大な働きを見せ、撃破数は他から頭一つ抜き出ているだろう。

「また落ちた! 全く順調だ、何の危なげもない」

 素直な感想ではあるが、どことなくワザとっぽく聞こえるのは、人々のデストルドーからの脱却を少しでも促すためだ。実際この戦いが始まってからというもの、絶望を抱きデストルドーに呑まれかけている人は相当に減少している。

〈なんか、いけそうじゃないか?〉

〈光線がなければギャオスなんてこんなものか!〉

〈ガメラは複雑だけど、今は応援してるぞ!〉

 そんな思考が彼らの中に渦巻き、希望を抱き始めた者からリンクが切断されていく。切断された彼らは戦局の経緯を把握できないだろうが、今はそれでいい。ザギに絶望という感情を供給さえしなければ、これ以上の強化は叶わない。

「いいぞ、このままなら……」

 遥か上方、夜空の中で戦うザギとネクサス、モスラを見上げる。光線や光輪が飛び交い、時折激しく衝突する。その戦闘は未だ互角に見える。

『まだ楽観視はできないわよ。古都にギャオスの第二波が向かってる』

 白衣の彼女がそう告げ、俺は一層気を引き締める。

「今度は何体!」

『百はいかない程度。小型、特に幼体に近い若い亜成体が多いわ』

 その内訳に少し安堵を覚えるが、しかし百体ともなると今対処している群れより規模は格段に上がる。

「N2ミサイルはどうです、使うんですか?」

『……いえ、あの双子の言う通り、そう易々と使える代物じゃないのよ。ここは正面から迎え撃ちます』

 彼女の言葉と同時に、第一波の最後のギャオスがガメラによって屠られた。

 

 間もなく、北東の空に点々とシルエットが見え始めた。

「確かに、第一波みたいな密度じゃない。小型が多いからか」

 横に伸びた群れの影は、それほど規模の大きいものとは感じられなかった。第一波の際、三方向から押し寄せた二百程度の群れと比べれば尚更に。

『初号機、機龍は成体から大型の亜成体を優先的に対処』

『了解!』

 パイロットたちの声が揃う。

 その時、ふとカメラ越しに気付いたことがあった。

「あの、小型の個体がまだ見えません」

『もっと下よ』

「下?」

 いわれた通りにカメラを下方、山間を通る道路の方に向ければ、そこから忍び込むように飛来する小型のギャオスたちを捉えた。

「あそこか!」

『視線を上下に分けた? ……妙ね』

「妙って、何が?」

『ギャオスの、それもあれほどの大群に、そんな戦略めいた行動がとれるのかしら。まるで誰かに統制されているみたい』

「誰かって、まさか……!」

 その時、上空から声が降りかかる。

『そうさ、俺だよ』

 見やれば、戦闘中のザギがちらりとこちらに視線を向けた。

『簡単な命令しかできねえが、それで充分だろ?』

 ネクサスの攻撃を躱しながら、ザギは余裕を崩さず語る。

「小型をいくら忍ばせたって――」

『いや充分だね、耳障りな音を止めるには』

 息を呑む。ザギの狙いを察し、思わず視線をそちらに下ろす。

『簡単な命令だ。“耳障りな音を発するメーサー車(もの)を狙え”ってな』

 小型のギャオスたちは()()早く飛来し、古都の外郭にまで迫っていた。

「まずい、早くエヴァたちに命令を!」

 超音波メスを妨害するメーサー車を破壊されれば、圧倒的な物量と相まって勝算はほぼ消えるだろう。

 しかし、白衣の彼女は冷静だった。

『いいえ、そのままよ。成体、亜成体を優先』

「そんなことしてる間に……!」

『問題ないのよ。見てなさい』

 その時、街中に複数の気配が動くのを感じ、視線とカメラを向ける。そこには、シェルターのような物から次々に展開する、自衛隊所属のレイバー部隊がいた。

「レイバー、今までどこに!」

『地下鉄や地下街、そして巨影災害に備え全国に急造された地下シェルター。それらに避難させていたレイバーたちよ』

 彼らは方々に分散し、メーサー車の周囲へと展開する。その中には、第二小隊の駆るイングラム二機と、あの男型巨人の姿もあった。

「無事だったのか! よかった……」

『イリスとガメラの戦闘が始まった時点で、全機に退避命令が出されたわ。対巨人はかなりの戦果を挙げたし、中央駅付近に巨人が集中していたおかげで、イリスの爆発でほぼ壊滅した状況ね』

 様子を見るに、第二小隊と男型巨人は同班となり、この作戦に当たるようだった。

「でも、彼らが守るんですか……!?」

『そうよ。今や最前線に立つ彼らしか頼るものがないの』

「でも、危険ですよこんな状況で! ギャオスはあまりに……」

 ギャオスは成体ともなれば体長八十メートルを優に超える。レイバーは一律しておよそ八メートル前後。単純に比較して十倍にもなる差がそこにはある。

『やめるよう命令しても無駄よ。彼らはやるわ』

「え?」

『志願制なのよ。覚悟がなければ足手纏いだもの』

 それを聞いて、俺は……彼らをカメラで追い続けることしかできなかった。

『彼らの中にも今まさに、あなたの撮る映像を見ているものがいるかもしれないわね』

 レイバーたちは次々に、メーサー車の荷台から武装を取り出している。アサルトライフルからバズーカ、近接用であろうブレードも中には見える。

『ネルフは彼らの勇気に対し、バックアップを惜しみません。これが人類の総力戦よ』

 そしてついに、小型ギャオスとの戦闘が一部で始まった。どの個体も小さくともレイバーと同程度という圧倒的な質量差を、ネルフ謹製の装備は埋めて余りある活躍を見せた。

 自衛隊のレイバーたちは統率の取れた編成で銃弾を浴びせ、弱ったところを近接武器で仕留める、非常に効率的で確実な戦闘を見せていた。

 その中ではやはりというか、第二小隊と男型巨人の急造チームは悪目立ちしていた。イングラム二号機はトリガーハッピー状態で爆笑しながらアサルトライフルを撃ちまくり、一号機はそのフォローに回って必死に刺股を振り回している。

 男型巨人は対巨人部隊のようにカッター状のブレードを両手に持って、まるで好き勝手に大暴れしている。しかしそうであっても器用にギャオスの首を切り落とすあたり、知性というか、訓練を重ねた軍人めいた技巧を感じられる。

『ねえ、なんかあっちの方がかっこいい!』

 一号機の女性は男型巨人の装備に羨ましそうに声を上げ、

『うわはははははは! ネルフ様様だぁ! じゃんじゃん来やがれぇ!』

 二号機パイロットはもはや返事すらせず、ひたすらに銃弾を放ち続けていた。

 ……この戦いの行方がどこに向かうか分からないが、彼らだけはなんとなく、しぶとく生き残る気がしてならない。

 

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