巨影を知らない都市 作:ギガンティック芦沢博士
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前回のあらすじ
機龍、初号機、ガメラの戦いは圧倒的で、ギャオスの第一波は難なく凌いだ。
しかし第二波は超音波メスを封じるメーサー車を狙う個体が混ざっていた。
それに対処すべく、自衛隊のレイバーやイングラム、男型巨人が戦線に参加する。
地上のレイバーらの奮闘もあり、ギャオスの第二波はほぼ無力化されていた。上空を逃げ回る最後の成体ギャオスにガメラの火球が掠め、片方の翼が炎上する。きりもみ状態で地上へ落下するギャオスを、最後は初号機のマステマのブレードが貫いた。
三本の刃が胴から飛び出し、口腔から血を溢れされるギャオスは、最後の力を振り絞って超音波メスを放とうとした。しかし、レイバーたちが守り抜いた反超音波メーサー車がその光を霧散させ、間もなくガクリとこと切れた。初号機がマステマを軽く振り、その遺骸を地へと投げ捨てる。
これで第二波は乗り切った。地上を見下ろせば、成体から幼体までのギャオスの骸が四方に散在している。その中で、レイバーたちが腕を振り上げ一時の勝鬨を上げていた。いくつか大破したレイバーもあるようだが、死者は未だ出ていないようだし、ここは勝利とって過言でない。
男型巨人は咆哮し、イングラム二号機は上空へライフルを撃ち放っている。
『喰らいやがれ黒いのぉ!』
『届かないって、やめなよ!』
どうやら現在も交戦中のダークザギに向けた発砲らしいが、一号機の彼女の言う通り、彼らの高度はあまりに高い。ネクサスの銀色、モスラの極彩色が翻る様が辛うじて捉えられるだけで、俺の目にはダークザギは夜闇に紛れて見えづらい。
その時、地上から響いた轟音にカメラを向ければ、ガメラの足元から白煙が噴出し、今にも飛び立とうとしていた。
「ザギともやるつもりか!」
ロケットの打ち上げのように上昇し、俺の真横を通過していくガメラ。その風圧から身を庇っていると、あっという間に夜空の中に溶け込んでいった。
ネクサスとモスラを相手に縦横無尽に立ち回るザギに向かい、真下から三発の火球を立て続けに発射する。気付いたザギは咄嗟の回避で全弾を躱し、ガメラへと振り返る。
「来たか、全く骨が折れる……!」
その様子にはまだまだ余裕が残っていたが、言葉の節にはどこか苛立ったニュアンスが含まれていた。やはり、と俺は確信する。
「絶望の供給が明らかに減ってる……! ザギの力はそう増してない!」
皆の奮闘の様子が伝えられたことで、デストルドーによるリンクはあからさまに減少していた。残る人々の抱く絶望も、当初ほど悲惨なものではない。皆が希望の兆しを見出し始めている。
ザギは三体の一斉攻撃を高速で回避しながら、俺の呟きに応じる。
「その通り。ったく粘りやがるな」
「当然だ! あと何体ギャオスが来るのか知らないが――」
「ああそうか知らないからかぁ」
にんまりと笑うように、厭らしくザギはそう言った。
「――なに?」
「ちゃんと探ってみろよ、それかネルフに数えてもらえ」
言われるがまま、意識を集中させ巨影の気配を探れば、俺の全身に悪寒が走った。震える喉でインカムに囁く。
「次に……ギャオスは、何体、来るんです」
『……それを知ってどうするの』
白衣の彼女の
俺が黙っていれば、彼女は溜め息と共に明かした。
『今、隣県の上空に集結しているわ。戦力の一斉投入というわけね』
「……何体ですか」
ふ、と彼女が鼻で笑った。
『二千よ』
まさしく桁が違うその数に、俺は息を呑んで二の句が継げなかった。
第一波が合わせてせいぜい六百、第二波はそれ以下。さらに言えば、第一波はN2ミサイルによってほぼ壊滅状態だった。
「でも、N2! あれをもっと撃ち込めば……!」
『……残念だけど、あれは急造品なのよ。機龍と初号機に二発ずつ、それで今持ち得る全てよ』
……もはや、俺には何を言うこともできない。
彼女はまた小さく笑う。そこに含まれる自嘲と諦観は感じ取れた。
『本当はこの場への投入も早すぎるくらいよ。まあ……それも言い訳ね。科学は、一足遅かった』
その時、古都を囲む山々の遥か向こうの空に、黒い雲が
『……私たちが、全力で戦います』
『きっと守ってみせます』
モスラから、コスモス姉妹の声がそれぞれ届く。その声音は、やはりN2兵器に対して複雑な感情を孕んでいるようだが、彼女たちの言った言葉に嘘偽りはないだろう。そういう決意もまた読み取れた。
『もはや防衛も無駄ね。全レイバーは撤退、シェルターへの避難を急いで』
『ま、待ってください! 自分は最後まで戦います!』
イングラム二号機のパイロットが、白衣の彼女の命令に反抗した。
『今度は捌き切れない成体まで車両を狙うの。確実に死ぬわよ』
『しかし、ここでギャオスとあの黒いのを倒せなければ、どうせ助からんのでしょう!? なら自分はやります! 最後までやりまぁす!』
『じ、自分も!』
『私も!』
続々と賛同の声を上げる自衛隊のレイバー隊員たち。その声に溢れて何も聴き取れなくなった応酬を余所に、俺は上空で激しく争う三体の巨影を見上げていた。特に、火球や高速回転でザギに対抗するガメラを。
「ガメラは……分かってたのか、ザギを先に仕留めるしかないって」
ガメラの行動が迅速だったのも、彼だけが知りえる感覚でギャオスの動向を把握していたからかもしれない。
しかし、どうやらそれも間に合いそうにない。まるで入道雲のように空に立ち上ったギャオスの群れが、徐々にその姿を露わにし始めた。その数や密度たるや、まるで一つの生き物のように蠢く巨大な影の集積体。
地上を見れば、初号機と機龍がギャオスの群れを見据えて構え、レイバーたちも避難を始める機体が出始めた。それでもなお、その場に残り続ける者が大半だったが。
『人類の希望を、味方である巨影を、見捨てることはできません!』
『子どもが戦っているというのに、逃げ出す訳には!』
戦士たちの声が戦場にて誇りを叫ぶ。
『そんな、初号機なら平気です! 早く逃げて!』
初号機のエントリープラグから、かの少年の声が届く。しかし彼らの決心は強く、堅い。最初に避難した機体を除き、もはやその場を動く者は無かった。
『……これ以上は、何も言いません。初号機、N2ミサイルの発射用意!』
『はいっ!』
初号機がマステマを構え、徐々に迫りくるギャオスの群れに向ける。カウントの後、号令が下る。
『発射!』
直後に飛翔し、夜空へと伸びる白線。その行方、ギャオスの群れの中に飛び込んでから数秒の後、今夜四度目の小太陽が灯った。一瞬の後、音とも取れぬ轟音と衝撃波が全身を貫き、大気の震えを臓器で感じ取る。
それが収まって目を開いて見れば、ギャオスの大群の中にぽっかりと抜け落ちたような穴が広がっていたが、全体からすればそれも一部に過ぎなかった。
『ギャオス第三波の、およそ二十パーセント、約四百頭のギャオスの撃破を確認』
「あと、千六百体……」
口にしなければよかったと、思わず後悔した。
間もなく、無数のギャオスが翼で空を切って飛来した。その数はこれまでの比ではなく、古都の夜空は瞬く間に旋回するギャオスに埋め尽くされた。まるで竜巻の中に飛び込んだような、悪夢そのものといった光景だった。
それを映すカメラから伝わってくる、人類を呑み込む絶望。それは色濃く深みを増し、今まさに芳醇なエネルギーをザギへ供給しているのだろう。奴は心地よさげに腕を広げ、胸を膨らませ深く息を吸ったようだった。
「いいねぇ……おっと」
モスラの放った光線を難なく躱し、余裕ある態度で腕を組んだ。
「そら、お前らも対処しなくていいのかぁ? 地上の奴らだけじゃ持たないぜ?」
ザギは粘り気のある声で、相対するネクサスたちをそう絡め取った。ネクサスは周囲を見渡し、モスラとガメラに一つ頷く。それは、“ここは任せろ”という目配せだったようで、モスラとガメラは即座に反転し、ギャオスの群れへとそれぞれ突進していった。
それを皮切りとしたように、ギャオスの渦は形を崩し、まるで獲物を狙うピラニアのように古都の夜空を覆いつくした。こうして古都は上空から地上まで、ギャオスの大群が所狭しと飛び回る地獄となり果てた。
ガメラはかつてないほどの短い間隔で小ぶりな火球を放ち続け、確実にギャオスに手傷を与えていく。接近を許せば高速回転も織り交ぜ、ガメラ一体だけにギャオスの群れは大きく掻き乱されていた。
モスラは柔軟に翼を翻し、ギャオスを引き付け縦横無尽に古都の夜空を舞っている。しかしよく見れば背後に鱗粉を撒いているようで、金色の粉塵が後続のギャオスたちに降りかかり、それを吸った個体は苦し気な様子で戦線から離脱していった。
地上の機龍と初号機は、一撃離脱の戦法を取るギャオスに対し、それぞれミサイルやメーサー砲、機関砲などで状況を有利に進めていた。接近されようと機龍は元より対ゴジラを想定して近距離戦にも長けており、初号機もまたマステマのブレードを十全に活用して上手く対応していた。
しかし……あまりに、ギャオスの頭数が多すぎる。それぞれ相手取るギャオスは、千六百を単純に割っても四百にも及ぶ。
そんな中、あぶれた亜成体のギャオスが、上空を飛び回り逃げ続ける俺にも襲い掛かった。その鋭い牙が迫る中、俺は自身の内より湧き上がった“知識”を元に、カメラのシャッターボタンを押した。眩いフラッシュを嫌う素振りを見せたギャオスに対し、ここぞとばかりに連続してシャッターを切り、フラッシュを焚き続ける。
その個体は堪らず俺から遠ざかったが、続いて二体の幼体ギャオスが俺に突っ込んできた。深紅のデッドゾーンが俺の体を貫いている。
「くっ!」
足裏からの噴射を操り、一体目のギャオスの突進を躱す。しかし二体目の突進を躱しきれず……
「ATフィールドッ!」
咄嗟に張ったATフィールドをそのギャオスは破れず、しかし俺も勢いまでは殺せず、軽く吹き飛ばされた。
そんな中で、俺は……この頭に湧いて出た巨影知識に、確かにユーコの存在を感じて、無意識のうちに少し、微笑んでいた。
地上付近で再びジェットを噴射し体勢を整えるが、また別の幼体のギャオスが迫りくる。俺は道路上を低空飛行で逃避しながら、背面のギャオスに目を配る。血走った目で
しかしその顔を、巨大なブレードが打ち据えた。ギャオスの勢いもあって、血しぶきを上げてその首と胴がバラバラに飛んでいく。
急停止し振り返れば、イングラムと男型巨人が交差点にてギャオスに相対していた。
「無事だったか!」
『そっちもね!』
『カラスどもぉ! 往生せいやぁぁッ!』
アサルトライフルを撃ち続ける二号機、ブレードを振るう男型巨人。
しかし、そうしている間にもギャオスが集い始め、交差点は瞬く間に亜成体と幼体からなるギャオスらに包囲されていた。
しかし不思議なことに、威嚇はするものの一向に襲い掛かる雰囲気がない。
「なんだ……?」
「俺が止めてるんだよ。ちょっと話したくてな」
その声に見上げれば、ザギがゆっくりと俺たちの眼前に降下してきた。その遥か向こうの空で、ネクサスが無数のギャオスたちを相手に立ち回っていた。どうやら、ザギがギャオスを操って意図的に足止めしているらしい。
「さすがに諦めもつくだろ? こんな景色が広がっていればよ」
「……は、まだ俺の絶望はやらんよ」
アドレナリンの迸るまま、口元を釣り上げて言う。しかし、ザギはまだ笑いを含んだ様子だった。
「なあ、俺は不思議だったんだよ。なんであの女は……逃げなかった?」
「……何が言いたい」
「だからさぁ、なんであの女は
「……は?」
ザギの表情が、愉悦に歪んだ気がした。
「だからぁ、俺が力を奪ったって言っても、地球から逃げ出すにゃ充分なエネルギーはあったんだよ」
「……だってユーコは、今にも、消えそうだって……それで、俺の傷を治しながら、自分も……」
彼女はそう言った。それが彼女のためでもあると、俺は彼女を快く迎え入れた。……そのはずだった。
「はぁぁ? お前それ信じたのか? かーっ、泣かせるねぇその健気な心!」
だがよ、とザギは少しずつ上昇しながら、ギャオスが飛び交う夜空を背景に腕を広げた。その体が、紫がかった深い闇に覆われていく。
「あいつだけでも逃げてりゃ、こんなことにはならなかったのになぁ!」
ザギが闇を解き放った瞬間、心臓を槍で射抜かれたように、圧倒的なまでの重圧と恐怖が全身を貫く。時を同じくして、インカムから白衣の彼女の声が聞こえた。
『新たにギャオスの第四波、第五波出現! 数はそれぞれ……約、五千よ』
気丈だった彼女の声が、絶望に染まりゆく様が分かる。それは……俺も同じだった。
「お前は……最後だ、カメ。人類そのものをお前の前で全て、全て! その心を最高の絶望で飾り立てて、至高のディナーを完成させてやる!」
狂ったように笑うザギの声が、脳髄の奥にまで染みつくようだった。足元からせり上がる闇が、全身の熱と力を奪っていく。
「さてまずは……後ろの連中だ」
ザギが掌を向けた先は、イングラムと男型巨人。彼らは各々武器を構え、自身の数倍はあろうかという体長の相手に、最後まで戦う意思を見せた。
「や、めろ……」
声もろくに出ない。ザギにそれをさせたら……俺の心はもはや、戻れない。沈み込んでいくだけだ。
ザギの掌に黒い光が集った。
――その瞬間、上空で何かが光った。
ザギが咄嗟に身を翻すと、その体を掠めて光の輪がアスファルトに突き刺さった。それは高速で回転し、地表を抉りながら周辺のギャオスを次々に切り刻んだ。
「この……光」
見上げればそこに、六人の人影が並んでいた。六人の……光の巨人。
赤や青、そして銀からなる艶めく体表、闇の中で輝く瞳、胸の中心の青いランプ。
ウルトラマン、ウルトラセブン、ウルトラマンレオ。
そして、ダイナ、コスモス、ゼロ。
幾度となく、俺たちの旅路を開いてくれた、我らの――
「……ウルトラマン」
山間から、青白い一筋の光が夜空に伸びる。それはぐるりと百八十度の弧を描き、古都の上空を一閃。その延長線上にいたギャオスが、ことごとく焼き尽くされ、消滅する。
この理不尽なまでの、圧倒的な暴力。そのシルエットは夜の闇において、また光線に眩んだ目において、山の稜線のように見えた。しかし、俺はこの巨躯に覚えがある。英語表記にあっては神の名すら冠する、怪獣の王者。
――ゴジラが、古都を前にして咆哮した。
かくして、全てのキャストが揃った。巨影を追う旅路の終着点。
全ての岐路は、選択肢は、全てがここに繋がっていた。