巨影を知らない都市 作:ギガンティック芦沢博士
レイバーの奮闘もありギャオスの第二波は乗り切った。
しかし二千頭にもなるギャオスの第三波が襲来。
古都は混戦の様相が色濃くなる。
主人公がギャオスから逃れる中、ザギが目の前に現れる。
ユーコの隠していた真実、そして更なるギャオスの襲来に絶望に染まりかける主人公。
そこに、これまで出会った六人のウルトラの戦士、そしてゴジラが姿を見せ、戦局はまた一変する。
六つの巨影、十二の輝く瞳が俺を見下ろしていた。彼らは何を語らずとも、ただ一つ頷くだけで――ダイナはぐっと親指を立て――それだけで、俺の心に根差した絶望を取り払ってくれた。
「ウルトラの……! それに、ゴジラだと!?」
突然のことに、聞き馴染んだ叔父の声でザギは狼狽えていた。
鼻の下を擦ったゼロが、いの一番に突っ込んできた。急降下しながら頭部のブレードを取り外し、逆手に構えザギに向かっていく。
「くっ!」
ザギは地を蹴って飛び上がり、俺たちの頭上を通過してそれを躱す。ゼロの振るったブレードは空を切り、彼はアスファルトを砕いて着地した。その振動に俺やレイバーまで僅かに浮き上がってしまう。
『すんごぉい……! ほんとにウルトラマンだぁ……!』
『見りゃ分かることを言うな!』
呑気にゼロを見上げるイングラム一号機のパイロットに、珍しく二号機パイロットが突っ込んでいる。
ゼロがザギを見上げ、ザギは肩を戦慄かせてゼロを見下ろす。
「どこまでも忌々しい連中め……、ッ!」
その時、急降下してきたネクサスが目にも留まらぬ速度でザギに突進し、そのまま上空へと連れ去った。見れば、ネクサスを足止めしていた無数のギャオスたちに、ウルトラの戦士たちが逆に猛撃を加えていた。
ウルトラマンの放った光輪が冴えわたり、ギャオスたちの翼や胴をズタズタに切り裂いていく。セブンは複数のギャオスの突進を躱しながら、額のカラータイマーからエメリウム光線を放ち、次から次に撃墜していく。レオは飛行中であるからこその縦横無尽の格闘で、無数のギャオスと真っ向からインファイトに臨んでいる。
ダイナとコスモスは並び立ち、同時に光に包まれた。そして次に現れた彼らは、赤を基調とした戦士と化していた。
「あれは……ストロングタイプ、それにコロナモード!」
ユーコの力の残滓による巨影知識により、彼らの新たな姿の名を知る。そしてその特徴はすぐ露わになった。名が示す通り、彼らの戦闘スタイルは力強いものに変じていた。
ストロングタイプのダイナは、筋骨隆々の体格からギャオスに掴みかかり、ジャイアントスイングの要領で大きく投げ飛ばす。コロナモードのコスモスは従来の温和な雰囲気がガラリと変わり、振るわれるその力に一切の躊躇いはない。両者ともに、まさしく制圧のための変化であると見て取れた。
彼らウルトラの戦士は皆、対ギャオスにあって圧倒的な立ち回りを見せていた。それは素早く飛び回るギャオスに対し、同等かそれ以上の飛行能力を有するだけに、相性もあったのかもしれない。彼らにとっては無数のギャオスですら恐れるに足りないのだ。
いや、例え相手が何者であろうと、彼らは恐れることなどないのだろう。その姿こそが、人々に希望を与える象徴たり得るのだ。
「みんな、見えているか! ウルトラマンたちが、ゴジラが、ギャオスと戦ってる!」
デストルドーによるリンクで伝わってくる。人々は悲観と諦観の絶望の淵から、既に脱却しつつあった。
そんな時、ウルトラマンたちが何かに気付き、素早く身を翻す。その直後にゴジラの熱線が上空を横切り、避けきれなかったギャオスを焼き払っていった。
傍若無人、唯我独尊。味方も敵も一緒くたに薙ぎ払わんばかりの横暴に、人々のデストルドーの減少もわずかに停滞する。皆、ゴジラが敵か味方か判断しかねているのだろう。
しかし、俺には不思議な確信があった。ゴジラはこの場において、人類の味方ではなくとも、ギャオスとザギの敵であろうと。
ゼロはこちらに一度視線を落とし、上空の戦いに参加するため飛び立っていった。俺はイングラムと男型巨人に振り返り、笑顔を見せる。
「俺も、撮りに行きます!」
『え、じゃあ私たちも……!』
その時、インカムから白衣の彼女の声が響いた。
『駄目よ、全レイバーに再度避難命令を出します。これ以上の長居は無用よ』
『で、ですが! そう、メーサー車を守るべきでは!』
取ってつけたように食い下がる二号機のパイロットに、彼女はピシャリと言い放つ。
『ギャオスにメーサー車を狙う余力はもう無いわ。後は戦闘に巻き込まれないよう適宜位置を調整するだけよ。これで正真正銘、あなたたちの仕事は完了したの』
どこか労わるような声音でそう告げられれば、彼らもそれ以上の追求はできなかった。俺はガメラの能力で少しずつ上昇しながら、彼らにカメラを向ける。
「ありがとう、みんなの戦う姿が人々に希望を見せました」
『そ、そうかな……っていうか、それどうやって飛んでるの?』
『やい聞いてるか! この程度で諦めるなんざ、ぶったるんどるぞ人類!』
二号機がカメラを指さし、全人類に向けてきつい檄を飛ばす。そんな無体な、と思わないでもないが、その言葉がきっかけでリンクが切れた者もいるのだから、彼のエネルギーに満ち溢れた言動も決して欠点ばかりではないのだ。……在りし日の首都では破壊神だの何だのと言われてはいたが。
少し高度が上がり、じっと状況を観察していた男型巨人と目が合う。こうして正面から向き合えば、その目に宿る光は間違いなく人間のそれだ。正しい知性と強い意志を持ち合わせたそれだ。
彼は何を言うでもなく、ただ一つ、俺に頷いてみせた。感じ取れるものは、「託す」という感情。俺がウルトラマンやガメラ、モスラといった巨影に対し示すものを、今は俺が受け取っている。そうだ、これが俺にしかできないことだ。
俺もまた頷きで返し、一気に出力を高め急上昇する。見渡せば、古都の至る所で戦局は動いていた。
「……おい、ちょっと待て」
中でも一層目を引いたのは、相対するゴジラと機龍だった。互いに上空を飛び交うギャオスに目も暮れず、静かに、しかし鋭く視線をぶつけ合っていた。
漂う一触即発の雰囲気に喉が鳴る。こんな状況を映してはまた人類のデストルドーが上昇するのではないか、という懸念はあるのだが、思わず見入ってしまう。
そして遂には、互いの口腔から光が漏れ出す。ゴジラは青白い熱線の光、機龍は二連メーサー砲の黄色い光。息を呑む間にそれが放たれ……互いの背後に迫っていたギャオスを同時に撃ち落とした。
ゴジラの熱線を浴びたギャオスは爆散し、機龍の光線を浴びた個体は地に落ちてゴジラの足元に転がった。ゴジラは大きく尾を振り上げ、そのギャオスに容赦なく振り下ろした。
力なく息絶えたギャオスを睥睨しながら、ゴジラは背後へと振り返る。機龍も同様に背を向け、二体は背中合わせの状態で上空から襲い来るギャオスを続々と迎撃した。
その光景に……俺は言い知れぬ感動を覚えていた。二体のゴジラが互いに背を預け共闘する様は、以前の港湾都市での死闘に立ち会ったこともあって、ただの共闘以上に特別なものを感じさせた。
撮影を続けて正解だった。リンクがまた次々に途絶えていくのを感じる。
地上ではもう一つの動きがあった。マステマを構えるエヴァ初号機を庇うように、ウルトラマンとセブンが並んでギャオスを迎え撃っていた。彼らとって紫の巨人を駆る少年は庇護の対象なのだろう。
しかし、彼は巨影災害の中で成長した“男”だった。初号機は二人の背後からマステマを撃ち放ち、襲い来るギャオスの翼を撃ち抜いた。驚いたように振り返るマンとセブンを置き去りに初号機は駆け出し、落下するように飛来するギャオスをマステマのブレードで突き上げた。
痛みに金切り声を上げるギャオスに、とどめとばかりに再び機関砲をゼロ距離から放つ。無数の砲弾が胴を貫通し、ギャオスはその活動を停止させた。
構えを解いたマンの方をセブンが叩き、頷く。その彼らの横合いをレオが駆け抜け、初号機に迫っていた別のギャオスにタックルした。吹き飛ばされ地上に転がるギャオスを睨み、初号機に対し頷くレオ。これに初号機も頷きを返し、彼らは同時に駆け出した。ギャオスもこれを迎え撃たんと立ち上がる。
レオと初号機は完璧に
ああ、と思う。どうして、この光景を見て絶望などできようものか。こんなにも力と勇気に溢れた闘士が奮闘する中で。
リンクがまた切断されゆく。その間際に届く声の多くは、巨影に対する応援で溢れていた。まるで子どもがヒーローを応援するように無心で、大きな声だった。