巨影を知らない都市   作:ギガンティック芦沢博士

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前回のあらすじ

ウルトラマンたちの参戦で戦局は有利に傾いた。
ゴジラですらザギとギャオスを敵とし、機龍との共闘まで果たす。
更にエヴァとウルトラマンたちの連携。
その光景を前に、主人公の中にもはや絶望は無かった。


stage22:闇を祓う光の巨影 ⑦

 ウルトラマンたちの参戦により、古都の上空では多元的な戦闘が繰り広げられていた。縦横無尽に飛び交い、多彩な光線を放つ彼らは夜空の中でひと際目立つ存在だ。

 その中であっても、モスラの鮮やかな翼の翻る様は、見ていて惚れ惚れするものだった。

 空を埋め尽くさんばかりのギャオスの群れ。その隙間を縫うように舞い、煌びやかな鱗粉を後方に振りまいていくモスラ。直接の戦闘ではなく、敵の身体の自由を奪い他者を援護する、まさにコスモス姉妹の人柄を表すような立ち回りだった。

 ――彼女たちを奪われた際のモスラの荒くれぶりを体感している身としては、モスラ自身はそこまで穏やかな性質ではないのでは、と思っている。

 閑話休題、そんなモスラに対し、更に上方から降下し襲い掛かるギャオスの個体があった。

「危ない!」

 俺の声を姉妹が聞き取ることを期待し叫ぶが、結果としてそれは徒労だった。

 モスラの危機を察知したウルトラマンゼロが素早く構え、父のセブンと同様の細いレーザーを額から発射する。それを顔面に受けたギャオスは苦悶の金切り声を上げ、逃げ去るように軌道を変えた。

 しかし、その先には不運にもガメラがいた。彼はヒレ状の腕と尾、頭を甲羅に収め、ジェットを噴射し高速回転を始める。そして這う這うの体のギャオスに衝突し、そのまま鋭利な甲羅の角で皮膚を、肉を削ぎ落していく。ギャオスの声はすぐに消え、ボロ雑巾のようになった体が枯葉のように落下していった。

 大きく旋回するモスラをゼロは指差し、その指を立ててチッチと振った。まるで「危ないぜ、気をつけな」とでも言わんばかりのキザなジェスチャーだったが、なんとモスラは彼に向かって光線を放った。

「え!? あ、ああ」

 一瞬面くらうが当然、それはゼロを狙ったものではなく、彼の背後に迫っていたギャオスに放ったものだった。触覚からの光線を受けたギャオスは体勢を崩して落下し、下方で待ち構えていたダイナの拳の餌食となった。

 どことなく悔しそうにするゼロの背を、後方から来たコスモスが軽く叩いていった。何か言いたげな様子で手を伸ばすゼロの肩を、今度はダイナが少し強めに叩いて通過した。

 溜め息をつくように肩をすぼめたゼロが、気を取り直して二人の後を追って飛ぶ。この短いやり取りだけで、彼らの関係や親密さが伝わってくる。

 彼らの向かう先では、ネクサスとザギがギャオスの合間を飛び交いながら、激しい打撃の応酬を繰り広げていた。互いに決定打の無い状態ではあるが、実際はザギ優勢であることが見て取れる。それでもネクサスがある程度食い下がれるのは、やはりデストルドー、絶望の供給源が目減りしているせいだろう。

 そこへ参戦する三人のウルトラの戦士。ダイナが赤色のストロングタイプから赤と青の基本形態、フラッシュタイプへと姿を変え、交差させた腕から眩いソルジェント光線を放つ。

 瞬時に反応したザギは大きく飛び退いてこれを躱すが、先行していたコロナモードのコスモスが鋭い拳を突き入れる。しかしザギはこれも片手で受け止め、コスモスと至近距離で睨み合った。

「ったく、よくよく邪魔をする……!」

 明らかに苛立った様子のザギに対し、ネクサスも加わり攻勢をかける二人のウルトラマン。これでようやく対等といった感じで、ザギは彼らの拳や蹴りを鮮やかに捌くが、その背後からゼロが切りかかった。彼の頭部のブレードを一体化させた巨大な刃が振り下ろされる。

「おっ、と!」

 ザギはまたも超常的な反応速度で身を捩り、この一閃すら掠めるだけで済ませた。

「クソッ! どこまでも忌々しい、ウルトラの――ッ!」

 その言葉は突如飛来した赤熱の火球に掻き消された。ザギを中心に爆炎が広がり、ウルトラマンたちは即座に離脱する。見やれば、火球を放ったガメラはザギを睨むように周囲を旋回していた。

 勝てる。そう確信させる情勢だった。ウルトラマン、そしてゴジラの参戦により天秤はこちらに傾いた。ザギは強力ではあるが、もはやこれ以上の強化は見込めない。今この瞬間も世界から絶望は取り除かれ、瞬きも追いつかない速度でデストルドーによるリンクが切断されていく。

「……真逆だな、おじさん」

 今は……もういない、憎たらしい顔を思い出して呟く。

 俺たちは皆に巨影を認めさせるため、伝えるため、知らせるため。危険を冒しても彼らを追い、撮り続けた。それが今では、結果として巨影を彼らに見せないよう動いている。

 こうしている間にもリンクが切れる。当初の膨大な数が嘘のように、今や数え切れるほどにそれは減少していた。

 これでいい。暗澹とした絶望に呑まれるくらいなら……みんな、知らないままでいい。

 黒煙が晴れると、腕を十字に組んで身を庇った体勢のザギがそこにいた。深手とはいかなかったが、所々に軽い負傷はあるらしい。しかしその傷はザギの余裕を根こそぎ奪ったようであった。

「貴様ら……この、ゴミ共が……!」

 怒りに身を震わせるザギを中心に、どす黒いオーラのようなものが立ち込め始める。ぞくりと、これまでの雰囲気を塗り替えるような悪寒が背筋を走る。

 獣のようなザギの咆哮が、衝撃波の如く古都を駆け抜ける。その途端、まるで時空そのものを吸引するかのように、禍々しいオーラがザギへと集約されていく。

「ッ!? ギャオスが!」

 古都を埋め尽くしていたギャオスの群れが、まるで実体を持たない幻影、まさに影のような姿となって、凄まじい速度でザギへと吸収されていく。

『いけません! ザギを止めてください!』

 コスモス姉妹の叫びが内耳に響く。

「何が起こってる!?」

『ザギは自分の支配下にある巨影を、全て取り込むつもりです! そうなれば……!』

「俺に負けは無い……!」

 ザギの声が俺と姉妹を遮断した。ザギの体が徐々に高度を上げていく。

「今後を考えると手間だが、仕方がねえ……お前らを皆殺しにしてから……全てはそれからでいい……!」

 その時、地上からウルトラマンがスペシウム光線を放った。続いて他のウルトラマンが、エヴァが、機龍が、モスラが……光線や砲弾を放つも、ことごとくザギの纏う漆黒のオーラを貫通することはなかった。

『いけない、止めて!』

「無駄だ、もう届かねえよ!!」

 ギャオスの影が見る間にも取り込まれていく。巨影を察知する能力が痛いぐらいに発揮され、その存在感はこれまでに類を見ないほど強力なものになっていく。圧倒的なまでに広大なデッドゾーンがザギを中心に広がり、古都そのものを呑み込んでいった。

『世界中のギャオスが影になってここに飛来してる! もう数分と無いうちに……!』

 白衣の彼女が、これまでにないほど焦燥を滲ませた声でまくし立てる。

「どうすれば、いい……ユーコ……!」

 胸をぐっと押さえ、俺の中に僅かに取り込んだ彼女に、思わずそう縋ってしまう。ぼうっと、押さえた胸が熱を持った気がした。

 その時、ザギを見据える俺たちの正面に、ネクサスが飛び入ってきた。ザギを数秒見上げた後、ネクサスは俺たちへと振り返った。

 彼の胸元の赤い光、翼を広げる鳥のような形の部位が、眩く光力を増していく。

「なんだ……!?」

『あそこに、皆さんの光線を!』

 コスモス姉妹が間髪入れずに叫ぶ。

「どういうことだ!」

『ネクサスは全員の力を束ね、ザギを倒せるほどの技を放とうとしています!』

 ネクサスが両腕を広げ、俺たちを見下ろす。その目に映るものは、相変わらず温かい、信頼に満ちた光だった。

 最初に反応したのはウルトラマンたちだった。スペシウム光線を、ワイドショットを、レオとゼロでダブルフラッシャーを。ソルジェント光線を、ネイバスター光線を、それぞれがネクサスの胸元へ命中させる。複雑な光の奔流を、ネクサスは体を張って受け止めた。

『まだ足りません!』

「野郎、()()()マネを!」

 その時、狙いを察したザギが腕を振り上げ、ネクサスの背を狙った。

「ネクサス!」

 俺が叫ぶと同時に、地上から青白い光線が伸びてザギへと命中する。

「ぐっ、このロートルが……!」

 ゴジラの鋭い視線が、ザギを敵と捉え鋭く光っていた。

 更に、地上に降り立ったガメラが大きく口を開き、周辺の大気ごと取り込むように吸気する。それは通常の火球を放つ前段階とは様子が違い、古都のあらゆる箇所に揺らめく炎まで取り込んでいた。

 そして全ての炎を身に取り込んだガメラは、一瞬の間を置き、太陽のごとく巨大で強力な火球を放った。

「う、ぐおぉぉぉあっ!」

 ガメラの強大な火球を、ゴジラの熱線が押し上げる。完全燃焼する炎のように、赤熱の火球が青へと変色していく。さしものザギもこれには守勢に回らざるを得ず、ネクサスへの攻撃は中断された。

『今です!』

 この隙を見逃さず、機龍とモスラが光線を放つ。

 そしてエヴァ初号機の口元が開き、低く響く咆哮を放つ。それは暴走状態のようでもあったが、初号機から感じる“雰囲気”は、まるで我が子を守る母のようなそれだった。 

 初号機の口腔から一直線のレーザーが発射され、ネクサスの胸元へ届く。これで全ての巨影が参加した。しかし……

『あと少しっ……このままでは、僅かに!』

 姉妹が必死の様相で叫ぶが、ゴジラもガメラもザギの足止めで手一杯だ。

「そんな、ここまできて……!」

 あと少し、そこまで来たのに、このままでは届かない……!

「こ、の……!」

 僅かずつだが、火球と熱線の勢いにザギは対処しつつある。このままじゃ……

 その時――火が付いたような胸元の熱に、思わず見下ろす。そこには赤紫色の光が溢れていた。俺はこの力の正体を……彼女の影をそこに見ていた。

「ユーコ……これが、君の残した……」

 強く瞼を閉じる。暗幕に浮かぶ彼女の笑顔を見て、俺はネクサスとザギを見上げた。

「ま、待て! いいのか、俺をやるってことは、俺の中のユーコごと……!」

「だから……何だ。ユーコはもう俺の中にいて……二度と帰らない」

「いいや! まだ俺とお前の中の“残り”を集めりゃ、可能性はある! お前がそれを撃って、使い切らなければな!」

 ……心が揺れる。そう、俺も確信があった。これを撃てば、俺の中のユーコの残滓は消え果て……俺と彼女は、二度と。

『カメさん、惑わされないで……!』

 姉妹の懇願するような声が聞こえる。

「これは真実だ! 撃たなければ、約束する。ユーコの復活に全力を尽くす! その後、俺は宇宙の果てにでも消えてやる! だから撃つな……!」

 ザギの言葉には、ある程度信憑性がある。いや、違う。俺がそう信じたいだけか……? 

 もう一度、会いたい。その僅かに空いた心の隙間に、甘美に響き渡る誘惑。

 幾重もの選択を超えた、旅路の果て。終着点に設けられた究極の択一を前にして、俺は……

 

 




①ユーコと再会する

②ユーコに別れを告げる
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