基本的に主人公の視点になるのは日記だけと考えておいてください。
○月○日
今日は、八十歳の誕生日だ。同時に、あの子達――クオンとセツナを拾って五十年になる。
こんな体では、何時天に昇るかも分からない。それに、人は死ねば過去になってしまう。……と言うのが持論だ。だから、私が私――アーバンカルトス・ルドスリゾティが生きた証を、今に残したい。
こんな風に格好つけて書いた所で、この日記帳を見る人なんて誰がいるかも分からない。毎日つけられる訳でも無い。自己満足だ。でも、それで構わない。
ただ、今日は特筆するような事は起きなかった。強いて言えば、何時もより長めに朝走った事と、クオンとセツナの事をちゃんと分かってやれてなかった事だ。
……本当、私は駄目な親だ。
○月□日
今日は特にやる事が無かった為、朝は二時間走り込み、その後組手を三人でやって、朝の九時くらいになってから私は本を読んでいた。魔法の参考書だ。顔も大分皺が増えてしまい、染みもできた。だが、体や頭は出来るだけ現役でいたい。
そう言えば、二人とも余り私服を持っていなかった気がする。覚えがあるのは着流しと……はて。何か他にあっただろうか。
……今度、管理局に顔を出す時にでも相談してみるかねえ。ああ、グレアムの所のアリアちゃんとロッテちゃんなら、任せても大丈夫かもしれない。でも、地球に行く必要性が出て来るか。……まあ、追々考えるとしよう。
ふむ、二時間走り込みと組手は毎朝行っている事だ。これから先書く必要も無いか。
○月△日
何日か日が開いてしまった。いや、日記というのはこういうものなのだろうか。
一週間前からミッドの陸士学校の特別講師として来てほしいという話を受けていたので、三人で出向いた。
クオンには無理を言って、セツナは貸しにする条件で参加してくれた。悪い事をした……。
二人とも、管理局には少なからず憎んでいる。バカJの言い方を借りれば、『プロジェクトFの雛形』とも呼べるような研究で生み出されたのだ。
管理局が行った違法研究の被害者であるのだから、育て親になる事になった三十歳の、管理局局員だった私はもうずっと怯えられていた覚えがある。
研究内容から察するに、違う生物の性質か何かを人の身に宿させる気だったらしい。その性質のせいで、老いが極めて遅くなっている、というのが私の推論だ。特に、九尾なんて長寿ながらも極めて希少で、書庫にも片手に数える程しか資料が無かった気がする。龍に関しては言うまでもない。
今は懐いてくれているのだろうけど、流石に主や様付けで呼ばないでほしいのが本音だ。
そう言えば、この歳になってから最近思うようになった事がある。
二人が周囲から孤立しないか、とても心配だ。二人とも六十歳は超えているのに、体は二十歳のまま。それに、九本の尻尾が生えていて、クオンは頭には白い狐の耳と角。セツナも角があり、耳が人らしい位置にあるけど横に少し長く、獣のような耳だ。
生きるものは、自分達と違うものを基本、排斥する。だから、私が生きている内に理解者を得られれば。
幸い、セツナは理解者を得られたようだ。クオンもきっと大丈夫だろう。
また話が脱線した。いかんな……確か……ああ、そうだ。
今回は一対一で挑む者は私が、二対二で挑む者はクオンとセツナが相手をした。
私は教員が相当の誇張表現をしたせいで片手に数える位の子達と、その教員しか挑んで来なかったが、取りあえずは倒した。皆が皆悔しそうにしていたし、気絶してしまった子も居たがまだ負ける訳には行かないのでね。
その後、暇になった私は教員から訓練メニュー等の意見交換を行っている最中、凄い物を見た。
何とクオンとセツナに食いついて来た子達がいた。思わず目を見張ったよ。
あの子達は、絶対に伸びる。
確か、スバルちゃんとティアナちゃんと言っていた。……書いて思い出したけど、クイントちゃんの子供と、ディーダ君の妹か。
クイントちゃんは世間一般じゃあ死んだなんて言われているけど、実際はあのバカJの所でお世話になっている。後はゼクト君とメガーヌちゃんか。……Jが言うには、上層部が無理矢理サンプルを用意させようとしたって言っていたな。
で、当時は人を信じていた幼い少年のように純粋だった――いや、今でも悪い意味で純粋か――Jは偶然にもアジトに近づいてきた局員に保護を求めようとして、上層部が……何だっけ、ガジェット……何だっけ。
まあいい、それをハッキングして襲わせたって言うのが、私の知る限りの事の顛末だ。その際、クイントちゃんは両腕を失ってしまったが、Jが腕を作ってくっ付けたとの事だから、問題は無い……のだろうか? Jも生物系が専門だった筈だから、きっと大丈夫だろう。更にはJの友人であるドクターFなる人物も居たとの事だから、きっと大丈夫だ。
あいつの言葉は嘘では無い。と思っている。嘘だった時は叩き潰すまでさ。まあ、基本的には良い奴であるには違いない。
でも、幾らなんでも『独りが寂しいから』なんて子供らしい理由でクイントちゃんや色んな局員のクローンを作ったのは少し説教物だろうか。けど、娘さん達も幸せそうだし、いいか。
そしてクイントちゃん。せめてゲンヤ君には生存報告してあげなさい。彼、泣き上戸で、お酒が入るとずっと君の事で泣いているから。
ティーダ君はあの頃はもう執行官としては戦えないと言われる程体をボロボロに、特に利き手の神経をやられたらしく、碌に動かせない有様だった。でも、Jと知らない仲でも無い(と勝手に思っている)私は、Jに頭を下げてJに簡易的な右腕用のパワード・スーツを拵えて貰って、それを使っているティーダ君は今でも執行官として戦っている。
一部では『不死鳥の執行官』と呼ばれているとか、いないとか。
……昔、冗談で教えたダメージを少しでも減らす方法である、セツナしか体得出来てなかったあれを物にするとは当時は思いもしていなかった。
身体から自然放出されている魔力の流れに、体にダメージを与える衝撃を乗せて流す事で軽減するなんて芸当を、実戦で成功させるなんて思いもしていなかった。
その際に、うちの子供達と一緒に何やらかっこいい名前を付けてくれたそうだが……でも、リンカーコアがあれば努力次第で誰でも出来る筈らしい。バカJがそう言っていた。とは言っても、私は感覚的にやってしまっているから、説明が出来ない。バカJは体が衝撃を吸収する前に魔力と共に放出すると言っていたけど、要は魔力で衝撃の逃げ道を作っているとの事だ。成程、分からない。
あれのお蔭で生きていられたと言われて、そりゃ嬉しかったけど、当時の本当に冗談感覚で教えたあれを本当に物にするなんて、思っても無かったから乾いた笑みしか出なかった。
感覚が頼りだし、何より十全な効果を発揮してくれるのは魔法と肉弾戦くらいだ。デバイスなどの非殺傷設定が無い限り刃物等にはとことん効果が無い。
でもまあ、昔程の無茶をしなくなったようで先生としては嬉しい限りです。
……おや、随分脱線してしまった。いや、ボケ防止と考えれば、こういう風に書くのもいいかもしれない。
あの子達はきっと伸びる。クオンとセツナの太鼓判もあったのだから、間違いない。
○月◇日
珍しい人が訪ねてきた。フェイトちゃんだ。
どうかしたのかと思ったら、溜まりに溜まった有給を少しでも消化する為、そしてクオンから勝ちを取る為に来たらしい。リベンジマッチ、というやつだ。
クオンも、フェイトちゃんとその友達二人と、その関係者は管理局の中でも比較的嫌ってはいない。セツナは自分の中で決着はついているらしいから除外しよう。
ただこの二人、少し前に模擬戦をやって以来クオンが勝ち越しているらしく、今まで使っていなかった有給を少しずつ使ってこうして時たま我が家を訪ねてくる。
……去年辺りクロノ君が言っていたが、仕事過多の管理局で仕事し過ぎて上司を泣かせている程のワーカーホリックだったようなので、どの様な形であれ少しでもそれが解消されればなと思う。
私は二人が本局に向かうのを見届けてから、家でセツナと組手をしていた。現役では無くなったとは言え、息子に負けるにはまだ少し早い。今日も今日とて全力で挑ませてもらった。
大人気ないと思われるかもしれないけど、そうでもしなければ負けるのは私だから、余裕なんてない。何時でも全力だ。
組手を終えて一人、贔屓にしているジムでトレーニングをしてから帰ってきた。
帰った頃にはクオンが笑っていた。どうやら今日も勝ったらしい。今の所六連勝か。その祝いか、 セツナが鍋を作っていた。
クオン、おめでとう。
○月×日
朝早くからバカJに呼び出された。クイントちゃんにも一言言っておく為にも向かった。
辿り着くや否や、焦ったようにも見える顔で頭を下げてきた。何事かと思えば、短期的ながら若返りを実現させる薬が出来たらしい。
それを私に受け取れと言ってきたが、断った。
確かに、死ぬのは怖い。だが、粘着質に縋りつく程に落ちぶれる気は毛頭ない。それを使ってしまえば、私はJが忌み嫌う最高評議会と大差が無くなってしまう。
それでも、Jは首を縦には振らなかった。違法研究者ジェイル・スカリエッティとしてでは無く、一研究者であり、私の友人であるJとして私の底を知りたい、と。
……渋々一回分だけ飲んでウーノちゃんとドゥーエちゃんを除くJの娘達とクオン、セツナを交えて模擬戦をやったが、上手く加減が出来た気がしない。
これが全力かとJが訪ねて来たので、精々二割だと答えると何時ものバカJに戻り何時ものようにいやらしく笑っていた。
帰る真際に、クイントちゃんが顔を出したので、少し説教をしてから、家に戻った。……少し、やりすぎたかもしれない。先程まで、クオンとセツナを抱えていたありし日の腕を見ながら、そう思った。
そういえば、薬の効果は何時切れるのだろうか。鉛筆が力加減を間違えて数本駄目になってしまっているから、早く元通りになって欲しい所だ。
○月+日
起きた時には、薬の効果は切れていたようだ。やはり、相応の体の方がいい。
昼頃に見知らぬ若者が訪ねてきた。何でも、テレビ局の者らしい。曰く、管理世界最強の格闘家を決める大会で、私達に出場してもらいたいそうだ。
ルールもその場で説明された。と言っても、本当に簡単な部分だけだ。時間制限二十分の一本勝負で、降参か、審判が再起不能とした時点で終了。時間切れの場合は審査員による判定になる。
質量兵器、魔法の使用、金的、目潰し以外なら何でも有り。但し相手を殺害した時点で負け。
断ろうとしたが、クオンとセツナの気合いに満ち溢れた顔を見て、断る気が失せてしまったのも、仕方が無い事だろう。ただ、三週間後と言っていたので、オファー……であっているか? はもう少し早めにしてほしい所だ。
それと、この日記を付ける直前、啜り泣きを上げるゲンヤ君から連絡があった。理由は書くまでも無い。念の為、まだ娘さん達には黙っておいた方が良いとは言っておいた。
この事が切欠で、バカJがばれないようにしておいた方がいいだろう。そう思っての行動だった。それに、まだ戻ってきた訳でも無いし。
良かった……のだろうか。バカJが何かポカをしなければ良いのだがね。
○月÷日
まさか、嫌な予感が次の日には的中するとは。
私達が大会に出場するという話を聞き、出る気満々らしい。バカJの娘の何人かと、クイントちゃん、あと、バカJ本人が。
……顔を隠すから大丈夫と言っていたが、あいつはきっと指名手配になっている事を忘れているのじゃあないだろうか。
しかも、既に出場手続きを済ませたというから、その敏腕ぶりには脱帽したさ。
なら、クイントちゃんの生存をどう説明するのかと尋ねると、偶然その地域にあったロストロギアの影響で次元震に巻き込まれ飛ばされた世界でサバイバル生活をしていた、とかいう理由ですませようとしている。
……一回、本気でぶん殴んなきゃ分からないようだ。ウーノちゃんに連絡を入れておこう。
ドクターF……一体何者なんだ……
分かる人にわかってしまうかもしれない。