老拳士の日常日記   作:眼鏡花

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 明日から、修学旅行
 ……台風が過ぎて一安心……

 皆さんがあまり気にしていなかった『彼女』の正体とは?

 キャラ設定って、作った方が良いのだろうか……?


○月□日

「そら、それで終わりかいセツナ?」

「ぐっ……まだまだ!」

 

 昨日の一件から、主は組手を手加減せずに行ってくれるようになった。嬉しい限りだが……昨日の組手から一日たった今、正直私が主に一太刀入れられるようになるには時間がかかりそうだ。

 セツナが肘鉄を繰り出せば、主は真横に避け、追撃の回し蹴りを脛蹴りで吹き飛ばし、バランスを崩して顔を顰めたセツナに猛攻を浴びせた。

 一撃目は顎に肘が、二撃目は腹への正拳突き、三度目は右膝からの膝蹴りが左脚に決まり、締めに右足で踏み込み正拳突きが入り、数メートル吹き飛び――しかしすぐに受け身をとり、立ち上がった。

 完全に顎に肘が入ったのに、よく立てる物だと呆れてしまう。

 

きっとあれだけの攻めを受ければ私は倒れていた。主にとって小手調べのような技が、私達からすれば一撃必殺の魔拳なのだ。

 セツナから視線を放し、ちらりと主の右手を見た。昨日まで無かった指の第二関節から手首までを覆い、黒い指ぬきグローブを思わせるガントレッドの形状のアームドデバイス『デネブ』の姿が、そこにはあった。

 それは主が本気であるという事の証明として私達は受け取っていた。

 

「せやっ!」

「のろい」

 

 あの巨体でセツナの体術がこれっぽっちも掠っていない。貫手、上段蹴り、更には尻尾まで使った薙ぎを、全て最低限の動きでかわしていく。

 体が大きいという事は即ち、力が強いという事でもあるが言い方を変えれば的が大きくなるという事でもある。

 

 だというのに、私でも中々避けるのは厳しいあの猛攻を、セツナの攻撃によって発生した風に乗るように軽々と避けるさまは純粋に綺麗だと思った。

 

 ……セツナは焦らない。私と違って、どんな状況下でも基本的に冷静でいられる人間だ。そうでなくなってしまえば、昨日の私のようになりかねない。きっと、私には出来ない事だろうから羨ましい。

 それ以前に、私の数倍も正拳や蹴りを食らって立っていられるあの頑丈さが私には羨ましい。そこに主直伝の秘技『流却』が加わり恐ろしい程の持久力を誇るのだ。

 私は『流却』を体得出来ていない。ジェイルの言う言葉を信じるなら『体から自然放出される魔力により衝撃の方向性を操作し、体の外に流す』という事だ。

 マルチタスク――『平行的同時思考』による思考は同時に十まで出来るが、それに加え極めて繊細な魔力操作能力が問われるのだ。

 自然放出される魔力を把握・操作するという時点でどれだけ集中力を使うかなんて、考えたくない。

 結果として、大味な私には向いていないのだ。

 

 セツナはマルチタスクの何割かを割かなければ出来ないと言っていたが、そもそもセツナは同時に三十程出来ると言っていたので戦闘に支障はきたさない。

 

 ティーダは人質を取られていたためとは言え、実戦で成功させている。但し、きっと攻撃に回れば使えなくなるだろう。

 

 主はそもそも感覚的にやってしまっているのだ。……論外。

 

()……チッ! ヴェガ!」

『ニードルシュート・ダイナマイトシフト』

「……」

 

 セツナは青白い魔力弾を放つ。どうやら距離を取る為だったらしい。だが、本来であれば牽制目的の魔力の量、スピード、質では無い。

 一撃必殺の意が読みとれるものだ。スピードを上げるために針かと思う程に細く小さく圧縮されている。

 

 私の方が、セツナや主より魔力は多い。

魔法と体術の連撃で強引に隙を作り、体術で急所を突くような戦い方だ。それを可能にするほどの魔力量――SSSランクの魔力がある。

 

 セツナも魔力ランクS+。彼のエースオブエースに及ばなくても十分な必殺の弾丸だ。問題は、マルチタスクが多いのに複数の魔法を同時に扱う事に関する適性が低すぎる事だろう。

 

 だが、一つの事に関する集中力は恐ろしい物がある。それをある程度柔軟に適応させる為のデバイス『ヴェガ』だ。ヴェガを手にする前は、魔法一つ使うのに体が動かせなくなっていた事を考えると本当に変化が分かる。

 

 ひしひしと感じる過剰な魔力。強引にあの形まで抑え込まれた魔弾を私は毛頭受けたくは無い。着弾すれば抑えこまれた魔力が大爆発を起こすだろう。それ程の魔力であの執行官の最高速度並の速さ。

 並大抵の相手であれば避けるのが手一杯だろう。私もきっとそうだ――――では相手が、主であれば?

 

 主は腰を回し、セツナの魔力弾に背を見せる。それ程に上半身を大きく振り被った。全体重が、右足に乗っているのが嫌でも把握できる。

 

 ……セツナ、すまん。散々褒めちぎっていたけど、相手が悪すぎた。

 私が思考の二つ程を現実逃避に費やしている内に、主は芝生を蹴った。

 

「……ガッ!?」

 

 結果的には――主も、避けた。

 唯、避け方が避け方だ。……前へ、魔力弾の真上を(・・・)勢いよく滑るようにセツナに接近して、振りかぶった拳が胸に直撃した。

 私であれば、横に飛び退いていた筈のあれを、前に出る事で避ける。更には下では無く上……正直、怖くは無いのだろうか。

 きっとその辺りの差異が、大きな差異になるのだろうと考えてすぐさまセツナに駆け寄る。

 

 セツナは虚空を滑り、地面に落ちてからも転がり、予想通り立ち上がる事は無かった。

 普通、ドゴォンなんて大砲の発砲音のような鈍い音が体から聞こえた時点で拙いに決まっている。

 

 着物のようなバリアジャケットの胸元をはだけさせると、拳の跡がくっきり残っていた。それでも息をしているが……私が受けたら、バリアジャケットがどうこう以前に十中八九死んでいただろう。

 やはり、同じように吹き飛ばされてもダメージの差が大きい。

 幾らバリアジャケットの防御力が有るからと言って、非殺傷設定が掛かっている筈のデバイスを用いたとはいえ、全く安心できる要素がない。セツナの胸がその証左だ。

 流石に主も、組手で殺す気は無いだろうが……。

 そんな事を考えていた折だ。

 主の背後からは大きな衝撃、爆音と共に芝生が大きく吹き飛んでいた。

 ……いや、セツナもセツナだったようだ。非殺傷設定だったとしても、あれは駄目だ。うん。

 治療魔法の一つでも掛けてやろうと思ったけど、お灸をすえる意味も込めて使わないでおこう。

 

「少し、やり過ぎてしまったか。すまない、セツナ……クオンはやるかね?」

「……是非も在りません。昨日の今日ですが、絶対に一太刀でも入れてみせます!」

「そうか、よし。ならセツナを運んでから、すぐに始めよう」

「はい!」

 

 私本来の、物量と手数で崩し、隙を突くこの戦い方が何処まで通用するか。

 楽しみで、仕方が無い――。

 

 

 

「ぐっ……私も、精進が足りない、いう事か」

『今でも十分な強さだと考察する』

「いいや、違う。本当の強さという物を、ヴェガ。お前は知らない」

『……そうなのか』

 

 主の拳の跡がくっきり残った胸の痛みを堪えながら、私は管理局へ足を運んでいた。

 あまり管理局に貸しを作るのは嫌だが、生憎我が家には回復魔法を得意とするのは姉上だけだ。その姉上もボロボロになっていたので、諦めて彼女(・・)の知人――実質ほぼ身内が所属する本局へ足を運んでいたのだ。

 私は姉上程管理局に対し敵愾心を抱いているつもりはしないが、それでも気に食わなく思っている節があるのも事実だ。

 私達姉弟が生まれた経緯を考えれば、嫌でもそうなる。

 

 ……いや、思い出すのは止そう。不毛なだけだ。

 

 それにしても、今回のこれは出来の悪い冗談だと思う。

 確かに主は本気で挑んできてくれた。それは嬉しい。

 だが、魔法を使わせる(・・・・・・・)には至らなかった。……それが、私にとってどうしようもなく悔しくて、同時に嬉しくもある。

 

「超えるべき壁は、遥か遠く、そして高く……」

 

 上等だ。やってやる。将棋もチェスも、詰みに近い状況から活路を見出すのは私の得意分野だ。

 やれるだけの事は、やってやろうじゃないか。

 

「……」

『マスター、大丈夫か?』

「……大丈夫に、見えるか?」

『それは無いな』

「だろうな」

 

 ヴェガが声を掛けて来るが、生憎まともに返事を返すのがキツイ。

 よろけながら本局を目指して歩く。やはり手加減はされていないが、身体強化が掛かってないからマシかと、思い直した。

 身体強化、ないしは魔法によって攻撃を食らっていたら今頃胸には風穴があいているのではないだろうか。

 ……いけない。冗談に感じられない。

 そんな馬鹿馬鹿しくも否定しきれない事を考えつつ、周囲からの視線に気が付いた。当然か。こんなにふらふらしながら歩いていては、不審者と間違われてもおかしくは無い。

 ましてや、私の尻尾と耳、角は目を引くには十分な存在感を放っている。

 ……面倒だ。

 そう思って歩みを早めようとして、前のめりに体が崩れた。

 

『! マスターッ!』

 

 脚に力を入れようにも、力が入らない。

 顔から硬い地面と衝突するのを覚悟したが――しかし、痛みの代わりに認識したのは彼女の匂いと、女の体の柔らかさだった。

 

「――――ふぎゅ!」

「っ……フェ、フェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウン……すまない、今退く……づっ!」

 

 何故彼女が此処に居るのか。そんな事を考える前に私は痛む体に鞭を打って倒れ込んでしまった彼女の上から退いた。

 そのまま無理に立ち上がろうとして、結果胸を激痛が襲った。

 ……骨は折れて無いようだから、明日までには治ると思いたい。

 

「だ、大丈夫セツナ? 何処か、痛むの?」

「ぁ……ああ、大丈夫、だ。少し、散歩をしていてね」

 

 彼女がいる目の前で、『姉上に迷惑を掛ける訳にもいかないから渋々管理局にいる君の知り合いに治療してもらおうとしていた』と言おうとして、止めた。

 ――互いに、思い合っている仲だからこそ他の女性の話題は出すべきでは無いと考えたからだ。

 

「嘘。だってセツナ、前で手を組んでる」

「……」

「……」

『マスター、諦めろ。彼女は折れない』

「……。くっ……すまない、湖の騎士のもとに連れて行ってもらってもいいか?」

 

 少し前まで、私は彼女と付き合うつもりは無かった。

 彼女は出自が少し違う普通の人間で、私は出自が少し違う混ざり者だ。

 彼女は有名人で、私は悪い評判ばかりが絶えない。

 彼女は優しくて、私は打算的だ。

 それに、彼女において行かれてしまう。

 彼女には、そう何度も説得したのだ。

 

「シャマルの所に? 何かあったの?」

「少し、組手の時に……」

「ああ……うん、いいよ」

 

 しかし、彼女はそれでも私に何度も告白を重ねた。持って生まれた指と尻尾に収まりきらないような回数の告白を、幾度も幾度も。

 結局の所、私が折れたのには違いない。だから、アーバンカルトス様に追いつく事以外に決めている事が、もう一つだけ在る。

 彼女に、フェイト・T・ハラオウンがこの世から居なくなる時に『私と居て幸せだった』と思わせてやる事が出来る位、彼女を愛してやろう。

 そんな風に彼女に溺れている私は、彼女が居なくなった時、絶対に後悔するだろう。

分かっている。自分らしくも無いが……こうして悲しむ事が出来れば、彼女との思い出を忘れずにいられそうだと思った。

 

「フェイト・T・ハラオウン……」

「もうっ。セツナ、私はフェイトでいいよ?」

「……フェ、フェイト・テ……フェイト」

「うん、何?」

 

 柔らかい笑顔を向けてくる彼女の笑顔を見て、しかし一人で歩くのも難しい現状の中、肩を貸してくれる彼女の存在は執行官とは思えないほどに儚く、彼女と時を同じくして死ねないであろう我が身を呪いながら。

 

「ありがとう」

 

 この位の感謝の礼しか言えない自分に憤りを感じつつ、上手く作れないながらの精一杯の笑顔で感謝の言葉を吐いた。

 

「うん、どういたしまして」

 

 暫く、無言で管理局へ歩く。だが、この静けさが私には嬉しかった。

 彼女が執行官として働いておらず、今の平穏の中にしっかり居られる事が、その隣に私が居られる事が、唯々たまらなく嬉しい。

 

「……そういえば、今日はどうして此処に?」

「ちょっと用事があって、それが済んだから、アーバンさんの……セツナの家に行こうとしていたら……」

「成程」

 

 そこで私が倒れかけているのを見つけ、支えようとして失敗した、と。

 迷惑を掛けるな。本当に。

 それに、運が悪ければ彼女は怪我をしていたのかもしれないと思うと、背に直接氷柱を突きいれられたような怖気がする。

 

「フェイト」

「なに?」

「確かに君は執行官で、強い。だが、まだ若いし、地球ではまだ学生をしているのだろう?」

「うん。なのはとはやても一緒だよ」

「だから……その。無茶はしないでくれ」

「うん。分かってる」

 

 全く、碌でも無い男に引っ掛かってしまったな、君も。

 だけど、ありがとう。

 

「そう言うなら、有給の一つでも消化してから言ってくれ。リンディ・ハラオウンやクロノ・ハラオウンが嘆いていたぞ?」

「う……はい」

 

 本当は、守らせてくれ位は言いたかったが、まあ、妥協点としよう。

 その後は湖の騎士の元で治療を受け、あまり無茶をしないようにと釘を何度も刺された挙句怪我の内容をフェイトに伝え、それが原因で明日は私が監視していると言いだして一悶着あったが、こういう時の流れが永遠に続けばなと、一人思っていた。

 




 ニードルシュート……針状の魔力弾を飛ばす魔法。空気抵抗を出来るだけ削りスピードと魔力障壁の貫通を第一に考案された。セツナの使った『ダイナマイトシフト』は本来、魔力障壁に突き刺さった場合の追撃として使用するもの。


 すっごい今さらながら、サブタイミスってたので編集しましたorz
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