河原の囲碁   作:西風 そら

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~ending~ TOMODACHI

TOMODACHI

 

 職員との雑談が長引いて、桑原とカヤコが連れだって棋院玄関を出た頃には、人通りも途絶えていた。

 駐車場に残っているのは、遅番の職員と自分達の車、そして最奥のRXー7だけだった。

 

 壁際の照明下で、緒方が紫煙をくゆらせている。

 二人を見止めると、渋い顔をして、駐車場奥の外灯の下を、視線で指した。

 

 少年二人が、まるで学校帰りの中学生みたいに、並んで植え込みの陰に座り込んでいる。

 

「さっき進藤が、『俺、お前の事、友達だと思ってるから』とか、こっ恥ずかしい台詞を吐いて、アキラ君を連行して行きました」

「ふぉふぉ」

 

「まあ、あんなでも、蒙古斑も消えない中学生ですからね。気が済むまで話し終わったら、それぞれの自宅まで送り届けてやります」

 

「面倒見が良いのう。そんなタイプじゃったか?」

 

「大人ですから、俺は」

 

 カヤコは口を挟まないで、黙って植え込みの二人を見やった。

 まったく、トモダチが、一番、コドモだ…… 

 

 ああいうのって、あの子が自然に話せる日が来るまで、放っといてあげればいいのに。

 今度は、もう片方のあっちの子の事が、気になってしようがなかったのね

 

 本当に、お節介な、純粋な、永遠の、コドモ・・

 

 

 

「で、何の筋合いで、僕をこんな所に引っ張って来る?」

 

「だから、お前が、『大切な友達』だからだよっ。二回も言わせるな。俺だって恥ずかしくて死にそうなんだ」

 ヒカルは、さっきカヤコに貰った包みを、急(せ)いて開いている。

 

「あの女性がわざわざカマをかけて、賭けを無効にしようとしてくれたじゃないか。

まあ、ズルいとは思ったが」

 

「違うよ、『賭けに負けたから仕方なく話す』んじゃない形にしてくれたんだよ」

 

「………」

 アキラはヒカルをまじまじと見た。

 こんな大人びた考えが出来る奴だったか?

 

「ちなみに俺は命令なんて思いつかなかったから、<桑原先生と一局打たせて>って書いたんだ。可愛いもんだろ? なのに、ホント、容赦ないよな、あの人」

 

 ブツブツ言いながら包みを開ききり、さっきも見た中身を、無言で数秒見据えてから、ヒカルはポツリと切り出した。

 

「なあ、塔矢」

「なんだ?」

 

「さっきの勝負、カヤコさんが打っていたと思うか?」

「当然だろう? 他に誰が……」

 

 そこまで言ってアキラは、ヒカルが真顔で何を言おうとしているのか想像出来て、口を指で覆った。

 

「そう、『そういう事』って『ある』んだ、塔矢」

 

 『今』じゃなかったら、切り出せなかったろう。

 今だったら素直に信じて貰える気がした。

 

「塔矢だって一番の当事者だったじゃないか。俺、今日、自分が同じ目に遭って、あの時のお前の気持ち、やっと分かったもん。マジへこむよな。でもお前、へこたれないで真っ直ぐ追い掛けて来てくれたんだよな」

「……」

 

「もう想像付いてると思うけど、今日、カヤコさんに指示を出していたのは、『トモダチ』。

ついでに、途中の『河原の囲碁』は、トモダチが話したがったのを、カヤコさんが口伝えで話したんだと思う。自分で話しているのに、今初めて聞いた! みたいに、驚き顔で不自然な部分があったから」

「・・まさか・・」

 

「そして、三年前、塔矢と初めて会った時、俺の横に居たのは」

 

 ヒカルは包みから取り出したB4ぐらいのボ―ドを、アキラの膝に乗せた。

 棋院ロビーに掛かっているのと同じ構図の絵で、奥のヒカルの席だけクロ―ズアップされた物だ。だけれど、ロビーの絵より、人物が一人多い。

 

「佐為だよ。藤原佐為(ふじわらのさい)っていうんだ」

 

 アキラは、まばたきもしないで、優しい眼差しでヒカルを見守る白い儚(はかな)げな人物を見つめていた。

 そして、彼とヒカルとの出会いから別れまでを、口を結んで黙って聞いた。

 

 

「お前さんは聞きに行かなくていいのか?  色々知りたい事があったんじゃないかの?」

 

 駐車場入り口で、煙草の火をまたたかせながら、大人二人は並んで壁にもたれ、カヤコは少し離れて嫌そうに煙をあおいでいる。

 

「知ってもしようがないんじゃないかと思えて来ましてね」

「ほお?」

「大真面目に山の河原の囲碁の話なんかされるとね」

 

 離れた所のカヤコが、口をへの字にしてそっぽを向いた。

 

「ああ、そういえば、カヤコさん」

「はい?」

 

「さっき、貴女が河原の囲碁の話をした時、進藤は碁石を並べていたじゃないですか」

「はい……」

 

「あの時、話の終わった直後に、奴が、自分の紙ナフキンに何か書き足していたのに、気が付きましたか?」

「えっ」

 

「こっちは賭けの事は知らなかったから、深く気に止めなかったけれど」

「………」

 

 緒方は勿体ぶって、胸ポケットから畳まれた紙ナフキンを取り出した。

「あっ……」

 

「進藤の奴、無用心にも、テーブルに置きっぱなしにして行きやがった。そういう所が、まだまだガキンチョだってんだ」

 

 そう言って、そのままカヤコにそれを差し出した。

「差し上げますよ。良い対局を見せて貰ったお礼だ」

 

 話の終わった少年二人が立ち上がったのを見計らって、緒方は後ろ手に手を振って、そちらへ歩き出した。

 

 カヤコが開いた紙ナフキンを、桑原翁も覗き込み、二人同時に笑みをこぼす。

 

 <桑原先生と一局打たせて> の、下四文字が二本線で消され、

 <桑原先生と一局打ってあげて> と、書き直されていた

 

 

 

   ~ おしまい ~

 

 

 




とても楽しく書けました
原作者様に感謝です
読んで下さった方にも感謝です


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