「アウフヴァッフェン波形、データ照合完了。―――間違いなくイチイバルです!」
「未来ちゃん、みんな……聞こえる!? 返事をして!!」
特異災害対策機動部二課、その本部発令所。検出されたデータの解析結果に、朔也は驚きを滲ませながら報告する。
同時に、あおいが悲鳴にも近い声音で呼びかけている。
士郎とクリスの闘いは、公園に設置されていた監視カメラと、代表して繋ぎっぱなしにしていた未来の端末を通してこちらにも伝えられていた。
シンフォギアの通信機能ほどではないとはいえ、それでも大まかに戦況を確認するには十分だったそれ。しかし今は、どちらも判然としない。
前者は、恐らく今のイチイバルの攻撃によって破壊されたためだろう。後者については嫌な可能性も頭をよぎるが、その場に他の装者や士郎もいたことから大丈夫だろうと信じるしかない。
事実、今も爆発音が継続して聞こえているのだから、端末そのものが無事であることは確かだ。
それはさておいて、その場の全員には驚愕と共に強い動揺が走っていた。―――『イチイバルのシンフォギア』の存在だ。
今までもその全貌が計り知れない相手であり、それがよりにもよって自分たちの虎の子であるシンフォギアを繰り出してきた……というのも、勿論ある。だが同時に、それがイチイバルであるということ自体にも問題であった。
それというのも、イチイバルは元々二課にて管理していた『第二号聖遺物』であったのだ。
十年前、特異災害対策機動二課の編成に際していつの間にか紛失し、当時の責任者であった弦十郎の父が引責辞任する事態にまで発展した、ある意味で因縁深い代物。それがこうして相対する形で現れたことに、誰もが困惑を抑えきれない。
だがその中で、最も強く衝撃を受けていたのは父から長の座を引き継いだ弦十郎であり、
「――――――雪音 クリス、だと……?」
しかしそれはイチイバルではなく、それを纏う少女自身に対してであった。
***
「―――!! ――――――!!!」
鉄風雷火を巻き起こす歌は、否定と拒絶で彩られていた。
人の持つ善性を疑い、否定し、打ち壊す意志の具現。顕れた形は、彼女が何よりも忌む暴力の結晶だ。
歌い、力を奮うたびに彼女は己の精神が捩じ切られそうなほどに軋むのを自覚する。
かつて、立花 響がアームドギアを生成できない一因は、彼女自身が戦いという行為を忌避し、その深層心理にその象徴となるものへの拒絶が刻まれてしまっているためであると説明した。
だが、雪音 クリスはその真逆だ。
彼女は己を軋ませるモノを剥き出しにして、それを相手へと叩きつけている。
少女はかつて、鉄と火の暴力によって何もかもを失った。唐突に、理不尽に、否応なく。
善意は千々に砕かれ、悪意によって踏みにじられた。
これ以上なく悲しんだ。
これ以上なく恨んだ。
これ以上なく憎んだ。
悲しんで、恨んで、憎んで―――それは恐怖を塗りつぶして、ある決意へと形を成した。
即ち、否定と拒絶……そして破壊。
この世には善意などないのだろう? あるのならば見せて見ろ。
この世は悪意こそが本質なのだろう? 違うのならば証明してみろ。
できないのならば、それが真実に他ならない。
どうしようもなくクソったれな力なんて、同じようにクソったれな力でぶっ潰す。
鋼の弾雨は心地がよいか?
榴弾の焔は暖かいだろう?
存分に味わいながら、皆諸共に消え失せろ。
忌避すらも凌駕して、遍く暴力に牙を立てんと―――雪音 クリスは、その対消滅をここに歌う。
「――――――――――――――――――――――――ッ、ハッ! ハッ! ……ハァ、ア」
ひとしきり弾薬を撃ち終わり、クリスは身を折って盛大に息を荒くしていた。
それは肉体的なものよりも、精神的なものの要因が大きい疲弊だ。それほどまでに彼女の心を苛んだのはイチイバルの力の行使か、或いはそのための歌そのものか。どちらが原因にせよ、トラウマを自分からグチャグチャにほじくり返すような行いであったのは間違いない。
巻き起こる熱風が、軽く引っ張られるような引きつりを頬に感じさせながらピリピリと刺していく。下ろされた視線には、己の足さえ隠さんとするほどの粉塵が立ち込めていた。
これが晴れる頃には、或いは自分がまき散らした相手の肉片くらいは転がっているかもしれないと、そう思って自嘲の色を含んだ笑みを浮かべた。
その時である。
「―――なるほど。 いや、シンフォギアの出鱈目加減には慣れてきたつもりだったんだが……さすがに、これには度肝を抜かれた気分だよ」
言葉の割に、あまりにも平静に過ぎる声にクリスはバネ仕掛けのように顔を上げる。すると、それを待ち望んでいたかのように爆煙が晴れていく。
そうしてクリスの目に飛び込んできたのは、眩く巨大な四枚羽。花の如き守護の姿は、まるで咲き誇るかのよう。
かつて響に一枚を砕かれたアイアスの大盾は、この度においては爆撃を受け切って尚その威容を健在に現わしていた。これぞまさしく大英雄が槍の投擲すら防ぎ切った、絶対防護の面目躍如である。
その向こう側では、士郎が風穴の空いた手を流れる血もそのままに翳して凛然と立っていた。浮かぶ笑みは皮肉気で、その背後に広がる風景はどうやら無傷のようだった。
「ッ、どっちが出鱈目だよ」
「五十歩百歩なのは認めるよ」
忌々し気に舌打ちを噛み殺すクリスに、士郎は敢えて軽口で返す。ともすれば神経を逆撫でしているかのような姿を見せているが、その内実はそれほど余裕があるわけではない。
そも、今の攻撃はほぼ完全に不意を突かれていた。それを防ぎきれることができたのは、単純に相性の差がすべてだ。
しかしアイアスの盾はお世辞にも取り回しが良いとはいえず、それ以前に剣以外のものは士郎の投影との相性があまり良くない。無銘の弓矢程度ならまだしも、アイアスほどの盾となれば今回のような不完全な形であってもその消耗は小さくなかった。ネフシュタンを纏っていた時との戦いも考えれば、余力があるとはお世辞にも言い難い。
更に言えば、穴の開いた右手は平時の半分程度の握力が関の山。先ほどまでのような二刀流はまず難しい。
対してクリスのほうは、おそらく今の状態こそが本領というべきもの。先ほど感じた射手の資質は、或いはこちらによって磨かれたものかもしれない。どうやら精神的な余裕は皆無のようだが、彼女の素質を思えば果たしてどこまでアドバンテージとなってくれるか。
有体に言って崖っぷち。背水と例えるなら、足首まで水に浸かっているようなものだった。
だとしても。
(退く理由になりはしない、な)
盾を消しつつ、左手を振ると同時に新たな刃を投影する。顕れたのは切っ先から柄頭までが漆黒に染め抜かれた剣で、二重螺旋のように絡み合った刀身が禍々しい。
フルンティング……バーサーカーの語源と由来を同じくするという王が持つ魔剣に、クリスは露骨に目を不機嫌に細めた。
「この期に及んでまだ出さねぇつもりか」
「言っただろ? アレは軽々しく振り回していい剣じゃないんだって」
「そォかよ、ならいいさ。―――出さねぇならそのまま潰してやる」
ガション、と重低音を響かせながら両手の連装ガトリングが再び構えられる。それに対し、血に飢えているかの如くゆらりと赤い矮躯へ魔剣が切っ先を向ける。
ギリギシと空気が音を立てて軋んでいくかのような緊張が―――
「オイコラ」
「ぬごぁっ!!?」
―――ゴイン!! と。
頭頂に叩きつけられた衝撃で雲散霧消させられた。
思わず呻きながら膝を折る士郎。奔る痛みは、割れるというよりも首の骨が肉ごと釘打ちよろしく埋没するかの如き錯覚を鈍く伝えてくる。正味な話、だいぶ遠慮が省かれた打撃だ。
擦るように頭を抑えながら振り向けば、爆撃から身を守られているさなかに纏ったのか、ギアを纏い据わった眼差しで蹲るこちらを見下ろす奏の姿が。頭部への打撃は、穂先の根元近くの柄で肩をトントンと叩く槍によるものか。恐らくは穂先を寝かせた腹の部分で叩いてきたのだろう。
彼女はそのままこれ見よがしに盛大な溜息をついて見せる。その様はまるで、うだつの上がらないダメ亭主に対する倦怠期絶頂のベテラン主婦の如し。そうして腰を折って鼻先へと人差し指を突きつければ、呆れた声音で言葉を紡いでいく。
「い・つ・ま・で! 自分だけで突っ走るつもりだよ、このバカ大将は」
「い、いや……そうはいってもな?」
「そうもこうもねぇよ。もう状況は変わったんだ」
鼻息荒く、槍とは逆の手を腰に当てて胸を張って見せる奏。先ほどは響と未来相手に色々と言っていたが、それはそれとして不安もあれば不満もあったのだ。
それに対して士郎は気まずげに目線を逸らした。彼女の言葉が耳に痛かったというのもあるが、下から見上げる形になると豊かな山脈ごしに顔を覗く形になる。大変に目に毒だ。
それはさておき、彼女は有無を言わせず士郎の隣へと並び立った。そのままクリスへと眼差しを向けなおせば、肩に預けていた槍を振り下ろして真っ直ぐに穂先を突きつける。
クリスが受けるその瞳には、確かな怒りと共に強い決意が込められていた。
「アタシは若大将だけにこれ以上押し付ける気もないし、それ以前にアイツにはカリも言いたいことも山ほどあるんだよ。
んでもって、そいつはあの子も同じさ」
と、その言葉に反応するよりも早く、士郎の逆隣に立つ影があった。それはもはや言わずもがな。
「立花……」
「衛宮さん……やっと、お互いの名前もわかったんです。だから、今度こそ」
言いながら、響は奏のとよく似た装甲を纏い、凛と立ちながらその瞳はまっすぐにクリスへと向けられていた。その揺ぎ無い輝きを見て、士郎は若干の諦めを含めて息を吐く。もっとも、その顔は小さくも笑みが浮かんでいたが。
そうして士郎は立ち上がり、改めて剣を構えた。その所作は、なんとなく先ほどよりも活力があるように感じられる。
「わかったよ……一応言っておくが、気を付けろよ。今までとは、だいぶ毛色が違うからな」
「はいっ!!!」
「わァーってるって」
輝くような戦意を漲らせる三人。その姿を真正面から見せつけられて、クリスは肩を揺らした。口の片端を持ち上げたような笑みにあるのは、嘲りと苛立ちか。
「ハ。臭っせぇ寸劇はそれで終いかよ。―――あぁ、本当に臭っせぇ臭っせぇ臭っせぇんだよ! 嘘臭くて青臭くて鼻が曲がりそうだ!!
だからここで、纏めて潰して壊して消毒してやる………!!」
嘲いの言葉は途中から咆哮のような怒号へと変わり、吠えかかりながらクリスは連なった銃口を持ち上げた。それに応えるように対峙する剣と槍と拳が構えられる。まさに一触即発、次の瞬間には激突が不可避であると思われたその時だ。
クリスの背後の木々から、枝をへし折りながら青紫の影が幾つも舞い上がった。まるで回遊するかのように上空で旋回するのは、飛行型のノイズだ。
「っ!?」
「チィッ! ここにきて頭数を増やすかよ!!」
目を見開く響に、思わず舌打ちをかましてしまう奏。しかし士郎が見据える先で、両隣の二人よりも動揺を見せたのはクリスのほうだった。
「な、勝手に手ぇ出そうと―――」
その言葉は誰に当てようとしたものか。しかしそれよりも先に彼女の思考は真っ白に塗りつぶされることになる。
なぜなら。
両腕に展開したままだった連装ガトリングガン、その右側が直後に粉砕されたからだ。
「――――――――――――え?」
何が起こったのか、わからないと言ったように呆けるクリス。
否、正確には起こったことを受け入れられないと言うべきか。だが、それこそを嘲弄するかのように今度は左のガトリングガンが同じように砕かれた。
そう―――身を捩って槍のようになったノイズの、特攻じみた吶喊によって。
「な、んで……?」
それは彼女にとって、本当に思慮の外にあった事態なのだろう。
だから、その瞬間の彼女はこれ以上なく無防備で、突けばそれだけで本当に倒れてしまいそうに揺らいでいたから。
その背を狙って墜ちてくる三つ目の槍の存在にも―――
「っ、あああああああああああああああ!!!」
―――それから助けるために、文字通りに身体ごとぶつかってきた響にも、一切抵抗することができなかった。
「っ、あ!?」
「っつぅ……」
衝撃で再起動した意識が捉えたのは、自分にのしかかる響の姿と、先ほどまで自分がいた場所に異形の槍が突き立っている光景だった。虚しく地面を穿っただけのモノが真っ黒になって崩れていくのを見届けて、クリスはようやく自分が潰そうとしてた相手に助けられてしまったのだと認識する。
「お、お前っ、なんで……!?」
「………。クリスちゃん、だよね? 名前……」
「はぁ!?」
戸惑いばかりが募るクリスへと、響は顔を上げた。それで向けられたのは眉尻を下げた困ったような……しかし、それ以上に安堵の込められた柔らかい笑み。
「クリスちゃんが危ないと思ったら、つい……でも、無事でよかったぁ」
「―――っ、」
息も、言葉も詰まった。
一瞬にして湧き上がり、渦巻いたのは怒りだが……それを吐き出す寸前で、それが彼女に向けてのものなのかどうか、自信が持てなくなってしまった。
「……バカにしてんのかよ……余計なおせっかいにも程があんだよ」
「あはは。ゴメン」
なんであやまってんだ、と。
今度こそ正真正銘、響へとぶつけるべき苛立ちを発露させようとした直前、彼女ともどもクリスに濃い影が差した。
見上げたすぐ先にいたのは、クマムシのような形状の大型ノイズだ。ソレはまるでこちらを覗き込むように首を曲げ、水牛のような角と共に菊割れ状の口腔を開いていた。
「「っっっ!!?」」
無言の驚愕に、息を揃える二人。クリスは武器を砕かれ、響は経験が浅く、そして二人共が大勢を大きく崩している。迎撃も回避もどうしようもなく難しい。
奏も士郎もそれに気付いていたが、二人の行動を阻むように飛行型のノイズが行く手を阻む。先ほどとは違う横回転の飛行はプロペラというよりも宙を滑るベーゴマのようだ。人体ならば掠るだけで切断せしめるだろう回転ギロチンの公転軌道は、明らかに悪意を伴った妨害を感じさせる。
これを素早く排除することは奏にも士郎にも可能だ。だが、それにかかずらう僅かな時間はクリスたちを弑するのに十分すぎた。
だからこそ。
絶体絶命の盤面を覆すのは、それ以外の人物だ。
ッッドォオオオオオオオオオオオッッッ!!! と高台そのものを揺らす地響きを伴って、巨大な『何か』が叩きつけられる。
「ゥアアアアアアアアッッ!!?」
「わわわわわわわっ!!?」
間近に受けた余波で転がされる二人。その最中に勢いを利用して膝立ちに起き上がったクリスが見たのは、『何か』に胴体の真ん中から真っ二つにされて崩れ去ろうとしている大型ノイズの姿だ。
目を瞬かせる彼女は、特に意識しないままにポロリとこぼす。
「………壁?」
「否。―――剣だ!!!」
応えた言葉は、『何か』……巨大な『剣』の上から、打ち鳴らすかのように轟いた。
弾かれて見上げれば、巨大な刀身の根元……己の体そのものを柄にしているかのように、蒼い影が立っていた。
その姿を。
凛としたその在り様を。
遅ればせながら身を起こした響は目の当たりにして、その表情を喜色満面に染めていく。
そこにいたのは、
「翼さん!!!」
剣纏う防人。
アメノハバキリの装者。
欠けていた、ツヴァイウィングの片翼。
風鳴 翼、満を持して戦場への帰還である。
***
「ふっ―――」
呼気も短く、翼は跳躍。直後、空いた空間を横切るのは回転刃のノイズだ。
回避など許さないというかのように、ノイズは宙の翼へと追撃して、
「ハッ!」
翼はその吶喊を刀で受け止め、弾かれることで反動を利用しての空中跳躍を果たす。さらに距離を稼ぐ彼女を、今度は着地の瞬間を狙わんと更に追い打ちを掛ける。しかも、挟み込む形でもう一体のノイズが迫っていた。
「危ない!!」
思わず、声を張る響。そうしている間にも、二つの回転刃の交差地点に翼の細い体が降り立とうとして―――
「なぁっっ!!?」
―――剣戟のような甲高い音に、クリスは戦慄いた。
二体のノイズが挟み込んだのは、刀の刀身。翼は宙で身を捻り、蜻蛉を切るように天地を逆にすると切っ先を突き立てることで着地を果たしたのだ。
右手で柄を持ち、左手を柄頭に当てることで倒立する翼。そのまま身を振って、刀を引き抜きながら今度こそ地面に降り立つと、
「セイッ!!」
そのまま、振り向きざまに刃を閃かせて二体のノイズを両断する。更に彼女は振り抜いた刀の刃を返し、シィッと鋭く息を吐きながら構えなおした。すると手に持った刃は構造的・質量的な矛盾を超越して巨大な姿へと展開していく。
かくして反動を貯めてから、解き放つように繰り出されるのは横薙ぎの一太刀。しかもその刃には、蒼い輝きが宿っていた。
「ハァ―――ッ!!!」
――――蒼ノ一閃
虚空をなぞった軌跡そのままに、蒼い光輝が斬撃の翼となって空を一直線に飛翔する。羽撃く剣閃が向かうのは、いつのまにか数を増やして空を舞っていたノイズの群れ。遠当ての刃は、その悉くを一瞬で両断せしめて見せた。
鎧袖一触―――まさにそう呼ぶにふさわしい、圧倒的なまでの大立ち回りである。しかしながら、当の本人は静かに残滓を払うかのように刃を振るい、その動きで手に持つ刀を元の大きさへと戻した。そして小さく一言。
「………本調子にはあと三……いや二歩、というところか」
ただ冷静に、過小でもなく過大でもなく的確に現在の己の状態をそう判じる翼。その清廉な立ち振る舞いに、目を奪われていた者たちがすぐ傍にいた。
「す、ごい……」
「………」
その一部始終を同じ位置から見届けて、響は目を丸く見開いて感嘆を漏らし、クリスは戦慄と共に声を失っていた。
特に後者は、かつての相対の記憶と比較して、その明らかな差異に小さな混乱を得ていた。
(アイツ……アタシと戦った時と違う)
キレが違う。
迅さが違う。
鋭さが違う。
アレは本当に己が降し、踏みにじった相手と同じなのか?
ましてや病み上がり……漏らした言葉を信じれば、本領を発揮しているわけですらないというのに。
一体どうして、なにがここまで違うのか。
確かに、翼が不覚を取ったのはクリスの才覚によるものが大きかった。
だが、そも翼とてその実力を十全に発揮できていなかったというのもまた事実だ。
行方知れずであったネフシュタンの鎧。
ノイズではない人間が相手であること。
当時不安定であった、響のこと。
それらが積み重なってしまえば動揺は避けられず、更にはダメ押しとばかりに響が人質となっていたのだ。いわんや常在戦場を心がける防人であらんとしても、元々が人一倍情に篤い彼女がそれで心をかき乱されないわけがない。
例えるなら、あの夜の翼は刀身だけが手入れに行き届いた、拵えの酷い銘刀のようなものだった。どれほど鋭く研ぎ澄まされた刃であろうとも、それではなまくら程度の力も出せやしない。
逆を言えば、それらが無くなった今の彼女がクリスに劣る道理はない。なぜなら、彼女もまた溢れる才気を研鑽で以って研ぎ澄ませた者。
復活を果たした風鳴 翼は、まさしく至上の絶刀と言えよう。
かてて加えて、今の彼女は一人ではない。
「「翼!!」」
討ち漏らしか、或いは増援か。左右から迫りくる回転刃が、翼が刀を振るうよりも先に叩き潰される。それを為したのは、槍と剣。
彼女が最も信を置く二人だ。
「奏、士郎さん」
「ったく、病み上がりだろうに無茶すんな」
「……もっとも、問題はなさそうで何よりだ。」
心配げに気遣う二人に、翼は少しだけバツが悪そうに、しかし大丈夫だと笑って頷く。そうされれば、奏も士郎も納得して小さく笑みを浮かべて返した。
「ところで、小日向は?」
「ご安心を。緒川さんがこちらに来て、彼女を避難させてくれています。今頃はもう下にいる頃かと」
「そうか、慎次にはあとで礼を言わないとな」
ちなみに、最速最短での避難を選択した結果、未来は抱えられた状態で木から木へと飛び移るというトンデモ絶叫系体験をする羽目になり、地上に着くころには完全に目を回してしまうのだが……小さくも尊い犠牲である。
閑話休題。
「さぁてと……オイ、こいつは一体どういう状況なのか、説明してもらおうか?」
言いつつ響たち―――否、クリスへと振り返った奏の眼差しには、酷く剣呑な光が浮かんでいた。それを浴びせかけられて、当の本人は思わずビクリと肩を震わせてしまう。
それに対し、響はわたわたと慌てて間に入るように膝立ちになった。
「お、落ち着いてくださいよ奏さん!! それに、今のってクリスちゃんも狙われて……」
「ンなこた見てたからわかる。それも含めてどうなってんだって訊いてるんだよ」
今にもガルガルと唸り声でもあげそうなほどに苛立ちを露にしている奏。クリスの前にいるためか響もそれを正面から向けられ、肩を竦めてしまうもののそこからどくつもりはないようだった。
と、そんな奏の肩に手を置いたのは、相方の翼だ。
「翼……」
「奏」
名を呼び合う、そのやり取りだけで意図を察したのか。奏は不承不承をあからさまにしつつも身を引かせた。そもそもの怒りの原因が、その翼に対しての所業であったこともあるだろう。
そうして代わりに前に出た翼は、響の肩越しにクリスを見る。破壊されたのは武装だけであり、その前の士郎との戦いも含めて傷はない。だが、心中は穏やかではないのだろう。表情を歪め、翼から顔を背けつつもそれ以上なにかをしてくる様子はない。
翼は、それ以上近付くでもなく口を開いた。
「雪音といったな。君と話をしたいのは、立花だけじゃない」
「……は?」
「私とて、君が刃を交える敵ではないと………そう信じたいんだ」
思わず、目を剥いて振り返る。クリスから見れば、この翼という女性は容赦のない女だと思っていた。それは根拠のないものではなく、一度刃を交えていたからこその確信を伴った認識だ。ましてや自分を庇うこのバカと同じようなことを言ってくるなど、望外というにもほどがある。
だが、こちらへ向けてくる眼差しに敵意はない。ただまっすぐ、真摯に自分を見つめていた。
「教えてくれないか?
なぜ、貴女は戦っている? なぜ、ネフシュタンとイチイバルを持っている?
―――なぜ、貴女までノイズに襲われたの?」
その問いに、しかしクリスは答えない。―――否、答えることができない。
翼の行動に対し、強い戸惑いを得ていたというのもある。だがそれ以上に、最後の問いに対し返すべき答えを持っていないのだ。
その胸中には尽きぬ疑問が渦巻き、頭は混乱の極致であった。
だからこそ。
『――――――命じたこともできず、あまつさえ勝手にしでかしたことさえこの有様。
本当、アナタはどこまでも失望させてくれるわね』
強い落胆の込められた呼気と共に告げられたその言葉に、彼女はどうしようもなく打ちのめされたのだ。
「………フィーネ!?」
悲鳴のような声で名を呼びながら、クリスは森へと眼を向けた。士郎たちも同じように群れを成して生い茂る木々の奥を覗き込み―――そして、見つけた。
はためかせるほどに大きな袖口に反して丈の短いワンピースドレスに、蝶の飾りのついたキャペリンタイプのつば広帽、それに顔を覆う薄墨のようなベール。
総じて喪服のような黒ずくめの女性。それは墜ちていく陽に反比例して濃くなっていく闇に融けこみ、ある種のこの世ならざる雰囲気を作り上げていた。
そんな中で、目を引くものは三つ。
一つは、帽子からこぼれて背に広がる長い金髪。
一つは、袖から延びる白い手。
そして、
「あれは……ノイズを呼び出し、操っていた!?」
ソロモンの杖。
名は知らずとも、かつて眼前でクリスが扱っていたその器物の存在に、翼は気付いて声を上げる。
自然、全員が緊張を漲らせながら身構える。
フィーネ―――終わりを意味する名で呼ばれた者。
恐らくは、クリスを操っていただろう存在。
光が乏しく、刻一刻と闇を深くしていく森の中ではその仔細はわからないが……声の調子からすれば、存外に若くはありそうだ。
特に士郎は、魔術で強化した瞳でより詳細にその姿を明らかにしようとするが、それでも限界はある。あくまでも、彼にできるのは純粋な視力の強化でしかないのだ。
(それでも、細かな仕草や立ち振る舞いは追える。……もっとも、さすがに根拠を得られるほどには判然としないか)
そも、人が外観から得られる印象というのは思った以上に変動する。
別人のような変装でもたった一つの共通項で天啓のように繋がることもあれば、ほんのささやかな違いだけで同一人物だと認識できなくなることもある。
こうしてほんの少しの間、離れて対峙するだけではその正体など見通せるはずもない。
だがしかし。
確信というものを遠ざけ、霧中のように疑念の向こう側へと覆い隠すその在り様にこそ、士郎は強い既視感を覚えていた。
そんな士郎の思考をよそに、事態は進んでいく。
「―――っ!!」
「わっ!?」
「こんな奴がいなくたって、戦争の火種なんてアタシ一人で消してやる!! そうすれば、アンタの言うように人は『呪い』から解放されて、バラバラになった世界は元に戻るんだろ!?」
クリスは傍にいた響を突き飛ばしながら、弾かれたように立ち上がる。そうして明らかに必死な様相で黒ずくめの女……フィーネへと声を張り上げた。
縋り付くようなその響きは、もはや悲鳴ではなく泣き声だ。それを受けてしかし、
「―――」
黒を纏ったその女は、小さくもあからさまな溜息を一つ漏らし、空の右手を前へと掲げる。すると、その手は眩い輝きを放ち始めた。
それだけではない。まるで誘蛾の如く、その手の光へと淡い光の粒が群れを成して殺到し、奔流となって渦巻いていく。
「な、なんだこりゃ!?」
「め、面妖な」
周囲を流れる燐光の流れに戸惑う奏と翼。一方で、士郎だけがその光の正体を見抜くことができていた。
「ネフシュタン……まさか、回収してるのか!?」
そう、流れていく光の粒の一つ一つが粒子化したネフシュタンの鎧。
如何なる業を以ってかはわからないが、目の前にいるフィーネという女は千々に散ったネフシュタンの装甲を完全に分解して手元へと誘引しているのだ。
やがて光の渦は風がやむかのように掻き消え、右手の光も静まっていく。恐らくは、バラバラであった鎧の全てを拾い終えたのだろう。
そして、一度は与えたはずの
「………フィーネ?」
再び、名を呼ぶクリス。しかしやはりフィーネは答えず、文字通り『用は済んだ』と謂わんばかりに踵を返してしまう。
ただそれだけで、クリスのみならず全員が察してしまう。
この瞬間。
雪音 クリスは、フィーネに棄てられたのだと。
「ウソ、だろ? なぁ、何とか言ってくれよ……オイッ!!!」
遠ざかる背中は、止まらない。
一顧だにせず、公園の森の奥―――闇の中へと消えていく。
「フィーネ……フィーネェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!!!」
もはや堪えきれなくなったのか、クリスは一目散にフィーネを追って駆け出した。その背中は、それこそ本当に幼い迷子になってしまったかのように、か弱く小さなものに見えてしまう。
だから、響はそんな彼女を一人になどしておけなくて、
「待って、クリスちゃん!!」
「―――っ!? 下がれ、立花!!」
追いかけようとした瞬間に、肩を掴まれて引き戻される。
直後、自分たちと彼女たちを分断するかのように巨大な剛腕が振り下ろされた。
「っ、わぁ!!?」
士郎に肩を抱かれた状態で、衝撃に地を転がされる。そうして見上げた先には、ハサミ状の手を持つ巨大な人型ノイズが身を捩って立っていた。
出来損ないのモニターにも歯を剥き出しに笑う口腔にも見える頭部が、まるで嘲笑うかのようにこちらへ向けられている。また、それだけでなくいつの間に周囲には多数のノイズが茂みの中からわらわらと姿を現し始めていた。
伏兵であるのか、それとも追加で呼び出したのか解からないが、少なくとも自分の身を追わせるつもりは毛頭ないようだ。
「立花、彼女のことが気がかりなのは解かるが、今はこの場を切り抜けることが先決だ」
「―――はい」
立ち上がり、黒い刃を構えなおす士郎。響も彼の言葉を正論だと理解しているのだろう、悔し気に奥歯を噛みながらも、その隣で拳を構えなおした。
と、その肩を気づかわし気に叩く手がある。翼だ。
「翼さん」
「立花、いけるか」
「……大丈夫です。へいき、へっちゃらです」
言葉ほど、平気でもないだろう。それでも、己を鼓舞して立ち上がる彼女に、翼は「……そうか」と受け入れた。そこに感じられた確かな成長に、微かに眼差しを緩めながら。
「ならば、私のアシストを頼む。背中は任せたぞ、立花」
「はい! ……って、私がですか!?」
「なんだ、不満か?」
驚き振り向く響の隣に並びながら問い返せば、ブンブンと残像ができるほどに首の横振りが返ってくる。
「ふ、不満とかじゃなくて……私が翼さんの補助でいいんですか?」
「ああ。私もまだまだ本調子には遠くてな、錆落としは不可欠だ。
……それに、まだ間近で見せてもらっていないからな。お前の決意を」
言われ、ほんの少しの間を置いてから響は改めて瞳に強い光を宿した。
「―――はい! 解かりました!!」
「いい返事だ!」
隣で繰り広げられたそのやり取りに、士郎もまた小さく口の端を持ち上げていた。と、その背に軽い衝撃が文字通り叩き込まれる。
見れば、奏がニッカリとした笑みを浮かべながら逆隣に並んでくるところだった。表情から察するに翼と響のやり取りを嬉しく思っているようだが、この感情の切り替えの早さは流石というべきか否か。
それはさておき。
「そんじゃ、アタシは若大将にサポートしてもらおうかね」
「む……そうだな。だが、まだ弓は引けんぞ」
より正確に言えば、射撃自体は可能だ。右手の貫通創はすでに治癒を開始していて、血も止まっている。そも、掌を貫かれた程度なら彼にとっては戦闘活動においては許容範囲内だ。
しかし、これが味方を援護するとなると話が違ってくる。それに必要なまでの精密性を取り戻すには、もう少しばかり時間が欲しいところだった。
だが、それに対して奏は『構わない構わない』と軽く手を振った。
「背中守ってもらえるなら十分さ。なんやかんやでいろいろ消化不良の鬱憤を晴らしたいしな。
それに―――」
そこで、奏は翼へと……ようやく戻ってきた己の片翼へと、目配せと共にウィンクを贈った。
「一足早いが、ツヴァイウィングの復活祭だ。いっちょ派手にやりたくってね」
「っ、奏……」
ともすれば、それは不謹慎なものの言い方なのだろう。だが、そんな言葉を飲み込んでしまうほどにこみ上げる想いが胸を詰まらせ、
「……ええ、見せてやろう。私と貴女、剣と槍―――二人そろったツヴァイウィングの、天下無双の羽撃きを!!!」
同時に、総身を駆け巡る戦意に力を漲らせた。
かくして、蘇った双翼が戦場を飛翔する。
その後のことは言うまでもない。
おざなりに放たれた有象無象の雑音如きに、戦姫と魔術使いが負ける道理など、微塵たりとも存在しない。
***
「皆、ご苦労だったな。無事に帰ってきてくれてなによりだ」
ノイズを掃討して暫く。
後始末の引継ぎまで終えた一同は、二課の本部へと直行していた。
それぞれが若干の疲労などを見せているが、一番フラついているのが忍者式ジェットコースターを強制体験した非戦闘員の未来であるのは余談だ。
ともあれ、出迎えた弦十郎は一言ねぎらうと、どこかバツの悪そうな翼に視線を向ける。
「翼……まったく、無茶をする」
「無断での勝手な参戦、申し訳ありませんでした。お叱りはいかようにも」
「いや、いい。それより体の方は大丈夫なのか?」
「はい。なまった体への喝も、鈍った勘を取り戻すのも、先の闘いで十全に」
「そうか……あらためて、これからよろしく頼むぞ」
「はいっ」
力強く頷く翼に、弦十郎は嬉しそうに口角を持ち上げた。
「しかし、せっかくの休日に災難だったな」
「いや、そうでもないさ弦十郎の旦那。実際、今日は楽しかったよ。
……それに、収穫もあったしな」
途端、場の空気が引き締まった。その場の皆の脳裏に思い起こされるのは、先の闘いに置いて現れた二人の存在。
「クリスちゃん……」
「それに、フィーネという女」
ネフシュタンのみならず、イチイバルのシンフォギアを纏って見せた少女―――『雪音 クリス』。
そのクリスを操っていたと思しき、ネフシュタンを回収していった謎の女―――『フィーネ』。
これまで靄の中にいたかのような敵方の姿が、ここにきて輪郭を帯びつつあった。
「あの、イチイバルって……」
「十年前、紛失していたとされる第二号聖遺物だ。それがどうして彼女たちの手に渡り、使われているかは不明だが……」
「けど、それを使っていた雪音 クリスについては情報が出てきました」
オペレーター席の朔也がそう言ってコンソールに指を滑らせると、メインモニターに画像が表示された。
新聞記事のものだろうモノクロの見出しには『邦人少女 失踪』や『南米内線』などの文字が躍っており、次の瞬間には同記事内の写真がピックアップされる。それは顔立ちは幾分か幼いものの、紛れもなくクリスだ。
さらに写真の横には名前と共に注釈でこう書かれている。―――『ギア装着候補』、と。
瞬間、響たちの表情が揃って驚愕に染まる。
「ギア装着候補って……まさか!?」
「そのまさかだよ……年齢は16歳。かつて装者の候補として選抜されていたものの、二年前に行方不明になったままだった少女……それがまさか、こんな形で」
少女たちが言葉を失う中、弦十郎が苦いものを噛みしめるように口元を曲げて瞑目していたのを、士郎だけが気付いていた。
と、朔也とは逆サイドのオペレーター席に座っているあおいが、険しい表情を浮かべて口を開く。
「しかし、これで聖遺物の力を引き出して戦う技術において、我々の優位性は完全に失われてしまったわね……」
ネフシュタンの鎧、ノイズを操る力……そしてシンフォギア。
実際の戦力差はさておき、手札の数という面ではこちらが不利であることは否めない。これまで相手が持ちえない力として抗してきたシンフォギアを、相手方も保持しているとなれば戦況をこちら側へと傾けることは難しいように思える。
しかし、かといって状況が一方的であるかといえばそうでもない。
「―――深刻になるのはわかるけど、こっちは装者が三人もいて、オマケに魔術なんてものが使える衛宮くんまでいるのよ?
頭を抱えるのはまだ早すぎるわよ」
「了子さん」
「だれがオマケだ」
敢えて明るい口調で言い放つ了子に、さらっと毒を吐かれた士郎が思わず半眼になる。
だが彼女の言うとおり、現時点で確認できる範囲では戦闘に動員できる人員はこちらのほうが多い。相手がノイズで人海戦術をしてきたならば数の優位はなくなるが、実際の戦闘能力で比較すれば決して劣るものであるとは言えないだろう。
そしてそれだけではない。
奏が腕を組んで思い返すように呟く。
「まあ、なんか知らないけど、向こうは向こうでなんかゴタゴタやってたしな」
「……それがこちらの油断を誘うための罠である可能性は?」
「いや、それにしては雪音という少女の反応は真に迫っていた」
慎次と士郎のやり取りを聞いて、その時のことを思い出した響の表情が我が事のように曇っていく。
あの時、フィーネという女はクリスのことを明確に見限っていた。それを真に受けるならば、今後はクリスが今までのように立ち塞がることが無くなるのかもしれない。
もっとも、それで彼女がこちらと足並みをそろえてくれるかと考えれば、疑問が先に来る。これまで通りにこちらに敵対してくる可能性も十二分にあり得るのだ。
(クリスちゃん……)
響の耳に、去り際の悲痛な嘆きが今も残っている。あの時、延ばして掴むことのできなかったこの手がどこまでも空しく疼いていた。
そんな響の様子を、未来が心痛に目を細めながら眺めている。
一方で、士郎たちもクリスのことは気になっていた。だが同時に、それ以上に気がかりな存在もある。
フィーネと名乗る女のことだ。
クリスと違い、こちらのほうは該当するデータは存在せず。もっとも、素顔は隠されている上にフィーネという名さえも本名であるかどうか怪しい現状、調べる手立てそのものがないとも言えた。
とどのつまり、正体も目的も謎のまま。結局はなにも状況は変わっていない―――そうとも取れるが、しかし。
「ここにきて、姿を見せたのは何のためだ?」
「それは……ネフシュタンの鎧を回収するためでは?」
あおいの予測は、恐らく的を射ている。
あのまま何の介入もなかった場合、どのような形であれクリスの身柄は確保されていた可能性は高い。よしんば彼女がその場を脱することができたとしても、ネフシュタンの鎧まで回収できていたかは非常に怪しいと言えた。それらを危惧して、ああして出張ってきたというならなるほど説明はつく。
そしてそれは同時に、ある可能性が非常に高いことを示していた。
「あの時の雪音との会話から察するに、彼女に指示を与えていたのは十中八九あの女だろう。仮にアレが黒幕だと考えると……」
「―――、そういうことね」
「え、どういうことですか?」
何かを察して眼差しを鋭くした了子が、キョトンとする響にピンと立てた人差し指を振りながら答える。
「相手方で、前線に立てるのは雪音 クリスとフィーネって女だけ……下手をすれば、その二人しか人員がいないってことよ」
「「あっ!」」
響のみならず、未来まで声を揃えて気付く。
そう、仮に戦闘が可能な人間が他にいるならば、フィーネという女がこちらに姿を見せる危険を冒す必要など欠片もないのだ。
それはとりもなおさず、士郎と了子の至った結論を裏付ける状況的な証拠に他ならない。
「そして姿を見せた以上、どういう形であれ状況は必ず動く」
それが切羽詰まってのものか、或いは目的が大詰めとなってのものであるかは解からない。だが、確実に事態は変わっていくだろう。
―――それこそ、劇的なまでに。
「皆には、何時、なにが起きても動けるよう備えておいてほしい。―――ここからが正念場だ! 気を引き締めて掛かってくれ!!」
『『『了解っ!!』』』
弦十郎の激に、全員の声が唱和する。その瞳は、誰もが強い決意の光を宿していた。
……少なくとも、弦十郎の見る限りには。
「響くんたちも、今日のところはもう休んでくれ。疲れはなるべく残さないようにな」
「はいっ、大丈夫です! ご飯をいっぱい食べて、ぐっすり眠れば元気回復です!!」
「あ~、なんかアタシもハラ減ってきたな~。若大将、せっかくだしなんか作ってよ」
言うなり、ダブルガングニールが揃って仲良く腹を鳴らした。そのことに、それぞれの相方が呆れ顔で溜息をもらす。
そんなやり取りは、傍で見ている分には微笑ましいばかりだ。荒んだ現実を忘れてしまいそうなくらいに和んでしまう。
「響ったら……」
「奏も、もう……」
「ハハ、構わんさ。弦十郎、食堂を借りても?」
「ああ、許可は出しておく。」
「んじゃ、せっかくだし私もご相伴にあずっちゃいましょうかしら?
弦十郎くんも来ない?」
「せっかくのお誘いだが、オレたちはまだ事後処理が残っていてな。
そちらはそちらで気兼ねなく英気を養ってくれ」
了子の誘いに対し、しかし弦十郎は残念そうに肩を竦めて見せた。
だがその苦笑いに、陰りがあるように見えるのは果たして気のせいだろうか。
「弦十郎?」
「ん? どうした士郎?」
「……いや、なんでもない。それならこちらで摘まめるような差し入れでも作って持っていくよ」
「ああ、すまんな。頼む」
その後、和気藹々と一行がその場を後にすれば、やや抜けた緊張感を残滓として静寂がやってくる。
ほんの少しの間を置いてから、朔也が背筋を伸ばしつつコンソールへと向き直った。
「さぁて、オレたちがぐっすり眠れるのは何時になりますかね、っと」
「ぼやかないの。銃後の守りはしっかりと」
「了解了解」
あおいとのそんなやり取りを聞き流しながら、弦十郎はメインモニターに映ったままの画像を改めて見上げていた。
幼く、そして戦場の苛烈さとは無縁であっただろう頃の少女の姿。
それを眺める彼の胸中に渦巻くのは、強い罪悪感と後悔だ。
(―――気を引き締めろ、か。まったく、どの口で言っているんだろうな)
浮かぶ自嘲を押し込めながら、彼は静かに深い溜息をつく。
ギリギリと苛み続ける胸の痛みは、まるでかつての罪と慚愧が心臓を握りしめているかのようだった。
というわけで、やや短めですが少し早めに出せました。
まずは内容振り返り。
○その頃の本部
実は前回からちゃんとモニターしていたんです。
で、クリスの存在に気付いて愕然としてしまうOTONA。
考えてみると、第一期は本当に弦十郎にとって精神的ハードモードなんだなって思います。
○クリスちゃん大暴れからの奏&響参上
まず、イチイバルと士郎の対決を期待されていた方、すいません。
話の流れ的に、イチイバルの活躍はもうちょっと先になっています。
その分、早ければ2~3話くらい先で士郎と一緒に大活躍の予定ですのでお楽しみに。
○風鳴 翼復活ッ!! 風鳴 翼復活ッ!!
こちらも、話の流れ的に立ち回る相手がクリスではなくなってしまいました。
そんな中で負傷前よりも冴え渡っている感を出せていればよいのですがどうでしょうか?
○フィーネ登場
一体何者なんだ(棒
ちなみに、敢えて彼女のセリフは原作より少なくしています。
それだけ警戒心を出しているのだとお考え下さい。
○二課本部に帰還
さらりとマッチポンプというか、面の皮厚いなというか……誰とは言わないけど。
けど、考えてみるとシンフォギアシリーズの敵って結構な割合で面の皮厚すぎるのが出てきてるような……ウェルとかジジイとか。
……と、今回はこんな感じで。
次回はもしかしたらinterludeになるかもです。
それでは、こっから雑談。
まずはXDU。
XVはイベ扱いなのか……てっきり本編なのかと思ってましたが。
それにしても改めて振り返ると……『このジジイ、どの面下げて言ってんだろうな』っていう……
マッチポンプでやらかしているくせにこの言い草はある意味すごいなって……
で、次のイベで後編来るかと思ったら……まさかのULTRAMAN。
しかもHEROで連載してるマンガ版。パワードスーツの方。
コミックは買っていませんが、個人的には割と好きなのでどんな内容になるか楽しみです。……これはマジでライダーとのコラボあるな、その内。
次に、FGO。
生まれて初めての課金を含め、聖闘士ロムレスガチャや2000万DLの武蔵ちゃんガチャなどを回した結果……
アタランテ、カーミラ、エレナママン、フラン、更にはモードレッドまで来てくれました!!
超嬉しい。なまら嬉しい。
アサシンやキャスターを良い感じに補強できました。
……その上で、言わせてくれ。
ランサー枠補強させて(切実
星3ロムレスや槍ニキを育ててますが……槍ピース不足で再臨できてなかったり。
そこへ星5サバプレゼントがあるようですが、自分は勿論ランサー枠……ではなく、孔明を選ぶ予定。
いや、ランサー補強したいしジャンヌやおっきーやジャックちゃんは欲しいですよ?
でもこの先のハードモード考えると孔明先生手に入れておきたいかなって……
まあ、ビッグベン☆ロンドンスター先生も好きですけどね、もちろん。
メインシナリオは現在、第6特異点。
というか、いきなり難易度のハードル上がった感がすごいですね。
嘆きの壁のガウェインを何とかクリアできました。噂通りの難しさでした。
一回負けた後、攻略サイトを見てエウリュアレを最終再臨まで育てて再トライ……でも、超人オリオンとフレサポのマーリンいなかったらやばかった……ありがとう、マーリン持ってた方。自分もマーリンほしいです。
とりあえず、スカサハや邪ンヌのピックアップガチャは最低一回は回す予定。
……といった所で、この辺で。
もうすぐゴールデンウイークなれども、コロナのせいで自粛せざるを得ない昨今、この作品が少しでも無聊の慰めになれば幸いです。
それでは皆様、お体と外出には本当にお気をつけくださいませ。