戦姫絶唱シンフォギア赫鋼―アカガネ―   作:樹影

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25:Babalon/Synchrogazer

 

 

 

 曙光に照らされる街並み。

 そこにはしかし、怖気の走る汚穢に満ち満ちていた。―――ノイズの群れだ。

 未だかつてなく、それこそ隙間を失くすように犇めくそれらは、まるで人の営みそのものを己らで塗りつぶそうとしているかのようだ。

 或いは、それは間違いではないのかもしれない。

 もはや知る者のいないノイズの存在理由(レゾン・デートル)とは『文明を壊さずに、そこに住まう人間だけを殺す』ということ。しかし、そうして生み出した先史文明は結局滅び、残ったのは聖遺物と呼ばれる器物(アーティファクト)とノイズそのものだけだ。

 文明というハコが無事でも、それを営むための人間が居なくなってしまったならば? ………この悍ましい光景は、もしかしたらその再現とも言えるのかもしれない。

 

 だが、先史文明(かつて)現在(イマ)で明確な差というものがあった。

 それは、

 

 

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」

 

 

 

 汚穢を祓い清め、一掃する―――戦乙女(シンフォギア)たちの存在だ。

 

 ―――ULTIMATE∞COMET

 

 天使を彷彿とさせる光翼による超高速飛翔。鋭く、長大に、そして流麗に強化された大槍。

 その二つが組み合わさった吶喊は、数百……もしかするならば千にも届くだろうノイズを一筆書きになぞるように消し去っていく。更には途中で立ちはだかる大型ノイズすら、二体三体と纏めて貫き撃ち砕いてみせた。

 俯瞰でそれを眺める翼からすると、それこそへばりついた汚れを一直線にこそぎ落としたかのような、ある種の爽快感を覚える。

 その時、視界の端で何かを察知する。首を回せば、そこには空母型の大型ノイズが爆雷を投下する爆撃機のように追加のノイズを撒き散らしながら空を悠々と進んでいた。

 まさに磨き上げたばかりの床を汚す、無遠慮な害獣だ。

 

「フッ―――!!」

 

 翼は裂帛を呼気に乗せ、携えた一刀を大上段に振り上げる。同時に、アームドギアである刀が変形/展開し、刃渡りだけで彼女の身の丈ほどの大刀へと変貌を果たす。

 その刃には、すでに電光じみた蒼天の輝きが宿っている。

 

「セイヤァアアッッ!!!」

 

 ―――蒼ノ一閃

 

 放たれる蒼い弧月。煌めく刃の光そのものを放ったともいえるそれは、二体の空母型ノイズを紙飛行機よりも容易く両断した。

 更には空母から吐き出され、地に落ちる途中であったノイズも、すでに地に足を付けていたノイズも、一切の区別なく差別なく斬滅で以って一掃していく。

 貫き破砕する豪槍、斬り払う絶刀―――双翼が、地に蔓延る汚濁を浄化していく。

 

 だが、ノイズが侵しているのは大地だけではない。

 空もまた、覆い尽くさんとするかのようにノイズが群れと飛び交っている。

 その只中へと、赤い光が軌跡を一条に編んで飛び込んでいく。真紅の装甲を展開させ、鋼の翼を広げるクリスだ。

 もはやそれは鎧の範疇を超え、星の(ソラ)を征く空想科学の戦闘機であるかのようだ。鋼の赤鳥は羽ばたくように装甲を開き、甲高く鳴くように湛えた光輝を開放した。

 

「やっさいもっさい!!!」

 

 ―――MEGA DETH PARTY

 

 装甲と同じく深紅に染まった光線の乱舞(レーザー・サーカス)。その悉くが空に居座る無礼な異形を華の如く咲かせては散らしていく。

 全天を彩る爆轟の繚乱に、響は感嘆の声を上げて賞賛する。

 

「スゴイやクリスちゃん! 乱れ撃ち!!」

「乱れ撃ってねぇ!! 狙い撃ってんだよ!!」

 

 切り返すような反論に、響は肩を竦めながらバツが悪そうに笑みを浮かべる。

 そして「なら、あたしの方が」とこぼしながら、両腕を胸前に構えた。すると腕の装甲が咢を開くように展開し、そこに光が渦巻くように球を作る。

 彼女はそのまま、光球ごと腕を振り上げ、

 

「乱れ撃ちだ―――っっ!!」

 

 眼下に屯するノイズの大群へと振り下ろした。

 直後、降り注ぐのは豪雨のような光のシャワー。一つ一つがクリスの放つそれと変わらない威力を持つそれが、ノイズを貫き、地に落ちては弾けてさらに呑み込み平らげていく。

 豪槍と同じく、撃槍もまた人の領分を侵す太古の負債を瞬く間に焼き祓う。

 

 

 

 そうして。

 少女たちは歌い、輝き、威を揮う。

 降り注ぐ刃と穂先、吹き荒れる光弾、轟き貫く撃槍の拳。

 風薙ぐ蒼い弧月、渦巻き砕き潰す旋風、空を焼き割く閃光、拳打より放たれる烈光。

 それらと共に響くのは、愛と絆の歌。

 心を通わせ、ありのままの己を解き放ち、新たな今を創る勇気の歌だ。

 

 ならば、もはや語るに及ばず。

 遥かな過去に残されただけの汚泥が、今を紡ぎ続ける最先端のヒカリに勝る道理はなし。

 無尽蔵の絶望(ノイズ)は、とめどなく溢れる希望(ウタ)によって悉くが灰燼に帰していく―――

 

 

 

「………―――」

 

 その様を、フィーネは彼方から睥睨していた。美貌に浮かぶ表情は冷たく、ガラスのように無機質な瞳はカメラのように無感情に対象を観察している。

 そこには、欠片ほどの焦燥も悔恨も存在していない。当然だろう、何故ならこの程度の結果は最初から想定の内であったからだ。

 元より、通常のギアですら大群を押し退けてやってきていたのだ。

 それが限界突破(エクスドライブ)などというものにまで至ったのならば、指数関数的に数を増やした程度では大した効果など望めなくもない。

 ならば、何故あえてそれを行ったのか?

 一つは、性能分析のための試金石。

 もう一つは―――己の糧とするためだ。

 

「フン……」

 

 鼻を一つ鳴らし、手にしていたソロモンの杖を構えなおす。歪なY字型の下端、杖で言うなら石突と呼ぶべき部分を己の腹に宛がう形で。

 形の良い唇から、深く静かな呼気が漏れる。

 次の瞬間、彼女は一息に杖で己を貫いた。

 

「ガ、ヅッッッ―――………ク」

 

 苦悶は一瞬。すぐ様に、口の端が歪んだ笑みに吊り上がる。

 直後、鎧の隙間の地肌が融け、まるで蜘蛛の糸のようにソロモンの杖へと伸びて癒着していく。

 

「っ!? なにを………っっっ!!?」

 

 それに気づいた翼が、困惑の声を上げるも、すぐさま更なる驚愕に塗りつぶされる。

 未だ地に蔓延るノイズが、一体、また一体と形状を変化させ、フィーネへと跳躍していったのだ。

 

「カ、ハ……!!」

 

 さらに深く歪む笑みは、すぐに見えなくなった。

 飛来してきたノイズがそのままフィーネへと衝突し、まるで泥を思い切りぶちまけたかのように彼女を覆ったからだ。

 かと思った次の瞬間には、すでに同じように彼女へと己の身を被せるノイズの数は十を優に超え、ともすれば召喚された全てのノイズがフィーネへと殺到し始めている。

 その様は土砂降りというよりも土砂崩れを逆再生しているかのようで、フィーネの立っていた場所にはもはや生理的嫌悪を誘発させるドロドロの肉の塊があるだけだ。

 しかもそれだけではない。肉の塊から幾筋もの閃光が迸ったのだ。それは紛れもなく杖によるノイズ召喚の光であり、それらは上空で花火のように弾け、そのまま形を成すでもなくその全てがまた肉の塊へと回帰していくのだ。

 一所に殺到する有象無象のノイズ。それが意味するのは。

 

「ノイズに、取り込まれてる……?」

「そうじゃねぇ、アイツがノイズを取り込んでるんだ!」

 

 困惑、驚愕。

 

「………、ノイズを、食ってる………!?」

 

 そして戦慄。

 貪食を繰り返す肉の塊は、やがてグニョリと弛むように形を変え、子供の粘土細工を彷彿とさせる形で響たちへと延びていく。

 

「っっ!?」

 

 飛翔してそれを回避する少女たち。

 そのとき、肉の内側から遠雷のように反響する声が大気を震わせた。

 

『来たれ、デュランダル!!!』

 

 肉の塊と接する地面が激しくひび割れ、砕けていく。

 響たちには見ることができないが、二課本部の施設を貫きながら、肉の津波が一瞬にしてカ・ディンギルの最深部目掛けて猛進する。

 メートル換算で千を超える距離を数秒で埋め、肉塊は黄金の大剣をその輝き諸共に呑み込んだ。

 

 ―――瞬間。

 地を震わせながら、まるで蛹の中身のようにそれは変生を果たした。

 

 ドロドロと爛れたケロイドじみた表面は(なめ)して固めたかのように洗練され、固まりかけた血のようなどす黒い赤に染まったそれはどこか爬虫類の表皮を彷彿とさせる。

 ヘビのように鎌首をもたげた先端は巨大な鏃のような、或いは海原にヒレを拡げるエイのような形をとっている。顎の下というべき部分にはノイズの発光器官と類似したものが浮かび上がり、昆虫の複眼というよりかはステンドグラスを彷彿とさせる。

 頭部から少し離れた前後からは翼の骨組みのようなものが魚なのヒレの如く拡がっており、変質したネフシュタンの鎧にあったものとよく似ていた。

 更にはその周囲に四つの岩塊が浮かび上がり、ただの土塊から宝石か水晶のような物に変質しながら蒼く染まっていく。

 

 かくして顕わした全貌はまさに竜。無数の異形が混ざり合って生まれた異形の竜はその巨体で以って下天を睥睨し、

 

「―――!!」

 

 咆哮のように放たれた一条の閃光が、遠くに離れる無人の街並みを焼灼していく。

 

「街が……!!」

『―――逆さ鱗に触れたのだ。相応の覚悟はできておろうな?』

 

 惨状に嘆くもつかの間、響いた声に振り向いてみれば、竜の喉元……それこそ逆鱗が存在するだろう部分が花弁の如く展開し、その内側にフィーネが艶然かつ凄絶無惨に笑っていた。

 竜の粘膜ともいえるだろうない部分で黄金に照らされているその身は、竜の表皮と同じ色合いの……恐らくは竜の組織そのものだろう赤黒いドレスを纏い、右手には黄金の光輝を零すデュランダルが握りしめられていた。

 見ようによっては荘厳とも評せるだろうその佇まいは、まるで神殿の最奥に座す本尊ようでも玉座に君臨する女王のようでもあり―――穿った捉え方をするならば、バージンロードの先で待つ花嫁のようにも感じられた。

 

 

 

***

 

 

 

『『『キャアアアッッ!!!』』』

「っっ皆さん、ベッドの方に!!」

 

 激しい揺れに、天井からぽろぽろと小さな瓦礫が降り注いでくる。

 少女たちが怯える中、パニックにまで至る前に慎次が備え付けられた二階建てベッドの方へと誘導する。

 そちらならば頭上からの保護も可能だ。

 

「ビッキー……」

「大丈夫、響たちなら、きっと!」

 

 不安を滲ませる創世に対し、未来の声は強く迷いがない。

 そんな彼女たちを背に、パラパラと落ちる天井の欠片を気にするでもなく弦十郎はモニターに映る異形を凝視していた。

 

「黙示録の赤き竜、緋色の女ベイバロン……」

 

 赤き獣に跨り、聖杯を携える者。大淫婦。

 フィーネが成り果てたその姿に、彼はそれを重ねてみた。

 そしてその存在が示すものは。

 

「滅びの聖女……そうまでしてこの世界を壊したいのか、了子君……!」

 

 血が滲むほどに握りしめた拳に込められた感情は、自身すらも呑み込むほどの破滅を望む彼女に向けたモノか。

 或いは、それを寸毛たりとも理解できてなかった己の不甲斐なさに向けてのものだったか。

 その答えは、彼自身でさえ定かではないかもしれなかった。

 

 

 

***

 

 

 

『………ク』

 

 再び、咆哮の閃光が空を灼く。辛うじて回避するも、輻射熱だけで肉を焦がしかねない余波にまるで見えない腕に払いのけられるように少女たちの体が翻弄される。

 

「うぁあ!?」

「っっのォォ……!!」

 

 灼熱の圧から逃れながら、戦闘機じみた装甲から光の乱舞を放つクリス。曲線を描きながら文字通りに舞い踊るかのような破壊の雨に、しかし。

 

「なっ!?」

 

 なんの痛痒も、与えられない。まるで殻を閉じるかのようにフィーネの姿を塞いだ竜。光弾の悉くは命中するものの、その表面でただ弾けるだけだった。

 更には前後の翼が広げられ、その骨組みじみた形の複数の先端部分に光が灯ったかと思えば、返礼とばかりに同じような光弾がクリスへと浴びせかけられた。

 

「ぐ、ぁあああああああああっっ!!!」

「クリスちゃんっ!? このぉっっ!!」

 

 撒き散らされる爆煙の向こうから悲痛に迸る悲鳴に、響が激昂と共に拳を固めて吶喊する。光翼の羽ばたきを軌跡として残す様と合わせ、まさしく彗星のごとき一撃は紛うことなく竜を大きく抉った。

 しかし、その直後に穿たれた大穴がまたたく間に塞がり、元通りの姿となるまでには十秒とかからなかった。治癒というよりも、かき混ぜた水面が元に戻るような徒労感さえ感じられる様相である。

 

「「ハァアアアアアア―――!!」」

 

 続いて、翼と奏が左右から斬撃を飛ばして見舞う。最新技術で作られた高層ビルすらも纏めて束で切り倒す威力を有したそれらに、再び垣間見えたフィーネが見せるのは余裕と憐憫を嘲りで彩った笑顔だ。

 

『ハン、受けるまでもないわ』

 

 言うなり、周囲に浮かぶ蒼い岩塊が煌めいたかと思えば、二つの斬撃が引き裂かれるように掻き消えた。それに戸惑う間もなく、岩塊の光が強まると同時に突如として響と翼、奏の三人が弾き飛ばされる。

 それは風に酔って吹き飛ばされるというよりも、目に全く見えない壁が向こうから迫ってぶつかってきたかのようであった。

 

「うぁああああ!?」

「く、ぅううっ!?」

「ぐうううぅ!!?」

 

 吹き飛ばされるも、なんとか全員が踏み止まるように宙で持ち直す。

 クリス共々、体勢

を整えながら一所に集まれば、竜の逆鱗部分から高らかな哄笑がけたたましく響き渡る。

 

「無駄に足掻いてくれるな、こそばゆい。限定解除などに至ろうが所詮は聖遺物の欠片から作られた玩具。

 完全聖遺物に対抗できるなどと思うてくれるなよ?」

 

 フィーネの嘲りは、腹立たしいが正しかった。限定解除によって出力の大幅向上と数多の機能の獲得を果たしたシンフォギアだが、それでも複数の完全聖遺物を束ねたフィーネには僅かに届かない。

 特に厄介なのはネフシュタンの鎧だ。結晶体からの派生だろう水晶のような岩塊が発する重力場もそうだが、何よりもあらゆる痛打を即座に無為にするその再生能力が最大の障害だ。

 それに加え、彼女はさらに二つの完全聖遺物の力を束ねている。

 ならば成程、単純な力の多寡という面において劣ってしまうのは自明の理。

 ―――だからこそ。

 

「………、そうか」

 

 その事実(コトバ)にこそ、突破口となる光明を見出した。

 真っ先に気付いたのは誰であっただろうか。クリスが目配せのように周りを見れば、翼もまた同じ考えに至ったのか、強い眼差しで頷いた。

 

『おい……』

「チャンネルを閉じろ。気取られるな」

 

 懸念に対して即座に対策を案じられるのは経験値の豊さ故か。

 そう、フィーネが持つ完全聖遺物は三つ。

 先も述べた【ネフシュタンの鎧】。竜体を構成する無数のノイズを召喚した【ソロモンの杖】。―――そして超絶無比の威力を有する大剣、【デュランダル】。

 もしデュランダルを奪い、シンフォギアの出力を乗せてその威をぶつけることができたならば。

 故事に倣うまでもなく、究極のデュランダル(ほこ)と究極のネフシュタンの鎧(たて)は互いに互いを喰い潰すだろう。

 

「―――なるほど。悪かないね」

 

 狙いを察し、奏が不敵に笑う。

 なるほど、たしかに勝機は見えた。だが、それを掴み取るためにはある前提が絶対の必須条件となっている。それは極めて単純明快で、難攻不落に極まりない。

 即ち。

 

「どっちにしろ、アタシたちはあの女王様きどりの守りをブチ抜かなきゃなんねぇってことだな」

 

 その硬さの如何は先刻ご承知。それを何とかするための手段を得るためには、まずはそれを一度でも打ち破らなければならない。

 矛盾を成し遂げるために鶏卵の問題を解く羽目になるとは、皮肉にもなりはしない。

 それでも。

 

「やってみます………やってみましょう!!」

 

 響が、前に出る。

 いつものように、これまでのように、真っ直ぐに前を見据えて。

 ―――さて、いつの間に誰よりも先に前を突っ走れるようになったのやら。

 そんなことを考えて、同じようなことを思ったらしい翼を目が合い、思わず同時に小さく吹き出す。

 それを響とクリスが戸惑い半分に怪訝に見ていると、二人は改めて表情を引き締めながらそれぞれの刃を構えた。

 

「それじゃあ、改めまして―――」

 

 それに続き、クリスが戦闘機じみた装甲を僅かに前傾に傾け、響が両腕を腰溜めに構える。

 横一列に並び、まるで徒競走のスタート直前のように空気を張り詰めさせながら心身を引き締めた。

 ………そして、一拍の間が置かれ。

 

 

 

「「「「―――いくぞォッッッ!!!」」」」

 

 

 

 一斉に、裂帛を伴って羽撃いた。

 それを迎え撃つように、竜翼から鮮血のような禍々しい真紅の光弾が嵐となって吹き荒れた。

 

『疾く墜ちるがいい、羽虫ども……!』

 

 纏った竜が黙示録なら、放った光も黙示録か。

 すべてを貪る蝗害のごとき赤光の乱舞を身に掠めつつも搔い潜り、先陣を切ったのは響とクリス。

 

「行くよ!! クリスちゃん!!」

「合わせてやるよ!!」

 

 クリスの機体装甲上に響が立ち、その両腕に光を蓄える。また、クリスの方も各装甲が展開しながら光を零し始めた。

 そこへさらに殺到する血色の光弾。跋扈する殺意の渦に、しかし二人の戦姫は真っ直ぐと前を見据えてその力を同時に開放した。

 

「「いっけぇええええええええっっ!!!」」

 

 瞬間、解き放たれる光輝。響の放つ柱のような光線に巻き付くようにクリスの放った無数のレーザーが組み合わさる。

 それはさしずめ滅びを跳ねのける先陣の一矢か。束ねられた威力は竜の攻撃を弾き散らし、なおも突き進む。

 

『チ―――』

 

 それを見て、フィーネは舌打ちを一つ。だがそれは間近に迫る危機を前にしてのものというよりは、それこそ視界と聴覚を横切る蠅を鬱陶しく感じている程度のそれで。

 事実、彼女からすれば蠅を払う程度の手間で張り巡らせた重力の壁によってそれは阻まれた。だが、その認識のために件の障壁は歪み、撓み、

 

「セェイヤァアアアアアッッッ!!!」

 

 ―――蒼ノ一閃・滅破

 

 先の一撃よりも、更に更に巨大に変貌を遂げた大刀。その雄々しい刃で以って放たれた大斬撃に、陽炎の如く揺らめく不可視の城壁はまるで古くなった布を裁ったかの如く両断された。

 さしものこれには驚きを禁じ得なかったのか、声すらも一瞬忘れて目を見張るフィーネ。そのわずかな隙を縫って、吶喊するのは赤い空想戦闘機。

 

『チィッ!!』

 

 今度こそ、真実忌々し気に鼻筋を歪めて舌を打ち鳴らす。同時にシャッターのように周囲の装甲を閉じていく。

 まるで反射的に甲の内側に身を丸めるような行動。クリスが辿り着くよりも先に、完成してしまうだろう防護にだがクリスはそれこそを見定めてさらに速度を上げていく。

 

「まるごともってけ!!」

 

 既に、音を遥かに置き去りにするだろう加速度を叩きだして、クリスは己の身を戦闘機然とした増加装甲から引き剥がす。そうすれば、それはもう戦闘機ではなく特攻機じみた大型弾頭だ。

 少女一人分の重量を排し、ダメ押しの加速を得たそれは、フィーネの防護が完成する寸前のほんの僅かな隙間をこじ開けるように衝突し、爆散した。

 

『ヌ、ゥ!?』

「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

 閉じかけていた装甲を破砕して空いた風穴。暗幕のような爆煙を引き裂き、立花 響が撃槍の拳を振りかぶる。

 もはや空に輝く星を握り込んでいるかのような光拳は、流星のような加速を乗せられて彗星のごとき威を纏い始めていた。

 

『ナめるなぁっっ!!!』

 

 一瞬にして積層展開されるヘキサグラムの多重障壁。十を超える数のそれらはそれぞれが鎧袖一触に砕け散っていくが、積み重ねた刹那がフィーネにとって必要な間を確かに作り出す。

 果たして繰り出された響の撃槍は、フィーネが手にしていたデュランダルによって受け止められた。

 

「く、ぅううおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

『ぐぅうううううううううううううううううううっっ!!』

 

 ぶつかり、鬩ぎ合う(ガングニール)(デュランダル)

 二種の膨大なエネルギーの衝突は積乱雲のように落雷然とした余波を放ち続け、内壁を削ぐように砕いていく。

 

『ヌウゥ――――ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』

 

 接戦も僅か、天秤はフィーネへと傾いた。励起させた鎧の力で刃を振り抜き、攻撃を弾かれて体勢を崩す虚を作ってしまった響を返す刀ならぬ剣でもって打ち払い、吹き飛ばす。

 

「うあああああああああああ!?」

 

 装甲の破片をまるで羽根のように零しながら錐もみ離れていく響。

 その様に、フィーネは安堵を濃く交えた優越に息を付き、

 

 

 

「―――オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 ―――ULTIMATE∞COMET

 

 

 

 その刹那を逃さんと、直下から新たに装甲を突き破って豪槍(ガングニール)が天翔する。

 響の拳も星なら、奏の槍もまた星。愚直なまでに一直線に突き進み、軌跡に光を刻むように残しながら自身を一条の閃光へと昇華する。

 その穂先が向かうのは、デュランダルを持つフィーネの腕。伸びきり、長大な刃を掲げるような姿勢になっているそれを抉り砕かんと奏は柄を殊更に強く握りしめる。

 

(いけ、る……!!)

 

 装甲をブチ抜いた衝撃と加速そのものによって揺らぎそうになる意識の中で、奏は確信を抱く。狭まる視界で、穂先を叩き込むべき目標を正しく見定めている。

 タイミングとしては間違いなく虚を付いており、またフィーネの姿勢も渾身を込めて剣を振り抜いた状態だ。

 狙いが過つことはなく、豪槍の刺突一閃はフィーネの腕をその身体ごと大きく抉りながらデュランダルを捥ぎ取るに違いない。

 

 ―――そんな確信が。

 ガッッッギィイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!! と、引きずるように長く尾を引く鈍い音と共に砕かれた。

 

「、なん……?」

 

 呆然と、目を見開く。

 フィーネの体勢そのものは変わっていない。振り切って延ばされた腕も、それに握られたデュランダルも変わらず……傷の一つも付いていない。

 そもそも、突き出した槍の穂先そのものが彼女に届いていない。

 穂先の先端、その先の先………針の先ほどの一点で、重なるものがあった。

 ネフシュタンの鎧、それが持つ結晶体の一つだ。細長い八面体の鋭い頂点が、まるで鏡に映った像のように矛先を迎え撃ち、その行く手を阻んでいた。

 

 置かれた間は一拍。その後に、結晶体がビシリという音を立てたかと思うと、弾けるように砕け散った。

 その様を、ほう、と感心したかのように漏れた吐息が一つ。

 

「見事、と言ってやろう。まさかこれを砕けるほどとはな」

 

 だから、という言葉を言外に込めながら、手にした剣に(ちから)を込めた。

 同時に、フィーネの表情がまるで布地が割けるように嗜虐に満ちた喜悦の笑みに変貌していく。

 

「褒美をくれてやる。―――裂けるほどに身悶えろ」

「ッ!!」

 

 奏は背筋を粟立たせる危機感に即座に従った。槍を盾にし、背の光翼をまるで身を包むかのように前へと廻す。

 

 直後。

 逆鱗を包むかのような竜の装甲が、内側からの光爆によって破裂するかのように大きく弾けた。

 同時に、そこから叩きだされたナニカが地面に叩きつけられ、そのまま地面を削りながら滑っていく。

 

「、か」

 

 まるでそういう類の植物の種子であるかのように。

 勢いよく射出されたソレの正体を、翼は即座にかつ正確に看破していた。

 

「奏ぇええええええええええええええええええええええええっっ!!?」

 

 思わず、迸る悲鳴。

 それをよそに、奏の身は瓦礫ごと地面に轍を刻みながら地を奔り、ややあってから止まる。

 徐々に勢いを失ってではなく。

 別の何かに阻まれたかのように、唐突に。

 

 

 

***

 

 

 

 立ち込める粉塵の煙幕の中、奏が強く感じていたのはこれ以上ないほどの会心の一撃を見事に防がれた悔恨ではなく、その後に叩き落とされたことによる全身の痛みでもなかった。

 背中から伝わる、感触。

 自身を受け止めてくれた、頼もしさ。

 それらが齎す既知によって生まれる、懐かしさにも似た安堵だった。

 

「………え?」

 

 それは、岩盤や瓦礫の山などでは決してない。

 けれど、そのどれよりも比較にならないほどに力強い。

 自分はソレを知っている………ああ、よく知っているとも。

 もう、喪われてしまったのではないかと思っていた、その存在を。

 

「―――奏」

 

 聞き慣れた、聞きたかった、そんな低い声音が紡がれる。分厚い刃を打ち鳴らしたような、低くも力強いそんな声が。

 その呼びかけに、奏は何も返すことができなかった。

 驚愕、混乱、困惑、安堵、歓喜………様々な感情が頭の中も胸の中もグルグルと渦巻いて嵐を作り、裏返るが如く凪のような状態になってしまっていたからだ。

 そんな彼女の状態を知ってか知らずか、声の主は彼女の肩に手を置いて―――その重さと温かさ、掌の固さは本物で―――その耳元に囁いた。

 

「何をすればいい? お前たちの狙いを教えてくれ」

「―――――――――ヘ」

 

 耳朶を叩き、鼓膜を震わせた、そんな言葉。

 思わず、吹き出しそうになってしまった。

 歓喜からではない。

 安堵からでもない。

 怒りと呆れが、一周回って変な笑いを齎しそうになったのだ。

 

「……………ハァァアアアアッ、ったく」

 

 さんざっぱら心配かけさせたかと思えば、そんなことお構いなしにこういうことを言いやがる。あーハイハイ知ってるよ知ってるとも知ってますぅ―。アンタはそーいうヤツだってイヤになるくらい知ってますぅー。他人のことに一生懸命で自分のことにはお構いなしで、そのくせアタシらの気持ちには『神経通ってんのかコイツ』ってくらいに鈍いし。そのくせ知らんうちにフラグ立ててくるってか響もだけど未来も当たり柔らかくなってるしクリスとかまだ未確定だけど絆されてんだろ絶対。(乙女の勘)いやホントにギャルゲーかよやったことないけどさ。まったくさ、ホントにさ、アンタが無茶やったせいでみんながみんな大変だったんだって自覚しろよバカ。もっと自分大切にしてよ。あークソ無事でよかったよコンチクショウ!

 ………と。

 そんな感情を盛大に載せた溜息を吐き出して、奏は振り返らないままに答えた。

 

「とりあえず、デュランダルをこっちにブン取る。アレを使ってぶつけりゃクソみたいな再生力も相殺できるかもしれねぇ」

「成程、道理だな。………足場を作れるか? そうすれば何とかして見せる」

「言ったな、頼むぜ? で、もう一個」

 

 奏はやはり、後ろには絶対に顔を見せないまま、槍を殊更に強く握りしめて振り上げる。

 

「―――あとで、思いっきりハッ倒すかんな!!!!」

「なんでさ」

 

 うっさいバカと返すや否や。

 奏は満腔の力を込めて豪槍を振り下ろした。

 満面の笑みに浮かんだうれし涙は、すぐ様に旋風に散って吹き飛ばされた。

 

 

 

***

 

 

 

 ―――ULTIMATE∞PILLAR

 

 

 

 豪ッッッ!!!

 ………そんな勢いで以って放たれた旋風は日の出に似た橙の光輝を混ぜ込むように纏いながら、地を這うように突き進む。瓦礫を巻き上げ、更には乾いたカサブタのように地盤を引き剥がし、それら全てを呑み込み諸共に。

 横倒しの竜巻というより、身を捩りながら迫る土石流の様なそれは竜の足元……そう言うべき、接地面辺りに命中すると竜そのものを取り囲む巨大な竜巻となって立ち上がった。

 

『ッッツ、えぇい鬱陶しい……』

 

 本来ならば内側にあるものを砕いて潰してばら撒くだろう渦巻くベクトルと質量の奔流。だが竜体にとっては大した痛痒にはならず、それこそ身じろぎもしづらいという程度のものでしかなかった。

 故にこそ、不可解でならなかった。

 フィーネは奏を見下してはいるものの見くびってはいない。彼女は直情的でこそあるがその本質は聡明だ。そんな彼女がこんな無意味なことを、悪あがきだとしてもやるだろうか?

 

(他の装者のための牽制? 確かに目くらましではあるが、この程度なぞ……)

 

 猜疑と困惑を風の帳の中で募らせるフィーネ。

 その思考が―――

 

 

 

「―――投影(トレース)、開始(オン)

 

 

 

 ―――僅かに漏れ聞こえた、そんな声によって停止させられた。

 

 

 

***

 

 

 

 フィーネの竜体を竜巻が包んだ直後。

 奏の背後、立ち込める土煙の暗幕から身を躍らせたその姿に、誰もが息を呑んで目を見張らせた。

 

 

 

「―――投影(トレース)、開始(オン)

 

 浅黒い肌に白い髪、射抜くようなタカの瞳、そして棚引く赫い裾。

 その全てが、疾風となって駆け抜ける。

 

 

 

「ぁ、ああ……」

「っっ……ったく、いるならさっさと来いよな」

 

 空から見下ろす、翼とクリス。

 こみ上げるものに言葉を失い、或いは強がるように安堵の悪態を叩く。

 そのどちらも、涙と笑顔を抑えることはできなかった。

 

 

 

「―――投影(トリガー)装填(オフ)

 

 それは逆巻く瀑布が如き竜巻へと肉薄し、入り混じる岩塊と風そのものを利用して駆け上がっていく。

 まるで、竜へと至らんとするかのように。

 その実、竜を討たんとするために。

 

 

 

「ちょ、アレって……!」

「ご無事だったんですね!?」

「ってか、ナニあの動き!? ガチでアニメじゃん!?」

 

 モニターに映し出された姿に、少女たちが色めき立つ。

 

「よかった……」

「ハハッ! まったく、心配かけさせやがる!」

 

 慎次が胸を撫で下ろし、弦十郎は傷の痛みも完全に忘れて豪快に笑う。

 

「ぅ……、ホントにもう。なんで帰ってきて早々に無茶な真似してるんですか……」

 

 ともすれば自殺でしかないような真似を再び目の当たりにさせられて、未来は複雑そうな様子でモニターを睨んでいた。

 その瞳はしかしこぼれそうな涙に濡れていて、両手で覆われた口元はこれ以上なく微笑んでいたが。

 

 

 

全工程投影完了(セット)―――」

 

 総身に、更に力が迸る。基盤のような軌跡で光を走らせて、掌中に灼熱を宿らせる。

 身の内に撃鉄は既に上がり、引き金には指が掛かっている。

 

 

 

『オ、オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―――ッッッ!!!』

 

 身の内から沸き上がり、竜の総身すら震わせてしまうような怖気が、フィーネに理性からではなく本能からの反応を引き起こさせる。

 理屈からではなく、純粋に身を護らんとする反射的な行動……明らかな恐怖と危機感で以って突き動かされたフィーネは、一切の遠慮配慮自制を捨てて防備を巡らせた。

 結果。

 ゴッッッバッッッッッッ!!!!!!! 、と。

 萎んでいた風船がほんの一瞬で破裂したかのような強烈さで、内側から竜巻を弾き散らした。

 代わりに竜体が纏うように張り巡らされたのは、かつてない規模の重力障壁。蒼い岩塊が音を立てて自壊しながら、竜の姿を陽炎のように歪ませ揺らめかせる。

 

『幾重に重ねられた重力障壁!! 斥力と引力を編み込み組み合わせたベクトルの乱気流だ!! 触れられるものだと思うなよッッ!!!』

 

 焦燥を打ち消さんとする自負を叫ぶフィーネ。それは事実その通りで、竜巻に巻き上げられた礫や岩塊が陽炎に飲み込まれた瞬間に消失していく。

 単純な粉砕ではない。砂粒よりも細かい粒子……下手をすれば原子レベルにまで、刹那の間に磨り潰されたのだ。

 脅威から身を護るためではなく、脅威そのものを殺し尽くすための絶殺防御。

 その内側の、更に奥。すでに閉じられた竜体の装甲内で、覇者のように、神官のように、花嫁のように、君臨するフィーネ。

 そんな彼女が―――目を、剥いていた。

 

『―――っっっ!?』

 

 竜の感覚器越しに、投影された光景。

 自身が生み出した陽炎に歪みながらも、その【色】は鮮やかに映え。

 その持ち主は、揺らめく像でありながらなによりも雄々しく凛然と立っていた。

 

 

 

 そして。

 立花 響は、ほんの少しだけ離れた空中で“それ”を見ていた。

 “それ”が立っているのは、奏の竜巻が巻き上げ、フィーネがそれを弾き散らしたときに上方へと飛ばされた岩盤だ。

 巨大な板の様なそれは、スケールさえ考えなければ宙を滑るように落ちる木の葉か紙片のようでもあった。或いは、地表の離れた場所から眺めればヒラヒラと舞い落ちているようにも見えたかもしれない。

 彼女は、その渕に足を掛けるようにしてフィーネの竜体を睥睨しているその背を、よく知っていた。

 血よりも紅く。

 夕日よりも朱く。

 錆などよりもなお鮮やかに赤い―――【赫い鋼】のような背中を。

 

 その頭上に掲げられているのは、歪で巨大な【剣】。刃物というにはあまりにも雑な刃が奔る分厚い刀身は、どう考えても叩き潰すことしかできそうにない。

 足場にしているような岩盤から削り出したかのようなそれは、歴史の教科書で見た黒曜石の石器にも似ていた。だが、大きさが桁違いだ。大雑把に見積もっても、その全長は彼女の身長を優に超す。

 例えバーベル上げの世界王者でも、持ち上げる事なんて絶対できないような化け物じみた凶器。

 ―――それを、赫い背中はまるで天へと掲げるかのように片手で振り上げていた。

 

「………、」

 

 すぅっ、と短く息を吸う。

 これから何をしようとしているのか、響には予想がついていた。傍から見れば自殺でしかなく、無茶で無謀もいいところだ。

 だが、彼女はそれを止められないのだと知っていたし、そもそも止めるつもりもなかった。

 だからそのかわりに―――憧れ焦がれたその背へと、万感を込めて声援を寿(ことほ)いだ。

 

 

 

「―――行っけぇええええええっっ!! 衛宮さぁあああああああああああああんっっっ!!!」

 

 

 

 まさしく、それ背を押したかのように。

 【赫い鋼】が。

 【魔術使い】が。

 ―――【衛宮 士郎】が、身体ごとその刃を竜へと振り下ろさんとして。

 一歩を踏みだし、空へと身を躍らせた。

 

「―――!!」

 

 眼前には、竜と自身を隔てる分厚い陽炎が迫っている。

 その接触にはもはや秒とかからず、即ち彼の体が塵よりも細かい粒子となって消えるまでもその程度の猶予しかないということ。

 それをただバカでかいだけの石の刃で覆そうなどというのは、愚劣に過ぎる行いにしか見えないだろう。

 

 ―――だが、その愚劣を真として現実に成し遂げるならば、それはまさしく奇跡と呼ぶべき御業であり。

 彼は、その奇跡を剣の形で以って創り出す者―――!! 

 

 

 

「―――是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)ッッッ!!!!」

 

 

 

 直後。

 絡み合う軌跡を描いて放たれた無数の斬撃が、積層された重力場ごと竜を……そしてその最奥に在ったフィーネの体を切り刻んだ。

 

『ィギ、ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――ッッッ!!!?!?!?』

 

 まるで竜そのものが嘶いたかのような、その絶叫。

 鏃のようにもエイのようにも見える竜頭は大根か何かのように縦に斬断され、物別れを始めている。骨組みのような翼は砕かれるように削がれ、逆鱗を覆うかのような装甲は裂かれ、そしてフィーネは一瞬にして全身を血化粧に染めていた。

 ………だが、と。

 己の惨状を正確に鑑みて、フィーネはほくそ笑む。

 

(っっっづ、ネフシュタンの再生力は十全! 確かに派手に引き裂かれたが、ただそれだけに過ぎん! 仮に千々に砕かれようとも、一分後に無傷で立つならば何もされていないのと変わらんわ!!)

 

 その分析は、何一つ間違ってはいない。

 竜体は無残に引き裂かれ、己の姿を露出させられあまつさえその身にさえ刃が届いたが、そのどれもがすぐ様に消え去る程度のものでしかない。

 故に、眼前にだらりとバナナの皮のように垂れ下がって横たわる外皮の一部も、すぐに元のように戻るとそう考え。

 

 ―――ダンッッ!! と。

 震わせた空気の伝播だけで、血濡れた体を揺るがすような力強い着地。

 それを前に、彼女に満ちていた全ての余裕は消失した。

 

「………………………………………………………………………………………………、な」

 

 絶句と共に、限界まで目を見開く。

 その視界に映るのは、はためきながら翻る真紅の外套と、引き絞るように下段に構えられた粗野で巨大な石の剣。

 そしてこちらをまっすぐと射抜く、鷹の如き眼光。

 

「なん、だ……」

 

 フィーネはどこまでいっても戦士ではない。超越した精神と知性、凌駕した覚悟と超絶たる装備によって戦姫たちを圧倒はしたものの、それでもやはり根本からして武に立つ者ではない。

 故に驚愕に対して思考は止まり、そして体もまたそれに準じて停止してしまう。

 だから、即座に攻撃に転ずるということも、反射のように体が防御を行うこともできはしない。

 そして止まった心身の中で、先んじて思考が再起動を果たすまでにコンマ数秒。

 文字通りの瞬きほどの間の、しかし決定的にして絶望的なほどの間隙。

 そこで彼女が思ったのは、ただただ目の前に見参せしめた“不条理”に対してだ。

 

 なんだ、コイツは。

 なぜここまでできる。

 魔術などというものを扱うからか。

 まったく異なる世界の異邦者だからか。

 わからない、わからない、わからない。

 なんだ、一体なんだというのだ

 

「―――なんなのだ、お前はぁあああああああああああああああああああああああああっっっ!!!?」

 

 高速で湧き上がり続ける疑問は問いかけとなり、絶叫となって放たれた。

 

 

 

「ただの―――」

 

 最後の一撃を放つ直前。

 魔術使いだ、と答えようとして僅かに言い淀む。

 たまさか、脳裏に浮かんだのは直前に背を押す声を放ってくれた少女で、連想されたのは月下の廃神社での出来事。

 気づけば、口は勝手に動いていて。

 違う言葉を紡いでいた。

 何故そう言ったのか、自分でもわからないけれど―――それでも、どうしようもなく口元が笑みを作るのを止めることはできなかった。

 

「―――ただの、【正義の味方】だ………!!」

 

 

 

 振り上げられた一閃は、大気もろともフィーネの体を両断し、その軌跡にあった長大な黄金の刃を天高くへと弾き、放り上げた。

 

「―――ッッッッ!!!!!!」

 

 憤怒と憎悪に歪んだフィーネの美貌が半分に泣き別れたのと同時、朽ちかけた聖堂のような有様だった背後が一斉に煌めいた。まるで、牙を剥く獣の眼光のように。

 士郎は背筋が戦慄に震えると同時、反動で軋む体を無理矢理に動かして剣を盾にする。そこへ無数の光弾が、鳥葬する千鳥の如く殺到するのはほぼ同時だった。

 

「づぅ………っ!!」

 

 石剣を砕かれながら吹き飛ばされる士郎。

 やがて重力に掴まれ、自由落下を始めた彼が見たものは二つ。

 一つは、今度こそ瞬時に再生し、天を衝くようにその鎌首をもたげさせた赤い竜。

 そして、もう一つは―――その竜の遥か上空で、デュランダルを掴み取らんと羽撃きながらその手を伸ばす、響の姿だった。

 

 

 

***

 

 

 

「ああああああああああああああ!!」

 

 宙にあるそれへと五指を拡げ、掴み取る。

 それがまさしくいつかの時と同じようであるならば、その後に起きることもまた同じことだった。

 

「あ………ガ……!」

 

 ぞわり、と。

 平面で出来た蛇が丸呑みするかのように、響の体がまたたく間に黒く染め上がっていく。

 闇色に広がる翼はもはや悪魔然としていて、まるで堕天を果たしたかのようだ。

 

「ギ、グ、ギギ……■■、が、あぁ……!!」

 

 喉奥を締め付けられているような呻きには、既に暴性が混じり始めている。

 それでもギリギリで理性の糸を保ち続けている響は、だからこそ己を染め上げんとするモノの正体を看破した。

 ……そう、これは剣から流れ込んできたものではない。剣によって引きずり出された、自身の怒りと憎悪だ。

 

 フィーネが憎い。

 日常を奪い、誰かを踏みにじり、それを当然のごとくとして振る舞い、嗤いながら傲岸不遜に蹂躙する。

 その所業の全てが、響には赦せない。

 剣はそれを無理矢理に引きずり出し、己の表層に塗り拡げている。

 しかも、それは苦痛ではなくむしろその逆であった。

 地獄のように熱く。

 悪魔のように苦く。

 天国のように心地よく。

 天使のように甘く。

 かくも抗いがたい甘美さで以って、己の心と体を侵食せんとしていた。

 

「う、うぅ……グゥウ、うぅぅ………!!」

 

 総身の殆どを漆黒と化しながら、覗く顔も既に牙を剥き、瞳を暴と赤い光を湛えつつあった。

 

(あ、ぐ……このまま、ジャ……っッ!!)

 

 瀬戸際、というには既にあまりにも危うい状態。まるでほつれきってか細い糸だけで繋がったロープで支えているかのよう。

 その時だった。

 彼女のすぐ下の地上のある部分が、突如として吹き飛んだ。

 

 

「……、………?」

 

 

 理性を失いつつある瞳がそちらへと向けば、それは地下鉄の入り口を彷彿とさせる施設だった。……校舎が崩壊したことで露出した、シェルターへの入り口だ。

 何事かと、僅かな理性に疑問が刺したその時だった。

 

 

 

「響ぃ―――っっ!!!」

 

 

 

 花道を彩る演出のスモークのような粉塵を貫いて、とても大切な親友―――かけがえのない“日溜り”が呼ぶ声が荒野のような戦場に響き渡った。

 

(―――!! 未来……!!)

 

 煙るような褐色のベールが晴れたその先にあったのは、やはり未来の姿で。

 その瞳の光は、闇に飲み込まれそうな自分をしかし強い意志と信頼の光を湛えながら見つめていた。

 それだけではない。

 

「正念場だ!! 踏ん張りどころだろうがっっ!!」

 

 轟く叱咤激励。

 シェルターを打ち破った立役者だろう己の師。

 

「強く自分を意識してください!」

「昨日までの自分を!」

「これからなりたい自分を!」

 

 自分たちの戦いを陰から支え続けてくれた大人たち。

 

「あなたのお節介を!」

「アンタの人助けを!」

「今日は私たちが!!」

 

 当たり前の日常を共に過ごし、謳歌してきた友人たち。

 

(師匠……緒川さん、藤尭さん、友里さん………それにみんなも)

 

 赤く染まった瞳が、瞠目に見開かれる。

 自分の戦いを知っていた人たち。

 自分の戦いを知らなかっただろう人たち。

 その誰もが、自分を信じて声援を送ってくれている。ただそれだけのことが、自分の心をどこまでも眩しく温かく照らしてくれていた。

 更にと、自身の左右を支えるように馳せ参じる光がある。

 翼と、クリスだ。

 二人は共に握りしめるようにデュランダルの柄を握る響の手に己のそれを重ねた。

 

「屈するな立花!お前が構えた胸の覚悟、私に見せてくれ!」

「お前を信じ、お前に全部賭けてんだ!お前が自分を信じなくてどうすんだよ!!」

 

 黒く染まった装甲。その上からでもなお伝わる、決して錯覚などではない温もり。

 それが心の奥底にまで染み渡るのを、響はより強く輪郭を取り戻した理性で実感した。

 

(ふ、たりとも……そうだ。こんなのに負けて―――!!)

 

 

 

***

 

 

 

 ―――時を同じくして。

 逆鱗の最奥でその一連を目の当たりにしていたフィーネが、しかし邪悪にほくそ笑んでいた。

 茶番と切っての嘲弄、ばかりではない。確かな勝ち筋を見つけたが故の愉悦からだ。

 士郎から受けた傷はすでになく、邪悪な花嫁然とした姿は美々しさを取り戻している。

 

 彼女はすでに、響たちの狙いがなんであるかを明確に悟っていた。

 デュランダルとネフシュタンの鎧、その二つの衝突による対消滅………なるほど、最大の障害ともいえるデュランダルの奪取を実現させた以上、状況はこちらが王手を掛けられたようにも見える。

 だが、自身と一体化を果たしソロモンの杖さえ併用して竜の体を形成するに至ったこちらを突き崩すには、ただデュランダルの力をぶつけるだけでは足りない。相応のフォニックゲインで以って出力を限界以上にまで引き出さねばならないだろう。

 それ自体は、恐らくは可能だ。限界突破を果たしたシンフォギアならば簡単な目算でも規定値に余りあるだろう。だがそれは、暴走することなくデュランダルを己が制御化に置いてこそだ。

 

 今、響たちの目論見はまさしく手の届きうる場所にある。

 まさしく美々しい絆によって、少女は獣に堕ちることなく人としてその刃を握りしめようとしている。

 ………つまり逆説として、彼女を獣に堕とせばフィーネの勝ちだ。

 

(憐れだなぁ……貴様を支える絆こそが、貴様らの敗因だ)

 

 視線を巡らせれば、そこに磨り潰すべき獲物がいる。

 自分以外の者のために死地に赴いた者たち。ともすれば勇敢とも讃えられるべきなのかもしれないが………フィーネからすれば、自身が燃やされるために篝火に誘われる蛾と変わらない。

 

 竜体の修復はすでに完了し、その巨大な総身は意のままに動く。

 そして元々がノイズの集合体、形状変化そのものは造作もなかった。

 故に。

 

「恨むなら、その善性と友情を恨め」

 

 その身から芽吹くように生えた幾本もの触手は、音速を超える鞭の穂先のように未来たちへと襲い掛かった。

 

「ぁ―――!?」

「っっ!?」

 

 響の喉奥から悲鳴のような声が上がるよりも先に。

 未来の喉が干上がるように息を呑むより先に。

 

 

 

 そして。

 触手が彼女たちの命を摘むよりも先に。

 

「―――たわけ。悪手を打ったな」

 

 黒白の剣閃が、瞬く間に迫る触手の悉くを寸断して散華させた。

 

 

 

 見開かれた未来の視界一杯に広がる、鮮やかな赫。

 奇しくもいつかの親友のように、彼女はその色に命を救われていた。

 未来は万感を込めて、再び溢れてきた涙を拭う間もなくその名を叫んだ。

 

「衛宮先生!!」

「おう。無事で何よりだ」

「そんなの……! こっちのセリフです!! 本当に……本当に良かった……!!」

 

 自身の命が助けられたことよりも、目の前の青年が真実、五体満足な姿で現れたことに心からの安堵を得る。

 それは彼女だけの話ではない。

 弦十郎たちもまた、同じように胸を撫で下ろしていた。

 

「ったく、心配かけやがって」

「すまんな」

「いや、いいさ。もう慣れたもんだ」

「耳が痛いな、ホントに」

 

 振り返らないままにそう語らう横で、弓美たちは士郎の背中にキラキラとした眼差しを贈っていた。

 

「す、すごい……噂通りだ」

「ピンチの時に颯爽と現れて助けてくれる……」

「さすが謎のヒーロー赤マント、ナイスです!!」

「それはやめてくれ」

 

 華も恥じらう女子高生三人からの、100%混じりっけなしの賞賛にげんなりと返す士郎。実に贅沢者である。

 そんな、次の瞬間には笑い声さえ響いてきそうな和やかな光景。

 フィーネの神経を、引き裂くように逆撫でするには十分だった。

 

『キィィサァァマァアアアアッッ!! 衛宮、士郎ォオオオオオオ――――――ッッ!!!!』

 

 大地ごと大気をビリビリと震わせる怒声には、濃縮された怨嗟が存分に注入されていた。

 

 ああ、そうだ。この男だ。

 たった今だけじゃない。

 カ・ディンギルのことだけでもない。

 もっと言えば、二年前……初めて現れた時から何かが狂い始めていた。

 多少の恩恵など、もはや芥に過ぎない。今この瞬間に至るまで、自身の道を遮ったこの男がいなければ―――!!

 

 それは、紛れもなく八つ当たりであり、お門違いであり、逆恨み以外の何ものでもない。

 だが、己の宿願を壊され、思惑を外され、何もかもをご破算と崩されたこの女にとっては、例えどんなに無様で憐れであろうとも、その赫怒と憎悪で破壊を撒き散らさずにはいられなかった。

 どうしようもない無念と未練を負の情念に変換し、叫びのままに竜の頭に光が集い始める。その矛先は当然のごとく士郎たちへと向けられ、彼らを消し炭も残さんと昂ぶり続けている。

 

 カ・ディンギルには届かねども、自身が立つ場を始めとして広く大地を一掃するだろう熱量の凝縮。

 まるで間近にある太陽のように自分たちを照らす禍々しい輝きに、その場の誰もが騒めき慄いた。

 

「衛宮先生……!」

 

 思わず、しがみ付くように身を寄せる未来。しかしまるで心配はいらないとでも言うかのように肩に手を置かれ、おずおずと見上げてみれば竜を……フィーネを見返す士郎の眼差しは、いっそ場違いなほどに冷めきっていた。或いは、憐れんでいるのかもしれない。

 

「櫻井……いやさ、フィーネ」

 

 告げる声は静かで、しかし近くにいることを除いても耳によく届くものだった。

 そうして続く言葉は、かつての誼としての最後の慈悲。

 

「見るべきものを見ていなかったこと―――それが、お前の敗因だ」

 

 そしてこれ以上ないほど直截的な勝利宣言だ。

 

 

『何を―――』

 

 それが聞こえていたのだろう、鼻白むような声が返ってくる。

 だが次の瞬間。

 それを遮り、そして士郎の言葉を裏付けるかのように。

 

 

 ―――破壊の陽光を上書きするほどの、眩い希望(ホシ)が生まれていた。

 

 

 

***

 

 

 

「え、みや……さん……!」

 

 眼下に起ころうとしていた悲劇が、双剣によって文字通りに断ち斬られた。

 安堵が胸の内に広がっていくその時、響は背に暖かな手が添えられたことに気付いた。

 

「ったく、ホントいいとこ持ってくよな。若大将のカッコ付けめ」

「かなで、さん」

 

 錆びついたような首を何とか動かしてみてみれば、力強くも温かく微笑んでいる奏が黒い翼をかき分けるようにそこにいた。

 僅かに覗く装甲には先の攻撃によるものだろう損傷で、あちこちがひび割れているようだった。

 しかしそんなことなどおくびにも出さずに、奏は響の耳元にそっと口を寄せた。

 

「さあ、今度はアンタの……いや、アンタとアタシたちの番だ」

「………、はい!」

 

 今度こそ。

 響は確たる己の意思で頷き、デュランダルの柄を強く強く握りしめる。

 

(ああ、そうだ……今の私は、私だけに力じゃない)

 

 ―――今こうして支えてくれている奏さんに翼さん、クリスちゃん。

 鍛えてくれた師匠に、支えてくれた二課のみんな。

 事情を知らないまま、巻き込まれてしまってもなお応援してくれている友たち。

 そして―――。

 

「響!!」

 

 巻き込まれ、振り回されてなおも私を信じてくれた大切な日溜り―――未来。

 

「これで終いだ、立花!!」

 

 始まりの日から、ずっとこの胸に刻まれた憧れの背中―――衛宮さん。

 

 数えきれないくらいのバカをして。

 数えきれないくらいの失敗をして。

 数えきれないくらいに助けられて。

 ここまで真っ直ぐ、自分なりに駆け抜けてきた。 

 その道筋の全ては。

 その歩みの全ては。

 

「そうだ、今の私は……今の私を作ってくれたものは、私だけの力じゃない……!!」

 

 だから、こんな壊せ壊せと叫び続けるだけの衝動なんかに。

 そんなものに負けてしまうような自分の弱さなんかに―――!!

 

「―――塗り潰されて、たまるもんかぁああああああああああああっっ!!!」

 

 天上天下を震わせる、決意の咆哮。

 それを以て、響を覆っていた漆黒は悉く晴れていき……そしてそれに留まらない。響のみならず、彼女を支えていた翼、クリスそして奏の体と装甲の傷が、その大小に関わらず拭い去られるかのように消え、癒えていく。

 さらに、悪魔のように成り果てていた黒い翼は一瞬にして真白く染まったかと思えば淡雪のように散り消え、代わりにまるで支えていた腕から体の中を伝播したかのように奏の背から巨大な二対の翼が広がった。

 そして、握りしめていたデュランダル。その雄々しくも鋭い刃が、これまでになく強い輝きを放っていた。

 まさしく、地上に降臨した三つ目の太陽。しかしそれは竜が放とうとしている破壊光とは全く違う。

 

 それは烈しく、熱く、強く。

 しかし優しく、温かく、頼もしく。

 遍くすべてを包み、抱きしめてくれるかのような安堵がそこにはある。

 

 

 

 

 眼前で顕現した光、今まさに己へと振り下ろされんとする力の具現を前に、フィーネは瞠目して静止していた。

 確かに、デュランダルとネフシュタンの鎧の対消滅は読んでいた。

 その為に、デュランダルを支配下に置いてその出力を引き出すことは予想していた。

 それを可能とするだけの出力が、限界突破したシンフォギアならば実現しうることも想定していた。

 だが、しかし。

 聖遺物の研究者であり、シンフォギアの開発者であり、そしてデュランダルを先ほどまで振るっていたフィーネだからこそ理解(わか)る―――理解(わか)ってしまう。

 “アレ”はそれだけではない、と。

 

『………………………、なんだソレは?』

 

 ただ単に上乗せしたのではない。

 【絶唱】のように命を削って絞り出したのでもない。

 だというのに―――今そこにある“アレ”は、自身が思い浮かべていた脅威とは明らかに違うモノだ。

 単純な強弱ではない。そもそも向いている方向、立っている場所そのものが別の所にある―――フィーネは理屈からではなくそれを感じ取ってしまっていた。

 

『なんなのだソレは!? その力は!? いったい何を束ねたというのだ!!?』

 

 知らない、知らない、知らない。

 今、目の前にある(ヒカリ)がなんなのか。

 今、己へと叩きこまれようとしている(チカラ)がなんなのか。

 一体どうしたら、あんなものになるというのか。

 フィーネ(ワタシ)はそんなもの、まったくワカラナイ……!!!/―――ホントウニ?

 

『―――ッッ、オォノォレェエエエエエエエエエエエエッッッ!!!!』

 

 胸中に渦巻く感情。

 驚愕、恐怖、戦慄、疑問……そして幽かな自問。

 その全てをくべて焼却するかのように、竜頭に集っていた破壊光に出力を上乗せしながら響たちへと差し向ける。

 デュランダルを失いながらも、己自身を櫛削って燃料とするかのようなソレは、おそらくこれまでのどの攻撃をも上回るだろう。

 それを湛えながら紡がれる絶叫は、それこそ人のそれではないかのようだ。しかし同時に、窮鼠のような必死さが滲み出ている。

 

 

 

 魂裂くような叫び。

 それを受けながら、しかしもはや少女たちの瞳には一片の曇りもない。

 何を束ねたかと問うたか。

 そんなものは簡単だ。

 

「響き合うみんなの歌声がくれた―――」

 

 それは力で。

 それは熱で。

 それは心で。

 それは魂で。

 その全てを総じて―――敢えてこう呼ぼう。

 

「―――“SYMPHOGEAR(シンフォギア)”だぁあああああ―――っっ!!!」

 

 

 

 ―――Synchrogazer

 

 

 

 

 ―――振り下ろされる、光剣の一撃。

 それは同時に放たれた竜の破壊光を、しかし刹那ほどの拮抗すら挟まずに切り裂き散らしながら竜そのものを頭から両断する。

 

『グ、ゥウアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!』

 

 圧倒的な光に断ち割られる感触を繋がっているノイズたちから伝達され、フィーネの喉から苦悶の叫びが響く。

 だが、それでもその眼は死んではいない。ギラギラと輝きながら、己の纏う【鎧】に命令する。

 

『っっっ、どうしたネフシュタン!!? 再生だ、再生しろォッッ!!』

 

 しかし、もはやそれにどれほどの意味があるのか。

 再生の権能自体はすでに十全以上に発揮されていた。

 切り裂かれ、焼き尽くされ、消滅していく端から修復されていく。……だが、それも次の瞬間には破壊される。

 破壊と再生を繰り返す、まるでフィーネのこれまでそのものかのような輪廻転生(リインカーネーション)

 だがエンジンを焼きつかせるかのようなサイクルと、破壊力そのものの巨大さ。その二つが、強すぎる負荷として軋みを生み、機能障害を引き起こす。

 

 破壊、再生、障害(エラー)、破壊、再生、障害(エラー)、破壊、再生、障害(エラー)、破壊、障害(エラー)、再生、障害(エラー)、破壊、再生、障害(エラー)障害(エラー)、破壊、障害(エラー)障害(エラー)、再生障害(エラー)、破壊、障害(エラー)、破壊、障害(エラー)、再生、障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)障害(エラー)――――――!!!

 

 引き起こされた機能不全を示すかのように、竜の体表はまるで沸騰して泡立ったかのようにボコボコと不格好に隆起し、フィーネの坐す場はかつての聖域じみた様相は見る影もない。

 まるで悪性の腫瘍によってできた肉壁……いや、そうなった要因を思えば、まさにそのものと言えるか。

 

『砕けてなるものか……消えてなるものか……』

 

 末期のごとき様相の中心で、それでもフィーネの瞳に……そこに宿る意思に、陰りはない。

 避けられぬ崩壊の只中で、その精神だけがあらゆる状況を凌駕していた。

 

 

 

『この身、この魂………この想い!!

 此処で潰えてなるものかぁあああああああああああああああああああああッッッ!!!』

 

 

 

 断末魔というには、あまりにも力の漲る咆哮。

 しかしそれはどこまでも(むな)しく、黙示録の竜の似姿が崩れ散る爆音の中にかき消されていった―――。

 

 

 

 







 というわけでお待たせしました。
 第一期最終決戦。
 ほんとうはもうちょっと早めに出せたような気もするけど、そんなことはありませんでした。(メソラシー

 ちなみに士郎が射殺す百頭を使うのは連載開始前の草案から決めてたのですが、実はこの話を書く直前までは士郎登場のタイミングを変えて投げボルグの方にするという案もありました。
 結局はボツにしたのですが、その理由の一つは投げボルグ使用のタイミングはSynchrogazerを使う直前だったのですが『それだとフィーネの体剥き出しになった状態でSynchrogazerぶち込まれるから、フィーネの体消滅するんじゃね?』という結論が出たためです。
 第二期行くだけなら月が欠けた時点でフラグは成立してる気もしますが、それとは別に原作通りの流れにしてほしい理由があったので。

 あと、次回更新ですがかなり大幅に遅れるかもしれません。
 というのも、第一期本編は残り二話ほど(場合によっては三話に分割?)なのですが、どうせならそこまで書ききってから自壊を投稿しようかとも考えているので。
 無論、予定は未定なので片方掻き上がったらすぐに上げることにするかもしれません。
 ただ、現在はそうしようかと考えているのでご了承いただけるなら幸いです。
 その後は、補足を兼ねた茶番を二話分挟んでから二期に行く予定ですので、今度こそ年内以内に一期を完全終了させたいですね。
 ……あ、いやなフラグが立った気がする(汗



 と、話は変わりましてFGO雑談でも。(トラオムの微ネタバレもありますので注意)

 とりあえずトラオムについての一番の不満はティーポット使えなかったことですね。
 つーか使用期限とか何であるんですか(割とガチでキレ気味)
 バトル自体は全体として難易度低めでしたね。
 コンテニューなしで行けました。

 聖杯戦線は初めて動画参照せずに自力で完全制覇できました。
 前々から言われてたバゲ子が予想通り大活躍。
 あとは定番のヘラクレスとカーマ。
 そして今回に限ってはネモキャプテンが大暴れしてくれました。(スキル、宝具に虚数空間補正)
 最終戦はサポのジナコのおかげで大分助かりました。お肉要塞……!!

 スーパーリコレクションのLB3もなんとかクリア。
 一戦目はモルガンマーリンキャストリアの耐久で何とかクリア。
 二戦目はメインアタッカーのゴッホちゃんとタゲ集中持ちで何とかごり押し。
 三戦目は何回か試しましたが、ゴッホちゃんと水着カーマに無敵貫通礼装持たせたうえで令呪でコンテニューしてようやくクリアできました。むずいね。

 新規入手鯖は張角、オジマンディアス、水着BB。
 トラオムピックアップはシャルルも若森もホームズも袖にされましたが、トラオムクリア記念で回したストーリーガチャでオジマン来ました。何故に?
 水着BBはスキルMAXに。
 これでクリ系鯖の運用、もう少しやりやすくなるかな。
 とりあえず言いたいのはイベの景品、そろそろ銀色種火はいらんからその分スキル石系入れてくれないでしょうか???

 これ書いてる時点で次のイベが間近に迫っていますが、平安ガンダム為朝が実装されそうでわくわくです。
 ……あと、トラオムにも出てた女坊主スナイパーと徐福ちゃん。
 女坊主スナイパーの方は次のイベに来なかったらぐだぐだの方に来そうですね。(多分、次のぐだぐだは信長っていうか戦国組が主体になる気がしますし)
 韓信も実装されるんじゃねとかって話も聞きますが、どうなんですかね。



 それでは、この辺で。
 なんかいきなり暑くなりましたが、皆さま体調管理にはお気を付けください。
 クーラーはあんまりケチらないで。
 では、また次回に。
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