戦姫絶唱シンフォギア赫鋼―アカガネ―   作:樹影

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●フロンティア事変編:月墜葬送曲 リインカーネーション
1:Re:Fine/The third 『G』


 

 

 

 ―――歌が聞こえる。

 

 幼い頃から慣れ親しんで、今でもよどみなく紡げる童歌。

 いつのころから覚えたのかも、そもそも由来すらも定かではないソレを『私たち』はよく口ずさんでいた。

 

 ―――体が重い。

 

 崩れてきた瓦礫が、積み重なって覆いかぶさっている。

 マムが庇ってくれなければ、今ごろ体に不自由を抱えていたのは自分であっただろう。

 

 ―――空気が熱い。

 

 燃え盛る炎は手を延ばしても届かない程度には遠かったが、それでも喉や肌を炙るには十分だった。

 

 ――――――世界が、アカい。

 

 それは燃え盛る炎の赤だけではない。

 こちらに振り返った『彼女』が、微笑みながら目と口から流す鮮血の紅だ。

 

 そして。

 締めくくりとばかりに『彼女』へ……『妹』へ、崩落した大量の瓦礫が降り注ぐ。

 まるで歌劇の終わりに幕を下ろすかのように。

 

 

 

 それを以て、意識は現実へと引き戻される。

 だけど、悪夢はまだ終わっていない。

 きっとあの日からずっと、続いている―――

 

 

 

***

 

 

 

「―――………ん、」

 微睡んでいた意識が浮上する瞬間は、文字通りに夢現だ。

 しかし、普通の夢と違いその内容が薄れることはない。なぜならそれは、自分の中で確かに刻まれた記憶で、懐かしいとは呼べずとも忘れがたい切なる(おもい)であるからだ。

 それを思い出したのは、直前まで歌っていた曲の演出に炎が激しく使われていたがためか。

 或いはこれから為すことへの決意の裏打ちか……あるいは、自身の臆病さゆえか。

 いずれであろうとやることは変わらない。

 為さなければならず、為すと決意したことでもあり―――何より、すでに始まっているのだから。

 

「―――、」

 改めて、意識の焦点を眼前の現実へと移す。

 視界いっぱいに広がるのは、無数の人影。自身が立つステージが煌びやかであるからか、それこそ影絵のようだ。

 それは今、阿鼻叫喚の一歩手前の様相を見せている。恐怖と混乱に彩られ、今にも逃げ出さんとする者が固まっている者を押し退けんとしている。

 

 その原因は明々白々。

 自身と彼らを遮るように立ちふさがる無数の異形……朧な影と揺らめくノイズがそこにいるからだ。

 

 彼らにとって、それは死が形を持ってすぐ目の前にあるのと何ら変わらない。ならばその狂乱は必然。

 自分がそうでないのは、ノイズの存在を見慣れていて、対処する手段があり―――なにより、それらを呼び出した側の者であるからだ。

 その悲痛と言うに値する様相に対し、しかし目を逸らさない。恥知らずにも湧き上がる胸の痛みを抑え込み、原因たる者の責任とけじめとして、

「―――うろたえるなっっ!!」

 マイクを通しての大音声で以って一喝する。

 そうすればようやく、場がある程度は静まってくる。騒めきそのものは消えてはなくならないが、状況を把握するだけの冷静さを取り戻す者はぽつぽつと現れ始める。

 当然、混乱そのものがなくなったわけではないが。

「な……」

 ふと、吐息を漏らしたような声が耳に届き、視線を横にずらす。そこで立ち尽くしているのは、つい先ほどまで共に同じ歌に魂を込めていた少女の姿がある。

 名は風鳴 翼。

 もはや日本を代表する歌手であり、ツヴァイウィングというトップアーティストの片翼であり―――秘密裏に国家に属し、刃を振るう防人。

 ノイズを滅する力―――先史文明の遺産である聖遺物の欠片から力を引き出す『シンフォギア』の装者である少女。

 

 自分から見れば、ある意味で同輩であり、そしてこれから刃を交わすであろう敵手のあどけないともいえる姿に、内心で少しだけ微笑ましく感じる。

 しかしやはりそれを表に出すことなく、再び前を見据える。

 いや、見据えるべきはそこからさらに続く道の方か。

(ここから先は、茨の道なんてものじゃない……一歩踏み占めるたびに弾ける地雷原のようなもの)

 それでも、突き進む。

 そう決めて、誓ったのだ。

 家族というべき、養母と仲間に。―――そして、『妹』に。

(さぁ―――ここからが本当のスタートよ)

 不安も怖れも嚙み砕くように笑みを浮かべ。

 彼女は。

 マリア・カデンツァヴナ・イヴは、決意を込めた瞳で睨みを利かせ、世界に対して挑みかかる。

 

 さあ―――正義のために、悪を貫いていこう。

 

 

 

***

 

 

 

「―――了解です。装者二名と共に状況介入まで40分を予定、事態の収拾に当たります」

 夜天を高速で行く特殊装甲ヘリ。決して広いとは言い切れない機内で、二課本部との通信を切ったあおいは後部座席へと振り返る。

 そこにいるのは、岩国での任務を終えた響とクリスだ。

 ……いや、『終えた』と言うのは語弊があるか。なぜならば、彼女たちが携わった件の任務は、あまりにも無残な結果となってしまったのだから。

 

 岩国の米軍基地への【ソロモンの杖】護送……米国の研究者であるジョン・ウェイン・ウェルキンゲスこと【Dr.ウェル】を伴っての任務は、その途上にて多数のノイズとの戦闘が勃発した。

 とはいえ、それ自体は響とクリスの活躍によって殲滅され、ソロモンの杖はDr.ウェルと共に米軍へと渡され、これを以って任務は完了―――と、そうなるはずであった。

 しかし一同が米軍と別れ、帰投せんとしたその直後に爆発が発生、米軍へのノイズ第二陣の襲撃を知ることとなった。

 即座に現場に急行し、ノイズを掃討した響たちであったがそこにはすでに直前まで顔を見合わせた米国の軍人たちの姿は灰燼の向こうへ消えていた。

 道中を共にしたDr.ウェルも、また―――。

 

「………っ、」

 

 響は思わず、膝の上で詰めが手のひらに食い込むほど強く握りしめてしまう。

 眼前のモニターに映る、観客席とノイズの姿。それを眺める彼女の脳裏によみがえるのは、今日あったばかりで護れなかった人の姿だ。

 自分を『英雄』と、そう褒めたたえてくれた人。それに照れて調子に乗った自分を張り倒してやりたい。

 そうしてさらに、今度は別な場所で新たな事態が引き起こされている。

 【QUEENS of MUSIC】―――その主役の片割れである【マリア・カデンツァヴナ・イヴ】によるノイズを用いた決起。

 そのすぐ隣には、もう一人の主役で、先輩で、仲間である翼がいた。

 関係のない人たちを巻き込んだ渦中に、ただ一人で放り込まれてしまっている。

 今すぐに助けに行きたいのに、それができないことが本当にもどかしい。

 結局、肝心なところで手が届かない自分が情けなくて、腹立たして―――

 

「――――――ッオイ!! 聞いてんのかバカッ!?」

「うわぁっっ!!」

 

 どこまでも沈んでいく響を現実に引き戻したのは横合いからの勢いの強すぎる怒号だ。耳を左右から貫通するような(つんざ)きに、目を白黒させる。

「ク、クリスちゃん」

「ボケっとしてんな、しっかりしろ!」

「ゴメン……」

 叱咤に対し再び沈んでいきそうな響に、クリスは小さなため息を漏らす。そうなってしまっている一番の原因を、おおよそ察せられた。

「………。アイツらのことか?」

「―――うん」

 問いただせば、頷きが返ってくる。

 【QUEENS of MUSIC】には、未来を始めとした響の友人たちも観客として招待されていた。響たちも、本来の任務が滞りなく完了されていれば、そこに合流してライブを共に楽しむはずであったのだ。

 そしてそれらが意味するのは、モニターに映るあの騒乱に、彼女たちも巻き込まれている最中であるということだ。

 

 現状、彼女たちと連絡を取ることはできない。一応の作戦行動中であるというのも理由だが、そも通常の回線そのものがパンクしてロクに繋がらない状態だ。

 つまり、今の響に彼女たちの安否を知ることはできない。

 クリスはその辺りの事情と響の内心を察し、その心痛を慮りながらも強い確信を言葉に乗せた。

「大丈夫だ。アイツらは無事だよ」

 無論、クリスも実際の現場を知る由はない。だが、断言しうる根拠はある。

「元々、招待されてたのはVIPルームだ。あそこなら普通の観客席から離れてっから、ノイズはもちろんほかの観客のパニックに巻き込まれるなんてこともねぇ」

 そう、未来たちがいる場所は翼の用意したVIPルームで、完全な個室となっている場所だ。そこならばなるほど、クリスの言う通り危険は少ないといえるだろう。

 マリアが『どうやって』ノイズを使役しているかは不明だが、召喚したのがステージと通常観客席の間だけであるのならば、未来たちにその危険が及ぶ可能性はずっと低い。

 そこまで考えが至ったところで、響もようやく気持ちが落ち着き始める。事態そのものはなんら好転してはいないが、それでも対処に当たるだけの心構えを整えることはできてきた。

「うん。ありがとう、クリスちゃん」

「べ、別にいいさ。オメェが使いモンになんねぇと、しわ寄せが全部アタシ様に来るんだからよ」

 感謝の言葉に思わず顔を赤くしながら顔を背けるクリス。その仕草からどう見ても照れ隠しのようであるが、言葉の内容そのものは混じりけのない本音でもある。

 なにせ、本来の予定よりも人手が足りていないのだ。

「それにしても、こんな時に限ってアンちゃんが別の任務だなんてな。ホントにタイミングが悪すぎるぜ」

「―――そうね」

 ため息交じりの愚痴に、あおいが声を固くして首肯する。

 本来ならば、ソロモンの杖の護送任務には響とクリスに加えてもう一人……衛宮 士郎も就く予定だった。それが今朝になって別の任務に配されたと聞いたとき二人をして顔を見合わせたものだったが、このような事態になるとあまりの間の悪さに悪態の一つも漏らしたくもなる。

「あの、衛宮さんは本当に合流できないんですか? せめて、連絡だけでも」

「………ごめんなさい。私も詳しいことは聞いていないからなんとも言えないわ」

 響が縋るような気持ちで尋ねてしまうが、あおいから返ってくる言葉に押し黙るしかなかった。再びダウナーに入り始めている年下で組織としてはほんの少しだけ先達の同輩に、クリスは再び漏れそうなため息を押し留める。

 このバカは普段はバカみたいに底抜けに明るいのだが、沈み込むときはどこまでも沈んでいきそうになるのだから困る。そうなってしまう要因があるとはいえ、状況はそれを許してはくれないのだから。

 

 ―――なにより。

 そのバカみたいな明るさに救われた人間としては、そんな風に消沈されっぱなしなのは据わりが悪かった。

 

 クリスが再び響を引き上げんと声を上げようとしたその時、

「っ、二人とも静かに! また、何か―――」

 あおいの指摘に、二人の視線が再びモニターへと集中する。

 事態が、動く。

 

 

 

***

 

 

 

「コワい子ね。この状況にあっても私にとびかかる機を伺っているなんて。

 ―――でも逸らないの。オーディエンスたちがノイズからの攻撃を防げると思って?」

「っ!」

 わずかに揶揄いが入り混じったような声音に、翼が歯噛みしながらマリアを睨みつけた。その首元にあった衣装のスカーフは外され、白く細い首元を彩るペンダントヘッドが露になっている。

 睨みつける先にいるマリアは、赤みが混じり桃色めいて映る銀髪の奥で不敵な笑みを浮かべている。

 特徴的な形に結い上げられた髪はどこか猫を彷彿とさせるが、白くふわりとしたステージ衣装も含めてみれば妖精のようにも思える。

 そんな彼女は、笑みの余裕もそのままにわずかに眼差しを細めた。

「それに……」

 アクセサリーにしては無骨に見えるその存在を一瞥しながら彼女はさらに視線を滑らせる。

 その先にあるのは、会場のセットとして建てられたいくつもの太い柱。照明とスピーカーと共に、最上部にぐるりと囲むように無数に配されたモニター群。

 それが映し出しているのはステージではなく、その様子を生放送(ライブ)で放映している世界各国の実況中継の映像だ。

 そう、元々この【QUEENS of MUSIC】は全世界のTV局や動画配信サービスでの生中継が行われていることも話題の一つだった。モニター群も、その喧伝を兼ねた演出としての側面が強い。

 だが、先ほどまで二人の歌姫の勇ましくも麗しい姿と苛烈にして鮮烈な美声を映し出していたそれらは、今はどれもおぞましいノイズの闊歩する様を突発的な異変として報道しいている。

 その前後に共通しているのは、ライブ会場での出来事を余すことなく広く伝え見せているということだ。

 今、この時さえも。

「日本政府はシンフォギアについての概要を公開しても、その装者については秘匿したままじゃなかったかしら?

 ―――ねぇ、風鳴 翼さん?」

「なっ……」

 まさしくその通りに図星を差されつつも、慮外の指摘そのものに動揺を禁じ得ない。

 ルナアタック事件の後、櫻井 了子(フィーネ)が遺した先史文明および聖遺物に関する研究の成果は【櫻井理論】と銘打たれて正式に開陳された。

 その中には当然のように聖遺物の欠片によって駆動するシンフォギアシステムについても言及されている。

 しかし、ソレを纏う戦姫……装者たちの詳細については、当然のように伏せられていた。これは彼女たちのプライバシーや心身の安全を考慮してのものであるが、それ以上にシンフォギアそのものを外部勢力に奪取される可能性を怖れてのことである。

 つまり本来ならば仮にシンフォギアシステムの存在を知っていたとしても、それを誰が使えるかなど知りようがないはずである。

 しかし、彼女の口振りはそんな想定を覆すものだ。

(なぜ……彼女が……?)

 翼は首から下げられている赤いペンダントヘッド……シンフォギアの核たるコンバーターを強く意識する。

 眼前のマリア・カデンツァヴナ・イヴは明らかにその存在を把握し、のみならず翼がその使い手であることと認識していた。

 ノイズを召喚し操る力と言い、得体も底も知れない。

(―――しかし)

 だが、それでも。

 否、だからこそ。

「甘く見てくれるなよ……そんな物言いで、私が鞘走るのを躊躇うとでも思ったか!?」

 強い決意と戦意を込め、手にしたマイクをそれこそ切っ先のように突きつける。

 マイク部分を柄頭とした長大な装飾のそれはエペやフルーレのような刀剣染みたデザインであるためか、翼の勇ましさをより引き立てるものになっていた。

 正しく防人然とした振る舞いを歌姫の姿で見せる姿に、マリアはわずかに笑みを深めた。皮肉気に、しかし好ましいものを見たかのように。

「アナタのそういうところ、嫌いじゃないわ」

 言って彼女は、対するかのように翼へとマイクを差し向けてみせた。

 言葉を求めてではなく、同じく刃の比喩かのように。

 その表情からは笑顔が消え、凪いだような無表情となっていたが……あるいは、どこか泣き顔めいた(うれ)いを垣間見たのは翼の錯覚だろうか。

 

「……アナタのように誰もが誰かを護るために戦えたなら」

 ―――今よりほんの少しでも、自分以外の誰かを想えたのなら。

「世界は、もう少しマトモだったかもしれないわね」

 

「………、」

 刹那に覗いた本音(パーソナル)に、思わず言葉を詰まらせる。

 下卑た欲望でもない。

 熱病染みた狂気でもない。

 悲壮にして悲愴な決意に、翼は戸惑いを抱かずにはいられなかった。

「マリア・カデンツァヴナ・イヴ、貴様は一体―――」

 なんなのだ、という問いを遮るかのように、問われたマリアは笑みをさらに深めながら眼前の観客へと向き直る。

 そろそろ頃合いかと漏らし、マイクを片手の指運だけで勢いよく回転させて握りなおす。

 空気を裂いたがためか、キィンと響くハウリングが収まるのを待って一拍。

「私たちは、ノイズを操る力を以ってして、この星のすべての国家に要求するっっ!!」

 

 

 

***

 

 

 

『そうだな……さしあたっては国土の割譲を求めようか。

 猶予は24時間。要求が飲まれない場合はノイズによって各国の首都機能が不全となるだろう。

 私が王道を敷き、私たちが住まうための楽土―――考えるだけで素晴らしいだろう?』

 

「ハン。しゃらくせぇな……アイドル大統領とでも呼べばいいのカイ?」

 ライブ会場(というにはすでに事態は混迷を極めているが)の中継を眺めながら、スーツ姿の初老の男性が苦笑を浮かべながら蕎麦を手繰っている。

 所謂『べらんめぇ』染みた江戸っ子然とした口調ではあるが、不敵な笑みの上にある眼差しは刃のごとく鋭い。装者たちとは全く違う意味で『闘う者』としての鋭さを垣間見させる光が宿っている。

 画面を分割して同時に映し出されているのは、リアルタイムで通信を交わしているこういう事態のための『餅屋(せんもんか)』……特異災害対策機動二課の長である弦十郎の姿だ。状況が状況であるがゆえにすでに鉄火場の様相を得ているのか、その背後は暗く、通信からは彼の部下たちの切羽詰まった声が漏れ聞こえている。

 それを察しながら、しかし男は悠然ともいえる姿を崩さない。取り乱すことは混乱を助長するだけであり、また余裕を見せることは相手への信頼の証明であることを短くはない己の人生経験から叩き込まれているからだ。

 

 彼の名は斯波田(しばた) 賢仁(まさひと)

 外務省事務次官であり、先の事件においての前外務大臣の暗殺以後、二課の後ろ盾として支えてくれている者の一人である。弦十郎とも知己であり、こうして蕎麦を啜りながら通信を開く程度には気心が知れている間柄だ。

 そんな斯波田に対し、弦十郎の方は現場を率いる人間として厳しい表情を浮かべている。

「忙しいところ割り込んでワリィな。だが、厄ネタが暴れてんのはコッチばかりじゃねェみてぇだからな」

『っ、と言いますと?』

「まあ、少しばかり遡るがな」

 言いつつ、追加の蕎麦を啜り上げる。こちらを見る弦十郎の顔が強張っているの一瞥しつつ、のど越しを瞬きに堪能してから先んじて受け取っていた報告を頭の中から引っ張り出した。

「先だって、米国の聖遺物研究機関が何者かに襲撃されたらしい。

 研究データは軒並みお釈迦、それどころか保有してた聖遺物の類もごっそり持っていかれちまってたって話だ」

『今回の件と関りが?』

「蕎麦に例えるなら十割(トワリ)ってことはあるめぇが……ま、二八(ニハチ)ってところだろうな」

 言いつつ、更にもう一口啜る。彼の蕎麦好きは広く知られているところであり、それが高じての言い回しは愛嬌のようなものとして割合好意的に受け入れられていた。

 今回の場合は意訳すると『確証はないが、十中八九はそういうことだろう』といったところか。

 冗談めいた口振りではあるが、その内心では喉越しと後味を台無しにするようなため息を噛み殺す。

 

 これらの情報を察知できたのは日本の諜報能力の優秀さもあるが、それ以前に米国の聖遺物研究関連に対し殊更に力を入れて調査をしていたからだ。

 その理由こそ、昨今の聖遺物に対する認識を一変させたルナアタック事変の首謀者であるフィーネ……櫻井 了子の存在である。

 彼女と米国が通じており、先の防衛大臣暗殺にも関与しているらしいことは把握していた。故に彼女の死後、米国との繋がりに関しては外交の面も考慮に入れて慎重かつ深く調査を入れていた。

 無論、彼女が意見交換の名目で何度か出向していた件の研究所に対してもだ。

(そのおかげでこういった情報を入手できたっつぅのは、なんとも皮肉なもんだぜ……)

 とはいえ、このような事態が起きるのはさすがに想定外であった。結果として情報を生かせずに後手に回ってしまったことに関しては、忸怩たる思いを禁じ得ない。

 しかし、それらすべてを切り替えて眼前に向き直る。後悔に意味はなく、問題は前に立ちはだかっているものだからだ。

『急ぎ、対応に当たります』

「おぅ、頼んだぞ」

 言葉短く通信を切って、視線をすぐ隣にずらす。

 そこには今なおステージの中央に君臨する混乱の首謀者が佇んでいる。

「それにしても、ノイズを操っての脅迫……いや、宣戦布告か」

 まず前提として、要求は吞まない。国家としてテロリストに屈することはあり得ないし、あってはならない。

 なので考えるべきは要求を含めた発言の内容そのもの。

 『ノイズを操る力』、『各国の主要都市に対する脅迫』、『国土の割譲』………楽観的に考えれば、たまさか力を手に入れた小娘がそれに酔って思うが侭に振舞っているだけのようにも思える。

 だからこそ、斯波田はそのそうではない場合、その行動の目的へさらに深く思考を巡らせる。

(つっても、現状じゃ材料が少なすぎらぁな。繋ぎどころか水もなけりゃ纏めようもねぇか)

 故に、彼は殊更に意識を中継へと傾けていく。手は、空になった蒸篭の上に新しい蕎麦の盛られた次の蒸篭を重ねながら。

 

 

 

 一方で、部下からの矢継ぎ早の報告を耳にしながら弦十郎も同じく思考を巡らせていた。

(輸送任務の最中や岩国でのノイズの襲撃、マリア・カデンツァヴナ・イヴの決起……そしてもう一つ(・・・・・・・)

 直近で起こった『三つの事件』に、たったいま聞かされた米国の聖遺物研究機関への襲撃。

 これらに些かの繋がりもないと考えるのは、あまりにも苦しいと言えた。

 そしてもう一つ、弦十郎には別の懸念が存在した。

 ―――マリア・カデンツァヴナ・イヴが操る、ノイズ。否、より正確に言えばノイズを掌握している方法の方だ。

(ノイズを召喚し、操る術は完全聖遺物【ソロモンの杖】をもってしてのみ……そのはずだった)

 しかし、そのソロモンの杖は護送任務の果てに、ノイズの襲撃によって行方知れずとなったばかりだ。だというのに、マリアは明らかにノイズを己が支配下に置いているように見える。

 この状況から考えられる可能性としては、『ソロモンの杖以外にノイズを扱う術がある』というもの。

 仮にソロモンの杖ないしそれと同じ能力を持つ聖遺物が他に存在し、あまつさえ複数存在するというのなら……下手をすれば、各国がノイズを自国の兵器として運用せんがためにそれを奪い合うことになりかねない。

 それこそ冷戦や暗闘にとどまらず、直接的な武力衝突さえ引き起こされかねない。それは確かに、あまりにも背筋が凍りそうな未来図だ。

 

 ―――しかし、そうではないのだとしたら?

 

 そもそもの前提が崩されてしまうとしたら……現状を取り巻く状況、こちらが把握している情報そのものすら、大きくその意味を変えることになる。

(とはいえ、今はまだ断定はできんか)

 判断を下すには、決定的なピースが欠けていた。故に、彼は意識を切り替えて目の前の事態の解決に注力する。

 メインスクリーンの中継映像に映し出されているのは、主犯であるマリアと、

「翼………」

 奇しくもその場に居合わせ、孤軍となることを強いられている部下(なかま)の姿だった。

 

 

***

 

 

 

「、っ」

 翼は観客席の様子を伺いながら、油断なくマリアに注意を払い、同時に隙を伺っていた。

 召喚されたノイズは存在を不確かに揺らめきながらも、見えない境界線を保持するかのようにその場に佇んでいる。

 先のマリアからの一喝もあり、最前列が身を乗り出してしまうだけで触れ合ってしまいそうなほどの距離で死に至る災害と(まみ)えながら、しかしなんとか状況は小康状態に落ち着いていた。

 しかし、それは結局のところ辛うじてのものでしかない。例えるならば表面張力だけで水を保持するグラスの水面か、それとも限界ギリギリのところで空気の供給を止められた風船か。

 いずれにしろ、ほんの些細な……それこそくしゃみの一つ、かすかな身動ぎだけであっても弾けかねない、あまりにも際どい均衡だ。

 そしてもしそれが崩れ、真水に零したインクのように恐慌が伝播してしまえば。

 たとえノイズがそのまま微動だにせずとも、その混乱だけで目を覆わんばかりの被害が出る。

 翼はかつての経験を苦々しく反芻しながら、その確信を抱いていた。

 そしてそんな翼の様子を、マリアもまた認識していた。

「―――本当にコワイ子ね。気を抜いたら次の瞬間には首に刃でも添えられてしまいそう」

「………先ほど、シンフォギアと言っていたな」

 翼は睨み返しながら、先の会話を思い出す。

 確かに、マリアはシンフォギアを知っている口ぶりだった。それがどこまでのものかはわからないが、しかし。

「それがどのようなものかを知っているならば、解っているはずだ。

 ―――お前の要求が、通ることはない」

 そう、彼女の戦力がノイズであるならば、シンフォギアで以ってこれを駆逐できる。

 その事実をすでに各国が知っている以上、ノイズによる示威でその意思が折れるはずはない。

 マリアの側の勢力がどれほどであるかは不明で、二課だけで対応しきることが可能かもわからない現状ではあるが、明確な対抗手段が存在している以上、屈する理由は猶更に皆無だ。

 故に。

「お前の目的が何であれ、その理由がどのようなものであったとして………それで(こうべ)を垂れる防人と思うな!!」

 刃より先に切り込まれる、舌鋒。それを受け、しかしマリアの笑みが深くなる。

 そこにはまだ、余裕の二文字は消え去っていない。

「ああ―――成程。つまりノイズだけでは不足と、そう言いたいわけね」

 その言葉を予想していた……否、待っていたかのように。

 マリア・カデンツァヴナ・イヴは、「ならば」と前置いて、

 

「見せてやろう―――ノイズと並ぶ我がもう一つの力。

 覇道を拓く矛ならぬ“槍”の姿を……!!!」

 

 手にしていた剣のような意匠のマイクを、真上へと高く高く放り投げた。

 そして。

 

 

 

「―――Granzizel bilfen gungnir zizzl」

 

 

 

 聖詠(ウタ)が、響く。

 己の意志を武具と纏う、戦姫の聖詠(ウタ)が、高らかに。

 

「な……ぁ……!?」

 その響きに。

 翼は今度こそ瞠目と共に絶句した。

 それを置き、黒い奔流が瞬きに渦巻く。

 

 艶やかな肉付きの肢体を覆うボディースーツ。その上から要所を(よろ)う堅固な装甲。

 そのいずれもが片翼の纏う豪槍のそれであり。

 そのいずれもが豪槍のそれとは対極のように闇色に彩られていた。

 黒を基調としながら黄昏を彷彿とさせる暗い橙が差し込まれた色合いは、まるで正道より外れ堕ちたかのよう。

 しかし凛とした立ち姿と、加えて纏う巨大なマントを翻す様は正しく王者の如く。

 かくしてここに、いるはずのない新たな戦姫がその威容を露とした。

 

 車輪の如く回転しながら落ちてきたマイクを受け止め、

「私は、」

 逡巡のような一拍を挟み、しかしマリアは憚ることなく高らかに宣言する。

「―――私たちはフィーネ。終わりの名を持つ者だッ!!」

 

 

 

 ―――フィーネ。

 かつて人と神を繋ぎ、慕情と妄執を以って世界にしがみついた巫女。

 永遠の刹那の中に存在し続ける魂。

 それと同じ名が、それが創ったモノを纏って。

 再び、世界にその存在を刻もうとしていた―――。

 

 

 

***

 

 

 

 その姿を。

 弦十郎は、朔也からの報告と合わせ驚愕を持って受け止めた。

「ガングニール、だとっ!?」

 

 VIP席で友人と共に顛末を見守っていた未来は、両手で口元を覆っていた。

「そんな……」

 

 急行するヘリの中で、クリスは絶句していた。

「な、ぁ……!!?」

 

 クリスの隣で、響は呆然と目を見開いていた。

「………私と……ううん、奏さんと、同じ……?」

 

 奏は冷や汗を背筋に感じながらも、強がるように笑って見せた。

「もしかしなくても、アンタの置き土産かよ? ……なぁ、了子さんよぉ」

 

 そして。

「………―――」

 錬鉄の魔術使いは、ただ黙してそれを見届けていた。

 

 誰も彼もが驚愕に染まる中。

 ややあって、翼はこれ以上ないほどに憮然な声音で言い放つ。

「―――、紛い物だ」

 

 

 

***

 

 

 

 その言葉に、マリアはむしろ興味を引かれたかのように口の端を持ち上げた。

「……へぇ。紛い物と、そう言ったのかしら?」

「ああ、言ったとも。仮にその力が真実シンフォギアであり、ガングニールであろうとも」

 目の間に現れたソレが、自分の片翼が纏うものと違わぬものであることは、もはや疑いようはない。

 だがしかし、それでもこれは『本物』ではない。

 ただ同じ力であるというだけが真贋の本質ではないと、翼は確信を持って睨みつける。

「無辜の人々に凶刃(ノイズ)を突き付け、その上で晒して見せたガングニールなど、どこまで行っても騙りにすぎん!!

 貴様のような者に、纏えるシンフォギアなどと思うなッッ!!」

 裂帛の糾弾。真正面からそれ受け、しかしなお揺るがぬ敵手。

 その姿に、ならばと翼は呼気を溜め、

『―――ダメです、翼さん!』

 聖詠(ウタ)を紡がんとしたその刹那。

 良く知る声に歯止めがかけられた。

 インカムから劈いたその声は、自分たちを支えるマネージャーであり仲間である青年のものだ。

『今この状況で動けば、『風鳴 翼がシンフォギア装者』だと全世界に知られてしまいます!』

 慎次の言うとおり。

 眼前の観客席にはノイズを挟んで数えきれないくらいのファンが身を寄せ合って震えており、更には世界中に中継で繋がっている。

 この状況でギアを纏うことは、今まで秘されていたシンフォギア装者……その一人の正体を詳らかにしてしまうことに他ならない。

 しかし、翼とてそれが分かっていないわけではない。その上で、ギアを纏わんとしていたのだ。

「この状況を打破しうるには―――」

 今この場にある、己の『アメノハバキリ』だけだと、そう返そうとする。

 それは正しく事実だ。相手がノイズを操り嗾けるなら、ソレを滅するシンフォギアで以って抗するのが道理であると。

 だがそれを、

 

『風鳴 翼の歌は……ツヴァイウィングの羽撃きは! 戦いの歌だけではありません!

 ―――傷ついた人を癒し、勇気づけるためのものでもあるのです』

 

 慎二は、二人の歌姫を支え続けた矜持で以って押し留める。

 

「っ、」

 その言葉に、翼は思わず押し黙った。

 そうさせてしまうだけの熱と想いが、その言葉には込められていた。

 

 確かに、防人としての刃は人々の身を守ることができるだろう。命を救うことができるだろう。

 だが、同時にツヴァイウィングとしての歌もまた、人々を救うものであるのだ。

 彼女の……彼女たちの歌に、心を癒され、魂を救われた者は刃によって護られ救われた者以上に存在している。

 故にこそ、それを人々から奪うわけにはいかないと断言する。

 

 長く自分を支え続けてくれた恩人の賞賛に、面映ゆくも感じ入る。

 故にこそ、翼は紡がれんとした聖詠(ウタ)を喉奥に押し留めた。固く結んだ唇のまま、まっすぐにマリアを睨み返す。

 マリアはそんな視線と己のそれを重ねながら、煽るかのように言葉を投げる。

「紛い物、騙り……そこまで言うなら、確かめてみる?」

 それは翼からすれば、神経を逆なでられるようなものであったが、しかし応えることはない。

 そんな無礼よりも、本当に大切なものがあるからだ。そんな彼女にマリアの方も挑発の無意味さを悟ったのか、言葉を途切れさせる。

 

 そうして挟まる、数拍の沈黙。

 互いに目を逸らすことのない睨み合いは、見えない切っ先をぶつけ合っているかのよう。

 ステージを見守る観客たちの少なくない数が、その雰囲気を感じ取ってノイズへの恐怖も忘れて固唾を飲んでいた。

 そして、マリアのほうが短く息を吐き、『ならば』と観客席へと向き直る。

「―――観客席(オーディエンス)の諸君を解放しよう。

 安心しろ、ノイズには手出しはさせない。ただ速やかにこの場を退場してもらおうか」

「な……」

 なんだと、という言葉すら驚愕に途切れてしまう。それは観客席の全員も同じで、恐怖と戦慄によっていつのまにか敷かれていた沈黙が困惑のざわめきに破られていく。

 そしてその戸惑いは、この場にいないものにも齎されていた。

『―――なんのつもりですか、マリア?』

 

 

 

***

 

 

 

『こちらの優位を放棄するなど……筋書きにはなかったことです。

 説明してもらえますね?』

 通信から聞こえる静かな……しかしわずかに怒りを滲ませた固い声の叱責。

 すでに少しずつ場を辞しつつある群衆を見送りながら、マリアは悪びれることもなく凛とした口調で返す。

「このステージの主役は私……人質なんて、私の趣味じゃないわ。

 ―――それに見せているし(・・・・・・)聞かせている(・・・・・・)のでしょう? 其処で」

『………、』

「いたずらに不興を買うような真似はよろしくないのでは?」

 押し黙る、という行動そのものがマリアの指摘が的確であることを認める証左であったか。

 ややあって、わずかな溜息をむこうのマイクが拾ってみせた。

『……調の方をそちらに向かわせています。作戦目的をはき違えないよう。

 こちらの大きな優位を手放した以上、他の装者の応援も鑑みれば猶予はほとんどないと思いなさい』

「了解」

『それと―――』

 最後に、これまでになく切実な声音で以って、

『―――、血に塗れることを怖れないで』

 告げて、通信は一応に切られた。

 それを受け止めて、マリアは一言。

「ごめんなさい。―――それと、ありがとう、マム」

 家族に対する、優しい呟きを小さく零した。

 

 

 

***

 

 

 

 波打ち際であった砂浜が引き潮でその地肌を晒すように、観客席の人影が見る見るうちに減っていくにつれ無機質な座席と床を照明に照らされるがままになっていく。

 そんな光景を、未来はVIP席からの俯瞰で以って見届けていた。かつてあった……自身の親友が体験したような混乱からの二次災害はないようで、それだけでも胸を撫でおろすばかりだった。

 すでに眼下の人影はまばらになりつつあり、後に残っているのはノイズの揺らめく影と、ステージに佇む二人の歌姫だ。

 否―――今対峙する二人を、ただ『歌姫』とだけ表すのは大なり小なりの語弊があるかもしれないが。

 一触即発……次の瞬間には文字通りに刃を交えていてもおかしくない、そんな空気がここまで伝わっているように感じるのは、果たしてただの錯覚なのか。

「ヒナ、私たちも行こう?」

 声に振り替えれば、すでに共に来ていた創世たちが入り口の方に立っていた。

 こちらも表情に不安が滲んではいるが、それでも落ち着いてはいる。会場とステージを見下ろすような位置にあるVIP席という関係上、ノイズの姿が遠くにあるというのも理由の一つだろうが、それだけではない。

「ここにいても、ビッキーたちの足を引っ張っちゃうだけだよ」

「遅刻してますけど、もうすぐ来るんでしょう?」

「期待を裏切らないからね、あの子は」

 口々に紡がれるのは、ここにいない友への信頼。

 彼女の事情を少なからず知っているがゆえに、彼女たちは恐怖に心を塗りつぶされることなく瞳に光を宿していた。

 『それに』、と弓美は笑みの趣に意地の悪いものを若干入り混じらせた。

「あの噂のヒーロー【赤マント】もいるんだから! 心配無用、でしょ?」

 言うなり、未来も含めてそろって苦笑気味に吹き出した。彼女たちの頭に思い浮かんだのは、そう呼ばれて何とも言えない表情になった青年の顔だ。

 ダシにして笑ってしまったことに若干の後ろめたさを感じつつ、ほんの少しだけ気が楽になった未来は三人に頷いて見せた。

「そうだね……うん、行こう」

 そうして足を動かし、いよいよ部屋の外に出る間際、一度だけ未来は振り返る。

 照明の備え付けられたアーチ状の巨大なセットと、夜空に浮かぶ土星のような輪を従えた満月を見やりながら、思わず胸の内に祈りが湧く。

(響……衛宮先生……早く来て……)

 やはり拭い切れずに心を滲ませる不安。

 同時に、影のようにまとわりつく頼ることしかできない己の無力とつまらない嫉心。

 

 ―――自身の心の奥底に積みあがっていくものに、彼女は自覚を持ててはいなかった。

 この時は、まだ。

 

 

 

***

 

 

 

 人がいなくなる。たったそれだけでここまで空虚になるものなのかと、マリアは不思議と妙な感慨を覚えていた。

 数えきれないほどに埋め尽くされていた観客席はすでに完全な無人と化し、ぽつりぽつりとノイズが点在するばかりだ。

 満杯だった場所が一気に空になるのだから、広く感じるのは当たり前の感覚である。しかし、ライブの準備中に見た時よりも更に広く感じるのはどうしてだろうか。

 ざわめきも消え去り、吹き抜ける風の音を殊更に強く聞こえる寒々しさの只中で、マリアはポツリと言葉を零す。

「……帰る場所があるというのは、うらやましいものね」

 所業を考えれば、皮肉にしか聞こえないような台詞。

 しかし、愁いの滲んだ眼差しには言葉通りのものに染まっているように見える。

「マリア、貴様は一体―――」

 何者なのか。

 何が目的なのか。

 どうしてこんなことをしたのか。

 そんな翼の疑問が晴れることはなく、こちらへと振り返った表情はすでに笑みを含んだ不敵なものへと変じていた。

「さぁ、これで観客はいなくなった! これで被害者が出ることはない!

 それでもまだ、戦わないというのなら……それはアナタの保身のため」

 言いながら、マリアは剣のような意匠のマイクをまるでそのもののように構え、その先端を切っ先のように翼へと差し向ける。左手で刀身を撫でるように添える構えは、刀や槍というよりもビリヤードのハスラー染みている。

 先端からまるで弾丸のように研ぎ澄まされ、凝縮された鬼気と戦意が放たれている……まるでそんな錯覚を覚えて、翼は息を固く飲んでマイクを握りしめていた。

「アナタは―――」

 そんな彼女を見据えながら、マリアはなぞる様にマイクの意匠へ指を滑らせ、

「―――その程度の覚悟しかないのかしら!?」

 鞘走りに引き抜くように振り上げ、吶喊した。

「っ!?」

 黒い疾風(かぜ)とでも評すべきか。

 文字通りの一足飛びで肉薄してくるマリアの姿に、翼の喉が干上がる。

 照明に煌めきながら黄金の軌跡を残す一閃に、同じ獲物(マイク)を以ってどうにか受け止めた。

「ハァッッ!!」

「ク、ゥ……!!」

 返す二撃、重なる三撃、そのいずれも同じく凌いでいく。超人(シンフォギア)の速度と膂力で放たれる連撃にここまで渡り合えるのは、偏に翼の才と鍛錬と経験の全てが合わさった賜物に相違ない。

 だが、それが限界。

 生身ではどうにか受け流すように防ぐのが精一杯であり、仮に攻撃に転ずることができたとしてシンフォギアを纏った身にはなんの痛痒も与えられない。

 いや、そもそもの話として―――手にしているモノそのものがすでに頼りない。元よりステージパフォーマンスとしてそれらしく誂えられただけの代物、むしろこうして攻防を成り立たせていることこそ行幸ともいえた。

 そして、それもここまで。

「フッ―――!!」

 一息を挟み、身を廻すマリアの動きに呼応して羽織ったマントが大きく翻る。その不自然なまでの動きの鋭さに、翼は背筋に粟立つものを感じて咄嗟にマイクを盾にし、

「なっ!?」

 迸る火花に、目を見開く。

 溶接染みた閃光は、しかし実際は真逆の事象によるものだ。

「っ!!」

 刹那、膝を折りながら大きく身をのけぞらせ、棚引く死線を辛うじてやり過ごす。さらに身を落とした勢いを利用し、その脚力でバク転を二回三回と重ねて間合いを再び大きく開かせた。

 ややあって地に両足を付け、改めて手にしたマイクを見やれば端正な眉根が大きく歪む。

「……っ」

 剣めいた意匠が、根本近くで切断されていた。

 中空の断面は思った以上に鋭利で、淵をなぞれば指を切ってしまいそうだ。

 当然ながら、これではもう先ほどまでのように攻撃を受け止めることはできない。翼はマイクを放り投げて徒手空拳に身構えるも、背筋には冷たい汗の感触を気持ち悪いほどに実感できてしまっている。

 重ねて言えば、シンフォギアは生身の人間が対抗できるような存在ではない。それを可能とする例外は特異な能力か度外れた身体能力かを有する者だけであり、自分にはそのどちらもない。

 ……そう、アメノハバキリのシンフォギアを除いては。

(やはり、ギアなしでは……しかし……)

 顔を背けず、目の動きだけで視線をずらす。巨大なスピーカーを埋め込まれた柱の最上部には、先ほどまでと変わらず無数のモニターが世界中の中継映像を垂れ流している。

 ノイズの姿も、マリアの姿も、そして自分の姿も。

(どうにかしてカメラから逃れられれば……)

 思案と共にさらに視線を巡らせ、そして。

 

「ハッ―――!」

 立ち尽くす姿を隙と見たか、マリアの猛攻が再開される。

 盾となるものを失った以上、翼は繰り出される連撃をどうにか躱して、躱して、躱し続け、

「ッ……!」

 左袖を構成していたステージ衣装を引き剝がすようにして投げつける。

「、チッ!」

 ひらひらとしたデザインのそれは、ひたすらに攻め続けていたがゆえに狭まっていたマリアの視界を見事に塞いでしまう。

 それを切り払うようにして除くその一瞬。それを以って、翼は身を翻して駆け出した。

 向かう先は、ステージ端の脇……そこにぽっかりと開くように存在し、眩いステージのライトアップにおいては沈み込んでいるかのような暗がり。路地裏のような、人々の意識の盲点のような場所。

 つまりは、ステージ裏に続く舞台袖の出入り口だ。

 その先は当然、ライブ中継で映し出されるはずはない。

(良し、カメラの目の外に出てしまえば―――!!)

「―――ハァッ!!」

 そんな翼の思惑を阻まんと、マリアは剣のように振るっていたマイクを今度は投げ槍のように放った。

 それは空気を裂くようにまっすぐに翼の足を狙い、

「っっ!!」

 それを、翼はまるでハードル走のようにタイミングを合わせて飛び避けた。

 眼下を勢いよく通り過ぎていく一投に、翼は安堵と共に会心の笑みを浮かべる。

 これで以って稼げた時間と距離はわずかであり、シンフォギアを纏った者ならば一息でゼロにできる程度の猶予であることは彼女自身も承知だ。

 しかしだからこそ、生み出したその猶予が自身がカメラから逃れた先に転がり込み、そしてギアを纏うに至れるギリギリのモノであるということも察しとれていた。

(これで―――!!)

 反撃開始と、意気込み着地して―――

 

「な、ぁ……!?」

 

 ―――大きく、体勢を崩す。

 

 着地の瞬間。

 踏みしめた足裏が、想定よりも大きく沈み込み、崩れたバランスに身が否応なしに膠着する。

 その理由は。

(ヒール、が)

 舞台衣装としての、赤いハイヒール。

 ライブでの派手な振り付けに、先ほどまでの大立ち回り。更には疾走からの跳躍と、それらを経た上での着地がトドメとなったのか。

 瞬間的に全体重を負荷として乗せられ、細い柱のようなヒールが耐え切れずに根元部分から折れて何処かへと飛んでいく。

 不慮であるがゆえに驚愕を誘発し、崩れた体幹と相まって翼の体は否応なしに前のめりに倒れこんでいく。驚愕に目を見開いて心身が硬直した状態は、まるで取り扱いを誤って床へと落ちる美術品のよう。

 そんな時間が停止したかのような状態を、

「貴女はまだ、ステージから降りることは赦されない……!!」

 至近からのそんな囁きと、腹部に炸裂する衝撃が現実へと引き戻した。

 その代償に、浮遊感というには乱暴な斥力と共に両足から地面の感触が失われていく。

 

 

 

 大きく身を旋回させての回し蹴り。

 遠心力をふんだんに乗せた踵が、脂肪の薄い腹部に炸裂した。

「ガッ―――」

 肺から空気が絞り出される音を喉から響かせて、翼の細い体は受けた衝撃のまま、大きく弧を描く軌道で吹っ飛んでいく。まるでそれは、サッカーボールを遠方の味方へパスするかのような様だ。

 この時、体のバランスが崩れて倒れかけていたのは不幸中の幸いであったかもしれない。そもそもだからこそ受けてしまった一撃でもあるのだが、それはさておき。

 もし下手に地を踏みしめて耐えようと踏ん張ってしまえば、逃げ場を失った衝撃が内臓を破裂させかねなかった。

 おかげで予想以上に吹っ飛ばしてしまい、ステージを飛び越してしまいそうだ。

(……『降りることは赦されない』なんて言った手前、少し締まらないことになってしまったわね)

 そんなことを考えながら翼の姿を追うように振り向いて、

「っ、なにを!?」

 どうしてだか、彼女もまた驚いたかのように目を見開いた。

 青味がかった長髪とステージ衣装をなびかせながら落ちていく先。

 誰もいないはずの観客席最前列に、いつの間にかノイズが集結しつつあった。

 まるで、放り込まれたエサに殺到せんとする肉食獣のように。

「勝手なことを―――!!」

 自身が意図したことではないと言外に示すかのように、憤慨するマリア。

 しかしそんな彼女にはすでにどうすることもできず。

 歌姫の身は、まるで生贄のように致死の災厄へと捧げられていく。

 そして―――

 

 

 

***

 

 

 

「ぁ―――」

 ひどく、時間がゆっくりに感じられた。

 逆さまになった視界の中、こちらを受け止めて灰燼に帰さんとする無数のノイズが蠢いているのが分かる。

(………)

 その只中へと重力に体が引かれ、落ちていく己の五体。まるでロックスターのダイブのようだと緊張感もないようなことを思いながら―――翼は、覚悟を決めた。

 無論、死のそれではない。だが、ある意味でそれに近い。

(訣別だ………歌女(うため)としての私)

 これまで、光の中で歩いてきた道。その中で築き上げてきたもの。―――支えてくれたたくさんの人たち。

 それを振り返る間もなく捨て去る覚悟を、彼女は引き延ばされた刹那の間で決めていた。

 そうして防人として立たんと胸元のコンバーターを握りしめて。

「―――ごめんね、奏」

 涙の代わりに、未練と謝罪を口から零す。

 

 さぁ。聞くがいい―――防人の聖詠(うた)を………!!

 

 

 

***

 

 

 そうして。

 世界中の誰もが固唾を飲んで見守る中。

 ―――ブツン、と。

 暗転が全てを遮断した。

 

 

 

***

 

 

 

「―――Imyuteus amenohabakiri tron」

 

 迸る白光が少女の姿を包み、内側から奔る蒼閃が殻を破る様にノイズごとそれを切り裂いていく。

 純白に青を差した装甲の戦姫。ムーンアタックと謳われる戦いを経て、聖遺物(アメノハバキリ)とより深く同調できていることを示すかのようにより洗練された鋼を纏っている。

「―――!!」

 

 ―――逆羅刹

 

 逆立つと同時、天を衝く両脚のウィングブレードが真実刃と展開され、地を掴む両腕の捌きで以って体ごと回転する。

 四方を囲むノイズを切り刻み、縦横無尽に蹂躙する様は独楽というよりも極小の竜巻めいて見える。

 そのまま勢いに乗るかのように腕の力で跳躍すると、空中で体の上下を戻しながらその手に刀を握り、それを更に巨大な刃へと変貌させた。

「――、――!!」

 

 ―――蒼ノ一閃

 

 その身を彩る晴天の空の如き剣閃が、弧月のように残ったノイズどもを斬り払っていく。

 そうして着地し、残心のように細く息を吐く頃になれば、既に場を埋めていたノイズの姿はどこにもない。

 

 まさしく、鎧袖一触。

 これぞ、快刀乱麻。

 ―――これこそが、防人。

 【絶刀・アメノハバキリ】を(よろ)う、風鳴 翼の勇姿である。

 

「………?」

 名残惜しむかのような残心の最中、引っ掛かるような違和感を得て思わず見上げる。

 一方で、無数のノイズを瞬く間に屠り去った彼女に戦慄を抱いていたマリアも、同じくして天を見上げた。

 そうすれば、二人は同じ驚愕を同時に受け取っていた。

「中継が……」

「切断されている、ですって!?」

 漏らした言葉が示す通り。

 スピーカーを埋め込まれた柱の上部をぐるりと囲む無数のモニターの全てが、完全にブラックアウトしていた。

 

 

 

***

 

 

 

「な、なんでぇ!? なんでだよぉ!?

 翼さん、翼さぁ~~~ん!!!」

 現場へと文字通りに飛ぶヘリの中、響が涙目でモニターに掴みかかってバシバシと叩いている。彼女からしてみれば、翼がいよいよツヴァイウィングとしての自分を捨ててしまうかもしれないという瀬戸際で映らなくなってしまったのだ。ファンであり後輩であり仲間である響からすれば、気が気でなく泣き出す寸前であったというのにあんまりな仕打ちであると感じられていた。

 しかし昭和のオカンがテレビの調子がおかしくなった時のごとくバシバシ叩いたところで、元に戻るはずもない。モニターは快活な少女からのDVに対し、健気に『NO SIGNAL』の文字を映すばかりである。

「……ダメね、どこも完全に中継が切られているみたい」

 モニターへの謂われなき暴行を続ける響の方に振り向きつつ、あおいが手元の端末も併用して調べた結果を伝えてくる。

 それはつまり、こちらの危機の問題ではなくライブ会場の方で全ての接続を絶っているということだ。

 ―――その事実に、クリスは包拳の如く拳をパンッと小気味よく喝采と打ち鳴らす。その顔には、会心とばかりに力強い笑みが浮かんでいる。

「ってことは、つまりだ」

「えぇ!」

「ふぇ?」

 同意するかのように頷くあおいに、なんのことかとまだ考えが繋がらない響。

 

 そう、すべての中継は切断された。

 ライブ会場の状態を、その場の人間以外が知る術はどこにもいない。

 ―――つまり。

 風鳴 翼が防人の本懐を果たすのを、阻まんとする障害は最早どこにも存在しないということだ。

 

 

 

***

 

 

 

「なんとか、間に合いましたね……!」

 ライブ会場のシステムを統括するコントロールルーム。そこで世界各国との通信関係のシステムをすべてカットすることに成功した慎次が、肩を上下させながら安堵を荒々しく吐いた。

 呼吸が乱れているのは、体力的な理由ではない。圧し潰すかのように切迫した状況と、そこからの開放による反動からくるものだ。

 

 コントロールルームからも、ライブ会場の様子を窓越しに見下ろすことができる。そこから目に飛び込んでくるのは、シンフォギアを纏いノイズを駆逐する蒼き片翼の勇ましくも美しい活躍だ。

 しかし慎次はそれよりも、彼女の大切なもう一つの姿を護りきれたことを誇らしくも嬉しく思う。

 そう、自分はこの国に仕えるエージェント(しのび)であるのだけれど、それと同時に稀代の歌姫二人組【ツヴァイウィング】を支えるマネージャーでもあるのだ。

 故に。

「シンフォギア装者であることがばれたせいでアイドル活動ができなくなる……そんな事態(コト)はたとえ神が許そうともツヴァイウィングのマネージャーである僕が許しません!

 そして―――!」

 

 

 

***

 

 

 

「―――そして。

 これでもうコッチが気兼ねするものなんざ、何一つだってないっつーことだよな?」

 

 

 

「「ッッッ!!?」」

 唐突に、そんな声が降り注いできたことに翼とマリアは同時に強く驚愕した。

 なんとなれば、その声の主を知っており……同時に、ここにいるはずのない人物であったからだ。

「ま、さか……」

 マリアは上を見上げ、視線を巡らせ……そして見つける。

 ステージのセットの最上部。おそらくはスタッフによるメンテナンス用の足場を伝って登ったのだろうか。

 そこから、何者かの影がこちらを見下ろしている。

「まさか………貴様は!?」

「―――ハッ」

 驚愕を叩き付けてくるマリアを睥睨し、漏らしたのは笑みか。

 その何者かは―――彼女(・・)は、カンッと甲高い音を立てながら身を乗り出し、そして飛び立った。

「ッッ!?」

 傍目からは自殺にしか見えない行動に、マリアが息を吞む。

 セットの最上部からステージまでの高さは大雑把に見ても3階分ほどはあるだろう。ステージの硬さも鑑みれば、転落死は多分にあり得る。

 だが、マリアが驚いたのはそんなことではない。

 その行動で疑念が九割の確信となり、

 

 

 

「―――Croitzal ronzell Gungnir zizzl」

 

 

 

 残りの一割を、聖詠と閃光が視界ともどもに埋め尽くした。

「クッ!」

 マリアは咄嗟に、右手でマントを掴み、己の頭上へと振り上げた。それは黒々と棚引きながら比喩ではなく広がり、マリアの直上を隠すように覆っていく。

 直後、そのマント越しに伝わる衝撃がマリアに伝播し、それ以上に周囲の空気を爆発のように打撃した。

 落下速度だけでは説明できないほどの威力を叩き込まれ、思わず奥歯をかみしめる。

「ツッッ!!」

「―――っと!!」

 はじき返すようにマント越しに腕を振るよりも早く、『ソレ』は高所から飛び降りたとは思えないほど軽やかな身のこなしでマリアの上から飛びのいた。

 マントの防護を払い除け、露になった視界の先にいる『ソレ』と、マリアは改めて向かい合う。

「―――お会いできて光栄、と言うべきかしら?」

「違ぇ形で言われたかったなぁ、ソイツはヨ」

 内心の動揺を隠すようにあえて笑みを向けてみれば、対する向こうも牙を剥くように笑いかけてくる。

 そうしながら叩き付けてくる獰猛な戦意を受け止めながら、改めて『ソレ』を見つめた。

 

 白い装甲に差す色は橙。

 眩しいほどに映えるそれは、蒼天の如き翼のそれに対しまさしく暁のよう。

 為す形は、鏡合わせのように己のそれと酷似している。

 ―――否、正確に言えばほぼ同じ。

 なぜならば、もとより同じ聖遺物より生み出されたシンフォギアであるが故に。

 

 マリアは静かに、しかし深く息を吸い。

 改めて、新たに割り込んできた踏破すべき(てき)の名を呟く。

「―――、『天羽 奏』!!」

 

 ―――ここに。

 【豪槍・ガングニール】の装者。

 暁天の戦乙女が、戦場の片翼と再び肩を並べんと参陣を果たす。

 

 

 

***

 

 

 

「なにが幸いするか、本当にわかんないもんだよなぁ……」

 コキコキと首を鳴らしながら、奏は独り言ちる。

 そもそも、なぜ彼女がここにいるのかと言えば、要はサプライズ演出だ。

 とはいえ、それはもともとに予定されていたものではない。

 

 発端はと言えば、奏の仕事に急なキャンセルが入ったこと。それがちょうど【QUEENS of MUSIC】の当日と重なっていたのだ。

 無論、それだけでは参加決定とはならない。すでにその時には大まかなところはほぼほぼ出来上がっていた状態で、本格的なリハーサルに入ろうかという段階であったのだ。

 なので奏も当初は普通に視聴者として相方のライブを楽しもうかと考えていたのだが、予定が空いたのを知った責任者から最後の方だけ参加しないかと打診が来たのだ。

 これを聞き、奏はもちろん二つ返事で承諾した。さらにもとより時間的にマリアの方と合わせる時間もなかったこともあり、せっかくなので出演する二人には内緒のサプライズゲストとして登場しようかという話になったのだ。

(翼とならぶっつけでも合わせられるし、なんだったらマリアともアドリブでなんかできたら面白いかもなぁって思ってたんだが……)

 まさかこんな事態になるとは、人生何がどう動いて幸いするかはわからないものだとつくづく実感する思いだった。

 と、身構えようとするマリアに、奏は制止するように五指を広げた右手を前に伸ばす。

「まあ、少し待てよ」

「何かしら? 降伏勧告? それとも降参してくれるのかしら?」

「どっちでもねぇよ。……先にやることがあんのさ」

 やること? と首をかしげるマリア。

 その矢先、背後で慣れた気配が降り立つのを自覚する。

「……っし。来たか」

 呟いた瞬間。

 なぜだか眼前のマリアがビクリと身を竦ませたのが不思議だった。

 ……なんでだろうなぁ?

 

 

 

***

 

 

 

「奏!!」

 予想だにしていなかった片翼の参戦に、翼は喜色満面を隠すことなくステージ上へと帰還する。

 これならば百人力や千人力という次元ではない。怖れるものなど何もなく、勇往邁進と突き進むのみ。

 ……そんな風に考えていた翼を、

 

「ああ。アタシも会いたかったよ。なぁ………つぅ~ばぁ~さぁ~?」

 

 怒気満面の笑みを浮かべてゆっくりと振り返った奏が出迎えた。

 鬼も羅刹も裸足で脱兎するだろう迫力を前に、翼が笑顔のままピシリと固まる。

 般若の由来がよくよく理解できてしまいそうだった。

 構図としてはまさしく蛇に睨まれた蛙の如しというかなんというか。

 

 ―――まあ、手っ取り早く言うと。

 天羽さんちの奏ちゃんは大変にブチ切れられていらっしゃった。

 

「え? かな、でっっ!?!?」

 戸惑う翼の言葉も遮るように、バッと伸ばされた奏の両手が勢いよく彼女の両頬をつまみ上げ、盛大にいじり上げ始めた。

 遠慮も何も全くなしの手さばきは例えるならまさに大回転といった具合である。

「いひゃっ!? いひゃひゃひゃひゃっっ!? ひゃ、ひゃにゃへぇえええええっ!!?」

「あ~ん? 何言ってんだかわかんねぇなぁ~? てぇかなぁにふざけたことヌかしてんだろぅなぁ、えぇ?」

 涙目の翼は物理的な理由で呂律が回らない状態だったが、一方で奏はそんなことお構いなしに相方の頬をグリュングリュン弄り回している。

 口元こそ笑みになっているが、そのギラリとした眼光には煮えたぎるような憤怒に染まっていた。

 奏がここまで翼に対して怒りを露にしている理由、それは彼女がギアを纏う瞬間の出来事だった。

「―――翼、通信で聞こえてたぞ? なぁにが『ごめんね』だよ」

「っっ!?」

 ビクリ、と身を強張らせた翼に、奏はため息を漏らしながらようやく彼女を解放する。

 相方の憤激の理由を知った翼は、バツの悪そうな表情で身を竦ませる。

「………ごめんなさい、奏。でも、これだけは言わせて」

 と、言葉を区切る翼。そんな彼女を奏は憮然した表情で見つめている。

 翼も同じくまっすぐに相手の瞳を見つめながら、しかし胸を張って言葉を紡ぐ。

 

「もしまた、同じような状況になっても、私は同じ選択肢を取る」

「………」

 

 つまりはアイドルとしての自分を捨て、防人として生きるという道だ。

 これは決して、翼の中で歌女(うため)としての自分が防人としての自分よりも軽いということではない。

 彼女からすればどちらも分かち難く、どちらもかけがえのない在り様だ。―――だからこそ。

「防人としての自分を蔑ろにすれば……それはきっと、今ここにいる【風鳴 翼】とは違う何かになってしまうと思う」

 防人として戦い続けた自分も、ツヴァイウィングとして歌い続けた自分も、ともに大事だ。

 だからこそ―――そのどちらにも、泥をかけてしまうような自分にはなりたくない。

 故に。

「だから……ごめんなさい、奏。あんな真似を二度とするなと言われても、私はそれを―――」

 約束できないと、そう告げようとした翼の額に軽い衝撃が走る。

 ツッ!? といつの間にか俯きかけていた顔を上げてみれば、自身の額を指で弾いた奏が呆れたような半眼を向けていた。

 額に手をやりながらパチクリと眼を瞬かせていると、奏はこれ見よがしに再びのため息をついて見せた。その顔には、力の抜けた笑みが浮かんでいる。

「ホント……真面目が過ぎるよ、お前さんは」

「奏……?」

「そもそもだ。 ンなことアタシだってわかってるっての」

 ―――そう。

 奏は最初から理解(わか)っていた。

 翼にとって防人も歌女も比べようがないほどに大切なことも、どういう想いでその片方を捨て去る決意を固めたのかも。

「付き合い、いい加減長いんだしさ」

 故に、彼女の怒りの理由はそこではなく。

「アタシが怒ってんのは、アンタが自分だけスポットライトの下から出ようとしたことにだよ」

「っ、それは……」

「いいか? 今からベタすぎて恥ずかしいから二度と言わねぇこと言うかんな?」

 そうして一拍、間を置くと奏はフッと笑いながら己の額を翼のそれにコツンと静かに合わせる。

 そこでさらに一拍を経て、静かに告げる。

 

「アタシたちは二人で一つの【ツヴァイウィング】……だから、ステージを降りるときは―――」

 その羽撃きを、終えるときは。

「―――二人で、一緒にだ」

 

 ややあって。

 合わさった時と同じように静かに額を離し、まっすぐ見つめあう二人。

 やがて、翼が微笑みを浮かべながらうなずいた。

「……うん。約束」

「おう!」

 たまさか、笑いあう双翼。

 それこそ、ごく普通の少女たちがじゃれあっているかのような情景。

 

「―――そろそろ話は終わったかしら?」

 

 ―――それを、冷たい声音が戦場(げんじつ)へと引き戻す。それは端的であるがこそ、まるで切っ先の突き付けたかのような鋭さで二人の意識に突き刺さった。

「……、ああ。律儀に待っててくれた辺り、アンタも根っこは翼と負けず劣らずって感じかね?」

「誉め言葉、でいいのかしらね? まぁいいわ」

 冷然とこちらを見据えていたマリアへと振り返る。しばし視線を交わらせてから、彼女はなぜだか呆れたような様子でため息をついて見せる。小さいながらもわざとらしい程にこれ見よがしなその仕草は、明らかに挑発の意味を孕んだものだ。

「それにしても……天羽奏。貴女、存外に俗物なのね」

「あん?」

 マリアの物言いに、むしろ翼のほうが眉を顰める。しかしそれに構わず

「相方が追い詰められても土壇場まで姿を見せず、正体を隠せる段になったようやく登場……築き上げた地位にそこまで汲々とするなんてね」

「貴様……!」

 その指摘に、やはり激して身構えたのは翼の方だった。今にも斬りかからんと足を踏み出さんとしたその寸前に、横合いから広げられた腕に阻まられる。翼が足を止めたのは、腕そのものよりも阻んだのが言われた当人であったからだ。

「奏……」

「いや、ごもっとも。耳が痛いってのはこのことだね」

 当惑する翼を制しながら、カラカラと笑ってそう返す奏。しかしその実、台詞以上に胸を抉られるかのような想いを得ていた。

 

 実のところ、精神的にはかなりギリギリであったのだ。

 ノイズが現れた直後、事前に話を通されていた唯一の人間である慎次からの必死の静止がなければ、先にステージから降りる羽目になっていたのは自分だっただろう。……そういう意味では翼のことを叱れる立場でもないのだが、彼女的にはそれはそれである。翼にとっては知らぬが仏だった。

 閑話休題。

 己を必死に留め、翼が嬲られる姿をただ黙って見ていることしかできなかった時間は奏からすれば地獄の責め苦にも等しかったが、それはあくまでも奏の主観。外様から見れば、なるほど確かに自分は翼を見捨てていたのだ。

 今こうして肩を並べていられるのは、それこそ結果論に過ぎない。少なくとも、奏にとっては。

 

 その上で。

 奏はだからどうしたと胸を張る。

 

「ああ、アタシは確かにアンタと戦う翼をただ黙って見ていたさ。……翼なら、きっとなんとかできるだろうってな」

 そう、天羽 奏はこの世の誰よりも風鳴 翼を信頼しているという自負がある。その身も心も、どんなことがあろうとも芯の部分は決して曲がらないし折れないと信じている。

 それは決して妄信ではなく確信なのだと、今この場にこうして立っていることがなによりの証だ。……まあ、多少ギリギリではあったが。

 また、それだけではない。

「そしてもう一つ。

 アタシたちはアンタが結局は何者なのか、どうしてシンフォギアを纏っているのか……そもそも何のためにこんなことをしてるのか、全く知らない。

 ―――だけどな」

 牙を剥くような笑みを浮かべ、殴りつけるように言い放つ。

 

「どんな素性でどんな事情だとしても―――アタシたちの羽撃き(ウタ)未来(ユメ)を引き換えにするほどの価値があるとでも思ってんのかよ?」

 

 それは、彼女にとって絶対の自信と共に紡がれた言葉で。

 どんな挑発よりも、マリアの神経(げきりん)を掻き毟る一言だった。

「―――、聞き捨てならないわね」 

 内心の憤激と反比例するかのように、その表情は凍っている。先ほどまでの余裕とも挑発ともとれる傲岸たる雰囲気が払われたことで、まるで刃そのものを纏っているかのような鬼気がビリビリと伝わってきていた。

 それを真正面から受け流しつつ、奏はその笑みを変えない。

「おお、トサカに来たってか? ……違うってんなら証明して見せろよ」

 言いつつ、奏は一歩前に出た。そうしてゆるゆると両腕を持ち上げながら、その表情から笑みを消していく。

「出せよ………あるんだろ? ガングニール(・・・・・・)だってんならよ」

「―――、えぇ。いいでしょう」

 その言葉に、マリアもまたマントを盛大に振り上げながら両腕を己の前へと翳していく。

 それこそ鏡を前にしているかのように、二人の動きはよく似ていた。

 ギチギチという音はボディースーツ部分が擦れているのか、それとも力を込めながらゆっくりと動かされる肉体から奏でられるものか。

 撃鉄を上げ、ゆっくりと力を込めて引き金を引くかのように。

 二人は己の手のひら同士を重ね、十指を一つ一つ絡ませて。

 左右の手を使って作った、まるで砲弾のような拳を前の虚空に突き出した。

 

「目には目」

 マリアが呟く。

「歯には歯、ってか」

 奏も零す。 

 ――――――そして。

 

 

 

「「ガングニールにはガングニールを!!!」」

 

 

 

 裂帛と砲声が同時に鳴り響き、それぞれの両腕の装甲が撃ち出された。

 

 白の鋼と黒の鋼。

 色以外は何もかも同じ形のそれは、瞬きを以って一つへと合一しながらやはり同じものへと変形していく。

 出来上がっていくそれは、『槍』。

 柄と変わらぬ長さの穂先を持つ、大剣のような馬上槍(ランス)

 その完成と衝突はほぼ同時、針の先のような切っ先同士の激突が、ステージの床をひび割れさせながら眩い電光を迸らせた。

「っ、」

 金属と金属のぶつかり合いというより、空間そのものが爆発したかのような音と共に跳ね返ってきた槍の柄を、奏はパシィッ!! と快音と共に掴み取る。

 わずかに掌を痺れさせた衝撃に顔をしかめながら、眼前の光景に思わず舌打ちを漏らす。

「クソッタレ。わかっちゃいたがマジモンかよ」

 眇めて見る先、同じように己の槍を受け止めたマリアは、その穂先で天を衝くかのように高く掲げて見せた。

 棚引かせるマントと合わせ、その姿はまるで戦場を総べる覇者のよう。

 その顔に、不敵な笑みを浮かべながら、

「そうだ、これこそ貴女の槍と同じにして非なるもの。

 何物をも貫き、我が覇を成す苛烈にして烈破の刃!!」

 威風堂々と、言い放つ。

 

 欠けた満月の下。

 夢と希望を歌うためだったはずの舞台(ステージ)で。

 三つ目の神槍―――“烈槍のガングニール”が、産声のように名乗りを上げる。

 

 

 

 

***

 

 

 

 ―――貼り付けた虚勢の裏側で、私は自嘲する。

 ああ、そうだ。今の私は偽称を鎧と纏い、虚飾を刃として振るうことで立っている。

 その無様さは、まさしく道化のそれだ。

(………)

 今、私の前には『本物』がいる。

 ツヴァイウィング。

 特異災害対策機動二課。

 純正の、シンフォギア。

 私の家族(あの二人)は彼女らを偽善と吐き捨てていたけど、ならば私は何なのだろうかと時折ひどく心が澱んでいくような時がある。

(………………)

 応援してくれていた誰か(ファン)

 共に戦ってくれる仲間(かぞく)

 私は、私に笑顔を向けてくれる誰かを騙し続けて立っている。

(………………………、)

 そのことが、申し訳なくて。/罪悪感

 そうして対峙し、向けられる本物(やいば)が恐ろしくて。/恐怖

 その二つが、まるで重い病魔のように体の奥底から苛んできている……そんな錯覚が失くならない。

 

(………けれど)

 

 それでも。

 それを覆い隠して立ち向かう本物(りゆう)が私にもある。

 

 一つは、悪を成してでも正義を貫くという決意。

 そしてもう一つは、それを知らないとはいえ/それを知らないくせに、その価値を貶めたことに対する怒り。

 例え身勝手の誹りを受けたとしても、

 真実、愚かな逆上でしかないとしても。

 ―――だとしても(・・・・・)

(私にも、悪を成してでも貫くと決めた『正義』がある)

 だから、戦うと決めた。

 命を削り、道を同じくする義母のために。

 共に戦ってくれる、仲間のために。

 そして―――今はもう、どこにもいない■■■のために。

 この身がどれほど偽りに満ち満ちているのだとしても。

 それだけは、この想いだけは本物だ。

 故に。

 

(その“本物”を宿して、私はこの手で刃を振るってみせる……!!)

 

 天を衝いていた槍をそのまま下ろして、真正面に突きつける。

 目を逸らさず、まっすぐに前を見据えて。

 

「見せてもらおうか……風鳴 翼、天羽奏(ツヴァイウィング)!!

 戦場に冴える抜き身の貴女たちを!!」

 

 胸を張り、声を漲らせて。

 私は、本当の意味で最初の一歩を刻んだ。

 仮にそれが、断崖に続くものだとしても―――その一歩は、力強く踏み出せていた。

 

 

 

***

 

 

 ―――かくして。

 新たな舞台の幕は開き、新たな戦いの火蓋が切って落とされる。

 己が道を貫く者。/撃槍、豪槍、烈槍(■■)。

 運命を切り開く者。/絶刀、■鎌。

 (あやま)ちと向き合う者。/魔弓、■鋸。

 そして(ことわり)を塗りつぶす者。/錬鉄、■■。

 

 信念、罪業、宿命、そして正義………それぞれがそれぞれの理由を抱き、相争う。

 その愚かさを、欠けた満月だけが前のめりに睥睨している―――。

 

 

 

 

 

●●●

 

 

 

【教えて!? ブルマ師範!! ぷち】

 

〇三つ目の『ガングニール』

 

 シンフォギアとは聖遺物の欠片から力を引き出すものであり、その核となるのはペンダントヘッドのような大きさのコンバーターである。

 つまり収められている欠片の大きさも相応程度で、逆説的にもとになった聖遺物の大きさによっては同じ聖遺物のシンフォギアが複数作られていてもなんら不自然なことではないということである。

 無論、適正というものがある以上、徒に増産したところで意味は薄いものであるのだが。

 

 さて、その上でなぜガングニールが二つ作られていたのか。

 櫻井 了子がそれを語ることはなかったため、ここから先は推論となる。

 マリアにも(当初の奏よりもさらに下回るとはいえ)適性があったというのもあるだろうが、恐らくは奏の状態が関係していたのではないか。

 死亡している正史において言うに及ばず、こちらの世界戦においてもLiNKERにおける薬理作用で生死の境を彷徨うに至っていた。

 つまり士郎の存在がなければ、早晩ガングニールの担い手は失われていたということになる。

 無論、その場合はギアのコンバーター事態は遺されるであろうが、二課……ひいては日本政府の管理下に置かれることはほぼ確定であった以上、死蔵されることになる可能性も十分にあった。

 そうなった場合に対する、いわゆる保険的な意味合いが強かったのではないかと考えられる。

 

 そうまでしてガングニールに思い入れがあったのか。

 或いは、他のシンフォギアであっても同じような行動を起こしていたのか。

 その答えを知る由はない。

 

 

 

師「……結局のところ、原作でのマリアのガングニールって奏のじゃないかって説もあるらしいけど、この作品では二つ作られてたって設定でいくわ」

α「で、その辺りの言い訳か」

β「実際、登録されてる型式番号に『´』がついてるから別物の可能性も高いんですよね。

 だとすれば、どうしてガングニールだけ二つ作ったのか……」

師「まあ、本筋とはあんまり関係ないからさらっと流してくれればありがたいらしいわ。ダメ作者的に」

 

 

 

 

 

 







 というわけで、第二期開始です。
 皆様、新年あけましておめでとうございます。
 ……から、かーなーり遅刻してしまい、申し訳ありません。
 せめて一月中に更新できてればっていう言い訳も二月も下旬入ったら言いにくいですし。
 いえ、本当なら一月には更新できるかなって感じだったんですが、一月末はいろいろ立て込んでて、それで間を置いたら筆の歩みが遅くなった&いろいろ追加したくなっちゃったという……

 はい、言い訳終了。



 さて、改めて第二期第一話ですが。
 原作的に照らし合わせると第一話終盤から第二話中盤辺りまででしょうか。
 開幕の響大活躍の戦闘は諸々の事情でカットになりました。楽しみにしていた方、申し訳ありません。
 諸事情で士郎が欠席していた関係で展開的に原作と変わらない状況だったのが理由です。
 ……でないと、際限なく長くなってどんどん更新が遅れそうだったので……(汗)

 ともあれ、開幕しょっぱなから出番の少ない主人公ズ。
 特に士郎は何やってんでしょうね(棒読み)
 そしてさっそうと登場する奏さん……からのガングニール同士の激突。
 ずっと書きたかった場面の一つです。
 本来ならいないはずの奏さんをストーリーに絡めていくのがこの作品の醍醐味の一つだと自負しておりますので、頑張って綴っていきたいと思います。



 さて、ここから恒例のFGO雑談。
 新規入手は、オベロン・ネロ(赤セイバー)・天草四郎・ラクシュミー・ニトクリスオルタ・トラロック・エリザベート(槍)。

 オベロンは一発で手に入りました。なまらうれしい。
 天草は福袋……なんですが、ぶっちゃけ同じ袋の中では欲しい順位的に一番下だったんですよね。
 (内訳:アルク≧バニ上>プロテア≧アヴェノッブ>>天草)
 いや、強化解除全体Bとかかなり便利とはわかってるんですが……というかなんでお前一度に二人も来るんよ……

 ヨハンナと言峰とテスカトリポカとククルカンは来なかったよ……
 というかヨハンナ以上にククルカン回してるけど、全然来てくれない。
 おかげでトラロックが宝具5になってるという……
 おはガチャ回してるけど、来てくれるかなぁ……(遠い目

 あと、七章もクリアしました。
 ……総力戦は強制終了と再起動繰り返してスマホ壊れないか心配になりました。
 去年買い替えて最新ではないにしろちょっとお高めな奴にしたのにめっちゃ重いとか……買い換えてなかったらプレイできてたかわからんかったなコレ……
 ちなみに総力戦は戦力を温存した結果、マシュ以外の星4以上はほぼ使わずに終わりました。
 なんだったら星3も結構残ってましたよ。
 最後だけクラスが槍になってたのでバゲ子単騎で使ったくらいでしょうか。
 あと、ORT決着は絆P一万でしたが、ここでティーポット使わせてほしかったです。……賞味期限マジでなくせや(ぷちおこ)
 まだORT倒しきってない方は、今のイベでもらえるティーポットそこで使いましょう。おすすめです。

 で、奏章開幕。
 伯爵がモンテクリスト伯ではって予想が主流なようですが、自分が真っ先に思い浮かんだのはヴラおじオルタことドラキュラ伯爵でした。
 実際はどうなるのか今からワクワクですね。

 さて、大まかなところはこの辺で。
 新章開幕と言ったところで、今年もカメの歩みになるかと思いますが、つたないながらも頑張りたく思うので皆様よろしくお願いします。




 ―――さて、ここで皆さんにちょっと説明しておくべきことがあります。
 本編に関することなので、ネタバレと言うほどではないですが気になる方はここでUターンを。















 今作におけるセレナについて。
 以前から感想欄などで『セレナは原作通り死亡してます』と告知していましたが、それについてもう少し詳しく解説しようかと思います。

 そもそも、セレナが死亡するに至った事件は士郎が現れるよりもずっと前のことなので、因果的に干渉しようがないというのが一番の理由でした。
 ―――が、とある理由でギリッギリバタフライエフェクトねじ込めちゃうかもしんない的な要素が立ち上がったので(詳細はこの場では伏せさせていただきますが)、一応セレナが生存できる目が出てきました。
 が、冒頭を読んでいただければ解りますように、やっぱりセレナは死んでいます。
 その理由としては、『活躍させられる場が作れない』というのが挙げられます。


 まず、セレナ生存ルートを考えた時、真っ先に省いたのが『装者として活躍させる』という展開です。
 さもなくば響が融合症例を継続しない限りは彼女かマリアのどちらかがガングニールを纏えなくなり、順当に言ってシンフォギアシリーズ主役の響が退場する流れが自然となってしまうので、ソレを避けねばなりませんでした。

 それを踏まえた上で考えたのが『怪我の後遺症で声を出す機能を失い、機械でそれを補う』という設定です。
 これは考えていたけど結局お蔵入りになった短編クロスものの方から流用した設定です。
 ちなみに、外見はXDUで登場したアナザーのほうで。
 このセレナの役割はマムことナスターシャの補助というか助手的な立ち位置でした。
 つまりオペレーターや研究者ですね。

 ―――さて。
 ここまでの設定ができていながらなぜ、彼女の生存ルートが没になったのか。
 その理由は、『将来的に埋没するのが確定的になった』からです。
 将来的に味方として合流した場合、第三期以降の彼女はどうなるか。
 まず、オペレーターの場合。
 すでに朔也とあおいという二名のプロフェッショナルがいる以上、二人を押し退けて活躍できる展望が見えてこず、そもそもその二人の出番もさほど目立つものじゃない以上、ここに組み込む旨味が見えませんでした。
 そして研究者としての場合、こちらはもっと厳しいものとなりました。
 ……そう、エルフナインの存在です。
 第三期にて参入した彼女の活躍はそれ以降のシリーズにおいても非常に比重の高いものとなっております。
 である以上、そちら方面でセレナを活躍させるというのも難しい。
 無論、サポーターとしてどちらかに置いておくという展開もできますが、そうしたところで『そこまでして登場させる意味合いがあるのか』と考えると、やはり蛇足にしかならないのではと考えてしまいます。
 これがサブとして転がしておいてもいいような存在ならともかく、セレナほどのキャラをそうまでして死蔵させるくらいならば、いっそ原作通りにした方がいい……そんな結論に至りました。

 結局のところ、これはあくまでも自分が活躍させられなかったという話であり、言ってしまえば実力不足の吐露でしかありません。
 未熟の目立つ拙作ではありますが、理解と了承の上、これからも応援していただければ幸いでございます。

 長くはなりましたが、今回は本当にここまで。
 これからもよろしくお願いいたします。
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