戦姫絶唱シンフォギア赫鋼―アカガネ―   作:樹影

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 ……シンフォギアXDUオフライン版、パスワードは控えてたけどユーザーID忘れてたのでアクセスできず。
 というか、DMMのPC版の方はオフライン版ないのか。


6:Gluttony/夕映えの青春

 

 

 

「―――投影、開始(トレース・オン)

 

 それは、『魔法』と聞いて思い浮かべるような呪文と違い、あまりにも短くてシンプル過ぎた。どちらかと言えば、まるで機械に入力するパスワードのように無機質だ。

 しかし、そんな印象は次の瞬間に塗り替えられることとなる。

 

「おぉ……」

 

 横にいる切歌の口から、思わずと言った様子で感嘆の声が漏れている。逆隣りでも、調が同じように目を奪われていた。

 そうなるのも無理はないと納得できる程度には眼前の光景は非現実的で、幻想的ですらある。

 

 稲光にも似た閃光は、電気的なものよりも金属の溶接を彷彿とさせる。

 そん輝きをさらに散らせて生み出されるのは、荒波が捩じれて絡み合うような形の黒い刀身を持つ長大な西洋剣だ。

 いや、黒いのは刀身だけでない。柄から装飾に至るまで全てが黒く染まりきっている。その形状も相まって、不吉ささえ錯覚してしまうほどの禍々しさを覚えてしまう。

 マリアは思わず、背筋に氷を押し付けられてそのまま上から下に滑らされたかのような悪寒を自覚した。

 

「そう怯えなくても大丈夫だ。これはそんな厄介な呪詛が込められているような魔剣ではないからな」

 

 表情に出ていたのか、そんなことを言われてしまった。

 マリアは頬に熱が集まるのを感じながら、視線をそらした。

 

「お気遣いなく。それより、早く続きを」

「ああ、そうだな」

 

 返しつつ、士郎が前へと向き直る。

 その先にあるのは、鋼鉄に囲まれた暗がりだ。ほんの少し先には隔壁が存在し、閉ざせば堅牢な障壁として機能するだろうそれが、今はぽっかりと解放されている。

 その、更に奥―――薄闇の中に、『ソレ』は居た。

 

「Guuuuuuuuu………」

 

 低く唸りながら、こちらを伺っているような様子を見せる『ソレ』。獣ならば牙を剥いているだろうその響きは、警戒というよりももっと凶悪で原始的な欲求を彷彿とさせられる。

 『ソレ』が身を置くのは隔壁の向こう側の更に機械式の檻の中。こちらの耳朶を震わせる不吉な音響と合わせ、その様は既に猛獣いう肩書では既に不足しているように思える。

 

「………、」

 

 正直なところを言えば。

 マリアは『ソレ』が恐ろしく………しかしそれを()()()()()()()()()()()()()()()()

 今すぐにでもギアを纏って粉々にしたい衝動を、表に出すことまで含めて抑えつけていた。

 そんな忍耐の隣で、士郎はおもむろに手にしていた黒い鋼を放り投げる。

 長大な金属の塊は、大きな放物線を描いて隔壁をくぐり、ガランッと大きな音を立てて床に跳ねて滑ってから檻の前で止まった。

 そこにはすでに先客として、大小さまざまな刀剣が転がっている。

 

 マリアたちには知りようのないことだが、その光景を知る者(魔術師)が見れば愕然となること必至だろう。

 無造作に積まれたその刃金の山の多くが、かつて英雄たちが保持していた最高にして最高の神秘たる『宝具』……それと同じ機能を有した複製品であるというのだから。

 そしてそれらが積まれた目的を知れば、誇張抜きに殺意を覚えるを通り越して発露させていたに違いない。

 

「マム」

「えぇ、檻を開きます」

 

 マリアが促せば、ナスターシャが手元の端末を操作する。そうして檻の前面が滑らかに上へとスライドしていった。その擦過音はさほど大きいものではないはずだが、反響しているためか存外に響く。

 開き切って一拍を置き―――『ソレ』が、姿を現す。

 

「Guu、Guuahhh………」

 

 大きさは、小型犬と中型犬の境といったところか。灰赤色の表皮に覆われ、顎部の発達した頭部は胴体と同じくらいの大きさを有している。

 四つん這いに移動する四肢は獣のようでもあり人のようでもあり、腕部が発達した異常な形であるからかそのどちらともつかない。

 目と思しき器官は確認されない。だが、体の所々にある裂け目のようなラインが頭部にも存在し、燃えているかのように輝くそれがあたかも眼光のように見える。

 即ち―――総じて、異形。

 これこそが【ネフィリム】。

 ナスターシャたちが月の落下を防ぐための前段階として目覚めさせ、今なお育成中の完全聖遺物。

 聖遺物を食らい、己の糧とする共食いの飢餓衝動。その具現。

 ―――そう、ナスターシャたちが士郎に協力を求めた実験とはソレのこと。

 このネフィリムに、士郎が投影した剣を(エサ)として差し出すことだった。

 

「Guu……」

 

 ネフィリムは鼻腔の見えない……もしくはそもそも嗅覚なんてものはないのか……鼻先を宝具の山に向け、まるで匂いを嗅ぐか何かを確かめるかのように動きを止め、

 

 

「―――GuuAhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!!!」

 

 

 

 食らいつくでもなく、唾液に塗れた牙を剥いて咆哮した。それはあたかも、激昂しているかのように。

 

「っっ、いけない!!」

 

 ナスターシャがその反応に慌てて端末に指を走らせる。隔壁を下げるためだ。

 しかし、隔壁が動き出すよりも先にネフィリムはその暴威を発揮した。

 

「Guwoohh!!!」

 

 アンバランスな四肢の、異常に発達した前脚が腕のように振るわれた。己と同じ大きさ程度の岩ならば微塵に砕けるだろう膂力は、眼前に餌として積まれていた剣の山を盛大に弾き飛ばした。

 稚児の癇癪じみた行動は、人体を切り刻むに十分な刃の数々をビリヤードのファーストショットのように勢いよく弾き飛ばしている。

 

「ヒィッ!?」

「っ!? マム!!」

 

 思わず腰を抜かすように尻もちをつくドクターウェル。

 一方で、マリアがナスターシャを庇うように前に出る。切歌や調も続くように駆け寄ってきた。

 そして士郎は。

 

「………、」

 

 微動だにせず、無言のままにすべての投影を破棄した。

 そのままならばこの場の全員を串刺しにしかねなかった刃の群れは、一瞬にして霞よりもあっけなく虚空に消える。

 その事実に、士郎以外の誰もが呆気に取られてしまう。この辺りの情報は事前に伝えてもあったのだが、それだけではやはり実感を得られないということだろう。

 と、あからさまで盛大な安どのため息がドクターウェルの口から洩れた。

 

「ハァ~~………はは。全く、驚かせてくれ―――」

「Guohhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!」

「ヒィイッッ!?」

 

 そのまま強がりのような台詞を吐きながら立ち上がろうとするも、再度の咆哮に押し倒されるように再び尻を床にこすりつける羽目になる。

 言わずもがな、ネフィリムだ。刃の脅威はなくなっても、それを生み出した元凶そのものは何も変わっていないのだ。

 怒気と飢餓が入り混じった気迫。それをまるでガソリンのように燃焼させて、その発達した前腕をさらに歪に膨張させている。

 

「っっっ!!」

 

 誰ともなく息を呑み、マリアたちはそれぞれギアのコンバーターを握りしめた。

 涎を垂らす牙の向く先は、一体誰か。

 疑問に思うよりも先に、彼女たちはコンバーターを掲げて聖詠(ウタ)を口ずさんとして―――

 

 

 

「Guww―――」

 

 

 

 ―――瞳のない眼差しに、居竦められたのは誰が最初だったか。

 

(っ!? コイツッ、私たちの聖遺物(シンフォギア)を……!?)

 

 考えてみれば当然だ。

 ネフィリムは聖遺物を食らう飢餓の塊。ならばギアの核たるコンバーターなど、コレからすればそれこそ餌以外の何モノでもない。

 疑似餌(ほうぐ)で肩透かしを食らった直後ならば、尚のことだ。

 身の硬直を隙と見たのか……いや、そんな思考なんてそもそも存在しているかも怪しい。

 とにかくネフィリムは前腕にためた力の全てを解放させ、砲弾のような勢いでその身を跳躍させた。

 既に、ナスターシャの操作によって隔壁は降り始めている。しかし、それが全く間に合わないのは明白だった。

 

「Woohhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!」

「―――!」

 

 最初に狙うのは己か、調や切歌か。

 いずれにせよギアを纏うにはもはや間に合わず、そのまま全員が巻き込まれるだろうことをマリアは悟った。

 彼女は咄嗟に、皆を庇うように前に出ようとして―――

 

「、え?」

 

 ―――直後、ネフィリムが大きく開いた口に『何か』を叩き込まれて弾かれる様を直視した。

 マリアが咄嗟に横を向けば、そこには黒塗りの弓を構え、正面を睨みつける士郎の姿があった。その瞳の鋭さは、直接向けられていないにも関わらず思わず息を詰まらせるほどの迫力が持っていた。

 

「―――シッ!」

 

 呼気も短く、弦楽器を爪弾くように弓が高速で引き絞られては放された。

 甲高い音が連続すると同時、番えるどころかどこにも無かったはずの矢が初速で空気の壁を貫いて射出されていく。どうやら、ネフィリムの口に叩き込まれたのも()()らしい。

 その全てが狙い誤たうことなく、空中で勢いを殺されてたまさかに留まっていたネフィリムへと吸い込まれ、叩き込まれていった。

 

「Gaahhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!」

 

 絶叫と共に空中でいくつもの衝撃を受け止め、後方へと飛ばされる形で押し戻されるネフィリム。その異形の矮躯が檻の中へと叩きこまれた直後、隔壁がようやく降りきった。

 ガコォン、と重苦しい音が鳴り響いて一拍。

 今度は誰ともなしに、士郎以外の全員が深く息を吐いて脱力した。

 

「まさしく危機一髪だったデース……」

「マム、大丈夫?」

 

 疲れたようにうなだれる切歌、心配そうにナスターシャを気遣う調。そんな二人に背を向けたまま、マリアは士郎を見つめていた。

 彼女が見る前で、士郎はゆっくりと構えていた弓を下ろす。途端、手にしていた黒く光沢の鈍い弓が一瞬にして消え去っていった。

 吹き消される砂絵のように立体物が形を失っていく様は、それだけで文字通りに幻想的であると言えた。

 

 

 

***

 

 

 

「……ありがとう。おかげで助かったわ」

「いいや、気にするな」

「それにしても、本当に魔法使いなのね」

 

 暫くして、それぞれが息を整えた後。

 律儀に礼を述べるマリアに、士郎は言葉通りに気にする必要はないと手を振った。しかし、続く言葉に思わず表情を苦く歪める。

 その反応に、マリアが首を傾げた。

 

「悪いが、『魔法』ではなく『魔術』と言っていくれ。

 細かいかもしれないが、『魔法使い』と呼ばれるのはゾッとしない」

「え、ええ」

 

 マリアからすればよくわからない主張だったが、士郎が本当に複雑そうな表情で主張してきたので頷くしかなかった。

 彼女の与り知らない理由ではあるが、士郎からすればそれなりに切実であったりする。

 染みついたかつての世界での常識というのもあるが、それ以上にほんの数か月前に本物の『魔法使い』とエンカウントしてしまっているのだ。下手をすれば現在進行形で観察されているかもしれないと考えたら、冗談でも呼ばれたくはなった。噂をすれば影、というのも勘弁してほしいところだ。

 

(というか、初めて間近で見せる度に同じ訂正してる気がするな……まぁ、仕方がないと言えばそうなんだが)

 

 士郎がデジャブを感じていると、先ほどまで晒していた醜態などなかったかのように澄ました立ち姿でメガネのズレを直しているドクターウェルが、聞こえよがしな溜息と共に言葉を漏らす。

 眼鏡の奥の瞳は、厭味ったらしく細められている。

 

「結局、実験は無駄に終わったということですね。魔術だかマジックだか知りませんが、所詮パチモンはパチモンだったってことですか」

 

 明らかに嘲弄の色を含んだ台詞に、しかし士郎は取り合わない。そんな彼の反応に舌打ちを漏らすドクターウェルだったが、それを含めて反応する価値もないと断じていた。

 また同時に、彼の言った言葉自体には反論の余地がなかったというのもある。

 

 今回の実験の主目的は、言わずもがな『ネフィリムへの食糧供給』である。

 先も記した通り、ネフィリムは他の聖遺物を摂取・吸収することで成長する。言ってしめば、ある種の共食いを前提として駆動しているのだ。

 そして当然ながら、ナスターシャたちの目的にはその成長が必要不可欠。

 それを賄うための聖遺物そのものは古巣(F.I.S)から幾分か確保しているが、目標達成できるかどうかは怪しいところがあった。

 その懸念を晴らすための実験こそが今回の目的であったわけだが………

 

「どうあれ、ネフィリムへの聖遺物の供給に関しては当初の予定通りということですか」

「………期待に沿えず、申し訳ないな」

「いえ、もとよりダメで元々な試みではありました。

 ドクターウェルの言葉ではありませんが、やはり本物の聖遺物でなければネフィリムの飢餓を埋めることは叶いませんか」

 

 漏らした声には、隠し切れない落胆が滲んでいた。

 元より絵にかいた餅のような試みであったことは承知だったつもりだが、実際に目論見が外れるとまるで蜃気楼のオアシスに踊らされたかのような心持ちになってしまう。

 そんなナスターシャの心情をよそに、士郎は士郎で言葉に出さず考察を重ねていた。

 

(或いは、根本的な技術の違い―――平行世界間の神秘の差異によるものか……)

 

 ネフィリムが、士郎の投影した宝具(つるぎ)を受け付けなかった理由。

 少なくとも、それそのものの性質や属性によるものではない。破邪の力を持つ干将莫邪も、魔剣であるフルンディングも、ネフィリムの琴線に触れるものではなかったからだ。

 もし仮に。

 その理由がナスターシャの言うような真贋の差ではなく、もっと根本的なものであるとしたら?

 

(櫻井が言うには、オレが扱う魔力とフォニックゲインは似たような性質ではあるらしい。

 ………だが、逆を言えば似て非なるものではあるということだ)

 

 その、何らかの違い。

 それこそが、ネフィリムが拒絶する理由であるのかもしれない。

 同じ石油から精製された可燃性の物質でありながら、ガソリンと灯油では運用が明確に違うように。

 現状ではそれを調べる術などどこにも無いが、しかし。

 

(………覚えておこう)

 

 或いはこの事実が、いつか何らかの意味を持つ日が来るかもしれない。

 士郎は密封された隔壁を見つめながら、そんなことを考えていた。

 

「ミスター、どうかしましたか?」

 

 その姿が奇異に映ったのか、ナスターシャが訝し気に呼びかけてきた。

 それで意識を浮上させ、士郎は思考を切り替えながら振り返った。

 

「いや、何でもない」

「………それならばいいのですが。

 ともあれ、今回の実験はさておいても、貴方にはこれからも協力していただきたいのです。

 そのために、こちらも胸襟を開いくつもりです。

 差し当たっては、近く行う予定の視察への同行を許可します」

「視察?」

 

 鸚鵡返しに問えば、ナスターシャは厳かに頷いた。

 

「私たちの最終目標、人類の希望となりうる完全聖遺物。

 ―――【フロンティア】、それが眠る場所への」

 

 

 

 そんな風に話し合う魔術使いと老賢者。

 その二人を見つめる一人の科学者の眼差しは、眼鏡の奥に隠れて窺い知ることは叶わなかった。

 

 

 

***

 

 

 

 夕暮れ時。

 新しい……といっても、建物自体は廃校になった別の学校の流用であるが……リディアンの校舎は、放課後でありながらそこかしこで賑やかな様相を呈していた。

 そんな中で、静かに教室の中でもくもくと手を動かしている女生徒の姿があった。

 ―――翼だ。

 外から聞こえてくる賑わいも遠く感じられ、教室は相対的に一層静かに感じられる。

 と、その静寂も唐突に破られた。

 

「すいませーん、失礼しまーす……てっ!?

 か、風鳴先輩!?」

「ああ、どうかしたか?」

 

 教室の引き戸を開くなり、驚愕に身を仰け反らせた後輩の姿に動じることもなく翼は応じた。彼女からすればそこそこに見慣れた反応で、言ってしまえば有名税の一つでもある。

 とはいえ、相手も同じ学校で一年を過ごした身だ。不意打ちに少々驚きはしたものの、すぐに気を取り直すように姿勢を整えた。

 

「あ、いえ……ここに雪音さん、っと。

 私と同級生の子が来ませんでしたか? 長くてきれいな銀髪を一本にまとめて、背が小っちゃいのにすっごくグラマラスな可愛い子なんですけど……」

「―――、申し訳ないが」

「あ、そうですか……お邪魔しました~」

 

 翼の言葉に、後輩はぺこりと頭を下げて戸を閉めた。扉越しにタッタッタッと軽快な足音が遠ざかっていくのが聞こえる。

 それが鍛えた聴覚にも小さくなっていったのを知覚して、翼はぽつりと呟いた。

 

「本当に、申し訳ないな。

 ………そら、もういいぞ? 小っちゃくてグラマラスな可愛い雪音さん」

「小っちゃくて悪かったな」

 

 翼の座っているテーブルの下から、ひょっこりと姿を現したのは、後輩が探していた『雪音さん』ことクリスだ。

 憮然とした表情で制服のほこりを払いながら、彼女は椅子を引っ張り出して翼と同じテーブルに着いた。

 安堵と疲労を入り混じらせた溜息をつくクリスだが、翼はそんな彼女にこそ呆れ半分の眼差しを向けた。

 

「士郎さんから聞いたことはあったが、まさかここまでガッツリ逃げ回ってるとは……」

「ぬぐっ……なんで喋ってんだよアンちゃん……」

「心配しているということだろう。

 というか、案の定な有様でどの口が言う」

 

 不満げに呻くクリスだが、ぴしゃりと言いきられてしまえばそれこそぐうの音も出ない。

 

 先程、クリスを探して尋ねてきたのは彼女のクラスメイトで、リディアンに編入してきてからクリスを気にかけてくれている者たちの一人だ。

 クリスはどうしたことか、そんな彼女たちから逃げ回っているらしい。

 

「ってか、アンタこそ何やってんだよ?」

「何って、見ての通りだ。

 お前が巻き込まれんと逃げ回っている学校行事の準備だよ」

 

 その答えに、クリスが再び『ぬぐっ』と言葉に詰まる。

 

 現在、リディアンは近くに行われる学校行事こと【秋桜祭】……いわゆる文化祭の準備の真っ盛りだった。

 校内の賑わいもそれが理由で、ある意味で行事本番とはまた違った盛り上がりがあるのはどこの学校でも変わらないのかもしれない。

 机の上には色とりどりな薄手の紙の束があり、翼が作っているのはそれを使った紙製の花の量産だ。これも学校行事の定番と言えるだろう。

 

「そうだ。せっかくだし、雪音も手伝っていけ」

「はぁ!?」

「どうせ戻ってもやることは変わらないだろう。なら、少しくらい付き合ってくれても良いじゃないか。

 まぁ、無理にとは言わないがな」

 

 クリスは何かを言い返そうとして、しかし返す言葉が思い浮かばなかったのか憮然とした表情ながらも椅子を引っ張り出して翼の対面で手を動かし始めた。

 なんだかんだ言って根っこは真面目な少女である。逃げ回って結果としてサボってしまっているのことへの罪悪感もあるのかもしれない。

 

 同じ色の紙を五枚程重ね、蛇腹になるように折って真ん中をホチキスで止めてから左右を扇のように広げつつ上から一枚一枚を持ち上げてバラっぽい紙花を作る……という単純作業を三個分ほど繰り返し、四個目に取り掛かりながらクリスはポツリと漏らす。

 

「良いのかよ、こんなことしてて?」

「行事の参加は生徒の義務だぞ?」

「【フィーネ】を名乗る謎の武装組織が現れたのにかよ?」

 

 尋ねるクリスの脳裏には、過日の光景が色濃く浮かび上がっていた。

 マリア・カデンツァヴナ・イヴと、彼女の仲間らしい少女と言う二人の新たなシンフォギア装者。

 そして明らかに向こうの制御下に置かれていたと思しきノイズ。

 ―――それらの事件から、既に一週間が経過していた。

 

 文字通り、全世界にその存在を高らかに知らしめた彼女たちであるが、以後は全く音沙汰もない。

 弦十郎たちの話からすると、各国政府に対して示威行動や交渉の類もないらしい。

 起こした事件とのギャップが著しいその静寂は、この上なく不気味に思えて仕方がなかった。

 それ故に、クリスとしてはやきもきしているらしい。それについては翼とて同感ではあるが、しかし同時に現状では自身が手出しできる段階ではないことも理解していた。

 

「今、緒川さんを始めとして二課の皆が調査してくれている。

 私たちが焦れたところで、徒に心身を消耗するだけだ」

「………たしかにそうかもしんねぇけどよ」

 

 この辺りの姿勢というか余裕の違いは、組織に籍を置いている月日の差か。そこには銃後の護りを担ってくれている者たちへの信頼が見て取れた。

 だが、クリスの焦燥にはほかにも理由がある。

 

「アンちゃん、心配じゃねぇのかよ?」

 

 問われ、紙の花を作る翼の手が止まった。

 

 アンちゃん……即ち、衛宮 士郎。

 マリアたちの行方が判らないということは、彼女たちに拐されたと思しき彼の安否も判然としていないということだ。

 奏の言を信じるならば生存は確定しているし大きな怪我もまずないだろうということだが……逆を言えば、それ以上のことは何一つわかっていない。

 クリスの指摘に、翼はややあって顔を上げた。

 

「―――心配だとも。

 ああ、不安で不安で仕方がない」

 

 まっすぐな瞳で吐露されたその言葉(ほんね)に、クリスは思わず息を呑む。

 その眼差しは、かつて敵対した時に見たそれを彷彿とさせる鋭さを湛えていた。

 と、しかしそれも『―――フ、』と溜息一つを挟んで静まっていく。

 

「だとしても、だ。やることもやれることも変わらん。

 何らかの進展があるまで、私たちができることは」

「『進展があった時に備えて牙を研いでおくこと』ってか」

「それと、『当たり前の日常を謳歌すること』だ。

 その辺り、士郎さんにも心配されてたんだろう?」

「………。アンちゃん、そんなことまで言ってやがったのか?」

「いいや、これは私の予想だ。的中だったようだがな」

 

 カマかけが図星を射抜いたからか。クリスは『ぬぐっ』と思わず言葉を詰まらせる。

 そんな彼女の様子を微笑ましく感じていると、ガラリと音を立てて教室の戸が開かれた。

 

「見つけたぁー!!」

「ぬわぁっっ!?」

 

 開口一番の大音声に、クリスが『ビックーン!!!』と縦に大きく揺れる。もっとも、彼女が驚いたのは声ばかりの所為ではないようだが。

 

「な、ななな……」

「もうー、風鳴先輩と仲が良いって噂があったからもっかい試しに覗いてみたら……」

「こ、これはだな……」

 

 頬を膨らませてクリスに詰め寄るのは、先ほど翼に尋ねてきた女生徒だ。周囲にはクラスメイトだろう他の生徒の姿も見える。

 思わず後ろめたさに目を逸らしている翼をよそに、クリスはまるで浮気がバレたかのようにたじろいでいた。

 と、冷や汗を浮かべているクリスをジト目で睨んでいた女生徒だったが、やがてその表情を俯けさせながら肩を落とした。

 

「やっぱり、迷惑だったかな?」

「え……?」

「いや、私たちもさ……ちょっと、意地になって強引だったかなって……」

「っ、ちが……アタシは―――」

 

 消沈した様子を見せるクラスメイトに、却ってクリスは慌ててしまう。

 彼女からすれば、クラスメイトの善意には戸惑うことが多かったのは事実だ。それはこうして逃げ回ってしまったことからも明らかである。

 だがそれは、決して彼女たちを疎んでのものではなかった。

 

「迷惑とか、そういうわけじゃねぇ……ただ……」

 

 そこで幾ばくか、言葉を選んでいるのか沈黙を挟むクリス。その様を、翼はただ黙って見守っている。

 ややあって、観念したかのように肩の力を抜いた。

 

「―――アタシ、いろいろあってさ。学校ってやつにまともに通うの、これが初めてなんだよ」

「え……?」

 

 バルベルデでの日々は無論のこととして、フィーネの手許にいた頃も当然としてそのような日常とは無縁だった。

 それこそ、自分には必要ないものとまで吐き捨てていた。………まるで、手の届かないブドウを指して『酸っぱいに決まっている』と強がるかのように。

 そんなクリスにとって、こうまで自分に構ってくる同年代と言うのは初めての存在だった。

 それも、翼や響たちのように肩を並べて戦ったわけでもなく、ただ同じクラスの一員になったというだけの理由で。

 

「だからどうしたらいいのかわからなくってヨ……ゴメン、身勝手だったよな。

 お前らの気持ちに甘えてばっかしじゃんか」

「そんな……」

「だからさ」

 

 何かを言おうとしたクラスメイトの言葉を遮り、やはりもごもごと言い淀みながらもやがてクリスは意を決したように彼女たちをまっすぐ見る。

 

「もっと身勝手なこと言っちまうし、もっと甘えちまうけど……慣れるまで、もう少し付き合ってくれるか?」

 

 そう告げながら右手を差し出すクリスの顔は、まるで熟したリンゴのように真っ赤になっていて。

 クラスメイトの少女たちは互いの顔を見合わせると、輝かんばかりに破顔した。

 

「「「―――もちろん! 改めてよろしくね、雪音さん!!」」」

 

 そうして彼女たちはがっしりとその手を繋いだ。

 そんな眩しすぎる青春模様を、翼は目を細めて眺めていた。

 と、そこへ新たな来客が訪れた。

 

「風鳴さーん……って、なんかお客さんいっぱい?」

 

 教室内を見て目を丸くする少女らに、翼の方も眼を瞬かせた。というのも、現れたのは翼のクラスメイト達であったからだ。

 

「皆、どうしてここに?」

「どうしてって、そりゃ風鳴さんと一緒に作業のお手伝いしようかなって思ったからだけど?」

 

 言いつつ、彼女たちは座っている翼の方へと歩み寄る。

 

「風鳴さん、普段は忙しいから落ち着いて話す機会も少ないしね。

 しかもコレが最後の行事なんだし、せっかくだからみんなで一緒にやろかなって」

「そ、そうか……」

 

 笑いかけられながらまっすぐとそう言われて、思わず頬に熱が集まるのを翼は自覚した。

 つい先ほど目の前で後輩の青春劇を目の当たりにしていたところだったが、まさか自分も似たようなことになるとは思っていなかった。

 しかし、こそばゆくも不思議と悪い気はしない………と、そんな風に思っていたのだが。

 

 

 

「―――けど、噂の後輩ちゃんもいるみたいだし、これは神が与えてくれたもうた絶好の機会ってやつよね?」

「………は?」

 

 

 

 どうやら雲行きが変わったらしい。

 何やら唐突に趣の変わった言葉が出てくるや否や、いつの間にやら回り込んでいたらしいほかのクラスメイトが翼の両肩をそれぞれ『ガシィッ!』と掴んで抑えつける。

 まるで立ち上がらせない……否、()()()()()と告げるかのように。

 

「な、なにを……?」

 

 翼の内に、疑問と同じくして嫌な予感が心の底から湧き上がる。

 そんな彼女に向けて、眼前のクラスメイトは瞳を輝かせながら、

 

「ズバリ!! 食堂の衛宮さんとは結局のところ一体全体どういうご関係で!?」

「ぶっ!?!?」

 

 真正面から一太刀を浴びせるような一言で切り込んだ。

 青天の霹靂と言っていいそれに、翼は思わず取り繕う余裕もなく吹き出してしまう。

 

「な、なにを……!?」

「いやだって、風鳴さんは隠してるつもりだったかもしれないけど割とちょくちょく親し気に衛宮さんと話してるところ見かけるし」

「というかあからさまに表情が違うよね」

「うんうん」

「あ、う……な……!?」

 

 左右から顔を近づけて詰め寄るクラスメイト達。その瞳は一様に『キュッッッピィーーーーーン!!!』とクリスマスシーズンの電飾もかくやとばかりに煌めいている。

 正に四面楚歌、立ち上がる機さえ失い翼は成すすべなく狼狽えるばかりだ。

 

 そんな先達の姿を横目にして、クリスは猛烈な危機感を覚える。

 このままではヤバい! ………内心で下したその判断は正しく、しかし遅きに失した。

 音を立てずその場を後にしようとして、しかし動くことができない。

 見れば、手は先ほどから自身のクラスメイト達の方と繋がったままだ。

 クリスは頬が引きつるのを自覚しながらも、その腕を辿るように彼女たちを見やった。

 

 

 

「それは」

「私たちも」

「興味―――」

 

「「「―――あります!!!」」」

 

 

 

 直後、クリスに浴びせかけられたのは盛大に弾ませながらリズミカルに合わせられた台詞と、翼のクラスメイト達にも負けないほどに輝く少女たちの眼差し……否、眼光だった。

 思わず身を引かせてしまうクリスだったが、やはり手が繋がれたままなので逃げようがなかった。

 

 それぞれに追い詰められている歴戦の戦姫たち。

 さもありなん。

 アリが砂糖に群がるように。

 サメが血の匂いに殺到するように。

 古今東西、年齢の上下すらも関係なく―――色恋沙汰(コイバナ)に心弾ませ滾らない婦女子は皆無である。

 

「いや、その士郎さんとはその……」

「ア、アタシはアンちゃんとは別に……!」

「士郎さん!? アンちゃん!?」

「めっちゃ親し気!? どういうこと!?」

「くぉれは是が非でも聞き出さないとですねぇ………!!」

 

 『フッフッフッ………』と学年の枠を超えて含み笑いを重ねる少女たちに、翼とクリスは戦慄を禁じ得なかった。

 傍から見れば滑稽であるかもしれないが、二人からしてみれば確かにどうしようもない危機であることは間違いなかった。

 

 姦しくも華やかに、騒がしくも賑やかに。

 傾いた夕日の煌めきを観客に、少女たちは日常を謳歌する。

 

 

 

 その夜半、事態は急変する。

 慎次たちの調査により反社会的団体がF.I.Sと思しき団体との取引を行っていたことが判明。

 更なる調査により、物資の流れの先にとある廃業した病院施設があることを突き止める。

 二課はそこがF.I.Sの拠点であると断定。

 事態の早期収束と人質と目される士郎の救出を念頭に入れ、電撃的な作戦の展開を急遽決定した。

 ―――つまり、夜討ちの急襲である。

 

 

 

 

***

 

 

 

 日本領海内のとある海上上空。

 夜空を映し、黒々と染まった海原を従えるように、空を行く鋼の翼があった。

 大型のバスにも似た長大な本体に、同等の大きさを有しつつ中央部分にそれぞれローターのついたエンジンを備えた両翼。

 マリアたちの有する、エアキャリアだ。

 種別としては貨物機に近いソレは、闇の只中をただただ進んでいる。

 その一室……ブリーフィングにも使われる、住居で例えるならばリビングにも近い多目的スペースに、マリアは足を踏み入れた。

 

「衛宮 士郎、少し―――」

 

 マリアの言葉が、半端に途切れる。何事かあったわけではない、ただ呼びかけた相手の仕草で遮られただけだ。

 そして一瞬遅れて、その理由も把握する。

 窓から差し込む月明かりと廊下からの照明でギリギリ薄暗いという程度になっている室内。

 唇に人差し指位本立てて言外に静寂を頼む士郎のすぐ前に、ソファーの上で互いに身を寄せ合いながら寝息を立てる調と切歌の姿があった。

 士郎が掛けたのだろう、二人は一枚の毛布を共有する形で包まっている。

 

「―――………」

 

 あどけないと言っていい妹分たちの姿に、マリアは微かに頬を緩める。そうして士郎と視線を合わせ、小さく頷き合ってから揃って音を立てないように部屋を後にした。

 自動で締まる扉の音に少しだけ心配してから、ややあって力を抜きながら小さく息を吐いた。

 

「世話、かけちゃったかしら?」

「いいや。というかオレを見張ろうと気張っていたせいで余計に気疲れさせてしまったようだからな。

 ………このまま、寝かせてやっていて構わないか?」

「問題ないわ。元々、貴方だけでよかったから」

 

 『そうか』と返し、二人は揃って歩き出す。

 住環境が整っている程度に大きな機体とはいえ、大型旅客機程の巨体というわけでもない。無言の道程に気まずさを感じるよりも先に、目的地であるコクピットに辿り着く。

 

「マム、連れてきたわ」

「ご苦労様、マリア。

 そしてミスター、間もなく目的のポイント上空に到着します」

 

 コンソールで何がしかの操作をしながら答えるナスターシャ。

 士郎から見て左側の操縦席はどうやら彼女の専用であるらしく、右側のような座席がなかった。どうやら、車椅子に座ったまま操れるようになっているようだ。或いは、車椅子自体にその機能が付随されているのか。

 機体の操縦中ではあるが、恐らくそれなりの割合が自動化されているのだろう。こちらと会話をするだけの余裕はあるようだった。

 

「ドクターウェルは置いていく形となったが、大丈夫なのか?」

「今回の主目的は定期的な観測データの採取と、異常がないかの確認です。

 仮宿とは言え拠点を放置しておくのも憚られますからね。………どの道、ネフィリムの番も必要です」

 

 二人の会話が示す通り、現在このエアキャリアにウェルは同乗しておらず、ネフィリムと共に廃病院で留守番をしている。

 ネフィリムの覚醒が途上である現状、フロンティアに関しては現状確認以上のことはできない。更に言えば、ネフィリムの凶暴性を鑑みれば必要以上に連れまわすリスクは避けたいところだった。

 この機体は彼女たちにとって様々な機能を司る移動拠点にして本部施設であり、何よりもこの先フロンティアを目覚めさせるに当たって重要なファクターを担う、いわば『鍵』一つであった。それも代替の効かない唯一無二の、である。

 無論、ナスターシャたちにとってはこの機体こそが本当の意味での本拠地でもあるため、ネフィリムの運搬も考慮に入れた構造とはなっているが、それでも大事を取りたいというのも事実である。少なくとも、準備の完了が遠い現状ならば尚のことだ。

 

 と、甲高い電子音がコクピット内に鳴り響いた。

 同時に、ナスターシャの座る操縦席に備え付けられたサブモニターに、いくつかのデータ表記と共にまるで細長い島のような3Dモデルが表示される。

 

「着きました。このポイントの海底に、私たちの最終目標―――世界を救う鍵であり、日本神話においては『アメノトリフネ』とも呼ばれた巨大完全聖遺物【フロンティア】が眠っています」

「フロンティア、か……」

 

 鸚鵡返しに、士郎はその名を呟いた。

 内心では、ある種の納得を同時に得ている。

 マリアが決起時の声明において、『日本の領土の一部割譲』を要求していたが、あれは伊達ではなかったらしい。

 恐らく、この海域のことを目標としていたのだろう。もっとも、内容が内容だけに要求が通るとも流石に考えてはいなかっただろうが。

 

(とはいえ……現状では海しか見えないんだがな……)

 

 いくら視力を強化することができるとはいえ、流石に海底に沈んだものまで見ることは出来ない。当然、【解析】などもできようがない。

 恐らくは計測データだろう表示と共に3Dデータが映されているが、士郎としては現状に於いて実感も感慨も薄かった。

 故に、その関心は別のところへと向く。

 

「ところで、夜闇に紛れているとはいえ堂々と飛んだ上で隠れ果せているわけだが………『()()』がその理由か?」

 

 士郎は尋ねつつ、その視線を横に滑らせる。

 二つ横並ぶ操縦席のその間に納められた、明らかに後付けに組み込まれていると思しき代物。

 士郎はソレを……より正確にはその形状をしたものを、知っていた。

 

「シンフォギアの(コンバーター)、まさかそういう使い方もできるとはな」

 

 士郎が見下ろす先で、それは磔にされているかの様に鎮座していた。

 縦に長い円柱のような特徴的な形状が、固定している装置もろとも淡い光を放っている。

 

「当然ながら、正式な使用法ではありません。適合する装者がいなかったものを研究していて得た副産物です。

 おかげで、こちらにとっての貴重なアドバンテージとなってくれていますがね」

 

 答えながら、ナスターシャはわずかに笑みを浮かべる。言葉の割に、それは誇るというよりも自嘲しているかのような苦みを帯びているように見えた。

 言うほど便利なものではないのかもしれない。

 或いは、コレがあっても尚、進もうとする道行きは薄氷を踏むようなものであるということ自覚しているのか。

 士郎は敢えてそれに触れず、話題を僅かに反らす。

 

「不完全な状態でここまで大型の機体をカバーするほどの隠形を発揮できる代物となると……まさか、ギリシャの冥王の兜か?」

 

 問いかければ、彼女は思わずといった様子で小さく吹き出した。

 もしかすると、こういった素の反応を見たのは初めてかもしれない。

 僅かに肩を震わせて、頬を緩めさせている。

 

「そこまでの大物を引き合いに出されると、却って正解が言い出しづらいですね」

 

 そうして浮かぶのは、同じ苦笑でも先ほどと比べてずっと軽い印象を受ける。肩の力が抜けた、と言っていいのか。

 そこから表情を引き締めて、言葉を続ける。

 

「コレに納められている聖遺物はそこまで格の高い代物ではありませんよ。

 ……そもそも、武具ですらありません」

「武具ではない?」

 

 意外そうな様子で鸚鵡返しに尋ねる士郎に、ナスターシャは静かに頷いた。

 そう、コレが内包しているのは武具に在らず、故に単純な戦力として見るならばギアの中でおそらく最弱であるだろう。

 しかしこれの神髄はそんなところではない。ともすれば、全てのギアの中で最も脅威的ですらあるかもしれない。

 ―――それを纏うべき装者が存在しなかったのは、果たして幸であったのかそれとも否であるのか。

 いずれにしろ、確かなのはこれもまたこれからの計画に不可欠の重要なピースの一つであるということだ。

 ナスターシャはコンソールを操作し、サブモニターの映像を3Dモデルモデルから何かの記録写真へと切り替えて、改めて其れの名を告げた。

 

「―――【神獣鏡(シェエンショウジン)】。破邪の力を持つ鏡がこのギアの力です」

 

 映し出されているのは、割れ砕けた古い銅鏡。

 大陸の古代にて作られた、神仙の思想と理想を紋様として刻まれた器物。

 神ならぬ人の手で作られたとされる聖遺物。

 士郎はその一欠片が納められているだろう小さな赤い塊を、改めて見下ろした。

 気のせいだろうか………力を発揮しているだろうその淡い輝きが、士郎の眼にはどこか妖しく見えた。

 

 

 

●●●

 

 

 

【教えて!? ブルマ師範!! ぷち】

 

○ネフィリムと宝具

 

 飢餓衝動のまま、聖遺物を食らって糧とする完全聖遺物【ネフィリム】。

 その覚醒を完全なものとするには、多くの聖遺物を用意する必要があった。

 F.I.Sから脱する際に可能な限り聖遺物を持ち出し、それをエサとして与えているものの、それで充分であるかは不安が残る。

 その懸念に対し、ナスターシャが衛宮 士郎が創り出す聖遺物(宝具)の贋作に着目したのは道理であると言えた。

 しかしてその目論見は、ネフィリムの拒絶という形であっけなく潰えることとなった。無論、この可能性も十分あると目していたナスターシャの落胆は少ない。

 この結果の原因として、ナスターシャやドクターウェルは贋作であるが故の拒絶と黙していたが―――ただ一人、士郎だけは別の可能性を考えていた。

 それは『宝具』と『聖遺物』の差異―――突き詰めれば、異なる可能性の世界における技術体系そのものの違いだ。

 かつて櫻井 了子(フィーネ)の解析によって聖遺物やシンフォギアの放つフォニックゲインと士郎の扱う魔力は非常に似た性質を有し、その為に士郎の魔術や投影した宝具はノイズに対しシンフォギアと同様に有効な攻撃手段に成り得ているという結果が出された。

 そうでありながら、ネフィリムは宝具を―――士郎の扱う魔術を拒絶した。

 そこに存在する違いとは何なのか。

 そしてこの結果が齎すものがなんであるか。

 それを知る由は現状、ない。

 

 

 

師「なお、細かいことは作者にもまだわからない(設定してない)模様」

α「知ってた」

β「いつもの……で、いいんでしょうか?」

師「それはさておくとして、『ネフィリムが投影した宝具を食べない』っていうのは連載前から決めてた展開の一つね。

 イメージとしては『人間は木を食べられないけどシロアリは木を食べれる』っていう典型的な食性の違いを思い浮かべてくれればいいわ」

α「それを伏線だとするにして、回収されるのはいつになるんだろうな?」

師「まぁ、あなたたちが本編に出てくるよりは先よ。

 具体的には知らんというかわからん(無慈悲」

β「えぇ……(困惑」

師「ただ、まあ……書きながら気付いた問題点が一つあるらしくて」

β「問題点、ですか?」

 

 

 

師「―――ここら辺、とりあえずの伏線回収が終わったずっと後で整合性取るのが難しくなるかもしれないよなって、思っちゃってるらしいわ」

α&β「「うーん、この……」」

 

 

 







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 というわけで、2024年初更新。
 ちょうど三カ月、お待たせしましたスイマセン。
 というか、話の内容的にストーリーは全然進んでないですね……
 実は、本当はもうちょっと先の方まで進めるつもりだったんですが、倍以上の長さになりそうだったのでここらでキリよく区切りました。



 ネフィリムが士郎の投影した宝具食えないっていうのは上記の通りかなり前から決めてた設定。
 先史文明由来のエネルギーや技術の結晶を栄養源として摂取してるので、それ以外は受け付けられないって感じですね。
 魔力(魔術)とフォニックゲインとの違いについては……あんまり掘り下げるかも不明なのでそこら辺はふわっと考えていただければ(ぇー

 クリスちゃん関連のエピソードについては、アニメ本編みたいにPVめいた場面描写だけで表現するのは難しいかなと思ったので、こんな感じにしました。
 この後は見えないところでコミュ取っていくのでしょう。




 それでは、FGO雑談。
 新規に手に入れたのは、
・ヤマトタケル
・水着伊吹童子
・柳生但馬守宗矩
・由井正雪
・宮本伊織
・サンタオルタ
・ジャンヌ・オルタ・サンタ・リリィ

 ………どうやら自分のガチャ運は正月で切れた模様。
 正雪先生以降星4すらろくに出てこなかったり……
 まあ、丑御前が石400個以上消費してきてくれなかった後は回数控えめにしてたってのがありますけど。
 ちなみに、その過程で正雪先生は宝具5になった模様。

 バレイベは新規エピでいろいろ焼かれました。
 ラストはミコケル→水妃モルガンの順で見たのですがトリに持ってきて個人的に大正解でした。どっちも良き……良き……

 そして現在、奏章Ⅱ攻略中。
 楽しくプレイしていますが、この先何やら不穏な展開が待っているとのことなので恐々としながら進めてたりします。
 とりあえず、この担任教師はエロすぎると思う(直球



 さて、今回はこの辺で。
 次回もキリ良いところで区切ったらあんまりストーリー進まんかもしれんですね……その分早めに出せればいいんですが……無理かな!!(過去の己を省みながら
 それはさておき、なるべく早めに出せるよう頑張りますので、応援とかしていただけると嬉しいです。
 感想とか、割とガチ目に原動力っていうかガソリンになるんだよねって書いてて実感しますわ。



 それでは、花粉症がきつくなってきて、寒暖の差が激しくなったりしていますが皆様お体にお気を付けくださいませ。
 また、次回。



 ………『東京行く』って言ってたからPU来るかと思って待ってたんですが、ドラコ―はまだですか???
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