X(旧:Twitter)やってます。更新予告とかしてるので、よろしければフォローしてくれると嬉しいです。
そっちでも書いたけど、異世界スーサイドスクワッド視聴。
個人的に今季アニメのお気に入りですかね。ハーレクイン可愛い。
ただ、ジョーカーについては好みが別れるかもですね。
イメージよりもイケメンすぎるというか、個人的にはもうちょっとイカれた感じが前面に出てても良かったかなと。
「ミャア。ミャ~ア」
膝の上でこちらを見上げて鳴く白猫を、ナスターシャは時折撫でつつもモニターに移した眼下の戦況を見守っていた。
特別製の車椅子には様々な機能が搭載されており、エアキャリアと接続しての操縦補助もその一つだった。
おかげで、足の動かない止んだ老女一人でも準大型級の航空機を動かすこともさほどの苦ではなくなっている。
白猫が膝の上を占拠する程度ならば、さほどの害にはならないほどに。
もっともこの白猫が大分行儀が良いというか、割とおとなしい気性であることも理由として大きいが。
「………、」
白猫を撫でる手つきの優しさに反し、眼差しには険が強い。
その瞳が見つめるモニターには二つの場面が映し出されていた。
一つは、翼と刃をぶつけ合うマリア。拮抗はしているが、活動限界を思えばそろそろ危うくなってくるかもしれない。
もう一つは―――
「衛宮 士郎……」
二課からこちらに付いた、装者ならざる異能の戦闘者。
魔術なるものを扱う、異端とも言うべき人物。
彼は今、ドクターウェルの救助に向かった切歌と調の援軍として降り立っている。―――かつての仲間と対峙する形で。
その光景を俯瞰と見つめながら、想起されるのは直前のやり取りだった。
◆◆◆
「………。本当に、貴方も行くのですね? ミスター」
『ああ。少なくとも、ここで立ち位置を明確にしておかないと最低限の信用も得られないだろう?』
艦内通信で、カーゴデッキにいる士郎に確認するように問いかければ、彼は問うたこちらが戸惑ってしまいそうなほど平然と言いのけた。
そんな彼に、ナスターシャは瞳を眇める。
「―――、どうして」
『む?』
「どうして、貴方はそんなにも簡単にこちらへと付いたのですか?」
それは、もしかしたらこんな鉄火場に赴く間際にするようなものではないのかもしれない。
しかし、重要な局面へと赴くからこそその不安を拭っておきたいのも事実だった。
「たしかに、私は貴方を仲間に引き入れたいと事情を話し、幾つかの疑問にも答えました。
しかし。
「だからと言って、こんなにもあっさりと旗色を変えられるほどの説得力を持たせられたとは思えない。
まして、こうしてかつての仲間に刃を向けることになるのを、是とするなど」
『………なるほど』
ナスターシャからの疑問を受け、士郎は小さく頷いた。
『いや確かに。
今の俺は度し難い裏切り者。卑劣で恩知らずな変節漢だ。
あなたの警戒ももっともだな』
「ミスター、その自虐は皮肉ですか? それとも、煙に巻こうとしているので?
―――貴方が利己的な理由でそうするほど、浅薄でも不実でもないことくらいは短い付き合いでも解かっています」
士郎が肩を竦めて吐いた言葉を、ナスターシャは半ば咎めるような響きでそう返した。
同時に、そんな人間が拙いだろう情報で仲間と対峙せんとしている事実は、ナスターシャから見れば不気味ですらあるほどに不思議だったのだ。
一方でその言葉を受けた士郎は、ほんの少しだけ沈黙を挟んでから再び口を開く。
『―――、買い被りだよナスターシャ女史。
マリアたちがいる前でも言ったが、オレが騙されるのと聞かされた情報を嘘だと決めつけて危機を見逃してしまうのとなら、前者である方がよっぽどいいってだけだよ。
それに、どの口でほざくかと思われるだろうが……オレは別段、彼女たちの敵になったつもりはないよ』
「っ、それはどういう―――?」
『勘違いしないでくれ、そうは言ってもちゃんと戦うさ。
容赦も手心もするだろうが、手は抜かない。………というか、
要は心持ちの話だとも』
「……いったい、何を考えているのですか?」
ますます士郎の真意を測りかねて、ナスターシャは疑問を重ねた。
それに対して、彼は小さく笑みを見せる。
恥ずべきことなどなく。
同時に、ナスターシャたちが気にすることなどないと、言外に告げるかのように。
『大して複雑でも難しいことでもないさ。
―――ただオレは、オレなりにできる限りの最善を目指しているだけだよ』
そう言い残して、彼は展開されたカーゴハッチから地上へと飛び降りた。
『敵になったつもりではない』と言い放った少女たちと、刃を交えるために。
◆◆◆
「
そう言い残した男は、ソロモンの杖を取り返して切歌たちやドクターと並び立っている。
かつて同じように並び立っていただろう仲間に手を挙げ、或いは立ち塞がるように。
そうさせているのは自分たちである。しかし、同時に彼自身が選んだ道でもある。
これが彼の言うところ『最善』に繋がるものであるならば―――
「貴方の目指す最善とは、一体何なのでしょうか……?」
不安とも言えないある種の不気味さを紛らわせるかのように、ナスターシャは膝の上の白猫をゆっくりとした手つきで撫で上げる。
いつの間にか丸くなっていた白猫は、毛並みに沿って滑る優しい感触にゴロゴロと喉を鳴らしながら目を細めていた。
それはまるで、周囲に漂う逼迫した雰囲気も張り詰めた緊張感も、己には無縁であると全身で表しているかのようだった。
***
「どうして! そっちに立っているんですか!? 衛宮さんっっ!!!」
響からの、悲痛な問いかけ。
それに対して鷹のような眼差しで黙するばかりの士郎に、正気に戻ったクリスも動き出す。
「オイッ!! なんとか言えよアンちゃん!!
なんでアンタが
眦を釣り上げた眼差しは、しかしよくよく見れば今にも泣き出しそうなほど濡れている。
それに対し、士郎は空になっている右手をゆらりと持ち上げて、
「―――
呟くや否や、荒波のようにねじ捩じくれ絡み合った漆黒の大剣を握りしめる。
長大な刃を確かめるように振り下ろし、その切っ先を響とクリスへと差し向ける。
思わず息を呑んで言葉を失ってしまった二人へと、士郎は手にした刃のように冷たい声音を投げかける。
「この場で、声を出して語る言葉は―――一つも、無い」
「そんな……」
「ッッ、どうしてだよ……!?」
突き放すというよりも、断ち切るような言葉に響とクリスがそれぞれに表情を歪めた。ともすれば、泣き出してしまいそうにも見える。
そんな様子を士郎の後ろから眺めていたドクターウェルは、メガネのズレを直しながら囁きかけた。
「おやおや、ヒドイこと言いますねぇ~。あのムーンアタックの英雄が今にも泣き出しそうだ。
ま、そのくらいでなきゃ最低限の信用もできませんがね。
……でも、ちゃんとその剣は使えるんですよね?
ただの脅しのつもりで出しました、とか言われてもこっちが困りますよ?」
明らかに愉悦の混じった言葉に、士郎よりも切歌と調の方が表情を苦く歪める。
二課への敵愾心も士郎への警戒も強いが、それでも裏切りを揶揄し愉しむような物言いは嫌悪が強いようだ。しかし、彼の危惧そのものは正論でもあった。
ここで彼女たち相手にどこまで戦えるのか―――そういう意味では、この場は正に試金石だと言える。
図らずも集まる種々様々なれども暗い眼差しを集中砲火に受けて、しかし士郎は欠片も気にした様子は見せなかった。
「お前の心配はもっともだ。
だが、それよりも少し下がっていろ」
「はい?」
一瞥すら寄越さない士郎の言葉に、ドクターウェルが眉を歪める。多分に不機嫌そうに見えるのは、士郎が思ったような反応を一切見せなかったからか。
その全てを一顧だにせず―――
「ここから先、そちらを気に掛けるような余裕はありそうにないからな」
士郎の言葉に、怪訝そうに顔を前へと向けるドクターウェル。
―――ところで、ドクターウェル……ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスは人品こそ眉を顰める面が見受けられるが、その頭脳と才覚は人後に落ちるものではない。
そんな彼をして。
瞬きのような意識の空白を挟み、気付いたら仰向けに倒れていたというのは初めての体験だった。
(…………………………は?)
呆けたような声、は出ない。
それどころか、手も足も首すらも動かせずに目玉だけをキョロキョロと動かすのが関の山だった。
(なにが? なにが、おきて―――)
起き抜けにも似た、鈍化した思考が戸惑いと疑問に軋む。
何が起きて、何故こうなったのか。
前者について言えば簡単で、すぐ傍で轟音を伴った衝撃が生じたたからだ。物理的な理屈で言えば、閃光と轟音で対象を制圧するスタングレネードよりも破片を伴わない爆発で攻撃するコンカッショングレネードが近いか。
ともあれ、至近で意識ごと脳を揺さぶられたのが彼が現状に陥った理由である。
後者についても、言葉にするだけならひどく単純だった。
ただ単に、それほどの衝撃を生み出すほどの衝突が間近で発生しただけだ。
より具体的に説明すれば。
己の槍を呼び戻した天羽 奏による、疾風迅雷じみた吶喊。
それを、士郎が黒い剣で以って真正面から受け止めたのだ。
「―――ッッッ!!」
「、づ……!」
極まった赫怒とは、却って温度を奪うものなのか。
先のウェルに対しては怒りの余り笑みすら浮かべていた奏だが、今は完全に感情が抜け落ちて氷で作った仮面のようだった。
対し、打ち込まれた一撃は苛烈であり凄絶。シンフォギアの出力を余すところなく込められたそれは、速度だけでも音のそれに達していただろう。
言ってしまえば、人間大の砲弾が直線軌道で放たれたのと変わらない。ウェルが認識すらできなかったのも、衝撃で倒れて指一本動けなくなってしまうのも当然だと言えた。
むしろそれを腕一本、剣一振りで受け止めて見せた士郎の方こそ同等に凄まじい。その証拠に、彼の足元はまるで超重量の鉄球でも放られたかのようにひび割れながら陥没していた。
と、その時。
黒い刀身と鬩ぎ合う穂先が、ギシリと音を立てて軋んだ。
「っ! ―――ハァッ!!!」
それで何を察知したのか、士郎は裂帛と共に槍の穂先をかち上げた。無理矢理であったのか、電子基板じみた紋様が煌めく浅黒い腕が血管を血管を主張させて膨張する。
直後。
―――STAB∞METEOR
真上を向いた穂先が高速で回転し、全てを砕く暴風の渦が立ち昇った。
巻き込むすべてをねじ切り砕くだろう暴力的な空気の渦。その威容を目を耳と肌で間近で見ることになった調と切歌は、喉を干上がらせた。
(………!! いま、この男がかち上げなかったら………!!)
(アタシたち、全員コナゴナだったデース……!!)
戦慄に固まる二人が見る前で、竜巻はあっという間に消え去った。が、しかし。
「―――なにを」
耳障りな音が、すぐ傍で響き続けている。
竜巻を生んだ長大な槍の回転、それは生み出したものが消え去っても止まることなく唸りを上げていたのだ。
そしてそれを、奏は改めて強く握り直し、
「ヌかしてんだバカ大将――――――ッッッ!!!」
全力で振り下ろした。
「ッッ、ギッーーー!!?」
剣で受け止めた瞬間、先の衝突にも泣けない轟音が再び空気を震わせ、同時に火花が派手に迸った。
回転、という性質のためか鋼の接触は一瞬。弾かれた直後に、奏は身を翻して今度は横薙ぎに追撃を見舞ってきた。
「グッ、ォオアア――――――ッッ!!!?」
掬い上げるかのような一撃はバッターのフルスイングにも似て、そのせいか受け止めた士郎も弾丸ライナーよろしく勢いよくすっ飛ばされていく。
それを、奏は振り抜いた格好のままで見届け、穂先の回転が収まると同時に構えを解いた。
摩擦熱によるものか、穂先の基部などから薄く白煙が立ち昇る。刃に寄り添うようなソレを払うように振るってから、彼女は深く息を吐いて前へと踏み出した。
「「っっ!!」」
と、調と切歌が咄嗟に身構える。当然の如くの強い警戒を、しかし奏は一瞥すらもくれてはやらない。
「―――邪魔だ。どいてろ」
その言葉を置き去りに、二人の横を一歩二歩と通り過ぎる。
阻まんとした彼女たちは、しかし言葉に込められ身にも纏った怒気に気圧されて思わず見送ってしまう。
「響!! クリス!!」
「「ハ、ハイッ!」」
ふと、奏は立ち止まり、背後の後輩へと振り向かないままに声を張り始めた。
士郎の乱入からこちら予期せぬ事態の連続に完全に呆けてしまっていた二人だったが、叱咤めいた言葉に強制的に再起動させられた。
クリスなどは思わず響と返事を揃えてしまったことに後から気づき、思わず口元を頬を染めながら口元を抑えるが、奏はやはり振り向きもしなかったので露知らず。
「こっちは任せた、そこの二人を抑えとけ。
アタシは―――」
奏は力を溜める様に僅かに身を屈め、
「―――あのバカ大将をとっちめる!!」
解放するように、高く高く跳躍した。
***
翼とマリアからすれば、唐突に発生した竜巻に振り向いた直後にソレは飛来した。
いくらか開いた両者の間合いのちょうど中間に墜落したそれの正体を察したのは、土煙の向こうから聞こえたボヤくような声によってだ。
「っつぅ。いやまったく、本当に容赦がないな」
「士郎さん!?」
「衛宮 士郎!?」
わかっちゃいたが……と付け加えながら立ち上がったその姿に、両者は同時に声を上げた。
しかしそれに応える前に、追加が来る。
「ラァアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――ッッッ!!!」
上空からの、振り下ろしの一撃。それをやはり、士郎は見事に受け止める。
そこから鍔迫り合いも刹那、剣戟を交わすこと三合。士郎は更に大きく飛びずさった。
それを追い、奏が駆ける。
その一連は、まるで台風一過の縮図のよう。芝生の消え去った中庭だった場所に、新たな痕跡を刻みながら去っていく。
「奏、これは―――」
「翼はそのままマリアを! アタシはこのバカの相手だ!!」
「―――、承知!」
戸惑いはあるのだろう、しかし付き合いの長さゆえか。
翼は逡巡を捨て去るように奏に応じ、再びマリアへ刃を向ける。
呆気に取られていたマリアも、遅れることなく身構えを直した。
「……気にならないのかしら?」
「それは後でも構わない。今は貴様が優先だ、マリア」
「それは光栄ね」
軽口めいた皮肉もそこそこに、再び刃を交え始める。
それを尻目に、奏と士郎も離れた所で激しい攻防を始めていた。
「―――、――!!」
「フッ……!」
歌を以て燃え上がり、猛る戦意。そこから放たれる剛撃を、しかし黒い剣閃は防ぎきる。
むしろ返礼とばかりに振るわれる一撃の鋭さと正確さに、奏がたたらを踏んで耐える場面もあった。
戦乙女の勇壮かつ凛麗な歌唱を搔き消すような轟音の応酬、それが十に届かぬ程度に続いた頃合いか。
ふと、士郎の耳に『チッ、チッ、チッ』という規則正しいリズムで刻まれた三つの舌打ちが幽かに届く。
「……、」
直後、横薙ぎに大きく繰り出された穂先を受け止め、『ピュイ♪』と軽口めいた調子で短い口笛を漏らした。
「危ないな。もう少し加減してくれるとありがたいんだけど」
「ヌかせよ、この野郎!!」
激昂を見せ、詰め寄る奏。そのまま鍔迫り合いの拮抗へともつれ込む。
………その時だ。
《―――オイ》
奏の口元が、歌とも裂帛とも関係ない形に動く。
その動きを、士郎の眼は確かに捉えていた。
《セツメイ シロ》
士郎が過たず読み取った、その言葉。
それを無音で発する奏の顔は、呆れかえったかのように非常にフラットな眼差しを浮かべていた。
***
読唇術。
奏と士郎が身に付けたその技術は、慎次を師と仰いで習得した
半ば以上興味本位で覚えた技術を、奏がその用途で活用される場面は今までほぼ存在しなかった。しかし意外な副産物こそがここで効果を発揮することとなる。
それは同じ技術体系による特殊条件下での意思疎通法としての活用……つまり、ある種の暗号会話としての使い道だ。
これにより、二人は誰にも知られることなく情報を交換することが可能となった。
もっとも、互いに戦闘を交えながらではいくつかの単語を繋げただけの簡単な会話ぐらいが限界であるのだが。
《ナニガ アッタ?》
おざなりに見えないように、刃を叩き付けながら唇を動かす。
それを拾えているか、という心配は無用だ。むしろこちらこそ、見逃さないよう気を付けなければならない。
と、士郎の唇が確かに動いたのを奏は視た。
《ツキダ》
怪訝に眉を顰める奏に、さらに唇が言葉を重ねる。
《ツキヲ シラベロ》
(月……?)
どうやら聞き間違いもとい、見間違いではなかったようだ。そのことに奏は更にを難しく歪め、直後振り下ろされた黒い刃を受け止めることで表情の変化は自然のものに見える。
黒い刃を間近の視界に納めながら、その脳裏に浮かぶのは空に浮かぶ歪に欠けた月。そしてそれを生み出したムーンアタック事変のことだ。
(たしか月のあれこれに関しては色々調べて異常なしとかって話だったよな?
あれって確かデータ元は米国主導とか………うっわ、一気にきな臭くなりやがったなオイ!?)
苦いものが腹の奥に広がるような錯覚を得つつ、ならばと奏は向き直る。唇が再び、声のない言葉を紡ぐ。
《モドッテ コイ》
情報を得ているというなら、それを抱えてこのまま戻ってくればいい。なにやらいかにも仕掛けの在りそうな首輪をつけているが、その程度は既にどうにかしているだろう、多分。
妙な信頼を抱きながら放った言葉に、しかし。
《デキナイ》
返ってきたのは否定。
瞬間、再び奏が激発する。
「っっ、なんでだ!!?」
槍を叩きつけてから、思わず叫んでしまっていたことに気付く。状況から、さほど不自然ではないだろうことは幸いと言うべきか。
ギリギリと刃同士が擦れ合う音を煩わしく思いながら睨んでいると、士郎の唇が動いた。
《コチラ カラ ウゴク》
(『こちらから』……マリアたちの側から、ってことか)
なるほど、言われれば道理はある。
月が絡む何がしかの事態が起きており、相手方がそれを契機に
そも前提条件さえ把握できていないこちらとは、文字通り立ち位置に差がある。そう考えれば、内側に立てている者がそちらからアプローチを仕掛けるというのはむしろ自然なことなのかもしれない。
………という理屈まで思いついた上で、奏は再び視線をフラットなものにして問いかけを作る。
《ソレダケ カ?》
「……………、」
《ソ レ ダ ケ カ?》
あからさまに唇を結ぼうとしていたので一度間合いを離し、再度の踏み込みから槍の穂先を使ってガンガンと文字通りに言葉を叩き込む。
すると今まで鉄面皮を作っていた士郎の表情があからさまに引きつっていく。まるで知らぬ間に肉食獣の尾を踏みつけていたことに気付いたどこぞの原住民のようである。可憐な歌姫相手に失礼な反応だ。
そうして再び鍔迫り合いの鬩ぎ会いに持っていけば、士郎が引きつらせた頬のまま錆び付いたような動きで恐る恐る唇で言葉を作っていく。
《■■■■ ■■■■》
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、はぁ~~~~~~~」
なんと言ったのかを読み取って。
それがどういう意味なのかを理解して。
その全てを飲み下して長い沈黙を挟んでから。
奏は深く深ぁ~く溜息をついた。
直後。
「こンの………唐変木!! 朴念仁!!! エセホスト風味のスパダリ概念系タラシ野郎ォオオオオ――――ッッッ!!!!!」
「あ、悪質すぎる風評被害を垂れ流すなッ!!?」
「実績ありまくりだろうがボケェッッッ!!!!!」
全力全開、ブチ切れフルスロットルで殺意マシマシな剛撃の嵐が吹き荒れた。
それを辛うじて受け流しながら聞き捨てならないと反論するも、自覚なんてこれっぽちもないヤツがンなことヌかしてもニトロがチャージされるだけである。もしかしたらジェット燃料かもしれない。
声だけ聴けばただただ憚らないだけの痴話喧嘩然としているが、繰り出される攻撃に容赦はなかった。それこそ次の瞬間には大きく切り裂かれるか派手に抉られているかの二択が待っていてもおかしくないほどだ。
傍から見ているだけでは、八百長めいたなぁなぁの雰囲気なんてものは微塵たりともあるようには思えない。なんなら受け止めている士郎自身がマジでガチな殺意をビシビシ感じているほどだった。
(というか奏、一切合切容赦なくガチで
剣を握る手に重くも絶え間なく響く衝撃と、耳元を掠める刃の唸りに慄くばかりの士郎。
と、そんな
エアキャリアを操っているだろうナスターシャからのものだ。
『ミスター。取り込みの最中で申し訳ありませんが、マリアの活動限界が近いです。
撤退の支援をお願いできますか?』
「了解した。―――悪いが奏、この場はそろそろ幕引きだ」
「あァ!?」
がなりながら大上段の振り下ろしを見舞う奏。それに対して士郎は剣で受け止める―――のではなく、剣を消すと同時に僅かに一歩分のバックステップをした。
「な―――」
これまで受け止められ続けてきたところを急に躱され、タイミングと感覚を大きくズらされてしまう。
結果、奏は槍を地面に強く叩きこんでしまい、その穂先は深く地面に埋まった。予想外というべき状態と手応えに、奏は思わず心身を硬直させてしまう。
とはいえ、彼女もすでに実戦経験を多く積んだ戦姫。戦闘への復帰までには1秒でも余りある。
だが、その刹那のような間隙は衛宮 士郎にとっては十分だ。
「フッ……!」
まさに一息。
それでもって、士郎は半ば以上埋まった穂先を上から抑え込むように踏みつけ、続いて階段を駆け上るように奏の肩を足場に跳躍する。
「ッッッ、テメ―――」
踏み台にされた反動でつんのめかけるも、とどまって勢いよく振り向く。と、その鼻先を鋭い刃が上から通過し、鏡のように憤怒に歪んだ己の顔を写し出す。
同時に、踏みしめる地面すら揺らぐ衝撃と共に自身の周囲を剣の檻が囲っていった。
「ッッの、ッッ!?」
それでもなお追わんと剣の檻を蹴散らすために槍を振り上げようとして、しかしできずに体のバランスを崩しかける。
反射的に振り向けば、地面に埋まった穂先の周囲にも剣が幾つも突き立っていた。それも、槍を抑えつける様に剣の柄や鍔が絡み合うような形でだ。
どうやら檻と囲ったと同時に、槍を封じていたらしい。見事過ぎて噴飯モノのそつのなさである。
と、見れば士郎のとの距離は既に大分離れていた。もはや間に合わないだろうことを痛感し、奏はこめかみに青筋を浮かべながら奥歯を削るように激しく鳴らした。
「――――――っっっとに、覚えておけよバカ大将ォッッ………!!!」
ギラリ、と剣呑に鈍く煌めくその眼光には、紛れもなく強い殺意が込められていた。
「―――時限式ではここまでなの!?」
「時限式? ……そうか、かつての奏と同じ―――ッッ!?」
ままならぬと憤るマリアの叫びを耳にした翼はそれが何を意味するか即座に得心する。だが次の瞬間には、戦慄と共に横合いから飛んできた
足元に転がったものを見れば、それは小さなナイフだった。持ち手が異様に小さく短いのは、ダーツの矢のように投擲のためのものだからだろうか。
「衛宮 士郎!? アナタ―――」
「潮時だ、マリア。迎えも来た」
駆け寄った士郎が言うが早いか、
とんでもない加速で現れたのではなく、まるでなにもない空間から滲み出てきたかのようにだ。
「なっ―――!?」
現実離れの現象に、翼は思わず目を剥く。それを隙と見たのか、士郎はマリアを半ば掻き抱くように後ろへと引き寄せる。
「ちょっ、ちょっと!?」
「―――、逃がさんッッ!!」
唐突なことに顔を赤らめるマリア。それを目敏く捉えた翼が、ほんの刹那『スン……』と表情を抜け落ちさせたかと思えば、次の瞬間には即座に身構えに入ろうとしていた。……その際、士郎はなぜか自身へと向けられる戦意と迫力が三割くらい増したような気がした。気のせいだろう(主観的希望)。
閑話休題。
果たして翼が刃を振りかざすよりも先に、彼女の足元が連続して爆ぜる。
「くっっ!!?」
さっき弾いたナイフが爆発したのだと気付き、立ち込める煙を振り払ってみれば二人の姿はすでに無かった。
首を巡らせながら見上げれば、こちらから離れつつある航空機から垂れ下がるワイヤーロープに二つの人影がある。
「………逃がしたか」
『チッッッ!!!』とそれだけで薄い壁くらいなら貫通しそうな力強く鋭すぎる舌打ちと共に、心底悔し気に呟いた言葉。
それがマリアと士郎、どちらに比重が置かれたものであるかは……知る由はないということにしておこう。
***
「切ちゃん、そろそろ」
「了解デース!」
響とクリス相手に立ちまわっていた調が、切歌を促した。彼女は頷いて調と共に下がると、転がしておいたままのウェルを荷物のように脇に抱えた。
その仕草はぞんざいで大雑把なものであったが、調にそれを咎めるような様子はない。
既に士郎とマリアを収容したエアキャリアが接近してくるのを感じながら、二人は油断なく二人の装者を見据えていた。
「ま、待って……!!」
そんな彼女たちを、響がよろめきながらも呼び止める。
先の不調の名残に加え、士郎の登場と離反にその動きは大きく精彩を欠いているが、それでもなお立ち上がり続ける様は流石と言うべきか。
冷たく自分を睨みつける二人を前に、響は切実な問いを投げる。
「教えて!! あなた達は、衛宮さんは、一体なんのために……!?」
誰も彼もを謀り、無法ともいえる真似をするというのか。
何の事情も見えない響は、それを引き起こしている者たちを問いただした。
それに対して、彼女たちは眉根を幾分か険しく歪めて答える。
「エミヤ シローのことなんか知ったこっちゃないデース。けど、アタシたちは―――」
「―――正義では護れないものを、護るために」
「それって……」
いったい、どういうことなのか。
何もわからないままの響に、しかしもはや話す言葉はないとばかりに二人は身を翻して跳躍した。そのまま垂れ下がるワイヤーロープを掴んだ二人と共に、エアキャリアが高度を上げて急速にその場を離れていく。
「チッ……逃がすかってんだ!」
と、響の隣でクリスが舌打ちと共に片膝を立てながらアームドギアを構えた。
直後、手にしていたアームドギアがボーガンの形から火花を散らしながら変形/展開を繰り返し、やがて長大な真紅の大型ライフルへと変貌を遂げた。銃口から左右に伸びる月牙のような三日月状のパーツだけが元のボーガンの名残を残すそれは、かつて奏との戦いで鈍器のように振るっていたものだった。
同時に、ヘッドギアも変形していく。頭部装甲が額にズレ、更に左目部分を装甲で隠すようなゴーグルが下がる様に出現する。
さらに左右の装甲が触角のように伸び先端部にカメラが展開する。形だけ見ればカタツムリの眼が近いか。
「アンちゃんとソロモンの杖を返しやがれ!!」
―――RED HOT BLAZE
本来発揮すべき機能……超精密狙撃を放たんと、ライフルとヘッドギアからの観測データを集約させて表示するゴーグルの中で、クリスは照準に意識を鋭く集中させていく。
(胴体部分はダメだ……どこに誰がいるかわからねぇし、構造が把握できてねぇから下手すりゃそのまま燃料に引火しかねない……!!
同じ理由で主翼のメインローターも危ねぇ……だとすると、尾翼を削り落としてバランスを崩すか)
測距データから、機体がすでに洋上にあることは把握できていた。
飛行不能な程度に損傷させられれば、後は海上に不時着するだろう。幾分か希望的というよりも願望といった方が正しいような予測が入り混じるが、なるべく穏便な形での阻止というならこれがベターか。
そんな結論を秒で叩き出したクリスの視界で、しかし肝心な獲物が忽然と姿を消した。
「はぁッッッ!?」
苛立ちを強く含んだ、戸惑い。
戦闘機じみたマニューバを繰り出して、照準から逃れたのではない。まるで今まで見っていたのは蜃気楼か何かであったかとでも言うかのように、ロックオン寸前の機体が一瞬にして掻き消えたのだ。
それも、単純に目に見えなくなっただけではない。索敵用に展開強化された各種センサーの悉くが、その存在を知覚できなくなったのだ。
「ッ。、クソがッ!!」
膝立ちのまま、拳を地面に叩きつけるクリス。
恐らくは聖遺物か何かの異端技術由来のステルスなのだろう、こうなれば撃ったところで下手な場所に当たって撃墜なんてことになりかねないし……そもそも、既に軌道を変えているならそれこそ当てずっぽうでしかないだろう。
「クリスちゃん……」
「―――なんでだよ」
響が見下ろすのをよそに、クリスは悔し気に歯を食いしばっていた。
取返しかけていたソロモンの杖を取り逃してしまった、というのも確かにある。
だがそれ以上に。
「なんでだよ、アンちゃん………」
自分たちが心から信頼していた衛宮 士郎という男の離反。
その事実が、どうしようもなく心を抉ってしまっていた。
そしてそれは響も同じで。
「………衛宮さん」
呟きながら、エアキャリアの消えた空を見上げる。
一日の始まりを寿ぐような朝焼けの清々しさは、しかし少女たちの暗く重い胸の内をこれっぽっちも晴れやかにはしてくれなかった。
そんな二人を、翼は離れたところから眺めていた。
そこへ、奏が足早に駆け寄ってくる。
「翼、無事かよ」
「奏! こっちは平気。そちらは」
「問題なし……気疲れは既にひどいけどな」
溜息を交えてそう返せば、翼も『同感よ』と溜息で返された。
「士郎さん、なんて言ってたの?」
翼が気を取り直すように本題を持ち上げた。読唇術に関しては彼女も収めている、というより元々は彼女が慎次から忍術の手ほどきを受けていたことが切っ掛けなのだ。
閑話休題、奏は吐息一つを挟んで問いに答える。
「……『月を調べろ』だとよ」
「月、ですって?」
「ああ。イヤな予感しかしねぇ、ってヤツだな」
言いながら、空を見上げる奏。翼もそれに続いて見上げてみれば、明るさを増していく空の中で歪な月が朧げに姿を晒していた。
土星のように細かな破片で輪を作っているソレが、そんな形に成り果てた原因となった事件が脳裏に蘇る。間違いなく、それは無関係ではないだろう。
とはいえ、原因と思しきであるとしてもそれがどのようにであるかはこれから調べることだ。
翼は話題をもう一つの懸念へと移すことにした。
「それで、士郎さんは何故戻ってこなかったの?」
と、奏の表情が露骨に歪む。苦虫と唐辛子を一度に束にして口に放り込んで噛み潰したそれを青汁で流し込んだのかというレベルだ。ぶっちゃけアイドル的にメディアに乗せていい顔ではない。
士郎のことについては翼とて思うところはあったが、それでも奏の変貌ともいえる反応に思わず鼻白んでしまう。
「か、奏?」
「向こう側から動くってよ。
ま、考えて見りゃ何が起きたにせよ、それを解決できる何かがないならここまで派手に動くことなんてないわな」
返ってきた答えに、翼が得た納得は半分だった。
理屈だけならば、士郎があちらに残り続ける理由としては十分ともいえる。スパイとも言えないような立ち位置になるだろうが、少なくともそれに乗じた暴走のようなもの抑止として動いてくれるだろう。
だが、それだけならば奏がここまで不機嫌になるとは思えない。
先を促すように見つめると、奏は眉間に皴を寄せたまま頭の後ろをガシガシと掻く。
「それと、もう一つ。―――『放っておけない』、だとさ」
瞬間、翼の表情から感情が抜け落ちた。先ほど士郎とマリアを前に披露したそれと同じように『スン……』と一瞬にしての変化は、落差として凄まじい。
「そう……つまり、いつものってこと?」
「そうだな。多分、響とかクリスとか未来とかのアレと似たような感じだろうな」
言い合って、そのまま見つめ合うツヴァイウィング。ややあって二人の視線は離れたところにいる後輩二人へとゆっくり向けられた。
空を見上げて黄昏る響に、打ちひしがれるように歯を食いしばっているクリス。
その二人を見つめて、奏がポツリと漏らす。
「………あの二人のフォロー、アタシたちの仕事だよな」
「そうね……
「ぶっちゃけ、アタシらもケッコー心配してたんだよな」
「えぇ。正直、気が気でなかったわ」
そこからさらに数拍。間を置いてから二人は同時に腰を折るようにして深く、深く、深ぁ~~~~く、溜息を吐いた。
そして再び身を起こして身を起こすのも同時なら、浮かぶ表情も一緒だった。
「翼、アタシ決めたことがあるんだ!」
「奇遇ね。私もよ!」
笑顔である。
キラッキラに輝く笑顔である。
写真に収めてネットでオークションに流せば、割とガチ目の財でも築けそうなレベルの美しい笑顔である。
ただ見るだけなら。
「あのバカ旦那、戻ってきたらガチ目に殴り飛ばそうと思う!」
「ならタイミングは合わせましょう! 威力が乗算されるよう、しっかりと!」
そいつはいい、と朗らかに笑い合う二人。
それに気づいたのか、響とクリスの二人がこちらを向いた。
ああ、いけない。まずは二人のケアを含めてちゃんと説明しなければ。
可哀想に、表情がすっかり蒼褪めている。
なんか悲しんでいるというか怖がっている感じがするのは気のせいだろう。
ほら安心しろ、まだわからないことだらけだけど、ちゃんと説明するから。
おや、そんな抱き合って。いやはや、仲がいいのは良いことだ。雪音もすっかり馴染んだみたいで改めて安心する。
いやはや全く、どこぞのスケコマシバカ旦那にも見せてやりたいくらいだな。
そうね、全くその通りだわ。
ウフフフ。
アハハハ。
ハッハッハッハッハッ………
「「ひ、ひぁああああああああああああああああああああああッッッ!!!?!?」」
恐怖に彩られた少女たちの悲鳴が
女には、例え『暴力系ヒロイン』の誹りに甘んじることになろうとも、必ず果たさなければならないケジメがある。
***
さて、いつの間にか十三階段の前に立たされていながら全く無自覚な衛宮 士郎といえば。
「テメェ、ヘタ打ちやがってッッ!!」
こちらはこちらでちょっとした修羅場の真っ最中であった。
胸倉をつかんだウェルを壁に押し付ける切歌は、よほどに頭に血が上っているのか常の口調が外れている。
彼女がここまで激昂しているのも当然と言えば当然だ。
「連中にアジトを抑えられたら、計画実行までどこに身を潜めればいいんデスか!?」
そう、こうなった以上は元浜崎病院廃墟は使えない。というか、使おうにも既に壊滅している。
エアキャリアは居住性と
これを最後の砦とするのは、背水の陣が過ぎる。
ウェルが今責められているのは、その原因である装者たちの襲撃……つまり、彼女たちに拠点がバレた理由が彼であると断じたからだ。
あの拠点は元々が廃墟となって久しく、当然ながら人がまともに住めるような場所ではなかった。それどころか、電気や水道といったインフラそのものが機能していなかったのだ。
その整備や一部の機材を含めた物資を融通してくれたのはとある反社会的組織であり、そことの交渉を受け持っていたのがウェルなのだ。
特異災害対策二課に拠点の存在がバレるとしたら、そこ以外には考えられない。
怪しいと言えば士郎こそ怪しまれそうなものだったが、こちらについては可能性は低いと早々に結論付けられていた。
信用そのものは未だ低いが、だからこそ彼女たちもその動向には警戒を強めていたのだ。少なくとも、外部との連絡をしているような素振りは今日まで見受けられなかった。
……もし、奏と繋がりである魔術的なパスの存在を知られていればまた話は違っていたかもしれないが。いらぬ濡れ衣を着せられずに済んだのは、士郎にとって僥倖だった。
ともあれ。
激する彼女に対し、しかし当のウェル本人が浮かべている表情は飄々としているものだった。
「勘弁してくださいよ。こっちはまだ頭の中身がグラグラ揺れてるみたいなんですから。
謝罪するにも、一息つきたいんですけどねェ」
「ッ、この……」
「そこまでにしておきなさい、切歌。
そんなことをしても、何も変わらないのだから」
次の瞬間にはヘラヘラとした横っ面を殴り飛ばしそうな切歌を、マリアが静かに諫める。不和を宥めるような言い草ではあるが、その実ウェルに向けられる眼差しはひどく冷たい。
それに対し、切歌は強く鼻を鳴らしながら『ムナクソ悪いデス……!』と乱雑にウェルを掴んでいた手を離した。
『
―――とはいえ、アジトごとネフィリムの餌を失ったのが我々にとって大きな痛手です』
と、そこにモニター越しにナスターシャが割り込んでくる。
自分たちの現状と一番の問題を端的にまとめた言葉に、調は隅に設置された電磁檻の中で眠っているネフィリムへと視線を向けた。
装者たちの強襲に対し、計画の要であるネフィリムと戦力的なアドバンテージともいえるソロモンの杖は死守できた。
しかし、逆を言えばそれ以外にあの拠点にあったものは全て諦める他なかったのだ。
そしてそこには、ネフィリムの糧とするために確保していたいくつかの聖遺物も含まれる。
「今は大人しくしてるけど、いつまたお腹をすかせて暴れだすかわからない……」
檻の中で、眠っているかのように蹲っているネフィリム。これが目を覚ました時、鎮めるための手段が今の自分たちには存在しないのだ。
そして同時に、それは計画遂行のために必要なネフィリムの成長そのものが滞るということでもある。
だがそれに対し、ウェルは平然とした様子で乱れた白衣を直しながら口を開く。
「確かに、持ち出した
しかし、全ての策が失われたわけではありません」
言いながら笑みを深め、見つめる先は少女たちの胸元―――そこに下がる、シンフォギアのコンバーター。
その眼差しに、調は思わず怖気と共に隠すようにしてそれを握りしめた。
「ドクターウェル。その視線は少しばかり不躾じゃないか?」
「おや失敬。そういったつもりはありませんでしたよ、もちろん」
横合いからの士郎の言葉に、両手を上げるウェル。と、彼は『それにしても』とその視線を士郎へと移す。
「衛宮 士郎……あなた、思った以上に期待外れでしたね。
二課の装者たちのこと、結局一人も倒せてないじゃないですか。
―――それとも、本気で戦えない程度の覚悟しかないんですか?」
叱責、というよりも詰るという方が正しいような言い様ではあるが、同時にもっともではある。
調たちの眼からしても、激しく衝突していた奏はさて置いたとしても動揺していた響とクリスに対してはどうとでも出来たはずだ。もっと言えば、最初の奇襲の時点で一網打尽にすることも出来たはずである。
実際に刃を交えたことのある調には、それがよくわかっていた。
とはいえ、爆弾で以ってこちらに従わせて戦わせている以上は無理らしからぬことでもある。だから、彼女としてもそれが半ば難癖のようなものであるとも思っていた。
一方、士郎はウェルの言葉に対して、しかし眉を顰めるでもなく淡々とこう答えた。
「―――お前、何か勘違いしてるんじゃないのか?
オレがこちらに付いたのは、二課を倒すためなんかじゃないぞ?」
「はぁ?」
ウェルが怪訝な表情を返してくるが、士郎からすれば全くおかしなことではない。
というか、そも前提がズレかけているとさえ考えていた。
「オレがここにいる理由―――オレたちの目的は、『月の衝突を阻止するため』だろう?」
「それは……」
言えば、ウェルが二の句を失ったように押し黙る。マリアたちも、複雑そうな表情で口を噤んでこちらを見るばかりだ。
士郎はさらに続ける。
「そちらが二課を敵視している理由はオレにはよくわからないが……少なくとも、オレから見ればそれはお前たちの個人的な事情だ。
厳しく言わせてもらえば、余分で余計な諍いだと言わざるを得ない」
「っ……!」
はっきりと言い放てば、神経を逆撫でされたのか調が眉を吊り上げて睨みつけてくる。
しかし、、彼女が何がしかを言うよりも先にナスターシャの声が割って入ってくる。
『アナタの言い分は理解しました、ミスター』
「マム……」
『しかし、現状に於いて既にこちらと二課が敵対関係にあることも事実。
この先、私たちが目的を遂行するのに立ち塞がってくるだろうことは確定しているでしょう。
その時は』
「わかっている」
モニター越しにこちらを見据えるナスターシャを睨み返しながら、士郎は静かながらも強い声音で彼女の言葉を遮った。
そう、目的がどうあれ手段が何であれ、自分たちは既に相争う関係に陥っている。そして、古巣を裏切る形で自分はここに立っているのだ。
故に。
「必要であるならば、誰が相手だろうと刃は振るうとも。―――必要なだけな」
告げたその言葉には、それこそ鞘から引き抜かれた白刃のような気迫を込められていた。
「……っ」
「……、」
『…………』
思わず、固い唾を吞むウェル。
自然と、胸元のコンバーターに指を伸ばしてしまうマリア。
黙して、その言葉を受け止めるナスターシャ。
三様に、士郎の言葉を受け止め。
その場の空気が、いつの間にか見えない風船の中に閉じ込められたかのように張り詰めていく。
そして。
グゥウウウ~~~~~~~~~~~~~~………、と。
そんな音が、緊迫した空気を一掃していった。
「ワ、ワワワ!?」
顔を真っ赤にして慌てふためきながら、激しすぎる自己主張を歌ったお腹を抑える切歌。
しかし時すでに遅く、場の雰囲気は一瞬前までと打って変わって弛緩したそれに成り果てていた。
例えるなら、燃え盛る炎を爆発で消し飛ばしたようなものか。それほどまでの破壊力が、彼女の腹の虫には存在していた。
「―――フ、」
「ちょっ、ナニ笑ってるデスか!?」
思わずといった様子で口の端から呼気を漏らした士郎に、切歌が盛大に食って掛かる。顔を真っ赤にした目元には、流石に羞恥があるのか僅かに涙が浮かんでいた。
「いや、悪い悪い。そうだな、何か軽く摘まめるものでも作るか。
この後は休むにしろ、動き続けるにしろ、空きっ腹のままというのは流石に良くないしな。
月読、手伝ってくれるか?」
「……わかった」
ガルガルと子犬のように唸る切歌に諸手を上げつつ、彼女の相方を見やる。
話を振られた調は、小さく溜息をもらしてから頷いた。
そうして士郎は踵を返し、
「衛宮 士郎。私からもいいかしら?」
背に受けた声に、足を止めた。
鋼のような後ろ姿に、マリア・カデンツァヴナ・イヴは瞳に鋭さを宿らせて問う。
「………何が狙いかはわからないけど、今はその狙い通りになっているのかしら?」
それに対して、首だけで振り返った士郎の表情は困ったように苦みの入り交じった笑みだった。
「いや、どうだかな。
何分、道半ばかも定かじゃなくてね」
***
「―――『月を調べろ』、か」
「ついでに、あっちのヤツ等を放っておけないってよ」
二課仮設本部。
次世代型潜水艦であるソレの司令部を兼ねたブリッジにて、装者たちを前に弦十郎が低く唸った。
既に浜崎病院
眉根を難しく寄せる偉丈夫に、奏はふてくされた様に付け加えた。そんな年相応らしいともいえる様子に、思わず気が抜けて頬が緩んだ。
「そう拗ねるな。アイツらしいと言えばらしいじゃないか」
「その
「アタシが言うのもなんだけど、アンちゃんのそういうところはホントどうかと思う」
宥めようとした言葉に、翼とクリスが溜息交じえてそれぞれ返す。ありありと実感の込められたその言葉に、弦十郎としては二の句も継げない。なんなら、『それはそうだ』と内心で頷いてしまっていたほどだ。
と、そんな先輩同僚をよそに響は一人だけ浮かない表情を浮かべていた。
「どうかしたか、響くん?」
「あ、いえ……衛宮さんのことは心配いらないみたいで安心しました」
「『安心した』ってヤツの顔してねぇゾ?」
クリスが訝し気に首を傾げれば、響はほんの少しだけ逡巡してから、
「―――その、了子さんのことが」
そうぽつりと呟くと、その場の全員の表情に陰が差した。
櫻井 了子―――前代のフィーネ。
苦楽を共にした仲間の面を被りながら、その妄執と恋情のままに自分たちを含めたあらゆる全てを翻弄した先史文明の巫女。
そしてその名を、今はマリア・カデンツァヴナ・イヴが名乗っていた……その事実に対し、響の胸にあるのは怒りでも戦慄でもない。
「あの時……了子さんと最後に話せた時、全部は解かり合えなくても少しは通じ合えたかなって、そう思ってました。でも……」
彼女に関しては、結局最後までわからないことばかりだった。
理由を聞かされても、そうなるまでの執念も熱情も、己にとっては未知のものでしかない。
それでも。
『胸の歌を、信じなさい』
そう遺してくれたあの人は、散ってしまう直前まで自分の知っている笑顔で。
それが、自分たちを隔てている理解しがたい溝をほんの少しでも埋めてくれたような気がした。
だが、響の脳裏で了子から金髪のフィーネに変わった面影が重なるようにマリアに置き換わる。
名前もよくわからないままの二人の装者も含め、刻まれているのは冷たい拒絶の眼差しだけだ。
それが、自分がかつて得たと思っていたものがただの錯覚でしかないと突きつけられているかのようで。
そのことが、響の心を寂寞で冷たく侵していく。まるで、氷で出来た鎖で鋭く締め付けてくるかのように。
俯き、口を噤んでしまう響。
それに釣られるように、他の三人の表情も陰りを得てしまう。
だが、それも無理もない。櫻井 了子あるいはフィーネ、その人物に複雑な感情を抱いていない者など、この場には一人とていないのだから。
それでも。
「
弦十郎が、語気も強く言葉を紡ぐ。
その力強さに顔を上げてみれば、そこにあったのはまっすぐで力強く、迷いのない眼差しだ。
「通じないなら、通じ合うまでぶつけてみろ!
………言葉よりも強いモノを、知らぬお前たちではあるまい!!」
「師匠……」
拳を握り締めての、力説。
理屈とも言えない、道理とも思えない言い様に、響は力強く頷いた上で『パチン!』と自身の両頬を張る。そして。
「言ってること、全然わかりません!!
―――でも、やってみます!!」
師に負けない、力強い言葉と眼差し。
凛と開かれたその瞳には、確かに炎が蘇っていた。
そしてその炎の熱が伝播したかのように、他の少女たちの表情にも柔らかいものが戻っていた。
その様子に、弦十郎も安堵に表情を緩めて頷いた。
「その意気や良し、だ。……諸々の調査はこちらに任せて、皆はしばらく英気を養ってくれ。
特に、近く学院で祭りもあるんだろう? 存分に楽しんでくるといい。
―――それでは、解散!」
「ハイ、お疲れさまでした!! ……なんか、落ち着いてきたらお腹すいてきちゃった」
「うーっし、それならお姉さんがカワイイ後輩たちにご飯を奢ってあげよう!」
「っと!? オイ、後輩
ほにゃりと笑いながらお腹を軽く抑える響を、その隣にいたクリス諸共に肩を寄せ合うように抱きながら奏が笑顔で告げる。
不意打ちを受けてクリスもそんな風にぼやきながら、しかし満更でもないように見える。
そんな風に賑やかな三人について行きながら、翼は弦十郎の方へと改めて振り返り、
「それでは、失礼します」
綺麗な一礼をして、全員が揃ってその場を後にした。
………。
そうして、反動のように静寂を強調されること暫く。
「―――、フゥ―――――」
弦十郎は、天を仰ぐようにしながら深く深く息を吐いた。
浮かぶ表情は、先ほどまでとは打って変わって重く険しいものだ。正に『巌の如く』という表現が相応しいソレは、仁王像じみていてむしろ彼の容貌には似合いすぎていた。
彼が、そんな顔をしている理由。
マリアたちの決起の理由とされる月のことと、再び立ちはだかるフィーネという存在。
そのどちらもが、日本国内においても米国との関係においても、小さくない混乱と騒動の火種となるから―――
それも確かに悩ましい問題であるのは確かだが、いま彼の心を占めているのは別の問題だ。
それは。
「風鳴司令」
それまで、そばに控えていながら発言を控えていた慎次が口を開く。
こちらも、好青年然とした柔和で端正な顔つきには似つかわしくない沈痛で暗い表情となっている。
「……士郎は、わかっているんでしょうか?」
「そうだな。恐らくは、だが」
疑問というよりも、確認という方が正しいような問いかけ。
今まさに弦十郎の心を占めていた問題に、彼は
ああ、そうだ。あの男はきっとわかっているし、自分もそれはわかりきっていることだ。
「アイツはきっと、全て承知の上で……この道を選んだんだろう」
衛宮 士郎とはそういう男。
それを、この三年弱という付き合いの中で痛いほど理解しているから。
だから―――こんな風に、言わずにはいられないのだ。
「………バカ野郎が」
この場にはいない
当然のように、届くことなく虚しく消えていった。
●●●
【教えて!? ブルマ師範!! ぷち】
○読唇術
士郎、奏、そして翼が習得したそれは、慎次の教授によって習得した『忍術』の一つである。
本来の目的としての使用も可能だが、どちらかといえばその派生とも言える『声なき会話、意志疎通の成立』としての使用機会の方が圧倒的に多かった。
暗号会話としての使用は単純に唇の動きを読むのではなく、ある種の符丁も交えたものであり、同じ技術体系で習得した者同士でこそ成立する秘匿性の高いモノとなっている。
作中での士郎と奏のソレは戦闘中であったことと当人たちの習熟の度合いからそこまで高度なものではなく、単語を繋げただけのごく簡単な会話でしかなかった。
しかし、それでもマリアたちに知られることなく僅かなれども情報を引き渡せたのは紛れもなくこの技術による成果である。
師「ちなみに、当然ながらこの作品オリジナルの技能であるのでご了承くださーい」
α「というか、どういう経緯で覚えたんだ?」
β「元々、影縫いからも分かるように翼さんは緒川さんにある程度の師事を受けていた(公式設定)ので、それ以外の技術も習っているんじゃないのかっていう想像から膨らませていった結果なようです」
師「イメージとしては翼が習っていたのをシロウも興味を示して、そこから更に奏もノっていったっていう感じね」
β「どちらかというと、一緒に習うってこと自体がある種のコミュニケーションとかスキンシップみたいなものということですか」
師「ちなみに、当然ながらアニメ原作の慎次の方も、読唇術が使えるなんて設定は何処にも存在していないわ。ただ……」
α「ただ?」
師「………腕の急速な振りだけで弾丸の軌道変えたり、車ごと分身したりなんて言うのを使えていて、むしろ読唇術が使えないなんて方がおかしい……ってことで、悩むことなく展開に組み込んだらしいわ」
α・β「「根拠皆無なのにすごい説得力……!」」
https://twitter.com/juei_another
X(旧:Twitter)やってます。更新予告とかしてるので、よろしければフォローしてくれると嬉しいです。
できれば六月中に更新を目指してましたが、ちょっと間に合いませんでした。
そんなわけで二分八話です。
なんか今回もあんまりお話としては進んでない感がありますが、どうにか下地はできたかなと。
読唇術については、士郎の方はもともと独学で学んでそうなイメージがありましたがですが、内緒話を奏とさせるうえで(通信越しのナスターシャを含めて)誰にも悟らせないようにと考えたのが『忍術としての読唇術』という設定だったりします。
これ、翼が慎次に師事してたっていう公式設定があっての展開なので、そういう意味でも緒川さんはナイスフォローって感じでした。さすがニンジャ。
ドクターウェルに関しては少し厭味ったらしくしすぎてしまっただろうかという不安があったり。
彼はこういう風に動かしてもおかしくないキャラではあるんですが、一応この時期はまだ比較的紳士的な面も強かったですしね。
ただ、これについて補足するとこの作品のウェルは士郎のことを嫌ってるし、ものすごく相性が悪かったりします。
士郎はともかくウェルはそのことを自覚した上で彼に対して対応しているので、士郎と絡む分には原作同時期よりもネチネチしやすい状態になってたりします。
そして意味深な慎次と弦十郎の会話。
これが意味するところは何なのか、明かされるまでしばらくお待ちください。
………具体的にいつになるのかっていうのは聞かないでくれるとありがたいです(震え声
と、ここから雑談。
まずFGO。
新規獲得鯖はロクスタ。
………ドラコ―は結局手に入らなかったです。おはガチャも毎日欠かさず回してたのに……(哀
そのせいか、あんまりテンション上がんない感じですね。
周回とかも気力あんまりわかない状態。
ただ、成果が他になかったのかと言われるとそうでもなくて、実はようやく黒聖杯が完凸しました。
これで高難易度周回も怖くない。
次に、ブルアカ。
メインは最終章まで到達したので、そこ進める前に過去イベの方消化してる最中ですね。
……水着カンナとか出ませんでした。
なんかこう、FGOと違ってユニットしか出ないガチャなのにPUがあんまり出ないんですよね。
あと、シロコの神名が集まったので引き換えでお招きできるんだけど恒常キャラだしガチャから出るまで取っておいた方がが良いんでしょうかね?
と、今回はこの辺で。
なんかもう、これ書いてる時点でまだ7月初めなのにすでに暑さがやばいですね。
皆様、変にガマンなどせずにクーラーとかでちゃんと涼は取りましょう。
水分と塩分などの補給も忘れずに。
ほんとうに、お体に気を付けてくださいませ。
そんな感じで、また次回。