戦姫絶唱シンフォギア赫鋼―アカガネ―   作:樹影

41 / 45
 https://twitter.com/juei_another
 X(旧:Twitter)やってます。更新予告とかしてるので、よろしければフォローしてくれると嬉しいです。

 今、個人的に注目してるマンガは『魔男のイチ』。
 アンニュイながらもふてぶてしい褐色ヒロインデスカラスとメンタルがいろいろ突き抜けてる主人公が素晴らしい。


9:Open The Festival/Need To Know

***

 

 

 

 ―――秋桜祭。

 リディアン音楽院で年に一回取り行われる、いわゆる学園祭。

 実際のところ先のルナアタック事変もあり、校舎の引っ越しや生徒数の減少などもあって今年は中止も検討されていた。

 しかし、『だからこそ』という多くの声と生徒職員の努力により、こうして無事に開催の日を迎えていた。

 普段は関係者以外に固く閉ざされている門も、手作り感が溢れる装飾と共に広く開かれ一般の人を含めた多くの人間を受け入れている。

 更にその内側では、生徒たちが営む出店に一般客や休憩なのだろう生徒たちが楽しんでいた。

 元々がミッション系の校舎だったこともあり、そのレトロな趣のある外観と相まってある意味テーマパークのような賑わいを見せている。

 その盛況な祭りの只中に、切歌と調は紛れ込んでいた。

 

「あ~、む! ……ん~、おいしいデース!!」

「………」

 

 出店で購入したばかりのクレープに舌鼓を打つ切歌。変装なのだろうか、その顔には緑色のフレームの伊達メガネが掛けられている。

 そんな相棒を、色違いのピンクの眼鏡を装備した調がジト目で睨んでいた。こちらもクレープを手にしている。

 と、その眼差しに気付いた切歌が弾かれたようにハッとした。

 

「調、もしかしてイチゴよりもこっちのブルーベリーの方が良かったデスか!?」

「ちがうそうじゃない」

 

 調は呆れ半分にそう言うと、持っていたクレープをさっさと平らげてしまった。

 苛立ち交じりの様子を切歌に対して見せているのは、彼女をして珍しい。そこには当然、理由がある。

 

「―――。切ちゃん、私たちがここにいるのは『お祭りを楽しむため』じゃないんだよ?」

「う……わかってるデース」

 

 クレープに嚙り付きながら、若干バツが悪そうにする切歌。

 調が言う通り、二人がこの場にいるのは学園祭を謳歌するためなどではない。

 ここにいるだろう二課の装者……彼女たちの持つ、シンフォギアのコンバーターを奪取せんがためだった。

 

 

 

 先の戦闘でアジトを失い、同時にネフィリムの餌となるべき聖遺物も失った。

 その代案として手近にある聖遺物の欠片……つまりシンフォギアの核となっている物を思い浮かべたこと自体は、さほど不自然なことではないだろう。

 無論、自分たちのソレを手放すわけにはいかなかった。ただでさえ乏しい戦力を失うのは愚策以外の何者でもない。ならば狙うべきは二課の持つソレである。

 まずマリアがそれに名乗りを上げ、それを即座に二人が反対した。

 何故ならば。

 

(マリアが力を使えば、その分だけフィーネの覚醒が進行していく。つまり―――)

(マリアの魂が、フィーネに塗りつぶされてしまうデース……)

 

 少なくとも、二人はそう聞いていた。

 そしてそれは、彼女たちにとって決して受け入れられるものではなかった。例えそれが、これからのことに必要なことであるかもしれないと、わかっていてもだ。

 だから、代わりに自分たちが乗り出した。ナスターシャにも知らせず、半ば強行的に。

 自分たちが信じる大義と、大切な仲間(かぞく)のため。

 だから―――

 

 

 

「そのために! この『うまいもんマップ』を完成させて、捜査対象を絞り込むのデス!!!

 ええ、人間誰しもおいしいモノには引き寄せられるものデスからネ!!」

「………ムー」

 

 こじつけですらない相方の主張に、調は半眼で頬を膨らませながらにじり寄った。傍から見れば可愛らしくもあるが、されている側から見れば静かな威圧感を感じてしまう。

 

「ア、アハハ……冗談デスよ、調」

「まったく、もう」

 

 冷や汗交じりに笑いながら広げて見せていた『うまいもんマップ』をポケットに突っ込む切歌。

 その姿に、調は呆れ半分の溜息を禁じ得なかった。

 正直、切歌が浮かれてしまう気持ちはよく分かった。自分も、こんな状況でなかったら時間を忘れて楽しんでしまいそうなほどだ。

 ()()()()()懐が温まってしまっている現状では、猶更に。

 

(まさかよりによってお祭りの日とかち合うなんて。

 ()()()、『軍資金だ』って言って押し付けてきたけど、まさかそれってそういう意味だったの?)

 

 実は出発直前、こちらを見つけリディアン(ここ)へ向かうことが士郎にバレてしまった。

 幸いにして彼はナスターシャにそれを密告することはしないと確約してくれたが、その時についでにお金をいくらか融通してきたのだ。

 調はそれを怪しんだのだが、断るよりも先に切歌がそれをニコニコ笑顔ですんなりと受け取ってしまっていた。良くも悪くも素直すぎる相方である。

 なし崩しに自分もそれを受け取ったのだが、今の状況を鑑みれば彼の感覚からすると『お駄賃』のようなものだったのかもしれない。

 そう考えると、露骨な子ども扱いに苛立ちを抱かずにはいられなかった。

 

 しかし、それはそれとして今の状況が自分たちにとって都合がいいのは事実だ。

 お陰で何の苦労もなく装者たちのホームともいえる学園に入り込むことができた。

 だがそれでも、根本的な問題は解決できていない。

 そう、装者を発見し、速やかにシンフォギアを奪って帰還するというこれ以上ない難問が立ちはだかっている。

 

「……いや、実際問題どうしたもんかデース」

 

 切歌が溜息を洩らしながらそう零す。

 周囲に行きかう多くの人々。潜り込むまでは味方だったそれは、今は障害の一つとなっている。

 この人ごみの中から標的を見つけ出すのは難しいし、その上でギアのコンバーターを奪うとなると更に厳しい。

 運良く装者を見つけ、幸運を重ねて掠め取ることが出来たとしても今度は善意の第三者がそれを阻もうとしてくるかもしれない。

 最悪は力づくとなるかもしれないが、切歌としてはそれは御免被りたかった。

 兎にも角にも、まずは装者を見つけなければ―――

 

「!! 切ちゃん、カモネギ―――!」

「ちょ、ちょっと待つデス!!」

 

 そんな風に視線を巡らせれば、渡り廊下を歩く風鳴 翼の姿が。

 喜び勇んで駆けだそうとする調を、切歌は慌てて引き寄せながら木陰に身を隠した。

 引き寄せた勢いで社交ダンスのように調を横抱きするような体勢となってしまい、切歌はそのまま調を嗜める。

 

「策も心の準備もナシじゃ、カモもネギもないデース!」

「ご、ごめん切ちゃん」

 

 先程とは逆の立場になってしまい、反省する調。

 二人は文字通りに息を合わせて深呼吸をすると、顔を見合わせて頷き合う。

 何はともあれ、こうして見つけることができたのは正しく千歳一遇。この機を逃すわけにはいかない。

 

「跡をつけて、チャンスを待とう」

「デス!!」

 

 そうと決まれば、と言わんばかりに二人は木陰から様子を伺わんと恐る恐る頭をせり出して、

 

 

 

「「「………あ」」」

 

 

 

 ポスン、と。

 二人の顔が柔らかい何かに当たった。

 具体的に言うと、見知らぬ女性の胸と腹にだ。

 その瞬間、調と、切歌と、女性の間の抜けた声が重なった。

 

「「ご、ごめんなさい(デス)!!」」

「あぁ、いいわよ。気にしないで」

 

 二人はびっくりしながらも後ろに飛びずさって頭を下げた。

 そんな二人に、『気にしないで』と笑って手をパタパタ振るのは、柔らかいつば広帽を目深に被った女性だ。全体的になだらかな山形の白いソレからは、染めているのか鮮やかすぎる金髪の房が両サイドから延びている。

 赤みがかった色合いのサングラスをしていて、口元は柔らかい微笑みが浮かんでいる。

 と、謝った拍子に切歌のポケットから『うまいもんマップ』が零れ落ちた。ヒラリと足元に滑り込んだそれを女性はおもむろに拾い上げてのぞき込むと、『あら』となにかに気付いたような声を上げた。

 

「今年もちゃんとあるのね、こういうお店。……ねぇ、良かったら一緒にお茶でもどうかしら?」

「はぇっ!?」

「あの、えっと……ごめんなさい!」

 

 あまりにも唐突なお誘いに、思わず面を食らってしまう二人。戸惑いつつも、切歌よりも率先して断りを入れて、調は踵を返した。

 切歌もそれに倣い、二人が揃ってその場を後にしようと駆けだそうとする。しかし。

 

「も~う、そんな固いこと言わないで!!」

「「ぅわっ!?」」

 

 

 そんな二人を逃がさないとばかりに、女性が後ろから纏めて抱き締める様に捕まえてしまう。

 女性の腕がそれぞれの肩から首元へと回され、更に引き寄せられる。ほとんど不意打ちのような行いに、二人は揃って抵抗する間もなく足を止めさせられてしまう。

 

「っっ、いいかげんに―――」

 

 このままでは翼を見失ってしまうという危惧と、こちらの都合を一顧だにしない女性の非常識さ。その二つに調が苛立ちと共に睨みつけながら声を上げようとして、

 

 

 

「―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ()()()()()()()()()♡」

「「っっ!!?」」

 

 

 僅かに低くなった声音で放たれたその言葉に、水をぶちまけられたかのように鎮火させられた。

 同時に、あまりの驚愕に二人が揃って言葉を失う。動きが止まったのを良しとしてか、女性がさらに力強く二人を引き寄せた。

 

「あ、なた……」

 

 肺を直接握りしめて絞り出したような、調の声。それに対して女性は―――天羽 奏は、ニッコリと微笑んで見せた。

 

「安心しな。お姉さんが奢ってあげるからさ♡」

 

 僅かにズレたサングラスから覗く瞳に見つめられ、ウインク交じりに向けられた笑み。

 その快活なはずのソレが、極至近距離にある調からはどんな獣が牙を剥くよりも獰猛な表情に写った。

 

 

 

***

 

 

 

 リディアン音楽院はその名の通り音楽関連に力を入れた学院である。その背景には聖遺物の起動に必要なフォニックゲインを発生させ、シンフォギア開発以後はその装者としての適性を持つ人員の発掘と育成という目的が秘されていたのだが、それはひとまず置いておく。

 生徒の希望や適性に合わせて様々な学科が存在し、その一つが翼が在籍する芸能科である。

 そして芸能科が存在する以上、翼と奏(ツヴァイウィング)の例を挙げるまでもなく多くの有名人が在校生のみならずOGやその関係者に名を連ねているということだ。

 秋桜祭には一般客に混じり、そういった人物も多く足を運んでくる。

 当然、知名度の高さを自覚している者はそうとわからない装いで訪れているし、他の一般客に対しても騒ぎを起こさないように注意喚起を行っている。また大きな騒ぎを起こした場合は一般客であれ著名人であれ、容赦なく強制退場に処すということは周知が重ねられていた。

 それでも発覚すれば大なり小なり注目は避けられないし、度を越してしまう傍迷惑な人間というのもごく稀に出てきてしまう。

 また、騒ぎ立てることはなくてもそういった有名人を見つけることを楽しむような者もいるので、注目を浴びてしまう側としては中々に気が休まらなかったりする。

 それら諸々の悲喜交々を含めて秋桜祭の風物詩である……と結論付けてしまうのは些かに無情だろう。

 

 さて、長くなってしまったので要点を搔い摘んでシンプルに結論につなげよう。

 秋桜祭には芸能人などの有名人も多くやってくるので、そのニーズに応えた催しや出店なども珍しくはないということだ。

 例えば、座席をカーテンやパーテンションで区切ることで周囲の不躾な視線などから解放されて寛げる『個室喫茶』なんてものとか。

 

 

 

 

「ホラ、遠慮せずに召し上がれ」

 

 ボックス席(正確にはそうなるように並べた教室の机と椅子)の向かいに座る調と切歌へそんな風に薦める奏。

 彼女の前には注文したケーキと紅茶のセットが並べられており、学園祭らしい紙コップと紙皿とプラスチックフォークという安っぽさに反して琥珀色から漂う(かぐわ)しさは本格的だ。恐らく、ちゃんとした茶葉を使っているのだろう。

 それらから少し離れた横には、彼女が変装に使っていた帽子とサングラス、それにエクステが置かれている。流石に頭の後ろで纏めて丸めた髪型のほうは崩せないが、それでも荷を下ろしたような解放感は一入(ひとしお)だ。

 品の良い香りを楽しみながら茶を啜る奏に対し、調は同じように茶とケーキを前にしてしかし手を出さずに眼前の彼女を睨みつけていた。

 切歌の方はそんな調と奏とを、どこか肩身が狭そうに視線を行ったり来たりさせている。

 

「オイオイ、月並みな言い方になるけど毒なんか入ってねぇよ。

 というか、ちゃんと自分でメニュー選んだろ?」

「………、」

 

 そう言われて、渋々と紙コップを口元へ傾けた調。やや渋みを感じさせながらも、仄かに甘味を含んだ香りが鼻に抜けていく感覚に目を丸くする。

 

「ふわっ!? このケーキ、メチャンコ美味しいデス!?」

「だろ? こういう出店はアタシみてぇなのが利用する分、店員やる生徒へのコンプラ教育もしっかりしてるし、出す料理も他ン所よりもクオリティが高めだからオススメなんだぜ?」

 

 と、目を輝かせて絶賛する切歌と奏の会話で正気に戻る。

 調は紙コップをテーブルに置くと、奏を意識して強く睨みつける。相方の様子に気付いた切歌も、慌てて手を置いて奏へと向き直った。

 そんな二人に、奏は傾けていた茶をテーブルに戻しながら小さく溜息をつく。フラットになった眼差しには、若干の呆れが付与されていた。

 

「ンだよ、食べ物には罪がねぇんだから嫌いじゃないなら残すなよ?」

「………目的は何?」

 

 奏の物言いを無視して、調がそう問いかけた。

 奏はつまらなそうに鼻を鳴らすと、椅子の背もたれに深く体重を預けながら答える。

 

「目的っつってもな。たまたまお前さんたちを見かけたから、後輩の真似事がしたくなったっつぅか……ま、ちょっくらお話ってやつをしてみようかと思ってな」

 

 言いながら、ガラじゃないなと苦笑が浮かぶ。

 それに対し、調はあからさまに鼻を鳴らす。

 

「偽善者が偽善者の真似事?」

「し、調……」

 

 あからさますぎる挑発に、切歌が表情を引きつらせる。彼女とて似たような気持ちを抱いていたが、流石にそれを本人にぶちまけた相方には肝を冷やされてしまう。

 だがそんな調の物言いに、奏は何でもないように肩を竦めるだけだ。

 

「偽善、偽善者ねぇ……まあ、少なくともアタシに関しちゃぁ割と的外れでもないか。

 根っこの理由に復讐なんてもんが含まれてんなら、そんなこと言われてもしょうがねぇっちゃしょうがねぇ」

 

 自虐をを含ませながら諧謔じみた物言い。ともすればある種の挑発にもとられてしまいそうなソレに、しかし調たちはたまさか目を丸くした。

 

「ふく、しゅう?」

「―――()()()()()()()()()()()()、知らなかったのか?

 アタシが戦う理由、始まり、きっかけ……アタシの家族を根こそぎ奪いやがったクソッタレのノイズをブチ殺し尽くすためだって」

「………っ」

「うぅ……」

 

 調のオウム返しに答えるその言葉には、しかし納得と共に呆れが多く含まれていた。言葉の端で、『予想通りであった』と匂わせながら。

 それに対して喉を詰まらせたかのように押し黙る調に、表情を歪ませて呻き声を漏らす切歌。

 図星を指された二人の様子に、奏は暫く押し黙って二人を見つめていたが。

 

「………………………クッ」

 

 ややあって、肩を揺らして吹き出した。

 そんな奏に二人は呆気に取られたようになるが、彼女はそれこそ気にすることなく背もたれに体重を預けて椅子を傾けながら笑い出す。

 

「フッ………ハッハッハッ。了子さんからも、フィーネになったっつぅマリアからも聞いてなかったか。

 いやぁ、そんなことだろうとは思ってたけどよ。本当にそうだって突きつけられるとなぁ。ハッハッハッハッ……」

 

 それは楽しむでも嘲るでもなく、まるで膨らませていた風船から空気が抜けていくような、力が抜けていく笑い方だった。

 ややあって、『―――ハァ』という溜息と両腕をダランと放り出しながら一言、ポツリと漏らす。

 

「あー、アホらし」

「っっっ!」

「し、調!!」

 

 その物言いに、調が思わず椅子を蹴倒しかけながら立ち上がる。そのまま怒鳴りつけそうな相方を、切歌が慌てて抑えつける。

 これが個室喫茶でなければ、店内の注目を一身に浴びていたかもしれない。

 それで幾分かの冷静さを取り戻したのか、怒鳴りつけることはしなかった。しかし、奏を睨みつける眼差しは何処までも苛烈に鋭い。

 しかし、奏の方は椅子をギイギイと傾けて天井を仰ぐばかりだ。

 調は怒りに薪がくべられるのを自覚しながら、吐き捨てるように言葉を投げる。

 

「それが何だっていうの。そんなこと、関係―――」

「だぁからよぉ」

 

 調の言葉を遮りながら、奏は椅子を戻す勢いで再び二人を見据える。

 その冷たく鋭い眼差しに二人はビクリと身を震わせながら射竦められ、

 

「相手とツラ突き合わせる距離で、ネットに書き込む程度の認識でモノ言ってきてんじゃねぇよ」

「……っ、」

 

 その言葉で以って、今度こそ本当に言葉を失った。

 それは奏の眼光によってもたらされたものでもあり。

 同時に、奏の言葉が今まで無意識に目を逸らし続けてきた図星であったからでもある。

 

 そのまま、無言で視線が交錯し合うこと暫し。

 ふと、奏が肩の力を抜くようにため息を漏らした。

 

「―――っんと、アホらし」

 

 言いながらテーブルに頬杖を付くと、呼吸すらも憚れるような張り詰めた空気は霧散した。

 とはいっても、奏の眉根は苛立たし気に歪んだままだ。調と切歌が肩の力を抜くにはまだ雰囲気は刺々しさを保っている。

 深呼吸のように息を整える調と切歌を見据えながら、奏は声音に呆れと苛立ちをない交ぜに乗せた。

 

「年長者としてのアドバイスだ。アタシはともかく、響には偽善者だなんだって言ってやるなよ?

 ………そういうの、後になってテメェ自身に刺さって来たりするからよ」

「なにを―――」

「実際、お前らの目の前にいる()()()()()()()()()()()()()()

 

 その言葉に、何のことだと呆ける様にキョトンと目を丸くする二人。

 それに対して、自嘲気味に笑いながら肩を竦める。

 

「だってそうだろ?

 アタシ、アンタら二人の名前だってロクに知らねぇんだからな」

 

 そう、アホらしいと呟いたのはまさにそれ。

 自分が彼女たちに抱いた怒りの理由を、そのまま今の自分がなぞっていたのだ。

 まさしくブーメラン。目から出たものと鼻から出たものの比較ほどに下らない。

 そう思い至ってしまうと、憤慨していた己自身が道化のようだと呆れてしまった。

 

(やっぱ後輩(ひびき)みたいにゃいかねぇな)

 

 立花 響ならば、『だとしても』と奮起して相手に歩み寄ろうとするだろう。

 何度否定され、手を振り払われようとも手を伸ばすことを諦めはしない。

 しかし、翻って自分はそういうのには向いていないと自覚する。少なくとも、己一人でそれをするのは難しいと痛感した。

 

 奏自身は、誰かと積極的に交流を持つこと自体は好ましいと感じる人種だ。

 初対面の相手とも、物怖じせず話せるしともすれば仲良くもなれるだろう。有体に言って、社交性そのものはかなり高い。

 ―――しかし、()()()()()()はダメだ。

 互いの間に何らかの確執がある相手と、ただ腹を割って話すというのはどうにも向いていない。

 それはかつてのクリスであり、そして今は目の前にいるこの二人だ。

 何故なら、()() ()()()()()であるから。

 応報を是とし、報復を礼賛する―――そんな人間であるからこそ、彼我にある因果を清算しないままになあなあで流すということなど、到底受け入れられるものではなかった。

 要するに。

 

(やっぱケジメってのは大事だよな)

 

 己の(サガ)というものを改めて実感しながら、奏は紙コップの中身を干して席を立った。

 そのまま、手早くウィッグと帽子を装着していく。

 

「どこに……」

「どこでも。金は払っておいてやるから、追加でなんか頼みたきゃ自腹で食いな」

 

 テーブル脇に添えられていた伝票を摘み上げてヒラヒラと掲げながら、奏はサングラスをかけてその場を後にしようとカーテンに手をかけた。

 それを、

 

「―――ちょっと待つデス!」

 

 切歌の声が引き止める。

 怪訝に振り返れば、彼女は立ち会が立ってこちらをまっすぐと睨み返してきた。

 

「………私は『暁 切歌』、シンフォギアは『イガリマ』!

 こっちは『月読 調』、ギアは『シュルシャガナ』デス!!」

「切ちゃん!?」

 

 唐突な紹介。奏はそれに面を食らうでもなく『へぇ……』とサングラスの奥で目を細めた。

 

「なんだ、お前さんはアタシとお話をする気になったってのかい?」

「そーじゃないデス! ―――アタシたちと、()()で勝負デス!!」

 

 言いながら、切歌は先ほどまで奏が背にしていたパーテーションを指さした。

 そこには出し物の宣伝だろう張り紙がいくつか張り出されており、切歌が指しているのはその中で一番目立っているものだ。

 それを見て、奏は不敵に笑みを深める。

 その内容は―――

 

 

 

***

 

 

 カーンッッッ!!!

 そんな甲高い鐘音が尾を引いて響き渡るとともに、伴奏は中断されステージ中央の少女は愕然とした。

 その身には、知る人ぞ知る往年の名作アニメ『電光刑事バン』の衣装を纏っている。

 

「えぇ、まだフルコーラス歌ってない……二番の歌詞が泣けるのにぃ~!!」

 

 かくして、少女……板場 弓美の『アニソン同好会の設立』という野望は水泡に帰したのだった。

 嘆く彼女を、同じく劇中作品のコスプレに身を包んだ友人である安藤 創世と寺島 詩織が宥めながら引っ張っていく。特に、創世の方は恥ずかしいのか顔を真っ赤にしてそそくさと足を動かしている。一方で詩織の方は割とノリノリに見えるあたり、何気に豪胆である。

 

「―――さて! 秋桜祭歌謡大会、これにて前半を終えて盛り上がってまいりました!!

 飛び入り参加もOKなこの大会、優勝者には当校生徒会の協力の下に可能な範囲でお願いを一つだけ叶えます!!

 今そこで聴いて観ているアナタも! 喉に覚えがあるなら揮ってご参加ください!!

 といったところで、これから後半の準備を兼ねてしばらくの休憩を挟みますので、ご了承くださいませ」

 

 それでは~、と。

 司会進行役の生徒が引っ込むと同時に、観客席が俄かに賑わいを増していく。

 校内のコンサートホール、元がミッション系故に恐らくは聖歌や讃美歌のために誂えられたのだろう設備の座席は、多様な観客で満席となっていた。

 前半の部を終えて、場は中々に盛り上がっていた。音楽系の学校ということもあり、出場者のレベルも揃って高かったのも大きいだろう。

 インターバル中のみに許される客席の賑わいの中、最後方側の席に響と未来と翼の姿が混じっていた。

 

「あはは……ちょっと残念だったね、三人共」

「う、うん。気合はたっぷりだったもんね」

「そうだな」

 

 やや笑顔を引きつらせている響と、同じような表情を浮かべながら彼女を挟んで座る二人。

 ともあれ和気藹々(?)と出し物を楽しむ姿は、他の生徒たちと変わらないありきたりでありふれた少女の姿だ。

 マリアたちのこと、士郎のこと……気掛かりは多々あれど、今この一時だけは当たり前に青春を謳歌していた。

 いや、むしろこれこそが当たり前で正しい在り方であるはずなのだが―――そうさせてはくれないのが現実だった。

 しかしだからこそ響と翼はそれを全力で楽しもうと取り組み、秋桜祭を堪能せんとしていた。そのおかげもあってか、二人は一時とはいえ良い意味で戦いを忘れられていた。

 ―――むしろ、そんな二人を慮る未来の方こそが却って内心で心配を募らせてしまっているくらいだった。

 

(……けどま、なにはともあれ。

 響もだけど、翼さんも楽しんでくれてるみたい)

 

 隣に並んで座る二人の様子をチラリと見て、未来は安堵と共に微笑み―――同時に、チクリと胸に刺すモノを自覚する。

 翼もそうだが、響からはほんの数日前までの思い詰めた様子は払拭されているように見える。少なくとも、背負い込んでいたものが軽くなったかのような安心感めいた何かがあるように思えた。

 それはお祭りの雰囲気によって癒されたからというだけではないだろう。なぜなら、お祭りが始まる前からその兆候があったように思えたからだ。

 事態が解決に至っているか、その目途がついているかとも思ったが………すぐにそれは違うと思いなおす。

 もしそうならば自分にもそう伝えてくれるだろう。仮に守秘義務などで喋れないにしろ、それならばもっとわかりやすく安堵しているに違いない。

 ならばなんだろうと考えて、すぐに推測が立つ。

 

(―――、()()()()

 

 未だ、音沙汰のない年上の知人。料理の先生。―――響たちと肩を並べる、戦友。

 マリアたちの決起から響が消沈していた理由の一つだろう存在。

 未来は一切の確証を持ちえないながらも、彼女たちモチベーションの回復の原因がそこにあるだろうことを察していた。実に恐ろしきは乙女の直感か。

 

(多分だけど、今まで音沙汰もなくて安否も不明だったのが、元気だったって判明した感じかな。

 学園に戻ってきてないし、私の方にも連絡を寄越してない辺りいろいろ複雑な状況なのかも)

 

 ここまで来ると未来予知の何歩か手前かもしれない。何も知らない状態で、大まかな本質そのものは外していないのだから。

 もしこの場の二人にその持論を披露すれば表情を引きつらせて目を盛大に泳がせていただろうし、クリスならば唖然として、奏は何周か回って感心と共に拍手を進呈していたかもしれない。

 

 閑話休題。

 それがなぜ未来の心をささくれ立たせるのかといえば、それは()()()()() ()()()()()()()だ。

 響が表情に陰りを見せていた原因。

 その陰りが幾分かでも晴らした原因。

 そのどちらもが、衛宮 士郎という男の存在だ。無論、推測でしかないけれど―――多分、まちがいではないだろう。

 そして性質が悪いことに、それは恐らく彼が狙ってやったことではない。或いは幾分かは自覚しているかもしれないが、きっとそれは結果論のような物なのだろう。

 

 彼は、衛宮 士郎は、きっと。

 『他の誰か』のために、自分の損を取りに行った。

 それがきっと、響たちにも幾分か伝播したのだろう。

 そして彼女たちがそうなっている理由は、『衛宮 士郎』という人物が彼女たちの中心に深く根付いているからで。

 ああ、つまり。

 

(―――私、衛宮先生に嫉妬してるんだ)

 

 自覚して、納得と自己嫌悪がドロドロに混ぜ合わされる。

 無自覚に、響を振り回す青年の存在が妬ましくて。

 誰かのために体を張っているだろう相手にそんなことを考える自分が醜くて。

 腹と言わず胸と言わず、自身の体の薄皮一枚下でまるで蛹の中身のようにドロドロと濁ったモノが渦巻いている錯覚を覚えて、吐き気を催しそうになる。

 

(嫌な子だなぁ、私)

 

 そんな風に考えて、思わず漏らしてしまった溜息を彼女の親友は見逃さなかった。

 

「どうしたの、未来? 気分悪い?」

「えっ!? う、ううん! なんでもないよ! ホントに!!」

 

 慌てたようにそう言いながら、笑みを返す未来。そんな彼女に、響の向こう側から翼も怪訝に首を傾げる。

 不思議そうに集中する二人分の視線に、未来が背筋にじんわりと嫌な汗が滲み出るのを自覚し始めた、その時。

 

「お? お前たちも来てたのか」

 

 どこか聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。

 それに三人が揃って振り向いてみれば、そこには。

 

「………誰?」

 

 帽子から金髪を零す、見慣れない女性。欄干に身を預ける形で自分たちを見下ろす彼女にキョトンとする響。すると女性は口元に笑みを浮かべながら掛けていたサングラスをずらし、そうしてようやく響が得心した。

 

「かなンググッッ!!」

 

 思わずといった具合で声を貼りそうになった響の口を、未来がすかさず手で抑え込む。見事なセービングである。

 一方で、奏の方は翼を半眼で見据えていた。

 

「なんだよ、翼はほとんどそのまんまじゃん」

「ええ。でも、あんまり表には出なかったし、制服だからか騒がれることもあまりなかったわ」

 

 どうやら、来場している一般客もお行儀が良い人間が多いようだ。『これだったらここまでガッツリ変装しなくてもよかったかな~?』と、奏はため息交じりに苦笑を浮かべる。

 そうして、落ち着いたのを確認してから未来が手を離すと、響が若干声を抑えながら笑顔で声をかけた。

 

「来てくれたんですね」

「ああ。アタシもOGだしね。それなりに楽しませてもらってるよ。

 ……ま、ちょっとばっかし厄介なことになってきちまったけどな」

「厄介?」

 

 何のことなのかと首を傾げた響が詳しい話を聞こうとするも、そのタイミングで舞台にスポットライトが集中する。

 どうやらインターバルは終了のようだ。

 

「さて、準備の方もできましたので!! 後半戦を開始いたします!!!」

 

 見れば、往年の漫才師のようなラメの入った巨大な蝶ネクタイを首元に飾った司会進行の少女が、大仰な手ぶりでステージ中央を示す。

 すると、スポットライトがそちらに集中して新たな挑戦者たちを照らし出した。

 

「え、えぇっ!?」

「なっ、なに……!!?」

 

 瞬間、響と翼が揃って絶句し、先ほどとは違った意味で表情をひきつらせた。

 ステージの上に燦然と照らされながら立つのは、小柄な二人の少女。

 意気軒高に不敵な笑みを浮かべる金髪の少女と、どこか呆れているようにも見える冷めた表情の黒髪の少女。

 先日、未知のシンフォギアを纏って立ちはだかったマリア・カデンツァヴナ・イヴの仲間たちだ。

 

「……最初にマリアと一緒に戦ったのが『月読 調』、もう一人が『暁 切歌』」

「え?」

「それがアイツらの名だってよ」

 

 驚愕の最中、後ろからの言葉に響が振り返る。そこにいる奏は、欄干に両肘を置いて頬杖を付いている。

 自分たちとは全く違う、平然とした様子。それが示す意味を、同じく振り向いていた翼は過たずに察した。

 

「奏、彼女たちがここにいることを知って……いえ、連れてきたのはアナタなの?」

「人聞きが悪いこと言うなよ。たまたまあいつらが来てたところにばったり会って、ちょっとお茶して成り行きでここに来ることになったってだけだよ」

「言ってること、全然わかりません!!」

「だよな。アタシもようわからん」

 

 力強く疑問を掲げる後輩に、奏の返事には溜息が混じっている。

 そんな彼女たちのやり取りに、蚊帳の外になってしまっていた未来が首を傾げながら尋ねる。

 

「あの……もしかして、今あそこにいるあの子たちって」

「ああ。ぶっちゃけて言うと敵、マリアのお仲間さ」

 

 あっけらかんと言い放つ奏の調子に、未来の方が戸惑ってしまう。彼女には響や翼のような動揺や戦慄といった様子は見られず、どちらかといえば呆れのようなモノが浮かんでいるように見えたからだ。

 それは他の二人も同じようで、思わず怪訝な表情で顔を見合わせてしまう。

 そんな彼女たちを見下ろす形で、奏は『ふぅ……』と短く息を吐く。

 

「とりあえずの説明はちゃんとするが、今はちょっと静かにしてようぜ。

 ―――せっかくだ、アイツらのステージってやつを見てみようか」

 

 話している間に紹介が終わったのか、伴奏が奏でられ始める。

 その聞き覚えのある旋律に、四人が一様に瞠目する。

 

「この曲……」

「翼さんたちの」

 

 『ORBITAL BEAT』―――『逆光のフリューゲル』と並ぶ、ツヴァイウィングの代表曲だ。

 つまり彼女たちは、敵のホームともいえる場所で敵方の持ち歌を観衆の前で堂々と歌おうというのだ。

 これには響のみならず事情を軽く聞いたばかりの未来も驚きと戸惑いを禁じ得ず、翼に至っては露骨に眉を顰めていた。

 

「なんという不遜」

「オイオイ……クソ生意気なうえにクソ度胸過ぎんだろ」

 

 一方で奏は、呆れを含みながらもどこか面白そうに笑っている。

 或いは、挑発にしても堂々過ぎる狼藉が却って面白くなっているのかもしれない。

 四者四様の反応が俄かに盛り上がりを見せる観衆に埋もれる中、スポットライトに照らされる二人がいよいよ歌い出す。

 

 

 

 最初から意気揚々であった切歌。

 呆れながらも渋々とそれに付き合う形を見せていた調。

 そんな二人はしかし、スポットライトにも負けない輝かしさを魅せ始めていた。

 ―――年頃の、普通の少女のように。

 

 

 

***

 

 

 

「まったく、あの二人には困ったモノです」

 

 工業地帯の一角に隠したウィングキャリアー。

 ブリーフィングルームともいえるその一室で、ナスターシャが眉根を歪めながら零す。

 不機嫌の矛先は勿論、独断専行でこの場から離れている切歌と調に対してだ。

 彼女たちが彼女たちなりに考えて行動しているのは理解できる。しかし、その考えも行動も、傍から見ていれば未熟でうかつすぎるのだ。

 危なっかしいどころの話ではない。

 ナスターシャから漏れる溜息に怒気が混じっていることを感じながら、その場に居合わせているマリアは塞ぎ込むように視線を下げるばかりだ。

 

(………調、切歌……)

 

 自分には二人を怒り、叱りつける資格はない……マリアはそう考えていた。

 何故なら、二人の無謀ともいえる行動の理由は自分にあるからだ。

 

 マリア・カデンツァヴナ・イヴは先史文明の巫女たるフィーネの器である。

 故に、その魂はいずれフィーネに塗り潰される。

 それは戦えば闘うほど、力を使えば使うほど早くなる―――それが、二人の認識だ。

 二人にとってマリアは仲間である以上に家族である。だからこそ、マリアがマリアのままでいられるように、彼女を守らんと行動しているのだ。

 

「……っ」

 

 その気持ちが、何よりもマリアの心に深く突き刺さる。

 必要のない危険を冒し、それが徒労でしかないことを詫びることすらできないのだから。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()()

 その事実を、当人は当然として認識していた。

 この世の何もかも……心の底から自身を慕い、案じてくれる家族までも欺き続けている事実に心が軋む。

 ―――けれども()()()()()

 

「………後悔しているのですか?」

 

 黙り込んでいたマリアに、そう問いかけるナスターシャ。

 それは咎めているようでも、案じているようにも聞こえる。

 その問いに、マリアは寸耗たりとも逡巡することなく首を横に振った。その瞳に、先ほどまでの憂いはすでに無い

 

「いいえ。大丈夫よマム。

 私は、私に与えられた使命を全うしてみせる」

 

 己の使命―――それは及び腰の米国に代わり、世界を救うこと。

 そのためにフィーネを騙り、世界を敵に回し、この手に刃を握ったのだ。

 そのことに、後悔もなければ迷いもない。

 

 

 

 そう、マリア・カデンツァヴナ・イヴの決意も覚悟も本物で、そこについて疑う余地はない。

 彼女は心の底から定められた使命に邁進することに否とするものはなく、その為に殉ずることも厭わないつもりだった。

 その魂は成程、高潔と評するに十分だった。

 しかし、あるいはだからこそ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 唐突に、劈くような警報音が室内に鳴り響く。

 マリアが驚愕と戦慄に目を見開き、ナスターシャは即座にコンソールを操作した。

 せりあがるように展開したモニターには、ウィングキャリアーを隠した工場の周囲に設置しておいたカメラからの映像が表示されている。

 そこに映し出されているのは、コンクリートと金属で彩られた無骨な背景の中で暗躍する武装集団の姿。

 何も知らずにこの映像だけを見ればハリウッドのアクション映画かと思うだろうが、しかしこれらはすぐ傍でリアルタイムに忍び寄る正真正銘本物の軍隊だ。

 

「っ、米国の特殊部隊!! そんな、こんなにも早く……!?」

 

 自分たちの居場所を、嗅ぎ付けたというのか。

 驚愕するマリアの目に映る彼らは、皆一様にヘルメットにボディアーマー、更にはサブマシンガンかアサルトライフルだろう銃火器を携えている。

 それは紛れもなく、偵察ではなく強襲を目的としていた。でなくば人気の少ない工業地帯とはいえ、他国である日本でそのような装備に身を固めた十人は下らない集団が活動しているはずがない。

 瞠目するマリアに対し、ナスターシャは目つきこそ鋭くなっているものの動揺は少ない。それは暗に、これが想定の範囲内であることを示唆していた。

 

「異端技術を抑えているとはいえ、私たちは素人の集団。訓練された軍隊(プロ)を相手にいつまでも優位に立ち回れると考えるのは虫が良すぎる話です。

 とはいえ、今ならまだ踏み込まれるよりも先に攻めの枕を抑えにかかれます」

 

 そう言って、ナスターシャは眼差しの鋭さをそのままに左だけの視線をマリアへと移した。

 

「マリア、彼らの排撃をお願いします」

「っ!?」

 

 冷淡な声音で下された命令に、マリアは息を詰まらせた。

 完全武装の特殊部隊(プロフェッショナル)を相手に単騎で突撃んて無謀すぎる、死んで来いと言われたようなものだ。

 ………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「排撃って……待って、マム! 生身の人間を相手にシンフォギアを振るえというの!?

 そんなことをすれば―――」

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 マリアの戸惑いを、ナスターシャはただの一言で両断した。

 その言葉に込められた刃以上に鋭く抉るような響きが、マリアを押し黙らせた。

 

 シンフォギアを纏った装者の力は無比にして無類、そして無双。

 その気になれば、天を衝く摩天楼を瞬く間に瓦解させ、灰燼と帰させる。

 その気になれば、大地を蹂躙する鋼鉄の装甲を持つ戦車の群れを、無意味な残骸の山と成す。

 そしてその気にならずとも、剣林弾雨の一切を意に返すこともない。

 およそ、人が思い浮かべるだろうレトロタイプなコミックヒーローの如き超人こそがシンフォギアを纏った者なのだ。

 完全武装の特殊部隊? そんなもの、案山子(かかし)となんの違いがあろうものか。

 藁のように裂き、棒きれのように折り、ガラクタのように打ち砕かれるだろうことは想像するに難くない。

 

 ―――とどのつまり。

 ナスターシャはマリアにその手を血で染め、屍の道を踏みしめろと言っているのだ。

 

「―――っ、」

 

 下された命令の苛烈さに、言葉が出てこない。

 そんなマリアに、ナスターシャは冷徹に声音を硬くする。

 

QUEENS of MUSIC(ライブ)の時もそうでした。あの時、アナタはこちらの優位を捨ててまで観客たちを排しましたが……あれは衛宮士郎の存在だけが理由ではありませんね?」

「……」

 

 そう、あの時は確かに士郎がナスターシャの傍にいた。仮に観客が一人でもノイズの被害にあっていれば、彼は自らの拘束を解いて彼女たちを制圧していた可能性が高い。

 故にあの場の判断は間違いではなかったと言えるし、ナスターシャもこれまで言及しなかった。

 しかし、仮に士郎がいなかったとして、マリアは果たして観客をそのままにしていただろうか?

 その覚悟を、今一度問い質そう。

 

「マリア、アナタはたった今言いましたね?

 『自らの使命を全うする』と」

「それは……」

「ならばあの時の言葉をもう一度言います。

 ―――血に塗れることを怖れないで」

 

 その言葉が、氷よりも冷たく刃よりも鋭くマリアへと突き刺さる。

 心の底から冷えていきそうな感覚に、緊張で乱れる吐息が白く染まりそうな錯覚すら覚える。

 

 マリア・カデンツァヴナ・イヴは確かに覚悟を決めていた。

 近しい者をも含めたすべての人々を騙し、平和のために平穏を脅かし、正義のために悪を貫くと心に誓っていた。

 全ては、為すべき大義のため。喪ってしまった、■■■のため。

 その過程で、誰かを傷付けることもあると確かに考えていた。二課の装者たちと矛を交えることも想定していた。

 

 だから。

 心の片隅で、こうなることも予想出来ていたのだ。

 この手で直接、道を阻む誰かを■すこともあるだろうということを。

 

「マリア」

 

 重ねて、名が呼ばれる。

 猶予はない、追手の魔の手は文字通りにすぐそこだ。

 ギアを纏えば物の数ではなくとも、逆にギアを纏わなければ敵う道理はない。

 それでも即答はできず、しかし。

 

「私、は―――」

 

 いよいよ、意を決す。

 その瞬間。

 

 

 

「オレも、()つて言ったはずだぞ、ナスターシャ女史。

 ―――『流血を礼賛するようなことを言うな』と」

 

 

 

 どうしようもない流れを阻むような、低い声が投げ込まれる。

 ナスターシャの言葉が氷の刃なら、こちらは鋼の剣か。

 静かに放たれたそれは、まるで剣戟の様な力強さで以って二人の意識を引き寄せた。

 ハッとして振り向けば、こちらを見据えるのは鷹の如き瞳。

 総身を鉄めいた黒で染め上げて、衛宮 士郎がそこにいる。

 

「えみや、しろう……」

「どうやら不躾な来客が来ているようだな。応対は自分に任せてもらおうか」

「その必要は……いえ、ならばマリアと共に」

「それこそ不要だ。オレ一人でいい」

 

 ナスターシャの言葉を遮って、そう言い切る士郎。その言葉にこそ、マリアは激昂した。

 

「私を……足手まといと、そう言うつもりか!!」

 

 先ほどまでの躊躇いなど無かったかのように、凛とした怒気をまっすぐとぶつけるマリア。

 それに対して、士郎は目を逸らすことなく見つめ返す。

 

「言葉を飾らなければその通りだ。

 マリア、今のお前でも表の連中を蹴散らすことはできるだろうが、それだけだ。

 自分の意志で殺すことも生かすこともできずに、曳き潰すことしかできない」

「……っ」

「だからこそです、ミスター。

 この先の道を征くためにも、彼女には覚悟を―――」

()()()()()()

 

 強く名を呼び、再度遮る。

 決して大きいわけでも声を荒げているわけでもないのに、ただそれだけでナスターシャはその意に関わらず押し黙らされてしまう。

 一拍の沈黙を挟み、士郎は一度瞑目して更に一拍。

 

「正直なところ、オレは人殺し云々で偉そうなことを言えるような人間じゃない。

 けど、それでもだ」

 

 ゆっくりと瞼を開き、二人を改めて見据え、告げる。

 

「奪う必要のない……失わせないで済む命を、大儀だ覚悟だなんてもので殺すというのなら」

 

 失くしてしまった者は戻らない。

 奪った命は還らない。

 それを覆せる術を持つ者は、ここにはいない。

 故に、命の重みを本当に知らないままそんな言葉を宣うというのならば、

 

「―――そんなものは、ただのどうしようもないエゴ以外の何物でもない」

 

 それは無価値で無意味で、唾棄すべき徒労であると言い捨てた。

 

 真正面から叩き付けられた、強い言葉。

 先程の問答を根本から叩き潰すようなソレに、否定されたナスターシャは勿論、マリアの方も言うべき言葉が見つからなかった。

 そんな二人に背を向け、今度こそ士郎はその場を後にしようとする。

 

「ッ、待ちなさい! 衛宮 士郎!!」

 

 と、マリアがそこで弾かれるように前に出て、その手を掴んだ。

 振り返れば、こちらを見つめる彼女の瞳には戸惑いに揺れはしても決意と力強さが宿っている。

 

「やはり、私も出るわ」

「マリア……」

「そもそもこれは私が始めた戦い、なら火の粉が降りかかる先も私で、それを払うのも私がすべきなのが道理。

 本来、外様であるアナタに全てを任せるなんて道理は―――」

 

 そこまで言ったところで、眼前にやんわりと逆の手を翳すことで遮った。

 戸惑うマリアが見つめる先、広げられた越しの隙間から見える彼の眼は―――先ほどまでの、鷹のように鋭いそれではなかった。

 

「やっぱり。なんとなくそうだとは思ってたけど、優しいんだな、君は」

「な、なにを……」

「なら、納得しやすいように理屈をつけてやる」

 

 と、言いながらマリアの鼻先で掌が形を変える。人差し指だけが立ったそれに、マリアはたまさか目を瞬かせた。

 

「一つは、コストの問題だ。

 他の二人もそうだが、お前たちはギアを纏うのにLiNKERを必要としている。

 つまり出撃するたびに消耗が激しいということだ」

 

 これはLiNKERという薬品そのものに対してもだが、それ以外にも言えることだった。

 LiNKERは薬理作用が強く、戦闘後にはその影響を抜くための浄化・洗浄措置が必須だ。さらに言えば、その上でなお装者に残る影響は小さくない。

 これはウェルが中心となって改良された専用のLiNKERと体内洗浄方法でも脱却しきれてはいない。

 つまり、彼女たちが戦うたびに物資の損耗と人員の消耗が大きく積み重なっていくということだ。

 

「こちらは少なくない物資を失い、更にはその補填や今後の補給の目途も立っていない。

 こんな状況なら、省ける無駄は省いていくべきだ」

「それ、は……」

 

 まったくの正論だ。

 LiNKERそのものを含めた重要な要素は無事であったとはいえ、あの廃病院(アジト)を失った影響は賄いきれないほどに大きい。

 それを鑑みればなるほど、理にかなってると言えなくもない。

 しかし、

 

「いや。それとこれとは―――」

 

 話が別だと、食い下がろうとする。

 事は食料や消耗品の節約とはわけが違う。それこそ、死んで戻らないのはアナタも同じなのだと。

 しかし言葉を続けるよりも先に、中指が跳ね上がる。

 Vサインのようなソレに鼻白むマリアに、士郎が言葉を続ける。

 

「そしてもう一つは適材適所だ。

 ああ、すごく単純な話だよ」

 

 何でもない、恥ずかしげにも見える苦笑を浮かべながら士郎はVサインを解いてこちらを掴むマリアの手に添え、

 

 

 

「―――人間の相手は、誰よりもオレが一番慣れている」

 

 

 

 だから、大丈夫なのだと。

 そう囁きながら、彼女を優しく振り払った。

 

「………、」

 

 今度こそ、何も言えなくなってしまったマリア。

 彼女はいよいよ消えていく黒鉄(クロガネ)のような背中を見送りながら、知らず自らの手を重ね合わせる様に胸にかき抱いて握りしめていた。

 強く、しっかりと。

 つい先ほどに感じた、刃金に似つかわしくない優しい温もり。

 それを、ほんの少しでも逃がしたくないかのように。

 

 

 

●●●

 

 

 

 

【教えて!? ブルマ師範!! ぷち】

 

○秋桜祭における在学生・OGへの配慮とサービス

 

 秋桜祭の出し物は生徒たちが主導しているものであり、一般的に考えられる学園祭での喫茶店や出店などがこちらでも多く披露されている。

 しかしそれとは別に、芸能科のある学校らしくある程度の知名度を有してしまっている人物を対象とした出し物も少なくない。

 カーテンやパーテーションで区切った個室喫茶もそうだが、他にはコスプレやメイクの体験コーナーなどもある。

 これは看板通りの仮装とその貸衣装の店であると同時に、芸能業界の本格的なメイクも体験できる店舗となっている。

 そして芸能関係の在校生やOG向けには、祭りを気軽に楽しむための変装サービスとしての側面も有している。

 また、これらの出店に従事する生徒にはコンプライアンス関係を含めた技能研修が徹底的に施されることになっており、中には将来の進路を見据えてそれらの出し物に参加することを希望する生徒も少なくない。

 なお、知名度を逆に利用した出し物(サイン会や握手会、記念撮影やそれらをサービスとして付随させた喫茶店など)は来場客の殺到や該当生徒への負担などの面を鑑みて基本的に禁止されている。

 

 

 

師「なお、当然のことながら一から十まで当作品の完全オリジナル設定なのでご了承ください」

α「(前回に引き続き)またか」

β「えーと、発想の元は調さんと切歌さんが普通に秋桜祭に入れたところからきてるらしいですね」

師「『二人がすんなり入れる=マンガなどでよくある招待状制じゃない』って考えが出て、それと『芸能科がある=ツヴァイウィング以外にも知名度のある在校生やOGが普通にいる可能性が高い』って発想が繋がったみたいね」

β「なるほど、そう考えれば『有名人向けのサービスのある出店』というのが出てもおかしくないですね」

α「……ならなんで風鳴 翼はそのままなんだ?」

師「最後の年だから素の自分で楽しみたかったか、逆にある種のファンサービスとして適度に表に出ていたのか……。

 でもアニメ本編でも見た感じ裏方っぽい感じだったから、あんまり必要としてなかった可能性もあるかも?」

 

 

 

 







 https://twitter.com/juei_another
 X(旧:Twitter)やってます。更新予告とかしてるので、よろしければフォローしてくれると嬉しいです。



 というわけで、大変長らくお待たせしました。
 二部9話です。
 こんなに間を明かせてしまった理由を弁解しますと、リアルの忙しさとか色々あるのですが、特筆するものを挙げると『連載前から考えてたネタをボツにした』というのがあります。
 第二部終わったら茶番回で供養を兼ねた没ネタ紹介とかやろうかなと考えてます。
 いつになるかわかりませんけどね!!(自虐


 それはさておき本編について。
 タイトルの『Need To Know』については某PCゲーム知ってる人とかはン味見があるかもしれません。
 意味としては『知る必要のある事、知らなければならない事』ですが、同時に『知る必要がないことは知るべきではない』という真逆の意味でも引用されることがあるとか。
 これは現状の調たちであり、マリアであり、未来でもあると言えますね。

 きりしら潜入……からの、奏とのエンカウント。
 アニメ本編見返して思いましたが、描写見てる感じマジでフリーパスっぽいんですよね、秋桜祭。
 なのでそこら辺と芸能関係のあれこれから想像を拡げていろいろと捏造してみましたがいかがでしたでしょうか?
 ちなみに、自分は公立校だったので招待状必須の学園祭とかどんなんかまったくわかりません。

 溜まっていく鬱屈ゲージに自覚症状が出始めた未来=サン。
 この人、士郎関連と紐づけて書くと割と筆が滑りやすいんだよな……やっぱりシーフ?(爆

 マリア出撃命令をインターセプトする士郎。
 実はここ、最初は士郎の最後の台詞は予定通りでしたけど、その直前のマリアとのやり取りはこの辺りを書く直前まで影も形もなかった展開なんですよ。
 ただそのまま行かせるのも話の膨らみ乏しいかなって思ってたところにこのヒロインムーブがinですよ。
 三食団子の卑しか女枠……!!(ェー

 てなわけで、次回からは色んな意味で修羅場展開。
 さぁてここから情緒をぐっちゃんぐっちゃんにかき回して脳ミソと精神とトラウマをガッツリ焼いていくから見てろよ見てろよ~。




 と、ここからは雑談で。
 ところで感想板の方で『そういうの活動報告ですれば』的なお言葉を頂き、どうしようかと考えたのですが……
 ぶっちゃけ、Xの方の更新も稀なのに書き込む場を増やしてもしょうがないんじゃねという結論に至ったので現状維持で行こうかと思います。
 自分自身が活動報告とか覗くことほとんどないってのもありますが。
 なので、今後は特に興味がない方は雑談以降はスキップしてくださいませ。
 ここから先は作品内容には触れずに、最後に季節の挨拶くらいしか入れないので。



 ブルアカの方はハード含めて任務20までクリア。
 臨戦ホシノとシロコ・テラーと水着サオリと水着ハナコが来てくれたおかげで特殊装甲相手がだいぶ楽になりました。
 あと、最近ようやくアル社長ゲット。
 キャラ的にめっちゃほしかったので嬉しい。
 シナリオはアーカイブのイベシナリオとグループシナリオが読み終わったので、モモトーク消化しつつメインシナリオの続きを再開しました。
 目下の悩みはレポート付属しまくりで育成が滞ってるのと装備品の素材が足りなくて(以下略
 星3生徒でレベル1のままの人がこっちを見てる……(震え声
 ああっ、ソレ差し置いて現状で可能な限り強化されたアル社長が白目向いとる!!(爆



 そんでもってFGO。
 新規鯖↓

・スペースエレシュキガル
・スーパーバニヤン
・水着アナスタシア
・テスカトリポカ
・水着ニキチッチ
・水着徐福
・水着XXオルタ
・水着テノティチトラン
・アーキタイプアース
・岸波白野(女)
・果心居士
・BBドバイ

 福袋やデスティニーはXに書き込んだ通り。
 はくのんはザビ子を選択しました。
 アルク入手できたのはガチでうれしい。
 水着に関しては珍しいことに星4枠を網羅できました。嬉しい。
 BBドバイはガチャ最終日に滑り込みで入手。やったぜ。現在月光採掘場でヘビロテしてもらってます。

 現在のイベですが、カズラドロップはあと最高で11連二回くらい回そうかなとも考えてますが、正直ホントに回すかは悩みどころだったり。



 と、こんな感じで今回はこの辺で。
 これ書いた前日まで十月なのに妙に蒸し暑かったですが、今日からはいきなり肌寒くなっていくとかで。
 大雨などもあり大変な方もいらっしゃるでしょうが、環境の変化で体調を崩しやすくもあると思われるのでお気を付けくださいませ。
 ちなみに自分はちょっと前に便所の中でガチで頭がクラクラするレベルで腹を壊してひどい目に合いました。
 今は元気です。

 それでは、また次回に。
 今年は最低でもあと一回……可能ならキリの良いところまで進めたい(儚い願望


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。