冒険英雄譚“ヒロイック・テイル”   作:犬2

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仕事が忙しすぎて、書き溜めはしていても中々添削が出来ず
漸く落ち着いたので投稿再開します


第一章「始めての冒険」 十話目

しとしとと雨が外で降っているのを感じる・・・

ジークはまどろみの中で天から来る恵みの音に包まれながら眠っていた。

 

暫く雨音へ耳を傾けていると

夢・・・なのだろう。気づくとジークは暗闇の中に居た。

足元にはガラクタが広がっている。

 

動物の体の一部や壊れた剣。黄金の指輪や首の無い死体等等・・・

それら全てがなんなのかをジークは知っていた。自分の宝物達だ

 

「これは王国に居た頃の・・・此方は己の剣か」

 

一つ一つが冒険を思い出す彼にとってのトロフィーであった。

ジークは暗闇の中を歩いていく。

歩けば歩く程道具は近しい冒険の思いでの品となっていく。

 

「この道の先には・・・何があるのだろうか」

 

呟いた言葉は誰の声も帰ってこずそれでもジークは歩き続ける

不意に、遠くで白い光が見えた。

それは歩くジークへと迫り・・・そして――

 

 

【ジーク、ジークよ。汝こそ我が剣】

【歩む道の先に剣士の誉れが待ち受けているだろう】

 

 

張りのある高いソプラノの声が暗闇の世界に広がり、ジークは意識を失った。

 

 

 

 

 

        ※     ※     ※

 

 

 ハッと気付く。思わず寝てしまっていた様だ。

ジークは眠るつもりは無く、そう言った時にはまず熟睡する事は無い。

熟睡せずとも体力を快復程度にしか疲れていないからだ。

 

窓から差し込む光が雨が止んだのだとジークに教えてくれた。

外は雲一つ無い鮮やかな青空の美しさが広がっている

これなら暫くは雨が降らないだろう・・・チラりと外を見ても地面は湿っているだけで水溜りは無い。

 

 ジークはシャツと麻のズボンだけという軽装の姿でベットから起き上がると

枕元に置かれていたサーベルへ体を相対させた。

両膝を付き、恭しくサーベルを両手で掲げた。

 

 鞘には偉大なる神々の中でも若い神である剣神を称える装飾がされている。

ジークは神々を敬うが中でも一番剣神への信仰が厚かった。

 

「・・・・・・」

 

 掲げた剣へ頭を垂れ、祈った。

今日を生きる感謝でも無く、何かを欲するでも無く。

 

 偉大なる神々へ頭を垂れてその偉大さへと深々と頭を垂れた。

手を合わせはしない。剣神を前にして神任せ等不敬であると思った。

それは戦えぬ弱者の祈りである。教会ではそうは言わない。だがジークはそう思っていた。

 

 心のままに祈った。無性に祈りたかった。

あの夢は剣神が見せてくださったのだろうか、己の勘違いだろうか。

分からない。分からないが・・・無性に祈りたかった。

 

 

下へ降りると下に居るのはクリスとノエルだけの様だ。

二人はミルクを飲みながら話し合っている。

今日の冒険は何があるだろうか、雨が止んで良かった。そんな他愛無い話である

 

「あっ、ジークさんおはようございます!お早いですね!」

 

酒場にはバラバラと冒険者達が居るがまだ大半は上の自室のベットで寝ているだろう。

酒を飲み交わす冒険者は街の中ではだらしない者である。

今酒場に降りてきているのは今日も冒険する者達だろう。

 

ノエルがその隣の椅子を引いてくれたのでそこに座る。

どうやら自分達を待ってまだ食事していなかった様だ。

 

「己にしては寝坊した所だが・・・まあ良い。好きなのを頼め」

 

朝位は巾着を気にせず食え。そう言ってメニューも見ずに近くに居たウェイトレスを呼び止める。

シチューとパン。肉を適当に。とジークは適当に頼む。

子供達もメニューを見ながら適当なモノを頼んでいった。

 

頼み終わった所で、ジークはすんすんと鼻を鳴らした。

ノエルから僅かに汗の匂いがした。

夏とは言え涼しかった昨日の夜にこうも汗をかく事は無い。

 

「鍛錬でもしていたのか?」

 

ノエルを見れば僅かに頬が紅潮している。成程朝に鍛錬をしていた様だ。

 

「え、あっ。はい。さっきまで軽く柔軟して剣降ってました」

 

剣士で鍛錬する者はそれなりにいる。それをジークは悪いとは思わなかった。

だが、冒険中肝心な時に疲労が出る事等許される事では無い。

ある程度強くなった冒険者は鍛錬が不要になる程戦い続ける事で鍛えるモノである。

 

何せ装備が重い。10kgで軽装。20kgで普通。30kgで重装位の扱いである。

それを全身に装備し、崖を登り足場の悪い山道を踏破し時に川を横断する。

だが、それで鍛錬が要らないのは実戦の勘が着いた熟練者のみだ。

 

まだ若く経験の浅いノエルには鍛錬は必須であろう。

 

「鍛錬は何を?」

 

ジークは暫く考え、言葉を出した。

ノエルは間違いなく自分と剣筋が違う。なら相談にのる事等出来ないが

旅路の中での事なら相談できた。

 

「素振りを100回を3回繰り返してました」

 

白い綺麗なシャツと黒いズボンを吐いたノエルは貴族の庶子にでも見える佇まいだが・・・

話を聞くに今の格好で斬り突き払いの3つを練習していたようだ。

クリスも見学していた様でキャッキャとその様子を無邪気に話している。

 

「剣の口出しはせん。が・・・もし疲労を残る訳に行かない旅の中でも鍛錬をしたいなら」

「装備を整えた上でゆっくり、全身の呼吸や筋肉を確かめながらやると良い」

「疲れは溜まる、だがどんな装備を持ち、どう戦うか分からないのが冒険者だ」

 

「下手に軽装や重装に慣れると逆の状況になった時に剣速に戸惑う」

 

話しながらジークはまだ若い頃を思い出した。

まだ初心者冒険者だった頃、一心不乱に素振りをし、戦いとなった時に全く役立てなかった時がある。

あれほど惨めな事も無い。鍛えた技を振るうべき時に振るえないのだから。

 

「は、はい!!」

 

コクコクと頷くノエルに、お前が一番良いと思う方法で鍛えろと言っていると

3人が頼んでいた料理が運び込まれてきた。ソレを食べているとアッシュとレイフォーも上から降りてくる。

全員揃えばやはりするのは今日の予定である。

 

「恐らく今日は野営となる。此処まで来ればそう遠くは無い。今日は早めに休み焚き火等の準備を行う」

「本日の野営先まではそう難所は無い。歩き続けるだけだ。その分周囲に気を配れ」

 

そう言いながらパンをシチューに浸しているジークは広げられた地図の先・・・

目的地である赤マルが着いた森と自分達が滞在している街から2/3程の場所に印を付けた

 

「今日は此処まで歩くとする。隊列を少し変えよう」

「ニャぁ・・・誰がどう並ぶのかニャ?」

 

アッシュがリスの様に頬に食事を詰め込みモグモグ食べているのを見ながらジークは僅かに考え・・・

 

「どうせ一通り経験させるつもりだ。お前たちで好きにしろ」

「それで良いか?レイフォー・・・・・・レイフォー?」

 

ぼぉーっと宙を見ながら、ベーコンにフォークを差し込んだまま固まっているレイフォーに声をかける。

名前を再度呼ぶとハッとする

 

「すまない、体調が悪い訳ではないのだが・・・寝ぼけていたのだろうか。」

 

心此処に非ずであったレイフォーはそう言うと改めてジークは説明する。

特に反対意見は無い様で子供達に任せる事となった。

 

 

 

        ※     ※     ※

 

 

 

街を出る際、衛兵達と一波乱あるかと身構えてみるも何の事も無く街の外へ行く事が出来た。

心地よい風が一行の旅路を涼やかに祝福する。

蒼天の空の下緑の道を進んでいく事となる。

 

子供達は昨日教えてもらった事のメモを見たり、お互いに声を掛け合いながらジークの忠告を実行する。

口には出さないが、ジークは

 

「(この子供達は成長が早い・・・運さえ良ければ大成するだろう)」

 

と内心思っていた。

レイフォーも朝食後は気をしっかり持ちジークの忠告の補足や気づいた事を話す。

旅路の中で予定外が起きたのは10時頃の話であった。

 

ジーク達は両端が背の高い雑草で覆われた道を歩いていた。

こう言った所は不意打ち、罠に適している為警戒する様に言い含める。

 

一時間程掛かるだろう道のりの中で30分程掛かった時だろうか。

不意にジークはピクンッ!と肩を揺らした。声が聞こえたのだ。

荒く苦しげな声である前方からだろう。人間では聞こえる音量ではないが風に乗ってジークの耳には呻き声が聞こえた

 

続き、数瞬置きレイフォーも気づいた。

お互いに目配せし、子供達と距離を縮める。何時でも庇える様に。

ジークは子供達の最前列に飛び出せる様に。レイフォーは周囲に目を光らせた。

 

熟練者二人は足音も無く近づいたモノだから子供達は気づいていない。

そこへアッシュが耳をピクピクと震えさせ大声を出した

 

「・・・!誰かのうめき声が聞こえたにゃ!」

 

一瞬の事であった。

アッシュはそう叫ぶと右斜め前方の草むらへと駆けて行こうとした。

善性からの行動だろう、その瞬間周囲への警戒は完全に無かった。

残る二人がアッシュの叫びに反応する前に、何かがアッシュの後頭部を引っぱたいた

 

パッーン!と聞こえの良い音が旅路の広がる。ジークがアッシュを引っぱたいたのだ。

同時に首根っこを掴み。背後の仲間達の元へと一足で跳ぶ。

 

「ノエル、クリス。警戒。ノエルと己が前衛。クリスは半身になり右を警戒しろ。左はレイフォーがやる」

 

アッシュを米俵運びする様に肩に担ぎなおす。

アッシュは目を白黒させてパチパチと何度か瞬きしてされるがままとなっていた。

突然の背後からの奇襲に気持ちがついて行って無いのだ。

 

「は、はい!!!」「ノエル!剣を!」

 

前方に飛び出しジークに並ぶノエル。

同時に無手で飛び出したノエルに抜刀を促しながら配置に着くクリス。

レイフォーはその数歩後ろで背後と左方を確認する。

 

ジークは一度手で全員を制し、周囲を確認する・・・が何も起きない。

 

「にゃ・・・」

 

少し落ち着き、漸くふぅと息を吐いた子供達。

アッシュも驚きから漸く復帰し小さく声を出した。

 

「アッシュ」

 

ジークはアッシュを地面にゴロンと転がし、立たせた。

獣耳をペタンとさせたアッシュだが、ジークはグリグリとその耳を撫でた。

 

「・・・?」

 

怒られると思っていたアッシュは首を傾げる

 

「良く気づき、飛び出そうとした。」

「冒険者としては三流の行動だ」

 

ジークは全員への制しを辞め、ハンドサインで前進を伝える。

アッシュをクリスとノエルの中間に行く様に伝え。背中越しにアッシュへ呟いた

 

「だが漢としては一流の行動だ。」

「その心は、冒険者として二流程度になってからにしろ」

 

仲間を危険に晒すな。そう言ってジークは進む。

アッシュはその後ろ姿に小さく頷き、進んだ。

不思議と痛みを嫌だと思わない感覚に戸惑いながら・・・

 

 

果たして、草を掻き分け進んだ先に居たのは・・・・・・見覚えのある顔であった。

二日前、装備を整え酒場へ変える前に出会った冒険者達だ。

あの時見た馬車は居ない。道に馬車の車輪跡が無かった以上自主的かどうかは知らないが別れたのだろう。

 

4人の中で黒一点だった少年は半裸となっており一番近場に居た

共に居た少女達が外で泥まみれで仰向けに倒れている

周囲を見れば、少年が少女達にかけたのだろう服がある。成程・・・

 

「・・・・・・天気の変化に気づかず、街の外に出かけ野営したか」

 

周囲を見渡せば、放り投げられ土砂に塗れた道具一式が置かれている。

 

ジークは状況を把握した。

天気が崩れる事も知らず、街を出て野営した後に雨が降りだしたのだろう。

テントどころかマントも羽織っていないのだ。一溜まりもあるまい。

 

更に言えば此処らは一面草畑だ。木陰で雨宿りも出来ない。街に戻るにしても方位磁石も何も無い。

数時間の間歩かなければならない。闇の中方位も分からず戻る事もできまい。

そのまま歩き迷い、草原の中に入れば雨に打たれ体温は低下し・・・今死にかけている。そんな所だろう。

 

「・・・・・・」

 

アッシュも、ノエルもクリスも目を見開き、次にジークを見た。

助けたい、といった目では無い。どうすれば良いのか問いかけているのだ。

ジークは僅かに考え、こう言った

 

「コイツらは風邪を引き、今死にかけている」

「毒消しの薬草湿布には風邪に効能があるモノもある・・・・・・が」

「それでどうなる?」

 

ゆっくり子供達に振り返る。全員の顔色はどんどん暗くなっていった。

このご時世だ。理不尽に死んだ知り合いもいるだろう。もしかしたら害獣駆除の時に死んだ存在もいるかもしれない。

だが、目の前にいる4人はまだ息がある様だ。善性の質である子供達には辛かろう。

 

「コイツらだけで歩けるまで回復出来るか?出来なかろう」

「ならお前達が世話を見てやるのか?死にかけた奴を4人守りながら?」

「成程、神々の慈愛の末魔物に出会わなければ、今夜は明かせるかもしれん。」

 

「で、体力が持つと思うか?経験則から言おう。」

「お前達がテントを貸し、食料を明け渡し丁寧に看病したとしてだ・・・」

 

「無理だろう。半数は起き上がれる様になる前に、途中で死ぬ」

 

「その半数とて、魔物に見つからなければだ。魔物に見つかれば助けようとしたお前達は死ぬだろう」

 

そこまで一息に言って全員を見渡す。

 

「・・・・・・さて、次に見捨てた事を話そうか」

「見捨てれば、この先面倒な事をせずに済む。それだけだが・・・・・・それは大きい」

「どうせコイツらは放っておけば死ぬのだ。何が悪い」

 

子供達が俯く。事実であり、口酸っぱく教えて来た事だ。

備えろ。リスクを考えろ。考えのない行動をするな。

仲間を危険に晒すなと

 

「さて・・・・・・どうする?」

 

ジークは真っ直ぐ見据え、呟き・・・最初に震えながらアッシュが応えた。

 

「・・・助けたいけど・・・・・・にゃぁ達にそんな事出来ない・・・にゃあ」

 

その言葉を聞きながら射抜く様にジークは残る二人を見る。

ビクリと肩を跳ねさせて、クリスが続いた

 

「街道に置くのはどうでしょうか・・・?もしかしたら誰かが助けてくれるかもしれません」

 

短い時間で、己の良心と出来る事から妥協案を考える。

クリスは中々優れた冒険者になりそうだが・・・今回は分が悪い

 

「それが出来れば良いが、ここいらは己の見立てでは夜は街道であっても魔物が出かねん」

「辞めておけ。そうするなら此処に放っておいた方がマシだ」

 

別に責めている訳ではなくジークの周辺の状況からの推測である・・・が十中八九正しい事ではあった。

その一言と共にクリスは顔を伏せた。

ノエルはどうすれば良いか、戸惑っているのが顔に浮かんでいる。

 

「・・・・・・む、りです」

 

顔を横に振るクリス。

 

「・・・リスクが多すぎます。・・・私達じゃ助けられません」

 

この時、クリスは憤っていた。

英雄を志す自分が何と無力なのかと。射抜く様な目線で見つめるジークの眼力も有り恐怖も有ったが・・・

その悔しさと、確かに今見捨てるという選択肢を3人が選んだのが真意だとジークは見抜いた。

そして一言頷き

 

「それで良い。」 「それが分かってるなら・・・」

 

 

 

 

 

「・・・助けるぞ。このバカ共を」

 

 

 

 

えっ と呟いて顔をあげた子供達にレイフォーが背後で言った

 

「目覚めが良いってのは・・・大事だという事だ」

 

そう言って、レイフォーは子供達を追い抜き少年に肩を貸し起き上がらせる。

ジークは、少女達の脈を一人一人取りながら呟いた

 

「・・・己達は冒険者だ。冒険の途中で自分の我侭で仲間を危険に晒す冒険者はクズだ」

「でもな・・・辛そうにしてる仲間の為に命も晴れん・・・詰まらん奴らになる事は無い」

「お前達をそんな奴にさせるつもりもない」

 

まず死亡者が居ない事を確認したジークは、僧侶の少女を米俵の様に担ぐ

 

「・・・苦い思いをしたなら強くなれ」「唯それだけが・・・我侭を言える方法だ」

 

分かったな?

言外のジークの言葉と共に、子供達が一斉に救助の為に動き出した




本当なら野営までやる予定でしたが、野営の事をもう少し細かく書きたいとおもい2つに分けました。

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