次回から冒険が始まります。
儀礼用の剣。それは兵士や貴族が式典等の際に帯びる代物である。
煌びやかで細工職人達が手腕を発揮する代物であり、【刃は鈍い】
勿論、刃が無い模擬剣等ではない。式典の邪魔に入った者を切り倒す事もあるからだ。
だが、実践用の剣と比べれば雲泥の差だ・・・何故なら、整備の手間が掛かるからだ。
剣は放っておけばずっと形を保ち続ける訳では無い。
錆びない様に油を指し、刃を拭い定期的に研がなければ行けない。
だが、時折帯びる程度の飾りにそんな金等掛ける者は・・・少ない。それが普通だ。
ノエルの持っていたバスタードソードも同じである。
見た目は美しいが見る者が見れば儀礼用と丸分かりである。
1つ、鍔を銀で作る事など有り得ない。
銀は柔らかい。同質量のバスタードソードと鍔迫り合いになれば折れ、手を斬られるだろう
2つ、柄の蔓の模様。これも又見る者が見れば分かる。
剣士たる者戦場で振る剣を持って素振りを行うが・・・蔓細工程度すぐに潰れて見えなくなる。
つまり、日常的に振る事を想定されてないのだ。
3つ、刃自体鈍い。勿論わざと鈍くする事で強度を上げて殴り殺す事に特化した剣もあるが
バスタードソードに等そう言った加工はする事は無い。
以上3つから導き出した答えである。
「・・・・・・」
呆然とするノエルの瞳を見つめ、ジークは同時にこう思った。
「(この小僧・・・天稟がある)」
撲殺用でも無い剣で、魔物では無いとしても害獣をこの歳で殺す・・・剣技を納めていたとしても中々出来る事では無い。
先程は、バスタードソードとは違う事でも不満が有り手を出してしまったが・・・
何はともあれ、まずはノエルの事情を聞くべきだった。そうジークは悔いた。
そこまで思考しノエルへと視線を戻すと・・・・・・
「ぅ・・・ぇ・・・っ!ぅ、ぅう・・・・・・」
ノエルは嗚咽を流し、その大きな瞳に涙粒がこれでもかと溜めていた。
ジークは困った。此処で気安い慰め等すればどうとでもなるだろうが、不誠実では有りたくは無かった。
クリスを見つめ・・・暫く考えたジークは、子供達と目線を同じくする為に膝を付き中腰になる。
「・・・・・・」
「一つ一つ説明していく。」
「現状、この中で冒険の準備が出来ている者は居ない」
きっぱりと三人に言い放ったジークは一人一人の瞳を見つめながらゆっくりと話す。
「本当に最低限の荷物でも、クリス、アッシュの荷物を合わせて漸くだ。」
「だがそれでもまだまだ足りん。」
鋭い瞳のジークに見据えられた子供は動けなくなった。泣きそうだったノエルもジークを見た。
その瞳も、声音も。ジークが強く絞り出した。自分達の為の物だと分かったからだ。
「真夜中に、灯も無く夜は越せん」
「興味本位で獣が寄ってくるかもしれん、要らぬ手間ばかり掛かるかもしれん」
「それでも、暗闇の中にいるよりは数倍マシだ。」
ノエル、クリス。と名前を呟く。暗闇の中、敵に囲まれた時はどうする?と
「ひ、昼間しか、うごいだごどな"い」
ノエルは嗚咽を耐えながらそう言った。
野営の知識等、ノエルは持っていない。数日の旅路になると知っていても頭に無かった。
唯ゴブリンを倒し、知識が得られる事だけしか頭に無かった。
「そうか、お前は獣に食われ死ぬだろう。盲の剣士等壁にはならん。」
「脇を抜けられ、お前と共に居る二人もまた、食われる」
ジっとノエルを見つめ、そう呟いた。事実である。
剣士の役目とは、敵を引き寄せ妨害を行い、敵の目を惹きつける事だ。
見えぬ敵に剣を無闇矢鱈と振り回しどうにかなるモノでは無い。
「・・・魔法で・・・・・・」
続き、クリスはおずおずと呟き・・・途中で言葉を切った。
ジークがジっとクリスを見つめていたからだ。
クリスは、首を横に振った。本当は分かっていた。
「・・・魔法には・・・・・・使用回数が有るから。必要外で使うべきじゃない。」
「特に考えてない・・・誰かが用意してると思ってたんだ。」
実際、クリスはそう思っており、アッシュが用意はしていた。
「・・・言い訳にならないよね。ボクは甘く考えてた」
ジークは頷いた。甘い。甘すぎる。
誰かが用意してくれるだろう。確認して足りなければその時に買い足せば良い。
それは当然の考えであれど、灯りの用意等全員がしてなければ行けないモノだ。
「誰かが用意してるだろう。用意してなければその時に用意していれば良い」
「成程、冒険に出た事の無い者の考えだ」
ピシャリとそうジークは言い終わり・・・次にアッシュを見た。
「アッシュ、森の中や敵の拠点の確認。お前はどうやって調べるつもりだ?」
アッシュはビクっと耳を震わせた。
狩人知識は無いアッシュである。適当に歩いていれば見つかる。そしたら戦えば良い。そう思っていた。
「己らに地の利は無い。敵を見つける為には地形を把握しなければならん」
「森の中で迷い、さ迷い歩く事になるかもしれん。」
「拠点を見つけたとして、敵が逃げ道を作っているかもしれん」
「もし、運良く敵を見つけ、逃げられなかったとして・・・森から抜ける事に手間が掛かる」
「行くべき道も何も分からず、知る手段も無い等、盲目で歩いているのと変わらん」
「・・・・・・己らは冒険者だ。傭兵では無い。分かるな?」
戦場へ歩き、戦い勝つだけなら傭兵で十分だ。
見知らぬ場所で、調べ、考え、勇気を持って踏破してこそ冒険者である。
「何でも良い。気になった事はメモをしろ。脳味噌等宛にはならん。」
「忘れない等と思うな。忘れても良いようにしろ。」
そこまで言うと・・・ガシガシガシとジークは頭をかき、溜息を吐いた。
「・・・・・・・・・はぁぁ」
ノエルはまた泣きそうになる。クリスは俯いた。アッシュは耳が垂れ下がった。
見放された、そう思ったからだ。そして3人に対しジークは・・・
「・・・・・・その上で・・・謝罪する。すまない」
頭を下げた。ジークの声音は深い後悔の色が浮かんでいた。
「己はお前らの事を知らん」
「お前達に打破する技術があるのかもしれん」「己の言った通りにしても無駄かもしれん」
「知らない事を知らぬ者に、ああだこうだと言う等滑稽な事だ。」
「己が今の己の様に言われれば脳天をぶち抜いている。すまない」
更に深く、頭を下げた。ジークは説教も正論も大嫌いだからだ。
相手がどう考えてるか、どうしたいか。それも分からず、否定する事は嫌いだった。
だが、それでも、これは・・・言わなければ行けない事であった。
「ノエル、クリス、アッシュ・・・その上で聞いてくれ」
3人は言葉を忘れ、ジークを見た。ジークも見つめ返した。
ジークは、一度言葉を切り、考え。ゆっくりと話し始めた。
薄暗い室内で、ジークの声だけが響いた。
「己が教える技術・・・
「自分で鍛え続けるしか無い。鍛えるだけでも駄目だ。鍛えたモノを応用しなければ行けない」
「ダンジョンの罠を見たらその場でどう解除するか考えなければいけない。予め学ぶ事は出来ん」
「暗闇の中、迫り来る暗殺者を察知するには五感を鋭し、違和感を放置してはいけない」
「考えて、足りない物が無いか考えろ」「分からない事があれば本職に聞け。」
「旅に必要なモノは行商人が知っている。」「山に登るなら登山家に聞けば良い」
「知らぬ場所に行くなら、近隣の者に何があるか、何が起こりかねないか聞け。」
「そして・・・便利なモノは迷わず使え。邪道であろうと自分の為になるならそれは正道だ」
ジークは、精一杯考えながら話した。
言葉を話す事は苦手だった。でも、今3人に必要な事を精一杯心から捻り出した。
どうか、忘れないで欲しい・・・と。言葉に乗せて話した。
「アッシュは、旅路の中で最低限のモノはある。」
「だが、ボロボロの靴は駄目だ。靴擦れを起すと走れん。高い場所に登った時に踏み外す」
「弓を張るのもいかん。弦も弓も痛む」
「クリスとノエルは、他の冒険者でも何でも良い。もっと真似をしろ。」
「道具の活用方法が分からなければ道具屋で聞け。」
「分からない事が分からないなら、体験した事ある者に何度も何度も聞き続けろ」
「金を払って道具を揃えれば、命が長らえる。そうすればもっと難しい冒険にも出かけられる」
「【備えろ】。
此処まで一息に言い終えて・・・・・・ジークは深く深く溜息を吐いた。
言葉を沢山話したくは無い。言葉を話せば話す程、本心は薄っぺらくなる気がするからだ。
でも、言わなければ伝わらない事がある。たった三日で
なら自分達で鍛えられる様にするしか無い。鍛えられるコツを教えるしか無い。
「・・・・・・ノエル、先程は済まなかった。拳骨を落とす事は無かった」
改めて、ジークはノエルに頭を下げた。
「何の道具も持たない。それを知り、何処か、誰かの・・・」
「冒険者と言う名のピクニック気分で依頼を受ける軟弱者達を思いだし手が出た」
「己は気に食わないなら手が出る。最悪殺す。だがお前と関係ない事で手を出すべきでは無い」
「許せ、ノエル。お前がその剣を携える訳を聞くべきだった」
ジークの謝罪に対し、許すか、許さないか・・・そんな言葉では無く。
ノエルは自分でも知らぬ間に。心の奥からポロリと全く違う返答が出た。
「・・・ジークさん。剣を振る事しか出来ない僕でも・・・凄い冒険者になれますか?」
その言葉に・・・ジークは誠実にそして、不器用に応えた。
「分からん。己が教えようと、次の日お前は死ぬかもしれん」
「何故なら教えた己が、お前達でも出来る事にしくじり、死ぬかもしれないからだ」
「・・・己にはお前の未来も何も分からん」
「だが、己が出来るだけの事はしてやる。それが己が受けた依頼内容だからだ」
そしてジークを・・・子供達はジっと見つめた。
同時に・・・・・・子供達はジークの言葉全てを決して忘れないと決めた。
彼から教わったとして、全てが全て上手く行く筈が無い・・・その事に今気づき
教わった事を、これから伸ばさなければ行けないと知ったからだ。
その時、3人は、ジークが考えた通り【備える事】を覚えようとしていた。
ノエルは、唯。教えてください。と小さく呟いた。許すも許さないも無かった。
ジークは頭を上げ、頷き立ち上がった。
「・・・此処の老婆は、冒険者の夫を持っていた方だ」
「ビタ一文まけないし、夫を一番の冒険者だと思ってるから男に厳しい」
「だが、腕は良い。業突く張りだがな・・・」
道具を袋に戻すと、入ってきた扉を開ける・・・・・・そこには今話していた老婆が居た。
老婆は背筋が伸びており富裕層特有の肌の張りは無く皺だらけだ。
優しい目等では無い。クワっと吊り上がった目は老婆が一癖ある事を物語っていた。
「ジー坊。子供連れてるとは・・・弟子かい?趣旨がえかね?」
「違う、依頼だ」
ピシャリと老婆に言うと、老婆に溜息を吐かれた。
「偏屈な野郎だよ、お前さんは」
ジロジロと老婆は子供達を見つめ
「半熟どころか、未熟じゃないか。ったく、ちょっとおいで」
老婆はそう言いながら、アッシュの持っていた袋をパシッ!とひったくる。
中をポイポイ出しながらブツブツつぶやき始める。勿論アッシュの許可等無い
「ロープの結びが綻んでる、ダメだねこりゃ。松明は5本程かね・・・ああこりゃ湿気ってる。2本捨てな。何ボサっとしてるんだい!!!その邪魔な靴をさっさと捨てな!!!!あぁ、ヤダヤダ・・・羊皮紙も毛布も持ってないよこの子は。マントも厚手・・・雪山にでも行くのかい?マントは日差しを遮るのと夜風を防ぐモノだよ!!!裁断して毛布にするからそこに起きな!それと、着替えも持っておきな、水に落ちたら凍死するよ。食料は・・・?無い!?自殺にでも行くのかね!もう!!!!!!!それとチョークも持っておきな。迷わなくて済むよ。糸と、針は服に縫い付けときな。大事なもんさ。方位磁石も必要さね。」
一瞬の出来事だった。老婆は凄まじい勢いでああだこうだと言いながら
ダメなモノはポイポイと後ろに放り出す。必要なモノをポイポイ袋に入れ、アッシュの体型にあわせる。
小袋にそれぞれ分け、様々な色の紐で種類別に分ける。
「羊皮紙10枚、インク、羽ペン2本。松明追加5本・ロープ・クサビと金槌も持たず崖やら木を登るつもりかえ?追加だよ。靴はあっち、大きさは・・・?後マントは毛布に変えるから半値だよ。新しいマントを持ちな。棚はそこ、着替えも同じ棚。どうせ殺し合って破けるんだ。安物で良いんだよ!食料は干し肉、干し果物、硬パン、後は栄養偏るから丸薬持っときな。その他諸々小道具を入れて・・・」
「さて・・・・金は幾ら出せる?今までので銀貨20枚だよ」
チラっとアッシュが前金の巾着を開くと・・・銀貨が30枚程入っていた。
銀貨5枚で食事全部有り、風呂有り、洗濯有りの個室の宿屋を一日借りられる。
ちなみに害獣駆除で大型猪一匹殺すのに10枚、熊一匹で20枚・・・熊等は子供達では殺せない。
小型の猪一匹で銀貨2枚。これが普通の子供達の害獣駆除の報酬である。
そんな訳でまさか、30枚も入ってるとは思わずビックリした子供達である。
何でこんなに入っているのか、そんな顔をしているが・・・・・・ジークはボソっと呟いた
「ゴブリン退治・・・調査も含めての前金なら妥当だな。確か成功報酬は銀貨100枚だったか?」
そう、調査も含まれているからだ。
動物が居る。殺して来い。半日で終わる、安全な雑魚を殺すだけとは違い
旅路の中でゴブリンとは比べ物にならない大物に出会うかもしれない。
探索しづらい場所に拠点があるかもしれない以上、唯の退治依頼の数倍になるのは当然と言えた
「で、幾ら出せるんだい!!!!」
ッカ~ッペ!と今すぐにでもジークに唾を吐き捨てそうな老婆に、ジークはアッシュを顎で指した。
自分で決めろと言いたいらしい。アッシュは老婆の勢いにタジタジだが・・・少し考え言った。
「ニャ、ニャぁ・・・前金が残り銀貨10枚・・・それとは別に銀貨5枚は出せますにゃぁ」
そこまで言うと・・・・・・アッシュは片耳をペタリと垂れさせ少し考えた。
先程のジークの言葉を思い出したのだ。
「・・・ゴブリン退治で・・・2日位旅をして、森に入って調査するニャら・・・何が必要ニャ?」
その言葉を聞くと、老婆はちょっと待ってなと言い、アッシュの体をペタペタ触る。
ゾクゾクゾクゾクと足元から耳まで何時怒鳴られるかと悪寒を走らせるアッシュだが・・・
「射手かい、弓矢ねぇ・・・そういえば武器他に持ってないのかい」
「深い森の中じゃ、弓じゃ撃ちづらい場所もあるもんだよ」
溜息混じりに武器が置かれた場所へと老婆は歩き・・・一つの短剣をアッシュに渡した。
「
「弓が壊れたら投げな。戦士が死んだら、それで自分の身を守って撤退。分かったかい?」
コクンコクンと頷くアッシュ。
「それと、良い剣帯が入ってね、投げやすい工夫がされてるんだけど、どうだい?」
見ると・・・銀貨1枚である。高いが中々面白い工夫がされている。
アッシュは面白がり、それを買った。
「残り銀貨9枚かい・・・武器が壊れたり、薬が必要になるかもしれないからね。残しときな」
そうして、次はクリスの番になったが・・・
さて、それなりに道具を持っていたアッシュでさえあの騒ぎである。
クリスはどうなったか・・・・・・・・・
「ぁぁ”ぁ”ぁ”ぁ!!!!!もおぉぉぉおおおおおおおお!!!!!なーに考えてるのさ!馬鹿じゃないかえ!?!?!?薬知識持ってるなら、それ相応に持っておきな!!!!傷用の薬草はコレ!!!精神安定用のポーションはこっち!!!毒用の薬草だよ!5枚重なってるけど重ねたまんまにしときな!どれか一つが効果出すのを祈るんだよ。ダメだったらだって?祈りな!!!!魔法使いだからって、武器の一つ位持たないでどうするのさ!!それどころかナイフも無く森に入るつもりなのかい!ピクニックどころか、近所に散歩にでも行くつもりなのかえこの子は!?松明も無い!?はぁああああ?!?!?!?!杖と体だけで行くつもりかえ!!!本当馬鹿!ジーク坊が漸く一人前になったと思ったけどダメダメだよ!教導が依頼だってなら・・・ん?もうその事は言った!?何度でも言わなきゃダメだろう!!依頼舐めるんじゃないよジー坊!んで、こっちのガキは唯の馬鹿だね!!!!冒険者名乗るならその脳みそに刻み込んどきな」
ばたばたと、道具等が渡されていき・・・・・・ノエルは冒険者らしい格好となっていった。
とは言っても、大体はアッシュと同じである。逆に言えばそれが最低限全員持つべき装備なのだ。
革鎧を着ているか、否か。薬草とポーションを腰に吊っているか否かの違いである。
まるで嵐が起きた様な大騒ぎと、罵詈雑言が飛び交う中。時折入るジークへの罵倒。
冒険者の酒場でこんな事を言われれば、その相手の片腕は切りさばいて持っていくが・・・
老婆は何一つ間違えた事を言わず、何より今回は自分(というか子供達)が悪い以上、黙っていた。
だが騒ぎも一段落する・・・ジークは頭を抑えていた。余りの大声に頭痛がしてきたのだ。
アッシュは耳をパタンと畳み、手で耳を抑えていた。獣人には余りに辛い環境であった。
そこへ前金の全てをほとんど使い果たし、半泣きとなったクリスがフラフラとやってきた。
ジークに俯いて近づき、その右足にぽふんと抱きついた。頼りになる誰かの温もりが欲しかったのだろう。
ジークは、心に傷を負ったクリスの頭をグリグリと撫でた。自分の初心者時代を思いだし、哀れに思ったのだ。
だが、此処で一番の主役の出番となる。
何の道具も持ってこなかったノエルである。
「 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ! ! ! 」
喝 ッ ッ ! !
※ ※ ※
結果ジークの足に抱きつくのが二人に増えた。
ジークは動きづらそうにしていたが、流石にくっついている子供を蹴り飛ばす訳に行かない。
そして、まだノエルの買い物は終わっていない。説教が終わっただけであった。これからである。
「・・・・・・ノエル。少し先程の話をするぞ」
目を真っ赤に腫らしくっついているノエルはいそいそと離れ、話を聞く体勢を取る。
バスタードソードをどうするかについてだ。
思い入れがあるなり、どうしてもバスタードソードを使うなら色々考えてやる必要がある。
だが困った事に、ノエルの所持金は少なかった。残る二人と大して変わらないが
最低限持っていたアッシュとクリスと違い、全て買わなければ行けないのだ。
前金30枚では足りない。更に他に剣を買うなら・・・追加で30枚は必要である。
「にゃぁ・・・にゃぁのでよかったら・・・」「うん、ボクも・・・仲間になるんだし・・・」
アッシュとクリスがそう言って巾着を取り出そうとするのをジークは止めた。
これからずっと共にやる相手だとしても金の貸し借りはするべきではない。
何より今回のみの臨時パーティで等。許すつもりはなかった。
そして、仲間から金を借りなければ行けない冒険者等下の下である。
「・・・・・・ジークさん・・・これ、高く売れますか?」
ノエルは・・・ジークが何か言う前にバスタードソードを差し出した。
ジークは目を細める。最悪、老婆と交渉合戦をしようと思っていたからだ。
「・・・良いのか?」
ジークは、しっかり手入れされていたこの剣が大切にされていると知っていた。
だからこそ、何かノエルとの間に因果があるのだと思っていたのだ。
「家族の思い出の物です・・・・・・でも、今は良いんです」
「私には、もっと必要なモノがありますから」
そう言ったノエルの瞳の光は強かった。そう・・・確かに今、ノエルは子供ではなかった。
その瞳を見たジークは・・・・・・一度頷く
「バスタードソードなら・・・一振り銀貨55枚程だ。」
「だがこの大剣は新しく、細工が美しい。老婆。65枚程の価値があると思うが如何か?」
ジークは嘘偽り無く、そう言った。
「老婆って呼ぶんじゃないよ、若造。・・・・・・んー・・・私なら70枚で店で売るね」
「買取なら40枚って所かねぇ・・・」
老婆の目利きは確かである。儀礼用等店で売らないだろうが・・・価値は苑くらいなのだろう。
ジークは頷き、考えると巾着から銀貨より一周り大きな・・・大銀貨を取り出した。
大銀貨とは、銀貨100枚分の価値がある代物である。
「・・・己が買い取る。70枚だな?」
ノエルが、ぁっと小さな声を出すと同時に、一振りの大剣。そして前金の巾着をジークは取った。
ノエルが大剣を持っていた手に、大銀貨を一枚、ポンと渡した。
「・・・・・・」
むすっとし、黙りこくる顔のジークを目を真ん丸にしてクリスは見た。
良いの?と言葉には出ず、唇だけが動いた。
「・・・・・・剣士には剣士の一分がある」
真っ直ぐな目をした剣士が、己の大切な剣を手放そうとするなら。
それが、必要だとしても・・・・・・、子供が漢へと道を歩もうとするのなら
「・・・・・・唯の気まぐれだ。」
珍しい気まぐれ位、起こしても良い・・・そうジークは思った。
面白そうに見ていた老婆は、ノエルに声をかけた。
「おいで、金はマケないけど体に合う剣を見てな。ほら、他のチビっ子も見てやるんだよ!!!」
武器の戸棚に、グイグイと子供達を押しやった老婆は、子供達を放りジークの所へ戻ってきた。
「アンタも買うものあるんだろう?冷やかしなら塩まくよ」
本当に撒きかねない老婆に対し、ジークは、依頼された森への皇国からの地図を見せた
「此処を通る。最近何か面倒はあったか?」
ジークがそう言うと、老婆は面倒臭そうに地図を見て
「ウチは道具屋だよ、噂話が聞きたいなら他所に行きな。」
ピシャリとジークに言う。ジークは気にせず、保存食を三日分頼んだ。
すると、あいよ。と老婆は手短に言って袋に詰める。すると老婆は呟いた
「途中の街で何やら病気が流行ってるらしいねぇ・・・蝋病だとか・・・怖い怖い」
蝋病に関して、ジークは知っているし、対処の仕方も知っていた・・・が
蝋病だと知らなければ対処しようが無い厄介な病気だとも知っていた。
「そうそう、栄養が着く丸薬の味の良いのができてねぇ「1袋寄越せ。」毎度有り。銀貨5枚だよ」
チャランチャランと先程受け取ったノエルの前金から銀貨を支払う。
すると、老婆がまた口を開いた。
「そういや、詳しくは知らないけど最近行方不明者が多くなってるだとか・・・」
消毒酒、瓶で。と老婆の言葉が途切れた瞬間にジークは呟いた。
「腰に付けられる様に革製にしときな。・・・さてねぇ、色々噂が溢れてるもんでねぇ」
「ゴブリンだって言う噂もあるし、昔に死んだ奴が歩いてたって噂もある」
「他にも沢山噂が溢れてるよ。実際に近くの街に行った時に聞いた方が良いんじゃないかねぇ」
ジークは、暫く考え、頷き買い物を続行した。
「ピッキングツール。3つだ。」
そう言われた老婆は呆れた顔をした。
「そんなの道具屋には無いよ、一昨日行きな。・・・子供達の為なら、菓子でも買ってやりな」
そう言った老婆は、1袋銀貨1枚だと・・・・・・菓子の相場の100倍程の値段を言った。
ジークは文句一つ言わず支払う。渡された布袋3つは・・・チャリチャリと金属の音がした。
「何本菓子は入っている?」
「アンタが普段買う奴の半分だよ、加工しやすいから気に入られる様にアンタが作ってやりな」
どうでも良い話だが・・・ジークのマントには幾つかの曲がった針金やらペンチやらが入っている。
全部で16本有り・・・ジークが菓子袋を指でいじると8本の細長い何かが入っていた。
「・・・・・・練習用の道具が欲しい」
「怪我しない様にした方が良いね、ほら。持ってきな」
ジークの言葉に対し、仕掛け木箱を3つポイポイと老婆は手渡してきた。
ジークが僅かに箱を開けると、中にはワイヤーが仕掛けられているのを見つけた。
「・・・確かに」
銀貨5枚だよ。そう言われ15枚支払うジークであるが・・・そこに子供達がわいわい帰ってくる。
だがどういう訳か、剣も武器も持ってはなかった。
「あの・・・私の剣なんですけど・・・・・・ジークさん。選んでくれますか?」
魔術師と射手であるクリスとアッシュは専門外。
ノエルも、剣術は納めていたが・・・冒険に好まれる剣等知らなかった。
「分かった、少し見せろ」
ジークが、武器の棚を見る・・・。折角剣術が使えるならメイスや槍等より剣術の方が良いだろう。
「小振りの短剣は人間や小型の獣には有効だ。だが大型の獣、魔物には今のお前では力不足だ」
「が・・・・・・投擲用の短剣程度二振りは持っておけ。」
大振りのダガーを老婆に渡す。マントにでも刺繍しておけと言いながら次の武器を見ていく
「大剣等は洞窟や深い森の中じゃ振り回せん。突きしか出来ん大剣なんぞゴブリンでも捌ける」
「・・・となれば・・・・・・」
ジークは、一振りの剣を取った。
ジークの持つサーベルとほぼ同等の刃幅を持つが・・・柄はサーベルの2倍程の長さであった。
オーソドックスな
「特徴が無い細長剣だな・・・が、まずはコレで覚えろ。」
「ゴブリン程度の敵なら、腕ならしになる。今までの癖を抜きながらこの剣で覚えろ」
ノエルに持たせ、基本の構え方をさせる。
僅かに上体がブれるのを見。ジークは違うロングソードを持たせた。
柄が僅かに太く、切っ先が僅かに広がっている。鞘は少し幅広い形をしている。
構えると・・・・・・ピタりと全くブれずに構えられた。
バスタードソードの方が圧倒的に重いが・・・構えた際に柄の重さが丁度良い様だ。
「銀貨40枚だよ。他の小道具一式全部で70枚。」
老婆が背後でそう言った。ノエルはその言葉を聞きジークに頷いた
「・・・これで良いです・・・んん・・・私はこれが良いです」
その言葉を聞き、満足げに老婆は頷き
テントと、調理器具等のPT全体で使うモノ等、老婆から提案されたり
使い終わった後は誰が引き取るかを相談し・・・全ての買い物は終わった。
※ ※ ※
夕暮れが皇国を染め上げる中、小さな影と大きな影は並んで歩いていた。・・・が
大きな影は大股で歩く為、小さな影達はパタパタ急ぎ足でついて行く。
大きな影は気づいて居ないのか、ドンドン前へ進んでいき・・・
「・・・・・・ん?」
大きな影の持ち主。ジークは後ろを歩くノエル・クリス・アッシュに気づき僅かに歩幅を緩めた。
本当に僅かだが・・・それでも子供達は追いつき、ジークの横を歩く。
子供達はお互いにキャッキャと装備品を見比べたり、ガラスに映る自分の姿に喜んでいる。
まるで一人前の冒険者になれたかの様な気がしたからだ。
ジークは無愛想な顔でそれを見、子供達が遅れたらその分歩幅を緩めた。
そうして、酒場へと戻る中・・・ピタりと子供達は脚を止めた。
「ジークさん、あれ」
子供達はとある馬車を指差した。どうやら今から皇都の外に出かける馬車の様で・・・
護衛には洒落た私服の少年少女・・・剣をもっただけの少年。
杖だけを握るローブの少女、格闘家なのだろうか?篭手を右手にしているだけの私服の少女。
それどころか、廃材だけ握り締めてるだけの少女さえ居た。
「あの馬車は商業ギルドの乗合馬車だ。」
「共に居るのは護衛依頼を受けた他の冒険者ギルドの冒険者だろう」
ランタンも、松明も、毛布も・・・それどころかマントさえ持っていないのが見て分かる!!!
腰に付けられた僅かな保存食以外無い・・・魔力を回復するポーションや毒消し等も無い様だ。
「・・・大丈夫なのかニャァ・・・」
護衛依頼を本当に受けたのか・・・?疑問が沸く程無警戒で馬車と共に歩く少年少女達の姿があった。
ふと気付く。少年少女の武器だけは、共に歩くノエル達よりワンランク上の代物だ・・・
つまり、武器にだけ金を掛け、それ以外に金は掛けていないのだろう。
「・・・・・・」
ジークは鼻を鳴らした。気に食わなかった。
ジークにとって、冒険とは男の世界だ。そして女は家を守り男を待つ者だ。
古臭い考えだと知っては居てもそう思ってしまうのは頭が硬い証拠だろう。
最近、目の前の護衛の冒険者の様な存在が大量に増えているのは知っていた。
一々突っかかったりはしない。
何より、自身が認めている女冒険者も居るのだ。
だがそれは女である以上に【冒険者だから】である。
そこまで考えジークは首を横に振る。
・・・あの者達にも自分が知らない覚悟があるかもしれない。自分より技術が上かもしれない。
名前も事情も何もかも知らない相手を馬鹿に出来る程ジークの観察眼は鋭くは無かった。
「・・・・・・知らん。上手く行くなら帰ってくるし、帰ってこないなら死んだのだろう」
少年一人に、女性3人。女性達は少年の横の位置を奪い合い。馬車の事は見ていない。
そんな馬車から目を背け、ジークと子供達3人は冒険者ギルド“剣徒の寝座”への道のりに戻った。
そんな4人・・・否。ジークを見つめる一人の男性が居た。
「・・・・・・彼が・・・」
「“神々の誉(トップ・プライド)”“未踏打破(ダンジョンホルダー)”・・・冒険者ジーク」
「成程・・・竜が人に化けてる。そう言われた方が納得出来るな」
全身金属鎧を着、背中には一振りのブロードソード。腰にはランタン、各種薬草が有り
背中の背嚢には様々な冒険道具が詰められていた。
「始めてのパーティで、最上級冒険者と共になるとは・・・神の思し召しなのだろうか・・・」
名前を・・・レイフォー。今回の依頼の発端である謎の野営箇所を見つけた冒険者であり・・・
最後の冒険の仲間となる人物である
誰かに何かを教える。という事が無いジーク。
頭を悩ませ、どうすれば良いのか苦しんでいる所を書いてみたかったです。
大変不器用なので、偏見はしてはいけないと知っては居ても
頭の中で泡の様に偏見が浮かび上がる姿はこれからもあるかもしれませんが
致命的に他者を馬鹿にする事が無い様に頑張りたいと思います