鋼の鳥は約束の場所へ   作:白鷺 葵

10 / 11
【諸注意】
・拙作『大丈夫だ、問題しかないから』(ガンダム00×地球へ…×スパロボシリーズ×Gジェネシリーズ等の変則的なクロスオーバー作品)がUXの世界観に組み込まれており、ガンダム00原作死亡者の一部が生存している。
・『大丈夫だ、問題しかないから』がたどり着いたかもしれない一種の未来図。そのため、あちらのネタバレの塊状態である。
・先天性で刹那がTSしており、グラハムとくっついている(重要)
・先天性で刹那がTSしており、グラハムとくっついている(重要)
・オリキャラが多数出演している。
・スパロボUX時空がネタとギャグ方面で愉快なことになっている。
・スパロボXもネタとギャグ方面で愉快なことになっている。
・魔従教団について捏造+魔改造が施されている。
・法師にオリキャラ追加。二つ名は“黄鉄鉱の術士”(黄鉄鉱=パイライト)
・キャラクター崩壊注意。
・基本的にダイジェスト形式。
・ホープス×アマリ(重要)
・ホープス×アマリ(重要)
・ホープス×アマリ(重要)

上記が大丈夫の方は、この先にお進みください。


相棒のカタチ

 山賊を撃退したエクスクロスの面々は、共闘したシモンを新たな仲間に加えて旅を続けていた。

 

 そんなとき、偵察を終えて戻ってきたG-セルフ/ベルリとルクシオン/青葉から、奇妙な情報が齎される。『山賊もドアクダー軍もいなかった』と言いながらも、彼らの表情は驚愕に満ちていた。慌ただしく帰ってきた様子からして、何かあったことは確かである。

 2人はドッコイ山の山頂で、対になる龍の石像を発見したらしい。赤と青の龍は、どことなく龍神丸と似ていたという。ドアクダー打倒の要となる神器と関係があるのではないかと思ったのもつかの間、どこからともなく笛の根が響いた刹那、突如巨大な竜巻が発生したらしいのだ。巻き込まれたら命が危ないと判断した2名は、急いで戻って来たという。

 竜巻の発生現場へと向かうと、ベルリと青葉が報告した通りの現象が発生していた。しかもこの竜巻、積乱雲が一切存在していない状態――澄み渡った蒼穹が広がる空――で起きており、移動する様子もない。勢いも衰える兆しがなかった。竜巻のメカニズムから考えると、まったくもって不自然な現象である。

 

 

「本来、竜巻は積乱雲が発生している状態で起きる現象なんです。一か所に停滞する例もありますが、基本的には積乱雲の流れに従うようにして移動するんですよ。それに、竜巻は猛烈な風を伴う代わりに、寿命が短い――所謂、短時間で収まると相場が決まっているんです」

 

「おおー! 宙継、頭いいな!」

 

「そもそも、“7歳児が竜巻の発生原理を理解している”時点で、『頭がいい』って話どころじゃないと思うが……」

 

 

 無邪気に宙継を褒めるヒミコに対し、マサキが何とも言い難そうな顔をしていた。一応、宙継は大卒検定を突破して資格習得も終えているのだが、自慢することではないのでノーコメントにしておく。閑話休題。

 

 自然発生ではないとなれば、何者かが人為的に発生させたと見るべきだろう。竜巻が発生する直前に響いた笛の音色に、何か重要なヒントがありそうだった。ここ――第1界層を治めるボスは、以前戦ったことがあるクルージング・トム。飛行機系の魔神を駆る、ドアクダー軍の空の覇者だ。

 しかし、あのとき戦ったクルージング・トムに、竜巻を発生させるような力はなかったように思う。奴の性格上、“竜巻を自在に操る力を有しているのなら、最初から容赦なく使ってきそう”なタイプだからだ。今回の一件は、何者かに力や道具を譲渡されたと考える方が自然である。

 

 ワタルがクルージング・トムとの決着をつけると意気込んだとき、宿命のライバルの気配を感じ取ったシモンが仲間へ注意を促す。

 彼が予想した通り、竜巻の前に部隊が展開した。村を襲った獣人たちが搭乗していたガンメンたちである。その中央には、白い機体。

 獣人による山賊部隊を率いる隊長、ヴィラル。彼はシモンと決着をつけるために、ここで待ち構えていたのだ。

 

 

「ショウ、トッドはいないみたいだよ!」

 

「後方に控えてるのか?」

 

「思念波で索敵してみましたが、トッドさんの思念は感じません。()()()()()()()()ことは確かです」

 

 

 宙継の答えを聞いたショウは考え込む。トッドも仕掛けてくると踏んでいたためか、予想が外れて意外だったのだろう。どんな理由で“ここから離れているのか”までは読み取れないが、敵戦力が減ったと考えれば好都合だと言える。

 自分たちに補足を入れてくれたヴィラル曰く、『トッドはクルージング・トムを見限り、奴の傘下から飛び出していった』とのことだ。躊躇いなく飛び出していったトッドに対し、どこか羨望染みた感情が滲んでいるように感じたのは気のせいではない。

 

 本当はトッド同様、ヴィラルもクルージング・トムのことをよく思っていないのだろう。しかし、彼は自分についてきた獣人のことを憂いているため、後ろ盾になり得そうなドアクダー幹部の施しを受けなければならない。獣の国を飛び出してしまった以上、帰る場所は存在していないのだから。

 「お前は本当にそれでいいのか?」というシモンの問いかけも切り捨てたヴィラルは、「自分が求める問いの答えは、シモンと決着をつけること以外に見出す方法はない」と断言する。あの2人の間に固い絆が結ばれ、信頼関係が築かれているからこその形なのだ。邪魔をするのは無粋と言えよう。

 他の獣人たちもそれを察しているのか、グレンラガンとエンキドゥドゥの邪魔をするつもりはないらしい。彼らは散会し、他の機体の元へと真っ直ぐに突っ込んできた。勿論こちらも2人の益荒男たちの邪魔をするつもりはないので、獣人部隊を迎え撃った。

 

 馬型のガンメン――メズーの機関銃を潜り抜け、フリューゲルはサイオン波で作ったダガーを投擲。機関銃部分に突き刺さったダガーは爆発を引き起こし、メズーを行動不能へ追い込んだ。獣人は慌てた様子で機体の脱出装置を起動させ、そのまま戦場から離脱した。

 

 

<2人の決闘がきちんと行われるようにって頑張ってる人に対して、擬態した同胞の機体を嗾けるような、無粋な真似はしないよ>

 

<よくできました>

 

 

 以前の彼女なら、効率を重視し、容赦なく同化して擬態していただろう。しかし、人のことを学んでから、心や感情というものをちゃんと理解できるようになってきた。

 頭で割り切れていたとしても、心がついて行けないことは日常茶飯事。もしくは、周りが自分から選択する自由を奪い取っていったこともあるだろう。

 例えそうだったとしても、一言でも「それはおかしい」と言う勇気がなければ、そんな願いすら“なかったもの”のように扱われてしまうのだ。

 

 一度“なかったもの”と扱われてしまえば、誰も自分のことを理解してくれなくなる。聞いてくれる人がいなくなる。――それがどんなに悲しいことか。

 

 嘗て、自分の願いとミールからの命令によって板挟みになり、“消えてなくなりたい”と願った操のことを思い出す。彼は、『生まれたことを“なかったこと”にすれば、大好きな人たちを理不尽に消さなくて済む』と考えた。『一騎を消してしまった事実から逃げられる』と思った。『大切な人を傷つけてしまった過ちと、そこから発生する痛みに耐えられない』と思った。

 けれどそれは、『空が綺麗だと思った来栖操が消滅する』ことを意味していた。『アルティメット・クロスに所属する大切な仲間がいなくなる』ことを意味していた。そんなの、みんなが納得するはずがない。だってみんなは知っていた。来栖操が生きていたことを、心を持っていたことを、みんなと一緒に生きたいと願っていたことを。それらを“なかったこと”にされたくないと、仲間たちは奮起した。――だから彼は、寸でのところで引き留められた。

 

 

(獣人のみなさんも、分かってるんだ。「それはおかしい」と主張する勇気は持っているし、どこかで小声でも、そう呟いていたんだ。……納得できるきっかけがなくて、動けずにいただけなんだ。そのきっかけを、この戦いに求めている)

 

 

 そういう意味では、彼らもあのときの操と同じような状況だろう。だから、全力でぶつかる必要がある。

 

 セイカも分かってくれているようで、力強く微笑んで頷き返してくれた。そのまま、次のメズーにELSビットを展開する。メズーは回避に失敗し、ビットから降り注いだレーザーを喰らったうえで横転した。獣人たちはコックピットから這い出す。彼らが戦線から逃げていく姿を見送った後、宙継はまた新手と戦いを繰り広げた。

 ヴィラル率いるメズー部隊が沈黙した頃、グレンラガンとエンキドゥドゥの決着もついたらしい。ヴィラルとエンキドゥドゥは納得したように――あるいは満足したような様子で敗北を受け入れていた。主の謝罪を制し、「気にする必要はない」と言わんばかりにエンキドゥドゥは微笑む。直後、機体は大破。脱出したヴィラルも、風のように去っていった。

 

 それを見ていた青葉が切羽詰った声でシモンに指摘したが、シモンは「追う必要はない」と微笑んだ。これが彼とヴィラルの信頼のカタチなのだと、宙継は知っている。敵対しようが共闘しようが、あのコンビはいつだって最高の好敵手でありパートナーなのだ。

 ディオは2人の関係がよく分からなかったようで、ヴィラルを確保しないシモンに疑問を抱いている様子だった。絆の形は多種多様なのであるが、バディたちがそれを理解できる日は来るのだろうか。――きっとその日はやって来て、自分たちだけの絆を見出せることだろう。

 青葉とディオは呆気にとられる。その際、何の気なしにお互いが視線を合わせたことに気づいたようで、彼らの間に再び奇妙な沈黙が広がった。――だが、そんな余韻をぶち壊しにするが如く、ドアクダーの幹部が高らかに笑う。

 

 

「グハハハハハハ! くっさい友情ごっこはそこまでにしな!」

 

「クルージング・トム!」

 

「お前等がいくら頑張ろうと、この神部の笛がある限り、俺の勝ちは変わらん!」

 

 

 クルージング・トムは勝ち誇ったように笛を示す。奴が笛を吹いた途端、竜巻の勢いが増した。ベルリと青葉が聞いた笛の音色も、先程の音と同じだったという。どうやら、クルージング・トムが有している笛には竜巻を操る力があるらしい。

 天災さえ操る笛の力――それこど、伝説に謳われる創界山の秘宝だろう。若干の恐れを滲ませたアマリの呟きを補強するようにして、ホープスは冷静に分析していた。創界山への案内役を引き受けたアマリは魔従教団出身者だ。秘宝についての知識があってもおかしくない。

 

 自分は無敵だと増長するクルージング・トムを一喝したのはシモンだった。

 

 実際、クルージング・トムが優勢なのは、竜巻を操る神部の笛が手元にあるためだ。笛の力を使っているだけで、クルージング・トムの実力ではないのである。要はズルなのだ。笛がなければ、あそこまで増長することはできなかっただろう。

 「男なら、てめえの力で戦ってみやがれ!」――シモンの正論に、エクスクロスの面々はうんうん頷き返した。特に宙継は、善人悪人問わず他人の力を悪用し続けた、超弩級の外道をよく知っている。

 勿論、クルージング・トムは激高した。神部の笛を吹いて、更に竜巻の勢いと効果範囲を広げようとしているらしい。そんなことをされたら、自軍部隊だけでなく、近隣にも被害が出てしまう。早く止めなくては。

 

 

「そんなことはさせるかよ!」

 

 

 シモンはグレンラガンと共に、竜巻へと身を投じた。それを見ただけで、この後何が起きるかの想像がついてしまった宙継は、ひっそり「勝ったな」と納得する。

 だって、シモンはいつだって困難をドリルでぶち抜いてきた。そのときに、万が一満身創痍になった場合、ライバルが彼を放っておくはずもない。

 宙継の予想通り、シモンは竜巻と逆回転方向にドリルを回すことで竜巻を中和。更に――非常に珍しいことだが――彼は満身創痍になっていた。宙継は「勝ったな」と確信する。

 

 だって、グレンラガンの隣には、ヴィラルがいる。

 

 ヴィラルはシモンとグレンラガンの行動を的確に批評した。『竜巻を止めた手腕と力は見事だが、そのせいで弱体化し死にかかってる姿は無様である』――彼の語り口調は粗暴ではあったが、言っていることを纏めるとこんな感じである。評論家の中でもガチ勢の意見だった。勿論、こんな形でシモンが命を落とすことなど、ヴィラルが望むはずがない。

 「立て、シモン! 螺旋王を……俺を倒した男の最期が、こんなものなど認めんぞ!」――ヴィラルの叱咤激励を受けたシモンは、それを真正面から噛みしめながら、勢いよく言い返す。まだ自分は終わっていないのだから、勝手に終わらせるな――シモンがそう叫んだ刹那、グレンラガンが勢いよく再起動した。出力も安定し、戦闘続行が可能な領域へ回復する。

 

 

「フ……それでこそだ」

 

 

 ライバルが再起したのを見て、ヴィラルは満足げに微笑む。しかしそれだけでは終わらせなかった。彼はグレンラガンに乗り込む。

 宙継が嘗て見た虚憶と同じように、彼らは2人で戦うつもりなのだ。その強さは、何度も何度も目の当たりにしている。

 

 

「敵が味方になった!?」

 

「そうじゃない、青葉! あの2人は、そんなものを超えてるんだよ!」

 

「嘗て戦った敵でもあり、戦友でもあり、相棒でもあり、仲間でもあり、絶対負けたくないライバルでもあり、いざとなったら本気で殴り合いができる――そういう関係なんです」

 

 

 呆気にとられる青葉に対し、ベルリと宙継は興奮気味に頷いた。こういう絆は、一種の理想であり浪漫である。「ナイスな展開です!」と、宙継も素直に感想を述べた。実際この場に浩一がいたら、きっと同じように「ナイスな展開じゃないか!」と親指を立てていることだろう。

 

 

「ヴィラル、あれをやるぞ!」

 

「なんだ、早速命令か?」

 

「いや、提案だ!」

 

「なら、やらせてもらおう!」

 

 

 『あれ』と『提案』という単語だけで通じ合っている時点で、彼らの絆がどれ程のものかを示される。“命令は聞かないけど、提案なら聞く”とか、まさにそれだ。2人は息ぴったりに口上を決めた。それを見たワタルが盛り上がる。

 先程まで本気の戦いを繰り広げていたシモンとヴィラルからは、息ぴったりなやり取りを見せるシモンとヴィラルを想像できなかったのだろう。青葉は未だにぽかんとしている。だが、クルージング・トムの怒声に、彼も集中を取り戻したようだった。

 

 裏切り者と詰られても、ヴィラルは一切気にしていない。山賊稼業とクルージング・トムへの協力に対して、忠誠を誓ったような気配は見受けられなかったのだから当然だ。

 むしろ「今までが不本意だった」と言わんばかりに、ヴィラルは三行半と独立宣言を叩きつけた。主がいなくなった今、今度は自分の意志で生きていく――そう決意を固くして。

 クルージング・トムは再び竜巻を起こそうとしたものの、いつの間にか背後に回っていたヒミコによって中断させられる。更には、突如現れた魔神から襲撃を受けていた。

 

 まるで図ったかのような連携である。ヒミコが笛を手にすると、魔神に乗っているパイロットが指示を出した。――その声は、この世界に来た当初に助太刀してくれた魔神のパイロットと同じ。

 

 

「あの人、あのときの……?」

 

「ヒミコのことを知ってるってことは、忍者の関係者なのかな?」

 

 

 「さあワタル。笛を吹いて、竜巻を止めるんだ!」「ええっ!? ま、待ってよ! このままじゃ、ファーストキスがクルージング・トムとの間接キスに……!」「洗えば問題ないのだ!」という奇妙な会話をBGMにしつつ、宙継とセイカは件の魔神を観察する。反応を調べてみた結果、機体は同一のものであると判明した。

 宙継が彼に声をかけるよりも、状況が変化する方が早かった。クルージング・トムとの間接キスに引き気味だったワタルだが、ヒミコの忍法――アルコール消毒込みの水鉄砲の術――で解決したらしい。真剣な面持ちで笛を奏でる。澄み渡った笛の音色が響き渡り、竜巻はあっという間に消え去った。

 それを見届けた魔神は、ちらりとヒミコへ視線を向ける。操縦者が優しい眼差しで彼女を見つめていたように感じたのは――クーゴが宙継を見つめるときの眼差しと同じ感情を見出したのは、宙継の気のせいではない。……もしかして、あの魔神に乗っている人物は、ヒミコの――?

 

 魔神は名残惜し気にヒミコを見つめ――けれど何も言うことなく、そのまま何処かへと行ってしまう。

 エクスクロスに合流できない/ヒミコに自分のことを名乗れない理由があるのか、謎は燻るばかりだ。

 

 グレンラガンのパイロットとしてエクスクロスに合流したヴィラルを迎える間もなく、クルージング・トムが部隊を率いて陣形を敷く。自分の策を滅茶苦茶にしてきたエクスクロスに対して、強い怒りを見せていた。

 

 それを見たアンジュとグランディスがニヤリと笑う。ダーティな世界とやり口に精通しているからこその悪い笑顔だ。最初から“ドアクダー幹部倒すべし慈悲は無い”というスタンスのため、クルージング・トムが突っ込んでくるというのは、『追いかける手間が省けた』以外の何物でもなかった。

 グレンラガンと龍神丸が、先陣を切ってクルージング・トムの魔神と対峙する。丁度その位置からは、青い龍と赤い龍の石像が良く見えた。龍神丸は石像を注視するようワタルに声をかけ、『何故最初の目的地がドッコイ山の山頂だったのか』を語ってくれた。

 

 

「あれこそが、神部七龍神……! 我々がここに来たのは、彼等と会うためだ!」

 

「ってことは、あの石像も、龍神丸と同じ神様なの!?」

 

 

 ハンソンが驚きの声を上げ、石像を見上げる。言われてみれば、龍神丸と形状や色合いは違うものの、像から放たれる神聖なオーラは龍神丸と同等のものだ。

 

 同業者のお膝元にやってきたおかげか、龍神丸は新たな力を解放したらしい。龍神丸に促されたワタルは、早速新しい技を披露するため身構える。

 そんなワタルに触発されたシモンもまた、新技を試すと宣言した。ヴィラルは何故か心此処に在らずのまま頷いたが、ワタルと龍神丸や龍の像を見比べていた。

 早速、龍神丸は雷龍拳を、グレンラガンはダブルブーメランを放って量産型ゲッペルンの群れを薙ぎ払った。他の面々もそれに続くようにして、雑魚を相手取る。

 

 アンジュ/ヴィルキスとヴィヴィアン/レイザーが高速で飛び回り、量産型ゲッペルンやヘルコプターへ凍結バレットをお見舞いした。身動きが取れなくなった機体へ、アマリとホープス/ゼルガードの電光切禍やシバラク/戦神丸の野牛シバラク流×の字斬りが叩きこまれる。双方から見て、凍結バレットで動きを封じられていた両機は的でしかない。

 バイストン・ウェル帰りの翔子が『あとは私が当てるだけ!』と言って、ノルンのバリアに閉じ込められた敵を狙い撃ちしていた光景を思い出す。彼女は今も、愛する一騎と大切な友達が暮らす竜宮島の守護者として、マークゼクスを駆っているのだろうか。『一騎くんには主夫の資格があると見た! 私の婿殿にならんか!?』と迫っているのだろうか。

 

 竜宮島の喫茶店・楽園が魔境へと変わった瞬間を思い出してしまい、宙継はひっそりとかぶりを振った。

 例えるならそれは、バイストン・ウェルが地獄公務員の乱入でバイストン・ヘルに変わったようなものだった。閑話休題。

 

 

「あいつ、足短けぇ!」

 

「余計なことを考えるな。戦闘に集中しろ」

 

「分かってるよ!」

 

 

 ヘルコプターの造形に間の抜けたような感想を零す青葉を、ディオがぴしゃりと窘める。青葉は緩んでいた意識を引き締め、ルクシオンを駆って挑みかかった。

 初出撃のときと比較すれば、ルクシオンの戦い方も板についてきたように思う。ディオは青葉/ルクシオンを一瞥した後、即座にブラディオンを駆って敵を排除していく。

 

 その脇では、ダンバインの攻撃によって吹き飛ばされたヘルコプターを、グラタンが主砲で狙い撃ちしていた。メガファウナやシグナスも、牽制がてら武装を展開している。宙継も、邪魔者たちを倒すために天を駆けた。

 

 程なくして、雑魚どもは完全に沈黙する。振り返れば、クルージング・トム/セカンドガンとの戦いも佳境に入ってきていた。ヴィルキスとレイザーの凍結バレットによってその場に氷漬けにされたセカンドガンを、戦神丸が一刀両断した。氷は解けたものの、ダメージの影響で身動きは取れないでいる。そこへ、龍神丸が龍雷拳を叩きこんだ。

 龍神丸の一撃が決め手になったのだろう。セカンドガンは大破した。クルージング・トムが悔しそうに叫び散らす声が周囲に響く。だが、奴は「自分は負けたわけじゃない」と負け惜しみを残し、そのまま何処かへと去ってしまった。敵が沈黙したことを確認し、仲間たちはほうと一息つく。寄せ集め部隊にも、人と人との繋がりが出来てきたように感じた。

 

 

<今なら、カイルスみたいに『GN粒子の蔓延で通信機器が使用不可になっても、普段通りの連携を披露できる』んじゃない?>

 

<できそうな気がしますし、できる日も来るのかもしれませんよ>

 

 

 セイカの問いに対し、宙継は微笑む。彼女の話題は、クーゴが視た虚憶の光景、その1幕だった。クレディオが来襲した世界で、遊撃部隊のカイルスが見せた連携――対アロウズやその傘下に属する連中たちを撃退するため、スメラギが行った奇策の1つでもある。閑話休題。

 

 

「しかし、奴め……最後に謎がどうとか言っておったな」

 

「おーい、ワタル!」

 

 

 シバラクが頭をひねったのと、ヒミコがワタルを呼んだのはほぼ同時。彼女の声に視線を向ければ、くノ一の少女は赤龍と青龍の像の前にいた。彼女は石造の前に何か文字が刻まれているのを見つけたらしい。刻まれていた文字を読み上げる。

 『赤龍と青龍。1人の人間が、両方の口に同時に手を入れたとき、2匹の龍は甦る』――文字通りの意味だった場合、“1人が赤龍と青龍の口に、同じタイミングで手を入れる”ことで仕掛けが起動するという話だ。

 だが、赤龍と青龍の口はかなり離れており、1人が両腕を目一杯広げても届かない――十数人の腕の長さが必要な距離が広がっている。ワタルは「ゴム人間みたいに両手を伸ばさないと届かない距離だ」と真顔で呟く。どう頑張っても、1人で仕掛けを作動させることは不可能だった。

 

 これが、クルージング・トムが言い残した“謎”の正体らしい。

 最も、件の像の大きさや離れている距離からして、機体に乗った状態で行った方が良さそうだが。

 

 

「ゼルガードが両手を伸ばしても届かないだろうな」

 

「トランザムは……無理だね。頑張っても、秒単位のタイムラグが発生してしまう」

 

「あくまでも、“3倍の速度で早く動けるようになる”だけですからね。“同時に”という部分で引っかかるでしょう」

 

 

 ショウはゼルガードの両腕を見ながら唸った。同時に、セイカと宙継も見解を述べる。

 

 フリューゲルに搭載されたトランザムシステムでは、ヒミコが読み上げた謎を解く鍵にはならない。他の機体のシステムも、単騎で謎を解くことは不可能に等しかった。

 ロケットパンチ等で腕を飛ばせる機体だったら、勝機はあっただろう。――だが、()鹿()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

「本当の方法は分からないですけど、私たちにはあるじゃないですか。2人の人間を1つにする方法が」

 

 

 アマリは満面の笑みを浮かべ、ヴァリアンサーのカップリング機――ルクシオンとブラディオンを見つめた。この機体に搭載されているカップリングシステムならば、2人の思考のラグをなくすことができる。そうやって繋がることによって、双方の機体性能を飛躍的に上昇させるのだ。この原理を応用すれば、2人で“1人の人間として行動する”ことと同等の扱いにされる可能性があった。

 理論上は100点満点だが、現実ではどうなのか――そんな疑問を吐露して首を傾げるディオを、論より証拠波の青葉が引っ張る。ルクシオンは率先して龍の像へと向かったが、ブラディオンは一切動こうとしなかった。「俺にはできない」と、彼は初めて弱音を零す。今まで青葉を引きずるようにして戦場を飛び回っていたディオが、どうして今更そんな弱音を口走るのか。

 答えは簡単。『今が戦闘中ではないから』だった。戦闘中は生きるため、生き残ってやるべきことを成すため、青葉とディオはカップリングシステムで高いシンクロ率を叩きだしているのだ。戦っているという要素がすべて廃された今、自分たちを繋ぐものは何もない。そんな状態の自分たちに、果たして、旅路に関わる仕掛けを解くことができるのか――成功例よりも失敗例を思い浮かべる想像力が、今のディオを尻込みさせている。

 

 

「できないんじゃなくて、できないと思い込んでいるだけなんじゃないのか?」

 

 

 ベルリのアドバイスを皮切りに、仲間たちはディオへ声をかける。

 

 変に気負う必要はなく、いつも通りにしていればいいのだと。余計なことを考えなくていいのだと。元の世界へ帰還するためには、前を向かねばならないのだと。青葉のことを認めているという、己自身の心に対し、素直になればいいのだと。

 躊躇いを見せるディオへ、青葉はシモンとヴィラルの例を挙げる。彼等の関係を言い表すのに相応しい言葉を見つけることは至難の業で、でも、“同じ目的を果たすために、同じ場所で戦っている”という強い結びつきがあった。

 

 

「……同じ目的のためか」

 

「――ディオ!」

 

 

 仏頂面だったディオの表情が柔らかに緩み、ブラディオンはルクシオンの隣に並ぶ。普段は常に袖にされていた青葉への態度が、目に見えて軟化したのだ。

 青葉はぱああと表情を輝かせた。2人は軽口をたたき合う。いがみ合っていたのが嘘みたいに、彼等の口元には自然な笑みが浮かんでいた。

 「コネクティブ・ディオ!」「アクセプション!」――カップリングシステム起動の合言葉が響き、ルクシオンとブラディオンが動く。

 

 シグナスから歓喜の声が聞こえたあたり、2人の同調率は最高記録を叩きだしたのだろう。まるで最初からそうであったと言わんばかりに、ルクシオンとブラディオンは一心同体だった。2機は“同時に”“龍の口へ手を入れる”。

 

 

「――よく来た。ワタルと勇者たちよ」

 

「我々はお前たちが来るのを、このドッコイ山で待っていた」

 

 

 ――仕掛けは滞りなく作動したらしい。

 像になっていたはずの赤龍と青龍が、厳かな面持ちでこちらを見下ろしていたからだ。

 

 

***

 

 

 神部七龍神の赤龍と青龍は、件の像に封印されていたらしい。エクスクロスがクルージング・トムを打倒し、仕掛けを解いたことで、一時的に復活することができたようだ。言葉を交わした時間は短時間ではあったものの、今後の方針を決めるには充分有意義な話題と情報が提供された。

 創界山の虹を元通りにするためには、創界山の秘宝をすべて集める必要がある。今回取り戻した神部の笛も、創界山の秘宝の1つだった。秘宝の数は全部で6つあり、そのすべてがドアクダーの手中にある。ドアクダーは幹部に秘宝を預け、守護させているらしい。それらをすべて取り戻せば、ドアクダーを打倒するための力が手に入るそうだ。

 クルージング・トムとの戦闘から考えると、ドアクダー幹部は秘宝を悪用してくる可能性が高いだろう。同時に、クルージング・トムを撃破したことから、エクスクロスを本格的に狙ってくることは明らかだ。――まあ、探しに行く手間が省けたのと、相手がお宝を持って出て来てくれるという点では楽だろうか。

 

 言い方とやり口が完全に盗賊じみているものの、喧嘩を売って来たのはドアクダーの方だ。こっちは振りかかる火の粉から身を守らねばなるまい。今後、エクスクロスの立場がどのような扱いを受けるかは分からないが、このスタンスは変わらないだろう。

 

 ヴィラルが率いていた獣人たちは、山賊稼業をやめてカミナシティへと戻ることにしたようだ。シモンとヴィラルの戦いぶりを見て、彼等は“人間ともやっていけるのではないか”と信じられるようになったのと、シモンから『カミナシティが働き手を求めている』という話題を聞いたためである。彼等は迷惑をかけた人々に謝りながら、獣の国へ戻るという。

 『人間が異種族に対して細々とした注意をするのは、“貴方たちと一緒に生きていきたい”って思っているからなんだよ。一緒に生きていくためには、お互いが気持ちよく生活できる環境づくりが必要なんだ』というセイカの言葉も、彼等の背中を押したのだろう。獣人はセイカを“アネさん”と呼び、彼女の言葉をしっかり受け止めていた。

 

 ……ただ、『ELSにとっての同化はコミュニケーションだった。しかし、人間の視点から見ると、同化は“命に係わる侵略行為”と判断されることだった。それ知らなかったELSと、ELSの特性を知らなかった人間のすれ違いによって、死ななくてよかった多くの人間を死なせてしまった』という話題は、獣人たちには重すぎたのかもしれない。

 

 獣人たちの物差しは、ELS・フェストゥム・バジュラよりも人間に近い。それ故に、ELSの存在や行動に対して、人間が大パニックに陥り戦線を敷いた理由も理解できたのだろう。

 人間との相互理解を深め、共に生きるために必要なルールを模索することの大切さを、深く心に刻んでくれたようだった。

 

 因みに、当時、多くの軍人や武力団体のパイロットがELSとの戦いで戦死している。原因理由の8割強が自爆だった。

 

 

『当時のELSは『どうして人間はみんな自爆するの? これじゃあ同化できない――もとい、コミュニケーション取れないじゃん!』って思ってた』

 

『ひ、ひええ……!』

 

『アネさん! 俺たち獣人だって、何の知識もない状態でアネさんの仲間に同化されちまったら、絶対自爆しちまいますぜ!?』

 

『でしょう!? そういう誤解による悲劇をなくすためにも、お互いのことを理解しなくちゃダメなの。ソラが手を伸ばしてくれなきゃ、刹那が対話を成そうとしなきゃ、アルティメット・クロスが2人の道を切り開いてくれなかったら、今頃人類とELSはどうなってたことか……』

 

 

 そんな話題を耳にした面々の顔色は、若干悪かった。笑い話で済ませるには、あまりにも誤解と悲劇の規模が大きすぎたためだ。宙継の世界でも、ELSやフェストゥムに対して蟠りを抱いている一派がいることも事実だ。……それでも、戦わなくて済むならそっちの方がいいと判断する者の方が多いことは救いだろう。

 認識の差異から広がった誤解と恐怖を乗り越え、物差しが違う異種族同士でも手を取り合って生きていこうとする人間がいる――アルティメット・クロスの姿勢は、異世界で生きる異種族同士の蟠りを解くヒントになれたようだ。獣人たちはシモンとヴィラルの武運を祈り、同胞たちを目覚めさせてほしいと頼み、『相互理解大事!』と叫びながら去っていった。

 あと、何故かみんなから頭を撫でられた。『お前、熱い奴だな!』だの、『凄いよ宙継くん!』だのと褒められたのだが、宙継は別に、大したことはしていない。ただ、助けを求める誰かのために手を差し伸べられるような――嘗て、宙継にクーゴが手を伸ばしてくれたように、そんなクーゴみたいな――人間になりたかっただけだ。

 

 新たな仲間を加えたエクスクロスは、次の目的地へ向かう前の小休止をしている。先の戦いがハードだったことも、小休止を挟む理由だった。

 

 

「――よし。新しいデータの纏めはこんな感じですかね」

 

 

 宙継は纏めたデータを見て、満足げに頷いた。アルティメット・クロス時代に収集した仲間たちのデータを、シミュレーター訓練に利用するためである。

 

 アル・ワースを救う旅を続けるエクスクロスの前には、様々な勢力の有する、多種多様の兵器が立ちはだかるだろう。戦いの経験は少しでも積んでおくに越したことはない。戦い方や連携のバリエーションを広げるには、既存の経験とデータだけでは足りないと思ったのだ。

 それに、淡々と敵の撃破を行うだけのシミュレーターより、現場同様、状況が入り乱れるような形式のシミュレーターの方が、より実践に近い雰囲気を味わえる。アルティメット・クロス時代に積み重ねた経験を、少しでもエクスクロスのために使いたかった。

 

 宙継が纏めたデータの一部は、既にメガファウナやシグナスのシミュレーターに搭載されていた。今回宙継がまとめたデータは、アップロード用のものである。

 アルティメット・クロスの面々との模擬戦だけでなく、アルティメット・クロス時代に体験した戦場の再現や、アルティメット・クロスと敵対していた機体との戦いも行えた。

 ただ、宙継の思い出補正の影響か、難易度の調整がガタガタになっている。現在、宙継は新しい戦場の追加と既存の難易度調整を行っている真っ最中だった。

 

 

「『本物の暴力が怖い』、『忍者の連続行動は反則』、『大至急ハザードを殴らせろ』、『フェストゥムの回避率が異常すぎる』、『サコミズ王の叫び声が煩い』、『ロリコンは犯罪ではないのか』……」

 

 

 寄せられた反応――主に苦情面/改善点を確認する。一応ライト版の製作も進んでいるが、是非とも初期難易度でも戦えるようになってもらいたい。

 ただ、ストーリーモード方式にしたおかげか、一部の面々からは『部隊士気が上がる』ということで好評だった。逆に下がるような展開もあったらしいが。

 

 具体例としては、“竜宮島およびハザード護衛ステージで『ステージクリア確定直後、ハザードの乗る戦艦が、ランダムで誰かを狙った核兵器ミサイルを発射する』”というイベントだろうか。ディオ/ブラディオンを狙って放たれたミサイルは、身代わりとして飛び出してきた青葉/ルクシオンに命中。ルクシオンが撃墜されたらしい。

 2人はそのことで偉く揉めたようだ。しかも、そのゴタゴタは2人の間だけでは収まらなかったようで、恐ろしい形相をしたディオが宙継の元へ来襲し、「なんであんな要素を入れた! 言え! 何故だ!?」と、尋問一歩手前の状況になったことがある。「実際にやられた。二度とあんなことが起きないようにしたかった」と返答したら、無言のまま解放してくれた。

 そんな話題を聞いたクラマは、酷く鬼気迫る顔をして悩んでいたか。一応、あのステージは“クラマに宛てたメッセージ”でもある。流石にクラマとハザードには天と地ほどの差があるが、あそこまで転落してしまう前に踏み止まってほしい。彼に引導を渡すことになるのは嫌なのだ。不器用だけど優しい人と知っているから。

 

 宙継が作業をしていたとき、背後の扉が開いた。

 入って来たのは、シミュレーター訓練を終えたアマリである。

 

 

「精が出ますね、宙継くん」

 

「アマリさん! 訓練お疲れ様で――……あれ、ホープスは?」

 

「『シミュレーターで得たアルティメット・クロスの情報に好奇心を刺激された』とかで、先に自分の研究室へ戻っちゃいました」

 

 

 アマリは苦笑しつつ、「隣に座ってもいいですか?」と声をかけてきた。宙継が頷けば、アマリは隣に腰かける。

 

 

「そういえば、セイカさんは?」

 

「『腹黒鸚鵡で遊ぶための算段を立てる』って言って出て行きましたよ。あの子、良くも悪くもホープスがお気に入りらしくて」

 

「ああ成程。あの2人――1人と1羽も、喧嘩する程仲がいいって感じでしたからね」

 

「どこかの鼠と猫みたいですよね。仲良く喧嘩しな、って」

 

 

 宙継とアマリは、お互いの相棒がじゃれ合う姿を幻視した。今頃、ホープスの研究室は阿鼻叫喚の大騒ぎになっていることだろう。そんなことを考えながら、2人は雑談に興じた。今回のシミュレーターの感想や、他の人たちが何を言っていたのかに関する話題が多くなる。

 戦艦用のシミュレーターでドニエルと倉光がタッグを組んでスメラギとジェフリー(再現精度は3割弱程度)と勝負を繰り広げたり、アンジュがストライクフリーダムに対して妙な既視感を抱いたり、デモンベインのシャイニング・トラペゾヘドロン(ダイナミックケーキ入刀)を見たシバラクが血涙を流したり――話題に事欠かない。

 アマリは蒼穹作戦やELSとの対話に興味がある様子だった。セイカと獣人たちが話していたことが、なんだか妙に気になって仕方がなかったらしい。丁度、アマリとホープスの関係も異種族同士という繋がりがあるのだ。自分たちの関係の形を築くのに、大きな指針になるのは当たり前のことだろう。

 

 

「素敵です。お互いのことを分かり合えた証として、宇宙(そら)に花が咲くなんて」

 

「電脳貴族との戦いで、今まで対話に成功してきたELSとフェストゥムが援軍に来てくれたときは胸が熱くなりました。分かり合って、手を取り合って生きていく……僕らの選んだ道は間違いじゃなかったんだって思ったんです。あんなに温かくてキラキラしているものが、滅びを齎すだなんてあり得ないって」

 

「色んな命と手を取り合って生きていく……か。宙継くんの世界には、とっても素敵な未来が広がっているんですね」

 

「前途は多難ですが」

 

 

 宙継の世界は、確かに未来へ向けて動き始めている。蟠りや癒えぬ傷を引きずりながら、それでも新しい時代を――未来を築こうと歩き始めたばかりだった。事後処理は未だに残っているし、成さねばならぬことや解決しなければならない問題も山積みだ。頭が痛いのは事実だけど、きっと大丈夫だと信じられる理由があった。

 人類とELSの未来を背負い、宇宙へ旅立って行ったクーゴたちがいた。地上に残った面々も、旧アルティメット・クロスの誇りを胸に戦いへと身を投じている。過去や未来へ還っていった者たちも、ユガの狭間に残った者たちも、この戦いのことを忘れない。きっといつか、どこかで会えるだろう。だって世界は、ちゃんと繋がっているのだから。

 

 

「ELSのパートナーにフェストゥムの友人。異種族同士でも仲良くできるの、羨ましいですね」

 

「アマリさん?」

 

「……私も、ホープスと、もっと仲良くなれるでしょうか?」

 

 

 雨垂れから落ちた雫が地面に弾けるような響きを以て、アマリが呟いた。彼女の横顔は真剣であると同時に、どこか憂いで満ち溢れている。緑柱石のような双瞼が揺れていた。

 

 最近、アマリとホープスの相棒関係が変化していることは察している。特にホープスは、アマリに嫌味を言う頻度が減り、最近は素直にアマリのことを褒めるようになった。

 アマリが修練の末に新しいドグマ――電光切禍を生み出したときは、珍しくべた褒めしていたのだ。以後も褒める頻度が上昇し、ハードルもどんどん下がってきたように思う。

 出会った頃に比べれば、相棒という言葉がきちんと正しい意味として機能するようになったと言えよう。ホープス優位でアマリが依存気味だった歪さも解消されてきた。

 

 どちらも何も言わないけれど、お互いに歩み寄ろうとしていることは確かだった。

 そうして今、アマリの方が――「もっとホープスと仲良くなりたい」と、明確に口にしている。

 

 

「――それ、ホープスに言ってみたらどうですか?」

 

「え……? で、でも……」

 

「思っているだけではダメなんです。面と向かって言わなきゃ、何も伝わりませんよ。相手がいなくなってしまったら、何もかもが遅いんです」

 

 

 これは、父と一緒に外宇宙探索に出た軍人――アンドレイ・スミルノフがよく語っていたことだった。彼は以前、父親――セルゲイと袂を分かったことが原因で溝を作り、積み重なった誤解によってセルゲイを討ってしまった。テロリストになった元同僚を説得するという密命を帯びた父親を、アンドレイはテロリストに与した裏切り者と勘違いしたのだ。

 親子に溝ができたとき、セルゲイは何も言わなかった。それが自分の罪であり、与えられた罰なのだと受け入れた。アンドレイは何も聞かずに飛び出した。耳をふさぎ、目を閉じて、父親の口を黙らせるようにして攻撃を仕掛けた。その結果、セルゲイの機体は、アンドレイの機体の武装によって至近距離から串刺しにされる。

 それでもセルゲイは、息子に対して不平不満をぶつけなかった。ただ、「離れろ」とだけ言って、息子の機体を突き飛ばした。自分の機体の爆発に、アンドレイが巻き込まれてしまわぬように。――“アンドレイを道連れにしないように”という、父親としての、最期の気遣い。それを目の当たりにしたアンドレイは、目の前の光景を認められずに迷走した。

 

 トランザムバーストの恩恵によって、アンドレイはマリー/ソーマ経由でセルゲイの心に触れる。父親の不器用な愛情を知ったアンドレイは、激しく慟哭していた。

 『どうして何も言ってくれなかったんだ! 言ってくれなきゃ、何も分からないじゃないか!』――父へ向けた憤りなのか、自分へ向けた怒りだったのか、それを知っているのは本人だけだろう。

 

 以来、彼は『大切なことはきちんと言葉にして伝える』ことを徹底しているらしい。ただ、性格が父親譲りの不器用系生真面目さんなので、「ああああああ無理だダメだ恥ずかしい死ぬ! そして何より殺される危険性が、あああ沙慈くんやめるんだ」等と言いながらのたうち回っている現場を見たことがある。確かあのときは、“恋人の絹江・クロスロードへの誘い文句”を考えていたのだったか。閑話休題。

 

 

「――それに、『相手と仲良くなりたい』と思うことは、『分かり合いたい』と願うことは、何も間違ったことじゃないでしょう?」

 

「……そうですよね。きっと、間違ってなんかいませんよね」

 

 

 宙継の言葉を聞いたアマリは、にっこりと微笑んだ。

 

 多種多様の命と手を取って生きる未来がどれ程尊いのか、彼女も宙継から聞かされていた。彼女もまた、それを素晴らしいものだと思ってくれた。

 彼女が抱いた感情は――宙継が伝えた出来事は、確かにアマリの背中を押したのだ。緑柱石の瞳はキラキラ輝いている。

 

 

「必ず、ホープスに伝えます。……喜んでくれるかどうかは分からないけど」

 

「大丈夫ですよ。アマリさんの気持ちは、ちゃんと伝わります」

 

 

 アマリは照れ臭そうにはにかんだ。ちょっと自信なさげに微笑む少女の背中を、宙継は言葉でそっと押してやった。何とも言い難そうにしているアマリだったが、かえって居心地悪くなってきたのだろう。慌てた様子で話題を元に戻す。

 宙継も、黙ってそれに乗っかることにした。「お父さんが帰って来て、操くんがまた『生まれて』くるまでには、一通り片付けておきたいんです」――自分の抱負を語ったとき、アマリは「そういえば」と言葉を紡ぐ。

 

 

「第2次蒼穹作戦で、一騎さんが言っていた『お前の神様に逆らえ』っていう台詞も、どうしてか忘れられないんですよね」

 

「……魔従教団の術士が、その言葉に感銘を持っちゃうんですか? 智の神エンデから嫌がらせ受けたりしません?」

 

「教団の在り方や教義は疑っていないし、不満があるわけではないんですけど……あ、でも、私よりもホープスの方が、その言葉を気にしているみたいでした」

 

 

 アマリはそう言うなり、思案するように顎に手を当てる。

 

 一騎の言ったそれは、ミールの命令――一騎たち含んだ竜宮島の人間、およびアルティメット・クロスを消せ――に従うしかないと思いこんだ挙句、自分自身を消すことで痛みから逃れようとしたフェストゥムの端末・来栖操に向けた言葉だ。

 他にも、デウス・エクス・マキナが見せつける滅びの未来をぶち壊した浩一や、嘗て宗教色の強いテロ組織に所属していたが離反した刹那も同じことを述べて操を説得していた。『自分の行動を決めるのは神ではなく、自分自身の意志である』と。

 アマリとホープスは『自由』を求めて魔従教団から脱走した身だ。自分の意志を持ちながらも、母体にして神であるミールの代弁者にならなければいけなかった操の境遇について、何か思うところがあって当然なのかもしれない。

 

 特にホープスは、教団が生み出した魔法生物である。教団にい続ければ、いずれは実験台として使い潰されていたであろう。

 でも、彼は教団を切り捨てて逃げ出す度胸の持ち主だった。そんな彼がどうして、自分と正反対の状況にいた操を説得する言葉に反応したのか。

 

 

「……私、ホープスのこと、何も知らないんです。彼は何も話してくれないから」

 

「アマリさん……」

 

「でも、きっといつか、話してくれますよね。――仲良くなれたら、きっと」

 

 

 アマリは努めて笑みを浮かべていた。どこか寂しそうに、自信なさそうに。

 宙継は、彼女に何も言ってやることができなかった。




宙継の種まきによって、アマリの方にも影響が出てきました。原作よりも早い段階で、ホープスとアマリが接近しつつあります。原作12話相当の時間軸ですが、恐らく彼の味覚にも影響が出ていることでしょう。
今回はUX要素マシマシでお送りしました。シミュレーター訓練が阿鼻叫喚になっているようですが、一種のネタとしてお楽しみいただければ幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。