・拙作『大丈夫だ、問題しかないから』(ガンダム00×地球へ…×スパロボシリーズ×Gジェネシリーズ等の変則的なクロスオーバー作品)がUXの世界観に組み込まれており、ガンダム00原作死亡者の一部が生存している。
・『大丈夫だ、問題しかないから』がたどり着いたかもしれない一種の未来図。そのため、あちらのネタバレの塊状態である。
・先天性で刹那がTSしており、グラハムとくっついている(重要)
・先天性で刹那がTSしており、グラハムとくっついている(重要)
・オリキャラが多数出演している。
・スパロボUX時空がネタとギャグ方面で愉快なことになっている。
・スパロボXもネタとギャグ方面で愉快なことになっている。
・魔従教団について捏造+魔改造が施されている。
・法師にオリキャラ追加。二つ名は“黄鉄鉱の術士”(黄鉄鉱=パイライト)
・キャラクター崩壊注意。
・基本的にダイジェスト形式。今回はかなり飛ばしている。
・ホープス×アマリ(重要)
・ホープス×アマリ(重要)
・ホープス×アマリ(重要)
上記が大丈夫の方は、この先にお進みください。
「流石、導師が着目するだけのことはあるな」
戦闘不能に陥ったゴーレムや、破壊されたゴーレムが転がる戦場。そこを見下ろす黒曜石の術士――セルリック・オブシディアンは、非常に興味深そうに遠くを見つめる。少女は沈黙を保ったまま、周囲を確認した。残骸が転がるのみで、この場には誰も残っていない。
つい数分前、ここではエクスクロスがゴーレムとの戦いを繰り広げていた。エクスクロスの面々は“ここのゴーレムは術士がおらず、警備用のゴーレムがうろついていた現場に居合わせる。ゴーレムはエクスクロスへ攻撃を仕掛けてきた。よって、正当防衛である”というお題目で迎撃を開始。程なくして、彼等は戦いを制したのだ。
ゴーレムを倒した手腕も、『教団員に見つかり、変な言いがかりをつけられる前にとんずらする』という判断を下して離脱した判断力も素晴らしい。各機が散開するようにして離脱したあたり、教団員に追われにくくしたのだろう。機動部隊も戦艦も、魔従教団のヤバさを察してくれたようだ。
「彼らが我々の同志となってくれれば、このアル・ワースにも平穏と安らぎが訪れるだろうな……」
「……平穏と安らぎ、ね」
どこまでも穏やかに、どこまでも狂信的に、セルリックは
もしこの場に辞書があったら、少女は今すぐ“平穏”と“安らぎ”の意味を調べて術士たち――特に、今目の前にいるセルリックに見せてやりたい。魔従教団がひた隠しにしている真実を見せたうえで、「これのどこに平穏と安らぎがあるんだ」と怒鳴りつけてやりたかった。
だが、迂闊にそんなことをすれば、関係各位が黙っていない。導師が直々に、“洗礼と祝福”をやり直すだろう。こちらも辞書を引いて意味を確認し直してほしいし、正しい意味に直すべきだ。因みに、正しい表記は“洗脳と精神制御”。この教団が抱える闇を、顕著に表す言葉だった。
(最も、生半可な方法じゃ、洗脳も精神制御も解けないんだけど)
少女はひっそりため息をつく。教団の術士は、“教団の在り方を忠実に再現するだけの人形”でしかない。地位が変動してもみんな一緒だ。
唯一導師だけが、その洗脳を解かれて真実を見せつけられる。歴代導師は真実に恐怖し、流されるがままに“平穏と秩序”を守ることになるのだ。
敢えて目をつぶって知らないふりさえしていれば、
まるでブラック企業のような有様だ。
得体の知れない神様に使い潰されるのは、自分1人で充分だ。……ただ、このまま使い潰されるのは癪なので、嫌がらせをしてやるつもりでいた。
(今に見てろよ、汚いドダイトスめ!)
――あんなクソ野郎、正式名称を呼ぶにも値しない。
黄鉄鉱の術士はそれをおくびにも出さず、表面上は、セルリックに――ひいては汚いドダイトスに従っていた。
反逆の狼煙を上げるのは、まだもう少し先のことだ。……最も、相手は最初からこれを察して、面白がって黙って見てるだけかもしれないが。
◆◆
旅の仲間が、また1人増えた。マーベル・フローズン――聖戦士の1人にして、ショウ・ザマの恋人である。アルティメット・クロスで共に戦ったマーベルとは、“平行世界の同一人物”と言ったところだ。ショウとマーベルの仲睦まじげな様子は、アルティメット・クロス時代に何度か見かけていた。
マーベルが合流したのは少し前のこと。クルージング・トムの元を飛び出したトッドが、久方ぶりにエクスクロス――ひいてはショウに勝負を挑みに来たときだ。クルージング・トムの元から飛び出したとて、彼の所属はドアクダー軍団のままらしい。トッドから勝負を申しつけられたショウは、その申し出を受けて飛び出した。
あのときのショウは、トッドと刺し違えるつもりで戦っていたそうだ。バイストン・ウェルにも現実世界にも帰ることが叶わなかった彼は、アル・ワースで生きる意味を探していた。だが、あの時点の彼には生きる意味が希薄で、そのことをトッドとヴィラルに見抜かれていたのだ。宿敵を持つ者同士、通じ合った部分があったのかもしれない。
トッドが苛立ちをぶつけ、ヴィラルがショウの敗北を確信したとき、戦場に乱入者が現れた。――それがマーベルだった。愛する人と再会できたことは、燃え尽きかけていたショウの魂に火をつけたのだ。戦う理由を、生きる理由を取り戻したショウのオーラ力は増幅。力の差をひっくり返し、トッドを降したのだ。
2人の関係を汲んだエクスクロスは、ショウとマーベルに2人きりの時間をプレゼントすることにした。名目は偵察である。しかし、そんな恋人たちにも容赦なく横槍が入った。興味本位でやってきたパラメイルのライダー2名と、魔従教団のゴーレムどもだ。
ゴーレムからの襲撃に居合わせたショウ、チャム、マーベル、アンジュ、ヴィヴィアンは戦闘を開始。遅れて合流したシグナス、メガファウナや機動部隊と一緒になってゴーレムを撃退した。その後は教団員と接触することになる前に散会し、逃げるようにその場を後にした。
別々のルートで逃げた機動班は、その後、合流ポイントに到達。全員無事に帰還した。今回の危機も、どうにか乗り越えることができたのだ。
「~♪ ~♪ ~♪」
「~♪ ~♪ ~♪」
本日、刃金宙継とセイカは生活班の炊事係を務めている。献立を決め、材料に使う食材を指定し、炊事係になった面々に指示を出す――所謂指揮官的な立場にいた。
手際よく調理をしながら、宙継とセイカは歌を歌う。今歌っているのは『ライオン』、歌い手はシェリル・ノームとランカ・リーのコンビによるデュエット曲だ。
何の気なしに歌っていた現場を生活班に見つかって以来、銀河を震わせたコンビの歌は、エクスクロス関係者にも好まれるようになった。折角なので布教用のアルバムを配った結果、男女問わず聞いていたり歌っていたりする現場をちょくちょく見かけている。流石は種族の壁を超えて心を動かした歌だ。
2人を世に送り出した敏腕マネージャーが誇らしげに笑った気配を感じたのは、きっと宙継の気のせいではないのだろう。『当然じゃない。私がプロデュースしたんだから』と語っていたのだから、相当嬉しかったのだろうなと推測できた。――最も、件の彼女は既に故人であり、草葉の陰からのご意見になるのだが。
歌の影響として、シェリル派かランカ派かで議論を重ねる人々、ランカの歌であるアイモが“バジュラの愛の歌”であることを知って伴侶や好きな人相手に歌ってみようとする人々など、ちょっとした関連事象が起こっていたか。どんな場所でも、似たようなことは起きるらしい。
シェリルとランカたちは帰るべき場所へ帰還したが、この歌は今でも販売され続けている。利益はすべて、アルティメット・クロスの関係者経由で、恵まれない子どもたちや孤児院への支援や、施設設立の為の基金にされていた。閑話休題。
「…………」
「ナディア、どうしたの? 最近元気ないみたいだけど」
「……別に、何も。配膳行ってくる」
献立も完成し、あとは食堂に運ぶだけ――そう思って振り返ったとき、仕事を終えたセイカがナディアに声をかけているところだった。
ナディアはつんとした表情のまま、料理をひったくるようにして抱えて厨房から去っていく。彼女の横顔には笑顔はなかった。
異世界に流れ着いて以来、ナディアが戦いと無縁だったことはない。非戦闘員と言えど、戦艦に乗ってエクスクロスに同行しているということは、嫌が応にも戦いに巻き込まれることを意味している。戦うことを悪とする少女にとって、この環境は苦痛極まりない状況だ。ストレスも鰻登りだった。
好みの違いもありそうだ。彼女は完璧な草食主義者で、肉や魚の類は食べようとしない。しかし、ナディアの価値観は少数派であり、エクスクロスに所属する人々は「何でも食べる」派だ。肉も魚も大好物だし、むしろそれを食べないとやっていられない面子が殆どである。命を奪うことを極端に嫌うナディアには、やはり厳しい。
『草木や野菜、花だって生きてるんだけどなあ』とぼやいたセイカの口を抑えたのは、宙継が直面した諍いの中でも英断だと思ってる。下手したら、怒り狂ったナディアが断食を始め、衰弱死する危険性も孕んでいたためだ。そんなことされてしまったら、今は亡き彼女の両親や、ジャンに顔向けできなくなってしまう。
<あの調子だと、近々爆発しそうだね>
<爆発しそうな人はもう1人いるんですよねぇ>
思念波で会話しつつ、宙継とセイカは“近々爆発しそうなもう1人”に視線を向けた。
「だから、俺は鳥じゃねえって言ってるだろうが!!」
件のもう1人は今、鶏肉を使った夏野菜カレーの配膳係になっている。ヒミコの「トリさんが共食い」という台詞に対して噛みついているのは、何者かによって鳥の姿にさせられた人間――渡部クラマであった。彼は非常に不満げな顔をしながら、夏野菜カレーを次々によそっていく。物欲しそうな顔をしているあたり、本当は自分も食べる側へ回りたいのだろう。
大きめにカットされたズッキーニやナスが、ごろごろと転がるようにして皿の上に盛り付けられた。真っ赤な完熟トマトはミキサーにかけてから投入されていて、スパイスに混じってほんのりと爽やかな香りが漂う。年齢や好みの差も考慮して、辛さの度合いも選べるようにしてある。そのため、宙継が食堂担当の日はみんな嬉しそうにしていた。閑話休題。
<クラマさんに“ハザード並みの悪党を求める”というのは酷ってものですけど、僕らを切り捨てるならば、それくらいの気概は見せてもらわなきゃダメですよね>
<そのために、ハザード絡みのデータ上げたの?>
<勿論。『貴方にそれくらいの覚悟はありますか?』って意味です。……無理そうですけど>
“無邪気ではあるが、大人びており理知的な子ども”が、内心そんなことを考えているだなんて、誰が予想するだろう。人に言えないことがあるのは、刃金宙継も一緒である。他の人に話したら、確実に「えげつない」と言われるだろう。その証拠に、グラハムからは『そこまでクーゴに似なくともよいだろうに』と頭を抱えられた。
えげつないことを考え、その意図を他人に知られないようにしつつ手段を講じる部分は、刃金の一族にはよく見られる傾向だった。実際、それを顕著にしたのが刃金蒼海――クーゴの双子の姉であり、人工ベビーで宙継を産んだ/作った張本人である。具体例としては、マザーコンピューター・テラの保有からアロウズを裏で牛耳っていたことが挙げられた。
稀代の小悪党になり下がり、挙句の果てには白と黒の忍者によって爆発四散したハザード・パシャに対し、クラマは困惑顔でガッツポーズを取っている。ため込み続けた怒りが洗い流されたカタルシスと、宙継の意図を薄ら感じ取ったが故の困惑顔だったのだろう。この時点で、クラマは“悪党になり切れないお人好し”であることは確かだった。
多分、彼はどんなに頑張っても、優しさを棄てることはできない。エクスクロスで積み上げてきた日々を切り捨てることができないのだ。潜入工作員にするには不適合な人物である。そんな人物が何を思って工作員をしているのか、宙継には何となく予想がつく。
……最も、クラマはそれを暴かれることを望まないし、宙継も無理矢理暴く真似はしたくなかった。彼ならば、ちゃんと自分の口から言葉で伝えられる。ニヒルで斜に構えてはいるけれど、それくらいの男気や思い切りを持っている人だからだ。
――それに、仮に殴り合うことになったとしても、彼とならば和解が成立する可能性は充分にあり得る。
エクスクロスの面々は、お互いがお互いに対して迷惑をかけっぱなしにしていることが多い。名目なら、貸し借り以外にだっていいものがある。
普段は別方向を向いていたとしても、倒すべき敵や成すべきことを見失ったりはしない。同じものを見て、同じ場所を目指して戦うことができるはずだ。
「……加藤指令と石神隊長、元気かなあ」
長らく別方向を向いて、別々の道を進んでいた男たちの背中を想う。
石神は加藤に何も言わず、何も伝えなかった。加藤含んだ人類を救うために。そのせいで、アルティメット・クロスは散々巻き込まれている。石神に不信感を抱いた者だっていた。
加藤の「何故裏切った」に対する石神の答え――「貴方を救い、貴方を裏切らないため」――が明かされたとき、本当の意味で、2人は無くした/手放したものを取り戻せたのだ。
強い決意のもとに道を違え、ようやく同じ道で同じ
アルティメット・クロスが解散した後、加藤は自らが率いる機関の総司令官、石神はその隊長に就任している。本丸で指揮を執る総司令官と現場で戦う隊長では、背中を預けて戦うような機会は少ない。それでも、彼らの心の中には、一緒に背中を預けて戦っていた頃の光景が鮮明に浮かんでいるのだ。どこで何をしていても、それだけは変わらない。
いずれ、エクスクロスの面々にも、誰かしらそういう相手と巡り合う日が来るのだろう。もしくは、宙継にとってのアルティメット・クロスのように、忘れられない仲間たちとして心に刻まれ続けるのかもしれない。ナディアにも、クラマにも、そういう相手ができたなら――宙継はそんなことを考えつつ、作業の手を動かした。
(次のシミュレーターでは、石神さん絡みのやつ上げてみようかな)
後日、シミュレーターに石神絡みのネタ――戦績によって石神の生死が変動する――を上げてみたところ、多くの機動部隊関係者がシミュレーターから離れなくなったことを記載しておく。
***
『大変! ナディアがいなくなっちゃったの!!』
マリーの叫びから始まった“ナディア家出事件”は、ネオ・アトランティスの乱入とN-ノーチラス号という新戦力の加入で幕を閉じた。勿論、家出したナディアも無事である。
ストレスや鬱憤を爆発させたナディアは、宙継の予想通り、エクスクロスから飛び出すことを決意したらしい。だが、以前補給先となった村へ異動する途中、ネオ・アトランティス軍に拉致されそうになったという。そこを鳥のようなロボットに助けてもらった直後、ゼルガードとグラタンが駆けつけたとのことだ。
どんな取引を交わしたのかは知らないが、ネオ・アトランティスは、ゾギリアの親衛隊部隊を戦力に引き入れていた。ディオ曰く、親衛隊部隊は以前戦った国防軍とはまた違う――国政上のトップ――の管轄で、シグナスとその関係者は一度も戦ったことは無いらしい。政治色の強い軍部隊には碌な相手がいないのだが、こちらもそれに該当するようだった。
『ナディア。キミがそこにいることは、既に報告を受けている』
『単刀直入に言おう。私の元へ来るのだ。そうすれば、私はキミの仲間を見逃し、キミにはプリンセスとしての待遇を約束しよう』
ネオ・アトランティスの首領ガーゴイルは取引を迫った。仲間を見逃すというのは条件として妥当だと思うが、何故“ナディアにプリンセスとしての待遇を与える”のか。
その理由を問うても、ガーゴイルは鼻で笑うのみ。『下等な猿に教える必要はないよ』という発言からして、こちらを蔑んでいることは明らかだった。歪んだ差別意識を感じ取る。
奴はナディア意外とコミュニケーションを取るつもりは無さそうだった。脅迫という手段ではあれど、ナディアに対して敬意と信奉を孕んでいるように感じたのは気のせいではない。
沈黙を否定と断じたガーゴイルは、ゾギリア親衛隊部隊をこちらに差し向けてきた。政治色の強い部隊故か、国防軍のクーゲルと違って武装も優遇されているようだ。国防軍より武装が優先され充実しているのは、親衛隊部隊がプロパガンダ用も兼ねているためだろう。
セイカが早速同化して解析してみたところ、件の機体はグバルディアという名前らしい。クーゲルを下地にして開発された機体で、実質的な改良機とも言えるようなスペックだった。だが、この機体が国防軍に普及する予定は一切ないらしく、機体の設計開発は親衛隊部隊が優先気味となっていた。
こんな形で敵陣営の苦労を知ることになるとは思わなかった――良心的な軍人が憂いに満ちた眼差しを伏せる姿が容易に浮かび、宙継はひっそりため息をついた。閑話休題。
ゾギリア親衛隊部隊の大部分を退けたものの、ネオ・アトランティスの旗本艦には強力な電磁シールドが搭載されていた。あのシールドを展開されてしまえば、攻撃の大部分が無効化され、シールドへ近寄った機体は軒並み消し炭にされるだろう。実際、ELSに擬態させたグバルディアを嗾けて見たが、即座に焼き切られてしまった。
『バリアが展開されてない状態で取り付ければ、あのバリアについて学習することができるのにな……!』と、セイカは口惜しそうに呟く。ガーゴイルはこちらの火力不足を見下しながら、再度ナディアへ投降するよう脅迫した。エクスクロスの人間を詰りつつ、ナディアへ敬意と信奉を払うことは忘れない。器用な男だ。
『14歳の少女にプリンセス待遇を約束し、引き入れようとする図……どこからどう見ても、貴方の品性を疑います』
『アイツの言う特別って、“特別な性癖を持つヘンタイ”ってこと? 自己紹介としても、ここまで最悪なの聞いたことないんだけど』
『寧ろ言ってはいけない類です。ネオ・アトランティスには“14歳のいたいけな少女でお姫様ごっこをする”紳士ご用達の文化が浸透しているというなら分かりますが……』
『違う! ああもう、これだから猿は嫌いなんだ!!』
宙継とセイカの抱いた予感を、ガーゴイルは全力で否定した。『ナディアをプリンセスとして迎える』というのは、ガーゴイル個人の性癖ではないらしい。
最も、“ガーゴイル個人の性癖の為にネオ・アトランティス兵が動かされている”というのは大問題しかないのだが。閑話休題。
ガーゴイルは執拗に『ナディアは普通の人間と違う。自分と同じ、“特別な存在”だ』と語り掛け続けた。心の底から、奴は自分の言葉――否、己の価値観を絶対視している。そうするだけの根拠があると言わんばかりに。
正直な話、ガーゴイルの言動からは、特別の「と」の字も感じない。だって明らかに既視感がある。低俗なコピペレベルだ。“対話の姿勢を見せず、命を容赦なく踏み躙る”輩は、何度も目にしてきた。
命に対して上から目線でいることが許されるだなんて、そんな考えは最早通じない――共に生きる道を探すことが当たり前の世界から来た身として、これ程までに腹立たしい相手はいない。
『――黙りなさい』
しかし、宙継が怒りを露わにするよりも先に、動いた人物がいた。
『私は、貴方のような人間に、屈するつもりはありません!』
自由を求めて魔従教団を飛び出した藍柱石の術士、アマリ・アクアマリン。彼女の意思を反映するように、ゼルガードは真っ直ぐ空中戦艦へと突っ込む。
相棒のホープスが苦言を呈さないあたり、彼はアマリの意志を尊重することにしたらしい。ホープスの反応を見たセイカは、愉快そうに笑って口笛を吹いていた。
自分の力を過信していたためか、ガーゴイルはアマリの行動――術で『光壁』を展開し、空中戦艦のバリアに干渉することで穴をあける――に対する反応が送れた。『自分は頑丈だから多少の無茶くらい平気だ』と笑う彼女に対し、宙継は苦笑して転移する。
『僕も手伝います。――この人の言動は、見ていて本当に苛立たしいので』
『そ、宙継くん!?』
『ばかな……人間が宙に浮いているだと!?』
機体を置いて、空中戦艦とゼルガードの間に割るように転移したことが原因らしい。アマリやガーゴイルを始め、多くの人々が驚きの声を上げた。
そういえば、宙継の十八番である“サイオン波を駆使した空中浮遊”を披露したのは、今回が初めてだったか。ならば、驚くのは致し方ないだろう。
宙継はサイオン波によるバリアを展開し、ゼルガードを守りつつ空中戦艦のバリアへ更なる干渉を行った。ゼルガード単体のときより、目に見えて大きな穴が開く。
宙継の守りによって、アマリやゼルガードに被害が及ばないと分かったのだろう。エクスクロスの面々は、迷うことなく空中戦艦へと攻撃を仕掛けた。砲撃の轟音と振動に目をつむりかけながらも、宙継は最後まで耐える。煙が晴れた先に、自軍の攻撃でダメージを受けた戦艦の姿があった。
よく見ると、戦艦の一部にELSが取りついている。凄まじい勢いで浸蝕していくELSは、ネオ・アトランティス軍のバリアを突破するために仕組みを学んでいる様子だった。セイカが解析を進める真剣な眼差しを思い出しつつ、宙継は空中戦艦を睨みつける。
ガーゴイルは反撃を試みるも、それより先に、向こう側から砲撃が降り注ぐ方が早かった。砲撃を加えたのは、ネオ・アトランティスの空中戦艦と雰囲気が似通った戦艦である。通信を聞くと、件の戦艦はN-ノーチラス号と言い、ナディアが身を寄せていた船員たちが全員無事で搭乗しているとのことだった。
彼ら――船長であるネモの無事を確認した19世紀出身者たちがぱああと表情を輝かせる中、ナディアは複雑そうな顔をしていた。彼女とネモの間に何があったかは知らないが、蟠りの原因はそこにあるのかもしれない。それを確認するには、戦場は忙しすぎた。
残っていたゾギリア親衛隊部隊を撤退へ追い込み、こちらに構わず空中戦艦へ攻撃を仕掛けるN-ノーチラス号の援護へ駆け回る。
程なくして、空中戦艦は限界へと追い込まれた。ガーゴイルは心底感嘆したように、ネモへと通信を送った。
『流石は幻の発掘兵器ヱクセリオン。それを操るネモくんの手腕と合わせて、見事と言っておこう』
『逃げるつもりか? ガーゴイル』
『相変らず辛辣だな、ネモくん。こうしてキミと再び話す機会が来るとは思わなかったよ』
『あの戦いで私に止めをさせなかったのは残念だったな』
会話を聞く限り、ネモはガーゴイルと浅からぬ因縁があるらしい。ブルーウォーターを狙ったり、ナディアをプリンセス待遇で迎えようとする理由と関わりがあるのだろうか。
空中戦艦は撤退し、N-ノーチラス号側がエクスクロスへ接触を求めてきた。倉光は『てっきりそのまま行ってしまうのかと思ってた』と苦笑しつつ、シグナスの艦長としてネモに接触することを決めた様子だった。勿論、メガファウナの艦長としてドニエルも参加する。グラタンの面々――特にグランディスは、大慌てでメイクを直していた。
結果的にN-ノーチラス号はエクスクロスと行動を共にすることになったが、本当はジャンたちを回収したらさっさと単独行動をするつもりだったようだ。ナディアがエクスクロスへの残留を強く希望したことや、ネモが抱える腹のイチモツからの関係で、同行を決めたそうだ。これから、エクスクロス内部での情報交換が行われる予定となっている。
(……思念波の方角からして、こっちなんですけど……)
宙継の足は、情報交換会の会場とは反対方向へと向いていた。多くのクルーが出入りするのと、本人もコソコソ動くことは苦手ではないため、どさくさで誰か1人がいなくなっていても気づかれにくい。宙継が今探しているのは、どさくさに紛れていなくなっていた人物だ。
セイカには先に会場へ行ってもらっていた。ELSネットワークを介しているので、宙継が会場に到着するより先に交換会が始まっても問題ないようにできている。……最も、
宙継の読みは当たったようで、該当者は何食わぬ顔でエクスクロスの情報交換会へ合流するつもりでいたらしい。
該当者の思念が近づいて来るのを察知した宙継は、わざと下を向いた状態で駆け出した。どん、と、鈍い衝撃が走る。
ぶつかった勢いで尻もちをつきそうになったが、そうはならずに済んだ。宙継に突っ込まれた側が引っ張り上げてくれたためである。
「おい、大丈夫か?」
「クラマさん」
クラマは宙継がわざとぶつかってきたことに気づいていない。忙しく駆け回っていたために注意散漫になっていたと信じている。――そういうところが悪人向きではないのだ。
「クラマさんはどこ行ったのかなと思って探してたんです」と言えば、クラマは一瞬どきりとしたように肩をすくませた。彼は曖昧に笑いながら、何と切り返そうかと思案している。
今の宙継にとって、クラマが腹に何を抱えていようと重要なことではない。宙継がこうしてクラマに声をかけている理由は、別な部分にある。宙継は満面の笑みを浮かべた。
「――
彼は、ナディアのことを幸せ者だと考えていた。彼女には帰る場所があり、迎えてくれる人がいるからだと。その場所がエクスクロスなのだと。
まるで、自分はそれに該当しないと言わんばかりの態度である。そういうところは、宙継はあまり好きではない。だから、彼に伝えておきたかった。
にっこり笑う宙継を見て、彼は酷く動揺している様子だった。何もかもを見透かしたうえで、何もかもを受け止めると言わんばかりの様子に対し、余計に葛藤を強める。
<これも任務のため>だなんて考えながら、それでも嬉しさを隠しきれなかった彼は目を細めて笑う。何も言わずとも受け入れられる――安堵と喜びは、確かに本物だったのだ。
「……おう。ただいま」
<――ここが本当に、俺の帰る場所だったらよかったのにな>
何も知りたくなかったと言わんばかりに、青年が自分自身の心へ背を向けたような気配がした。たった1つを守るために非道を征くと決めながら、生来の気質と仲間たちとの交流が、彼の決意を削いでいく。
黒幕に対して名実共に盲目的でいられたなら、こんなに苦しむことはなかっただろう。――否、苦しむことができるなら、まだ引き返すことができる証だ。羽を休めることができず迷い続ける1羽の鳥は、驚異的なスピードで成長し続ける若木に魅せられている。クラマと出会ったときの救世主一行は、吹けば飛ぶような頼りない芽でしかなかったのに。
若芽はエクスクロスへと名前を変えて、若樹へと成長を遂げた。まだまだ頼りないけれど、いずれこの木は大樹へと至るだろう。多くの人々の拠り所となり、最後は世界を支え、救う日が来るのだろう。――嘗て宙継が身を寄せていた究極の混成部隊アルティメット・クロスが、宙継たちの世界を救った標となったように。宙継には、不思議とそんな確信があった。
☆☆
「こうして見回してみると、俺たちって本当に『寄せ集め部隊』なんだな……」
エクスクロスの面々――当直で見回りに出ている者を除いた全員の顔ぶれを確認した青葉が、感嘆の息を吐いた。
実際、彼の言葉通りである。構成員は大まかに、異世界人とアル・ワースの人間という2グループ区分で別れているものの、事細かに細分化することが可能だ。アル・ワースという世界単位だけでも、魔従教団からの脱走術士、パラメイルのライダー、ドッコイ山近辺在住者、獣の国からの流れ者と千差万別である。
そんな寄せ集め部隊に、N-ノーチラス号のクルーたちが加わることと相成った。艦長のネモ曰く、『最初は単独行動を続けようと考えていたが、情報収集した結果、エクスクロスと行動を共にする方がいいと判断した』とのことらしい。彼等を信頼するか否か、迷いを見せている者もいる様子だった。
「N-ノーチラス号についても多くを語ろうとしないし、油断ならない一団かもしれんな」
「何を言っているか、ディオ。仲間を疑うようなことを言うでない」
眉間に皺を寄せ、ネモとエレクトラを見つめるディオに対し、シバラクは諭すように声をかけた。しかし、普段のシバラクは、どちらかと言えばディオと近しい感性の持ち主である。
身分が保証されない人物や一団が合流するとき、真っ先に疑いの眼差しを向けていたのは彼だ。一緒に旅をしてきた者たちを想うからこそ、新参者を疑うタイプだったように思う。
そんなシバラクが、珍しく新参者――N-ノーチラス号の面々を庇うような発言をするとは。アマリが感心したとき、リーがシバラクの肩を叩いて問いかけた。
「シバラク先生の場合、あの副長さんが美人だから、無条件で信用しているんじゃないですか?」
「そ、そんなことは……あったり、なかったり……」
「図星かよ、オッサン」
挙動不審になったシバラクを見て、ヤールが深々とため息をつく。やはり、シバラクの悪癖――美人な女性に対して滅法弱い――が発動していたらしい。シバラクは美人に惚れっぽいタイプで、今回惚れ込んだのは、N-ノーチラス号の副艦長であるエレクトラだった。
最初はグランディスに対して惚れた腫れた発言を繰り返していたというのに、今度はまた別の女性にアプローチをしようとしている。複数の女性にアプローチをするというのは、所謂股掛けに相当する失礼な行為ではなかろうか? アマリの疑問を代弁したのは、真っ直ぐで純粋な心の持ち主であるワタルであった。
だが、シバラクはワタルと目線を合わせると、妙に真剣な面持ちになった。顔のタッチが劇画調のイケメンに変わったように見えたのは、きっとアマリの気のせいではない。シバラクは真顔でワタルに言い聞かせる。
「覚えておけ、ワタル。男というものは、一度に複数の女性を愛することができるのだ」
「それって、複数の異性を食い物にするってことですか!?
次の瞬間、凄まじい勢いでシバラクの言葉に食いついてきた少年がいた。宙継はこの世の終わりでも見たかのような鬼気迫った顔で、シバラクに詰問する。
「シバラクさんとあろう者が、僕の生みの親みたいなことしませんよね?」
「ま、待て宙継。愛するのと食い物にするのは全く違――」
「シバラクさんとあろう者が、僕の生みの親みたいなことしませんよね? 愛しているという名目で、複数の異性と股掛けとかしませんよね?」
「いや、だから、拙者は股掛けをするつもりはなく――」
「シバラクさんは、僕の生みの親みたいなことしませんよね? 『飽きたら事故に見せかけて殺処分』とかしませんよね?」
「殺処分!? 何故そんな物々しい単語が出てくるのだ!? というか、実際にやったのか!?」
「――シバラクさんは、そんなことしませんよね? 下手したら、アルトさんやジョウさんみたいに許されなくなりますよ?」
畳みかけるように問いかけた宙継の目は死んでいた。おろおろしていたシバラクは、最終的に、大量の冷や汗を流しながら「武士の名に誓って」と答えた。途端にハイライトが戻ってきて普段通りになったあたり、宙継にとって『複数の異性にアプローチをかける』人物は地雷/トラウマらしい。
最も、グランディスもエレクトラも、シバラクに対して矢印を向けているような様子は一切なかった。双方共に、ネモ以外の男性など眼中にないと見える。二股をかけた罰とでも言わんばかりに、ヒミコやクラマからそれを指摘され、シバラクはがっくりと肩を落とした。二兎追う者は、結局どちらも得られないのである。
「さて、これからエクスクロスの今後について話し合いをするとしようか」
倉光が音頭を取る。それに呼応するかのように、艦長たちが現状の説明を開始した。
先日戦ったネオ・アトランティスの艦隊とゾギリア共和国が共闘関係を結んでいたことは、エクスクロス内で周知の事実。同時に、ゾギリア共和国はキャピタル・アーミィとも手を組んでいたし、キャピタル・アーミィはマナの国――神聖ミスルギ皇国の傘下であった。現在、神聖ミスルギ皇国はアメリア軍の大隊を敵視しており、執拗に追っているという。
そのため、ドニエル艦長には上司であるクリムから、改めて“マナの国の調査をしてほしい”という命令が下ったらしい。前回と同じような顔――非常に疲れ切っていた――をしている様子からして、また一方的に通信から物を申され、こちらの返答を待たぬ間に『宜しく頼む』と言い残して切られてしまったのだろう。断る間もなかったのだ。
エクスクロスがキャピタル・アーミィから狙われているのは事実である。彼等を傘下に入れて動かしているマナの国を調べることは、決して無駄なことではない。キャピタル・アーミィが勝手に狙ってくるのか、マナの国がこちらを狙うよう命令を下しているのか――それが明らかになるだけでも、こちらの取るべき対応は一気に変わってくる。
しかし、マナの国を調査することに対して異を唱えた者たちがいた。アンジュは「国を売り渡すつもりがないので協力できない」と首を振り、ワタルは「ドアクダーを倒すことが先決だと思う」と主張する。確かに、アル・ワースを支配しようと動いているドアクダー一味を放置しておくことはできない。
下手をすれば、異世界人を次々と戦力に取り込み、更なる悪事を働こうとする危険性がある。今のところ、ドアクダー一味の傘下に入っている者は無法者や乱暴者が多いのだ。1名ほど人間関係の大事故で敵対者になった者がいるあたり、乱暴者や無法者でなくとも、後ろ盾を求めて傘下に下ることもあり得た。
「やはりそうなったか……。予想通りだな」
「というわけで、ここはエクスクロスを2手に分けようと思う」
やれやれと言いたげな顔でため息をついたドニエルの言葉を、温和で涼し気な笑みを浮かべた倉光が引き継いだ。
マナの国調査を優先すべき派とドアクダー打倒に専念すべき派の面々に別れ、別行動を取ることで同時攻略を試みようという算段らしい。
戦力が分断されるというデメリットがある分、今回の編成は慎重に行いたい――それが、メガファウナ・シグナス・N-ノーチラス号艦長たちの総意だった。
班分けと戦力を確認していた宙継が手を挙げた。
「質問があります。班分けにゼルガード、サイバスター、フリューゲルの名前が記載されていないのですが……」
「あ、本当だ。私たちはどちらに所属すればいいんですか?」
宙継の言葉通り、班分け表の中にはアマリとホープス/ゼルガード、マサキとシロやクロ/サイバスター、宙継とセイカ/フリューゲルの名前がない。
「キミたちについては、戦術的にもウエイトが大きいからね。どちらに所属させようか、迷ってね」
「なので、本人たちの選択に任せることにした」
自分たちの指摘を聞いた倉光が苦笑する。その隣にいたドニエルも、覚悟を決めたような面持ちで頷き返した。
パイロット本人の自由意思に任せることがどれ程異例なことであるか、その選択で自分たちが負うであろう不利益も考慮した上で。
「そういうことなら、俺はアマリに任せるぜ」
「僕もアマリさんについて行きます」
悩むアマリを置いてけぼりにするが如く、マサキと宙継が言い切った。思わず彼らの方へ視線を向ければ、双方共に静かな面持ちでこちらを見返している。
「いいんですか? 2人とも、そんな簡単に決めてしまって」
「お前の生き様って奴に興味があるんでな」
「え?」
「――は?」
マサキから思わぬ言葉を投げかけられて、アマリは思わず目を見開く。次の瞬間、ホープスが一際低い声を出した。
声が聞こえた方向に視線を向けると、ホープスの鶏冠がゆらりと立ち上がりかかっている。
心なしか、黒い怨念のようなものが吹きあがっているように見えた。睨みだけで人を殺せそうな形相をしている。
それを見たマサキはぎょっとしたように目を見張ると、慌てて弁明するように付け加えた。
「い、言っておくが、愛の告白とか、そういうのじゃないからな!」
「ああ、そうなんですね。それなら別に大丈夫です」
「ですね。安心しました」
「……さりげなくキツイな、お前ら」
アマリはホープスと顔を見合わせて頷き合った。自分たちの言葉を聞いたマサキは苦虫を噛み潰したかのようなしかめっ面を浮かべ、ひっそりと肩を竦めた。
彼は「愛の告白ではない」と自己申告していたのに、まだ何か物言いたげな顔をしている。どうかしたのだろうか? アマリが問うよりも先に、ホープスがマサキを睨んだ。
「――まだ何か?」
「いや何も」
大地を轟かせんばかりに響いた低い声に気圧されたのか、マサキはこめかみから汗を滲ませながら視線を逸らした。
マサキが付いてくる理由は分かった。では、宙継はどうなのだろう?
アマリの問いを察知したのか、宙継は静かな笑みを浮かべた。
「僕は、マサキさんと似たような理由ですね。アマリさんが追い求める『自由』がどのようなものか、その答えを見届けたい。――その答えの果てに、この世界の命運が懸かっているような気がするんです」
「そんな……大げさです。私個人の出す答えが、どうしてアル・ワースの命運を左右するんですか?」
「新人類の勘ってヤツですね。最も、それが知りたいからついて行くっていう点もあるんですけど……」
宙継は悪戯っぽく微笑み、付け加える。
「
「ええっ!?」
「――!!!」
突然落とされた爆弾発言に、アマリは激しく狼狽した。5歳の頃から魔従教団で研鑽に励んでいた自分は、恋愛とは無縁の環境に身を置いていたのだ。仲が良い異性がいない訳ではないが、件の青年――イオリ・アイオライトとは“良いお友達”関係である。
異性から愛の告白を受けたことはおろか、そんな告白を向けてきた人物が齢7歳程度の少年であったことも初めてだ。おつき合いするには問題が山積みだし、少年の初恋を踏み躙るような真似はしたくない。だが、アマリにはこの状況を穏便に済ます方法は分からなかった。
助け船を求めてホープスに視線を向ければ、ホープスは宙継を射殺さんばかりに睨みつけている。僅かでも刺激を与えたら、何をするか分からないような気配を感じた。ホープスにも頼れないとなれば、アマリは一体どうすればいいんだろう。
ホープスの様子に戦慄したマサキが、慌てた様子で宙継に向き直る。
彼の顔は、非常に鬼気迫った形相を湛えていた。
「馬鹿野郎! 宙継、お前死にたいのか!?」
「どうしたんですかマサキさん。そんなに切羽詰った顔して」
「見ろよ、あのホープスの顔を! お前を怨敵に見定めたみたいな顔してるぞ!!」
マサキの指摘を受けた宙継が、ホープスと向かい合う。宙継はあっけらかんとした調子で「殺意の波動にでも目覚めそうな顔してますね」と言ってのけた。
「僕、ちゃんと言いましたよ。『
「友愛や人類愛だって、
宙継の言葉を引き継いだのはセイカだった。彼女は宙継以上に悪い笑みを湛えて補足する。――宙継の言葉通り、友愛や人類愛を告げることだって、ある意味では愛の告白だ。
アマリが納得したのと、ホープスが居心地悪そうに羽をばたつかせたのはほぼ同時だった。ホープスは眦を釣り上げ、ぎっとセイカを睨みつける。セイカは鼻で笑い返した。
次の瞬間、セイカが回れ右をして駆け出した。彼女の背中をホープスが追いかける。普段の慇懃無礼差を投げ捨てて「貴様ァァァァ!」と叫び散らす様は、非常に珍しい。
篝火の周辺で追いかけっこをするセイカとホープスの様子に微笑ましさを感じつつ、アマリは編成表へと向き直る。
いくら艦長たちから「自由に決めていい」と言われていたとしても、責任重大である。慎重に考えなくては。
(……でも、どうしてホープスは、『愛の告白』に対して強く反応したんだろう……?)
どちらに同行するかを考える傍らに浮かんだ疑問は、アマリの脳裏から離れなかった。
暫く間が空きましたが、できました。ホープス×アマリ主軸と謳いながらも、なかなか彼と彼女にスポットが当たりません。「そういう要素がない部分はみんなぶっちぎっていい」とは分かっていますが、やっぱりUX経由宙継のアレコレも入れたいなと悩んだ結果がこんな感じになりました。
スパロボ原作は50話程度が普通なので、原作沿い系の二次創作側も必然的に話数が増えてしまうんですよね。分岐や幕間の話も組み込むと、絶対百話以内で終わらない気配がします。今回のお話も、以前書いたP5二次創作と同じダイジェスト形式にしているのですが、今回は何話で完結するかな……?
さて、分岐はどうしよう。ホプアマ要素薄そうだからすっ飛ばそうかと画策しているのですが、許されるのだろうか。