初めて書きます。
銀河英雄伝説のIF転生短編です。

キルヒアイスとユリアンの交換転生をイゼルローンでの捕虜交換時のみにスポットを当てて書きました。
反響があれば、そのまま継続読み物として遅筆ですが、投稿しようかと考えています。


「らいとすたっふ2015改訂版」に従って作成されています。

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初めて書きましたので、読みにくいかもしれませんがよろしくお願い致します。


邂逅

 宇宙歴797年、帝国歴488年2月19日、イゼルローン要塞においてゴールデンバウム王朝の帝国軍と自由惑星同盟の同盟軍との間で過去最大規模の捕虜交換式が行われた。

 

 捕虜交換式の合間に、左眼の上下に渡る一筋の傷を持つ赤毛の帝国軍上級大将ジークフリード・キルヒアイスと、亜麻色の髪を持つ、優しげな雰囲気の同盟軍イゼルローン要塞司令官ヤン・ウェンリーの被保護者であるユリアン・ミンツは、お互いの空き時間に非公式ながら、斜陽に照らされたイゼルローン要塞内の公園の木陰のベンチで、傍目には穏やかな雰囲気の会談を設けていた。

 

 ただし、斜陽に照らされた木陰のベンチとは言え、そこはイゼルローン要塞である。人工的な斜陽である事は否めない事は勿論、佇む二人を遠巻きながら見ていた衆人には、美男子の会談であり、どのような事情があろうとも目立つ事に関しては関係なかった。

 

周りを包み込むその穏やかな雰囲気が、150年以上続く戦時であり、敵対する旗印の下に、方や親友であり従順な部下である今現在の上位者、また、もう片方は非保護者であるものの、誰もが認めている将来における、お互いが尊敬する上位者の代弁者として会談していると見られている自覚は無かった事である。

 

その会談を目撃した多くの者が、後日、記憶の深淵へと忘れていったが、一部の者は深く覚えており、歴史の転換期の一つであったのではないかと後世で議論される事など、この時の2人には予想だにしない事であったし、それが、今を生きる今後の2人の進む道においては、関係ない事であった。

 

それくらい夢中に、2人は話し合い、お互いの過去の事、将来、また、お互いの上位者の未来について話をしていたのである。

 

「ところでキルヒアイス上級大将、その左眼に掛かる傷は如何されたのですか?」

 

前世でキルヒアイスとしての記憶を持つユリアンは、自分の記憶に無い、左眼に掛かる大きな傷について、キルヒアイスに問いただした。

 

「これは…」

 

キルヒアイスは、ラインハルトとの数々の武勇伝の中でも最初の赴任地であるカプチェランカで、ラインハルトを助ける為に負った物だと説明した。ただ、ラインハルトを助けるその際に左眼を失明しており、今は、義眼である事は伏せていた。

 

ユリアンは小首を傾げ、自分の前世での記憶を出来うる限りの頭脳をフル回転させて辿ったが、その答えを得られる事はなかった。その結果、半ば確信に近い形とは言え、本来であればタブーであり、気が触れたと勘違いされてもおかしくない質問をキルヒアイスに直球で聞いたのだった。

 

「キルヒアイス上級大将は、前世の記憶をお持ちですか?」

 

前世でユリアンであったキルヒアイスはその時、目を見開き、整った顔立ちを強張らせた後、今まで目の前の亜麻色の髪の少年に、既視感と言うか自分と同じでは無いかと言う、多少の違和感を感じながら接していたのだが、その感覚が正しかったと思うと共に、確認せざるを得ない状況をも作り出し、自然と相対する者からの質問に同義の質問を返していた。

 

「ヘル・ミンツも?」

 

 ユリアンは、今までの経緯や自分の前世からの記憶を含めて、前世では自分がキルヒアイスであり、死してその後、再度同じ世界の違う側にユリアン・ミンツとして誕生した事をキルヒアイスに語った。

 

 それを聞いたキルヒアイスは、安堵と共に自分も前世はユリアンであり、新銀河帝国の行く末を見守りつつ死を迎え、その後、今のキルヒアイス同様、再度同じ世界の違う側にジークフリード・キルヒアイスとして誕生した事をユリアンに語った。

 

 お互い転生者であり、お互いが互いに違う立場に生まれ変わった事に驚きつつ、前世におけるそれぞれのその後の事を話し合うと共に、お互いが自らに尊敬する上位者についても話し合った。

 

 ただ、現世でのユリアンである前世でのキルヒアイスは、この年の半年後に始まる帝国内で門閥貴族の終焉ともいえるリップシュタット戦役で、その人生を閉じているため、そこまで多くの前世知識を有しているわけでは無かった。

 

 キルヒアイスは、遠巻きにしかいない人々をさらに警戒して、携帯用での遮音装置を展開して、これから話される余人では理解しがたい二人だけの会話を、周りに聞かれないようにした。携帯用ある為、その効果は最大二人の範囲と限定的だが、今回の場合は十分にその機能を果たしてくれた。

 

「時にヘル・ミンツ、卿は今後について如何様に考えますか?」

 

 長身で赤毛のキルヒアイスは、現世では年少であり、前世ではこの後の銀河の趨勢をほとんど知らないユリアンにそう問いかけていた。

 

 ユリアンは少し戸惑った後、何も答えずに苦笑いを浮かべていた。

 

 「何も答えられませんか…?

 少なくとも、そう遠くない未来に叛徒…、同盟内でクーデターが起こる事についてはご存知ですよね?

 その後、すぐに前世での閣下はお亡くなりになり、この世界に転生してまいりました。」

 

 ユリアンは、最も核心に近いところを突かれ、眉を顰めた。キルヒアイスは、そんなユリアンを無視するかのようにさらに続けた。

 

 「私は、前世での閣下が亡くなった状況を詳しくは存じ上げておりません。思い出したくない状況だとは思いますが、私は、前世でのラインハルト様の過ちを繰り返したくないのです。

 どうか、リップシュタット戦役の事について、できる限り教えていただければと思いますので、お願い致します。」

 

 傍目に見ると、2人の関係上、明らかに上位者であると思われるキルヒアイスが、下位者であるユリアンに頭を下げ謝っているかのように見えたであろう。ユリアンは、またも苦笑いしながらリップシュタット戦役について了承し、キルヒアイスに伝えた。

 

 「時間が無いので端的に申し上げますが、貴族連合は烏合の衆である事に間違いはありません。

 ですが、ブラウンシュヴァイク公に連なるシャイド男爵領であるヴェスターラントに熱核攻撃を加える可能性があります。」

 

 知っていることとは言え、聞いていて気持ちの良く無いキルヒアイスが、眉間に皺を寄せながら頷く。

 

 「その熱核攻撃を阻止する為に、まずは、それをどうするかをお考え下さい。」

 

 「確かに、ラインハルト様が新王朝を開かれた際にも、その事は後々までの禍根になっておりました。」

 

 今度は、ユリアンが眉間に皺を寄せながら唸っていた。

 

 「やはり、あの件は間違いだったのですね…」

 

 現世のユリアンは、理解していた事とは言え、忸怩たる思いだった。しかし、今は目の前の現世のキルヒアイスにラインハルトを託すしか無いのも間違えようの無い事実でもあった。

 

 今の現状では何も出来ないユリアンは、気持ちを切り替えるかのように次に大切な事を伝えた。

 

 「ヴェスターラントの熱核攻撃が行われないとなると、内戦が長期化する可能性があります。その点についても考えておいた方が良いかと思います。

 また、前世同様、貴族連合が滅んだとして、その戦後処理でブラウンシュヴァイク公のご遺体を運んで来たアンスバッハ准将がラインハルト様の殺害を行おうとします。

 前世でのキルヒアイスであった私は、ラインハルト様から謁見の際の武器の携帯を許されず、アンスバッハの攻撃に対して身体を張るしかありませんでした。」

 

 ユリアンは、ここまで一気に話をして、一呼吸置いた。それは、重大な事を伝える為の大切な間であった。そして、その大切な間を感じ取ったキルヒアイスが息を飲んだ。それを見たユリアンが、前世における自身の記憶の最後の部分を告げた。

 

 「そこで私は、アンスバッハ准将が持っていた指輪型のプラスターに撃たれて絶命しました…。」

 

 重苦しい空気の中、ユリアンはアンスバッハが、小型爆弾をブラウンシュヴァイク公の柩に隠していた事を思い出したかのように付け加えた。そして、その後に姿勢を正し、すがるような目で付け加えた言葉があった。

 

 「キルヒアイス上級大将閣下、ラインハルト様をお守り下さい。そして、リップシュタット戦役の最後の謁見のの時には、前世でのアンスバッハ准将と同様、あからさまな武器の携帯では無い武器を持って臨んで下さい。」

 

 その後、その見返りと言うわけではないが、キルヒアイスは、この捕虜交換の後に起こるはずである同盟でのクーデターや、その後の同盟の末路の事について、知っている限り教える事を約束した。しかし、先にも本人から述べられた通り前世のキルヒアイスであるユリアンは、リップシュタット戦役後すぐヴァルハラに旅立っており、全く知らない出来事であった為、膨大な情報ではあったが、できる限り簡潔に伝えた。

 

 また、もう一点、重要なこととして、この後リップシュタット戦役で前世の歴史を変えることはバタフライ効果を生み出し、前世にユリアンであったキルヒアイスの記憶とは違った歴史になる可能性が高い事も付け加えられた。

 

 その後、遮音装置を解いた両者は別れたが、お互い秘密裏に情報のやり取りをする事を約束した。今回の邂逅がこの世界にどのようなバタフライ効果をもたらすのかはわからないが、ただ一つ言える事として後世の歴史書では、ラインハルト・フォン・ローエングラムの傍らには、常に赤毛の隻眼が付き添っていた事が伝えられており、ヤン・ウェンリーは、自由惑星同盟の名将として讃えられると共に高名な歴史家として、その著書が後々まで読み継がれて来たとされている。

 

 亜麻色の髪の持ち主は、歴史の表舞台にはあまり出てこないものの、要所では赤毛の隻眼と共に登場しており、銀河の一時期に平和をもたらした調停者(バランサー)として、一部の間では、この時代の誰よりも高い評価を得ていたのである。

 

 

 




最後まで、お読みいただきありがとうございました。


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