iS インフィニット・ストラトス -Ain Soph Aur-   作:いだかん

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就活が終わらない(知らんがな)~
内定を下さい(´・ω・`)~
ネタと文体が欲しいよ(=ただの勉強不足)~


Chapter 0-1

 ──水面を揺らす波紋の音。『俺』を揺らしたのは、焦燥? 久しく感知することの無かった外界の刺激により、ようやく起こる感覚。

 次いで感じたのは違和感。そして不快感。身体を蝕むのは、出鱈目に、しかし隙無く打ち込まれた『憎悪』。負の牢獄(ネガティブ・コリドー)より捕らえられて抜け出す事も叶わない現状。『彼』は意識さえ収束しない状態で、早くも理解していた。

 身動ぎ──常ならば、あらゆる束縛・障害を、真綿でも引きちぎるみたいに振り払う筈であった。しかし今は、その兆候どころか、身動ぎはおろか身震いさえ許されない。

 これは、何だ? ──不快感は苛立ちに転じ、その感情を増幅、緋の激情を発散しようとして──更なる違和感=激痛と認識出来るそれが、全身を蝕んだ。

【──侵蝕汚染係数異常値──/汚染──ドースオーバー(過剰摂取)/──強制排除不能/──】

 Alert.Alert.Alert.Alert.Alert... =断片的警告文の羅列──制御機構(彼女)の沈黙/蓄積するフラストレーション/胸を貫く痛みに悶える微かな思惟──刹那に『それ』は落ちてきた。水面を穿たんとする勢いの落滴のように。荒々しい着地に激しく揺らぐ空間。

 落滴=表面に著しいひび割れを走らせる卵そのもの。それがひとりでに身震いし、殻を振りほどくように現れたのは、鋭利な破片で形作られたような、白亜の人形。優美なドレスの意匠を描いていた容姿は、いたるところを黒く痛めつけ、痛々しく変貌していた。左腕に至っては、黄金の燐光を輝かせ、肩口から先が無くなっている。

 弱々しく浮揚──全身から鈍色の液状金属を垂れ流す、散々に打ちのめされた風情。しかし白亜は物言わぬ『彼』に迫った。

 『彼』を拘束する、蕾のような全天型制御装置を片手一本で引き剥がす。内部を満たす、楕円形の黒い球体(スフィア)=歪曲空間場による空間障壁を見るや、全身より白の燐光を発散し、空間障壁を中和/無力化せんと、無理矢理に侵入──現行機とは一線を画する耐久性を備えた装甲であったが、数秒と経たずに表層部を欠損させ、華奢なコアフレームを露出させた。

 右腕単殻装甲(モノコック・アーマー)の欠落と同時に、強酸性溶液に沈められた物質と等しく、装甲を構築する量子素材がボロボロと崩壊。伸長された距離を埋めんと、中和による拮抗措置を行いつつ、懸命に伸ばされた──視覚を始めとする各種探知機能を喪っている『彼』も、その様子を確かに感じていた。深い微睡みの淵に落とされた思惟を揺るがす波紋が生む脈動──しかし、その手を掴むことが出来ない。

 白亜の右手が『彼』の胸元の虚空で彷徨い、しかし阻まれている──物理的・そして空間障壁によって拡大された距離。『少女』の選択=右腕第二間接部の結合を強制解除/ありったけの思念を込められた白の燐光がいっそう激しい瞬きを放った瞬間、『射出』──果たして放たれた右手/『彼』の胸に突き刺さる『それ』を掴んだ。

 右手の後退/引き抜かれたのは、巨大な杭そのもののコントロール・ロッド──『彼』の全身に隙無く埋められた機能制限・凍結措置の集大成。胸部に位置する『中核』に直接打ち込む事で、壊す事も、朽ちる事も出来無い『化け物』を、永遠に目覚める事の無い悪夢の淵に追いやる。おぞましいまでの憎悪が産んだ(くさび)が、中性子(ニュートリノ)さえ浸透を許されぬ空間障壁の渦中で翻弄され、崩壊していく──『黄金の燐光』が降り立ったのと、ぽっかりと穿たれた胸部の空白に、微かな緋が灯ったのは同時だった。

 

 背後で黄金を翻しながら、ゆっくりと降下してくる異形──左右それぞれで斜め後ろへ張り出す、硬質の翼状突起×4枚/鋭角的な膝部外装(ニークラッシャー)/竜の頭骸骨みたいな外装で覆われた、黄色に発光する球状の複眼式単眼=禍々しい鋭さに満ちた鈍い白銀とマゼンタで彩られた全身装甲(フルスキン)──鋭利な鱗と角でできた怪物を模した、甲冑みたいな姿。

 背後+肩部で陽炎のように蠢く触手状副腕群(テンタクラー・ロッド)×10本=紅紫色の触手(マゼンタ・ウィップ)

/先端に黄色の球体を備えた4本の鉤爪状マニピュレータ(アンカー・クロー)──その艶かしくも、獲物を待ちわびる蛇の跳梁を思わせる動き。

 右手に握られる衝角みたいな得物=刀身表面、黄金の燐光が放電現象のように迸り、大気そのものを蒸発させるかのように周囲を焦がす──杖という形状さえ変質させられた、アラスカ条約違犯兵装である対iS用特殊兵装、雷公鞭。

 立つという概念に反する、片刃刀(ブレード)じみた脚部──その先端、人間で言う踵に当たる部分から迫り出した接地脚(ランディングギア)

 明代の神怪小説に登場する人物の名を冠しながら、その面影の一切が存在しない姿──強奪後、申公豹は『主任』の大幅改修によって仕様変更、著しい性能向上を実現。別物と呼ぶべきスペック、外見へと変貌していた。最早、その名残はコア・ネットワークから隔離され、孤絶されたiSコアにしか見当たらない。

 竜頭骸骨の頭部、その下にある口許の装甲がスライド=同時に開放通信(オープン・チャンネル)亡霊企業(ファントム・タスク)、エージェント・スコール。十数機に及ぶゴーレムⅠを撃破しながら、一切の疲労を感じさせない、静かな声音──「いけない子ね」=優しい調子に潜む、限り無い冷徹さ=最後の獲物を見定める怪物(クリーチャー)の風格。

 少女=増幅・伝播された殺意にびくりと身震い・恐怖に戦慄く身体を御そうと、機械的な理性をもって遮る──EAF(Event Alter Field)(事象改変領域)演算出力・波動防壁展開整波率を上昇/右腕部を瞬間再生/左腕部の侵蝕汚染部位に蒼の燐光/背部は背骨に当たる器官より、あたかも全ての肋骨が飛び出すみたいに硬質の触手が生える・全ての先端が鉤爪のように差し向けられる・触手全体を覆う白の被膜──圧倒的な死の現実、恐怖に晒されて尚、絶望に折れず、生の輝きをより一層に輝かせた。眩いばかりに。

 口許の微笑を装甲で覆い/単眼に宿す獰猛な光/出し抜けにひょいと振るわれる雷公鞭──閃光=ただそれだけで、触手から殻へと変貌した強固な表皮を吹き飛ばし/辛うじて弾かれた雷撃の余波が、雷の刃となって室内を蹂躙した。

 少女=衝撃にもんどりながらも、胴体は腹部の装甲表面からささくれ立つように迫り出した片鱗の幾つかを掴む。片鱗がにわかに硬質/表面に燐光=白い光を放つ太い針と化したそれらを中空へ放るや否や、弾かれたように申公豹へ──その姿が幻のように消滅。

 申公豹=背後より伸びた|アンカークロー×3が、秒と立たずに目前・首元・胸部コアユニットへと迫った針に食らいつく/その(アギト)で噛み砕く──索敵範囲を前方に偏向させた途端、意識外であった真下の光景に歪み=空間湾曲内より、胸部コアユニットへ飛来した針を、しかしアンカークローの蛇さながらのくねりによって弾く/力無く床を転げる針。

 沈黙──仕掛ける気配/逃げる前兆=一切無し。不気味な静穏──『ハイパーセンサーの沈黙』=高精度に設定された高分解析領域/優れた指向性探査機としても機能するテンタクラー・ロッドと接続(リンク)された体感覚──いずれにも反応無し。

 スコール=理解──狩り場に誘い込まれたのは、どうやらこちらであったらしい──テンタクラー・ロッドの全てがうねりを上げるのと、いつの間にか空間へ固着された針が、全方向から殺到したのは、ほとんど同時だった。

 鉤爪乱舞/触手群(テンタクラー・ロッド)の狂乱が、紙一重で針の侵入を阻み・弾き・捉え・砕く──後方へ跳躍/右腕一閃=雷光が横薙ぎの巨刃となって、前方より迫る針の数々を焼き払う/死角より隙無く肉薄する針をいなすアンカー・クロー。

 背後の壁に『着地』──テンタクラー・ロッドに変化=縦から真っ二つに断ち割れ/その間に黄金の被膜を展開──天女の羽衣みたいに翻るや、全身を包み隠す/四方八方から容赦無く突き刺さる針。

 警告=波動防壁に敵性波動エネルギー侵入/防壁整波率の急速低下/テンタクラー・ロッドの制御回路にエラー──黄金を蝕む白の燐光。

 申公豹(スコール)──雷公鞭に黄金/口許の装甲がスライド=微笑。「見つけた」=面妖で、悦楽に満ちた一言。黄色の単眼が、過たず白雪姫(少女)が潜む空間を睨んだ。

 白雪姫(少女)──瞠目。まさか侵蝕汚染による波動防壁の一時消失というリスクを犯す事で、針の投射位置だけでなく、設置法則からこちらの未来位置まで予測するなんて──来る一撃。アイビーロッドを防御形態に移行(シフト)/波動防壁を前方に偏向出力/それでも尚、反射的に身を捻った瞬間──右側を貫く衝撃=雷撃に蔦状防護殻(アイビー・シェル)と右腕を一緒くたに砕かれた。

 真後ろに吹っ飛ばされ、床を転げ回る事になったのは幸運だった。中空にて姿勢維持をしようものなら、今度は良い的として、一切の減退も無いままの雷撃を撃ち込まれていただろう──グラビティ・カタパルトの中核、重力推進式時空間ポテンシャル連結機関、複雑な円環を展開するリングの一つへと強かに叩きつけられた少女が顔を上げた先、申公豹の威容が悠然と迫っていた。

 宙を舞う白の燐光/白亜の破片──すかさず起き上がろうと上体を起こして、胴体を貫く鈍い衝撃=アンカー・クロー。立て続けの刺突──腹を内部から掻き乱し/両肩を抉り/両腿を砕き/胸部コアユニット付近を侵徹し、少女を床へと縫い付けた。

 込み上げてきた熱が人工血液(ホワイト・ブラッド)となって吐瀉/装甲下で不快な『ぬめり』となって口許にへばり付く/残されたアイビー・ロッドで至近距離から刺し貫こうとするも、一瞬前に繰り出された刃じみた左足が一蹴/まとめて蹴り折られた──侵蝕汚染によって制御系統を無力化され、抵抗も出来ぬまま、装甲より白い雫を降り注がせ、宙吊りになる少女。

「残念だけれど、貴女じゃ私に敵わないわ」──少女の頭部装甲を恭しく、丁寧に引き剥がし/その素顔を露にさせる。

 アップにされた白銀(プラチナ・ホワイト)の長髪/彫刻のようにくっきりとした小さな顔立ち/焦燥と苦痛に歪む深い蒼(ディープ・ブルー)の瞳──十代前半、否、十代にさえ満たないあどけなさでありながら、その美貌は人間離れした、見る者にぞくりとした感覚を味わせるものだった。

 スコール=とめどない白に汚れた口許を拭う/乱れた長髪を丁寧に整えてやる──礼節を重んじた行為も、人形みたいに肢体を奪う残酷な諸行の前では、何ら尊さを覚えるものでは無い。

次世代型強化人間(アドバンスド)……ではないわね。何者なのかしら、貴女は?」教え子の些細な秘密を解き明かそうとする教師のように「出来れば、教えてもらえないかしら?」

 少女=答えず/屹然と見据えて──それが最後の手だと言わんばかりに。

「そう」残念だけれど、もう時間も残されていないしね──名残惜しそうに雷公鞭の鋭端を胸部コアユニットに向けたが、そこでふと顔を上げた──脳裏に届く圧縮信号=『未確認目標(アンノウン)と交戦中』。

 それは抽象的通信(イメージ・コール)。バックアップとして控えていた〈オータム〉からの緊急通信。織り込まれた感情からして、相当に苦戦している状況を反映していた──あのオータムが苦戦する程の手練れ。そんな存在は一握りしか居ない。それも天災が絡む件となれば、その選択肢は一つ──スコールが振り向いた矢先、室内に『桜花の燐光』が舞い込んだ。

 強烈な既視感(デジャビュ)──胸部コアユニットはそれを、国際iS委員会の管理部隊(ヴァルキュリーズ)直属iS〈暮桜〉/専属インナー〈織斑千冬〉と識別した。

 

 重力推進式時空間ポテンシャル連結機関(グラビティ・カタパルト)発動まで、残り3分16秒。計9つのリングによる複雑怪奇な回転運動を描く中心、漆黒の球体が不気味な唸りを上げ、世界を不協和音で脅かす──そんな爆心地(グラウンド・ゼロ)にて、二人は対峙した。

 黒鉄の全身装甲(フルスキン)/両肩+両大腿の側面で浮遊する非固定浮遊装甲(アンロック・アーマー)/各部に桜花の意匠/つや消し(マット)仕様のフェイス・バイザー──現代に蘇った漆黒の武者甲冑=傑作量産機として名高い打鉄型の礎となった機体(iS)。それが暮桜。

 その中心に納まるは、織斑千冬。世界最強の戦乙女(ブリュンヒルデ)。国家と委員会がひけらかす額面と実力が伴わない有象無象の中において、スコールが認める数少ない『化け物(クリーチャー)』にして『敗北者(ルーザー)』。

 スコール──ゆっくりと少女を降ろしてやる/アンカー・クローを装甲・生体再生に合わせて丁寧に引き抜く──翻る黄金の被膜/刀身表面に眩いばかりの放電を放つ雷公鞭。

「あらあら、闘争から逃れ、落ちぶれた戦乙女(ヴァルキュリー)が、一体何のご用かしら?」──ふんだんな棘/しかし親しみを含めた、久しく逢う機会に恵まれなかった旧友の登場を歓迎する調子。

「何、そこの『妹分』と……『ついで』を迎えに来ただけさ」

 千冬──ちらと手負いの少女+装置上部を見る/少女へ圧縮言語通信【行けるか?】

【大丈夫です。貴女は?】少女の即応──既に全身の貫通痕は塞がり/両腕も再生している。

【コイツを引き受けよう。外の奴はしばらく黙っているだろうが、そのうち跳ね起きるだろうさ。早く行け】──強敵との一戦を終えたとは思えぬ口振り。

 左腰に備えられた2本の内、一振りの長刀を抜刀──刃渡り3メートルの本差したる長刀。その表層、光学ナノマシン被膜によって整波誘導された波動防壁が、桜花の輝きで刀身を満たす/構えは正眼。スコールのハイパーセンサーが、こちらへと指向される殺意の波動を拾い上げ、全身を震わせた。

 なんと甘美な響きだろうか──口許の微笑が更に歪み/待ちわびた瞬間が、ようやっと、しかも向こうから訪れてくれた奇跡に感謝した。

 背後の『目標』を逃がしてはならないが、そんな無粋は目前の戦乙女(ヴァルキュリー)が赦しはしないだろう──であるなら、互いの戦意が燃え尽きるまで、命を交えるまで。

 雷刃一閃──同時に長刀より振り抜かれた桜花の斬撃波と衝突/ほとんど減退なく斬撃波を貫通した矢先、二の太刀による切り返しが雷撃の先端を捉え/その進行を左右へ逸らした。

 尋常ならざる切り返し=iSによる燕返し──斬撃波として放出した波動防壁の再整波展開速度/光速で迫る雷撃誘導針(ライトニング・リーダー)を正確に打ち砕く精密無比さ──技量・度胸共に、あの頃のまま/たまらなく嬉しい/では、これならどう?

 左右へ別れた雷撃に変化──急激な軌道湾曲=暮桜の背後に回り込むように光速の曲線を描く/接地脚(ランディング・ギア)による鋭い踏み込み+テンタクラー・ロッドの黄金被膜が発した推進力により、一瞬にして暮桜へ肉薄。

 暮桜──アンロック・アーマーを後方展開=雷撃を凌ぐ/右手の長刀、左手は逆手で脇差しを抜き放ち、殺到するアンカー・クローの鋭端を弾く・いなす・接合部たる触手を切断──圧倒的な手数を誇る多頭蛇の怪物(八俣の大蛇)じみた相手に、互角以上の剣戟を繰り広げる修羅がそこに居た。

【早く行け】イメージ・コール=立ち往生する少女へ。両者が展開するEAF力場の干渉+拮抗/刃と鉤爪/波動と雷撃/桜花と黄金による人外の応酬に介入出来る訳も無く──欺瞞(ダミー)措置を設定後、ようやく空間障壁と拘束から解き放った『目標』を抱え/今や荒々しい発動の前兆に満たされた中核から脱出した。

 

 行ったか──『妹分』を探査機能越しから見届けてやる甲斐性も、その為に演算容量を割り裂いてやれる余裕(リソース)も無いまま、脳裏の一端で思考する千冬。既に発動まで1分を切ったようだが、構いはしない。何故なら、ひとたびiSのEAF(事象改変領域)を拡大させれば、多重乱数指向変動性重力圏程度、その影響を無力化しながら戦闘続行可能であるからだ。

 互いに弾かれたように距離を離す──秒と経たず、両者共に装備/装甲を消耗し、既に戦闘『がてら』にそれらを再生出来るほどの損傷では無くなっていた。

 暮桜──アンロック・アーマー=全基喪失/左肩部・左腰部装甲=食い破られたように欠損/フェイス・バイザー=破損により量子格納(インストール)──結わえられた黒髪/赤い眼差し/残された長刀の鋭端を向ける、独特な刺突の構え。

 申公豹──テンタクラー・ロッド=6基喪失/両肩部・両膝部ニークラッシャー=鋭利な切断面を露に欠損/半壊した竜頭骸骨状のハイパーセンサー──破損して尚、黄色く発光する単眼/変わらず、破滅的な一撃をもたらす雷撃を刀身に纏う雷公鞭 。

 距離にして15.56メートル。iS戦闘において、至近距離と呼ぶべき彼我の間合い。暮桜による神速の踏み込みと、雷公鞭が放つ光速の雷撃。いずれも一瞬に満たぬ時間で死神の鎌となって相手に届き/その命を刈り取る事になるだろう。

 満身創痍。しかし、両者の気焔はますます苛烈さを増す──波動素子によって増幅・伝播された互いの思惟・EAF力場変動率を、胸部コアユニットが読み取り・演算。拡張された数十倍以上に引き延ばされた体感覚の中、予測算出された無数の可能性未来(ビジョン)=相手を屠る一手(イメージ)を選別──果たして雷撃の一撃が放たれたのと、踏み込みによって一陣の暴風と化したのは同時だった。

 申公豹(スコール)ハイパーセンサー(視界)が捉えた光景は、まさしく奇跡に他ならなかった──捻りを加えて繰り出された打突=長刀は、剣道における籠手の意匠を模したガントレットの拘束から逃れ、勢いそのままに雷撃へと射出されたのだから。そしてライトニング・リーダーが雷撃もろとも螺旋状に霧散させた──螺旋桜・飛刃(らせんざくら・ひじん)=その変則形態。本来なら、投擲し易い短刀で繰り出される筈のそれを、長刀で実行。

 長刀そのものも雷火によって消滅する中、返す手として繰り出された左手=桜花の波動防壁に輝く手刀が、テンタクラー・ロッドが脇腹に食らいつくのもものともせず、鈍い白銀色の全身装甲(フルスキン)を突き破り/腹部を貫通=血液と臓物が背後に撒き散らされた──螺旋桜・飛刃(らせんざくら・ひじん)を回避、ないし耐え凌いだ猛者を待ち受ける弐の手。一時的に整波展開上限を超過した、高密度の波動防壁を纏う、絶対防御領域さえ食い破る必殺の一手。

【ふふ……命の賭け方、見誤ったみたいね】──スコール=圧縮言語。すかさず蹴り飛ばされ/床一面に朱とピンクをぶち撒けながら/開け放たれた口許の装甲より鮮血を吐瀉。

 千冬=脇腹に突き刺さったアンカー・クローを放り捨てる/口から水のように鮮血を吐き出す/血走った目で口許を拭う。【……やってくれたな『アバスレ』】

 グラビティ・カタパルト(重力推進式時空間ポテンシャル連結機関)を見上げる──機関を停止したいが、ようやく動きだした様子の管理部隊(ヴァルキュリーズ)アフリカ支部に存在を悟られる訳にはいかない。かといって、この最重要指名手配犯を逃がす事も出来なかったが、オータムの意識が覚醒レベルに達したのを警告された今、それは叶わない。出力を機能復旧・生体再生に偏向する事で、数秒の内に修復を完了。踵を返し、オータムの迎撃が始まる前に脱出を図ろうとした矢先、確かにそれを聞いた。

「とりあえず、さよならとだけは言っておくわ……千冬先輩」

 

 瞬間、全ての音がぴたりと止み、室内が深淵のような暗闇に覆われた──変動重力源の音無き咆哮。胸部コアユニットが、インナー保護を最優先=EAFによって空間構造法則を改竄/球状の領域を構築──中腹付近で灯った、ブラックホールと形容すべき黒が、キリマンジャロの雄大な威容の全てを飲み込んだ。




いきなりラスボス格(じみた)お二人の登場。スコールさんの機体ネタが分かった方、是非ともお友達になりましょう。
波動素子とは、iSの謎エネルギーが変異したものなのですが、サイ◯フレームよろしくインナー(パイロット)によって色が異なります。暮桜なんて名前の機体に乗りながら、桜なんて可れ……要素が無かったので、こんなところで補完してみました。
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