ポケモンマスターへの道   作:ほりぃー

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東方がひと段落したので、こうしていきたいですね!


VSピジョン

 

 空が近い。レッドはまだ暗い天を見上げて思った。

 

 ここはお月見山の山頂。カント―地方でも随一の山の頂点。

「どうだ、いい眺めだろう。レッドよ」

 シバは突き出した岩肌に足をかけて言った。レッドは頷く。

 

 レッドが目線を下げると、カント―地方一円が眼下に広がっていた。セキチクの海岸線が遠くに見え、さらに先。空が海に重なる線までなにものも間にない。ただ少し冷たい風だけが空を流れる。

「いい……眺めだ」

 レッドの帽子から出た黒髪が風にそよぐ。彼の言葉にはある感慨が込められていた。この世界の大きさに比べたら自らの小ささはどうであろう。何度も死にそうな目にあった。何度も逆境を乗り越えてきた。それでも世界は広い。

 彼が旅をしてきたことなど、この眼下の眺めに比べれば米粒というのもまだ尊大ともいえる。

 レッドは帽子を深くかぶった。不意に潤んだ両目を隠したのだ。

 

「ウワーハッハッハッ」

「!」

 シバの豪快な笑い声が響く。レッドは驚いて振り向き、はっと涙を見せないように目を逸らした。シバはそれを知ってか知らずなのか笑いを収めてレッドに言う。

「やはり広いな! レッドよ。何度来てもここはいいな」

 シバはレッドの横に立った。はだしの足からぱらぱらと砂が落ちる。レッドは逃げるように目を下げて、景色をみる。シバはその肩をばんと叩いた。

「見ろ、レッド。この世界には数万、数十万のトレーナーやポケモンが存在する。俺のような者では、修行しても修行しても届きそうにない」

 レッドはぴくりと耳を動かした。シバの言うことが今の彼の心情と合致していた。ただ、シバは言うことはその先が違う。

「全く相手のしがいがあるというものだな。ウワーハッハツハッ!!」

 シバが大口を開けて笑う。レッドの肩を力強く叩き、レッドは小さく笑った。シバはそれを見て、

「いかん。いかんぞレッド。大きく笑うのだ、それでは山の下まで聞こえない!」

 レッドはシバを一度見る。シバは薄く笑い、軽く頷く。レッドもつられて口元をゆるませる。

「くっ……く。あははは。あははは!」

「そうだレッド。もっと大きくだ。ウワーハッハッハ!!」

 二人は笑う。お月見山の山頂で、まさに「天下」を笑い飛ばす。それを見に来たのか朝日が遠くに顔をだした。世界が明けていく。

 

 

 

「では、シバさん。お世話になりました」

 レッドはぺこりと頭を下げてお辞儀をする。シバは腕を組んで「うむ!」と言った。

「レッドよ。これからも修行をして強くなれ。……いずれは仕合といこうぞ」

「はい。いつか」

 短く二人は別れを惜しむ。言葉を交わせば悲しみが深くなる。レッドはもう一度お辞儀をすると、地を蹴って坂を下り始めた。

 後ろは見ない。レッドの目から流れる水滴は冷たい朝の風が目を刺激して出たもの。そう思いながら少年は風を斬り、地を蹴る。

 いつかまた。そう言ったことだけをレッドは心にとどめる。

 

 

「はっ」

 レッドは突き出した岩を蹴り、宙を舞う。その姿は韋駄天と言ってもいい。上りには力を使ったが、下りとなればスピードが乗る。ゆえに自制が効きにくい。

「うわ」

 レッドはわずかにバランスを崩した。あまりにあわてて身を立て直す。普通ならば速度を落とすべきだろうが、

「経験値が……はいりそうだ」

 そんな理由でレッドは駆けていく。

 

 視界の端に、ピンク色の集団が見えた。レッドが目を向けるとピッピの群れが手を振っている。レッドはくすと笑い、身を宙でくるりと回す。アクロバティックな返礼にピッピ達が歓声を上げる。

 そんな光景も、風のように過ぎていく。思い出が離れていくことはこんなものだと少年は悲しみながら足に力を入れる。

 またこれも、いつか。なのだろう。

 

 

 

 ばんと両足でレッドは着地した。坂がなだらかになっていくのはふもとに近づいたということだ。岩肌も土に覆われ、木々がレッドの進むけもの道の両側を囲む。

 ここはどこだろうか。レッドは思った。

 まっすぐハナダシティに降りたはずなのだがお月見山の中腹のあたりで森に入り、方向を見失ってしまった。普通に「お月見山トンネル」を通ればこんなことはないのだが、彼が降りてきた道はそもそも道ですらない。標識すらもない。

「ん?」

 レッドが木々の間を抜けて見晴らしの良い丘に出た。それをみてレッドはしまったと思った。

 

 ハナダシティの北側には大きな橋がある。それは有名な観光スポットでわざわざ見物人が来るほど大きい。それがレッドの眼下にあり、その先にハナダシティの街が見える。

 お月見山からハナダに入るには西から入るのが普通である。これならば大橋を通る必要はない。しかしレッドの目の前に大橋があり、その先に街がある。つまりレッドは北側に道を反れてしまったのだった。

 なんとなく恥ずかしいと思ったレッドはハナダの大橋を目印に丘を下る。丘の下はやはり森。人が入るところではない。

 

 

 ふうと息を吐いてレッドは前を向いた。

 ハナダの大橋。しっかりとコンクリートで固められた橋で幅は広い。だが何故か人がいなかった。

「あっ。まだ朝だったなあ」

 現在は6時を少し過ぎたくらいで橋の上にはほとんど人がいない。レッドの火照った体が朝の冷気を払い、感覚としての「朝」を彼から遠ざけてしまったために腕時計を見て驚いた。

 まあいいかとレッドは橋を渡り始めた。橋の下にはお月見山から流れた大河がその大きさに似合わず静かに流れている。レッドはなんとなく川の流れを見ながら歩んだ。

 レッドが目を上げてみるとハナダの街が遠くに見える。それはこの橋の大きさを何よりも語っていると言える。そのまま彼は目を横へ流して、道の反対側を見た。

 

 

そこにはツンツン頭で黒いシャツの少年が大股で歩いていた。腰に付けたポーチにボールが4つついている。グリーンだ。

 グリーンもレッドに気が付いたらしく。つまらなさそうにしていた顔をぱあと明るくしてレッドに手を振ってきた。まさに「おもちゃ」を見つけた子供のように。

「レッドー。レッドじゃねえか」

 はははと笑いながらグリーンが近付いてきた。レッドも近付く。

「こんなところで会うなんてキグウだなレッド。どうだ元気にしてたか。俺様はマサキの家の言ってみたんだけどよ、いねえの。変なポケモ……秘密兵器を捕まえちゃったけどな。いないならいないって言えよなあ。なあ? レッド」

 マシンガンのように話すグリーンが言った「マサキ」とは、このあたりに住む技術者の名前である。彼はポケモンの転送システムなどの開発者で、ほとんどのトレーナーが彼の恩恵を受けていた。レッドは使ったことないが。

「あっあのグ」

「でもよレッド。俺様もういっぱいポケモン捕まえちまって、ポケモン図鑑もかーなーり埋まっちまったぜ。ニビとハナダでバッジも手に入れたしなあ、これからクチバに行くんだよ」

「ぽけもん……ずかん?」

 なんだそれはとレッドが首を傾げる。グリーンは気にせずに話す。

「ははははは。ビビっちゃったかレッド。で? お前はどれくらいバッジ手に入れたんだよ?」

「一個……ニビで。これからハナダジムに行くんだ」

 グリーンはちょっと驚いたように目を開いて、にやりと口元を緩める。

「へー、さーすが俺様の幼馴染。素手でそりゃあすげえな。そうかー。バッジ手に入れたか―」

 じゃあよとグリーンが目をレッドに向ける。

 

「腕試し、したいんじゃねえか?」

 

 笑いを収めたグリーンの眼光。ギラリと光るそれをレッドは好ましく思った。

 ピリとしたグリーンの闘志にレッドの肌が粟立つ。彼の脳裏に以前のバトルが浮かんだ。ゼニガメとの戦い、熱い記憶。グリーンの目を見ると、それがたまらなく恋しくなってしまう。

 レッドは上着に手をかけながら言った。

「うん、ちょうど……戦いたかった」

 

 

 二人は距離を取る。レッドは拳を握り、グリーンはモンスターボールを掴む。レッドは赤の上着を脱ぎ、黒のトレーナーを着ている。腕は旅に出た時よりも一回りは膨れている。

「グリーン。ポケモンを出して」

 静かにレッドは言う。橋の上を朝の清澄な空気が流れ、二人の間を通っていく。

グリーンはモンスターボールを投げる。赤い閃光を抜け、ボールから何かが空へ舞いあがる。雄々しい翼。赤色のトサカを風に流し、二人の上空を旋回する鳥ポケモン。その名をピジョンという。

 

 レッドは空を駆けるピジョンの姿を目で追った。くるくると見せつけるように飛び、ゆっくりと下へ降りてくる。そしてレッドと対峙する。良く手入れされた羽が柔らかに風に揺れる。

 一瞬、ピジョンの目がレッドを捉えた。ピクリと動き、鋭い眼光を彼に向ける。戦闘準備は万端ということか、そうレッドは受け取った。

「レッド、行くぜ?」

 グリーンの声にレッドは構えを取る。やや前傾の姿勢、いつでも突撃できる。だから言う――

「いいよ、グリーン」

 

 風を斬る。レッドはピジョンに向かって突っ込んだ。グリーンの声も届かない刹那の間。必殺の瞬間。

 

 レッドの電光石火。

 ピジョンの電光石火。

 

「な!」

 高速の世界でレッドの横をピジョンがすり抜けていく。レッドはたたらを踏んで立ち止まった。そして後ろを向いて構えなおす。ピジョンも翼を広げてレッドに向かっていた。わずかにピジョンが早い。

 一瞬の間にお互いが立ち位置を変え構えあう姿はサムライの闘いに似ているのかもしれない。鍛え上げられた高速の技は一呼吸もしない間に己の全てを懸ける。

「驚いたか? レッド」

 うしろからグリーンの声。レッドは聞く。構えは解かず。

「お前が速く動けるのは前に見せてもらったからな……もう驚かねえ。それによレッド――」

 ピジョンが動く。

「電光石火は、ポケモンの技だぜ」

 

 ピジョンの電光石火。

 

 レッドは動かない。手を手刀に変えすべての意識をそこへ持っていく。

 ピジョンが迫る。レッドの頭が高速で回転してそう告げる。もはや言葉ではない、警鐘と言った方がいい。

 レッドが一歩前へ出る。全ての速さをその一歩に集約する。居合。手刀は真剣の力を持って振りぬかれる。

 

レッドのいあいぎり。

 

 ピジョンは止まらない。止まれない。レッドは「取った」と確信する。

 羽が揺れる。ピジョンは体を斜めにそらす。レッドの神速の剣を紙一重の間合いで潜り抜ける。レッドの想像を超えていく。

「しまった」

 などという時間はレッドにはない。世界が動いているはずなのにすべてがゆっくりと流れていく感覚、レッドは居合に崩れた体勢のまま目だけでピジョンを追う。

 

――負ける

 

 ピジョンがレッドの脇の下で羽を鳴らす。そこは人体の急所。肺に直通する場所。羽で撃たれたら、鍛え上げた体は用をなさない。

 ピジョンが半身になって羽ばたく。

 

ピジョンのかぜおこし

 

「うあああ」

 レッドの体が宙を舞う。足場と方向感覚を失う。反射的にレッドは腕を組み防御を固める。

 ピジョンが上昇する。

「いけ! ピジョン!! 電光石火だ」

 グリーンの声が聞こえる。次の瞬間に脇をレッドは打たれた。鋭い痛みが走る。

「ぐう」

 

ピジョンの電光石火。レッドにダメージ。

 

 ピジョンが空を舞う。レッドが地に落ちるその数秒に攻撃を叩きこむ。

 体を旋回させてピジョンはレッドに攻撃を繰り出す。鋭いくちばしと力強い羽。どちらが当たってもダメージは大きい。レッドは必死に防御を固め、時に身をそらしながら力を流す。

「はっ? ぐあああ」

 レッドが地面にたたきつけられる。ピジョンはその上空を舞い。下へ降りてくる。

 レッドは痛みをこらえて立ち上がった。ところどころ血が出ている。しかしまだ戦えそうだ。そのことが解せない。

「何故?」

 レッドは疑問を口にした。あの一瞬、全霊の居合をかわしたピジョンは何故レッドにとどめをささずに「かぜおこし」などと言う技を使ったのか。確かに空へ飛ばされればレッドには不利この上ない。それでも一撃の勝利には変えることはできないはずだ。

 レッドは口の中の血を吐き出して。ピジョンを見た。少し離れたところでじっとこちらを見ている凛々しい鳳。レッドはどこかでその顔を見た気がした。

 

――「かぜおこしか……おそろしいわざだった」

 

 いつかレッドはそう言った。それはマサラを出たすぐの場所。コラッタを倒してすぐのレッドはある鳥ポケモンと戦い倒した。それはポッポ。かわいらしい名前の通り小さな鳥ポケモン。

 レッドは唇をかむ。はっと記憶の底からあの日のことが思い出された。

 そう、あれはメッセージ。「かぜおこし」はそのための技。お前を倒しに来たのだという決意のこもったもの。俺はあの時のポッポだという意思表示。

 

 レッドは彼を一度倒した。それも苦戦というほどのこともなくレッドはポッポ、いや目の前のピジョンを倒した。ピジョンはあの時完全に彼よりも弱かったはずだ、その上レッドは数々の死闘を繰り広げてきた。経験にしろ肉体の強さにしろあのころのレッドは今のレッドの足にも及ばない。

 それをピジョンは刹那の攻防で圧倒した。

 

 ピジョンに天恵の才があったのではない。それは一度倒されたことで証明されている。ならばこれは全て血のにじむような努力をした証しでしかない。レッドの死闘と匹敵するほどのことをピジョンはしたのだろう。ピジョンの美しさは外の輝きではない、魂が熱を持って煌々としているのだ。

 

 レッドは構える。居合の構え。右手を腰につけて前傾に構える。そしてギラギラと光る眼光をピジョンに向ける。ピジョンはそれを見て、羽を広げる。

 

――来い

     応――

 

 心で会話を交わす。グリーンも何かを感じたのだろう。ピジョンを育て上げた彼である。事情は知らずとも、自分のポケモンの望みくらいは分かった。

「いけ……ピジョン!!」

 ピジョンが自らの主人の声に応ずる。

 

ピジョンの電光石火。

 

 弾丸。翼を丸めたピジョンの全力の突進。空気を切り裂き、レッドを屠ろうと風を抜いていく。

 レッドは目をつぶった。耳も目もピジョンを捉えることは無理だと直感する。ゆえにこれは夢想の居合。心に描いた最強の自分を、その剣技を繰り出す。今までの経験を、今までの修練をこの一刀に込めて左足を踏み込む。

 

レッドのいあいぎり。

 

 ピジョンにレッドの斬撃が迫る。最高の速さ、最高の美しさ。それを一秒にも満たない最高の時間に繰り出してくるレッドにピジョンは歓喜する。

 ピジョンは身をひねる。さっきと同じ回避。しかしお互いは全身全霊をつぎ込んだ。結果は神のみが知っている。

 

 ピジョンののど元をレッドのいあいぎりがかする。避けた。ピジョンは羽をレッドに叩きつけようとして、身を崩す。いやなにかがピジョンの軌道をずらした。

 一指の力。ピジョンの顎先に当たったのはレッドの一本の指、しかもその先に過ぎない。だがピジョンはその一指に引き寄せられるような圧力を感じた。高速の動きに紛れ込んだ異物が、彼の動きを狂わせる。

 レッドとピジョンが離れていく。

 体を制御できずきりもみに回転するピジョン。しかし彼は止めようのない体はもはやどうでもよかった。

 

――とどかなかった

 

 それだけが悲しく。そして嬉しい。橋の壁がピジョンの目の前に、あった。

 

ピションはたおれた。

 

 

「おつかれさん」

 グリーンはピジョンを収めたボールにそう声をかけて腰に仕舞う。彼が目をレッドに向けると、レッドはぐたっと橋に倒れていた。彼の精根尽き果てた様子にグリーンはためいきをもらす。

 おしかったな。グリーンはそう心で呟いて。

 

「やーやーレッドクーン。今回は俺様の勝ちみたいだなー」

 明るく言う。レッドは疲れた目でグリーンをみた。さすがにもう一匹は無理だ。レッドはあきらめて。

「ああ、これで一勝一敗だね……」

 少し負け惜しみを含めて言った。

 グリーンはくっくっくと笑い。

「たーしかにレッドも強くなってるかもしんねーけど。俺様のトレーナーとしての才能がすこーしだけ上だったみたいだな。それに俺様にはまだ秘密兵器があるしな」

 レッドはうんと頷いた。疲れていることもあり反論する気もない。それに彼のトレーナーとしての才能とやらも二回、味わっている。しかし「秘密兵器」とはなにか気になる。

「秘密兵器ってなんなの、グリーン?」

 体を起こして聞くレッドに待ってましたばかりの笑顔を向けてグリーンは言う。

「はははは。俺様が捕まえた新種のポケモンだぜ。まあ、幼馴染の頼みとありゃ―みせてやらねーこともない」

 含みのある笑いをしてグリーンは腰からボールを外す。

「さあ、レッドおどろけ!」

 グリーンがボールに開閉スイッチを押す。赤い閃光の後に、コラッタのような体をしたポケモンが出てきた。だがその頭はまるで違い、茶色の毛が生えている。

「ワイハマサキヤ」

「どーだレッド。こんな変な鳴き声のポケモン見たことも聞いたこともねーだろ! はははは」

「チャウネンワイハマサキヤ」

 レッドはじっとポケモンとグリーンを交互に見て言った。

「人の言葉を、しゃべってない?」

 

 

ピジョン LV18 撃破

 

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