時は深夜、オウカから作戦室として借りた部屋でシャオと今後の打ち合わせをしていた。特に僕とシャオが持つ知識のすり合わせとして今後の行動をどうするかの相談でもある。
「GV、時期的にも一、二か月ほど先から始まる、エデン侵攻に対して対策を考えよう。ボクだって正直に言えば未知のパターンだから展開が読めないんだ」
今回に限ってはいろいろとイレギュラーが多すぎる故にある程度は想定は出来るが絞り込むまでが難しい状態なのだ。シャオにしても持ちこせる記憶の関係上、細かいところまでは記憶していない。
「分かったとは言いたいけど、僕だって細かい所は分からないから。多少は抜けがあると思うし、検討していこう」
まずは何を検討をすべきかを言い出す前に先にシャオが提案をしてきた。
「まずはGVも知っているとは思うけど皇神の大型浮遊ドローン『飛天』、今回は確実にとは言わないけどそれでも囮として暴走させると思っている」
それを聞いて思い出すのは知識での光景、正史での僕の次なる闘いの序章の幕開けになる舞台だ。だが、あれは僕を誘き寄せるための罠だったはず。
「何か根拠があるのか? シャオ?」
「うん、恐らくはパンテーラは侵攻のための囮に使いたいはずだ。民衆や皇神の目を集めた隙に国防結界『神代』の破壊工作をするはず」
考えてみればシャオの言う通りだ。確かに飛天の暴走で誘き寄せるのは目的の一つではあるのだろう。モルフォの分離は出来ないとしても実行するには十分な理由だ。
「それでボクとしては敢えて、その事を見逃したいと考えている」
敢えて見逃すシャオの発言に流石に眉を顰める。今更ではあるが、それでも皇神とは無関係の沢山の人が不幸になると想像してしまうと、少しだけ気分がよくない。
無論、最善はそれらをされる前にパンテーラを阻止することだろう。出来ればの話ではあるけど、そんな考えは読まれているのか、諌めるように理由を話してくれた。
「ボクらにはこの状況で唯一の利点がある。フェザーにはない、ボクらだからこそ活かせる。とっておきの心臓に突き立てれる武器がね」
そこまで言われれば僕だって気付く。僕たち個人で動いている。今の僕の特殊な状況だからこその武器。
「僕が死んでいる、と言うことか。そして何より相手の情報を持っているのが大きいのもある。それを生かしてパンテーラを強襲するわけか」
パンテーラも敢えて目の前で死んだように見せかけて暗躍していた。だからあの闘いで死んだとされている僕なら目立つマネをしなければそれこそ意識外の、死角からの一撃を与えられる。それを最大限生かすつもりだろう、それが個人で出来る範囲での最大限だろう。パンテーラを討てばエデンの統率も崩れるはずだ。
「…………分かった、シャオの提案に乗ろう」
そして、できるだけ何かあったときに動けるようにシャオに情報を皇神やフェザーにリークをするようにはしてもらった。その後に出来る残党に対する問題は僕個人では流石に対処はしきれない。こういうのは力のある団体に任せるのが一番だろう。
「もう一つの問題はシアンだね。侵攻はともかくあちらとしてはどうしてもモルフォの力を欲しがっている」
パンテ―ラの目的からしても絶対に
「それついては今は問題ないよ。調べている限り、シアンに何かしていないからパンテーラもまだ、神園ミチルとの関係に気付いてないみたい」
だからこそ、すぐに動けるようにシャオに頼んでシアンの周りにエデンの影がないかをチェックをしている。それが気休めではあるけど、少しばかり出来ることはやろうとしてはいる。例え、自己満足でもあろうとも。
「そうか、今はまだ無事なんだね」
「でも、こっちの想定通りに動くとは限らない。フェザーにだってイレギュラーが存在している。それも下手したらとても不利になるような」
「あの人か……」
その事を聞いて思い浮かぶのは僕を皇神から救出してくれた人の面影だった。解ってはいるが知識からも知っているし、そして極稀に垣間見せている、あの憎悪を。
「ごめん、ボクもあの人相手じゃ、捕捉するのは難しい。ある程度は情報網は巡らせているけど個人で動かれると流石に無理だよ」
「あの人が個人として動くならシャオでも察知は無理な話でもあるか」
僕を助け、導いてくれたアシモフ。あの人も僕と同じ境遇だった。ただ、アシモフには誰も助けてくれる人はいなかった。その果てに失敗作として扱われて捨てられた憎悪がアシモフを駆り立てる。皇神を、能力を持たない人を許す気はない。だからこそ、パンテーラ達エデンとは方向性が違うが協調出来てしまう。
「うん、個人として動かれると情報網の隙間を潜り抜けられるからごめん」
「いや、シャオでもそこまでは無理なら仕方ない。あまりやりたくはなかったが。エデンが動き出す前に確かめる必要があるな」
そして一番恐ろしいのはそのためには仲間すら欺いて、切り捨てることすら出来ると言うことだ。少なくとも自身の後継として見ていた僕ですら邪魔だと判断したのなら切り捨てたのだから。最悪の場合、フェザーそのものだって裏切れることだってあるだろう。リスクはあるが今の時点で、確かめる必要がある。
「何の必要?」
「どうせ、やるなら入念にしておいた方がいい。シャオ、悪いけど装備の手配を頼めるか? 潜入に特化したものと戦闘に特化したものの二種類ほど手配してほしい。戦闘の方はシャオが飛天の後にいつも用意している物でかまわない」
「了解、戦闘用は分かるけど、一体潜入用って何に使うの?」
「シープスに潜入して直接確かめる。気をつけているとはいえ、プライベートな所なら痕跡程度が僅かに残っている可能性だってある。この際、徹底的に調べつくす」
それを聞いてシャオはわお、大胆だと茶化しながら少しだけ引いていた。
*
それから数日後。時刻は午前二時、極一部の人間以外が眠りに着く時間でもある。当然フェザーだって例外ではない。夜勤の警備員以外の人間はもう寝静まっている。
必要最低限の照明がほんのりと照らす人気がない中、迷彩を全身に覆うように着込んで正体を隠しながら静かに足跡すら残さず踏み入れる。
(潜入成功……これよりミッションを開始する)
シャオから光学迷彩が施された、潜入用に調整された皇神製プロテクトアーマーを纏いフェザー支部へと潜入をしていた。何でも高性能にしたのは良いが動力の電力の消費があまりにも多くなりすぎてお蔵入りになった代物らしい。廃棄される予定だったがどういう伝手なのか僕に合わせて調整されていた。
ただ問題としては潜入のために機能を偏り過ぎていて戦闘行動は出来ないのが難点だ。ほとんどの電力を機能の維持に使っているため、精々が身体能力を強化する程度にしか回せないし、カゲロウも一回使えば充電が切れてしまうほどだ。
その代り、迷彩機能などの性能はぴか一でもある、少なくともフェザーの防衛センサーを素通りしても感知されることがないほどにだ。
本当ならエデン製の物がよかったのだが、シャオでも直ぐに用意できるのは皇神製の物しか仕入れることが出来なかったらしい。エデン製ならある程度の疑心を植えれたのだが仕方ない。
(一年近くか……ここに戻ってくるとは夢にも思わなかったな)
僕でもまさかこんな形でここへと訪れることになるなど夢にも思いもしなかった。けれど今は懐かしさに浸っている暇はない。いくら迷彩が優秀でもどこからばれる可能性ある。名残惜しさもあるがただ静かに進んでいく。
元からある土地勘とシャオから入手してきたデータがあるために今回の潜入は非常にスムーズに進む。時には大胆に、時には慎重に目的の部屋。今回は痕跡を探すと言うことで探すべき場所は二つ。データバンクとアシモフの私室。
理由はエデンの痕跡がないかを確かめるため。組織ぐるみか個人として動いているのかも分からない。だから、二つとも調べる必要がある。
(ああ、あの人は……)
今もやり過ごしている哨戒の人間に見覚えがある人だった。まだフェザーに居たころ、まだ戦闘員として配置される前、訓練生だったころまだ小さい僕を心配してくれた能力を持っていない大人だ。フェザーに抜けるまでは交流があっていろいろと話をしていた。僕にとっても数少ない信用出来る人である。
(生きてくれていたんだ……)
そして、もう一つ思い出すのはシャオからエデンに乗っ取られた時の話だ。フェザーには能力を持たないながらも協力してくれている人たちだっている。シャオが居たフェザーがエデンに乗っ取られた時に、その人たちは皆、いなくなった。
(だからこそ、乗っ取られるのは阻止はしないと……)
今日も異常はなしと呟きながら哨戒している人を見送りながら僕はまた歩き出す。最初はアシモフの方からだ。
(アシモフのデータはこれで入手完了。後はデータバンクの方か……)
前者については恙なくデータの入手は出来た。流石のアシモフも警戒はしていたが個人で狙われるのは流石に想定外故かセキュリティに感知されずに出来た。
その途中、僕はとある部屋の前で立ち止まってしまう。シャオからの情報でここに誰がいるのかを知っているから、どうしても足を止めてしまった。だってこの部屋は……
(ああ、ここが今のシアンの部屋……)
かつてフェザーに居たころに使っていた部屋だった。何の因果かは分からないけれど今はシアンが使っていることに何か思う所がある。そして……
(今なら、一目見ることだけでも出来るかな……)
紫電の偽装からずっとシアンを見ていない。シャオから通しての情報だけで実際にシアンがどんな状態であるかを正確には把握しきれていない。それ以上に大切な家族に会いたいと心が叫んでしまう。
(でも、今は……まだ正体を隠さないといけない)
部屋に入ればどうなるだろうか。こんな夜更けだからお化け扱いされるのだろうか? そんなたわいのない想像が頭に過ってくる。きっと幻扱いされても喜んでくれるのかな。ふと、シアンとモルフォの泣き顔が浮かぶ。
(…………いや、やるべきことがある。まだ隠すべきこと、なんだ)
きっと今行けば拭えるのかもしれない、でもその先にまた同じ顔をさせる敵がいるのだと。振り払い、そっと優しく離れていく、その思いに後ろ髪を引かれながら、それがいつかシアンたちが平穏に過ごせる未来を作るのだと信じたくて。
『GV?…………気のせいよね。もう彼はいないんだから』
彼が去った後、モルフォは現れた。ただ懐かしい人の波動を感じてしまったから、分かってはいる。けど心の底では認めたくないから追いかけてしまう。けれど誰もいない通路が気のせいだと悲しい現実を示してしまう。
『会いたいよ……もう一度あなたに会いたいよ。GV』
いつもはシアンを諌め、元気づけるモルフォではあるが彼女もまたもう一人のシアンなのだ。だからこそ心の底にある想いを、悲しみを誤魔化すことは出来ない。いつもは気丈に振る舞う彼女でも誰もいない中、感じてしまった懐かしい気配が封じ込めていた想いが心の蓋から溢れてくる。ただ寂しさからか膝を抱えた。
『寂しいよ、会いたいよぉ…………』
ただ、寂しく一人の少女の涙が誰もいない中、落ちていく。いつもはシアンを励ましてはいるが彼女だからこそ、心の底にシアンと同じくらい悲しみを沈めている、ただ沈め方が少しだけ上手なだけの少女なだけだ。
『……~~~~♪』
寂しくて、悲しくて、苦しくて、もどかしくて、どうようもないほどの想いが愛しい人への歌を口ずさむ。その歌は狭い世界を打ち壊してくれた人への共に寄り添う想いを綴る歌。聴く人がいれば涙を流さざるを得ないほどに悲しみに溢れていた。それほどまでに真っ直ぐに彼への想いが積まれていた。
『GV……』
けれど届けたいのに届かない、拭う
「よお、侵入者さんよぉ。一体何しに来たか洗いざらい話してもらおうか。ちなみにテメェに拒否権はない。洗いざらい吐いてから死ぬか、苦しみながら情報を吐いて死ぬか。どっちかだけだ」
フェザーのデータを管理するデータバンク室。そこでいつものへらへらとした笑顔を消したかつてのシープスの仲間でもあったジーノが真剣な表情で
捕捉
迷彩アーマーについて今回GVが来ているのは皇神が持つセンサー類すらすり抜けるために造り上げ試作した所謂潜入する為の高コスト高性能のために迷彩。
しかし、迷彩や消音の機能を高める、維持するための電力があまりにも多くなりすぎて搭載できるバッテリーがあまりにも重くなりすぎたためにお蔵入りとなった代物です。
それを電源事態がGVで賄うようにオミットしたものが今回のスーツ。こうして潜入する際には非常に役立つものの戦闘するためのエネルギーを回せないという欠点がある。