ここまで最初から上手く行きかけたせいなのか目的まであと一歩のところで下手をふんだ。今の僕は皇神製の装備を纏っている中、フェザー中枢のデータを盗もうとしているのだ。もう、敵と断定するには十分すぎるほどの要素だ。
(しまったな。運悪くジーノに見つかるとは……どうすべきか)
そう、運悪く夜間警備だったジーノにハッキングをしている場面を感知されてしまって捕縛されようとしているのが今の現状だ。不幸中の幸いと言えばデータは取ってあるって位か。
フェザーが相手でもある程度の肉体強化を使えば何とかなる自負はある。けどそれが出来ない数少ない例外があるのは事実である。それが同じチームの仲間であるジーノとリーダーだったアシモフ。
特にジーノに関してはセブンスが容易に使えないハンデの中で、僕が知る限りでも上位の能力を持つパンテーラを相手に逃走出来たと言えばその実力が分かるだろう。そんな相手がそうやすやすと出し抜けることを許してはくれない。
(いっそ、素直に正体を明かしては……無理だな。状況が許してはくれない)
すでにハッキング中に一撃貰ったからかまとっていた迷彩も解除されてしまっているのも一因だ。ここはデータバンク、中枢でもあるから警備も厚い中、映像も取られてしまっている。ここで正体を明かして見逃してもらっても今度はフェザーでのジーノの立場が一気に悪くなるために出来ない。
(そして、はぐらかすなんて悠長なこともする余裕はないか)
どうせ、僕に拳銃を突き付けている時点で、既に増援の連絡位はしているだろう。敢えて警報はならしてないだけで逃がさないための包囲網が着々と組まれているはずだ。まずはやるべきは脱出のための行動だ。ジーノの方もこっちが喋らないのを察して捕縛方面へと切り替えて無力化するために銃床の打撃で気絶させようとしている。
「黙ってんなら、さっさと眠って貰おうか」
(なら、こうさせてもらうか!)
故に、まずは一気に体内電流を操作して、衝撃を緩和するためのシールドを後頭部に張りながら、振りかぶっていた拳銃へと思いっきりぶつけた。後頭部でのヘッドバットで拳銃の銃床へと当てて、拳銃を弾く。高性能と謳ったのは伊達ではなく、こういう場面での戦闘服としての機能も備えてもある。故に後頭部にも装甲が貼ってあるため、危険ではあるが奇襲にはもってこいである。
「なっ!?」(っ!?)
しかし、勢いが付く前とは言えど後頭部へと軽い衝撃。予め装甲とシールドを張り、覚悟していたのから少し揺れる視界の中、次の行動へと移る。
(はあっ!)
先ほどのヘッドバットで腕ごと弾かれたその隙を一気にアーマーのパワーアシストすらも使い、ジーノを巻き込むように部屋の扉へとショルダータックルを敢行する。ジーノに関してはこの程度でどうにかなるとは思ってはいない。横へ逃げられた。
「ちぃ!? 野郎やりやがったな!」
だが、こっちとしては扉にぶつかることが出来た。重要な中枢故、この程度では僅かにへこむ程度にしか出来ないが接触の際に
「逃がすかよ!!」
こっちが通路へと逃げ込むがジーノが手早くもう一つ愛銃でもあるアサルトライフルを構えており、銃撃が幾らか命中するがそれは迷彩機能を切れたことにより、浮いた電力をシールドへと回した為衝撃は軽微。しかし、脚部へ重点的に撃っているために足が思うようには動かせない。
(流石はジーノ。こういう所は上手だよ)
そのまま足を縺れるように転びそうな振りをして、ジーノの次の行動の選択肢を誘導する。案の定、予想通りに足を、特に膝裏の関節を狙って投擲されたナイフを回避する。やはり分かっていたことだがやる事がえげつない。傷自体はつかないとしても足の関節に噛ませられれば転倒させられるからだ。それだけでも逃走と言う目的が潰れてしまう。
「ちっ! しくったか! と思ったかそれも予想の内だ、バカめ!」
だが、それも考慮の内なのか目の前の通路の障壁が徐々に降りてくる。恐らく事前に操作しておいていたものだろう。しかも、わざわざここだけ開けておいて僕を誘き寄せるための仕込みである。それだけでも用意周到さが伺えるが今回ばかりは僕もやすやすと捕まるつもりは一切なかった。
「何!? 待ちやがれ!!」
かなり無様なやり方だが身体強化を掛ける、とにかく妨害の衝撃すら無視できるように強化率を、特に瞬発力を上げてスプリントで一気に加速させて閉じかけている障壁を目指して駆ける。
(悪いが今回は僕が一枚上手だよ)
ほとんど閉まりかけている障壁の隙間をスライディングで潜り抜ける、その際に迷彩装備からこすれる嫌な音が響くが仕方ない。その直後に障壁が完全に降りて、ジーノの姿は見えなくなった。少しばかり罵倒が聞こえてくるがすでに
(全く、ジーノは抜け目ないよ……)
既に施設全体に警報が鳴り響いており、フェザーの人たちが動く音が聞こえてくる。迷彩を再起動させたなどもあり、居場所を感知されてはいないがそれでもジリ貧なのは間違いない。
(シャオ聞こえているか? 応答を頼む)
『聞こえているよGV、それにしても珍しくへまをしたね。現在の状況は?』
(ごめん、データの回収は成功したが最後に侵入がばれた。今は追手は巻いたし、正体もばれてはいないが状況は良くはない。現在地から近い脱出ルートを検索してほしい)
『了解、すぐに調べるよ……って、オウカ何時からそこに!?』
『GV、大丈夫ですか。お怪我はありませんか!?』
(オウカ、どうしてここに?)
時刻はもう午前四時を越えている、いくら若いとはここまでの夜更かしは健康に悪いだろう。だから敢えて僕はオウカが寝る頃に出てきたのだが。
『あの……えっと、よくはわからないのですが起きてしまってお手洗いに行こうとしましたら部屋からシャオさんの声が聞こえてきてしまって』
『ごめん、オウカがどうしても無事を確認したいって言うから……』
(いや、心配してくれてありがとう、オウカ。僕は無事だし、今から帰るところだから心配しないで)
『それなら良かった。あの、お夜食を作っておきますから、GVは何が食べたいですか?』
正直に言えば今はこんな会話をする余裕はないと思うがミッション中だというのいつもの調子でいられるというのもある種の才能なんかじゃないのかと思ってしまう。けどそれが良い感じに緊張を和らげてくる。
(ありがとう、でも朝まで帰れそうにはないから朝食に雑炊を頼んでもいいかな)
『分かりました。GV、あなたの帰りを待っています』
その後にオウカの声が聞こえなくなった。言葉通りに準備をしているのだろう。彼女らしいと言えばらしいだろう
。
『あはは、相変わらずだね。オウカは』
(いいさ、そんな彼女だからこそだ。シャオ、脱出ルートのナビゲートを頼む)
脱出するため、別の閉じていた障壁の端末へと手を触れて開かせる。ここからは帰るためと足を進めた。
*
それは唐突だった。眠っている最中に聞いたことがないような警報が鳴り響いた音に飛び起きて、近くに居たモニカさんと合流していた。まだここに来てからの日が浅いからか何の警報かは判別が付かなかったけどモニカさんが説明してくれた。
「モニカさん、一体何があったんですか?」
「ジーノから緊急連絡。今のここに皇神の工作員が侵入。数は一。目的はフェザーのデータ。所持能力は推定ハッキングに関するもの。現在は施設内を逃走中、メンバーが総動員で探索はしているけど足取りは掴めていないみたい」
「皇神ですかっ!?」
「ええ、纏っている装備から推察よ。憶測だから確定ではないけどでも十中八九そうであると考えているわ」
あの時の光景が思い出す。かつて皇神の、GVがメラクと呼んでいた能力者に襲われた時、私は成すすべなく連れ去れた時だ。
「また、皇神……」
「大丈夫よ、シアンちゃん。ここはフェザーの施設よ。いくら皇神だって簡単にはあなたには手出しはさせないわ」
悔しいけど、今の私はまだ訓練生でGVみたいに戦うことは出来ない。今は工作員から襲われないように司令部へと向かうしかないのが歯がゆい。
『誰!?』
その途中で何かを感じ取ったかモルフォが何にもない方向へと声を掛けた。確かにモルフォは電子の存在。故に光学では感知出来なくても電子の揺らめきを感じ取ったのだろう。私たちから見ても何もない空間のはずだったのに、まるで魔法のように姿を現した。
『動くな、動けば撃つ』
その姿は全身を包むアーマーによって顔どころか性別すら分からない。声だって処理がなされているほどだ。余りにも不気味な雰囲気が空恐ろしく、静かに右手には拳銃が握られていた。
『余計な真似はするならどうなるか分かっているな?』
機械処理された感情のないような声が私たちに向けて発せられる。その姿にかつて皇神にいた頃を思い出そうになる
『そうだ、それでいい。大人しくしていれば危害は与えない。
けどまだ弱いけども、もうあなたたちの言いなりなんてならない! とそんな意志を込めて睨みつける。何も出来ないけれど私なりの精一杯の抵抗だ。
『……っ!?』
私がそんな視線が一瞬だけど揺らいだような気がしたけども。だんだんと距離が近づいていく。モニカさんが私を庇う様に立つ。それでも相手は構わず詰めてくる。もう一歩踏み込めば私を掴める距離へと近づいていた。このままモニカさんと人質にされちゃうのかな、でもそしたら噛みついてでも抵抗すると考えていた。
「え?…………」
『…………』
だけど予想とは違って、私たちの横を通り過ぎていった。振り向けば私たちには目もくれずに走り去りながら風景へと溶け込む後ろ姿が消えていく。
「助かったの……?」
わからないのだけど今のこの場の危機は去ったのだろう。極度の緊張が解けたのか気が付けば私はへたり込んでいた。モニカさんはヘッドセットを使って通信をしている。今立ち去った侵入者の情報を伝えているのだろう。モルフォは侵入者が通り過ぎた後をずっと見続けていた。
「モルフォ? どうしたの?」
『ううん、なんでもないわ。なんでも……ないわ』
モルフォにはどうしてなのか、立ち去った人が見せた背中を見送る時にどこか悲しさを含んだものがあって、そのことに胸が痛む。そんな悲しいことをさせてしまったようなそんな罪悪感が胸に残っているの。おかしいよね、顔も名前も分からないような人なのにどうしてこうも、胸が締め付けるような叫びたくなるような悲しいの?
いくら探ろうともモルフォにはその理由が見つけることが出来なかった。
結局のところ、その人は捕まらずにに終わり、たった一人だけとは言えど侵入者が出てきたことフェザーはこの事態を重く見て今の施設を放棄することを決定された。
*
数時間後、既に夜は明けて、人々が動き始め出す頃、路地裏のマンホールにて僕は、這う這うの体で這い出してきた。ここまで来れば流石のフェザーでも追跡は無理だろう。潜入を敢行した理由の一つとして、シャオからこうした場合の抜け道のような脱出ルートを予め聞いておいたからこそでもある。いくらフェザーでもあそこから下水道に逃げ込めることは予想だにしないだろう。
「ふぅ……ここまで逃げれば大丈夫かな。」
『お疲れさま、GV。こっちからでも追跡の反応はないから安心して帰還して』
流石にこの潜入はきつかった。緊張による疲労もあるがもう一つの要因として迷彩の機能の維持が思った以上に負担が大きかった。ずっと消費しているのだ、疲労しない訳がないのは当たり前のことであった。
「くそっ!」
だがそれ以上に僕の中には苛立ちが勝っていた。周りに八つ当たりをしたくなるほどに心がざわつく。分かっている。こんな皇神製の装備を纏っているから誤解されるのも当たり前のことだ。
「僕は……僕は!」
だけどシアンに運悪く出会ってしまったからああするしかなった。あのまま、隠れ続けようとモルフォに追跡されて詰みに入ってしまう。それだけは避けなければならないことだ。
だけどそんな言い訳をしても大事な家族に銃を向けたことの罪悪感やそれ以上にシアンからあんな風に見られただけでも心が重苦しく悲しかった。
「帰ろう……オウカが待っている」
おぼつかない足取りでオウカの屋敷に帰り着いたころには日は完全に昇る頃だった。
屋敷に帰ると最初に迎えてくれたのはシャオだった。ずっと着用していた装備と目的だったデータの解析を任せて後に軽く身だしなみを整えて居間へと行くとオウカが待っていてくれていた。少しばかり遅くなってしまったからかオウカは少しだけ船をこぎそうになっていた。おそらくあの通信からずっと待っていてくれたんだろう。
「ふぁ……あ、GV。お帰りなさい」
そんな自分の様子を見られたのが恥ずかしいのかちょっとだけ赤面しながらも笑顔で出迎えてくれた。
「ただいま、オウカ。ちょっと遅くなってごめん。せっかく用意してもらったご飯、冷めちゃったみたいだね」
そんな僕をオウカはじっと見つめている。何かが気になったのだろうか?
「GV? 大丈夫ですか? 無理しているじゃないですか?」
「そうかな、ちょっと疲れているだけかもしれない。心配しないで」
その後に、いきなり視界が塞がって。
「…………オウカ?」
気が付けばオウカに抱きしめられていた。どうして急にと疑問が尽きないけど、人肌の温かさと心音の鼓動が安らぎを与えてくれる。
「大丈夫ですよ、GV。何があったのかは分かりません。でも、あなたが悲しそうにしてるなら私が傍にいます。だから安心してください」
オウカの心臓の音が未だにざわついていた僕の鼓動を落ち着かせていく。肉体的にも精神的にも疲労困憊であった僕はゆっくりとした心地よさに自然と身を任せて、微睡みに落ちていく。もう、家族に武器を向けるような哀しいすれ違いはもうしたくはない。しなくてもいいようにと願った。
「シアン……僕は、また……」
またあの時みたいに暮らしたいな…………
シアンの睨みつける。効果は抜群だ! GVのメンタルに大ダメージ!
そしてそれを感知して癒すオウカの嫁力が高まっていく……そしてどこにあたっているかは秘密だよ!