副題
『一万字とちょっとで終わると炎上汚染都市冬木』

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施しの英雄に施してもらった

「力を貸してくれるのか?」

「それは正しい言葉ではない。結局お前次第だ」

 

 あぁ今はそれだけで十分だ。体は既に死に体。コフィンは爆発され、四肢は体から離れた。そんな中こんなふうに()()と話が出来ているのが唯一の幸運だ。

 呼符をくれたダヴィンチちゃんに感謝だ。

 

「優しいんだね」

「……」

 

 長身の男性が現れる。

 肌も髪も白く、その瞳は僕という存在を完璧に見透かされているようなそんな感じがする。

 

「ここに契約は完了した」

 

 

『立香くんっ! 近くに新たなサーヴァント出現だ! あり得ないくらいの速度でこっちに来ている!』

「本当ですかっ!?」

「マスター離れないでください!」

 

 炎上都市冬木にて黒化したアーチャーとの戦闘を行う立香たち4人は、カルデアにいるロマンからの情報を伝えられる。

 

「そいつのクラスは何だ!? バーサーカーだったら最悪だぞ」

『クラスは……アーチャー!?』

「ここにいるのがアーチャーじゃないの? ロマニ貴方嘘言ってるんじゃないわよね」

 

 言葉を交わす内に謎のアーチャーは距離を詰める。だがそれに対応する余裕は今の彼らにはない。現に、近距離戦をこなす敵のアーチャーに何も出来ずに、防衛戦を強いられている。

 

『到着まであと5秒!4 3 2 1!』

 

 ロマニの秒読みの後に爆音と地震のような衝撃が訪れる。敵のアーチャーも攻撃の手を止め、距離を取る。

 二人の戦いの様子は砂塵によって見えない。

 

「その判断は悪手だ」

 

 剣を握るアーチャーの左腕が宙を舞う。

 

「なっ!」

「英霊と呼ばれるまでになったモノがこの程度とは、拍子抜けだな」

 

 そのまま右手、脚が消え去る。

 

「せめてもの慈悲だ。抵抗せずに死ね」

 

 敵のアーチャーは消える。

 あまりにも一瞬の事でカルデアの面々は理解する事が出来なかった。

 

「済まないな。本来ならば目覚めたと同時に合流し助けに来るべきだったのだろうが、生憎とそこまでする義理もないものでな」

 

 白い髪に白い肌。長身ながらも先の細い体。先程のアーチャーを倒した武器が見当たらず、空手だ。

 

「あなた誰よ」

 

 その言葉に男は自分の体を見て、納得した様に頷く。

 

「確かにこれでは分からないな」

 

 体から光を放ち、姿を変える。

 肌に張り付くような黒いボディースーツは、立香が着ている真っ白なものに変わる。

 

「さっきぶりだねマリー」

「あなた……」

『アーチャーの霊基が変わった?』

「……アイネさん?」

 

 現れたのは立香よりも一つ前にマスターになった、魔術師としてはひよっこなアイネ=ヴェルツェだった。

 

 

「何よさっきのアレは」

 

 最終戦、アーサー王との戦いの前の休憩。何度もの戦闘で疲れている立香とマシュは眠りにつき、アイネはキャスターのサーヴァントであるクー・フーリンとは離れた場所で見張りをしていた。

 そこにやって来たのはカルデアの所長であるオルガマリー。時計塔の天体科で出会った二人(オルガマリーは低俗な出のアイネと仲良くしているつもりはないと否定するが)は、気兼ねなく話をする仲になった。

 立派な父を持ち、隣には常に地位を狙い、策を巡らす魔術師たちがいた。そんな状況で、のほほんと過ごすアイネは彼女にとってとても親しみやすい存在だった。

 

 くだらない日常の話だったり、授業についての話。日々の愚痴や、時には同性同士でするような恋の話だってした。

 だからこそ、今彼の身に何が起こっているのか彼女は知りたかった。自分の知っている存在が全く別のものだったという衝撃を、もう二度と受けないために。

 

「これのことかな?」

 

 その一言で姿はまたアーチャーと戦った時の物になる。どうやら体つきや顔つきも変わっているように思える。

 

「そ、そうそれよ」

「マリーならばこの程度分かっていると思っていたのだが」

 

 のほほんとした陽だまりのような優しさは消え、どこか冷たさが現れる。口調も鋭くなり、棘がある。そんな言葉にヒステリック気味に声を出してしまう。

 

「その言い方は何なのよっ!」

 

 それが今まで優しくされていた人なら尚更だ。

 

「ちょっと待ってくれ。どうやらこの状態になると言葉が足りなくなるらしい。本来ならば、マシュの存在を知っている優秀なマリーならばオレの説明なしに理解できるだろう、と言いたかった」

 

 本人の意識外で言葉が勝手に変わる。

 先程の戦闘中も味わった感覚だが、どうにも心地が悪い。10ある事を全て話したいアイネにとってこれはとても相性が悪い。

 

「へ、へぇ」

 

 ただ、褒められ慣れていないオルガマリーにとっては、下げられてから上げられるのは初めての経験で返事に戸惑ってしまう。

 

「とまぁこんな感じでね。あっでも、マシュのデミサーヴァント化とは違うんだけどね」

 

 既に呼吸のように、自然と人と英霊との間の切り替えが出来ている。

 

「それなら分かんないじゃない!」

「ごめんってばぁ。僕もいまいち分かってないからさ」

 

 そう言って言葉を続ける。

 瀕死に陥ったアイネに機会を与えてくれたと。

 召喚式フェイトの領域外で正式な媒体でない呼符を用いた召喚では、いくらサーヴァントと言っても十全の状態では無理だった。

 だがマスターであるアイネが「死にたくない」と思うと、その英雄が語りかけてきた。

 

「力の源としての物は渡せるが、それを使いこなせるかは僕次第だって。英霊となった僕とまた会えることを楽しみにしてるって言ってくれたし」

「それってその言葉通り言ってたのかしら?」

「ううん。でもこんなこと言いたかったんだと思う」

「何よそれ」

 

 良かったいつものアイネだわ、と安堵する。先程のアーチャーとの戦闘が未だに脳裏に焼き付いている。マシュとキャスター、サーヴァント二人掛かりでも苦戦を強いられたアーチャーを一瞬で撃墜した。

 

「よしっ! 表情も柔らかくなったね」

 

 オルガマリーのほっぺを手で挟み柔らかな笑みを浮かべる。さっきとのギャップか、オルガマリーの顔は自然と熱を帯びる。

 

「変なことしないでよっ」

「えへへ。よいではないかー」

「もう」

 

 なんとも言えない不思議な感覚だった。死と隣り合わせな状況にいながら、いつもと同じ様にいられる。

 

「そうだ、マリーに頼みたいことがあったんだ」

「なにかしら?」

「使い魔契約を結んで欲しいんだ」

 

 アイネは言葉を続ける。

 

「僕の存在ってまだ曖昧でさ、いつ力が無くなって人になっちゃうか分かんないし。英霊側に引っ張るなんてことも起こっちゃうかもだし」

 

 マシュのように瀕死の状態からデミサーヴァントとなる事で傷が治ったとは言えず、アイネ自体はまだ傷が言えていない。

 マシュは存在自体が英霊と言う上位の存在になったが、アイネはサーヴァントなる事が可能と意味合いが少し違う。

 

「つまりは楔が欲しいんだ。……上手く伝えられてるかな?」

 

 曖昧な状態でオルガマリーと契約を施す事で、今の状態を基準と定義する事ができる。

 

「理解はしたわ。強力じゃなくて良いのよね」

「うん。取り敢えず互いの生死が分かる程度の緩いのでいいよ」

 

 

 

「さて、それじゃこれからセイバーの所に行くわけだが。その前にやらなきゃいけねぇことがある」

 

 キャスターとアイネで見張りを続け、立香は6時間ほどの睡眠をしていた。

 

「嬢ちゃん。宝具は使えるか?」

「宝具ですか……?」

「じゃあそこのマスターじゃない坊主!」

「アイネでいいよ」

「アイネ、お前は使えるか?」

「真名解放じゃなくていいなら」

 

 例えば漫画で技を放つ時に技名を叫ぶことがある。それは何もカッコつけの為だけに叫ばれている訳ではない。言霊のように、声を想いを載せるほど技は強くなる。

 その中でも真名解放はその技のポテンシャル100%引き出す為のものだ。

 

「そりゃそうだろうな。お前の体で真名なんて開放したら体が持たない」

「そういうことです」

「まぁいい。お前を知るためにも、嬢ちゃんの強化のためにもここは一つ戦闘訓練でもするか」

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあマシュ、準備はいい?」

「武装完了。いつでもいけます」

「それじゃあ行くよ」

 

 マシュが体ほどの大きさの盾を構える。それを確認するとアイネもまた姿を変える。小さかった体はスラリと長く、戦闘に必要な筋肉も増えている。健康そうな肌は幽鬼のような白い肌に、表情豊かな顔は冷静に澄んでいる。

 その手には昨日にはなかった赤い炎を上げる弓が携えられている。

 

「……ふっ」

 

 初手はアイネだ。一歩踏み出すだけで数mという距離を無かったものにする。あまりにも早すぎる移動にマシュはアイネの姿を失う。

 

「これでは盾が弱点になるな」

 

 声は盾によって生じた死角から聞こえる。

 マシュが距離を取ろうとしても既に遅い。弓を縦に直接当て引き絞ると、弓と同じ様に炎の矢が作り出される。

 数にして5つの矢が同時に放たれる。

 

「っ!!!!」

 

 昨日のアーチャーとは比べ物にならないほどの衝撃。盾はしっかりと構え、離れないように体を預ける。それなのに後ろへ土を抉り動かされてしまう。

 腕がしびれる。第二波に対する準備が出来ない。

 

「なるほど。この程度か」

 

 その言葉にマシュの力が入る。

 まだわたしはやれます、と。

 

 カルナが距離を取り、今度は見えるように弓を引き絞る。番えた矢は先程の倍、10本だ。限界まで引き絞られた弓は目では追えないほどの速さで放たれる。

 

「まだやれますっ!」

 

 次は盾を地面に突き立て、盾を固定する。10本の内に数本が盾に当たる。距離もあり先程までの威力はない。それでも苦渋出させるには充分すぎる。

 

「マシュッ!がんばれ!」

 

 マスター(立香)の激励の声が飛ぶ。

 折れそうになる心に再び勇気が宿る。

 

「行きます!」

 

 盾を横に、走行の邪魔にならないようにしてアイネに迫る。訓練とキャスターさんは言っていたが、それは嘘のようにマシュには思えている。なにせあのアイネ先輩がここまでやるのは本気の時しかない。

 

「はッ!」

 

 盾の質量と面積を利用した面での攻撃。速さも乗せた重い一撃で、確実にダメージが入ったように思える。マスターもそう思っている。

 

「どうしてか分からないな」

「なっ」

 

 確かに当たった感覚は帰ってきた。押したという感触もあった。だが何も無かったように爽やかな声が盾越しに聞こえる。

 

「マシュ。お前はまだ未熟だ」

 

 炎の弓を変形させ、太くさせ盾を受け止める。衝撃は受け流され、ダメージは入っていない。

 

「お前は何も分かっていない」

 

 盾を押し返され体制を崩し、尻餅をつく。

 長身から見下される恐怖にマシュは動けない。

 

「ちょっとアイネ!」

 

 そのまま動かない二人にオルガマリーが声をかける。その姿は怒っている。

 

「なんだ」

「貴方言葉を端折りすぎよ! パスが通っている私ならともかく、貴方マシュの心を折りに行っているようなものよ!」

 

 オルガマリーの言葉にアイネは動きを止める。顎に手を当て目を瞑り考え事をする。

 

「確かにそうだ。オレの言葉はお前を傷つけていたのは確かだ。だが、それが本心ではない」

「どうもこの状態になると言葉が少なくなるのよね。だからほら、どうせ戦うと言えないんだからこの微妙な空気の中言っちゃいなさい」

 

 弓を消しマシュの手を引いて立ち上がらせる。

 

「マシュ。お前の盾は何の為にある」

「わたしの……盾……」

「その面積と質量で相手を押し潰す為にあるのか? そこにあるだけで誰かを護ってくれるのか?」

「……いえ」

「では何の為にある?」

 

 碧と紫の瞳が交差する。

 

「ではその覚悟、オレに見せてみろ」

 

 言葉を交わさずとも伝わるものがあった。

 先程よりも遠く、100m程の距離をとる。

 

「それでは立香。お前はマシュの後ろに立て」

「え?」

「マスター来てください」

「マシュまで言うの?」

 

 分からないままマシュの後ろに移動する。

 

「こちらは大丈夫です」

「では、こちらもやらせてもらう。マリー少しばかり魔力をもらう」

 

 マシュは盾を構え自分に問う。この盾は何の為にあり、何の為に使うのかを。そしてさらに自分に問う。この盾を自分自身がどう使うかを。何も考えずに使っては意味がないとアイネは叱咤してくれた。

 そして一つの結論にたどり着く。

 

 わたしはマスターを、先輩を護りたい。あんなに絶望的だった状況にも関わらず、手を差し伸べてくれた先輩の手を護りたいと。

 

 心に力は満ちた。

 あとは表に出すだけ。

 

「せっかくのアーチャークラスだ、真名開放出来なくとも使わせてもらう」

 

 アイネも弓を構える。だがその弓はこれまでの炎で出来た弓ではなく、金の装飾がされた身の丈の二倍もある弓だった。弓を縦ではなく横に持ち、弦を引くと同様に金で装飾された矢が装填される。

 

「安心しろ死にはしない」

 

 マシュが立花が内包された神秘の濃さにたじろぐ。マリーはアイネの輝きに目を奪われる。キャスターは「ほぉ」と声を漏らす。

 

無銘の一撃(ツェアシュテールング)

 

 一切ブレのない射撃。

 魔力ではなく膂力のみで放たれる矢は地面に水平に、勢いは無くならず寧ろ増しながらマシュへと向かっていく。

 射撃を終えたアイネはサーヴァント化を止め、元の姿に戻っている。

 

「頑張ってマシュ」

 

 カルデアに来てからしばらくの間、オルガマリー以外と会話をして来なかったアイネにとってマシュはカルデアで出来た初めての友達であった。

 話をすれば何でも興味を持ち、楽しい話をすれば笑い、悲しい話をすれば泣き、一緒にいて楽しい友達だ。

 そんな無色の少女が自らやりたい事を見つけたのだ、これを応援しなくてどうするのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怖い。

 その感情がマシュの思考を染める。

 

 矢が迫ってくる光景がスローモーションで流れる。息が止まる。でも思考は止めない。意思を強く持ち、攻撃を防ぐ。否、後ろにいるマスターを護るのだ。

 

「あああ゛あ゛ぁぁぁぁ!!」

 

 ただ受けるだけではだめだ。たった一回で終わってしまったら誰かマスターを護るのか。攻撃を出来るだけ受け流し、次に備える。

 一枚では駄目ならばもう一枚と、押されるマシュと矢の間に一枚の障壁が、あらゆる攻撃を受け止める厚い盾が生じる。

 

「仮想宝具 疑似展開っっ!!!!」

 

 どれだけの時間が経ったのか分からない。だが立っている。攻撃を防ぎ、マスターを護りきったのだ。

 体から力が抜け後ろに倒れる。だが地面に当たる前に抱きとめられる。

 

「おつかれマシュ」

 

 そこ言葉が聞けただけでマシュは幸せだった。

 

 

「このバカッ! この後の戦いに支障が生じたらどうするのよ!」

「え?なに?」

「もう支障が生じちゃってるじゃない」

 

 マシュの勇姿を見届けたオルガマリーは依然として帰ってこないアイネの元に向かった。するとうつ伏せに地面に突っ伏しているアイネを発見した。

 魔力をもらう、と言っておきながらオルガマリーから持って行かれた魔力はほんの少しだけ。痛くも痒くも無かった。それなのにあれ程の物が撃てたというのは、自前の魔力で賄ったということだろう。

 

「バカね」

 

 アイネの魔力は少ない。元々そこまで優れた魔術師でないアイネがサーヴァントとなって、魔力が賄えるのかという疑問もあった。オルガマリーにはその答えは分からなかったが、当事者であるアイネには分かっていただろう。

 なのに、こんなことをするとは馬鹿だとオルガマリーは冷たく言った。

 

「でも、マシュは僕に出来ない君を護ることが出来るから。やれる事はやりたかったんだよ」

 

 いまこの冬木にて危険なのは生身の人間である立香とオルガマリーだ。彼らが動けなくなり、護るものが居なくなるとそれは死に繋がる。

 だからこそオルガマリーに負荷をかけず、マシュを強くするためにアイネは自分の魔力だけで宝具を放つ事を選択した。

 

「アイネさん大丈夫ですか?」

「マシュの方こそ大丈夫? 本来の威力の2割程度何だけど、思った以上に勢い良くて焦っちゃったよ」

 

 その一言にマシュは乾いた笑いが出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな程度かカルデアのものよ」

 

 黒化したアーサー王に為す術もなく、じり貧を強いられいた。アイネとキャスターは基本的に魔力であるが故に、アーサー王には大きなダメージを与えられていない。

 更にマシュのみが前衛であり、アイネは中衛でマシュのどうしても防げない攻撃を妨害するなどアタッカー不足がここで響いている。

 

「まだやれるわよっ!」

 

 啖呵を切るのはオルガマリーだ。

 苦境でも負ける訳にはいかない。だってまだやりたい事が沢山ある。それに伝えたい事も沢山ある。

 

「所長の言う通りです」

 

 マシュは再び体に力を入れる。

 

「あんなビビリだった嬢ちゃんがここまで言ったんだ。オレももうひと踏ん張りしなくちゃなァ」

 

 赤い瞳をギラつかせキャスターは杖を構える。

 

「当然だ。ここで負ける訳にはいかない」

 

 アイネは不敵な笑みを浮かべる。

 

『マシュ、キャスター。オレが前に出る』

『大丈夫なのか坊主』

『そうですよ。先程の疲れもありますし』

『マリーから溢れんばかりに送られてきているから大丈夫だ。近接攻撃も可能だ。なによりも負けた時の彼女の癇癪の方が怖い』

『なによアイネ……』

『では先陣を切らせてもらう』

 

 足元から魔力を炎という形で放出し、高速で迫る。炎の弓は形を長槍へと変える。上段からの大振りをアーサー王は受け止める。

 

「ほぉ。サーヴァントのなりそこないに、こんな事が出来るのかサーヴァント」

「ここにオレが何者であるかはこの戦いには関係ない。どっちが最後に立っているかが重要だ」

「確かにそうだ」

 

 互いに魔力を放出しながら高速戦を行う。そこに残りの二人が参戦する瞬間はない。一合、二合、三合、幾重にも切り合いを結ぶ。

 アイネを魔力で支えるオルガマリーは片膝をつき、大量の魔力消費に耐える。カルデアにいるダヴィンチに無理を言ってカルデアの魔力源に繋げたから良いものの、もしそれが無かったら魔力はとうに枯れ果てていただろう。

 

「立香っ!」

「はいっ! なんですかオルガマリー所長」

「恐らくアイネが確実な隙を作るわ。そこにキャスターの宝具を展開させなさい! それでダメ押しでいいからマシュにも攻撃をさせるのよ!」

「分かりました!」

 

 二人の結び合いは終わらない。

 幾重に重ねられた剣と槍。

 命のやり取りをしているというのに、両者の顔は笑っている。

 

「最初からこうすれば良かったではないか」

「それでは此度の目的が得られない。少し癪だったがお前の考えに乗ったまでだ」

「ほぉその眼よく見えるらしいな」

「さぁなんの事だ?」

「……いやなんでもない。だが会話に気を取られ過ぎだサーヴァントのなりそこない」

 

 剣が槍を弾き、衝撃でアイネの手から槍が離れていく。

 

「なっ!」

「これで勝負ありだ」

 

 首に剣を添える。

 高速戦闘にて気力を使い果たしたアイネに抵抗する力はもうない。

 

「貴様のような奴がいればもしや、と思ったが間違いだったか……」

 

 そのまま首を切り落とそうとするアーサー王はアイネに気を取られ過ぎていた。キャスターの魔力の急上昇に気づけていなかった。

 

「焼き尽くせ木々の巨人。灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)!」

「なっ、味方ごと焼くつもりか!?」

 

 火をまとった巨人が二人に覆いかぶさる。だがそれでもアーサー王は倒れない。鎧は焦げ付き、剣を杖代わりにし立っている。

 

「やあ゛ぁぁっ!」

「甘い!」

 

 令呪による強制転移でアーサー王の後からマシュが盾で攻撃をする。だがスキルとして持っている直感のおかげで、その攻撃を防ぐ。

 

「なっ!?」

「あと一歩足りなかったなカルデアよ」

「甘いのはそちらだ」

 

 突如、鎧も体も全て貫かれ胸に穴が開く。

 

「貴様!」

「武器など前座。真の英雄は眼で殺す」

 

 アーサー王は地に伏した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ダヴィンチ。聞こえるか?』

『何だいアイネくん』

『オレとマリーに魔力を回せ』

『……それはどうしてもかい?』

『人が一人死ぬことを許容するならばいらん』

 

 アーサー王を撃退し、キャスターは英雄の座に戻った。特異点なりうる事象を無くし聖杯を獲得し、これでレイシフトが終わりかと思われた時、面々に聞いたことがある声が聞こえた。

 その声の持ち主はレフ・ライノール。今回のカルデア爆発からの一連の事件の下手人だ。

 

「レフ!」

 

 レフに駆け寄ろうとするオルガマリーの進行方向に未だサーヴァント化を解いていないアイネが現れる。既にアーサー王との戦いで魔力は少なく、この姿を維持するのすら困難な筈なのだが飄々とレフに眼を遣る。

 

 

 

 

 それからレフはこの度の事件を起こした訳を長々と話していく。話が大きくなる度に、オルガマリーや立花、マシュの表情は辛く険しくなっていく。

 

「ではここでさようならとしようか。おっと、その前に本当に別れを告げるべき相手がいるな」

 

 レフはオルガマリーを見つめる。

 

「レイシフト適応が無いにも関わらず此処にいるのが一人。はて、どうしてこんな事が可能なのかな?」

「えっ?」

「体が死に、魂だけになって遂にレイシフトが出来るようになったか。ふっ、滑稽だな」

 

 何を彼はイッテイルノ?

 

「あんたは何を言ってるんだ?」

「嘘だと思うか? 爆弾の下に居ながら無事、などという事がそこの小娘に起こり得るかぁ!?

 

 目を開き、口を歪め下卑た笑いを上げる。

 

「そんな嘘よ」

「本当の事だ。その若き身で死ぬ事の不幸を恨むのだな。まぁそのまま死ぬというのもつまらなかろう」

 

 レフが手を横にふるうと空間に裂け目が生まれる。そこから見えるのはここにはないはずの、カルデアにあリ全員が見たことのあるものだった。

 

「真っ赤に染まったカルデアス……」

「今回もまた、君のいたらなさが悲劇を呼び起こした。折角死ぬんだ、これに飲まれて死ね」

 

 呪いの言葉にも等しいその言葉に、オルガマリーはその体の自由を乗っ取られる。嫌だと心が拒否しても、体はそれを聞かない。

 

「貴様らはここで絶望しろ」

 

 最後の言葉を残してレフはその場を去っていった。残されたのは絶望のみ。

 

「いや―――いや、いや、助けて、誰か助けて! わた、わたし、こんなところで死にたくない!」

 

 死を目の前にした心からの叫び。

 体は徐々にカルデアに近づく。

 

「だってまだ褒められてない……! 誰も、わたしを認めてくれていないじゃない……!どうして!? どうしてこんなコトばっかりなの!?誰もわたしを評価してくれなかった!」

 

 父の死。裏のでの残忍な行動の数々。様々な苦難を乗り越えて今までやってきた。それでも誰も彼女のことを大手を振って褒め称える者はいなかった。

 

「みんなわたしを嫌っていた!やだ、やめて、いやいやいやいやいやいやいや……! だってまだ何もしていない!生まれてからずっと、ただの一度も、誰にも認めてもらえなかったのに―――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこと無いよ。

 

 

 

 

「――――えっ」

 

 カルデアス向かう身体を優しくアイネが包み込む。身体は変わらず前へ歩きすすめるが、それでもアイネはオルガマリーを優しく包む。

 

(オレ)はマリーの事を尊敬して、評価して、認めてるよ。そんな悲しいこと言わないでよマリー」

 

 アーサー王との戦闘で既に魔力も気力も底をついている。サーヴァント化を解くと体に重い負荷がかかるため、まだサーヴァント化をしている。

 それにも関わらずアイネはアイネとしてマリーに話をする。マリーに思いを届けるため、言葉を紡ぐ。

 

「アイネ……」

「まだこの場所じゃ君を助ける事は出来ない。でも、でも絶対助けるから僕を信じてもらえる?」

「……………」

「ははは。僕っていつも頼りないからやっぱり無理かな」

 

 アイネは悲しげな顔を浮かべる。

 

「信じるわ」

「えっ?」

「わたしは貴方を信じるわ、アイネ」

「マリー」

「一時的でも貴方はわたしの使い魔なのよ。主人を守る事は絶対よ」

「あぁ」

 

 既に裂け目までの距離はもう零に等しい。サーヴァントを押し退けるほどの力を無理矢理出させられているオルガマリーの体は悲鳴を上げながらも、進んでいく。 

 くるりとアイネとオルガマリーの立ち位置が変わり、オルガマリーがカルデアス側となる。

 

「また会ったときは沢山話そう」

 

 カルデアスへと墜ちていくオルガマリーの腰に手を当て、オルガマリーの唇に口付けする。時間としてはほんの僅か、それでもオルガマリーはその安らぎに体を預け体の力が抜ける。

 

「またねマリー」

 

 その言葉を最後にオルガマリーはカルデアスに飲み込まれ。アイネはその場に倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 後日談というか、ここからが人理を取り戻す旅の始まりだったりするのだが。僕は見慣れた病室で目を醒ました。マリーから隠れる為にロマニと一緒に駄弁ったりしていた。

 

「あら目醒めたのね」

 

 顔を動かすとフードを被った女性が椅子に座っていた。雰囲気からしてサーヴァントだと分かる。サーヴァントじゃ無かったら僕が目醒めたらすぐにどこかに連絡する筈だし。

 

「初めまして。えーと」

「メディアよ」

「ギリシャ神話の」

 

 イアソンとかコルキスの魔女とかの話題はやっぱり言わない方いいよね。英霊にだって立ち入られたく無い所もあるだろうし。

 

「いまどんな感じですか?」

 

 そこからはメディアさんが色々と現状を教えてもらった。立香くんが人理修復の為にレイシフトを行っている最中だと言うことを。

 僕は魔力不足とかよく原因がわからないもののせいとかで、長い間意識がなく眠っていたらしい。その間僕を見てくれたのがメディアさんということらしい。

 因みに僕が死ななかったのはメディアさんの魔術による補助のおかげだったそうだ。原因を知っている僕からすればそれを出来る神代ってヤバイんだね。

 

「よいしょ」

 

 ベッドから降りて体を動かす。何日も使っていなかった体は硬いが、動けないわけではない。試しに体に魔力を流す。うん。滞りがない、万全な状況だ。

 

「色々ありがとうございました」

「良いのよ。マスターのお願いだから」

 

 これならばイケる。

 

 再び体に魔力を廻し、あの時の感覚を思い出す。彼から貰った要素の一部が抜けているが故に、以前ほど滑らかには行かないがそれでもサーヴァント化は苦労することなく出来る。

 

「さて、中央管制室はどこだったか」

 

 

 

 

 

「ちょっとアイネくん?」

 

 中央管制室に入るとロマニが驚いた顔をする。それもそのはずで、彼の担当医のメディアによれば、後数週間は目を醒まさないこともあり得るかもしれないと伝えられて今のだ。

 見たところ冬木で見たサーヴァント化も以前とできるようで、目付きは鋭く、他人を寄せ付けないものがあり、幽鬼のような白い肌。そしてどことなく張り詰めた雰囲気を纏っている。

 

「ロマニ、お前が今の所長か?」

「ちょ、いきなり何だよ」

「ダヴィンチちゃんはいるか?」

「ふふふ、天才をご希望かな」

 

 彼の呼びかけに答えたのは、先程アイネが入ってきたドアからやって来たダヴィンチだった。

 

「マリーはどうした?」

「所長は……」

 

 ロマニは悔しそうに唇を噛む。

 

「それならいい」

「それってどういう事だい?」

 

 今でもロマニは彼女の事を悔やんでいる。それを「それならいい」と言われるのは、琴線に触れる。椅子に座ったまま、下からアイネを睨む。

 

「ダヴィンチちゃん。オレと彼女のラインを手繰れるか?」

「天才に出来ないことは無いからね」

「えっ、どういうこと?」

 

 ロマニは話に付いてこれない。こんな抽象的な会話は、すべてを語らない彼(アイネ)天才(ダヴィンチ)にしか分からないだろう。

 

「それよりアイネくん。君どうやって彼女をサルベージするつもりだい? カルデアスは高密度霊子の集合体であり、次元が異なる領域だ」

「知っている」

「うん、そうかい。ならば君を信じよう」

 

 鎧は与えたが耳飾りがある、それならば可能だ。

 

「マリーを再び連れ戻そうか」

 

 カルデアスに腕を入れる。腕に痛みが走る、激痛などが霞むほどの痛みだが堪える訳にはいかない。マリーが暗い中を一人で彷徨っているのだ。耳飾りのおかげで、炎が身体を癒やす。痛みは続くが、腕はまだ動かせる。

 ダヴィンチの指示に従いながら腕を動かす。痛みのせいで時間の感覚が分からなくなる。何秒、何分、何時間こうやって探しているのか分からなくなる。

 

 だが、遂に見つけた。

 

 手に触れた者をしっかりと握り引っ張り出す。

 

「良かった」

 

 完全に引っ張りだしたアイネはサーヴァント化を解き、そのまま後ろに倒れ込んだ。引っ張りだされた人を見て中央管制室には衝撃が走る。

 

「お帰りマリー」

「ただいまアイネ」

 

 煌めく白の長髪を持つ女性。

 オルガマリーがアイネの腕に抱かれていた。




カルナさん感を書きたかったけど、何ともならなかった一発ネタ。


続かない。
モチベが上がれば続くかも……?


因みに使ってた宝具は日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)の2種類。



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