ハリー・ポッターと野望の少女   作:ウルトラ長男

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┌┤´д`├┐<ソシテナニヨリモォ-……
皆様こんばんわ。立ち読みとかをするたびに「これもいいなあ」と新しいSSを妄想するウルトラ長男です。
ガンツとか輝竜戦鬼ナーガスとか、ジョジョとかポケモンとか、ジャンルは結構バラバラです。
まあ、その大半は自分で書かずに他人任せで「こんなSSないかなあ」と調べたりする程度なんですけどね。
で、たまに見付かってもエタるorすでにエタってるという。
SSを読む上で必ず付き纏う悩みですフォイ。


第27話 敗北

 ディメンターによって意識が沈みかけたハリーの腕を、誰かが引っ張り上げる。

 それは今まさに敵対しているスリザリンの暴帝こと、ミラベルだ。

 彼女は強引にハリーを空に引き上げると、その頬を張って無理矢理叩き起こした。

 パン、と乾いた音が響き、突然の衝撃にハリーは目を白黒させる。

 

「そら、しっかりしろ。もうディメンターはいないぞ」

 

 数秒、呆然としていたハリーだが今が試合中だという事を思いだしたのだろう。

 ハッとしたように辺りを見回し、まだ試合が続いている事を確認する。

 よかった、まだ終わってない。そう安堵し、体勢を立て直そうとするも身体はなかなか言う事を聞かず、指の先まで冷え切っていた。

 

「ウッドが二度目のタイム・アウトを要求した。まずは下に降りて少し休んでくるといい。

チョコレートを摂取するのも忘れるなよ」

 

 ディメンターに遭遇すると身体が冷え、満足に動かなくなる。

 そうなってしまった時に最も効果的なのがチョコレートを食べる事だ。

 何故チョコレートなのかはよくわかっていないが、魔法のかかっていない普通のチョコレートで効果を現す所を見ると、恐らく単純に体温が冷えた時の食べ物として効率的、というだけなのだろう。

 要はタンパク質と炭水化物、糖分の含有量が多ければ何でもいいのだ。

 

 ミラベル自身も一度コートに戻り、マダム・フーチが選手達に配布していたチョコを受け取った。

 全く持って忌まわしい事だが、いかにミラベルといえどディメンターからの影響だけは受けてしまう。

 これはもう、人間という生き物である以上どうしようも無い事だ。

 腹ただしげにチョコを齧り、身体のコンディションを正常に戻して行く。

 だがディメンターの影響はその程度では完全に抜け切る物ではない。未だミラベルの身体はベストコンディションとは言い難い状況にあった。

 

「貴様等、まだ動けるな?」

「あ、ああ……大丈夫だ」

 

 チョコを飲み込み、選手達に問う。

 するとマーカスが身体を震わせながらも、力強く言う。

 しかし身体にガタが来ているのは明白だ。これ以上の試合続行は危険かもしれない。

 本当はもう少し点差を広げたかったのだが、これ以上は欲張らず終わらせてしまうべきだろう。

 

「後3分間だけ耐えろ。そうすれば私が終わらせてやる」

「わ、わかった」

 

 そろそろトドメを刺してしまおう、と決断しミラベルは再び空へと上がった。

 少し遅れてハリーも帰還し、3度目の……そして恐らくはこの試合最後の睨み合いに戻る。

 ハリーの顔色は未だ青いままだが、先ほどよりは大分持ち直しているようだ。

 

「さあ、もう邪魔者はいない。思う存分に闘ろう」

「…………っ」

 

 軽口を叩くミラベルを、鋭くハリーが睨む。

 だがその負けん気すらがミラベルにとっては心地いい。

 この真っ直ぐな緑の眼をこれから捻じ伏せるのだと思うと倒錯した快感すら沸き上がってくる。

 試合再開を告げるホイッスルが響くとハリーは視線をミラベルから外し、せわしなくコートを見渡した。

 この切り替えの早さもまた、彼の強みの一つだ。

 

 右!

 何も無い。ただ降りしきる雨だけがそこにはあった。

 

 左!

 ブラッジャーが飛んで来るのが見え、素早く身体を捻って避ける。

 ここにもスニッチはない。

 

 前!

 相変わらずミラベルが不敵な、勝利を確信した笑みを貼り付けている。

 必ずこの表情を崩してやる、と心に誓いハリーは視線を外す。

 

 後ろ!

 フレッドがブラッジャーを打ち返しているのが見えた。

 そして、そこから少し離れた場所にある、金色の小さな影。

 

「!」

 

 考えるよりも早く、ハリーは風になっていた。

 身体を屈め、箒と一体になったように高速で飛び出す。

 それと同時にミラベルも飛び出しており、両者は横に並んで飛翔する。

 速く、速く、速く!

 ハリーは意識を前のみに集中させ、グングンと加速していく。

 大丈夫だ、自分に負けはない。

 今までだってこうして、必ず勝って来た。

 こうして正面からの真っ向勝負にもつれ込んだなら、負ける事などない!

 そう、己への自信に漲り前を目指すハリーの横で一瞬、ミラベルが笑みを深くするのが見えた。

 そして――。

 

 ――銀色の矢は、いともあっけなくハリーのニンバスを置き去りにした。

 

「……え?」

 

 それはまさしく、放たれた一本の矢であった。

 目標に向かって真っ直ぐ、信じ難い速度で飛ぶそれを、ハリーは呆然と見つめるしかなかった。

 ニンバスは、未だ最高速度を出し続けている。

 自分は間違いなく本気で飛んでいる。

 ならば何故、自分の前にミラベルがいるのだろう?

 

 遠い……と、ハリーは思った。

 自分を置き去りにしてどんどん小さくなるその背中の、何と遠い事か。

 実際は時間にしてわずか数秒の出来事であるし、距離も精々5メートル程度しか空いていない。

 だがハリーにとってこの数秒は何よりも長く感じられたし、ミラベルの背はどこまでも遠くにあるように見えた。

 

「待っ……」

 

 無意識に伸ばされた手は、果たして何を掴もうとしたのか。

 震えるその手はしかし、ミラベルの背に届く事すらなく。

 先ほどまで自信に漲っていたその緑の瞳は今や、絶望に見開かれているだけだ。

 

 そして。

 

 ハリーの見ている目の前で。

 

 黄金の少女が、金色のスニッチを掴み取った。

 

*

 

 雨の降りしきる中、グリフィンドールの選手達はただ呆然と、コートに座り込んでいた。

 誰も言葉を発する事すら出来ず、観客達も金縛りにあったように静まり返っている。

 ウッドは魂が抜けたかのようにスコアボードを見つめ続けており、ハリーは手からニンバスが落ちている事にも気付かず虚空を眺めている。

 

 ――何だこれは? 何なのだ? この結果は。

 

 スコアボードに表示された点数差……“240対0”。

 そのあまりにも開き過ぎた点差に、誰もが現実を直視出来ない。

 これは何かの悪夢だと。きっと目を覚ませばまだ試合は始まって無くて、自分達は「酷い夢を見た」などと笑い話にしながら広間へ向かうのだと、そう信じたい。

 しかし現実はどこまでも無情で、どれだけ待ち望んでも夢から醒めること等有り得なかった。

 

 ――俺達は、ホグワーツ始まって以来稀に見るベスト・チームじゃなかったのか?

 

 チームとしては、決して負けていなかったはずだ。

 いや、間違いなく勝っていた。チームの質はこちらが完全に上だった。

 なのに負けた! たった一つの要因が混ざった為に、たった一人がスリザリンに加わったが為に!

 

「こんな事があっていいのか……? こんな、こんなことが……」

 

 たった一人の天才が他の努力を容易く凌駕し、踏み躙る。

 そんなのは例を挙げればキリがない程に世界に溢れており、残酷な程にどうしようもない。

 回避不能の天災。否、人災。

 巻き込まれた凡人はただ、己の無力に嘆き、諦める他ない。

 

「こんな事があって、いいのかよおおおおおおおおッ!」

 

 ウッドの、血を吐くような叫びに答えられる者は誰もいない。

 マクゴナガルは泥だらけのコートに手を付いて失意の底に沈み、応援団も声が出せない。

 ただスリザリンの応援団から狂ったような歓声が上がり続けるのみだ。

 

(負け……た……)

 

 ハリーは焦点の定まらない眼で、虚空を見上げながら茫然自失としていた。

 何がいけなかったのかを必死に考えるも、何も出てこない。

 

 天候が悪かった?

 そんなのは相手だって同条件だ。視界もハーマイオニーのおかげで良好だった。

 

 ディメンターが来た?

 それはミラベルが駆逐してしまった。チョコレートを食べ、休憩する時間すら与えられた。

 確かにあれで体調は悪くなったが、それは相手にだって言える事だ。

 

 卑怯な手を使われた?

 ……いつだ? いつ、相手は卑怯な手段など用いた?

 普段は卑劣な手ばかり使うスリザリンだが、今回に限っては間違いなく、堂々と挑んできた。

 認めざるを得ないほどに、フェアプレイに徹していた。

 

 ならば……ならば、“ミラベルがいたから”?

 …………ああ、なるほど。これ以外に理由が見当たらない。

 ミラベル・ベレスフォードという、凡人ではどうしようもない人災に見舞われたから自分達は負けたのだ。

 要は仕方の無い事。回避不能の災害に巻き込まれただけで自分達は何も悪くないし何の落ち度もない。

 ミラベルに勝てないのは仕方の無い事で、恥に思う必要など何一つないのだ。

 彼女の歩む先に人はなく、ただ全てが等しく踏み躙られるのみ。

 運が悪かったと、諦める他ない。

 そこまで考えてハリーは……己をブン殴った。

 

(違うだろ!)

 

 この思考は駄目だ。こんな考え方をしていては、自分は本当にあの少女に勝てなくなってしまう。

 負け犬ですらない敗者以下の存在に成り下がってしまう!

 だから認めない。ミラベルがいたから負けたなどと、認めない。

 理由だ。理由を考えろ。

 どんなこじつけでもいい。無理矢理で構わない。見苦しい負け惜しみでいい。

 敗北を受け入れてしまえば心が折れる。二度とあの少女に立ち向かえなくなる。

 そんなのは嫌だ、とハリーは心から叫んだ。ありったけの声で、ハリーの中の全ての感情が叫んだ。

 

(練習不足だったんだ! 作戦も不十分だった! 勝とうとする想いが足りなかった!

連携が取れなかった! 箒の差があった! スニッチの位置がよくなかった!

どうだ、これだけ出る! 理由はまだこんなに出てくる!

確かに僕達は負けたけど、それで勝ち目がゼロになったわけじゃない!)

 

 ハリー・ポッターは折れない。

 ダンブルドアをして『完璧な精神力』と称えた彼の心は決して屈しない。

 どこまでも我侭に、時に向こう見ずに、あるいは自分勝手に。

 矛盾を孕みながらも決して曲がらず我を貫く強さ。ミラベルにも通じるその心こそがハリーの真の強さだ。

 だから認めない。負けを受け入れ、しかしそれでも屈しない。

 

「ほう? これはどうした事だ?

確かに心を折ってやったと思ったのだが、一人だけやけに覇気に溢れているではないか」

 

 強く決意を新たにし、己を取り戻したハリーの耳に響いたのは楽しそうな少女の声だ。

 これほどの圧倒的な差をつけて勝ったというのに、もう瞳に輝きを取り戻している少年を不思議に、しかし同時に面白く思ったのだろう。

 気のせいか、その声は愉快そうに弾んでいる。

 

「……僕は、負けた。その事を誤魔化しはしない」

「その通りだ。貴様は言い訳のしようもないくらいに敗者だよ」

「けど認めない」

 

 強い眼差しで、ミラベルを正面から見据える。

 それは今しがた完全に敗れた男とは思えぬ、気高さすら感じる瞳だ。

 

「君に勝てないなんて認めない。君がいたから負けが決まっていたなんて認めない。

箒の性能、天候、勝ちへの拘り、そういったのが足りていなかったんだ。それが足りていれば僕達にも勝ち目はあった。そう僕は信じる」

「見苦しい言い訳だな、ポッター。敗者の弁以外の何者でもないぞ?」

「そうだ、僕は負け犬だ。だから遠吠えし続けるんだ。何度でも、何度でも吼え続けるんだ。

吼える事すら止めたら、僕は負け犬ですらないただの犬になってしまう」

 

 ミラベルはポカン、とした顔でハリーを見る。

 ハリーは、変わらぬ決意を宿した顔でミラベルを睨む。

 数秒、それが続いただろうか。

 やがて沈黙を壊したのは、ミラベルの心底愉快そうな笑い声だった。

 

「ふ、ふふふ……ぷっ、くくくくくくく……!

アハハハハハハハッ!!」

 

 ゲラゲラと、どこまでも愉快そうにミラベルが笑う。

 だがそれはヴォルデモートと対峙したときのような相手を馬鹿にする笑いではない。

 ただどこまでも、純粋に楽しんでいるような笑いだ。

 目尻に涙すら浮かべて思う存分笑ったミラベルはやがてその笑い声を収め、しかし表情だけは変えずにハリーへと言う。

 

「く、ククククク……愉快だ、実に愉快だぞ、ハリー・ポッター。

負け犬である事を受け入れながら、しかし負けを認めない。そんな奴がいるとは。

どうやら私は貴様を侮っていたようだ」

 

 『生き残った男の子』、『主人公』、『ダンブルドアのお気に入り』。

 今までミラベルがハリーを見る時、評価する時、常にこのフィルターがかかっていた。

 ハリー本人に対する評価は常にハーマイオニー以下であり、それを間違いとも思わなかった。

 だが違った。

 何より特別なのは彼の境遇や人間関係などではない。その心の在り方こそが特別なのだ。

 時には周囲に迷惑をかけ、向こう見ずになり、しかし誰よりも勇気と負けん気に溢れているその心こそが何にも代え難い強さだったのだ。

 

「認めよう、ハリー・ポッター。誇り高き負け犬よ。

特別にこのミラベルに対して吼える事を許してやる。貴様にはその資格がある」

 

 心からの称賛を惜しむ事なくハリーへと送る。

 もう彼を『原作主人公』というフィルターのみで判断するのは止めだ。

 これからは一人の男として、己の前に立ち塞がるに相応しい一個の人間として認めなくてはならない。

 

「そこまで吼えたからには、まずはその箒をどうにかするといい。

そこいらの家庭でも買えるような競技用箒ではなく、貴様に相応しい国際試合級の箒でも用意するのだな」

 

 ハリーのセンスはズバ抜けている。

 その彼にとって、もはやニンバス2000は不足でしかなかったのだ。

 よりよい箒が彼には必要だ。それこそ、ナショナル・チームが使うレベルの、あるいはミラベルのシルバーアローのようにチューンナップされた、特別な箒が。

 

「負けた要因を全て取り除き、私に“勝てる”と思ったならば、いつでも挑んでくるがいい。

時も場所も私は選ばん。貴様の挑戦であればいつでも受けて立とう」

 

 満足そうな顔のままミラベルはそう言い放ち、その場を去ろうとする。

 だがどんな時でも、いい気分をぶち壊す馬鹿というのはいるものだ。

 せめてミラベルが去った後にすればいいものを、我慢出来なかったのだろう。

 マルフォイが心底嬉しそうな顔でコートに飛び出し、ハリーの事を馬鹿にし始めた。

 

「いい様だなポッター! あんなみっともない負けっぷりは始めて見たよ!

いやー残念だなあ、僕の腕さえ動いたなら僕がああして勝っていただろうに!」

 

 後ろに控えているクラッブ、ゴイルと共にハリーを嘲笑しながらマルフォイが言う。

 今、彼の目に映っているのは打ちひしがれたハリーだけだ。

 故に気付かない。自分を見る金色の瞳に隠された獰猛な輝きを。

 

「しっかし惨めだねえ。ディメンターが来た時の君といったら!

しかもせっかく助けてもらったのに、あの情けない負けっぷり!」

 

 一番最初に気付いたのは、マルフォイに同調するように笑っていたスリザリンチームのメンバーだった。

 次にクラッブ、ゴイルが気付き、青い顔をしてソロソロとマルフォイから離れていく。

 だがマルフォイはそれにも気付かず、上機嫌でハリーを嘲り続ける。

 

「君ほど格好悪い選手は見た事ないよ! 僕だったら恥ずかしさのあまり、死んじゃうかも、」

「マルフォイ」

 

 それは危険な、氷のような冷たさを孕んだ声だった。

 普段の尊大さも、感情の高まりもまるで感じさせない、あまりにも静かな声。

 だからこそ、逆に恐ろしい。

 それがマルフォイの言葉を止め、そして身動きすらも封じてしまった。

 

「あれは私が認めた誇りある敗者だ。貴様如きが侮辱する事は許さん」

「…………ッッ!」

 

 冷たい、金色の眼で睨まれると呼吸すら出来なくなる。

 普段のような威圧感はない。

 しかしその代わりに、まるで首筋に鋭利な刃物を突き付けられているかのような恐怖だけがあった。

 

「ではな、ポッター。再戦を楽しみにしているぞ」

 

 最後に微笑を浮かべて手を振り、ミラベルはコートから立ち去って行った。

 その後に続くようにマーカス達スリザリンチームも退場し、後には打ちひしがれたグリフィンドールチームとハリー、そしてマルフォイだけが残される。

 立ち去っていく黄金の少女の、今はまだ遠いその背を見ながらハリーは拳を握り、固く決意する。

 

 ――今はまだ勝てない。けれど、必ず追いついてみせる、と。

 




マルフォイ「……フォーイ……orz」
イーディス「……いい加減懲りなさいよ……」

┌┤´д`├┐<フォイガタリナイ!
皆さんこんばんわ。今回はクィディッチ決着とハリーの意地でお送りしました。
負けてはしまいましたが流石に主人公、このままでは終わりません。
そして27話目にしてようやくライバルフラグがONです。
これからハリーはミラベルを越える事を目標に頑張り、成長する事でしょう。
どうかハリーが勝てるように祈っていてあげて下さい。

貫咲賢希様より頂いた爆笑ミラベル
【挿絵表示】

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