言峰綺礼に拾われた少年   作:クガクガ

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遠坂桜

 遠坂桜。そう自己紹介した少女は軽く頭を下げた。

 

 「――あ、さっきの…」

 

 顔を上げた時に士郎の顔が視界に入り、彼の存在に気付いたようだった。

 

 「遠坂の妹だったのか」

 

 「はい」

 

 よく見れば顔が似ていないこともない。が、彼女と初めて出会った時士郎は気付くことができなかった。理由は一つ、二人の髪の色が違っていたためだ。

 

 「なに? 言峰と遠坂の妹知り合いだったの?」

 

 「ついさっきな」

 

 「落としたプリントを拾ってくれたんです」

 

 「――そう…」

 

 「――?」

 

 士郎と桜がすでに知り合いだったということを聞いて、凜が何か思考するようなそぶりをみせた。彼女が何を考えていたのかは流石に士郎もわからないので放置。先に自己紹介をすることにした。

 

 「俺は言峰士郎。こっちは妹の花蓮だ。よろしく」

 

 「――――」

 

 花蓮は桜に対して何も挨拶することはなかった。しかし少女の瞳は確かに遠坂桜を捉えている。

 

 「はい」

 

一度顔を合わせているためか、もしくは姉の友人だからか、先ほどとは違い桜からは士郎と話すことに対しての抵抗が見られなかった。

 

 「そろそろ私は練習に戻るわ。四人ともそこに座っといて」

 

 「それはわかったけど、綾子。今日は藤村先生来ないの?」

 

 「なんか今日は緊急の会議が入ったらしいんだ。だから来るとしても大分後だと思う」

 

 「ならここに座ってても大丈夫ね」

 

 綺麗に横並びに座ったわけではなく、各々適当に座った。

 

 「――――どうした?」

 

 「い、いえ何もありません」

 

 「そうか」

 

 士郎は桜が自分のことを見ていたため何か聞きたいことでもあるのかと思い尋ねてみたが、少女は何もないと言い慌てて視線をそらした。

 

 「士郎…」

 

 「――わかってる」

 

 小声で自分の名前を呼んだ花蓮に士郎は同じく小声で返答した。

 

 日が沈み始めている夕方。畳に座る四人は弓道部員たちの練習風景を眺めていた。

 

 

***

 

 

 「おもしろいな」

 

 それが練習を見ている士郎から出た感想だった。彼は純粋に弓道というスポーツを面白いと思った。

 

 「結局あなたは入るのかしら」

 

 「もともとそのつもりでここに来てるよ」

 

 もうここまで来たのだから今更やらないなんて選択肢はない。

 

 (――今度は一般人か)

 

 再び人の気配。

 四人の中でもそれに気付けているのは士郎だけだろう。

 数秒後、玄関で扉の開く音がした。

 

 ちょうど休憩をしていた綾子が扉の開いた音に気がつき射場から姿を現す。

 

 「藤村先生、会議終わったんですか?」

 

 「うん。そのことなんだけど…あれ? 遠坂さんなんでここに? それに転校生の…言峰くん?」

 

 「はい」

 

 (確か…藤村先生だったよな)

 

 藤村大河。担当教科は英語、そして弓道部顧問をしている教師だ。士郎のクラスの担当ではないが、噂は聞いている。というよりも意図せずとも耳に入ってきた。彼女はそれほどの有名人なのだ。どういう風に有名かというと、とにかく元気。要するにハイテンションな人物だ。そんな彼女は普段の様子からタイガーなどと呼ばれたりしている。

 

 「だよね。どうしてここに?」

 

 「見学ですよ。言峰兄の方は弓道部に入るみたいなんで、あとそこにいる遠坂の妹も同じ理由です」

 

 「あー、そうなんだ…」

 

 耳にした噂と様子が違う。どうやら士郎たちが来たことに困っているようだった。

 

 「どうかしたんですか?」

 

 「うーん…それがね。昨日の夜から新都の方で事件があったんだって。そのことがあって今日の部活はこれで終わりなの。今日から下校時間が速くなったから」

 

 「事件?」

 

 比較的平和な国である日本で起きた事件というものが気になったので聞いてみる。

 

 「殺人事件らしいの。しかも被害者はうちの生徒だったって」

 

 その後も士郎たちが話を聞いた限りでは、昨日の夜から行方不明だった女子生徒が死体で今日の午後に新都の路地裏で発見されたらしい。その事件を警察から知らされた学校が会議をした結果、日が落ちる前に生徒を下校させることになったのだという。

 

 「そういうわけだから美綴さん、みんなに言っておいて」

 

 「わかりました」

 

 射場へと綾子が戻っていった。士郎たちの場所から主将であろう人物に説明している様子が見える。

 

 「――それでせっかく見学しに来てもらったのに申し訳ないんだけど…」

 

 大河が申し訳なさそうにしているので「大丈夫です」と士郎はフォローした。

 

 「しばらくは部活の時間が短くなるけど、いつでも入部届持ってきてね」

 

 「はい」

 

 その日の見学はそこで終わった。

 

 

***

 

 

 月明かりがこの冬木市を照らしていた。

 

 「――ふむ。思いのほか騒ぎになっているな」

 

 ビルの上から男が街を見下ろす。

 

 「武力などないに等しい非力な国だと思っていたが、弱いがゆえに警戒心が強いということか。少々日本という国を侮ってしまっていたか」

 

 下では警察が巡回していた。

 

 「若くて新鮮だからと学生を狙ったのは悪手だった。増やすのはともかく、食事には気を付けるとしよう。もう少しの辛抱だ。あと少し待てば血が大量に集まる」

 

 警戒はする。しかし吸血もする。

 それが彼の本能なのだ。抑えることはできない。

――抑える気など端からないのだが。

 

 「さて、今日はあの人間だ」

 

 男は人の血を吸うため夜の闇へと消えた。

 

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