「はい、お疲れさん」
二時間ほどだろうか。士郎は女子たちの買い物に付き合わされた。
しかし時間の無駄だったなんて思うことはなかった。花蓮が、流行りの衣服を見たり、今まで興味のなかった化粧品などを見たりと普通の女子らしい経験をできたようだったからだ。それだけでこの日には価値がある。
「喫茶店とかでお茶して深山町の方に行こうか」
ということで一旦喫茶店で休憩を挟んで深山町の弓具店に出向くことになった。
「にしても今日は人が多いな」
「休日だからじゃないのか?」
「休日にしても多い方よ、多分」
今日は日曜日。ショッピングモールを訪れる人間が多いことはないもおかしくない。だがどうやら今日は他の休日と比べても人が多いらしい。
そんな日もあるだろうと誰も深く考えることはなった。
五人はモールから出るために今いる二階からエスカレーターを使い一階に降りる。
「――――?」
その際に五人とは逆の上りエスカレーターにいる人物が士郎の目に留まった。
黒いジャケットを着た金髪の外国人男性。それ自体は珍しくない。冬木市はもともと外国人が多く訪れる場所だ。だというのになぜか士郎は金髪の外国人に違和感を覚えた。
「――――」
外国人とは何事もなくすれ違い士郎たちは一階へ下りた。立ち止まり二階の方を士郎が見上げると外国人が彼を見下ろしていた。不敵な笑みを浮かべながら。
(――なんだ…?)
わからない。なぜ男が笑っていたのか不明だ。
なにもわからないまま士郎は先を歩く少女たちを追う。出口に差し掛かったところで、以前から何度も感じたことがある特有の気配を男から感じたのだということに彼は気付いた。
「まさか――!」
振り返ると先ほどの場所にから男は消えていた。
「士郎? どう――」
花蓮は自分の兄が立ち止まっていることに気付き声をかけた。その瞬間、彼女の言葉を遮るように二階からいくつか悲鳴が上がった。
「なにかあったの?」
綾子は悲鳴に気付き士郎に何かあったのか問いかける。
凜と桜もモールの様子を窺っている。
(――不味いな)
今響いた悲鳴は確実に命の危機に遭遇した時に発生するもの。士郎はそれを何度も聞いたことがあるので知っている。
「士郎。今のは」
「ああ。仕事だ。奴らが現れた」
***
「今の悲鳴よね?」
すでに出口から軽くモールの外に出ていた綾子が再びモールに入り店内を見回した。
同じく少しモール外に出ていた桜も気になりはしているようだったが、中に入ってくることはなかった。理由は特にない。何となく入ってはいけない気がしたから彼女は入らなかったのだ。
直感。完全に偶然とも言える桜の行動は正解だった。
「な――っ!!」
寒気と同時に起きたあまりに突然の出来事に士郎すら声を出して驚く。無理もない。
――明るかった店内は唐突に暗闇に包まれ、出口も塞がれた誰も出ることのできない監獄と化したのだから。
前編後半戦突入です。