「数は多いけど、戦闘能力はそこまでないのね」
移動しながら出くわした死徒を凜が得意とする魔術、ガンドで次々と打ち抜く。
少なくとも十体以上は殺しただろう。
「……言峰くんのほうはどうなったのかしら」
戦闘の邪魔にならないようにあの場から離れたわけだが、そのせいで様子がわからない。
「士郎なら問題ないです」
「その根拠は?」
「まだ繋がりを感じますから。それに――」
「……」
「――約束があるんです」
「…約束?」
「ええ。私を一人にしないって」
***
モール内での二人の戦闘は続く。結界によって店内が薄暗くなっていることなど二人にとっては関係ない。
力量に大した差は見受けられない。あるのは経験の差か、戦闘中でもリカルドからは余裕を感じられる。
「――貴様の魔術は実に面白い。投影とは違うようだな。中身がある。何本でもそれは作り出せるのか?」
死徒であり、魔術師でもあるリカルドは殺し合いの最中でも士郎の不思議な魔術を示す。
「――――」
だが士郎は一切言葉を返すことはない。
「――切り替えているのか。まあいい。聞かなくても見ればなんとなくわかる。魔力が続く限りは永遠に作り出せる。さらに破壊されない限りは消えないと言ったところか」
鋼のように硬いリカルドの拳によって何本もの黒鍵がへし折られている。壊されるたび士郎は新たに完全な黒鍵を生み出す。
「面白い…! そのような魔術を使うものは今まで見たことがない!」
長年生きてきた自分にも知らないものを見て彼は少年のように興奮していた。
「ゴ――ッ!」
僅かに見せた一瞬の隙を突かれ士郎は腹部にリカルドの鋭い蹴りを喰らわせられた。
そのまま数メートル吹き飛ぶ。
「この歳になってもやはり未知との遭遇は楽しいものだ」
リカルドに傷を負わせていないわけではない。しかし黒鍵一本で与えられるダメージには限度がある。その限界以上に彼の再生能力は高いため、リカルドはほぼ無傷だと言ってもいいだろう。
ならばどうするか。答えは、単純に攻撃方法を変える。それだけだ。
「…
再び黒鍵が現れる。今回は一本ずつではなく、三本ずつ。
「またか。いいだろう。その全てを……、――――!」
士郎の手もとにあったはずの黒鍵はいつのまにかリカルドの目の前まで迫って来ていた。
あまりの投擲の速さにリカルドもどのタイミングで投げられたものなのかすら気付けなかった。
「ガ――――!」
避ける暇などない。額には刃渡り80cmほどの細い剣が突き刺さる。
さらに遅れてもう二本。右目と鼻のあたりに突き刺さり、彼は衝撃によってその体を仰け反らさせた
だがまだ足りない。
「――――」
出現させた黒鍵は六本。まだ手元には三本ある。これは投擲には使わない。直接斬りかかる。
「ハハハハ!」
笑いながら体を起こし、至近距離まで来ている士郎を潰されていない左目で捉える。
そのままリカルドは右手で士郎に頭に掴みかかる。
「……甘い」
強化の魔術によって強度を上げた黒鍵でリカルドの右腕を斬り落とす。
彼の腕からは勢いよく血が噴き出た。
「次…!」
狙うは左腕。そちらも切断して手での攻撃手段を封じる。
「――甘いのはどっちだ?」
「なに…!?」
士郎は失念していた。リカルドが魔術師であることを。
「爆ぜろ」
吹き出た彼の血が突如として発光し爆発した。
「グ――――ッ!」
回避するために後方へ跳躍する。だが流石に完全な回避をすることはできなかった。
左半身を損傷する。
「左腕は使えないか…」
辛うじて繋がってはいる。しかし感覚がない。片腕が封じられた。
(使えるのは右腕…あと両足か)
腕が片方使えないのはリカルドも同じ。再生能力はあれど切断された以上再生までには時間がかかる。
「なるほど…なるほどなるほど!」
自分の右腕がないことなど気にしていない。彼は顔に突き刺さっている黒鍵を抜きながら声を高々と発する。
「聖堂教会には埋葬機関というものがあるらしいな。そこには『弓』という異名を持つ者がいると聞くが…もしや言峰士郎、貴様のことか?」
「まさか。俺はあの人には及ばない」
「そうか。しかしそれでも構わない! 貴様は十分私を楽しませてくれる! さあ、さあ、さあ! 続きだ!」
左腕を封じながらの戦い。したことがないわけではないが、慣れているわけではない。
「はぁ………」
深く息を吐く。精神を安定させる。ここからの戦闘は少しでも油断した時点で終わる。
「行くぞ、言峰士郎」
「…………」
両者が踏み出した瞬間。
――事は起こった。
「――! 外部から結界が破壊されただと? しかも一瞬で…」
ショッピングモールに光が差し込んだ。外に出られるようになったのだろう。ロビーの方から大勢の喜ぶ声が聞こえる。
そう、結界が破壊されたのだ。
「――――」
リカルドの様子が一変する。つい先ほどまで上機嫌だった彼は、その不機嫌さを隠すことなく顔に表していた。
「結界が消えた以上今回はここまでだ」
「逃がすと思うのか」
「今の貴様に逃がさないための行動はできまい」
すでに士郎は満身創痍。リカルドの言う通りこれ以上の戦闘は避けたい。
「言峰士郎。いずれまた対峙することになるだろう。その時までこの続きはお預けだ」
腕が再生しつつあるリカルドは士郎に背を向け、どこかへ歩き去ってしまった。