言峰綺礼に拾われた少年   作:クガクガ

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いよいよこの章は最終回になります。
ここまで見てくれた方々ありがとうございます。
今後の更新についてはあとがきに書いておきますのでご参照ください。


未知なる存在

 「消耗しすぎた」

 

 地面に膝をつく。血を流しすぎているせいで視界が安定しない。ぼやけている。

 

 「…先生は無理だって言ってたけど、花蓮に言われた通り治療魔術は使えるようになりたいな…」

 

 「だから言ったでしょう。それにしても情けない顔ね」

 

 「――花蓮」

 

 声をかけたのは自分の妹であると士郎は即座にわかった。

 

 「悪いな。逃がした」

 

 「仕方ないでしょう。予期せぬ出来事でしたし」

 

 「そうだな…」

 

 何とか立ち上がろうとするが足は言うことを聞かない。ふらついてしまう。

 

 「しっかりしなさい」

 

 花蓮は士郎の体を支える。

 

 「助かるよ」

 

 兄が妹に支えられると言うのは絵面としていいものかと考えたが、心地がいいのでそのまま抵抗することなく体を預けることにした。

 

 「言峰! 大丈夫か?!」

 

 遅れて綾子と凜が駆けつけてきた。

 綾子の方は士郎のことを心配そうに見ている。

 

 「大丈夫だ」

 

 「そんなわけないでしょ。全く…あなた治療魔術は?」

 

 「使えない」

 

 「私が使えます」

 

 「そう。なら二人でやりましょう。壁際に座らせてあげて」

 

 花蓮は士郎を壁にもたれかけさせるように座らせた。

 

 凜と花蓮は膝をついて士郎の傷の具合を確認する。

 綾子は何もできないので二人の謎の力による治療をただ立って見守るのみ。

 

 「……これなら手持ちの石だけでもなんとかなりそうね」

 

 「すまない」

 

 「いいわよ、このくらい。あの怪物を一人で相手してもらってたんだから、そのお礼とでも思いなさい」

 

 「ああ」

 

 

***

 

 

 「こんなものかしらね」

 

 治療は終わり凜と花蓮は立ち上がった。

 

 「助かったよ」

 

 数分の治療で士郎の傷は完治した。腕も問題なく動かせる。

 

 「な、治ったの?」

 

 「一応」

 

 「よくわからないけど治ったんならよかった。とりあえずこんなところから早く出ない?」

 

 治療中にロビーの様子を見てきた綾子は外に出られることを確認していた。

 

 「………」

 

 「おい、言峰?」

 

 「…そうだな。一旦出よう。でも正面からは不味い。別の出口を探す」 

 

 謎の間の後に士郎は綾子の提案通り一旦ヴェルデから出ることにした。

 

 (――おかしい)

 

 出口に歩きながらも士郎にはまだ気にかかることがあった。

 

 「士郎。死徒たちの気配は?」

 

 前を歩く二人が聞き取れないように花蓮が小声で尋ねる。

 

 「ない。感知していた全部がいなくなった」

 

 半死徒の気配は戦闘中も数匹感じ取っていた。

 士郎が現在問題視しているのは感知していた半死徒たちの気配がすべて一瞬で消え去ったことだ。

 

 「――ここに来てもやることは変わらないか…」

 

 冬木市に来てもやることに変化はない。

空っぽの自分に与えられた役目なのだ。代行者としての仕事はやり遂げる。

 

 

***

 

 

 「正面から出なくてよかったな」

 

 正面入り口の前には警察やら救急車がちょうど駆けつけたところだった。士郎の予想通りモール内だけでなく外でも騒ぎになっているようだった。

 

 (これは…事後処理が面倒そうだな)

 

 士郎たちは別の出口から外に出たため、誰にも見つかることはなかった。

 

 「桜と合流しましょう」

 

 結界が張られた時点で分断されていた桜。彼女を騒ぎを聞きつけて集まった野次馬の中から探す。

 

 「姉さん!」

 

 人の多さのわりに探す時間はそれほどかかることなくすぐに合流することができた。

 

 「よかった…あの結界が急に張られて一人残された時はどうしようかと…」

 

 桜は相当心配していたようだ。それは彼女も結界の異常性に気付いたが故だろう。

 凜は桜に結界の中で起きた出来事を全て話した。もちろん士郎が代行者であることも含めて。

 

 「――外から見ていて何か変わったことはあったか?」

 

 「変わったことですか?」

 

 「ああ。あの結界が消えたのはおそらく内側からじゃなくて外側からの干渉を受けたからだ。結界に何かしている人はいたか?」

 

 「多分いないと――」

 

 そこで一度口が閉ざされる。

 

 「――いえ…いました。あれが消える少し前に結界に触っている人が」

 

 「魔術師だったか?」

 

 「ごめんなさい。そこまではわかりません…。ただどこかで見たことあるような気はしました」

 

 「顔は見れたのか?」

 

 「いえ、フードを被っていたので見えませんでした。でも体格的に女性だと思います。役に立てなくてすみません」

 

 「いや十分だよ。助かった」

 

 リカルドという死徒だけでなく他にも未知の存在がいるとわかっただけでも十分な収穫だ。

 

 「今日はもう帰ろう。疲れてるだろ。特に美綴は」

 

 「え、あ、ああ」

 

 緊張から解き放たれたからか綾子は疲労を隠しきれていない。

 

 「話はまた明日だ。弓具に関してもまた後日。それでいいか?」

 

 異論なし。

 この日は全員ここで解散した。

 

 一般人の言峰士郎ではなく、代行者の言峰士郎としての活動はこの日から始まった。

 

 

***

 

 

 「ねぇ、パパ?」

 

 「なんだい?」

 

 薄暗い部屋の中、男は十五歳前後の少女に話しかけられる。

 彼はいつものように優しい声色で聞き返す。

 

 「ううん。ただ後もすこしでパパの夢が叶うと思って」

 

 「そうだね。僕の願いはあともう少しで叶う。あの聖杯さえ手に入れば」

 

 「私パパのこと応援してるから頑張ってね!」

 

 「ありがとう」

 

 争いなどない平和な世界、それが彼の求めるモノ。願いだった。

 




いかがだったでしょうか。まだ前編ということで謎は多いです。その辺は今後投稿していくお話で明らかになるのでお楽しみに。
前書きで書いていた更新についてなんですが、次いつ更新されるかは未定です。ストックがある程度できたら投稿していきたいと思っていますが、いかんせんやることが多すぎて手が回っていません。なるべく次の章は速く投稿するように頑張りますので待っていていただけると幸いです。
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